時間はフレイヤが租界へ到達する少し前へと戻り、場所は現在マーヤとキューエルが激戦を繰り広げているアッシュフォード学園の敷地内にある森のように木々が入り組んだエリア。
ボォン!
「ブレイズルミナスが組み込まれたギガントアーマーは無敵だ。 いつになれば分かるのだ、このサルが!」
「爆発でも無傷?!」
ババババババババババババババ!
「チッ!」
モクモクと煙が広がる中から外骨格────『ギガントアーマー』とやらを身に着けたキューエルがゆっくりと歩き出る姿にマーヤが舌打ちをしながら物陰から移動を開始し、キューエルのアサルトライフルから放たれた弾丸は木の枝をもぎ取り、木を抉っていく。
マーヤは走っている途中で目を凝らしなければ見えないワイヤーの下を通る。
「ハァ、ハァ、ハァ! (トラップが効かなくても、撹乱にはなる! それにどういうわけか走らないから
ボボォォン!
『足が遅い』とマーヤは言ったが、彼女自身も何キロもある巨大な対KMFライフルを背負いながら走っている。そして緊張と焦りから通常の速度が出せなかった。
大粒の汗が彼女の額や首から浮き出ては滴っていく中、彼女は森林エリアからかつてゼロの仮面をかぶったアーサーが登って動けなくなった時計塔へと駆け込む。
「馬鹿め、この中は袋小路だ!」
ババババババババババババババ!
チュン、チュチュチュン!
パラパラパラパラ!
「ウッ!」
息を切らせながら石造りの階段を上がるマーヤめがけてキューエルが銃を撃つと抉られた壁の破片や跳弾であらぬ方向に飛ぶ弾丸がマーヤを襲う。
「ケホッ、ケホッ!」
マーヤは手で口を覆うがむせた咳を出しながら腰から手榴弾を手に取り、ピンを抜いてから後方下へと投げる。
ドォン!
それを繰り返している間に彼女は時計塔の最上階────否、時計塔の屋根へと出る。
カチャ、ガチャ、シュボォン!
そこからライフルの銃口先にフック付きのアタッチメントをつけて向かい側の建物の屋上へと射出する。
カッ、カッ、カッ。
ゆっくりとしつつもしっかりとした足音が時計塔の壁に響き、マーヤはまたも手榴弾を投げて爆発するところを確認せずに先ほど撃ち出したワイヤーにライフルを引っ掛けながら新たな四角い物を左右に放り投げてから、勢いよく時計塔の屋根を蹴って向こう側へとスライドしていく。
バババババババババババババババチン!
「ッ!」
だがマーヤが時計塔から離れそうになったところで銃撃音が出るとワイヤーが切れ、彼女は器用に空中で体を捻りながら対KMFライフルの先端に付けられた釘打ち機を使ってなんとか落ちることを阻止する。
「このゴミ屑が────!」
「────ハハハハハ! 残念だったな、イレヴン! 悪あがきは────!」
「────悪あがきをするのは貴様の方だ!」
カチッ。
マーヤはそう叫び、腰のボタンを押すと先ほど投げた四角い物体────エリア11の占領によってサクラダイトの流通が良くなったことで少し前まで廃れていたプラスチック爆薬の中に埋め込まれていた起爆装置が作動する。
ドォォォン!!!
今までの爆発によって脆くなっていた時計塔の塔部分が一気に崩れていく。
「何────?! 」
「────ブレイズルミナスがあっても、物理法則は無視できないでしょう────?!」
「────貴様正気か────?!」
「────神様が示してくれた! 自分の身を賭ける時はこのような場面だと!」
マーヤちゃん、今日も狂犬ぶりは絶好調の様子。
「潰れろ、ブリタニア!」
リーンゴーン! リーンゴーン! リーンゴーン! リーンガラガラガラガラガラガラ!
時計塔に付いていた鐘が虚しい音を出しながら崩れていき、数秒後にはさっきまで立派な時計塔があった場所はただ瓦礫の山と化していた。
鐘も静かになり、辺りはさっきまで騒がしかったとは思えないほどの静寂さだった。
無論、遠くから響いてくる戦闘はあるが距離があるのでほぼ背景音になるかならないかぐらいの微小な物なのだが。
ガラガラガラ。
瓦礫が動きだすとその下からキューエルが姿を現す。
外骨格はボロボロでひび割れており、所々は欠けていた。
「クソッ! 一度ならともかく、二度も同じ戦法で……やりやがったな、イレヴン風情が!」
彼は瓦礫を更に退かしていくと対KMFライフルの銃身を見つける。
「(自滅した? いや、イレヴンは死んだふりをしてでも生き残ろうとする悪知恵を働かせる種族だ。 念を入れてもいいだろう。)」
ドガシャァン!
