「租界の明かりが……ゲフィオンディスターバー? しかもこんな広範囲に……」
海岸側からトウキョウ租界に低空飛行で近づく薄桃色のヴィンセントの中から、マリーカはところどころの電力供給が途切れている光景を機体のメインカメラ越しに見渡していた。
「(環状線の攻防が激しい……ゲフィオンディスターバー発生装置かしら? それにあれはオルドリンさんのランスロット・グレイル! と……カカシ? あの滅茶苦茶に見えて大胆な目立ち方で敵の砲火を誘導している飛び方はソキアさん? という事は────)」
マリーカは機体のカメラを租界の郊外エリアから中心にある政庁方面へと移し、見える戦場中でもっとも素早く動いているKMFなどの識別信号を確認していく。
「……いた! でもこれって、KMF追いかけられている? それにKMFとしてサイズが大きすぎるこの機体の動き……どうやってブラッドフォードに追いついて────レオン!」
そしてようやく目星を付けていた機体を見つけると彼女の表情に笑みが浮かび始めた直後、彼女の眉間にしわが寄せられると、一瞬だけブラッドフォードの動きに微妙な変化を見ると目を見開かせながら省エナジーモードだったフロートシステムの出力を上げ、激しい戦場の中へと身を投じていく。
『む?!』
『新しい識別信号?』
『ランスロットの量産型!』
『しかし一機だけとは何でだ?』
『知るか、撃ち落とせ!』
「邪魔よ!」
マリーカのヴィンセントに気が付いた黒の騎士団の暁たちが方向転換しつつ腕に装着された機銃やバズーカを撃つが、マリーカは速度を落とさずに急接近しながら攻撃を躱しつつ右と左の腕肘部にあるニードルブレイザーを使って暁の直撃を防ぎながら反撃する。
……
…
「なんなんだ、この機体?!」
フォートレスモードのブラッドフォード中にいたレオンハルトは驚愕しながら自分を追ってくるミサイルの大群をコブラターンで躱しながらオレンジ色の空中要塞の様に物々しい機体をハドロン砲で撃つ。
バチバチバチ!
しかし当たる前にハドロン砲のビームは見えない壁のような何かに衝突すると火花と共に拡散してしまう。
「やはり大きいだけの機体じゃない! それにハドロン砲を無力化するなんて、無茶苦茶過ぎる!」
『褒めてやるぞ可変型のパイロット! この私、ジェレミア・ゴットバルトの相手を一人でしようとは敵ながら天晴!』
「こいつを野放しにすると防衛部隊の損害が増える……ならば!」
レオンハルトはブラッドフォードの姿勢を急激にピッチアップさせ、クルピットのような回転の途中でメギドデュアルハーケンに内蔵されたリニアレールガンでジェレミア機を撃つが、大した効果は見受けられなかった。
「あまり得意ではないが、至近距離で────!」
『────その意気込み、ただの蛮勇ではないな! ならばこちらも相応の対応をするとしよう! 我が忠義の証、サザーランド・ジークで!』
さて、既にお察しかもしれないがジェレミアが今騎乗しているのは原作同様にギアス響団で大破したジークフリートの回収された残骸にミルビル博士のサザーランド・イカロスの技術を適用した『サザーランド・ジーク』……という、原作と同じ名をした
型式番号も同じType-X/RPI-13Jであり、形態も『大型の武装コンテナ兼ユニットの中にコクピットであると同時に脱出装置の
その上武装も遠距離砲のリニアキャノンや多数のミサイルポッドに大型スラッシュハーケンも搭載してあり、少々エナジー消費が高いブレイズルミナスの代わりに紅蓮のデータによって消費量と出力が最適化された輻射障壁発生装置に変えてあるところも同じである。
しかし、今作では他作品ネタによって刺激された
まずは原作で時間が足りなかったことから再現できなかった電磁装甲だが、『ハドロン砲の収束に使ったゲフィオンディスターバーの応用で収束ではなく意図的に拡散させる不可視で立方格子状な力場を発生する』と言った現象を引き起こせる
『まんま某フィールドやんけ、何やってんのラクちゃん』?
