小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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タイトルの意味は、日本語だと『善意から』……が一番しっくりくる感じです。


第319話 With The Best of Intentions... (挿絵)

 ナナリーとスヴェンたちが敷地内を歩き回っているその同時期、初めて正式な手続きを踏んで蓬莱島共和政府にブリタニア皇族が入国していた。

 

「ではクロヴィス殿下。」

「う、うむ。」

 

 ブリタニア皇族とはクロヴィスのことであり、彼が来た理由の名目上は『蓬莱共和政府の訪問』であるが彼が実際に来た理由は『()()()()』を聞いたからである。

 

「焦る必要はございません。 ゆっくりとイメージすれば、脳からの信号に自ずとスーツと連結した外骨格が信号を受信して筋肉を刺激します。」

 

 その噂とは以前、ブリタニアの歩兵強化スーツの開発に携わっていたラビエ親子たちが重傷による手足が不自由な者の為に、技術を転用した成功例が出ていることだった。

 

 これは以前、戦争によって両足を失くしたネーハにラクシャータが施した義足の移植のような『高度だが従来の治療方法』とは違い、たとえ脊髄損傷による信号伝達機能を喪失した神経細胞でも適用可能な『外骨格』である。

 

「先のその……ジュライ(アンジュパパ)殿はどうだったのだ? やはり……」

 

 首から足首まで体を覆ったタイツを服の下に着て、服の上からは簡易的なロボット外骨格のようなスーツに着せられたクロヴィスは不安からか座っていた車椅子から立ち上がる姿勢で固まり、噂の出所となった『成功例』────ジュライの話題を出した。

 

 アンジュと共にアマルガムに戻ってきたジュライは実の息子に毒殺されかけた後遺症で体の殆どが不自由になっていた。

 

 そしてもともとそのような人たちの為のスーツを作っていたので、ジュライ本人の同意も得てようやくジュライは自分の意思で歩き回れるようにまで民間用スーツの改良は進んでいた。

 

 簡単にまとめるが、実際はラビエ親子たちの技術だけでなく数々の者たちが協力し合った結果である。

 

 ソフィアとタケル・ランドル夫婦のBRSにアリスたち元イレギュラーズのGP01に使われているサクラダイト繊維、医学の知識が豊富であるラクシャータ、昆虫の外骨格のアイデアを出したアンナ、ラビエ親子たちが本来研究していたスーツ、そしてそれらをまとめて現実的な開発方針に戻して完成にまで事を進めたウィルバー・ミルビルとサリア・ミルビルたち。

 

 数々の者たちによってアマルガムの強化スーツを、民間用に(強化スーツと比べて)低コストの重傷者用スーツが出来たのだった。

 

 まぁ……流石に前から寝たきりの人が重傷者用スーツの試運転とはいえ無言かつ仏頂面で淡々と全力疾走のジョギングしているところが目撃されれば噂が広がるのは自然というものだろう。

 

 

『ジュライはやはりアンジュのパパやんけw』?

 ……型破りなのは否定しない。

 いや『型破り』で済まされないことだとは重々承知しているが再びアクティブ(?)になれた奇怪な笑い声を出しながら夜な夜な走り続けるよりかはむしろマシ────

 

 ────コホン。

 

 

 長々とした話を戻すと、脊髄損傷から二年経っても回復の見込みなかったクロヴィスは首から下が不自由だったジュライが健康な者より元気に動き回っていることを聞きつけ、『例のスーツの実用性』を自ら試すため久しぶりに権力を使った外交的な訪問(立場による殴り込み)で蓬莱島に来ていた。

 

 そしてマリエルの指示通りにクロヴィスはゆっくりと腕に力を入れて車いすのクッションから体を浮かせて数秒後、クロヴィスは周囲に居るマリエルやSPたちの前で車いすのアームサポートから手を離す。

 

「「「「「……」」」」」

 

 一気にその場が静かになっては立ち上がる途中の姿勢だったクロヴィスを蓬莱島の者たちは見守り、SPたちはすぐに駆け付けられるように身構える。

 

「「「「「あ。」」」」」

 

 しかしクロヴィスは倒れる所か、よろけることなくそのままスッと立ち上がる。

 

「「おおおおお!!!」」

「「「殿下が立った!」」」

 

「「「「(ホッ。)」」」」

 

 心から嬉しがるSPたちとは違い、表面上だけ笑顔だったマリエルたちは安堵した。

 

