『ブリタニア軍、黒の騎士団双方に告ぐ! 戦闘行為は禁ずる! 繰り返す、戦闘行為は禁ずる!』
トウキョウ租界を襲っていたフレイヤ弾頭を搭載されたミサイルが
発信源はカールレオン級浮遊航空艦の『ネッサローズ』。
大グリンダ騎士団の重装騎士団の旗艦であり、エリア24から自ら出てきたマリーベルが気丈に振る舞いつつ通信を出しながらトウキョウ租界の惨状に冷や汗を流していた。
『(何ということなの……地形が……階層構造が、こんなにも……まるで穴を大量に開けられて今にでも崩れそうなクリームブリュレ……) 繰り返します! ブリタニア軍、黒の騎士団双方に告ぐ! 戦闘行為は禁ずる! 非常事態により、人命救助活動を最優先で行うことを推薦します! これに承諾しかねないのならば、即刻この場から離れよ! 戦闘を続けるのならばそれをテロ行為とみなし、武力によって殲滅します!』
超合集国の初となる
それを合図にヴェランス大公、ゴドフロア、ファルネーゼの三人も『超合集国への警戒』と称した大規模な待機命令を全軍に下した。
それからマリーベルたちはエリア11方面から入ってくる情報を出来るだけ全てリアルタイムで監視し、
シンクー率いる超合集国軍による日本海からの上陸作戦。
東シナ海のどさくさを利用して功績を挙げようとするインド軍区のマハラジャ。
そして────
「エリア11への部隊派遣の許可が宰相閣下より出ました!」
「総員、発進!」
「「「「イエス、ユアハイネス!!!」」」」
────『トウキョウ租界付近に黒の騎士団が突如として出没』とオイアグロから聞いたマリーベルは許可が出た瞬間、艦隊を発進させていた。
エリア24からエリア11への直行便の飛行時間は約12時間ほどかかる。
「重装騎士団にユーロ・ブリタニア軍を乗せ、
「「「「全速力?!」」」」
「私が許可します!」
よって、タイムロスを最小限に抑えるためにマリーベルは艦隊全てを駆け足────つまりグランベリーが証明している最高速度の時速960kmで飛行する命令を下した。
『やばいよローザ、どうする?』
『いやどうすると言われても“やれ”と言われたら“やる” しかないのサお兄ちゃん!
『いやそれ、“スタンディングオベーション”な?』
『意図的だよ! 首席で特待生の私が間違えるわけないじゃないか!』
『ノリエガ兄妹、あとで反省文も追加だ。』
『『え。/ギニャ?!』』
余談でそれぞれ艦長を務めていた元マドリードの星のリーダーだったフェルナンドと元特攻隊長のマリルローザたちのやり取りにそれぞれの艦長やオペレーターが内心でホッコリしたり呆れたりする中でシュバルツァー教師将軍の御叱りに二人の素っ頓狂な声でついに通信を聞いた者たちは笑い出した。
「これは……長い間、生きとりますが……まるで戦争をこの場に収束したかのようですな。」
そして愉快な旅の末にマリーベルたちを待ち受けていたのは今まで見た破壊の比ではない、まるで『破壊』という言葉そのものが作られた理由のような惨状だった。
「(オズたちは……識別信号がある! 生きている! グランベリーも……エニアグラム卿のおかげね。 でもなぜエニアグラム卿がクルルギ卿と共に?)」
『こちら、プレイアデスナイツの
「(この声……砂漠の時の……ならば問題ないわね。) シュバルツァー将軍、各艦に救助を始めるように。」
「イエス、ユアハイネス。」
『マリー、遠路はるばるエリア24から来るとはな。』
「こ、コーネリア皇女殿下?!」
「コーネリアお姉さま……御無事で……」
リア・ファルからのオープンチャンネル通信が切れると今度は入れ替わるようにコーネリアがスクリーンに映るとシュバルツァー将軍はびっくりする反面、マリーベルはホッと胸を撫で下ろす。
『よく来てくれた。 見ての通り、もう戦争どころではない。 私やギルフォード、それにグラストンナイツにも目を光らせるように言ってあるがいかんせん人員が足りない。 救助を手伝ってくれ。 ブリタニア人とナンバーズのな。』
「無論ですわ。 そのために、私たちは来たのですから……しかし、ナナリー総督は?」