……確かにそう見えるかもしれないが、あちらとは(部分的に)似て非なる代物である。
まずこの力場が本体であるサザーランド・ジークにも影響を及ぼすためビーム系の武装が搭載できない。
そして地味に力場を作り、それを維持するためのエナジー消費が無視できないほどにバカ高く、文字通り神経電位接続によってほぼタイムラグ無しかつ瞬時のオンオフができるジェレミアだからこそ運用できる、使える人兼
などの問題点以外のデメリットはあるのだが、最近は戦場の主流となってきているビーム兵器への対策としては優秀であることに変わりはないだろう。
レオンハルトのブラッドフォードはハドロンスピアーなどの主力であるビーム系統の兵器が通用しないにもそれなりに工夫し、巨体にありがちな『入力がアクションに移る小さな時間差』のあるサザーランド・ジークの隙を大きくさせようと動き回っていた。
対するジェレミアはレオンハルトの狙いを読み、ブラッドフォードが通ると思われる軌道に自機が持つ高火力の射線上に誘おうと機体を常に動かす。
『レオンハルト!』
『ッ?! マリーカさん?!』
『迂闊!』
そんな切羽詰まった場にマリーカの声が響き、レオンハルトの動揺によってブラッドフォードの動きがぎごちなくなった一瞬にサザーランド・ジークに備えられた大量のミサイルが雨霰のように射出される。
「くらえ、我が忠義のミサイルシャワー! ふははははは!」
『オレンジがどこぞのドクター化しているw』?
……きっと気のせいである。
流石にサザーランド・ジークはゼンマイ式に出来ないのである。
『クッ!』
ミシ……ミシミシ……パキパキパキ。
この時点でオルドリン達がゲフィオンディスターバー発生装置の駆除が終えるまでブラッドフォードを既に酷使して戦場の拮抗状態を維持していたからか、急な方向転換などのマニューバをしているとレオンハルトはどんどんと自分の体を襲うGと並行して装甲越しに嫌な音がコックピット内に響く。
『持ってくれ、ブラッドフォード────!』
『────レオンハルト!』
ブラッドフォードの不調をマリーカが見ると、彼女のヴィンセントはすぐに飛び込んでいく。
『マリーカさん、来ちゃだめだ────!』
マリーカ機は背中に担いでいたアサルトライフルを両手に持ち、数発ほど撃ち出すがやはりサザーランド・ジークの特殊フィールドに弾かれる。
『(────ブラッドフォードのハドロン砲やライフルがダメでも、やりようはある!)』
『来るか量産機────んな?!』
マリーカ機はそれでも減速せずに飛ぶとジェレミアは警戒からブラッドフォードとヴィンセントの二機を同時に対応できるようサザーランド・ジークを動かす。
そしてモニター越しにジェレミアが見たのは回転しながら宙を舞うアサルトライフルだった。
『チィ!』
ジェレミアは驚愕に体が固まるがすぐに投げつけられたライフルを払い落とそうとスラッシュハーケンを射出する。
ボォン!
スラッシュハーケンとライフルがぶつかると予想通りただの衝突ではなく、爆発が起きるとまだ暗い周りが一瞬だけライトアップされたことでサザーランド・ジークのモニターが自動調整のために暗くなる。
ガァン!
「取り付いたか、量産機!」
コックピットが震えている間にモニター画面が復活するとジェレミアの予想通りにマリーカ機がサザーランド・ジークの上に張り付いていた。
「その意気やよし! くらえ、我が忠誠の抱擁────!」
「────至近距離なら────!」
ガシャ! ザクッ!
「まだ!」
サザーランド・ジークの左右から電磁ユニットが出ると、マリーカ機はコックピットブロックの下部に収納されていた連結型のMVSを取り出して電磁ユニットを突く。
「しかし、浅いな!」
「まだよ! 想定内!」
バチバチバチバチバチバチ、ドドォン!
