小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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励ましの言葉、誠にありがとうございます。
皆様のおかげで再び前向きな気持ちで取り組むことができます。

そしてまたも少々長めの次話です。
ありがとうございます。


第289話 嵐の前の静けさ

 リア・ファルと大グリンダ騎士団に続き、イカルガまでもがトウキョウ租界の上空から去ったことに気がついたのは、ようやく救助と復興作業の合間に休憩に入った者たち、あるいは日本奪還の興奮と熱気から目を離した者たちだった。

 

 ガチャ!

 

「神楽耶様に桐原殿、失礼する。」

 

「(ノックもせずに?!)」

 

 その中に含まれたのは藤堂(と気が付いた彼につられて千葉)で、律儀で仏頂面な彼にしては珍しいほど慌てていた。付き添っていた千葉は内心驚いていた。

 

 彼らはブリタニア帝国の政庁だった建物の最上階に位置する事務室に入り、中で黙々と作業していた二人に藤堂が声をかけた。

 

「どうされましたか、藤堂将軍?」

 

「お二人はゼロから何か聞いておられますか?」

 

「いいや? ワシらは何も聞いておらん。」

 

「つまりこれって()()『ゼロの独断』ってことですか?」

 

「……なるほど。」

 

 少々とげのある千葉の言葉とは反対に、藤堂は疑問が腑に落ちたような独り言をつぶやく。

 

「どういうことですか、中佐────?」

「────やはり若いの、千葉凪沙。」

 

「……どういう意味ですか?」

 

 微笑を浮かべた桐原にフルネームで呼ばれ、千葉はむっとしながらも冷静に桐原の言葉の真意を問う。

 

「恐らくですが、ゼロ様が伏せた理由は()()()()()()でしょう。」

 

「??? 神楽耶様、それは────」

「────私たちはようやく『日本奪還』という夢を現実にしたばかりです。 もしも超合集国連合に所属する者たちが、現在のブリタニアへの干渉とも捉えられる行動を起こせばどうなるでしょうか? 最悪、『内政干渉』と見なされる可能性があるでしょう。 それでなくとも『黒の騎士団』は今までの行動から超合集国連合からはあまり良くは見られていませんし。」

 

「ですが、ゼロとイカルガが動いたことに変わりはありませんが……」

 

「ゼロ様のことですから、何も言わずに実質彼専用の航空浮遊艦であるイカルガだけを使い、距離を置くことであえて我々合衆国日本への風当たりを防ごうとしているのでしょう。 これならば、先ほど千葉様もおっしゃったように『ゼロの独断』で片付きます。」

 

「……一つ聞いても良いでしょうか、神楽耶様? なぜあなたはそこまでゼロを信じ切れるのですか? もしや、素顔や正体を彼はあなたに────?」

「────いいえ、晒していませんわ。」

 

 千葉の頭上にさらなるハテナマークが浮かんだ。

 

「でしたらなおさら────」

「────ゼロ様は嘘もつきますし、仮面の裏にいるというのに平然と行動しています。 しかし、この数か月間共にいる中で、彼が意外と不器用で情に厚い方だということは理解しました。」

 

「ゼロが……『不器用』で……『情に厚い』???」

 

 宇宙猫ならぬ疑心暗鬼な猫の千葉が出来上がった瞬間である。

 

「ええ。 ブラックリベリオンで、彼が何を言い残して戦場から消えたかを覚えていますか?」

 

「そ、それは……」

 

 

『命に代えても、やらねばならない事が出来たのだ!』

 

 

 千葉を含めてその場にいた全員が思い出すのは、慌てた声で通信にそう叫んだゼロの姿だった。

 さらに神楽耶は、落ち着いた様子で事務作業をしながら冷静に続ける。

 

「ですから、それらを考慮したうえでゼロ様の言動を……今まで彼が成してきたこと、どのようにそれらを成したかを振り返れば、今回の行動にも説明がつきます。 そして恐らく、我々や藤堂将軍、シンクー様たちにも声をかけていないところを見ると、ブラックリベリオン以上のことに対処しようとしているのは明らかです。 ならば、夫の帰りを待つ間に帰る場所を整えるのは、良き妻として当然でしょう?」

 

「(子供っぽい振る舞いが時折見られるが、この落ち着いた雰囲気、強い瞳と毅然とした態度……あのお転婆だった皇の娘が、ここまで成長するとはのう。 人生、長く生きてみるものじゃの。) ホッホッホッホ。」

 