 一見するとジュライとクロヴィスを比べればジュライの方が重体でスーツが正常に効きにくいのだが、状況が違う。

 

 実はというと『走り続ける』より、『ジッと立ったまま』の維持が難しい。

 

『走り続ける』には最低限、前方へと動くときのバランスと筋力をキープすれば体力と集中力が続く限り可能だ。

 

 だが『立ったまま』は()()()()()()()を半ば無意識に把握しながら微調整を常時強要される。

 

 ジュライは立ち上がると同時に走り出したので、ただ立ち上がるだけのクロヴィスと比べて非常に安定しやすいのだ。

 

 そのことも踏まえてクロヴィスが着用した外骨格にはより精密なオートバランサー機能も搭載されているが、あくまでも『試作品』だったので『現実≠理論』を理解しているアマルガムの技術者たちはどうなるかわからなかった。

 

 最悪、倒れてケガをしたことを元に『技術の向上化』とは名ばかりの『技術の搾取』になりかねない。

 

 ゼロに撃たれて表舞台から身を引き、あまり注目されなくなってはいるがクロヴィスはブリタニアの第3皇子。

 今でこそ戦時下でもない上に『シャルル』や『シュナイゼル』と言った要注意人物がいなくなってはいるが、ブリタニア帝国は未だに警戒すべき強国である事実は変わっていない。

 

 とはいえそんな皇族からの『訪問』を無下にできないことも事実だが……

 

「「「「(よりにもよってスヴェン/スバル/シュバールさんやレイラたちもいないときに来ちゃうなんて~!)」」」」

 

 唖然として立ちすくみクロヴィスの周りで騒ぎブリタニアのSPや付き添いの文官たちと違い、マリエルたちは頭を抱えそうになるもクロヴィスの押しに負けて苦笑いを浮かべる無精髭のクラウスと、皆の視線を見返さないようにしているハメルを笑顔のまま睨んでいた。

 

 一気に規模が膨れ上がった黒の騎士団のように(私情で)人手不足だった蓬莱共和政府にとってクロヴィスの訪問はある意味タイミングが良かったとも言える。

 

 ブリタニア側にとっても。

 

「それでクロヴィス殿下、何か違和感などありませんか?」

 

「……フム。 たまに圧迫感……抵抗感とも呼べるものが返ってくるが、概ねないな。 壊死した四肢を切り落として、人工的な神経を繋ぎ合わせるよりは、遥かにいい。」

 

「その分、サクラダイトを使うけれどねぇ~。」

 

「「「「(ラクシャータさんンンンンソンンン?!)」」」」

 

 クロヴィスの言葉に、ラクシャータはいつもの調子で返事をして技術者たちは肝を冷やした。

 

「ところでロイドはどうした? ここにいたと聞いたが?」

 

「アイツならブリタニア行きの船。 なんかこの島に残りたいってゴネていたけれど、セシルが『立場を考えろ』って言いながら無理やり連れて行ったわ。」

 

「ロイドの気持ちはなんとなく分かる。」

 

「「「「え?」」」」

 

「この島はとてもいい。 ……いや島だけでなく、市民たちもどこかゆったりとした余裕を持ち合わせている……これは真剣にクロヴィスランドを建てても良いかもな。

 

 バァン!

 

「お! いたいた、クロヴィス殿下~!」

 

 部屋へのドアが乱暴に開けられ、クロヴィス含めて全員がびくりと肩を跳ねさせる。

 

「日本へ一緒に行かないかい?!」

 

「え、え、え、エニアグラム卿……」

 

 クロヴィスは引きつった笑顔のまま全くの不安や戸惑いもなく(ゴーイングマイウェイの)勢いのまま近づくノネットへと振り返る。

 

「おおおお! 立っているじゃないか! やるねぇ~♪」

 

「エニアグラム卿も、この島に来ていたのですか?」

 

「あれ? マリーベル皇女殿下から聞いていない?」

 

「マリーがここにいるのですか?」

 

「うんにゃ、日本さ。」

 

「な、なるほど。 ですか私はあいにくとこの後ハワイの美術館────」

「────ちなみにライラちゃんにも挨拶するつもりだよ────」

 「────よし予定変更だ。 日本にあるクロヴィスランドの視察に行く。」

 

「「「…………………………え。」」」

 

 今度はこれからのスケジュール調整を思い浮かべて内心ヒヤッとしたブリタニアの文官たちを見て、技術者たちが同情したそうな。

 

