「……」
「ああ、お帰り。」
イカルガ内にあるゼロ用の自室のエレベーターから降り、ゼロの仮面を外したルルーシュに、気だるそうにC.C.が声をかける。
「……」
しかしルルーシュは何の反応も見せず、無言でゼロの仮面とマントを特注のハンガーに掛けた後、机の前の椅子に腰掛けた。
「おい、ル────」
バン!
「────クソが!」
ルルーシュは両手で怒りに震える頭を抱え、荒々しく両肘を机に置き、体を震わせながら叫んだ。
バン! バン! バン! バン!
「クソが! クソが! クソがぁぁぁぁぁぁぁ!」
明らかに怒りで爆発寸前の様子に、あのC.C.ですら驚き、目を見開いて唖然とするほどだった。ルルーシュは動揺を言動で露わにし、机を何度も叩いていた。
「あの男、やってくれたな! 皇帝めぇぇぇぇぇ────!」
「────お、おい────」
「────俺の正体を他の者にちらつかせる前に、『日本を返せ』と牽制したのに、『返す』だと?! しかも即答で?! 一体どれだけの血が流れたと思う?! どれだけの苦労をしたと思っている?! それを一言で済ませるのか?! こんな呆気ない終わり方なんてあるか! こんな屈辱、シュナイゼルとのチェス────いや、それ以上だ!」
ルルーシュは歯ぎしりをしながら、シュナイゼルとのチェスを思い出していた。あの夜、シュナイゼルがわざとルルーシュに「勝利」を渡し、いつもの薄笑いを浮かべながら試した際に言った言葉が脳裏をよぎる。
『皇帝陛下ならばこの勝利、迷わず取っていただろうね。』
「この条件を飲まなければ、まとまりかけた超合集国連合が空中分解しかねない! 飲めば『日本奪還』の大義名分を失う! ここで行動を中断せざるを得ない! 練り上げていた政治的な
「……“敵ながら天晴”、というやつだな。」
「冗談じゃないぞC.C.! 俺があの男を褒めるだと?! ありえん!」
「(いつもは冷静を装いながらニヒリスト的な言葉ではぐらかすルルーシュがここまで激怒するとは……よほど頭に来ているな。)」
余談だが、あまりの怒りにルルーシュはC.C.が元に戻ったことに気づかず、C.C.もまた、彼の取り乱しぶりにからかう気も起きなかったと追記する。
「……」
ひとしきり荒れた後、ルルーシュは息を整え、椅子の背もたれに寄りかかりながら視線を天井からC.C.に向け、再び口を開いた。
「C.C.。 会議でシャルルはこう言っていた。“世界は変わる”と。これがどういう意味かわかるか?」
「“世界は変わる”?」
ルルーシュの問いに、C.C.が考え込むそぶりを見せ、これを見た彼は内心ほっとしていた。
「(やはり、皇帝の言う『奴』とはC.C.のことだったか。スヴェンではない。あの妙な空間で彼を知ったが、それはあくまで『俺たちの仲間』としての認識だ。 彼個人ではない……と思いたい。)」
「……あるぞ。」
「そうか。」
「と言っても、昔に聞いたことだが?」
「話せ。」
…………
………
……
…
「兄上!」
エリア11とは反対側に位置する「新大陸」と呼ばれた、今やブリタニア帝国の中心となりつつある北米大陸のニューロンドン。第一皇女ギネヴィアが珍しく狼狽しながら、SPたちと共にホールを歩くオデュッセウスを追いかけていた。
「ん? どうしたんだいギネヴィア、そんなに慌てて?」
「兄上こそ議会で何を仰ったのか、ご存じなのですか────?!」
「────え────?」
「────いえ、もうこの際はっきりと問いましょう。
ギネヴィアの迫力ある表情に、オデュッセウスは困ったような苦笑を浮かべながら頬を掻く。
「うーん……私もこんなことはやりたくなかったんだけどね────」
「────ではまだ間に合います! 宣言を撤回────」