 桐原が珍しく他人の前で『お爺ちゃん』をして感慨に浸っている間、神楽耶は窓の外に広がる租界でちらほらと見える復興に携わる超合集国連合軍の景色を見ていた。

 

「(超合集国のマスコッ────コホン。 いえ、『顔』とも言える立場になったゼロ様の隣に立つ私を、あの小生意気な『裏山の鬼』が見たらどんな気分でしょうね♪ ウフフフフ♪)」

 

 ここでウキウキ気分の神楽耶は、懐に忍ばせている御手製の『ゼロ様人形(掌サイズ&デフォルメ化)』にそっと手を置く。

 

 

 追記するが、毒島が『おはぎちゃん』と称するどう見ても腐りかけでふわふわと毛が生えているよもぎ餅を見て『キュピーン』と謎のインスピレーション(青い新人類の閃き)に神楽耶が感化されたわけではない。

 

「(ですからゼロ様、私に“お帰りなさい”と絶対に言わせてくださいね?)」

 

 あくまで『少しだけ寂しいから』という、年相応の気持ち()含まれているのだ。

 

「ところで中佐に────いえ、藤堂鏡志朗にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか────?」

 「────うっ。」

 

 ちなみに、この様子の神楽耶と神楽耶の言葉に、藤堂に災いが飛び火し、神楽耶たちは盛り上が()ったそうな。

 

『ダブルミーニングに草ww』?

 

『今まで苦労した者たちが因果応報的に労われた』という『美談』として見れば、そう悪くはない話である。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「おい! 誰がコックピット周りの装甲を勝手に替えたんだ?!」

「出撃が見込まれるKMFの整備を優先しろって指示があったからだ!」

「だからって勝手にパーツを動かすなよ!」

 

 太平洋の上を移動していたイカルガの格納庫内は混沌としていた。

 

「うへぇ……大変だなぁ~。」

 

 その様子を格納庫の端にいたベニオは紅鬼灯の肩から足をぶらぶらさせながら栄養ドリンクを飲んでいた。

 

「ベニオも他人事みたいに言わないで! あなたも『出撃するかもしれない組』でしょう?!」

 

「でもでも、サヴィトリもこうやって話しかけているってことは、一段落ついたってことだよね?」

 

「……それはその通りなんだけれど……ベニオはゼロから今回の移動について何か聞いている?」

 

「ううん、何もー。」

 

「ならばなおさら変ね……」

 

「何が?」

 

「イカルガだけが移動していて、ここにいるほとんどがゼロ直属の零番隊……まるで『勝手にしています』って超合集国連合に言っているようなものだわ。」

 

「ほぁ~……でもゼロのことだから、きっと何かあるんだよ! 天子様のときや中華連邦の砂漠のときみたいに!」

 

「……確かに。」

 

「ね! だから今回もきっと何かがあるんだよ!」

 

「ベニオにしては説得力があるわね。」

 

「ええええええええ?! 私を何だと思っているの?!」

 

「……」

 

 プイ。

 

「さてと、予備の輻射波動────」

「────おいこら、ちょっと待てやこっち見んかいサビ子────」

 「────『サビ子』なんて変なあだ名を付けないでくれるかしら?! 定着したらどうするのよ?!」

 

 これ以上言うまでもなく、本人のおかげで『サビ子』が一部の人間の間で定着したと記入する。

 

 そしてお決まりのように「サヴィトリよ!」が返ってくるコントに、元凶のベニオはほっこりするそうな。

 

 ……

 …

 

「ゼロ、この急な移動……超合集国側から見て『独断』と言われかねません。なぜ他の者に黙ってこのようなことをしたのですか?」

 

 混沌としていたのは格納庫だけでなく、出発してからずっと静かだったブリッジでディートハルトがようやく問いをゼロに投げ、扇や日向、双葉、水無瀬(一二三オペレーターズ)などの注目がすべてゼロへと集中する。

 

「『なぜ』、か……良いだろう。 今もなお、私の指示に従ってくれているのだ。 君たちには知る権利がある。実は、日本の返還に私は違和感……疑問を持っている。」

 

 「違和感?」

 「っていうか疑問?」

 「つまりは『勘』ってことだよね?」

 

「どういうことか、他のみんなにもわかるように説明してくれないか、ゼロ?」

 

「うむ。 無論、私なりにこの行動に出る動機なるものもある。」

 

 オペレーターたちのヒソヒソ話を耳にした扇の質問にゼロは答え、彼はメインモニター越しに前方のグランベリーとネッサローズに大グリンダ騎士団の艦隊を見る。

 

