小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第284話 ル・ソレイユ (夜明け)

 逃走中のキューエルが別の場所でKMFの下敷きになっていたのと同時刻────

 

 「────あんのクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!!」

 

 ────ベディヴィアの中にいたノネットは無数の青筋を浮かばせながら誰もが一目で怯むような形相で怒り狂いながらも、次から次へと飛来するミサイルをVARISで的確にスザクと共に撃ち落としていった。

 

 そしてVARISの銃身が悲鳴(警告)を上げると近くで大破したり逃げる際に捨てられたランスなどを拾い、投擲武器として使って二機のランスロットはミサイルを迎撃していく。

 

「(もしやこれはシュナイゼル殿下の仕業?! ならば、僕たちもろともルルーシュやナナリーを始末する行動……今思えば、式根島でもユフィが駆け付けていたことにブリタニア軍が気づかなかった筈なのにミサイル攻撃は行われていた! あれも殿下の指示だったとしたら……だが、今この場を離れれば負担は全てエニアグラム卿とスヴェンにかかる!)」

 

「(今すぐにあのクソガキ(シュナイゼル)のところに直行して殴り倒したいけれど、恐らくガチガチに守りを固めているだろうけれど殴り倒す! でもまずは租界に残された者たちの安全確保だね!)」

 

 スザクとノネットはそれぞれ思うことを内心に秘めながらランスロットでミサイルを迎撃し、スバルは惜しみなく輻射波動やフロートシステムに取り付けられた兵装を次々と出してはそれらをKMFの背中にある小さな腕(サブアーム)で撃ったり、弾倉を交換したりと忙しく動いていた。

 

 しかし無理をしているのは明らかで、サブアームの半数は既に動かなくなっており、動いているものもギクシャクとぎこちなかった。

 

 よく見れば蒼天の装甲も焦げ落ちていたり、無理やり剥がされた跡の中にあるKMFの内部フレームがむき出しになっていた部分も多く、内部からは潤滑油の漏れた跡も残っていた。

 

「「(どうやってまだ動いているのだろう? 何を考えているのだろう?)」」

 

 スザクとノネットは頭の片隅でそう思っていた。

 

「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

 肝心のスバルはさっきまでの殺気めいた様子とはがらりと急変しており、()()なことを考えず、全神経をミサイルの迎撃に使いながら、何かをブツブツと呟いていた。

 

 だが彼の血走った目はKMFの網膜投影システムに表示された自機の状態、弾数と兵装、残存エナジー、レーダーとIFFによるミサイルの距離や速度の予測を全て把握しながらただ最小限の移動によってより広い視野を追求していく。

 

 例え彼の蒼天にかかっている負担を訴える警告が出ていても彼は器用に負担の少ない部分を使い、警告が出る度に機動を調整していた。

 

 機体の右半身がオーバーヒート気味ならば左半身を。

 

 フロートシステムや補助ブースターのノズルがダメになればまだ稼働している箇所で補う。

 

 拾った武器のリロードが必要になれば、弾倉の交換をするよりも、そこにある廃棄されたKMF用の武器を拾って使い切るの繰り返し。

 

 通常、『人』は慣れた姿勢や上下感覚で行動しがちになる生物なのだがスバルのKMFは姿勢を完全に無視した、いつも以上のその場その時に最も効率的な軌道を取っていた。

 

 もはやここまであらゆる事がルーチン化されれば、まるで『必死さ故に己の身と精神を機械化して生き残るための作業』である。

 

 ザ、ザザ、ザーザザザザザ!

 

 どれほど没頭していたかというと通信機が壊れてノイズしか出ていないことにも気づいていないほどだった。

 

 

 ……

 …

 

 

「チッ!」

 

 蜃気楼の中で、ルルーシュが激しくタッチパネルのキーボードで再計算を始める。

 

「(いや落ち着け、彼は彼でよくやっている。 見事なまでに周りの者たちをブリタニア、黒の騎士団関係なく通り様に援護して士気を向上させている。 全体的にはプラスだ。) スバルがダメならば────カレン!」

 

『え?! ゼロ?!』

 

「階層構造の下にある地脈が不安定になりつつある! このままでは租界が崩れる!」

 

『どうすればいい?!』

 

「ナリタのように指定したポイントに向かい、全出力の輻射波動を撃ち込め!」

 

『租界に溜まった圧力を逃がすんだね! 分かったけど────』

「────機動力と火力を兼ねそろえている機体はお前かスバルだけだ! そして彼は今前線でミサイルを撃ち落としてくれている!」

 

『総督はどうするの?!』

 

「ッ……まずは租界だ! 何とかしなければ元も子もない!」

 

 切羽詰まった状態だからいつも以上に鋭いカレンの言葉にルルーシュは一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直した。

 

『私の近くにいるこいつはどうする?!』

 

「ジノならば背後から撃つなどしない筈だ! (バカ正直だからな。)」

 

『だよね! (バカそうだし。)』

 

 

 ……

 …

 

 

 キリキリキリキリキリキリ!