『撤退命令が出たのでダールトンをつけたのだが────』
『────横から割り込んですまない。』
そしてオープンチャンネルの通信に今度はゼロが現れるとネッサローズのブリッジがざわめき、誰もがテロ嫌いで有名なマリーベルを見る。
「ゼロ────」
『────こうして会う非礼を詫びよう。 しかし我々には時間がないので、手短に済ませよう。 黒の騎士団も人命救助を優先する。 けが人の輸送は恐らく浮遊能力のある貴方の艦隊と黒の騎士団の艦が要となるだろう。』
「ではやはり、見た目通りに租界の階層構造が脆くなっているのですね?」
『ああ。 人為的な災害を一歩手前の段階で止めたのでね? 何時崩落するか分からない状態なのだ。』
「そうですか……では重装騎士団と、残った天空騎士団で租界の西を担当しましょう。」
『話が早くて助かる。 だが我々と租界全体を担当した方がいいだろう。』
『では、私はギルフォードたちに地上部隊の指示をさせる。』
「直接あなたが指揮を執らないのですか?」
『……ナナリー総督につけたダールトンとの、通信が繋がらない。』
「は?!」
『それと政庁に送った部下から、政庁内に居ないとも先ほど聞いた。』
「それは────」
『────彼女の居場所はこちらの者が当たりをつけています。』
『何ッ?!』
通信に現れたレイラの言葉にゼロの動揺している様子が声に表れ、ブリッジ内とコーネリアたちの注目を集めた。
『ウッ……こ、コホン! そ、そうか。 彼女が無事ならばそれで良い。』
「(……太平洋での事でも思いましたが、やはりナナリー絡みとなると感情が出てしまいますね。 仮面の下はどんな顔かしら?)」
マリーベルは凛とした顔の裏で、ゼロの狼狽える様子にホッコリとした考えを思い浮かべた。
『(実の妹だということは分かりますが、他人の前でその様子を見せるのは……いいえ、私も少し前までは一緒でした。) ただ、こちらも人員不足でして……』
レイラは困りつつも苦笑いをした。
『ならば私がそちらに向かうとしよう。 (ルルーシュ、お前……ナナリーの事となると感情的になる癖は治っていないみたいだな。)』
尚、もしコーネリアの内心を聞いたものがいれば彼女に『お前が言うな』と言いたくなるのはきっと一人や二人だけではないだろうとここで記入する。
ミサイルの直撃を逃れて、比較的損傷の少ないイカルガにゼロはコーネリアとマリーベルを招待し、イカルガとネッサローズを中心にゼロ、マリーベル、コーネリアの三人は指示を出した。
ブリタニア側と超合集国側が問わずに租界中から避難に遅れた一般人や割れた階層構造によって身動きが取れないブリタニア軍や黒の騎士団の救助を行っている間にどんどんと被害などが次々と明らかにされていき、現エリア24の総督のマリーベルと元総督のコーネリアにゼロの仮面の下にいるルルーシュは胸が冷えていった。
『戦火で焼失した救命施設による救助の遅れ。』
『一般市民の死者は推定で1万。 二次被害などによる重傷者はおよそ3万人。』
『ブリタニア、および超合集国の死者および行方不明者も含めて数千人。』
等々。
「「「……」」」
『租界に近づく飛空艇にKMF部隊を確認! 識別信号は……ラウンズです!』
彼らは静かに『これだけの被害と損害……トウキョウ租界の復興には何年かかるのだろうか?』、『学園が無事なのは幸いだった』、『シュタットフェルト家を筆頭に前回のブラックリベリオンの被害を貴族たちが訴えて補強工事がされていなければもっと酷かっただろう』や『こんな惨状は戦争などと表現すべきことではない』など、各々が考えている最中に
『当方はブリタニアの外交特使を乗せている。 戦闘の意志はない。』
そして飛空艇がレーダーに捉えられたことを感知したのか、上記の通信がスピーカー越しに発され、ゆっくりとゼロたちのいるイカルガの甲板へと降りてくる。
「(ラウンズの機体等が飛空艇を守るかのように……兄上はラウンズまで私兵化するのか?!)」
「(飛空艇の中は恐らくシュナイゼルお兄様ね……まるでもう皇帝になったような待遇……)」