キューエルは近くの大きめの瓦礫を持ち上げて銃身のある場所にそれを放り投げる。
「……」
反応はなかったが、それでも以前からエリア11で軍人として活動していた頃に元日本人たちが嫌というほど見せつけた粘り強さからキューエルは自身の目でマーヤの生死を確認するため、近くの物を横に投げて無理やり瓦礫を剥がしていく。
「(……本当に死んだのか?)」
バッ!
「何────?!」
「(────まさか気を失っている間にチャンスが来るなんて!)」
キューエルが気を抜かせたその時、彼から数メートルほど離れた場所からマーヤが立ち上がって槍状のくぎ打ち機を手にキューエルへと駆け始めた。
「(遠いけれど、やるしかない!)」
「その距離からその兵器が届くか! ハチの巣にしてやる────!」
────キュイィィィン────!
『────マーヤ!』
キューエルはマーヤの持っていた装備を見てそのまま腰から拳銃を取り出して構えるとKMF特有のランドスピナー音と共にアンジュのビルキースが角を曲がりながら姿を現す。
「(KMF?! しかしこうも距離を詰めていれば仲間に当たる、まずはイレヴンを────!)」
「(────手持ちの武器で撃てばマーヤに当たる! なら────!)」
「────アンジュ?!」
アンジュはビルキースの操縦桿とコンソールを操作してコックピットハッチを開け、生身のまま外へと乗り出すその姿にマーヤがびっくりする。
「スゥゥゥゥ……【止まれ】!!!」
アンジュは肺いっぱいにまで空気を吸い込み、
カチン!
「何?!」
一方で、キューエルは引き金を引いた拳銃が不発に終わったことに驚愕する。
「(拳銃が不発に終わった?! でも、これが最後のチャンス!) ぬぁぁぁぁぁぁ!」
「ぬ、くッ! 体が、動かない────?!」
「────死ね ────!」
「────うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
カチ、シュボォォォン!
キューエルは体の異変に困惑している間、マーヤはパイルバンカー部分を固まっていたキューエルの胸に押し付けながら引き金を引いた動作で起きる爆音に負けないぐらいの音量でキューエルは叫ぶと、乾いた火薬の匂いを発しながら釘部分が彼の胸を貫通する。
「ごぼぇ────?!」
「────地獄で殺した日本人たちに詫びろ、この
カッ!
キューエルが吐血し、マーヤが怒り任せに叫ぶと遠くからの爆発音と共に辺り一面が光に満ちる。
「ゲホッ、ゲホゲホ! なに?!」
「ッ?!」
アンジュが咳き込みながら喉をさすっていた手で目を覆い、マーヤは思わず目を瞑ってしまう。
ドォォォン!
「「きゃああああああああ?!」」
遠くからの爆風により前のめりの姿勢のまま動きを止めていたビルキースが転倒しアンジュは叫び、マーヤは吹き飛ばされながらも負うであろうダメージを軽減しようと体を丸める。
ゴゴゴゴゴゴゴガラガラガラガラガラガラガラ!