 

 

 


 

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 アッシュフォード学園本校にある部屋では、神妙な顔をしながら無言で部屋の中央にあるテーブルを囲んでいた者たちが居た。

 

「……これは……」

「どう見ても……」

「ねぇ……」

 

 初めて重い沈黙の空気を破った毒島を筆頭に、次々と部屋の中にいた者たちが言葉を出す。

 

 毒島達が囲んでいたテーブルの上にあったのは小さな箱でサイズはさほど大きくはなく、

 精々手のひらサイズだった。

 

 しかし誰もが見ていたのは中身だった。

 

 正確に言うと箱の中でキラリと光る、()()()()()()()()()へと()()全ての視線先は向けられていた。

 

「「「「「指輪だな/ですね/だよね。」」」」」

「お手柄なのです!」

 

 唖然とする毒島、ヴィレッタ、マーヤ、アンジュ、そして蓬莱島へと帰る準備をしていたレイラたちに続いてライラが場違いな声を出す。

 

「ええ、確かにお手柄ですね。」

「えっへん!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マリーベルだけが唯一、平然としていた。

 

 毒島、マーヤ、アンジュはここでお互いを見てはまるで何を考えているのかを予想したアンジュが否定的に手を振る。

 

「いやいやいやいや一旦ストップしましょう? これがス────アイツの物って決まった訳じゃないし────」

「────でもライラが見つけたのは、ミレイに呼び出されているにも関わらず彼が遠回りしてきたルートにあった────」

「────だから可能性は高い。」

 

「???」

「「「……」」」

 

 ヴィレッタの言葉にハテナマークを頭上に浮かべるライラ以外の全員が再び黙り込む。

 

「ライラは、これを偶然見つけたのですね?」

「歩いている途中でなんだかテープが『ぺりぺり~』と剥がれる音がしていたです。」

 

「「「「「(それだけで?!)」」」」」

 

「す、すごい好奇心なのですねライラ?」

「スヴェン先輩がいつも言っていたです! 『好奇心は成長に大切なもの』ですって!」

 

「(シュバールさんが……)」

「……それでどうする?」

「『どうする』って……彼に聞くわけにもいかないだろう。」

「どうして?」

「『どうして』ってマーヤ……」

「そうだぞ。 もし彼に聞いて、これを送る相手が分かったと仮定してみろ。」

「そんなことになったら……」

 

「「「「……」」」」

 

 全員が黙り込む。

 脳裏の奥底では理解していた。

 

『現状が危うい綱渡り状態の上に成り立っている』と同時に、スヴェンの義理堅い性格からしてその『特定の誰か』にしか好意を向けなくなるとも考えた。

 

 何故ならば例え彼が今のように全員と接したとしても、指輪は一つだけ。

 

 そして、そのような『パラダイムシフト』などが起きれば、どのように状況が転がるか予測不可能になるとも。

 

 パン!

 

 レイラが手を合わせて音を出し、全員の注目を集める。

 

「皆さんも想像できると思うのですが、これは見なかったことにしましょう。 そしてこの件に関しては『他言無用』ということで。 ()()()()()。」

 

「……そうだな。」

「そう……ですね。」

「気にしても仕方がない。」

「忘れよう……」

 

 未だに彼女たちの背後でハテナマークを出すライラ以外、全員がレイラの提案に頷いた。

 

「では、私が責任をもって戻してくるわね。」

 

 マーヤはそう言うと指輪が入っている箱を閉めて走り出し、他の者たちも退室する。

 

「……マリーお姉様、皆どうしたです?」

「う~ん……『停滞していた事柄が動き出すことに戸惑いを感じている。』 といった所かしら?」

「そうなんです?」

「ええ。 思っていたより行動が早いのは意外でしたが予想内ですが。

「です?????? あれ? レイラ先輩?」

 

 マリーベルとライラ達が通路を歩いてすぐそこでは、立ち止まったレイラがいた。

 

 彼女は何か考えているのか、次第に顔をほころばせて両頬に手を添えた。

 

「……………………………………えへへへへ♪」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「レイラ先輩、何をしているのですマリーお姉様?」

「ウフフフフフフフフ♪」

「(なななななななんだかマリーお姉様の笑顔が怖いです!)」

「それにしても、どこから制服を取り寄せたのかしら?」

「(マリーお姉様もいつ制服を取り寄せたんです?)」

 『へぇっくしゅん! はぁっくしゅん?!』

「……今のミレイ先生だったです?」

「え? ライラ、今なんて?」

「えっと……何でもないです!」

 