「きゃああぁぁぁぁぁ!!!」
電磁場がマリーカを襲うと同時に彼女の機体に搭載された二つのニードルブレイザーがサザーランド・ジークの兵装ユニットに初めて明らかなダメージを示すヒビが入っていく。
ジェレミアはダメージを追ったサザーランド・ジークからマリーカのヴィンセントを振りほどくために機体を回転させるとまるでポップバンパーに弾かれたピンボールのようにボロボロのマリーカ機は機体から煙を出しながら離れていく。
そしてそれを見ていたレオンハルトは気が付いたころには既にブラッドフォードを体が動かしていた。
サザーランド・ジークはレオンハルトが迎撃に当たるまで、持ち前の機動力と火力によってかなりの被害を────特に本国などから来た実戦経験が浅く、前進しがちなブリタニア軍に出していた。
よって今の弱ったサザーランド・ジークは黒の騎士団側の戦力を削ぐチャンスであり、この時を待っていたかのようにブラッドフォードはサザーランド・ジークに追撃────
「ッ!」
────することなく、ブラッドフォードはサザーランド・ジークの横をすり抜けていった。
「マリーカさん!」
レオンハルト気づけば合理的な軍人やドライな貴族としてではなく、一人の男としてブラッドーフォードを動かしていた。
「(急速に離れて行っているのに
ピー、ピー、ピー。
「持ってくれ、ブラッドフォード!」
レオンハルトは操縦桿を使い、ブラッドフォードをさらに加速させようとすると横目で赤く点滅して今までの戦闘と無茶な回避運動などによる、ブラッドフォードの不調を訴える図面を見る。
「ダメ、コントロールが! 脱出装置も作動しない?!」
ガァン!
「アグッ?!」
マリーカはガチャガチャと操縦桿を操作するが回転し続けるヴィンセントが反応する予兆はなく、機体がついに租界内の高層ビルと衝突するとさらに暴走しているフロートシステムが加速していき、KMFのヒッグスコントロールシステム以上の衝撃によって頭を打ったマリーカはがっくりと項垂れて気を失ってしまう。
「(このままではいずれ……そう言えばオズによれば最適化されたOSより、
ガァン、ガシャ!
どんどんと租界の上空を加速していったマリーカ機はまたも高層ビルに衝突したはずみでハッチが開いてしまい、パイロットであるマリーカが宙へと投げ出されるところでレオンハルトはブラッドフォードの自動化されたコントロールの解除とアラーム警報の無効化を入力し、機体を加速させる。
「(KMFモードでは間に合わない! 間に合っても、このままではブラッドフォードの先端に叩きつけられる!)」
そう直感で悟ったレオンハルトは簡単な機体の自動操縦入力を終えさせてからハッチを開き、生身で荒くれる風に抗いながら機体をよじりながら自分のいる場所をマリーカとすれ違ったその瞬間に彼女の腕を掴み、先ほどの入力に沿ってブラッドフォードが機体の角度を変えつつ減速していく間、レオンハルトは目を覚まし始めたマリーカを保護する。
「
「ウッ……
「────マリーカ。 この戦いの後、正式に結婚しましょう。」
「あ、はい………………………………………………ハイ?!」
「僕、やはり一人の男として貴方の事を好きだと気が付いたのです。 しかし、やれ“タイミング”だの、“他人の目”だの、“そんな状況ではない”だのと理由付けをしていたのですが、さっきの貴女を見て、この思いを貴女に告げることができないと思った時の絶望は耐えがたいものでした。 ですからこの後、結婚してくれますか?」
カァァァァァァァァァァ。
「(ああ、やっぱりマリーカは可愛いなぁ~。)」
自分のカミングアウトに真っ赤になっていくマリーカを見たレオンハルトは内心で和みながら、固まった彼女を抱きかかえながらブラッドフォードのコックピットに戻っていく。
……
…
「ウッ。 (なぜだ?)」
自身を囮にしてから約数十分後、エルは困惑しつつもふらつく足を気合で動かし、体育館の壁に背中を預けていた。
「(なぜなのだ? さっきからのこの感じ……この、高揚感は?)」
エルは別段、自分を囮にしたことに疑問を持っているわけではなかった。
あの時は敵対勢力の目をシャーリーたちから自分に集めることは最善と思い、出た行動でもあると今でも自信を持って言えるからだ。
大々的に自己アピールをしたことも『きっと劇場型である
「(なんという体たらく! まるで初めて戦場に駆り出され、場の感情に当てられて振り回される新兵そのものではないか!) チッ────」
『────いたぞ!』
『よし、投げろ────!』
「────この羽虫どもが!」
エルは時計を出してそれを見て舌打ちをしていると敵の兵士に見つかり、その場に時間差で手榴弾がいくつか投げ込まれる。
ドドドドォン!