「地面が?! マーヤ!」
「ウッ……(……体が、痛い……全身打撲?)」
光が収まると同時に地面全体が揺れても動かないマーヤを見たアンジュは一心不乱で走り、マーヤに肩を貸しながら再起動するビルキースへと戻る。
「貴女────」
「────そのパイルバンカー重いから離して! それとさっきのは後で説明するわ!」
「……そう。 ありがとうね、
ビルキースに乗り込むとアンジュはファクトスフィアを使い、地盤沈下した周りと学園の外の状態を確認する。
「ゲフィオンディスターバーはほぼ破壊されたから電力が租界に戻っている……けれど租界中の階層構造が崩れている……それに何、この陣形?」
「ブリタニア軍もまるでどうしたらいいのか分からない混乱状態ね。」
『ブリタニア軍もザザザ思うが、これは無差別攻撃だ! 超合集国軍にはミサイルの迎撃を最優先するよう命令した! ザザザ同胞たちも解放した! この状況下ではブリタニア帝国や超合集国は関係ない! 停戦を提案する!』
『ザザザこちらはコーネリアザザザだ! 司令官代理としてザザザ停戦を受け入れる! 全軍、私が全てのザザザ持つ! 対空砲火!』
激しい雑音と共にオープンチャンネルで入って来たゼロとコーネリアの通信を聞いた二人はお互いの顔を見る。
「これって────」
「────ええ。 恐らくは神様の予言書に書いてあった
「
アンジュの言葉にマーヤはひび割れた地面の先に広がる、半壊した階層構造があると思われる暗闇を見る。
「……放っておいても良いわ。」
予想だにしなかった言葉に、アンジュは目を見開かせながらマーヤをまじまじと見る。
「??? 何かしら?」
「う、ううん。 てっきり“追ってとどめを刺しましょう!”っていうのかと思った。」
「……正直、言いたいわ。 でも……神様が示してくれたから。」
「へ?」
「『大局のために敢えてとどめを刺さない時がある』、と。」
マーヤはかつてアヴァロン共々シュナイゼルを屠れる立場にいたにも関わらず、カレンの救出と紅蓮の回収を最優先したスバルの行動を思い浮かべながら租界の上空を見上げる。
「ですよね、神様?」
「……あー、確かにアイツなら言いかねないわね。 “大局を見誤るな”って。」
尚、もし当人であるスバルがマーヤたちの言葉を聞いていたのなら100%内心で『そんなわけあるか!』とツッコんでいただろうと記入する。
「(まぁ、ただがむしゃらにカレンを助けたかっただけかもしれないけれど……)」
アンジュはちらりと未だに清々しく、キラキラと輝くようなほほえみを浮かべているマーヤの横顔を見る。
「(マーヤの前で言うのは藪蛇かな? ハァ~、お熱いことねぇ~……やっぱり学園の噂通り、夜の関係なのかしら? そうでなくとも、あれだけ必死にさせるぐらい仲が良いのは────)」
────モヤッ。
「????????????」
アンジュはその時、自分の胸に一瞬だけ走った違和感に頭を傾げながら無数のハテナマークを浮かべた。
……
…
「ソキア、VTDSをフル活用!」
『さっきからしているけれどキャパオーバーにゃあああああ!!!』
無数とも呼べるミサイルの大群を前に、オルドリンは接近戦特化のランスロット・ハイグレイルをソキアのシェフィールド・アイと合体させて機動力を上げたランスロット・ハイグレイル・ワルキューレで戦場を飛び回りながらブリタニア軍と黒の騎士団双方のKMFにウァテスシステムの相互情報リンクで支援していた。
『やばい、また一つ抜けた!』
カッ! ドォォォン!
『今度はどこに当たった?!』
『もうやってられるか!』
『逃げるなお前!』
「あ、ああ……」
ソキアのウァテスシステムを経由して次々と入ってくる通信に『
『ちょ、ちょっとどうしちゃったのさオズ?!』
「ううううううう!!!」
オルドリンは操縦桿から手を放し、自分の身を抱きながら顔をフットペダルから上げた膝に付ける。
「分からない! 分からないよソキア!」
ただただ身を丸めながらコックピットの中で震える少女は『グリンダ騎士団のオズ』でも『マリーベルの筆頭騎士オズ』でも『当主の座を追われつつも勇敢に生きるオルドリン・ジヴォン』でもなく、その姿は年相応の精神で周りの混乱とストレスに自分の身を守ろうとする『ただのオルドリン(17)』だった。
……
…
ガァン、ガァン、ガァン!
政庁の近くからより前線に出たグランベリーの甲板からひたすらゼットランド・ハートのメガハドロンランチャーで長距離狙撃を行っていたティンクはモニターに表示された『
「マラーホ整備士長、銃身を替えを!」
『もうないわい! そいつで最後だといっただろうが! 格納庫内のスプリンクラーを冷却水代わりにしとけ!』
『お前たち、政庁からナナリー総督たちが脱出艇を出すそうじゃ! 援護しろと────』
「────了解、っと。 グランベリーからのエナジー供給ラインの予備はありますかマラーホ整備士長?」
『試作品だぞ?! あるワケない!』
「だよねぇ~……じゃあ、先に謝っておくよ。」
いつものマイペースな口調のまま、ティンクはゼットランド・ハートのギガ・ハドロンランチャーを撃つ準備に入る。
シュドォォォン!
