キリッ。
「諸君、分かっているな?」
「ああ、分かっているとも。」
「まずは風呂で今の酔いを醒まし────」
「────その後にある宴会でたらふく食べて────」
「────そこで再び酔い────」
「────場の空気に紛れて普段できないことを酒の所為にして────」
「────風呂に入って酔いを醒まし────」
「────寝て再び繰り返す────」
「「「────これぞ宴会の真骨頂である。」」」
目の前にアホが────いや、『三バカ』がいる。
『三バカとは誰ぞ』、だと?
良い質問だ、諸君。
『三バカ』とは俺の目の前にいる、とても酔っているとは思えないほどに真剣な表情と気迫を保ちながらしょうもない話をしている玉城、吉田、杉山の事だ。
なお部屋割りは男女別々になっていたことにはホッとしたが大人数だということと、どうも新館の方は以前から予約を取っていた先客の団体が急遽予約を変えたとかで黒の騎士団組は4人単位で旧館の方の大部屋を借りることになった。
大まかには。
大人数だからか、二人部屋も手配されたと聞いたが……運が良いのか悪いのか、俺の部屋は木下さんになっている。
ちなみに扇は酒を飲み過ぎてただいまお手洗いでリバース中だからいないが、三バカとの四人部屋の引率をやってもらうとしよう。
今更だが、以前から時々見るカレンのおっさん臭い言動を考えたら扇も呆れながら玉城の圧力に流されているんじゃないだろうか?
シンジュクゲットーでも起きたアクシデントの原因は玉城の急なアドリブの所為だって聞いているし。
……本当にロクなことをしないな、玉城は!
その延長線からだと、あの作戦で亡くなった永田さんたちも玉城の所為で────って、流石にこれは言い過ぎか。
玉城が何かしでかさなくても、あの施設は建前的に毒ガス兵器を保管していたからな。
「よし。」
「じゃあさっそく」
「「「浴衣に着替えるか。」」」
こういうところで変に連携が良すぎるな、こいつらは?!
ガタッ。
「あ? どこに行くんだよ、スバル?」
「トイレだ。」
「ならその邪魔くさいヘルメットぐらい取ればいいじゃねぇか!」
「断る。」
そもそもトイレに行くのはメイクを塗り直すためだ。
ブリタニアの影響からか男女別のパウダールームもあるし丁度いいか、ちゃっちゃと終わらせよう。
「あれ?」
浴衣に着替えた俺たち(プラストイレから戻ってきた扇)は男湯の前に立っていた『清掃中』と書かれた看板の前で立ち往生していた。
「『清掃中』って────」
「────まぁ、清掃は時間がかかるし急に大人数で押しかけて来たから早く来過ぎたのかもしれないな。」
「てかスバル……なんだその『頭だけ包帯男』状態は?」
「『頭だけミイラ男』と言ってくれ。」
「同じじゃねぇか。」
うるさいよ。
メイクしている顔のままで人前に出るのは嫌なんだよ。
そもそも今の森乃(軽)モードを他人が見たら大惨事になりかねないだろ?
それぐらい察しろよ杉山。
「うりゃぁ!」
バキッ!
「「「ええええええええええええええええええええええええええええええ?!」」」
玉城の奴、看板を蹴ってへし折ったぞ?!
「玉城、いくら何でも────」
「────うるせぇよスバル! どれだけ温泉を楽しみにしていたか分かるか?! 予約を全部キャンセルしたんだぞ?!」
いや、そんなん知らんがな。
旅館の人にどう説明すればいいんだ……
何故かにっこりする井上さんの怖い笑顔がガガガががガガガが。
「それに掃除しているのなら、手伝えば一番湯に浸かれるだろうが?!」
「「「「………………」」」」
「あ? 固まってどうしたお前ら?」
「「「「玉城/さんが常識を口にした────?」」」」
「────失礼だなお前ら!」
普段のコミカルなキャラのお前の方が失礼だと思うのだが?
それに常識なのか?
……普段の玉城からすれば『常識』の枠に入るんだろうな。
「という訳でいくぞお前ら!」
ガシッ!
あ────
ちょっと────
俺たちの首を抱えながら強引に入っていかないでぇぇぇぇ?!
「たのもー!」
ガラガラガラガラ。
更衣室の中に入れば清掃員とか清掃道具が置いてあると思っていたが、予想外にも中はガランとしていた。
「って誰もいないじゃねぇか?!」
「更衣室はもう終わっているんじゃないか?」
「あー、かもな。」
お?
杉山と吉田が正論を言ってきたぞ?