 

 どこかでミレイがくしゃみを連続で出したのはライラの気のせい……だったかもしれない。

 

 

 

『見なかったことにする。』

 

 状況によっては最善な手段かも知れないが、一度見てしまったことを『忘れる』ことは例外中の例外を除いて容易ではなく、本人が望もうが望むまいが『先入観』と同様に深層意識へ影響を与える。

 

 そしてそれは次第に表面化し、遅かれ早かれ拡散する。

 

 

 

 


 

 

 

 

「スヴェン、一つ良いか?」

 

 時計塔から降りてどこからかナナリーが着ていることを知ったアリスがほぼタックル気味にナナリーに抱き着いてきて、ナナリーの案内の引き継ぎをさせてからクラスに戻った同日の放課後、急な休暇を取ったゴタゴタで溜まっていた書類などを二人で裁いていると、ヴィレッタが俺に声をかけてきた。

 

「なんだ、ベルマ?」

 

「ングっ……なんという破壊力だ。 コホン! そろそろ丁寧語は止めにしないか?」

 

 望み通りに『ベルマ』と呼ぶとヴィレッタが顔を逸らし、咳払いをすると上記の提案が投げられてくる。

 

「??? 既に丁寧語は止めたと思ったが?」

 

「いや、そうじゃなくてその……他人の前でも普通に話す……とか。」

 

「俺は別に構わないが、これまでの喋り方で年長者(教師)としての威厳を保っていたベルマが困るだろう?」

 

「ね、年長者……」

 

 急に借りてきた猫みたいにヴィレッタがシュンとする。

 あれ?

 俺、何か変なことで言ったか?

 

「……」

 

 ま、取り敢えず早く終わらせて『例の物』を────

 

「────スヴェンは、その……年上は────」

「────ん? 何か言ったかベルマ────?」

「────いえ! その! 実はこの間料理を作り過ぎてだな?! 一緒にどうかと思っていたのだ!?

 

 キィ~ン

 

『スゴイ肺活量、アンジュといい勝負だな。』

 

 急にヴィレッタが大声を出したせいで耳鳴りがする中、真っ先に俺が考えたのはそれだった。

 

 いやそもそも────

 

「────『一緒に』?」

「あ、ああ! と言ってもですね実は持ってきておすそ分けするタイミングが上手くなかったのです!」

 

「なるほど。 では頂こうか。」

 

「そ、そ、そうですか! では持ってきますね!」

 

 そそくさと動くヴィレッタはテキパキと手際よく次々と持ってきて、一瞬『ディナーか?』と思うぐらい本格的な料理がどんどんと来る。

 

「では頂こう。」

 

 パクッ。

 

「ど、どうですか?」

 

「うん、やはり期待を裏切らない旨さだ。」

 

『ベルマ』として保護した時でも思ったが、やはりヴィレッタは家事能力が抜群に高いな。

 

 流石は大人数の弟妹持ちだ。

 

「ッ! そ、そうですか! 久しぶりに作ってみた物も多かったのですが、お口に合ってよかったです!」

 

 あ、そうだ。

 アンジュやアーニャに聞いたが、ヴィレッタにも聞いてみよう。

 

「……なぁ、ヴィレッタ?」

 

「??? はい、何でしょうか?」

 

「ヴィレッタは結婚とか考えて────」

 「────はうあ────?!」

「────おっと。」

 

 急に裏声を出してヴィレッタが落とした重箱をやっとのところでキャッチする。

 

「ど、どうし────?」

 「────けけけけけ結婚なんて早すぎなのでは────?!」

「────おい落ち着け────」

 「────そもそも如何に同僚でも流石に同衾────って一時期一緒に住んでいましたが────?!」

 

 これはそっとしておいた方がいいかもな。

 

 モグモグモグ。

 

 あ、てんぷら美味い。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてクラブハウスでは────

 

「スヴェン! 貴方、後で暇?! 暇よね?! 暇で良いよね?!」

 

 ────なんだかすごく切羽詰まったアンジュからデジャヴ感を感じている。

 

 じゃなくて、『優男』が崩れるぅぅぅぅ!