プシャァァァァ!
「な、なんだ?!」
「爆発でパイプが破裂したのか?」
「……いや、これはスプリンクラーだ! 逃げ────!」
────パキパキパキパキパキパキパキ!
ブリタニアの兵士たちが慌てて逃げようとするとスプリンクラーシステムから放出されていた水が凍りつくにつれて濡れていた兵士たちも氷漬けにされていく。
「??? (偶然……にしてはタイミングが良すぎる。)」
「早くこっちにこい、エル────!」
「────ヴィレッタ────?」
「────エル君、こっち────!」
「────シャ、シャーリーまで────おわぁ?!」
エルはヴィレッタにより手を掴まれて無理やり体育館内へと連れ込まれる。
「な、なぜここに二人が?!」
「明らかに様子がおかしかったお前をシャーリーが追ったのだ。 それに先ほどスプリンクラーも使うアイデアは彼女だぞ?」
「全く説明になっていない。 いや、一応なってはいる……のか?」
「えっと……だって……よくわからないけれど、エル君ってルルの為にしているんでしょ?」
「これは
「じゃあ、何のために?」
「……私は守れなかった。 それだけだ────」
「────え────?」
「────よし、撃てぇぇぇぇ!!!」
ババババババババババババババ!
「伏せろ!」
エルの掛け声にヴィレッタとシャーリーがかがむとエルを中心にできた氷の壁が放たれた弾丸を弾いていく。
「よし、このまま交代で撃ち続け────ん?」
「なんだ────?」
「違和感が────」
ブゥゥン……
「「「────はぁぁぁぁぁ?!」」」
兵士たちは背後から来る違和感に振り向くとちょうどビルキースが何かを持ちながら姿を現すと素っ頓狂な声を上げる。
『私は全然悪くないから痛かったら自業自得よ!』
ブゥン!
「「「ぎ────?!」」」
────ジュ!
そしてビルキースが持っていた光るサーベル的な物体(低出力)が振り下ろされると肉が焼ける音が短く響き、兵士たちがいた場所は黒くずんだ地面だけが残される。
「あ、アンジュリーゼだ。」
『ア・ン・ジュ・よ!』
殺伐としていたその場に似つかわしくない、シャーリーの気の抜けた一言をアンジュがKMFのスピーカー越しに抗議を上げる。
「ふぅ……間に合ったか。 もう一人はどうした?」
『うん? アンタ確か……ヴィレッタ先生よね、マーヤなら“ゴミ掃除に一足先に出るわ”って言ったきりよ。』
「一人で大丈夫なのか?」
『私が言うのもなんだけれど……ってシャーリー居るじゃん!』
「えっと……アンジュリ────アンジュもエル君やヴィレッタ先生と一緒と思っていいの?」
『あー……う、う~ん……これって“バレてる”ってことで良いのかな?』
「えーっと……良いと思うよ、アンジュ?」
「そこで疑問形なのかシャーリー?」
「フ……何とも締まらないな。」
『いやアンタ本当にそういうところはそっくりだわ。』
「えええええ?! ルルの方がかっこいいもん!」
「「『そこか。』」」
……
…
ガチャ!
場所はアッシュフォード学園の地下にある倉庫へと移り、ブリタニアの特殊部隊らしき兵士たちがドアを開けて警戒しながら部屋を入る。
「本当に奴らしき者がここに来たのだろうか────?」
「────無関係の者たちはシェルターに避難したそうだ────」
「────シッ! 静かにしろ────!」
ドォォォォォン!
「「「────ギェ?!」」」
彼らは銃を構えつつ壁沿いに歩いていると腹に来る、重たい発砲音と共に放たれた弾丸が兵士たちの体を貫く。
「ゴホッ?!」
「一発、だけ、で……」
ガシャ。
バタバタと時間差で兵士が倒れていく様とその周りを、黒いマントで身を隠していたマーヤが銃から取り外したスコープ越しに確認していた。
「(あの三人は恐らく囮ね。 でなければこうも明らかに姿を現さないわ。 どこに────)────は?!」
ドガァン!