「だったら突入あるのみだぜ!」
なんでだよ?!
というか玉城、お前『ガンガン行こうぜ!』タイプの『勇者』だったんかい。
あれ?
今の言葉、前にもどこかで言ったような気がする。
……どこだっけ?
カラカラカラカラ。
「清掃中どころか、誰もいないな。」
そしてさらに奥にある温泉まで歩いてきた俺たちは誰ともすれ違うことなく、無人の湯舟が広が────いや。
奥にある、岩場から違和感があるから無人じゃないな。
多分。
「てかスバル! なんでテメェは湯着なんだよ?!」
「別に着ようが着まいが俺の勝手だろ?」
「そりゃそうだけどさ……」
扇、お前も
「場の空気を読めよ!」
うるさいよ、玉城。
チャプ。
「うん?」
俺たちの横では湯船の手を入れた吉田が怪訝そうな表情とハテナマークを浮かべた。
「どうした吉田?」
「なんだか温いような気がする……」
チャプ。
「あ、ほんとだ。」
あ。
岩場の違和感に動きが。
……なるほど。
『そう言うこと』、かな?
「清掃の看板が立っていたのはお湯の調整の為じゃないか?」
「だったらなんで誰もいないんだよスバル?!」
何でこんな時にだけ正論をガンガンとぶつけてくるんだよ、玉城?!
酔っ払いって変に意地になって本当にめんどくせー。
「知らん。 だが文句があるのなら宿の係員に言えばいいじゃないか?」
「だよな?!」
「だがそれをすると、なぜ看板が壊れているのかを説明しなければならなくなるぞ。」
「う。」
よし、これで風呂に入ることを諦めてくれれば────
「なぁスバル? どうにかして、俺たちで温度を上げられないかな?」
────と思ったら以外にも扇がお湯に浸かる気満々だった。
てか何で俺に聞く?
俺は青い猫型ロボットじゃないぞ。
それに『の〇太』はもうリヴァルだけで十分だ。
ジャ〇アンもスネ〇もいらん。
「……なんで温度を上げられるか聞く?」
「いや、もうここまで来たからさ? “どうせなら一度入ってもいいかな”って。」
「……」
「方法がないなら────」
「────あるにはあるぞ。」
「「「「え。」」」」
俺の言葉に扇だけでなく、他の奴らも注目したな?
計画通り。
「と言っても、輻射波動がいるがな────」
「「「────え″。」」」
「あー、一応後学のために聞くけれど……どうやってだ?」
玉城はやはり『勇者』だったか。
「輻射波動は高周波を短いサイクルで対象物に直接照射する。 それに伴い、膨大な熱量が発生するから、その性質を────」
「「「「────???」」」」
ダメだ、こいつら全然理解していないっぽい。
玉城はともかく、扇は元教師だろうが?!
「ようするに、電子レンジで水をチンして沸かせる時と同じ原理だ。 ガスが止まっている時とかに使える裏技だから、覚えていて損はないぞ。」
「「「「へぇー。」」」」
受けが軽い……
「まぁ、今の状況で輻射波動は使えないから話しても意味はない。 という訳でだ、俺は折れた看板を瞬間接着剤で直しておくから、その間にフロントに行って温度の調整を訪ねてみたらどうd────?」
「────お! サンキュー、スバル!」
俺が全部言い終える前に玉城は脱兎のごとくその場から去った。
「あー、いつもすまないなスバル。」
「あとで井上に言っておくよ、玉城のやったことを。」
「……」
最後の扇は何か言いたそうに俺を見て口を開けては止まり、結局何も言わないままその場から全員去っていく。
「……」
更衣室から扇たちが出たことを確認して、通路にも誰もいないことを見てから俺は再び湯船に戻る。
「……もう全員行ったぞ。」
シ~ン。
返事はない。
ならば、耳を澄ませればどうだ?
「……」
シ~ン。
何も聞こえない。
水しぶき一つ聞こえない。
なら……呼吸の音は?
「……」
シ~ン。
やはり聞こえない。
『誰もいない。』
そう思うのは早計だ。
ならばダメ押しにと、風呂道具の入った洗面器から携帯電話(inプラスチックバッグ)を取り出して音量を最大にしてから、
『お兄様────?』
────バシャアン!