「(フン、シュナイゼルのやりそうなことだ。 ラウンズをそばに置いて威圧────)────んな?!」
コーネリア、マリーベル、そしてゼロが思っていたより大物が出てきたことによってその場にいた誰もが固まり、息をひそめた。
「バカな……」
「おい朝比奈、アレ……」
「いうなよ千葉。 真実になっちまうだろ……」
「無理だ卜部、儂にも見えておる。」
「(こんな、ところに……)」
藤堂や四聖剣たちはすぐに飛空艇から出てきた人物を見ては周囲が静まり返った。
「な、何故皇帝が?!」
そしてゼロとコーネリアたちの様子をプロパガンダのネタとして出てきていたディートーハルトも珍しく、狼狽えながら肩に担いでいたカメラを思わず落としそうになった。
飛空艇から出てきたのはブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアだった。
…………
………
……
…
「ブリタニアから一時停戦の連絡だと?!」
『理由は確認中ですが、どうやらブリタニアの外交特使がゼロたちと接触したようです。』
時間はシャルルを乗せた飛空艇がちょうどトウキョウ租界へ向かった時点に少しだけ巻き戻る。
カゴシマ租界の海岸に展開していた超合集国軍を率いていたシンクーの声が大竜胆の格納庫内で響き、彼の副官である香凛は動揺を押し殺し、淡々と情報を伝える。
「トウキョウ租界の様子は?」
『租界でも一時停戦……それどころかブリタニアと共同で救助活動を行っているとのことです。』
「それほどまでに、租界の様子はひどかったのか?」
『東シナ海の被害と同等のようです。』
「インド軍区の狸が進軍させていた私兵どもか。 確か、大量のミサイル攻撃によって殲滅されたとか。」
『はい。 しかし生存した部隊によるとミサイルの脅威は予想していた数ではなくその効果範囲と破壊力によって殲滅されたと。』
「その部隊は?」
『プレイアデスナイツのシンと名乗っておりました。 “急に予告もなく消滅していった”、と。』
「“予告なく消滅”??? なんだそれは?」
『詳細はまだこちらに届いておりません。 あちらはかなり混乱している様子でして……』
「そうか。」
『それと、ブリタニアの外交特使と称するものがトウキョウ租界に移動しているとのことで、神楽耶様と桐原殿が現地に向かいたいとのことですが……』
「ブリタニア側の外交特使だと? 誰だ?」
『それが、ラウンズが護衛しているとのことで恐らくは────』
「────ブリタニア帝国のシュナイゼルだろうな……よし、私も中華連邦代表代理として、二人の護衛をしよう。」
…………
………
……
…
「なぜ皇帝を人質にしなかったのですか? 確かにラウンズはKMFと生身の戦闘に長けていますが、数の力で押し切れたはずです。」
シャルルを乗せた飛空艇がイカルガに着いたことを聞いたディートハルトは、藤堂たちを見た開口一番がこの言葉だった。
「……私もそう思ったのだが、あの飛空艇に租界を襲った兵器……フレイヤの弾頭が積まれているとのことだ。」
「『フレイヤ』と呼ぶのですね、あの兵器は……」
「ゼロに相談したところ、皇帝に何か異変が起これば自動的に作動する可能性が高いとのことだった。玉砕覚悟で人質に取っても、こちら側が全滅すれば意味がないだろうディートハルト?」
「……確かに。」
「それに……今回の戦では、あまりにも多くの血が流れ過ぎた……」
藤堂の言葉に反応せず考え込んでいたディートハルトは、何かを思いついたのか、ハッとして会議室へ向かう途中、近くにいた黒の騎士団員に小声で話しかけた。
「諜報部に連絡を入れろ。『政庁、あるいは租界にいる元アッシュフォード学生のニーナ・アインシュタインを確保せよ』と。(私の予測が正しければ、『フレイヤ』には彼女が関わっているはず────)」
ディートハルトが先ほど思い出したのは去年のブラックリベリオン時、アッシュフォード学園でガニメデに兵器を乗せた光景だった。
「(────待てよ? あの時、確かスバルらしき人物もあの場に……もしや彼は