「『ブリタニアの皇帝が特使として来た』。 それだけでもインパクトがあるのに、日本の返還を平然と了承したこともブリタニアの狙い……『目くらまし』だ。」

 

「「「「え。」」」」

 

「目くらまし?」

 

 扇たちは驚愕し、ディートハルトは目を細めた。

 

「そうだ。 あまりにも高度で見事なミスディレクション(意識の誘導)で、私も危うく見落とすところだった。 恐らく、日本の返還はブリタニア……皇帝にとって問題がないと思わせる、何らかの根拠や自信があるのだろう。」

 

「しかし、それも貴方の仮説────」

「────確かにここまでは仮説……シンクタンクが出すような単なる机上の空論に過ぎない。 だが決め手となったのが、以前中華連邦でブリタニアの研究機関から強奪した資料、そしてアマルガムとマリーベル皇女からの情報提供だった。 扇、ブリッジの端末にこの通り操作してくれ。」

 

 そう言ってゼロがメモ用紙を扇に渡すと、扇が指示どおり端末を操作していくと、けたたましい電子音がスピーカーから鳴り『パスコードの入力待ち』という表示が出てくる。

 

「これはイカルガのメインフレームにある、私専用の極秘フォルダだ。 パスコードは7192353(せいぎのみかた)だ。」

 

「い、良いのかゼロ?」

 

「構わない。 黒の騎士団の総務総長……いや、初めから私に協力してきた扇ならば構わないと思っている。」

 

「はぁ……」

 

 扇は少し照れながらも端末を操作していくと、徐々に彼の表情は怪訝なものに変わっていく。

 

「な、なぁゼロ? これって映画……ドッキリとかじゃないよな?」

 

「フッ。 私もそう思いたいからこそ、こうして確認のために動いている。」

 

「他のみんなにも見せていいのか?」

 

「ああ。」

 

「扇、いいですか?」

 

「あ、ああ。」

 

 扇が端末をディートハルトに渡すと、ディートハルトは書類のコピーや画像を見て表情が険しくなっていく。

 

「ゼロ、これが単なるガセネタではないという保証は?」

 

「……“去年のブラックリベリオンで私がトウキョウ租界から離れた理由に関係している”、と言えば信じるかね?」

 

 ゼロの言葉にブリッジ全体にどよめきが走る。

 

 無論、これはギルフォードに扇たちが公開処刑されるところを救出された同日に黒の騎士団の面々が抱いた疑問に対する、ゼロからの初めての明確な返答だった。

 

「もしやガウェインが太平洋に沈んでいたことと繋がっていたのですか?」

 

「そうだ。」

 

 「『ガウェイン』って何?」

 「ほら、ゼロの専用機。」

 「蜃気楼じゃないの?」

 「蜃気楼の前に騎乗していたやつ。 ブリタニアから最新技術が詰め込まれたKMFで、イカルガに乗せているハドロン砲もそれ由来だよ。」

 「あああ! なんかサルベージするときに敵と心中するような形で見つかった巨大KMFね!」

 「ふぇ~……じゃあ別のところでゼロは激戦をしていたってこと?」

 「なんだか、らしくないけれど……」

 「でも確かにこんな非現実的な敵を相手にしていたら話しにくいよねぇ~。」

 「それに指揮官なのにいつも戦場に出てバンバン戦っているし……」

 「そうやって考えると『らしい』けれど……」

 

 オペレーターの日向、双葉、水無瀬はお互いに話し合いながら、渡された端末の映像を再生していた。

 

 映像はKMFのメインカメラ視点らしく、そこには通常攻撃を受けても破損した箇所が逆再生のように自己修復しながら襲い掛かる黒いサザーランドたちが映っていた。

 

 さらに別の映像ファイルを開くと、今度はKMFではなく『人型の何か』が洞窟らしき場所でKMFと激戦を繰り広げている様子が映し出された。

 

 どちらの映像もブラックリベリオンで毒島たちが遭遇した黒いサザーランド、そしてエデンバイタル教団でアマルガムが遭遇した怪物に関する映像を使ったものである。

 

 それぞれはブラックリベリオンで毒島たちが遭遇した黒いサザーランドと、エデンバイタル教団でアマルガムが遭遇した怪物だった。

 

「(さて……人に嘘を真実として信じ込ませるには、およそ30の手段があるが、より信憑性を高めるには『信じたくなる要素』に真実と嘘を織り交ぜるのが一番だ……まさか今も苦々しい記憶(ジュリアス)がこうも役立つとはな……)」