「ナナリー?! なぜここに────あ。」
すると予想通りに、ナナリーの動画ボイスに釣られて出現したルルーシュとばっちり目が合う。
そして彼の脇にはゼロの仮面とマントが入っている洗面器が────「────ルルーシュ。」
「な、なんだスヴェン?」
「せっかく温泉に来たから自分も味わいたいがゼロの正体を晒すわけにもいかないから清掃中の看板という
「うぐ……」
「さて、これから看板を直してくるからその間にここから出た方がいいと思うぞ。」
「そ、そうか。 恩に着る────」
「────そもそも、ゼロの泊まっている個室には、露天風呂が付いていると聞いたが────?」
「────入れるか!
Oh……
神楽耶がこの慰安旅行に関わっているから『何かある』と思っていたが……
思っていたよりド直球な『攻め』に入っていたのか。
「それは……確かに(色々な意味で)困るな。」
「だろう?! 出発前に予約の確認をしたが、まさか飛行機に乗る間に変更されていたなんて誰が予測できる?! 航空機の閉鎖した空間で再度チェックを入れるわけにも────!」
「────ちょっと待ってくれルルーシュ。」
「なんだ?」
「今、神楽耶様の事を呼び捨てにしていなかったか────?」
「────はて、何のことやら。」
はい、食い気味ノータイムで話を逸らしたのでダウト────
「────それとしてスヴェン、さっきの事だがちょっと話そうか?」
────某冒険の『ゴゴゴ擬音』がルルーシュの背後から?!
ここはジョー〇ター家の十八番、『逃げる』に限る!
「さっきの事とはどういうことだ────?」
「────さっきのアレに決まっているだろう。」
ダメだ!
ボスからは逃げられない!
「……ああ、ナナリーの────」
「────いっかい、消そっか?」
なんだこいつは?!
本当にルルーシュか?!
いや、魔王がいる!
「それとも……
殺されるぅぅぅぅぅぅ!
一歩対応を間違えれば確実に殺されるぅぅぅぅぅぅ!
助けたと思ったら?! ピンチに?!
なんで?!
助けたのにピンチに陥ったぁぁぁぁぁ?!
ど、ど、どうして?! どどどどどどうしてこんなことにぃぃぃぃぃぃ?!
そうか! 俺が自治領主になったからだ!
この蓬莱共和政府の自治領主に不可能なことはない!
そうか! そうだったのか!
自治領主だからだ!
ウハ! ウハハハハハハハハ────!
「────消すのか消されたいのかどうなんだ?!」
「あ、ハイ。 ケシマス────」
「────そうだ。 丁度いいから携帯ごと湯船に入れろ。 な?」
「……え────」
「────消され────」
「────入れます! 入れます! 入れます!」
だからマントの入っている洗面器からいつの間にか取り出した拳銃を向けないでくださいお願いします!
ボチャン!
ああ……
「よし。」
さようなら、俺の携帯電話
「……それはそうと、瞬間接着剤で看板を直してくる。」
「????? スヴェンのアレは、扇たちを追い返すための方便だったのでは?」
「接着剤ならメイクと一緒で
「ッ……それは、何故だ?」
「何かと
「……スヴェン、お前……」
あ、
ま、まぁ?! 聞かれても『森乃モード』の化粧直しとか────!
「────そうか。」
あれ?
追及が無い……だと?
ルルーシュならてっきり『何故メイクを?』とか聞いて来て、そのお返しにとゼロの仮面の事を俺が言い返して……
……ま、いいか!
この間に看板を直すとしよう。
そう言えば、旅館に着いてから南が見当たらないが……どこに行ったんだろう?
扇たちが旅館のフロントにいる係員に話をするという建前で湯船のある所から距離を置いている間、とある男は洗面器を抱えながらキョロキョロと周りを見渡していた。
「(……迷ってしまった。)」
その男────南佳高は実はスバルや扇たちと一緒にいたのだが現在、彼が迷っている理由は単純に『方向音痴だから』である。
その上彼はがっしりとした体格に似合わず『コミュ障』とまではいかなくとも極度の人見知りを隠すためにいつも『沈着』な態度を徹底している所為で言葉数が少なく、『かなり気配を消すのが上手い』、あるいは『存在感が薄い』というべき特技でよく背景に溶け込んでしまうことが多々あるので彼はよく気が付いたら他の者たちからはぐれている。
『だからどうした』という訳でもないのだが要するに、南は『迷子』であった。
「(ま、いつもの事だし……素直に通りかかった誰かに聞いてみるか。 幸い、ゼロや扇や藤堂さんたちみたいにそこまで有名じゃないし、注目もされていないから顔バレすることはないだろう────)」
────ドン!