……
…
現在、イカルガの会議室の中では奇妙な光景が広がっていた。
「「「「「………………………………………………」」」」」
テーブルを挟んで相対した右側には藤堂、千葉、朝比奈、卜部、仙波、神楽耶、桐原、扇、天子にシンクーなど、黒の騎士団および合集国日本と合集国中華の面々が座っていた。
「「「「………………………………………………」」」」
左側にはシャルル、ビスマルク、ドロテア、モニカ、租界から合流したジノやノネット、ギルフォードなど、ブリタニアの主な要人たちが並んでいた。
完全なにらみ合い────より正確に表現すると、某スポーツのガン飛ばし『フェイスオフ状態』だった。
「お初にお目にかかります、ブリタニア帝国皇帝シャルル。」
ピリピリとした緊張感が漂う中、ゼロが口を開き、社交辞令────
「租界の救助に割く人員は足りているのか?」
────ではなく、シャルルが痛いところを突いた。
黒の騎士団は以前より規模が大きくなったとはいえ、救助活動など非戦闘的な指揮を執れる者がブリタニアと比べて不足しており、実質的に今の租界で救助活動の指揮を執っているのは、主に多方面で経験豊かなブリタニアの士官やグラストンナイツたちだった。
「なるほど、では腹の探り合いは無しと致しましょうか。」
「そうだ。 ワシもお主たちも必要以上の時間を浪費するのは避けたいのであろう? まず先の出来事だが……アレは不運な事故による災害である。」
「「「「「“事故”?!」」」」」
イカルガの会議室で、ゼロやコーネリア、移動中に惨状を目の当たりにした神楽耶たちの声が響いた。
「そうだ。 試作段階であった自動防衛システムが、ナイトオブテンであったルキアーノ・ブラッドリー、および彼のヴァルキリエ隊によって強制的に発動された。帝国は彼をラウンズから除隊し、本国、新大陸、そして植民地に生死を問わず指名手配している。」
「(陛下は、あの惨状を『事故』と申すのか────?!)」
「────陛下。我がグリンダ騎士団に、このテロ行為の首謀者であるブラッドリー卿たちを追う許可を────」
「────良いだろう。」
「ありがとうございます。」
ぐっと歯を食いしばっていたコーネリアの表情が変わる前に、皇帝から許可をもらったマリーベルを見て、コーネリアは彼女の力強く握りしめた拳がわずかに震えているのに気づいた。
「(マリーも内心、怒りを抑えているのだな……らしくないな、私も。 オズたちと旅をして長らく政治から身を遠ざけていて、気が緩んでいたか。)」
「(何を企んでいる?! あんなことが単なる事故のはずがない! この男の意図……目的はなんだ?!)」
表面こそ穏やかだったが、ゼロの仮面の下でルルーシュは殺気を籠らせた睨みをシャルルに向けていた。
「それで、皇帝シャルル本人がここに来たのはそれだけではないのでしょう?」
それを察知したのか、神楽耶が話を進めた。
「
「(『世界は変わる』……警告をしに来たか、皇帝。)」
「確かにそうですね。先のミサイルの威力を見れば納得します……ですが、こちらも相応の報復準備は整っています。」
「そうか。 では、
「本題────?」
「────そうですな。 では日本をいただきましょうか?」
「良いだろう。」
「ふむ、確かに即答できぬ────」
「「「「「「────は?」」」」」」
神楽耶の言葉を遮り、ゼロが冗談交じりに『日本を返せ』と言ったにもかかわらず、シャルルがあっさり了承の言葉を出したことに部屋の中は超合集国側から驚きの声が出た後、静寂に包まれた。
「「「「……」」」」
ブリタニア側にいたコーネリアやマリーベルたちも目を見開き、驚愕の表情を浮かべていたと追記する。
「ただし、帝国と超合集国の間に停戦協定を結ぶことを条件とする。」
「「「「「え?」」」」」
「フッ(確かにその手がありましたな陛下。)」
次々と予想外の展開に、ゼロたちは再び気の抜けた声を上げたが、ビスマルクはわずかに口元を緩めた。
「(こうも、簡単に?!)」
「(……なるほど、これは一本取られたわい。)」