「(うん、これでとりあえずは租界の外に出られるはず。)」
ティンクはアラート音と表示に目を移しながらそう思いつつも、焼き切れた供給ラインを機体から外して上記によって煙を出す砲身をグランベリー格納庫内で作動しているスプリンクラーで冷やす。
「……でも二度目は撃てないかなぁ、やっぱり。 すまないね、ハート君。 あ……メープル味だったかぁ~────んぁ?!」
メガハドロンランチャーの砲身が冷えていく様をティンクはパウンドケーキに似た携帯食を取り出しては頬張り始めるが、租界の異変に彼は彼らしくない変な声を出してしまう。
「租界が、
……
…
着弾したフレイヤ型ミサイルにより、アッシュフォード学園の地下にある階層構造の地上部分が崩れた先には租界を陰からサポートする物資搬入のリニアカー用の線路や自動車用のハイウェイなどがアリの巣内のように張り巡らされている。
以前、ブラックリベリオンで富士山付近からトウキョウ租界に移動した際にスバルたちが訪れた隠れ家や、中華連邦の総領事館から黒の騎士団とアマルガムが逃げた時────否、それ以前からスバルや毒島やアンジュやマーヤやゼロになる前のルルーシュなどが租界内で隠密行動を取るときなどでよく大変お世話になった、
「く、くくくく……」
その中にあるトンネルを、キューエルはギガントアーマーの補助もあってなんとか満身創痍の体を使い、乗り捨てられた車で走っていた。
「(私は運がいい。 あのまま追われていれば、足を引きずっている無様なところを
ズズゥン……パラパラパラ……
「(しかし地上ではどうなっているのだ? エリア11特有の『ジシン』と思われるような揺れは本来、起きない筈だ……先ほどの爆発と良い、もしや攻撃を地盤が受けている? しかし黒の騎士団がするとは思えない……だとすればブリタニア軍? もしや黒の騎士団もろとも異分子の排除か? いや、それよりも……)」
キューエルは先ほどの不可解な現象をもう一度思い出してはニチャっとした笑みを浮かばせる。
「あの能力……まさしく声だけで万物に影響を与える、『言神』だ。 なるほど、曾祖父の言い伝えはやはり間違っていなかったか。 純血派にいないと思ったら、まさか
────ドォォォン! バリィン! ガラガラガラガラガラ!
「うおぉぉぉぉぉ?!」
今まで一番近い衝撃音に車の窓が割れ、天井が崩れる光景にキューエルは驚愕しつつ必死にハンドルとブレーキを使う。
が、彼の乗っていた車が崩落地帯を抜け出した先の道は爆撃によって抉られ階層構造がぽっかりと無くなっていた。
キキィィィィィィィィィ! バン!
キューエルはブレーキを踏むが直感で『間に合わない』と思った瞬間、ドアを開けて飛び出る。
ドライバーを失った車は速度を落とさずに走ってはそのまま崖を飛び越えていき、キューエルもごろごろと転がっていく。
「グハァァァァァァァ! ハァァ、ハァァ、ハァァ!」
だが彼は全力を以て崖っぷちを掴み、なんとか落ちることを阻止したところでキューエルは安堵しつつも上半身を崖の上へと戻す。
コォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!
そんな彼の背後から、急激に近づいて来る音にキューエルが首だけ振り返ると殆ど飛行機能を失っていたボロボロのヴィンセントが高度を落としながら墜落中だったところを見る。
「な、何ィィィィィィィィィ?!」
それも自分への直撃コース中である。
ガシィン!
キューエルはギガントアーマー、そして改造された肉体をフルに使って衝突してくるヴィンセントの動きを止める。
ギリギリギリギリギリギリギリギリ!
「こ、こんな極東の島でぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
しかし所詮は満身創痍の体に装備であり、徐々に彼は圧倒的質量に圧されていく。
「ぐ、くく! ぬぁぁぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!」
バツン!
生々しい、肉が破裂するような音を最後にキューエルの意識は途絶え、薄桃と紫色をしたヴィンセントの装甲に赤と人肉が新たな塗料として追加された瞬間であった。
予想外のリアル影響で書き上げた半分以上が吹っ飛んで中途半端な感じに……凄い虚無感…… (泣