 

「う……」

 

「ローマイヤさん、大丈夫ですか?」

 

 キリキリキリキリキリキリ!

 

「ダ、イジョウブデス。 (まずいまずいまずいまずいここからは早く脱出せねばまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい……」

 

 政庁の地下にある総督用脱出艇の中で、青ざめてお腹を押さえていたローマイヤに、平然としたナナリーが声をかけたが、それはさらに彼女を苦しめていた。

 

「……ダールトン将軍、どうしてだ?」

 

「はぁ、“どうして”と聞かれても、殿下たちを安全な場所に連れて行くためです。」

 

「一年間ほど音沙汰がなかったと思えば、テロリストに加わっていたとは。」

 

「うーん、痛いところを突かれますが、これは成り行きですな。」

 

姉上(コーネリア)はこのことを知っているのか? それとも将軍の独断か??」

 

「ふむ……“半々”、と言ったところですな。」

 

「これだから野蛮な軍人は好きになれんのだ! なぜバトレーのような者がもっといないのだ!」

 

「は! ご期待に沿えず、申し訳ございませんクロヴィス皇子殿下!」

 

「……ああ言えばこう言う……」

 

「(何だあの茶番は……)」

 

「兄さん、彼らのことは?」

 

「放っておけ。 今は脱出するのが先だ。」

 

 ロロはナナリーたちの傍で自分たちやダールトンを睨んでいるクロヴィスの事をオルフェウスに尋ねると、短い答えと問いが返ってくる。

 

「クララは?」

 

「こっちに向かってきているって……待つの?」

 

「当たり前だ。」

 

 「脱出艇があるここも揺れ出しているんだよ?」

 

「……それでも置いていくという選択は取れないな。」

 

「ここが崩落したらどうするのさ?」

 

「たとえこれが有名な『ジシン』とやらでも、植民地エリアの要である政庁がそう簡単に崩れるはずがない。」

 

「そ、そうだよね……」

 

 そう言いつつも、オルフェウスは豪華な装飾が施された脱出艇を見つつ、内心で冷や汗をかいていた。

 

「(とは言ったものの、政庁はともかく滑走路が心配だな。『脱出艇』とはいえ推進力には問題ないが、離陸のための速度が得られるかどうか……)」

 

 バン。

 

「(ん────)────↑↑↑ふぉぉぉぉぉ?!」

 

 オルフェウスは近くの窓からした音に反応してみるとべったりと顔を窓に引っ付かせていたクララの変顔に素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 ガチャ。

 

「あははははは! ねぇビックリした? ビックリしたお兄ちゃん────?」

 「────早く中に入ってドアを閉めろ。」

 

「プークスクスー♪ 照れ隠しの仕方がか・わ・い・い♡」

 

「よし、行くぞ。」

 

「え?! イクの?!」

 

「・ ・ ・」

 

「無視しないでー! というかなんでVTOL機を使わないのー?!」

 

「もう全部無くなっていた。 大方、貴族たちが逃げるために使ったのだろう。」

 

 ガタガタガタガタガタガタガタ!

 

 脱出艇を乗せたエレベーターが地上に到達すると、オルフェウスはブレーキをかけたままエンジンを離陸可能な出力に上げていった。

 

 カッ! ドォォォン

 

「きゃ?!」

「な、なんだこの音は?!」

「(まずいまずいまずいまずいまずいまずい────)────これは、()()()()?! バカな、何故こうも早く────?!」

 

 ────バキバキバキバキバキ!