 

 無論、ゼロがブリッジの皆に話したことと見せた映像は完全な真実ではなく、イカルガを独断で動かすための合成映像……つまり、一種の『プロパガンダ』である。

 

 なぜならば彼が狙っているのは()()()()によって得られる大義名分。

 

 さらにゼロがこの行動に出たのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という自信を得たからである。

 

「(さて、ダメ押しもするか。) 以前から噂になっている中華連邦での作戦について何人かは耳にしていると思うが……概ねは事実だ。ブリタニアは非人道的な人体実験で、死なない兵士の製造を目論んでいた……さらに質が悪いことに、()()()()()()()()()()()でだ。」

 

「「「『自我が抜き取られた状態』?」」」

 

「文字通り、与えられた命令を忠実に遂行するために不要な恐怖心、焦り、怒りや悲しみといった自己保持回路のない、機械のような兵士……それを製造する目途が立つ前に私は零番隊と未調整のイカルガを動員し、独自に潰した……いや、()()()()()()()()()のだ。 もし目途がついていたとすれば、日本の返還がこうも容易に進んだことの説明がつく。」

 

「「「「「……」」」」」

 

 ブリッジにいた皆はゼロの言葉に、某ゾンビ映画の光景を思い浮かべた。

 テンプレ通りならば撃退には頭部、特に脳を狙って破壊する必要があるが、実際にリアルで対峙すれば、通常の軍人では恐怖やストレスで的確な狙いはつけにくい。

 

 KMFを使えば対処に問題はないが、もし敵がリビングデッドのような兵士で同様のKMFで襲ってくるのであれば話は別である。

 

「まぁ……それだけではないかもしれんがな。」

 

「どういう意味です、ゼロ?」

 

「……信じがたいが、別のルートから得た情報がある。トウキョウ租界を襲ったのは、単なる自動システムなどではなく、()()()()()()らしいのだ。」

 

「「「「「『うごくきょだいようさい。』」」」」」

 

「(皆の反応も無理はない。俺も、スヴェンから聞いてマリーベルがその可能性を肯定していなければ『ありえない』と思っていただろう。 ……まったく、スヴェンの情報源は底知れないな。 過去の事例を考えれば、何ら不自然ではないが……)」

 

 そこまで考えると、ルルーシュは『ゼロ』だというのに思わずその場で身震いをした。

 

「(しかし、さすがに睡眠時間を毎日たった三時間に絞り込むのは正気の沙汰ではない。 睡眠不足は健康、思考能力、集中力など、さまざまな面で悪影響を及ぼす。 頭を使う者にとっては天敵とでもいえる。 マリーベルですら総督就任後、眼鏡をし始めたほどだ……一体スヴェン(スバル)はいつ睡眠をとっているのだろう?)」

 

 思考を早めに切り替えるため、咲世子の無茶なスケジュール(108人とのデートのトラウマ)を頭の端に追いやったルルーシュの考えを、もしスバルが聞いていれば、『チート(原作知識)と周りの人たちにかなり助けられています』とツッコミを入れていた……かもしれない。

 

「ゼロ、ブリタニア帝国の────あ。 マリーベル皇女の艦隊の半数が東に進路を転換しました!」

 

「イカルガの進路はそのままでいい。 我々はあくまでもブリタニアに関する情報が正しいかどうかを確認するため同行している。 (まぁ、火の粉は振り払わねばならんがな。)」

 

 そう言いつつ、ゼロは東の海面上のイメージを思い浮かべていた。

 

『ブリタニアの浮遊航空艦の艦隊同士がぶつかり合っている』という奇妙な光景を。

 

「(このタイミングならちょうどカリーヌと彼女の騎士ダスコの艦隊が、コーネリアかマリーベルあたりの助言で皇帝派の戦力を各個撃破しているだろう……フッ、シュナイゼルに次いで俺が最も警戒した二人だ。 いや、()()()()が正しいか……『母さん(マリアンヌ)が生きているかもしれない』という情報に二人はどう反応するのだろうか?) ハァ……」

 

 ルルーシュはスバルから聞いた『マリアンヌはギアスのおかげで生きている可能性がある』という一言を思い出し、自分が今『ゼロ』であることを忘れてため息をついた。

 

「(いや、切り替えろ。奴がそのことを今言ってくれたおかげで、心構えができた……と考えることにしよう。)」

 

 

 ……

 …

 

 ガァン! ガァン! ガァン

 ジジジジジジジジジジジ!

