「うりゃあああああああ!!!」
空中を飛んでいたアンジュは掛け声と共にビルキースを戦闘機形態からKMFに変えつつ、ビームハドロンライフルをジノの機体へと撃つ。
すると彼のトリスタンもビルキースに対応するかのように、フォートレスモードのままハドロンライフルのビームを回避しつつ接近しながら、KMFモードへと空中で変形し、ハーケンタイプのMVSで斬りかかる。
バチバチバチ!!!
ビルキースが腰から抜き出した、元アレクサンダ02用の日本刀状大型ブレードと、トリスタンの攻撃が衝突し、火花が周囲に散る。
『えええい、しつこいわね!』
『ッ?! その声、まさかアンジュリーゼ嬢か────?!』
『────気安く名前を呼ぶんじゃないわよ!』
ビルキースはトリスタンを無理やり引き剥がそうと蹴りを入れようとするものの、トリスタンはこれを紙一重で躱してから再びハーケンタイプのMVSを振るい、またも火花が飛び散る。
『なぜ君がそこに居る?!』
『アンタと同じ理由よ!』
『私と……では、君もやはり弱みを握られて仕方なく、そちら側に────?』
『────はぁぁぁぁ? ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ! 私は私自身の意思でここに居るわ!』
『なんだって────?』
『────じゃあ何?!
『────君に何が分かる?! 私は君と違い、家の責務から逃げてなど────!』
『────アレは“縁を切った”というのよ?! 私はあんたみたいに目を背けていないわ! それとも何? 縋りつくモノが無ければ自立できないの?! なんて情けない人なの?!』
……
…
「どうしてこうもドローンが簡単に撃ち落とされるの?!」
開戦直前に感じていた疑問をさっぱりと切り離して、フローレンスの中からドローンを操っていたモニカは焦っていた。
というのも、フローレンスドローンにはシュナイゼルがスポンサーとして得ていたオルドリン、レオンハルト、ティンク、ソキア、そしてマリーカたち五人の実戦データを組み込んだOSが搭載されていた。
その最適化されたプログラムは従来のものより優れ、皇帝派から見て『離反』する前までのデータとはいえ、一般の騎士以上の動きを
「(流石はウィルバーさんに、『ブリタニアの猛禽』と名高いシュバルツァー将軍ですね。)」
同時刻、皇帝派と大グリンダ騎士団の艦隊が激戦を行っている遥か上空では、アレクサンダ・ドローンやソキア機に搭載されていたVTDS、そしてゼロの蜃気楼とのリンクを通じて戦況を把握しつつ、レイラは後方支援と指揮を執っていた。
これもマリーベル、ゼロ、そしてレイラの三人によって練られた作戦の一部であり、現場の指揮官はレイラに一任されていたからである。
本来なら恐れ多くて『経験』、あるいは『力不足』を言い訳に辞退しているのだが、スバルが亡国のアキト編に介入してから彼女の成長と自信に目を見張るものがあり自然────否、適材適所とも言えるだろう。
「(右翼に敵のKMF……やはり予想通りに回り込もうとしていますね。 ドローンはあと10体……ラウンズ相手はやはり無理ですね。 ここはサエコやマリーベルさんたちに任せ、ドローンを艦隊の護衛に……)」
今の彼女から見た戦場は解かりやすく例えると上下のある立体RTSで、レイラは私情を挟むことなくただマクロの視点から淡々と指示や座標を送っていた。
さて、『指揮』、『機体性能』、『立ち位置』等々を置いておくとしてどうしてモニカとレイラの操るドローンたちの間にこれほどの差があるかを明かすとすればそれは単に『プログラムの傾向』だろう。
モニカのドローンのOSは『戦』や『連携』において最適化されている。
しかしそれは『グリンダ騎士団』という志とマリーベルの指揮が重なって生まれたモノであるに対して、レイラのドローンはアマルガムに身を置いている者たち────特にスバルから得たデータをもとにOSが構築されている。
つまり、レイラのドローンは『多少の被弾でも戦う』ことに特化していた。
よってレイラのドローンは機体が戦えるギリギリの状態を許容しつつ反撃の見込みをしているに対し、モニカのドローンは受けるダメージを最小限にしながら戦うようになっていた。
差は歴然である。
「こうなれば!」
しかし、モニカはラウンズの一員だった。
残ったドローンをダモクレスの護衛に戻し、自ら戦場へと身を投じた。
……
…
ガキィン!