 

「全員何かに掴まれ!」

 

 ピンク色の光と爆音に皆が反応する中でローマイヤが名前で呼んだことで全員の注目が彼女へと行ったその時、割れていく滑走路を見たオルフェウスが叫んだ直後に前脚のタイヤが挟まって折れると脱出艇ががくりと落ち、脱出艇の船首が地面と衝突する。

 

 その拍子で体を何らかの方法で体を固定していなかった者たちは座っていたシートなどから放り投げられる。

 

『片手でナナリーを抱えていた咲世子の二人以外は』、になるが。

 

「だ、大丈夫ですかナナリー様?」

 

「は、はい。 私は大丈夫です咲世子さん。 ですが、他の皆さんは?」

 

「気を失っているようです。 ウッ……」

 

「咲世子さん?! もしかして、さっきので────!?」

「────いえ、少し息を整えていただけです。」

 

 咲世子はいつもの口調とトーンでナナリーに話しかけながら顔をしかめる。

 

「(咄嗟の事でナナリー様は何とか守れたものの、予想以上の衝撃で肩が……)」

 

 咲世子が自分の肩を見ていると脱出艇がさらに傾きながらがくりと落ちる。

 

「咲世子さん?!」

 

「ナナリー様、少し失礼します!」

 

 そう言いながら咲世子はナナリーを近くの席に座らせてから近くの窓から外の様子を窺うと、脱出艇が割れていた地面の間に挟まっていたことを知り、すぐに外へと通じるドアを開けようと試みる。

 

「ウッ! (肩が……いえ、そもそも先ほどの衝撃でドアが歪んで開かなくなっている?! 他の────)」

 

 ────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「将軍、オズ! 起きてください! ……緊急時にて失礼!」

 

 バチン、バチン、バチン!

 

「い?!」

「あが?!」

「ぬが?!」

 

 そしてまるで追い打ちをかけるかのように脱出艇を挟んでいた階層構造が揺れ始め、咲世子はなりふり構わず気を失っていた男性陣の頬に連続ビンタを痛めていない方の腕と手でお見舞いして無理やり起こしていく。

 

 

 ……

 …

 

 

「無茶よ、レイラ!」

 

 リア・ファルの格納庫で、KMFのコックピットブロックに似た形のコンテナに乗り込み、電源を入れたり画面を操作していたレイラに、アンナが声をかけていた。

 

「でも、今の戦力のままではミサイル攻撃と人為的な災害を同時に対処するには手が足りないわ!」

 

「だからと言って、未調整のシステムに頼るなんてナンセンスよ!」

 

 レイラはアンナの制止を振り切り、BRSインターフェースを頭に装着して作業を再開した。

 

「じゃあ、アンナも手伝って! 一機だけなら何とかな………………るわ?」

 

「……レイラ?」

 

「……」

 

 レイラは突然、動きと声を止め、アンナが心配そうに名前を呼ぶ。その拍子に、レイラはキョロキョロと周りを見回した。

 

「……」

 

「レイラ? どうしたの?」

 

「今、誰かが助けを求めている気が……」

 

『レイラ艦長!』

 

 その時、リア・ファルのCICにいるユーフェミアの慌てる声が端末から出る。

 

「ッ?! どうしたの、ユーさん?!」

 

『ミサイルが────!』

 

 

 

 


 

 

 

 もう、あれから何時間も経った気がする。

 

 操縦桿を握る両手とフットペダルを踏む足の感覚が鈍く、冷たくなっている。

 

 その反面に体────『胴体』は、熱い。

 

 まるでそこら中に無理やりチリチリと音を鳴らすまで熱々になった火かき棒をねじ込んだような感じだ。

 

 変だな。 確か、強化スーツにはバイタルサインに反応する簡易体温調整機能があったはずだが……

 まさか、それすらも維持できないのか、俺の機体は?

 

 いや、この網膜投影システムに映る惨状を見れば、核融合炉でも安全に供給できるエナジーがすべて機体の維持に向けられているのだろう。

 

 口を開けば、多分吐くだろう。

 

 だから、逆に力いっぱい歯を食いしばり、意味不明な音を発している。

 

 もうミサイルを撃つな。

 

 そもそも、フレイヤは一発だけだったはずだ。

 

 なぜこうもバーゲンセールのように撃ってこれる?