 

 リア・ファルの格納庫内は、イカルガに負けず劣らずの騒々しさと激しい音に満たされていた。

 

 整備に励む者たちは、雑音を遮る耳栓やイヤーマフを付けて作業していた。

 

 「だーかーら! 無理だって言ってんでしょ、このプリン! 紅蓮タイプでのデータは山ほど揃ってんだから!」

 

 そんな中、ラクシャータとロイドは激しく口論を続け、二人をどうにか引き離そうとするマリエルとセシルの姿もあった。

 

 「ヴィンセントとか似たKMFの騎乗経験からランスロットタイプならいけるし紅蓮タイプのパーツがないんじゃ元も子もないじゃん!」

 「だからって今更過ぎんでしょうが!」

 「「二人とも落ち着いて!」」

 「「マリエルちゃん/セシル君はどっちの味方なんだい?!」」

 

「「えええええええ。」」

 

 マリエルとセシルがその場を何とか和らげようとしていると、微妙な表情を浮かべたアンナとウィルバーが格納庫の端にある休憩室からやってくる。

 

 「「どうだった?!」」

 

 ウィルバーとアンナが視界に入るとラクシャータとロイドが同時に口を開け、その声の大きさに周囲は少し驚き、彼らの存在感を再確認する。

 

「「「「「(うるさ!)」」」」」

 

 ただし、周りが急遽KMFの整備をしていてピリピリとした空気に当てられ、誰もラクシャータたちの様子にツッコミを入れなかったが。

 

 ムスッ。

 

 精々が若干一名(セシル)だけ、面白くない顔をしただけである。

 

「あー、まずは私からだ。」

 

 いつものスーツに白衣ではなく、作業用ツナギを身に着けていたウィルバーの言葉にラクシャータとロイドの注目が集中する。

 

「一通り話を聞いてきたが……未調整だったヴィンセントのデータ等を黒いランスロットに導入し、エナジーウィングも付け足す────」

 「────いやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ボクの勝利~~~!!!♪♪♪ アッハッハァァァァァァ!!!」

 

 感無量が明らかになるロイドは対照的に穴の開けられた風船のように覇気がしぼんでいくラクシャータの周りをくるくる回りながらバカにする踊り(?)を繰り出し始め、今度はアンナが喋り出す。

 

「それとそのランスロットですが、骨格はビルキースと同じアレクサンダタイプに変え、武装は蒼天の輻射波動機構とハドロン(ビー〇)サーベル、追尾式ミサイルや浮遊式ゲフィオンネット等のポッド、ミスリル(T〇S)装甲とその下はサクラダイト繊維を使ったマッスルファイバー、使い捨てのバズーカ砲、前腕に火薬式の補助火器、サブアーム、予備の噴射機やブースターなどを始めに────」

「────は()?」

 

 今度はアンナの言ったことにロイドが固まり、眼鏡がずり落ちていき口をポカンと開けた。

 

 「アッハッハ! 機体がランスロットでもこれだけ追加されちゃ、完全に別物だねぇ?! ざまぁないわね、プ・リ・ン?」

 

 クケェェェェェェェェ!」

 

 

 


 

 

 ロイドが奇声を上げている中、ウィルバーとアンナの二人が戻ってきた休憩所は、もはや『作業室』と呼ぶ方がふさわしい阿鼻叫喚な状況だった。

 机や椅子以外の家具はすべてコンピュータ機器に置き換えられ、無数のケーブルが蜘蛛の巣のように広がっていた。

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタ。

 

 中でユキヤともう一人、首や額や腕などに包帯を巻いた(スバル)がキーボード操作を続ける音だけが響いていた。

 

「シュバールさーん、KMF設定って本当にコレで良いの?」

 

「ああ。」

 

「でもこれ、あの英雄皇女サマからもらったやばい機動のヤツだよ?」

 

「ああ。」

 

 キリキリキリ。

 

 う……腹が……

 

 それでも、貴重な戦闘データを使わないという手はないな。

 

 確か『オズ』で接近戦────特にスラッシュハーケンを使った戦闘はオルドリンよりマリーベルが上だったからスラッシュハーケンはマリーベルのデータを適応させよう。

 剣を使うのならオルドリンやオイアグロか……射撃は今までさんざんスナイパーやロングレンジ役を務めていたが、万が一の為にサンチアのも入れるか────

 

「────けどさ……本当に使い物になるの、この制御ソフト? すごく複雑でちぐはぐだよ?」

 

「俺の力量しだいで何とかさせる。」

 

「へいへーい……」

 

 というか何とかさせないと、ダモクレス攻略の難易度が跳ね上がる。

 

 ダモクレスには少数精鋭(カレンとスザク)を向かわせるつもりだが、ラウンズが黙って見過ごすわけがない。

 

 必ず追撃をしてくる。

 

 だから誰かが相手をしなければならない。

 

 特にビスマルクは危険だ。 あいつは確か、『先見』のギアスがあるから文字通りに『未来で取る行動が丸見え』で十分なカウンターになる。

 

 ……俺、相手として務まるかな?