「────でも、このままだと
「ッ。」
次第にオデュッセウスの苦笑は消え、顔つきが真剣になった。ギネヴィアは彼の突然の威圧感に戸惑いを見せる。
「確かに、父上……皇帝陛下によって一度は衰退しかけた帝国は息を吹き返した。 だが、マリアンヌ様を失ってからの父上は変わってしまった。 『王』としての責務をほとんど放棄し、世捨て人のように玉座を度々空けるようになった。 喪に服するならまだ理解できたが、父上は軍事力で他国を侵略し、勢力を広げることに没頭した。
確かに得るものは多かったが、基盤を固めることなく次々と植民地を作った。その結果を、ギネヴィアは嫌というほど見てきただろう?」
「……それは……」
「シュナイゼルやカリーヌ、ナナリーたち、それにマリーベルも必死に頑張っているが、経済は
「……」
「今まではシュナイゼルがどうにかしてくれると思っていたけれど、どうも彼は父上側に付いたみたいだから、私がやるしかないんだよ。」
「でしたら、私が────!」
「────ギネヴィアが女帝になったら、今まで派手に宣伝されてきた贅沢な生活のせいで、国内外から悪い印象がさらに深まるよ?」
「そ、それは経済を動かすために……富を蓄える貴族たちには『前例』が必要だったからです────」
「────確かにそうだ。でも、『民衆』はそんな君の思惑よりも『負の面』を見るんだよ。 それの方が楽で、自分たちを慰める材料になるからね。」
「ッ……そ、それは……」
「それも『人』だから、仕方のないことだよ。カリーヌでも多分、駄目だろうね。ナナリーなら適性があるかもしれないけれど、エリア11で手一杯な彼女に帝国全体は荷が重すぎる。 だから、
「……兄上……」
「これから末永く(生きるために)よろしく頼むよ、ギネヴィア。」
「……………………」
「ちょ、ちょっと泣かないでくれよギネヴィア!」
急に泣き出したギネヴィアにSPたちを含め、周りにいた者たちは驚きの表情を浮かべる。オデュッセウスはいつもの調子でアタフタと慌て始める。
「私一人で帝国を動かすなんて無理難題もいいところだから、これからは支えてくれると助かるなーと持っているんだ! だから、泣くのをやめてくれよ、ギネヴィア!」
「……兄上……」
「…………………………ど、ど、ど、どうしよう?」
ただ静かに泣き続けるギネヴィアに、オデュッセウスは大量の汗をかきながら近くの者たちを見るが、全員が目を逸らす。
例えここに他の皇族などがいたとしても同じリアクションを取っていただろう。
「(超合集国連合代表の皇神楽耶やゼロとの会談にギネヴィアを同行させたかったが、この状態ではとても────)」
「────あの兄上が、こんなに立派に育って私は感激しています……」
「え。 (そこ?)」
「苦労した甲斐がありました……もう本っ当に……“一生自分の立場を自覚せず、クラゲのようにふわふわとしたまま周りに流されるのか”と何度も思いました……」
「え、ええええええええ? クラゲは流石にないんじゃないかな?」
自分のふがいなさに悔しいのか、勝手な兄に怒っているのか、今までの苦労が報われて嬉しいのか分からないまま泣き続けるギネヴィアに、オデュッセウスは複雑な表情を浮かべる。
この二人のツーショット写真を撮影した「オデュ様に癒され隊♪」と「ギネヴィア様に踏まれ隊♡」のメンバーが、それぞれの裏サイトにアップしたことで、「オデュ×ギネ」や「逆バブみ」、さらに「天然にて禁断」をテーマにした小説が密かにブームになるのは、この時点ではまだ誰も知らない。
更に余談だが、オデュッセウス風の髭を生やしたクラゲっぽいデフォルメした何かも売れ始めたとか。
…………
………
……
…
バァン!
ドタドタドタドタドタドタドタ!