「うを?!」
「ぴゃ?!」
南が考え事をしながら歩いていると曲がり角の向こう側から誰かとぶつかり、お互いは声を出してしまう。
「だ、大丈夫か?」
と言っても体格の差があったので尻餅をついてしまった相手に、南は声をかけながらも手を差し出してから
「(デッカ。)」
「いたたたた……あ、どもども♪」
「ミーヤちゃん、大丈夫?」
「お尻が痛いです、シャーリー先輩……割れちゃったかも。」
「もう割れているじゃん!」
「そうだった! あ! 大丈夫ですか?」
「ああ。」
「ありがとうございます、おっきい人!! じゃね~!♪」
「ああ。」
「もう! ミーヤははっちゃけすぎ!」
「ええ~? シャーリー先輩は逆に落ち込み過ぎだよ! ルルーシュが来ないからって────」
「────ルルルルルルルルルルルルルルルは関係ないから!」
「またまた~♪ 噂になっていますよ? 『最近進展アリっぽい』って~♪」
「へ?! いや、あれは! だから! …………………………うううぅぅぅぅぅぅぅ……言えないよぉぉぉぉ……」
南の手を借りて立ち上がったミーヤは後から小走りで来たシャーリーに冗談交じりのやり取りをしながらも南に感謝をしてから再びシャーリーと共に歩き出す。
「……………………………………………………ブリタニア人の学生? (なんでここに────?)」
「────お! やはり南殿だったか!」
「え?!」
ビックリしながらも南が振り返るとそこには予想通りに毒島がいた。
「(え?! な、なんでここに?! 蓬莱島に────)」
「────ああ、ここには修学旅行できたのですよ。」
そんな南が持つ疑問を、まるで心を読んだかのような毒島の背後からひょっこりと顔を出したマーヤが答える。
「(あれ? この子……誰? てか今、心を読まなかった?!)」
「ああ、これは単純に貴方以上に無口な人を知っているだけなので気にしないで? 貴方も相当読みにくいから。 嫌というなら現時点で止めるけれど……」
「……心臓に悪いのでやめてほしい。」
ニッコリ。
「そうですか。」
「(オレ以上に無口って誰だろう?)」
「それと南殿に聞きたいのだが、君たちが泊まっているのは
「え? ええ、まぁ……」
「ふむ……では神楽耶様は例の二人部屋の方か。 そちらはどうだ? 順調か?」
「(あ、神楽耶様から聞いていたのか。 それにさっき
「元々予定があったモノを、学園側が急遽変えてくれたのだ。」
「へぇー……」
「南さんはなぜここに?」
「え? ああ、その……扇たちとはぐれて、どうやったら皆の所に戻れるか迷っていた。」
「……………………ここまで読み通りに進むものかしら?」
「流石はあの二人だな。」
「ちょっと怖いわね。」
「彼と比べればどうということはないが……」
「そうね……でも彼の場合はちょっと……
「そうだな、
「???」
毒島とマーヤはお互いを見ては(南にとって)意味不明な会話を交わし、そのまま歩き出した二人を南は姿が消えるまで見送った。
「……あ。」
そしてようやく自分が迷子のままであることを思い出した南であった。
……
…
「「……」」
その様なことが起きているとは知らずに、とある二人組は人の目に留まらないように旧館内を移動していた。
「……」
左よーし、右よーし。
「よし、行くぞ。」
人がいないことを確認してからそう俺が声をかけると、後ろにいたライが無言で付いてくる。
『何故』かって?
それは勿論、アレだ。
扇たちと一緒に行った場所とは違うほかの湯船に、ライと浸かるためだ。
『何してんだお前?!』とか思っているかもしれないが、せっかく温泉に来たんだ。
入らないでどうする?
それに今までゴタゴタしていた所為で接した時間は少ないがこいつは────ライは、最低限の事はするがどうも『自我』というか『意思』が希薄で『起きる』、『食べる』、『トイレ』、『寝る』以外しようとしない。
いや……『自ら進んでしない』プラス『他人に言われてもしない』というべきかな?
そのせいで蓬莱共和政府の自治領主の事務をする為に行き来して数日後、『ライの扱いに困っている』という報告が来ていたので試しに(一応)保護者である俺が出向いた。
で、これでも(一応)『病弱()カレンの世話係』をする為に培ったノウハウの一環としてちゃんと言い渡せば、ライはそのまま素直に言うことを聞いてくれたのでどういう訳か、俺がライの世話をすることになる流れになった。
「という訳で、カレンが猫かぶりを止めたから負担が減ると思ったら今度はライの世話をすることになったという訳だ……はぁ~。」
「……誰に話しているんだ?」
ハッ?!