 俺の特典、先の第二トウキョウ決戦で殆ど使ったと思うからな、もし対決すれば殆ど勝てる気がしない。

 

 ま、()()()()()()()けどな。

 

「ねぇ、シュバールさん?」

 

「なんだ、ユキヤ?」

 

「二人きりだから言うけどさ……」

 

 カタカタカタカタ、カタカタ……カタ……カタ……

 

 え?

 なんだこのいかにも告白フラグっぽい状況は?

 確かにユキヤは女っぽいし、オバタリアンズに女装させられてたけど俺はノーマルだし、そんな趣味はねぇぞ?

 

 ノーマルだぞ。

 

 大事なことだから二回言ったぞ。

 

 そこ、『シュゼットはノリノリなくせに?www』とか言うなよ。

 アレはあれだ、あれ。 『役』というか『仮面に入り過ぎた』だけだ。

 

 あと、周りの反応が面白いのであくまでついでだからな?

 本当だからな?

 

 フリじゃないぞ。

 

「シュバールさんなら多分、大丈夫だけどさ? 今までやってきたことでシュバールさんが支えになっている人たちがいるんだよ?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。」

 

 なるほど、ユキヤにとっては俺もリョウやアヤノと同じ『家族認定』なのか。

 

 でもユキヤって、『お前も自分も皆爆破だヒャッハー!』的なサイコパス爆弾魔だからなぁ……

 そう言われると複雑。

 

「だからちゃんと帰ってきてよ? じゃないと困る人がいっぱいいるんだからさ。」

 

 いやマジで何だこのヒロインフラグ?

 

 ……近くに薔薇の飾った花壇とか苗とかないだろうな。

 

 ガチャ。

 

「スバル~、差し入れ────」

 「────よく来てくれたカレン────」

「────え? あ、うん……うん?」

 

 フー、危ない危ない。

 危うく野郎(ユキヤ)と密室でヒロインフラグが立ちそうだった。

 

 断固として拒否するがな!

 

「どこに置けばいい?」

 

 匂いからしてサンドイッチと……コーヒーか?

 

「今貰うからテーブルの上で良い。」

 

 カレンは手に持っていた籠をテーブルに置き、一息ついてから俺に向かって真剣な表情を向けてきた。

 

「……ねぇスバル?」

 

「なんだ?」

 

「ゼロから聞いたんだけれど、今から戦地に行くんだよね?」

 

「黒の騎士団はあくまで付き添いだぞ? それに、俺たちアマルガムは傭兵団という体だ────」

「────スバルたちがこんなに忙しいのに?」

 

 おうふ。 本当にこの子の勘は鋭いネ。

 

「まぁ……戦いになる可能性は高いな。」

 

「……ねぇ、私もリア・ファルにいた方がいい? 紅蓮みたいな機体もあるし、応用が利くと思う。」

 

「カレンはそれでいいのか?」

 

 ルルーシュと離れるのに?

 

「所属は零番隊だろ?」

 

「ベニオがいるし、そんなことを言ったらスバルだって黒の騎士団の整備士じゃん。」

 

 ごもっともなことを言ってきたよこの子。

 

「井上さんたちも“いつ来るのかなぁ~”って愚痴っていたよ?」

 

 ……そう言えば今考えると、井上さんたち後方支援組も実質モブだな。

 ちょっと年上だけれど面倒見もいいし、性格も(酒さえ飲まなければ)比較的に大人しい方だし────

 

 「────スバルは今何を考えているの?」

 

「別に?」

 

「ふーん……」

 

 いや、これ完全に『勘』以上の『赤いキュピーン的なサムシング』じゃないの?