 

 撃ってくるな。

 

 それは、撃ってはならないものだ────

 

 

 

【────助けて────!】

 

 

 

 ────その時、誰かが助けを求める声を聞いた気がした。

 

 ここは確かにKMFの中で、地上から離れているが、そんな気がした。

 

 普通なら『気のせいだ』と思って頭の片隅に置いているといつの間にか忘れていそうな、か細い声だ。

 

 何の根拠もないが、『俺は()()()()()()()()()()()』。

 

 そう確信した瞬間、BRSインターフェイスが反応し、蒼天のカメラが租界中心の政庁に向けて画像を拡大した。

 

 租界は揺れているが、流石は政治的にも軍事的にも植民地の要である政庁というべきか租界の揺れの影響をまるで受けていない様子だった。

 

 外見上は。

 

 政庁の周りにある建物は激しい揺れ────地震によって半壊している物が多く、人工的な地面にも亀裂が入っていた。

 

 幸い、VTOL機や航空機は見当たら────いや違う。 何かが引っかかる。

 

 ()()()()

 

 だが、()()引っ掛かりを感じた?

 

 そう言えばかなり乖離したとはいえこの局面、原作で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そこで俺は見た。

 

 どんどんと揺れながら割れていく階層構造に飲まれていく脱出艇の中から不安を押し殺そうとしながら、泣くことを必死に我慢する────

 

 

 

 

 

 

 「────ナナリー。」

 

 

 

 

 気付けば、体を思えるように動かせていた。

 

 気付けば、周りの景色は俺と蒼天を除いて止まっていた(『時間に意味はない』)

 

 気付けば、今見える範囲内全てのミサイルを撃ち落としていた。

 

 気付けば、摩擦熱で蒼天の残っていた装甲が剥がれていた。

 

 気付けば、蒼天のシャットダウン(機能停止)マニュアル(手動)で解除していた。

 

 気付けば、周りが動き出していた。

 

 「カハッ?!」

 

 気付けば、先ほど『熱い』と称した感覚は全て『痛み』だということに気付いて思わず押し潰されそうになり、声にならない息を吐きだしていた。

 

 痛い。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 まるで体中の細胞の要素が『痛覚』だけに変わったみたいだ。

 

 亀裂まで数百メートルまで詰めた。

 

 グニャ。

 

 ビー!

 

 バシュ!

 

 気を緩ませた所為か視界がぐにゃりと歪むと同時に蒼天の網膜投影システムから高度が落ちていくことを警告する音に注意を向けながら、BRSインターフェイスを使って右腕をパージ(パーツ排除を)する。

 

 ビー!

 

 バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

 

 動かないブースターや必要のないウェポンバックパックなど飾りも同然だ、パージ。

 

 グニャ。

 

 またしかいがゆがんだ。

 

 シッカリシロ、おれ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 しっかりしろしっかりしろしっかりしろしっかりしろしっかりしろ。

 

 大きく吸い込むな。

 

 ()()()()()()()()

 

 ビー!

 バシュ! キュィィィィ!!!

 

 殆ど浮遊能力を失ったフロートシステムもパージする。

 

 元々亀裂の中は窮屈だからいらない。

 

 ランドスピナーと、普通の左腕と、特注で紅蓮タイプにある飛燕爪牙ではなく通常のスラッシュハーケンで十分だ。

 

 そのまま落ちるかのように飛び込むと真下に見えた。

 

 ズルズルと落ちていく脱出艇だ。

 

 グニャ。

 

「グッ!」

 バキッ!

 

 気が遠くなるような中、口内で何かが割れるような音が響くが関係ない。

 

 グニャ。

 

 またも視界が歪み、今度は外側も暗くなってきた。

 

 BRS頼りに蒼天を操作しつつ、ギューッと瞼を力強く閉めると涙が頬を伝う。

 

 いつの間にか目を開けっぱなしにしていたようだ、ジンジンとした感覚で乾燥した目がしみる。

 

 踏ん張れ、俺。

 

 ()()()()

 

 ()()()()

 

 ビィィン!

 

 蒼天の左腕が落ちていく脱出艇を救い上げ、スラッシュハーケンが更なる落下を防いでくれている。

 

 脱出艇の窓に人影────咲世子さんたちが見える。

 

 読唇術はからっきしなんだが、どうやらドアが歪んで開けられないそうだ。

 

 ならばすることは一つ。

 

 キュィィィィィィン!

 

 壊れた階層構造の断面をランドスピナーが走って巻き戻っていくスラッシュハーケンのワイヤーを補助し、脱出艇と共にKMFを現状より安定している階の地下ハイウェイまで上がらせようとする。

 

 バキン! ボシュ!

 

 地下ハイウェイに到達したは良いが、今まで機体に無理をさせていたツケでスラッシュハーケンの巻き戻しが途中で止まったのでパージ。

 

 より身軽になった蒼天を、揺れる地下ハイウェイの中を走らせて一番近い出口を探────あった。

 

 ガラガラガラガラガラガラ!!!