更衣室について気が緩んだせいか思わず口に出していたのか?!
話題を……話題を逸らさねば!
「というかライは着替えないのか?」
「……」
ああ、じゃなかった。
言い方を間違えたか。
「湯着に着替えて風呂に入る。」
コク。
シュル……
「……」
ん?
頷いて浴衣の帯を取ってまでは良かったが……動きが止まったぞ?
変だな、今までの前例から躊躇なく実行していたのだが────
「────先に行ってくれ。」
「???」
第三者からすれば見事なまでにオレはポーカーフェイスを崩しながらハテナマークを浮かべていただろうな。
だけど考えてみれば、何も不思議なことじゃない。
日本人で慣れているならそこまで気にしないが、外国人だとそういった文化というか風習が全然ないから同性でも『人前で全裸になる』のはハードルが高くて恥ずかしいって確か前世で聞いたことがある(と思う)。
それはコードギアスの世界でも例外ではなく、恥ずかしい人用の為か男女関係なくそれ用の湯着がある分マシだが『少し前はタオルでも御法度だった』って扇たちが言っていたような気がする。
チャプ。
「ふぉぉぉぉぉぉ……」
アカン。
お湯加減が絶妙に効いてオッサンっぽい声が出てしまうぅぅぅぅ……
この世界ではテルマエがメジャーだからなぁ~……
テルマエはテルマエでそれなりの魅力を持っているが、『肩まで浸かる』という風習はないから俺的にはどこかイマイチなんだよなぁ~……
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ええわこれぇぇぇぇぇぇ……
目を瞑ってまうぅぅぅぅぅぅぅ。
ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ。
考え事を全部放り出した俺の耳に裸足で近づいてくる足音が届く。
「んぇ。」
チャプ。
『ライかな?』と思いながら目を開けて音がした方向を見ると変な声を出してしまったのは仕方がないと思うの。
だって何でか知らないけど湯着で身体を隠しながらお尻を向けて湯船に入ってきているんだもの。
それに
……一回深呼吸して落ち着こう。
「すぅー……はぁー……」
元々ライを誘ったのは俺なんだ。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
落ち着け、俺の心臓……
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
「……なぁ、ライ? 聞いていいか?」
「なんだ?」
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
今までの中でも俺の心臓の鼓動がとびっきりに力強く鳴り、『爆発するんじゃないか?』と思えるぐらい耳朶に来る。
だが、
「ライは……
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
「……」
目の前が真っ白になっていく。
気を失いそうだ。
「……」
俺をジッと見るだけでなく、返事をしてくれ。
気合で意識を『今』に無理やり引き留める。
早く……
だって……
もし……
君は……
君が……
「────昔の事は……」
ライの言葉でさっきまでうるさかった心臓の鼓動が気にならなくなるほど小さく感じる。
まるで全神経をライに向けているかのように。
「……
……分からない?
それはどういう────
「────いつも起きれば、自分が誰なのかわからない。」
それって────
「────だが周りを見て、観察して、人の話を聞いて、思考を走らせば自ずと状況は理解できる。」
それは────
「────だから『昔』のことは『わからない』。」
「……お前は……それでいいのか?」
「生命活動に支障はない。
「……」
「?」
確かに、それならば命はあるが……
はたして『生きている』と呼べるものだろうか?
「???」
始めは『もしかして』という疑惑から思い切って聞いたが、今は……
「どうした?」
ザバァ。
「決めた。」
ザバァ。
「???」
そう言いながら俺は立ち上がると、ライも同じく立ち上がる音がする。
「ライ、確かに生きてはいけるだろうが……それを……
「何を────」
「────俺は! 君にも幸せ────に゛?!」
「???????」
……隣には立ち上がったライ…………………………………………を見て…………………………………………押し潰されたセミのような音が喉から出た…………………………………………
「どうした?」
だって…………………………………………だってだってだってだってだってだってだって!
「お、おま! お前! お前ぇぇぇぇぇ!!!!
湯着が張り付いて!
透けて!
み、み、み、み、
「????」
「君は何を言っている? 知りながら誘ってきたのではないのか?」
し、知りながら
ザブゥン!
さっきまで『心地よい』と感じていたお湯へ顔面ダイブする感覚を最後に、俺の目の前は真っ暗になった。
初登場からリアル2.5年ほど経ちましたが……やっと出せました……やっと……
『ありがとうございます』……本当に、『ありがとうございます』
……それしか言える言葉が思い浮かばないです……
どうでもいい後書き余談:
花粉が……花粉がスゲェで……スゴイで……気だるい……