 

「……ハァ~、スバルの暗躍は今に始まったことじゃないけれどさ────」

 

『暗躍』じゃないゾ。

『保険』と言ってくれたまえ。

 

「────もうちょっと言葉にした方がいいと思うよ?」

 

 ……それもそうか。

 よし。

 

「ありがとう、カレンはいつもそうやって言葉をくれるな?」

 

 「ミ゛?!」

 

「ん?」

 

 今クソ猫アーサーが踏みつぶされた様な、変な音がしたような────

 

「────じゃ、じゃあ! 私! もう! 行く、から!」

 

「あ、ああ?」

 

 どこか挙動不審になったカレンがギクシャクと少し前に前世で流行ったロボットダンス見たいな動きで出ていくのを見送る。

 

「……」

 

「ん?」

 

 あ、割とレアな本気のジト目ユキヤが草むらから出てきたぞい。

 

「どうしたユキヤ?」

 

「もしかしたらと思っていたけれどシュバールさんってさぁ……無意識?」

 

「何がだ?」

 

「うっわ、ご愁傷様だぁ~。」

 

 誰がだ。

 

 

 


 

 

 カレンはぎこちない動きで甲板に出ると胸に手を当て、徐々に足から力が抜けていく。

 

「(くあああああああああああああ! さっき! さっき胸がぎゅうううううううって、なった! 心臓もバクバクしててまるで破裂寸前どうしたらいいのぉぉぉぉぉぉぉこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!)」

 

 膝をついたカレンは手すりに寄りかかり、海の匂いを吸い込みながら複雑な表情で海を見つめる。

 

「ハァァァァァァ…… (扇さんたちには悪いけれど、やっぱり無理やりにでもこっちに付いてスバルが無理しないように……ううん、それじゃあ距離を取られて逆効果になりかねない……でももし、今度の戦いを早く終わらせることが出来て、平和になったら……やっとスバルに言えるかな?)」

 

 

 

 それから数時間後、準備が整った。

 

『マリーベル皇女殿下、前方からレーダー外の反応出ました!』

『総員、出撃! 星団にも通達────!』

『────こちら星団、こちらも敵影らしきものをキャッチしました。』

 

「スゥー……ハァー……」

 

 グランベリー、そしてネッサローズからそれぞれKMFが出撃していく様子を、リア・ファル(星団)内部から久しぶりのコックピット内でマーヤが深呼吸しながら操縦桿を握る。

 

「こちらマーヤ、蒼天・アレンジ。 発進します。」

 

 そう彼女が言うと、赤く点滅していたライトが緑色に変わり、スバルの蒼天をより戦闘機寄りにしたデザインのKMFが加速し、戦闘機形態に形を変える。

 

「では行ってくる。」

 

『ハイ。 サエコもご武運を。』

 

「ああ。 94式『不知火』、出る!」

 

 毒島の機体────以前に騎乗していた機体をスバルが使った時のデータをもとに、近距離・遠距離を共に重武装化し、内外骨格の強度と駆動系の強化をコンセプトに開発された94式『不知火』もリア・ファルから発進し、待っていたかのようなマーヤ機の上に乗る。

 

『よろしく頼む、マーヤ。』

『ええ、任せて。 久しぶりだけれど、彼のように何とかするわ。』

 

 そんな中、追加された武装を少々怪訝そうな表情で見ていたアンジュがいた。

 

「ビルキースのハドロンサーベル……エナジー消費が激しいんでしょ、アンナ?」

 

『ロイドさんたちが加わったことでかなり効率化できましたので、常時展開していなければ大丈夫のはずですよ?』

 

「その常時展開ってのが……まぁ、いっか。 どうにか根性で使いこなして見せるわ!!」

 

『根性ってそんな非科学的な────』

 

 アンジュは聞こえてくるロイドの声を無視し、戦闘機形態のビルキースを発進させる。次々とリア・ファルからKMFが出撃し、それぞれが戦闘機形態になっていた機体の背中に乗って上昇していく。

 

『緊張していないダルク?』

『でもダルクが高所恐怖症だなんて意外~!』

『無理そうならばお留守番して良いですわよ?』

 『でででででででできらぁぁぁぁ!』

『ていうかダルク、スルト攻略時にウィルバーさんといたじゃん。』

 『あの時は機体を連結したまま出たし、データも送ってもらっていたし、短い時間だったし!』

『『『『ふーん。』』』』

 

『いや本当にシュバールって野郎の周りは面白れぇ! そう思わねぇかお前ら?!』

『隊長だけですよ……』

『こっちは付いて行くだけでも大変です。』

『まぁ……非日常的なスリルという意味では同感ですけどね。』

『『『『フランツ!』』』』

『よぉぉぉぉぉし! ならフランツは一番槍な!』

 『なんで?!』

 