マーヤはぞわりと背中を何かが這い上がる
「これは?!」
強引に穴が開けられた向こう側から外骨格をしたキューエルにマーヤは目を見開きながら持っていた対KMFライフルを撃つ。
ガァン!
「弾かれた?! まさか、ブレイズルミナス?!」
「無駄だ、イレヴン! このギガントアーマー改は無敵だ! 死ねぇぇぇ!」
「マズイ!」
「ハハハハハ! 逃げろ!」
「(
キューエルは持っていた小型化したようなKMF用アサルトライフルを構えて撃ち出し、マーヤはそのまま全力で走り出す。
……
…
ピー……ピー……
激戦区となっているトウキョウ租界からはるか南に離れたアヴァロンのブリッジに電子音が響く。
「マルディーニ卿、トウキョウ租界からの通信……例の通信方法です。」
「繋げて。」
「ハッ……こちらアヴァロンです、どうぞ。」
『こちら……トウキョウ租界……認証コード、BRIの0812。 確認してください。』
「BRIの0812……認証、『風の冬』を確認しました。 復唱お願いします。」
『風の冬……確認……』
「……」
「何か考え事かい、カノン?」
通信がトウキョウ租界と交わされている間、不安が混じった表情を浮かべていたカノンにシュナイゼルが喋りかける。
「……不敬を承知の上で語っても?」
「君と私の仲だ、言わずとも何を考えているかは大体予想が付くよ。 “宰相として任命されてから常々合理的かつ明確な手腕で帝国の利となる采配をしてきたが果たして
「……」
「私は帝国の……いや、人々のために授けられた権力を使い、全身全霊で動いてきたつもりだよ。 昔も、今も。」
「しかし、これは『越権行為』と皇帝陛下が見てしまうのでは────?」
「────陛下は今とても忙しい筈だよ。 よって、
カノンはいつも以上に飄々かつ愉快そうなシュナイゼルの笑みに、いつものような高揚感を感じることなくただただ言葉にならない『
最近ロールアウトしたログレス級でありながら通常より少々兵装が充実した上に見た目が豪華なブリタニア帝国皇帝の座乗艦、『グレートブリタニア』を。
「(こんなに殿下が動いているのに何のアクションも取ってこないところを見ると本当に多忙……あるいは殿下が断ち切った調査が仄めかしているように、別の何かに関心がいっている?)」
「カノン。 それ以上は危険だよ。」
「ッ。 失礼しました。」
「
「???」
……
…
「風の冬……確認……」
トウキョウ租界でルキアーノとヴァルキリエ隊が強制的に入り込んだ指令室で唯一残った女性は震える声で通信をアヴァロンへと送りながら、床を飾る同僚
『確認した。 君たちもSOPに従い、早く避難したまえ。』
ポン。
「ヒッ?!」
通信が切れると同時に女性の肩にニコニコと青年らしい笑顔を浮かべたルキアーノが手を置くと、彼女は押し殺した悲鳴を上げてしまう。
「ご苦労、そしておめでとう。 君は仲間たちの屍の上を這い上がり、見事にその命を繋ぎ止めることに成功した。 何も恥じることはない、
ザシュ。
それだけを言うとルキアーノは持っていたナイフで微笑みかけていた女性の喉を掻っ切る。
「が……ごぼ……?」
「ん? “なぜ”、とでも聞きたい目だね。 私は“命令を実行した者を殺せ”と言った二つ目の命令を下された。 それだけだ。 な? 狂ったシステムだろう?」
女性は自分の喉を両手で押さえ、致命傷だと理性で分かっていても本能で止血を試みながら気を失って倒れる。
……
…
「狭いですが、少しだけの辛抱ですマリーカ────ん?」
KMFのコックピットにマリーカと一緒に戻り、ブリタニア軍の勢力下にある戦域に戻っていたレオンハルトは画面に映っていた緊急通信にハテナマークを浮かべる。
「『全ブリタニア軍、戦線を離脱せよ』?」
「それにこのマップ情報は何でしょう、レオン?」
「それもそうだが、この『風の冬』とは?」
レオンハルトとマリーカは同時に意味不明なアラートに頭を傾げた。