「(同時に?!)」
「(なんという動体視力?!)」
ランスロット・リベレーターと94式『不知火』の攻撃を、ビスマルクはギャラハッドの通常より長い刀身と質量を持つエクスカリバーで同時に防ぎつつ、機体の出力とエナジーウィングを巧みに使いこなしていた。
『どうした?! 攻める威勢は良いが身が伴っていないぞ?! 次はこちらからだ!』
「(スペック上ではこちらが上なのに……これが、『先が見えるギアス』?!)」
「(ギアスがあったとしても、それを使いこなせるだけの技量とKMFを持っている……伊達にナイトオブワンではないということか。 時間を掛ければ突破口は他に思い浮かぶだろうが……)」
笑みを浮かべながらスザクと毒島を相手取るビスマルクに、スザクは内心驚愕し、毒島は感心すると同時に畏怖の念を抱いていた。
「(このままでは
現在は皇帝派と連合軍の艦隊が均衡状態を保っているが、元々これは先行したKMF部隊が上空からダモクレスを強襲し、皇帝派の混乱に乗じて足並みを乱した成果だった。
『数は戦力』とはよく言ったもので、時間が過ぎれば過ぎるほど皇帝派の威厳と戦力は回復してしまう。
たとえ新大陸とブリタニア本国をオデュッセウスらが掌握したとしても、ダモクレスが健在ならば、最悪の場合その搭載兵器フレイヤを使用され、容易に戦況を逆転される可能性があった。それどころか、混乱のままに超合集国連合が存続したとしても、ダモクレスという
つまり、先の交渉でシャルルが日本を返還した行為によって、実質的に『時間』は超合衆国連合からブリタニア帝国────それも『皇帝派』の味方となった。
「(もしこれが皇帝シャルルの狙い通りだとしたら……我々に求められるのは『停戦』ではなく『勝利』だ!)」
毒島は心中で覚悟を決め、スザクに声をかけた。
「……スザク────」
『────毒島さん?』
「話が────いや、この場合は賭けだな。 乗ってくれ。」
……
…
「(……埒が明かないわね。)」
そう静かに考えたマリアンヌは、アルビオンを操りMVSの代わりにスーパーVARISを取り出すと、バーストモードに切り替え、逃げるスバルのアロンダイトに向けて狙い撃った。
「うお────?!」
プシュ。
「────クッ! ミサイルより追尾性能が良くても、これならばどうだ?!」
スバルは叫びながらも、鎮静剤が作動して冷静さを取り戻す。直後、彼はアンノウンが放つ縮小版ハドロンビームを避けつつ、アロンダイトを操り急降下し、海面へとダイブした。
ザババババババババ!
アンノウンの約半数はバーストモードの攻撃によって消滅し、残る半数もアロンダイトを追尾するが、その動きを完全にはコピーできない。結果、スピードを保ったまま海面に衝突したり、アロンダイトが発生させた波しぶきに阻まれ、次々と粉々に砕け散った。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!
「ぐ……ク……ん?!」
アロンダイトはガウォー〇形態に変形し、機体の下部に展開した脚で海面を滑るように踏みしめ、なんとか沈むのを回避する。荒れるコックピットの中でスバルは、舌を噛まないよう口を閉じたまま、KMFのステータス画面で損傷していく脚部の状態を確認していた。
「(どうせランドスピナーを使うことないだろう。) は?!」
アンノウン等の反応が途絶えた瞬間、スバルはランドスピナーがもはや機能しないと判断し、即座にそれをパージした。しかし、ランスロット・アルビオンが追撃を止め、逆方向にある連合艦隊の方へ飛び去る様子を目撃すると、思わず声を上げた。
「まさかイカルガを?! いや違う。 この方向は……リア・ファル?! もしや母艦を沈める気か?! やらせるか!」
スバルは迅速にBRSを用いてアルビオンの予測ルートを計算し、その行き先がリア・ファルであると気づいては迷いなくアロンダイトをUターンさせ、スバルはリア・ファルの防衛に向けて全速力で飛んだ。
「ふんふふーん♪ ……来た!」
アルビオンのコックピット内で、マリアンヌは鼻歌交じりに操作を続けていた。背後センサーの画面を確認しつつ、連合艦隊やアレクサンダ・ドローンの対空砲火を軽やかに回避する。そして、アロンダイトが視界に入ると速度を落とさずに機体を回転させ、スーパーVARISを発射する。
「それでも!」
スバルはアロンダイトのTPS装甲に可能な限り電力を供給し、スーパーVARISの弾丸が接近するギリギリのタイミングでかわしつつ、長距離狙撃ライフルをカウンター気味に撃ち返す。