 

 ひび割れたメインカメラ越しに僅かだが『日光』の反応が返ってきた出口を目指し、坂を上がり始めたところで機体の背後から崩れ落ちていく音が聞こえ、意識(カメラ)を向けると案の定予想通りに地下ハイウェイが崩れていく光景が待っていた。

 

 ざっくりと直感に頼った勘だが間に合わない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 そう思いながら出来るだけ前に脱出艇を乗せた左腕を出し、上から圧し掛かってくる瓦礫で視界が真っ暗になっていく。

 

 『ブリタニア軍、黒の騎士団双方に告ぐ! 戦闘行為は禁ずる! 繰り返す、戦闘行為は禁ずる!』

 

 そのような声が瓦礫に反響し、聞こえてきたような気がしたまま、耳に届いている間、何とか核融合炉の出力を下げてから俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 カッ、カッ、カッ、カッ。

 

 その頃、太平洋の上で待機していたブリタニア艦隊の旗艦であり皇帝の座乗艦の『グレートブリタニア』内にある通路を、ナイトオブトゥエルブであるモニカ・クルシェフスキーが微妙な表情のまま歩いていた。

 

 彼女はさっきまでシャルルがずっと不在であったブリッジにいたのだが『トウキョウ租界からブリタニア軍の大規模な撤退中』と聞き、独断で艦隊の一部をラウンズの特権で調査ができる距離まで近づかせると『多数のミサイルと思われる飛来物が租界を襲撃中』、そして『ルキアーノ・ブラッドリーおよびヴァルキリエ隊との接触は全て禁ずる』との報告が同時に知らされてきたので、彼女は任されていたブリッジを後にした。

 

「む。 クルシェフスキー卿か。」

 

「ッ。」

 

 そんな彼女に声をかけたのは、シンクーたちが率いていた超合集国軍の上陸を阻止し、戦況が収まりようやく帰還したビスマルクだった。

 

「ヴァルトシュタイン卿、いつお戻りに?」

 

「つい先ほどだ。 クルシェスキー卿、()()()()()()()()何があった?」

 

 ここでモニカは違和感を覚えた。

 

 確かに超合集国の狙いがエリア11ならば、旧日本の首都である東京を奪還すれば大きな足掛かりとなるのは必須。

 

 だが────

 

「(────ヴァルトシュタイン卿の言い方だと、まるで『何かが起きる』と予期していたように聞こえる……いえ、彼は今まで島を挟んだ西側にいた。 知りようがない筈……けれど……けれどブラッドリー卿の件もある。 それに……)」

 

『そんな筈がない』と考えたモニカが連想したのは文字通り、中華連邦の上空で『有り得ない』機動を見せた新型機(スバルの乗った陽炎)だった。

 

「(いえ、あれはきっとフローレンスのように未確認の技術が応用された結果である可能性も……) 実は、報告にあった『フレイヤ』と思われるミサイル群がトウキョウ租界を襲ったとのことで、陛下に指示を仰ごうと────」

「────ミサイル()、だと? ……よし。」

 

 ビスマルクは眉間にしわを寄せつつ腕を組み、考えるそぶりを数秒間してからモニカに開き直る。

 

「ちょうど私も話があったところだ、共に陛下に会いに行くとしよう。」

 

 二人は通路を進み、皇帝シャルルの部屋に到着すると、室内から微かな声が聞こえてきた。

 

 コン、コン。

 

「(警備の者も立たせていないなんて、なんて不用心な……)」

 

「皇帝陛下、私です。」

 

『……うむ、入れ。』

 

「では────ッ?!」

 

「え?!」

 

 シャルルの声に誘われ、ビスマルクとモニカが部屋に入るとシャルルがシュナイゼルとの通信中だったことに二人は驚く。

 

『良いのですか、皇帝陛下?』

 

「よい、二人にも聞く権利はある。 それでシュナイゼル、トウキョウ租界に放ったフレイヤはどういう事だ。」

 

『あれは私も予期せぬ事故です。』

 

「事故?! (我がブリタニアの同胞がどれだけ逃げ遅れたと────?!)」

「────クルシェフスキー卿。」

 

「ッ……失礼いたしました。」

 

 思わず声を出したモニカをビスマルクが注意し、シャルルも彼女を冷静に見据えた。

 

「説明しろ、シュナイゼル。」

 