『……』

『怖いかアヤノ?』

『え? ううん……その、実感が……』

『怖くなったらいつでも声をかけてくれ。』

『へ?』

『とっておきのダジャレを────』

 『────それは一番いらない奴だから!』

『おーおーおーおー! おアツいことだなお前ら!』

『黒の騎士団の怖~い女の人(千葉)からお赤飯の作り方習ったよ?』

『リョウもユキヤもうっさい!』

 

『ランスロット、起動します。』

『ハッチの開放角度、良好よ。 アヴァロンとは違うけれど、概ねデザインはそこまで変わらないわ、私もオぺレーターとして問題なくモニターできるわ。』

『そうですか。』

『それよりもエナジーウィングのマニュアルは?』

『予習しましたし、先の戦いでコツは大体掴めたと思います。』

『スザク……』

『なんだい、ユフィ?』

『は?』

『無理はせず、帰ってきてくださいね?』

『勿論だよ。 僕には……俺には理由があるからね。 だからユフィも待っていてくれ、必ずあの日の続きを……』

『ハイ……必ず。』

『あの……ユフィって? それにスザク君とは────?』

『────ランスロット・リベレーター、発艦します!』

 

 そして────

 

『────新しい機体の感じはどうですか、シュバールさん?』

 

「ああ、良好だ。 (さっきのアキトとアヤノのやり取り、まるでカップルだったな……いや、兄弟喧嘩か?)」

 

 最後に出てきたのは腕部、脚部、背部などパッと見える範囲だけでも明らかに限界ぎりぎりで武装を追加されたランスロット・リベレーター……をよりワンサイズどころかガウェインサイズまで大きくしたようなゴツく、まるで無秩序、あるいは考え無しにただ装備を付け足されているようだが、絶妙なバランスの上で成り立っているKMFだった。

 

『……無理はしないでください、シュバールさん。 私もそろそろ準備ができ────』

『────機体名はやっぱり蒼天・改よね────?!』

『────それともランスロット・アル────?!』

 ムスッ。

「────分かった、レイラの機体は俺が運ぶ。 だから安心して来てくれ。」

 

 レイラの通信に横から割り込んできたラクシャータとロイドの言葉をスバルは無視し、最終チェックを終えてから操縦桿を操作していく。

 

「……殆ど俺の我儘で戦地に向かうのに、『安心してくれ』だなんてお門違いだが────」

『────いいえ。シュバールさんがここまで危惧している時点で事態が“個人の我儘”を超えていることは理解していますのでお気になさらず。』

 

「そうか。 (やっぱりレイラは優秀だな……本当にスカウトして良かった。)」

 

 スバルは深呼吸し、緊張した体をリラックスさせようと試みる。

 

 気休め程度だが、固まっていた体から少し力が抜けていくのを感じた彼は、そのまま目を開け、網膜投影システム越しに広がる空と、殆ど自分の頼みで出撃した者たちの背中を見つめる。

 

「BRSによるマンマシンインターフェースの確立を確認……初期起動フェイズ1から20、完了。始動する。」

 

『エナジーフィラーの装着……はいらないんだよねぇ~? 帰ってきたらもっと弄らせてねぇん? あ、もちろんKMFのことだからね? だからみんなそんな怖い目でボクを見ないでね~?』

 

「ステータスはグリーン……アロンダイト、発進する。」

 

 スバルのKMF────『アロンダイト』がリア・ファル内から緩やかに飛び出すと、後から発艦したアレクサンダType-02に似た機体がその背中に取り付く。

 

『お待たせしました、シュバールさん。 リア・ファルはウィルバー博士に任せました。』

 

『そうか。 アレクサンダType-03Lはどうだ?』

 

『シミュレーション上は大丈夫です。』

 

『土壇場で使用することになって悪いな。』

 

『いいえ、シュバールさんこそ。』

 

 

 かくして整った舞台へと役者は全員登っていき、幕が上がった。




誤字の報告をしていただき、ありがとうございます。

睡魔と体内時計が安定しないリアルetcと戦いながら空いた時間内に執筆しているので大変お世話になっております。

次話で対決の予定です。

描写や表現が伝わるか心配ですが、頑張ります。(´・ω・`; )


余談:
アレクサンダType-03Lの『L』はシステムの『L』…… |・ω・`)コッショリ


余談2:
今話を書きながら聞いていたサントラは某7の『Daredevil』でした。
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