神楽耶は久しぶりに表情を抑え、桐原はシャルルの発言の意味を理解して、バツが悪そうな顔つきになった。
「(しまった! これでは超合集国連合の決議が
「────さて、ワシは神根島にて待つ。 そう、
「(『奴』? 誰の事だ……まさかスヴェンのことか? いや、そんなことは……) はて? 誰の事ですかな?」
ゼロの問いに答えず、シャルルは椅子から立ち上がって部屋を後にする。
「陛下。」
「なんだ、コーネリア?」
「『エリア11を返す』と仰っても、我が帝国の民がまだ多く残っておりますが……」
「あちらが救助活動をやめてほしくなければ続行せよ。 任す。」
「ありがとう、ございます……」
「グリンダ騎士団もお手伝いしますわ。」
「うむ。」
ラウンズの殆どと共に退室するシャルルの背中姿を見て、コーネリアとマリーベルは複雑な思いになっていた。
「(父上……結局、あなたは一度もナナリーの安否を聞くことなく去るのですね……)」
「(どこかナナリーを気にかけていた様子は、私の思い違いだったのでしょうか……)」
ゾロゾロと会議室を退室して数秒後、ノネットは足を止めた。
「エニアグラム卿?」
「私はオズたちが気になるから、先に行っててくれよ。 それにコーネリアたちだけでは、ちょいと荷が重そうだからね。」
「え────?」
「────そうか。 行くぞクルシェフスキー卿。」
「エルンスト卿……ですが────」
「────ああいうときのノネットはもう何を言っても聞かないからな。」
「お! ドロシーは私のことをよく知っているね!」
「腐れ縁だからな……」
「こう言う時ぐらい、『友情』と言ってくれよ!」
「いえるか。 場をわきまえろ。」
「モニカはドロシーのような恥ずかしがり屋になるなよ~? 歳食ってから後悔するよ~?」
「余計なお世話だ。」
……
…
ピー♪ ガチャ。
「(“体が小さくて助かる”なんて思う日が来るとはねぇ~♪)」
会議が行われている間、アーニャは黒の騎士団の目を避けながら、イカルガ内にあるゼロの自室にたどり着き、電子ロックを解除して入室した。
「あ、おかえりなさいませごしゅ────えっ?!」
中にいたC.C.は驚き、
体の半分以上がはみ出ているので、意味はなかったが。
「こうして会うのは久しぶりね、C.C.!♪」
「だ、誰ですか?」
もし普段のアーニャを知っている者がこの場にいて、ウキウキ&キャピキャピした彼女の姿を目にしていればC.C.と同様に驚いていただろう。
「誰って、私よ! わ・た・し! ……あ、もしかしてあなた────」
「────え、あの、ちょっと?!」
アーニャは躊躇うことなく怯えるC.C.に近づき、腕を掴むと二人はその場で気を失い近くのクッションの上に倒れる。
………
……
…
場所はイカルガ────否、
「こんなところに閉じこもっていたのね。」
その中で立っていたのは、アーニャではなく、どこからどう見ても20代後半の黒髪のロングヘアーで、タレ目の紫色の目を持つ女性が、ふてくされながらオイルパステルや肖像画を見つめ歩き回っていたC.C.に話しかける。
「……お前には『遠慮』というものがないのか?」
「まあ? 他でもないあなたがそれを言うの?」
「それで? 何の用だ、マリアンヌ?」
C.C.は知人らしき黒髪の女性────マリアンヌに呆れた様子で聞き返した。
「久しぶりに話すのに、相変わらずね?」
「やっと死ねると思った矢先に、止められたからな。」
「ふ~ん……そっかそっか~、ルルーシュにとって貴方は────」
「────何を想像しているか敢えて聞かないが、坊やはただの契約者だ。 それ以上でもそれ以下でもない────」
「────またまた~♪ 照れちゃって~♪ そうでなければコードを自ら封じるなんて芸当、貴方ならやらないでしょ?」
「コードを封じる? これがか?」
「ん? もしかして無自覚だったの?」
「そもそも気が付いた時には、既に私の意識はここにあった。」
「そう……それにしても聞いたわよ。 貴女の死にたいという思いをシャルルが叶える直前に、ルルーシュが来たって。」