『まず、エリア11が黒の騎士団やゼロの次なる目標になったことで、試作品である“サクラダイトに頼らない電力”の設置でゲフィオンディスターバーの影響を抑えると共に、万が一のための処置を行いました。 この処置とは……そうですね、“最終プラン”と名付けましょう。』

 

「うむ。 確か、大規模な離反を防ぐためと聞いておる。」

 

『ええ。 これ等はもしエリアなどを敵国が占領、または反旗を翻して本国などが危険にさらされた場合にのみ作動する、自動報復システムへの第一歩でした。 しかしどこから聞いたのか、ブラッドリー卿と思われる人物たちがこれを手動で行いました。』

 

「待て。 シュナイゼル殿下は先ほど『自動報復システム』と言ったが、なぜそれが手動で行われる?」

 

『実は急なことで、このシステムはまだ完全に自動化されていないのです。 あくまでもシステムが完成するまで繋ぎでした。』

 

「それが例の写真とやらか。」

 

『ええ。 自動化ではないので人の手で行われる場合のみ、行使者の写真が送られるようにできており、そこにブラッドリー卿と思われる人物がいました。 彼は仮にも皇帝直属のラウンズですので、先んじて彼との接触を禁じましたが────』

「────奴の捕縛、あるいは射殺しても良い。 今を以て、奴と奴の部隊をラウンズから除名する。」

 

『畏まりました、ではそのように通達を変えて指名手配しておきます。』

 

「してシュナイゼル、租界に多く残った者たちなどの処遇はどうする?」

 

『すでにエリア24からエリア11に部隊を送りたいとの申請があったので、許可しました。』

 

「……不運な事故であるな。」

 

『ええ、とても不運な事故です。』

 

「(これを『事故』と称するのですか?! 例えブラッドリー卿を捕まえたところで、民の────いえ、世界の者たちが抱いている怒りや不安と相殺できるわけがない!)」

 

 モニカは驚愕しながら隣で難しい顔をしていたビスマルクを見る。

 

「……シュナイゼル殿下、何かお考えがあるようですな?」

 

『無論、ありますよヴァルトシュタイン卿。 ダモクレスに再装填し、システムをオート(自動)からローカルに変えます。 幸運にもフレイヤの脅威は知れ渡っているので、それを使うべきかと思います。 そこで、私を外交特使としてエリア11に赴く許可を願います。』

 

「いいや、それは出来ぬ。」

 

『では、高度な政治問題ですので、現地にいるコーネリアに連絡を入れましょうか?』

 

「ワシ自らが向かう。」

 

 「「は?!」」

 

 その場にいたビスマルクとモニカは分かるほどに顔を驚きに変え、シュナイゼルはわずかにだがいつもの薄笑いが深くなった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ログレス級の『グレートブリタニア』からギャラハッドを乗せた専用機とフロートシステムで近辺を護衛するヴィンセント・ウォードにフローレンスとフローレンス・ドローン、そして艦隊の哨戒をしていたドロテアのパロミダスも飛んでいく。

 

「本国はどうなっておる?」

 

「『第一皇子が動きを見せている』とのことです。」

 

 専用機の中ではギャラハッドの簡易的な整備チェックを終えたビスマルクがそう言いながら、二人分の紅茶の内一つを座っていたシャルルに手渡していた。

 

「ほぉ? このタイミングでか。」

 

「ええ……やられましたな。」

 

「うむ。」

 

「あまり喜ぶのもどうかと個人的に思うと申し上げます。」

 

「いや。 こうも面白いとな……」

 

「しかし陛下、何も御身自らが()の策に乗らなくともよかったのでは?」

 

 ビスマルクはいつも以上に真剣な表情を浮かべ、薄笑いを浮かべていたシャルルを見る。

 

「やはり()()()()()のでしょう?」

 

「これも必要な事であるからだ。」

 

「……そうですか。 ならばお供するまでです。」

 

「すまんな、ビスマルク。」

 

「いいえ。 マリアンヌ様が亡き今、私が陛下の剣と盾……そして『目』でなければいけません。」

 

「……そのことだが、()()()()()()()()()?」

 

 「は?」

 

 ビスマルク、本日二度目の驚愕で封印した目が痛むのだった。

 

「(もうすぐだ……あと少しで、()は……)」

 

 余談でそんなビスマルクを見て微笑していたシャルルも内心、少しだけ張りつめていた気が緩んだそうな。

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