「いたか?!」
「いや、見つかっていない!」
「ブリタニアが人を戻してくる前に早く探せ!」
租界中のそこかしこで作業が続いている中でガランと人気がない政庁内で慌ただしく走る音を立てながら所属不明の団服を着た数人が何か、あるいは誰かを探しているようなセリフを、通信機越しにお互いに伝えていく。
「…………………………よし、行ったぞ。」
その様子を物陰から窺っていたレドが、後ろにいたニーナに話しかける。
「ありがとう、えっと……スザク君と一緒にいた、名前は確か────」
「────レドだ。」
この二人が出会ったのは、租界の揺れをカレンが紅蓮の輻射波動を使って弱らせた時だった。ニーナは外の惨状を目にして暴走しないよう核融合炉へ向かう途中で作業を終えたレドと出会い、彼が異変に気づいて彼女を物陰に隠れるよう説得したのだった。
本来なら、ニーナが素直に(中性的な見た目とはいえ)男性であるレドのいうことを素直に聞ける状態ではなかったかもしれないが、幸運にも『スヴェン』という相手がいたことで彼女の『人見知り』と『男性恐怖症』は大幅に減少していた。
「うん、ありがとうレド君。 でもなんでここに?」
「待機を命じられていた。」
「そうじゃなくて、なんで私を助けるの?」
「(『恩を売るため』……なんて素直に言えるわけない。) ……成り行きだ。」
「クスッ、優しいんだね?」
「は? (何を言っているんだこの女? オレは打算も込みで……ってそうではない。 一昔前のオレだったらどちらを助ければ自分に対してプラスに働くか様子見していただろうな。)」
「隠さなくていいよ? 似ている
「(きっとそいつも相当な苦労しているだろうな。) ……そうか。 取り敢えず、外にいる仲間と合流する。」
「仲間ってスザク君?」
「いやそっちじゃなくて、ブリタニア貴族の嫡男でお人好し────ッ。」
レドはハッとして急に足を止める。
「(シュネーの事を『仲間』と口にしたのか? オレが? それに、クルルギ卿も含めた言い方をしたような気が……)」
「レド君? も、もしかして……嫌な知り合いだった?」
「………………………………いや。 二人とも、底なしのお人好しで、頭がお花畑で気が抜けるような奴らだ。」
「?????」
「つまり、オレが代わりに気を引き締めていないと心配するような奴らだ……ということだ。」
「あ、やっぱりそう言う仲なんだね! (なんだか人見知りなアーサーみたい! ……猫耳尻尾とかを付けたら似合うだろうな………………猫耳尻尾………………猫耳尻尾姿のスヴェン君……………………………………………………ダメだわ、これ以上想像するのは! ああでもこのレド君がスヴェン君に似て思い出しちゃうぅぅぅぅ~!♡)」
「(なんだか急にもじもじし始めたぞ……あと急に息が荒くなったが、歩き慣れていないのか? ……もしやトイレか?)」
レドとニーナは自分たちを探している者たちに警戒しつつ、格納庫へたどり着く。
「(って、そう簡単にはいかないか。)」
そこには揺れの拍子でか仰向けに転倒していた、レドのヴィンセント・ブレイズだった。
「えっと……建物は大丈夫だったけれど、ナイトメア……倒れちゃっているよね?」
「いや、問題は……ない……と思う。」
そう言いながらも、レドはヴィンセント・ブレイズの様子を見るため、コックピットハッチを開けようとするが、機体が倒れている姿勢では上手くいかなかった。
「(こういう時に限って、『旧式』のレッテルを張られたサザーランドやグロースター用の
────ガタァン!