「「外した?!」」
直撃する筈の攻撃が外れたことに驚くマリアンヌと、逆光を利用した自分の攻撃をかわされたスバル。二人の声がほぼ同時にそれぞれのコックピット内で響いた。
「ならば次は────!」
「────うわぁぁぁ?!」
冷静を装いつつも次の攻撃に移ろうとするマリアンヌと、それに応戦するスバル。激しい空中戦がアルビオンとアロンダイトの間で繰り広げられる。
アロンダイトは時には回避し、時にはTPS装甲を駆使してアルビオンの牽制を受け止めて反撃する。
「(なんという装甲なの?!)」
「(これぐらい! 破りたければビームかハドロン砲を使え! 使えるのならな!)」
一方、アルビオンはアロンダイトの攻撃をギリギリでかわし、攻撃態勢に入る直前に動作を阻むような動きで応戦していた。
「(タイミングをずらされている────?!)」
「(────主導権は渡さないわ)」
アロンダイトはKMF形態と戦闘機形態を巧みに切り替え、アルビオンの隙を突いて攻撃を仕掛ける。
「これだけ変形しても機体が壊れないなんて────?!」
「────持ってくれ、アロンダイト!」
アロンダイトが次々と形態を変える中、スバルはアンノウンたちの動きに注意を向ける。その動きが某機動戦士の兵器に似た性質を持つと気づいたスバルは、機体のセンサー自動制御を手動に切り替え、
「でもその変形……無防備になる時間があるわね。」
「またアンノウン?! (いやまて。 あの動きに形態……もしやオールレンジ攻撃用兵器?! 道理で並みのKMFじゃ対応できないわけだ! アレの一つ一つに対して機体のOSが反応して自動的に避けようとするならば……レーダーの自動タッグシステムをオフにすれば!)」
「避けている……しかもさっきより明らかにKMFの動きが対応しきれている。 (自在可変軌道型ハーケンの特徴を短時間で見抜いた? じゃあ次は────)」
「────距離を縮めてきた?! 接近戦はマズイ!」
スバルは機体OSの自動制御を切り、対策を講じつつ動きを最適化する。そんな中、マリアンヌはアロンダイトとの接近戦を仕掛けようとするが、スバルは距離を保つために全神経を集中させた。
「……うふ。」
『考える』段階であらゆる状況の展開を模索しては『行動』と読む『検証』に移り、その
「あはは。」
高機動戦闘を繰り広げる中で、両者のKMFは限界に近づき、内骨格が露出し潤滑油が滲み出るほどの損傷を受けていた。
お互いのKMFは騎乗者の能力を100%引き出し続けるために今までのごく僅かな間だけでオーバーホールが必要なほどの負担がかかる。
「アハハハハハ!!!」
マリアンヌは胸の高まりと高揚感に満ちた笑みを浮かべ、戦闘の快楽に更に没入していった。
「すごい! すごいわ! 合格よ、この肉体! これよこれ! 『人馬一体』とはこういう感じねきっと! もっと! もっとよ! ああ、ずっと戦っていたい! 私は今、
その様子はまるで恋に落ちたかのような狂気すら孕んでいた。
「ヌああああアアあああアアアアアアあああアあああああアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!)」
一方のスバルは今までどの命がけの対戦兼鬼ごっこの中でも、ダントツに『焦り』を通り越した『慄然』へと陥っていた。
強化スーツが限界を超え、体は軋み、分泌されるアドレナリンも限界に達していた。
覚醒剤による意識の維持さえ危うい状況だった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛ (このままじゃ負ける。)」
マリアンヌとスバルの本格的な攻防が開始されてから、わずか一分弱。
それにもかかわらず、両機は既に関節部やリアクティブアーマーが剥がれ、煙を上げるほどの高機動戦闘を繰り広げていた。その中、スバルの冷静な思考は静かに『敗北』という結果を囁いていた。
『時間は皇帝派の味方。』
スバルにとって、この状況も例外ではなかった。
彼はこれまで『奇策』を駆使して一瞬の主導権を握ることができた。しかし、戦いが続く中で、その奇策の数や効果には限界があった。
そして『遊びモード』のマリアンヌ相手ですら防戦一方となるのが常だった。
一応『アウトレンジ装備をしたKMFで接近戦に挑む』という残された手もある。 しかし、これまでの戦いぶりから見ると、マリアンヌの操るアルビオンの方が白兵戦能力ではアロンダイトより優位に見えたので悪手であることは明白だった。