「……シャルルにそう聞いたのか?」
「ええ♪ こっち側に戻るのなら、いつでも歓迎するわよ?」
「……なぁ、マリアンヌ?」
「ん? 何かしら?」
「これからお前はどうするつもりだ?」
「ん? う~ん……とりあえず、『ラグナレクの接続』まで楽しむわ♪ ……って何かしら、その顔?」
マリアンヌの答えにC.C.は困惑した様子を見せ、マリアンヌはその反応を不思議に思ったのかそう問いかけた。
「いや、お前……
「何を言っているのよ、C.C.。 私はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア本人よ。 それ以外の誰でもないわ。」
去っていくマリアンヌの言葉にC.C.は更に困惑し、彼女がその空間から消えた後でもC.C.は考え込んでいた。
「……は?!」
そこで彼女はハッとし、部屋の片隅に置いてあるレターオープナーを手に取っては自分の手を切った。
「……チッ!」
そしてその傷が瞬く間に塞がっていくのを見て、C.C.は舌打ちをした。
…………
………
……
…
「おーい、こっちだ!」
時は会議中と同じころ、租界の救助活動はマリーベルの艦隊が到着したことで人員が増え、二次災害を防ぐため脆くなった階層構造の補強作業と並行して進められていた。
オルフェウスの予想通り、政庁付近は頑丈に作られていたがそこから一定の距離を離れると建物の強度は極端に下がり、補強作業が難航していた。
これは初代総督クロヴィスの統治能力が低く、周りの者にまかせっきりだったため中央地区から離れるにつれて工事に割り当てられる予算が減少したためである。
「これは、飛空艇か?」
「地下道路が更に崩れる前にクレーンとKMFで押さえろ!」
「見事に挟まってやがるな……」
「中に人影が!」
「この模様……皇族御用達を示すものか?!」
「では中に総督たちが?!」
「もっと人を呼べ!」
皇族用の脱出艇が半壊した地下道路に埋もれていると判明し、作業は急ピッチで進んだ。脱出艇のドアが露出する頃、イカルガで行われていた会議は終了していた。
「ドア周りの補強は済んだな?」
「よし、こじ開けるぞ!」
ギギギギ……バカァン!
「やっぱり中に人がいる! 手を貸せ!」
「橋かロープか持ってくる!」
黒の騎士団とブリタニア軍は、脱出艇の中から出てきたダールトンやオルフェウスと協力し、他の乗っていた者たちを救助していた。その時、場に再び緊張感が生まれる。
「ナナリー総督?!」
「何?!」
「それにクロヴィス皇子もいるぞ!」
「皇族が二人……」
黒の騎士団とブリタニア軍は互いに複雑な状況の中、どうやってより有利に動くか考え始めたが────
「────あの!」
その時、別の車いすに移されたナナリーの声がその場に響いた。
「皆さんが戸惑う理由は分かります。 それぞれに思惑があることも……ですが、どうか私たちを救った方の救助をお願いします!」
「……総督たちを救った方?」
「誰だ?」
「それよりもどこだ?」
「おい、まさか船の下にあるあれって……」
「KMFの手か?」
ナナリーの指摘により、皆の注目が脱出艇────正確にはその下敷きになり、激しい損傷を受けたKMFのマニュピレーターに集まる。
「おい! さっきのクレーンや重機を呼び戻せ!」
「ダメだ、他の地区に割り当てられた!」
「それに、パイロットがどうなっているか分からないのも……」
「フム……では掘るしかないな。」
「「「「「は?!」」」」」
ダールトンがさらりと出した言葉に皆が驚く。
「ここには十分な人員が集まってきたからな、手作業しかないではないか。 それともなんだ? ナナリー総督の願いを無視してまで皇女殿下やクロヴィス殿下の身柄を確保するか?」
「「「「「……」」」」」
「私が言うのもなんだが、私からも頼む。」
「「「
「せめて恩人に礼を言わなければ皇族の沽券にかかる、そうだろうナナリー?」
「……ええ。」
ザシュ、ザシュ、ザシュ。
皆が黙っている間、シャベルを持ったオルフェウス、ロロ、クララの三人が黙々と掘り進める音が響く。