「誰だ?!」
「待って待って待って待って待って待ってぇぇぇぇぇぇぇ! 降参降参降参降参~!!!」
格納庫内に音が響くとレドは腰から拳銃を抜いて構えたその先には、必死に持っていたペンに紙をつけた白旗(?)をブンブンと振り回すロイドがいた。
「え?! ロイドさん?!」
「あ、ニーナ君無事だったんだね~?」
「えっと、レド君だよね? スザ────クルルギ卿の部下の?」
ニーナを見て平常運転に戻ったロイドを盾にするかのようにセシルがひょっこりと顔を出す。
「キャメロットのロイド主任に、クルーミー副主任……どうしてここに?」
「いやねぇ~? エリア11の有名な地震への対策を施されてる建物といえば政庁だけだからここにいたら、変な人たちが誰かを探していて、明らかにブリタニアの人間じゃなかったから隠れてたんだぁ~。」
「お二人だけですか?」
「他の皆さんは避難命令が出た時に行きましたから。」
「あれ? それならなんでセシルさんたちはまだここにいるの?」
「どうしてでしょうねぇ~?」
ニーナの問いにジト目になったセシルが、隣で笑っているロイドを見る。
「だってこんなに面白いことをナリタと違って身近な特等席で見られるんだよ?! 見ない理由がないじゃん!」
そしてロイドのあっけらかんとした返答に、思わずニーナたちは考えが止まる。
「ならば、オレの機体でここから離れましょう。 行先の宛はありますか?」
いち早く冷静さを取り戻したレドは、深読みすることを諦め、ロイドの言葉をスルーすることを選んだ。
その後、レドの安否が気になりスザクの許可を得てKMFに乗ったまま政庁に来たシュネーがロイドたちと出会い、一連の話を聞いたが、シュネーもまた、仲良く深く考えることを止めたそうだ。
…………
………
……
…
人によっては『第二次トウキョウ決戦』、あるいは『カントウ地震』とも呼ばれ始めた日から数日ほどが過ぎていた。
合衆国日本にエリア11が返還されると同時に、超合集国連合はブリタニア帝国との停戦協定を結んだ。これにより、世界は第二次世界大戦以来の大規模な戦局を免れ、経済や治安といった方面でも安定の兆しを見せ始めていた。
なお、『エリア11が返還される』と言っても、合集国日本の暫定首都は蓬莱島に留まっていた。
『少なくとも現エリア11内に移住や赴任、留学などで来ているブリタニア人たちや企業が、このまま日本に残るか、あるいはブリタニア帝国に戻るかの選択期限が切れるまでは。』
これは、皇帝から『任せる』と一言だけ返事を受けたコーネリア、および現総督のナナリーが、神楽耶たち超合集国側と交渉した結果だった。
「────それで相違ないでしょうか、ナナリー総督? コーネリア皇女殿下?」
「私も、問題は見当たりません。 コーネリアお姉さまは?」
「ああ、私も問題は見えない。」
会議室で神楽耶がブライユに変換された書類を手で触り確認するナナリーと目を通していたコーネリアが同意する。
「では、今から一か月後にエリア11────いや、日本を返していただきます。」
「……ふ。」
「何かおかしいか、タイゾウ殿?」
「いや、何……ワシは、このようなことを何度も夢に見てきたが、こんな風に事柄が運ぶとは思わなんだ。 それだけのことだ、コーネリア皇女よ。」
桐原はそう言いながら、会議室の窓の外を見渡す。復興や救助作業が続いているトウキョウ租界が広がっていた。
「8年……言葉にすれば、何とも短いことよ……」
「確かに。」
「一年でも、長いと感じることも……」
その場に居合わせたダールトンは、桐原のように窓の外を見つめながら頷き、ギルフォードは天井を見上げつつため息交じりに独り言をつぶやいた。
その時ダールトンは気がついた。
桐原が見ていたのは、町ではなく黒の騎士団の旗艦だったことに。
「(ん? この御仁……町ではなく、黒の騎士団の旗艦を見ている? 何故だ……いや、よく見れば……皇族用の飛空艇か? しかし、新たな特使が来るとの連絡は入っていなかった……)」
「では、これで私たちは失礼する。」
「私が言うのも少々変かもしれませんが……ナナリー総督も、良い手腕を披露していました。」
「ありがとうございます。 またいつか、平和な形で会いましょう。」
コーネリアはそう言いながら立ち上がり、ナナリーはニッコリと愛想の良い笑みを遠回しにほめてくれた神楽耶に向け、彼女たちは退室していった。