それにスバルの体は
その上彼は激戦を立て続けに行っているので状態も万全とは言い難い。
つまりスバルから攻めることは
「ッ! ウィルバー!」
『その声はス────』
「────建設途中の右舷カタパルトを封鎖、切り離し準備を!」
スバルはリア・ファルへと飛び込むように移動しながら指示を出し、その背後にいたマリアンヌは追撃の手を緩めずに迫ってくる。
「(動きが単調になった? 死にたいのかしら? それとも疲れ? いいえ、この方向は母艦……こんな時に?)」
一瞬の違和感を覚えたマリアンヌだったが、やがてその表情に笑みが広がる。
「それとも、何か策があるのかしら?」
……
…
「右舷のカタパルトにクルーはいないな?」
「はい、退避しています。」
「確認を────」
「────艦長代理! 右舷下より敵KMFです!」
リア・ファルのブリッジでは、ウィルバーの指示の元でオリビアが平然と答えるが、その最中にオペレーターのサラが警告を発する。
「対空砲火! 牽制だけでいい、味方には当てるなよ!」
ウィルバーの指示に従い、リア・ファルやアレクサンダ・ドローンの砲火がアルビオンを狙う。だが、その動きはマリアンヌに通じるどころか彼女はスーパーVARISを駆使してアレクサンダ・ドローンを撃ち落としながら、悠々とスバルを追撃する。
……
…
「攻撃を止めろウィルバー! 撃ち落とされるだけだ!」
スバルは焦りを隠しきれない声で叫びつつも、アロンダイトの動きを止めることなくカタパルト内へと逃げ込むように入ってきては戦闘機形態からKMFへと変形し、スバルはアロンダイトを外からは見えにくいカタパルトの天井に張り付かせる。
「(いったい何を────?)」
「(────来た!) 倍返しだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ダダダダダダダダダダダダ!!!
予想通りにランスロット・アルビオンが追ってカタパルト内に侵入してきた瞬間、スバルは両手とサブアームで保持していたアサルトライフルを乱射。照準も確認せず、ひたすら撃ち続けた。
火薬式の銃が激しい轟音を響かせる中、出入り口のハッチが閉鎖されてカタパルトが密室化し、すぐに銃撃の煙が立ち込めて視界を遮る。
「(見えないな、ファクトスフィアを展開────)」
────ダダダダダダダダダダダダ────!!!
「────うああああああああ?!」
センサーの切り替えを試みた瞬間、煙の中から放たれたスーパーVARISの砲撃がアロンダイトを襲う。アサルトライフルとサブアームが次々と被弾し、スバルは驚愕しながら補助火器の用意を進める。
「アッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
煙を裂いて現れたのは、スーパーVARISを両手に構えたランスロット・アルビオン。スバルの銃撃をものともせず、猛烈な反撃を開始する。
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
スバルは叫びながら必死に機体を動かし、狭い密室でアルビオンとの間合いを保とうとする反面、マリアンヌはエナジーウィングを巧みに操ってあえて接近を避けながらスバルの動きに合わせて機体の制御を行う。
……
…
「右舷のカタパルトの封鎖、完了しました!」
「中の様子は?!」
「二人の攻撃でカメラと照明が被弾し、不明です!」
「(できれば何らかのアシストをしたいが……やむを得ないか。) カタパルトをパージ!」
ゴゴォン。
リア・ファルの下方にある2基のカタパルトのうち1基が重い音を立て、本体から切り離されると徐々に引力に引かれて落下していく。
ガァン!
「うぁ?! 今の揺れは何だ?!」
「パージしたカタパルト内から飛び出た砲撃です!」
「(敵からの砲撃を受けても耐えられるはずのカタパルト装甲がか……それほど激しい戦いが繰り広げられているのか!) 上昇する! 距離を────!」
────ガァン! ビィィィィィィィィ!
「フロートユニットに損傷!」
「なんだと!?」
「高度、落ちていきます!」
「予備推進器を起動!」
リア・ファルがもう一度揺れ、オリビアの報告にウィルバーが焦るように指示を出すとリア・ファルの装甲越しに微弱な振動が響く。
「(何とか高度は保たれているが、また直撃などされれば……)」
連徹は流石にきついよ、スバラッシュ……