その姿に感化されたのか、ナナリーの真摯な願いからか、あるいはダールトンやクロヴィスの言葉に動かされたのか、黒の騎士団とナナリーが総督になったことで生活基準が向上した名誉ブリタニア人たちを中心に皆が道具を手に取り掘り始めた。
「紅蓮タイプ?」
「だが青いぞ……」
「例の、プレイアデスナイツ所属か?」
「それにしてもひどい損傷だな、まるでKMFの亡骸だぞ。」
「機体がこんな状態では、中にいるパイロットは……」
やがて、瓦礫に埋もれてボロボロになっていた蒼天の上半身が姿を現し、ブリタニア人たちは蒼天を見てパイロットの生存を危ぶむが、黒の騎士団員は躊躇せずコックピットを開いて中を確認する。
「いや、パイロットは生きているぞ!」
「早く担架を持ってこい!」
「酷い怪我だ……」
黒の騎士団員の掛け声にまた辺りが騒がしくなるとそこに居たブリタニアの軍人たちが早速ナナリーたちを移動させようとする。
「よし、今のうちに総督たちを安全な場所に移動させるぞ。」
「こちらへ。」
「待ってください────!」
「────申し訳ございません総督。 ですがこのままでは我々だけで総督たちを守り切れるかどうか分からないのです。」
「幸い、皆あの機体に取り掛かっているので────」
「────おい────!」
「────ダールトン将軍。 暴れないでいただきたい、できれば穏便に済ませたい────」
「────お前たち、銃を向ける意味を知っていて私に向けるのか────?」
「────今は非常事態です。」
「(あの機体、見間違いでなければ砂漠でも見た少年のモノだ。 本当はこの状況でも己のプライドと見栄を優先する馬鹿どもを殴り倒したいが……ゼロ個人は信用できるが、
銃を向けられたダールトンは複雑な表情になりながらも、頷くのだった。
「よしゆっくりと運べ────!」
「────出血もしている、早く点滴を────」
「────17,8ぐらいの子供か────?」
「────紅蓮のパイロットとあまり歳は変わりないな────」
「────それであの嬢ちゃん、黒の騎士団のエースなんだよなぁ~。」
「総督、今のうちに────」
「────待ってください────!」
「────ナナリーを乱暴に扱うな! 大事な妹────妹? ……異母兄妹? ……ん?」
周りが騒がしくなる中、ナナリーを乗せた車いすが彼女の意思に反して動かされ、クロヴィスの怒る様子は困惑へと徐々に変わっていった。
『何事だ、これは?!』
『ハイハイ邪魔するよー。 けが人とかはいないかー?』
まるで追い打ちをかけるかのようにコーネリア、そしてノネットのKMFがその場へと現れ、上空にはリア・ファルも待機していた。
「コーネリアお姉さま!」
ナナリーは明らかに安堵し────
「それにエニアグラム卿だと?!」
キリキリキリキリキリキリキリ!
────クロヴィスは急に胃が痛くなったそうな。
………
……
…
飛空艇にシャルルが乗り込み飛び立つ頃、『アーニャ』はモルドレッドに戻っていた。
皇帝の護衛として来ている筈だというのにシャルルやビスマルクが特に彼女を問い詰めることもなく飛空艇に乗り込むところを不思議に思いながらドロテア、モニカ、ジノもそれぞれのKMFに乗り込み、グレートブリタニアへの帰還をし始める。
その最中、飛空艇からモルドレッドに直通通信が入った。
「あら、どうしたのシャルル?」
『C.C.には会えたか?』
「ええ。 あなたがくれたこの解除キーが役に立ったわ。 さすが皇帝ね、用意が良いわ♪」
『それで、C.C.は何と言っていた?』
「うん? 私がこれから何をするのか聞いていたわ。 ああ、それと私が本当にマリアンヌかどうかもね。」
『……』
「シャルル? どうして急に黙るの?」
『いや、何でもない。』
「それより、アレの準備は出来ているのかしら?」
『我々が戻る頃には整っているだろう。』
「そう。 楽しみね♪」
『そんなにか?』
「ええ、とっても♪」
『……そうか。』
自分も胃がキリキリ…… (汗