「桐原殿、どうでしたか?」
「うむ……立派に成長したの。」
「これでもゼロ様の新妻ですから♪」
「最後は少々、公になれば問題になるかもしれんがの。」
「私だって、弁えてはいるつもりでした。 それに好印象を残すのは大事です。」
「確かにの。 (さて、ルルーシュよ……どうでる? どう、皇帝を向かえ討つ?)」
「ナナリー、頑張ったな。」
「流石は姫様の妹、毅然としていましたな。」
「……」
「ナナリー?」
総督用の飛空艇に乗ったコーネリアとダールトンが話しかけるが、ナナリーはどこか複雑そうな顔をしていた。
「どうかしたのか────?」
「────コーネリアお姉さま、このまま少しだけ寄り道することをお許しください────」
「────え────?」
「────エニアグラム卿、進路を『星団』の方へ向けていただけますか?」
「あいよ!」
ナナリーに問われ、飛空艇の操縦席にギルフォードと共にいたノネットが元気よく返事をする
「「エ、エニアグラム卿────?!」」
「────ん? 何をそんなに驚いているんだいギルギルにコーちゃん? 私もあの艦には用事があるんだよ。」
「エニアグラム卿も?」
「まぁね。」
…………
………
……
…
「ちょいとお邪魔するよ!」
「……エニアグラム卿ですね、お待ちしておりました」
飛空艇がリア・ファルに着艦し、飛空艇を降りたノネットが元気よく声をかけると、迎えに来ていたマーヤが答える。
「うん? 待っていたのかい?」
「ええ、いずれここに来るだろうと我々は思っていました。」
「ふ~ん……」
「その声は……もしかして────」
「────ナナリー総督たちも一緒ですか。」
「(やっぱりマーヤさん!) はい、少しだけお世話になります。」
「お話は艦長たちから伺っております。 それと……」
マーヤはコーネリアの様子を伺い、苦笑いをしていたダールトン、そしてその二人を見つめるギルフォードに目を向ける。
「(そういえばギルフォードさんはユーフェミアのことを知らなかったのですね。) コーネリア皇女殿下の知人も応接室でお待ちしておりますが────」
「────そうかそれは良かったエニアグラム卿にはナナリーの護衛を頼んでいいだろうか────」
「────へ? 急にどうしたんだいコーネリア────?」
「────任せてもいいだろうか。」
「あ、うん、いいよ?」
突然の早口と威圧感に圧倒されながらも、ノネットは思わず承諾してしまう。
「(妹が妹なら、姉も姉ですね。) それで、私たちの艦にはどのようなご用件でしょうか?」
そのやり取りに唖然とするギルフォードを横目に、マーヤは内心微笑みながら『親切な迎え役』を続けた。
「実は、私が無理を言ってここに来たのは、お礼を言いたかったからです。」
「ナナリー総督自らがお礼を?」
「はい。 政庁から脱出する際、災害に巻き込まれそうだったところをこちらの艦に所属している方に救われたので、一言だけでも……」
「(なるほど、それで冴子から聞いた眼鏡の方が外されているということなのね。)」
なお、ローマイヤはグリンダ騎士団に保護されている。
マリーベル本人によってトウキョウ租界の詳細を聞き出されている最中で、『保護』なのか『身柄の確保』なのか『尋問』のいずれに当たるのかは怪しいところだが。
「そうですか。
「────だ、大丈夫なのですか?!」
ナナリーから発せられた思いもよらぬ強い声に、ビックリして力強く脈打つ心臓にマーヤは少し圧倒されていた。
「え、ええ。 安静にしていれば大丈夫ですが、医者たちの見立てでは、意識が戻っても驚くことはないと……」
「そ、そうですか……」
マーヤの声色を聞いて冷静になったのか、少々気まずくなりながらもナナリーは落ち着きを取り戻していく。
「(んー……やっぱり優しいね、ナナリー皇女殿下は。 でもマリーベルやコーネリアとは良い意味でバランスが取れているね。)」
「えっと……では、ご案内しますね? (ノネット・エニアグラム……まさかセントラルハレースタジアムの彼女がここに来るとは予想外だったけど……何かしら? 敵意は全く感じない……もしや神様が根回しを?! 流石です!)」
マーヤはどこかウキウキしながら艦内を見渡すノネットのことを不思議に思いつつも、彼女とナナリーの前を歩く。
『だぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁら! そんなんじゃ機体がすぐボロボロになるじゃない!』
『パーツごと取り換えれば済む話じゃないか!』
『パーツごと取り換えるなんてナンセンスだよ! 費用がバカみたいにかかるだけよ!』
『国から出るでしょ?!』
「「「……」」」
三人は遠くから聞こえてくる口論を無視しつつ歩き、やがて到着したのは
そう、『
「なんだいこりゃ?!」
「お花やお菓子の匂いがいっぱい……」
その部屋の前にノネットとナナリーが驚くほど大量のお見舞いの品が置かれていた。
「ええ、まぁ……彼に恩を感じている人が大勢いますので────」
────ガチャ。
「うお?! 部屋の中にまであるのかい……」
マーヤが扉を開けると、更に多くのお見舞いの品が部屋の中にあふれていた。
「ええ。 全て収まり切れなくて、外に急遽テーブルを持ってきました。 皆、彼が目を覚ますまで近くにいたい者たちばかりなのですが、さすがにそれはね……」
「う、うーん……そこまでかぁ~……少年がここまで慕われているなんて……こりゃちょいと難儀になりそうな気配だね……」
「(いったいどんな方なのでしょう?) あの、その方の手を取ってもよろしいでしょうか?」
「右手はケガをされてるので、左手でもよろしいかしら?」
「ええ……」
ソ……
「え?!」
ナナリーがスバルの左手を触ると、彼女は驚いた声を上げながら両手でもう一度確認するかのように添える。
「(やっぱり、スヴェンさん? でもこの手の感じ……古い怪我をされているようですが、本当にスヴェンさん???) エニアグラム卿、この方の様子はどうですか?」
「え?」
「率直な意見で構いません。」
「んー……結構な怪我をしているね。 両手足はギプスや包帯で巻かれているし、顔色も良くはないけれど、安定はしている。 けど多分、毛布の下はかなり酷いだろうね。 (それに総督の握っている手の傷……古い火傷の跡のようだけれどそれは口にしなくてもいいかな?)」
「そう……ですか……」
ナナリーは9年前の皇歴2009年に突然訪れた暗闇の中で、ただ一つの思いを
『一目でも見たい。』
ルルーシュと共に日本に送られた時よりも、
皇族の地位を失い、ルルーシュが必死に誤魔化そうとした時よりも、
日本が攻められた時よりも、
アッシュフォード学園に転校してきたスザクと再会した時よりも、
ユーフェミアやライラと再会した時よりも、
『しっかりと一目でも見て礼を言いたい』と思いながらナナリーはこれまでになく必死に願い、その思いを保っていた。
スヴェンはおそらく、学園祭でナナリーが頼んだことを律儀に守ったか、あるいはその結果としてこのような状況に陥っている。
だからこそ、他人のためにここまで自分の身を挺して助けてくれた恩人に対して
『見たい、
『
カチッ。
その瞬間、何かが外れるかのように────
「ぁ……ぇ?」
────数年ぶりに彼女の視界を覆う暗闇に光が差し込み、ナナリーは息を飲んだ。
それは、目が開いたことによる感動でも驚きでもなかった。
ナナリーの見ていた先には、物音で目を覚ました
「そ……んな……」
そして彼と目が合っていた。
「なん、で?」
ナナリーはコードギアスの世界でも珍しい、銀髪赤目のスバルを前に驚愕していた。
「どうして……
「………………」
寝ぼけたままスバルはぼそぼそと何かを呟くが、その声は普通の人には聞こえないほど小さかった。それでも、目が見えなかったことで発達したナナリーの聴覚には、その声がしっかりと届いていた。
『助けられて、よかった。』
たったそれだけの言葉だが、
「~~~~!」
『醜態を晒してはいけない』と思っていても、齢15歳の少女である。
精神的にも気丈にも振る舞っていても人生経験があまりにも不足していた。
瞼を開いていた彼女の涙腺は緩み、目頭が熱くなり、涙が次第に頬を伝って流れ出す。
「ふ……くっ……う、うぅぅぅぅ……」
ナナリーが抑えようとした感情が次第に湧き上がり、うめき声のような泣き声が震えながら彼女から漏れ出した。
「え?!」
「ちょ、ちょっとどうしたんだい────?!」
「────ごめんなさい!」
ナナリーが発したのは、予想外の『