 

 ニッコリ。

 

「えっと……なんでしょうかアンジュ?」

 

「グッ……その……進路相談を……したくて……」

 

 だったら普通にアポ取ればええやんけ。

 

 あまりにも血走った目と気迫だったから一瞬、襲わ(タスクら)れるのかと思ったぞ。

 

「そうですか。 まぁ、時間は空いていますが……珍しいですね、貴方が進路相談なんて。」

 

「その……えと……一緒にパパ(ジュライ)に会いに行く、とか……

 

 ああ、なるほど。

 強化スーツの応用で動き回れるようになったからなぁ~。

 

 クロスアンジュではおっとりして良そうな御仁だったのに、アンジュ並みに体を動かすのが好きな人だったのは『血筋』としか言いようがない。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「スヴェン、剣術部に来てくれないか?」

 

「……どうしたのですか、毒島さん?」

 

「いや、最近ブリタニアに帰国する奴らが相次いでいるので対戦相手不足なのだ。」

 

「……………………私は教師ですよ?」

 

「だが腕では君以外の適任者を私は他に知らん。 オルドリンにも協力してもらっているが、彼女の太刀筋はいささか()()でな……」

 

 まぁ、オルドリンの家って主に『裏稼業』だったからな。

 

 彼女の剣はどちらかというと『守る』よりは『攻める(殺す)』に特化しているからなぁ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 疲れた。

 

「先輩、大丈夫です?」

 

 食堂のテーブル上に突っ伏した俺にライラの声が届くが、答える気力が全く出ない。

 

「ツンツン。」

 

 いやもう本当に何なの?

 

 ナナリーが昨日、学園に来てからというもの周りの奴らがこう……アプローチが何故か『ガンガンいこうぜ』なんだが。

 

 なんで?

 

「ツンツンツン。」

 

 動かされた気配はなかったから俺、ちゃんと()()隠せているよね?

 

 なんで誰も『いのちだいじに』を作戦にしないの?

 

「ツンツンツンツン……なんだか屍の様です────」

 「────勝手に殺さないでくださいライラさん。」

 

 カチャン。

 

「そうよライラ、せめて屍を超えられるように────」

 「────それもダメなやつですよアリスさん。」

 

 何だこいつ。

 勝手にトレイを持ってきては急に懐かしい(ような気がする)題名に因んだセリフを言いやがって。

 

「でもでも、日本の古いゲームでそう言うセリフがあったです!」

 

 え。

 

「……古いゲーム?」

 

イノウエ(井上)さんに聞いたです!」

 

 井上さんってゲーマーやったんか。

 意外。

 でも『活発系ゲーマー巨乳女子』っていいネ!

 

 なお、『酒を飲んでいない状態』が前提で。

 

 でもこの間は酒を飲んでアグレッシブな井上さんの胸、柔らかかったな────*1────ゴホンゲフンゲフンゴホン!

 

 それとちなみにだが、なぜライラがここ(食堂)にいるかだが単純に以前、『キューピッドの日』での結果のせい(おかげ?)で彼女がすぐ俺の近くに居ても誰も不思議がらないからだ。

 

 で、いつもライラの周りに居たアリスがいてもノー問題という訳だ。

 

 ……………………………………すぐに手(足技?)が出るこんなんでも長い時間、近くに居たせいで気構えなくてもいいから『(ある程度)癒しになる』って口が裂けても言えないがな。

 

「……」

「何よ?」

「何がだ?」

「何か言いかけてたじゃん?」

「そんなことはないぞ?」

「そうね。 でも何か言いたげだったじゃん。」

「…そんなことはないぞ?」

「間を開けなかった?」

「そうか?」

「とぼけても無駄よ。」

「無駄無駄無駄?」

「ナニソレ。」

「掛け声。」

「意味が解らないわ。」

「奇遇だな、俺もだ。」

「なんでじゃい。」

 

 いや、俺も本当に何で某奇妙な冒険で急にDI〇様が言い出したきっかけがなんなのかははっきりと覚えていない。

 

 いや、今考えれば『波紋なぞ無駄無駄無駄ぁぁぁぁ!』とかだったような気がする。

 

 多分。

 

 ……メイビー。

 

 二十年近く経っているからか思い出そうとしても、上手く────

 

 ────ピロン♪

 

「あ、誰かの携帯です。」

「私のじゃないわ。」

「俺のだ。」

 

 携帯を出してメッセージを見ると、俺の心臓が一段と強く跳ねては強く脈を打ち始める。

 それほぼと同時に、俺は席を立ちふらつきそうな足に力を入れる。

 

「どうしたです?」

 

「すまない、少し用事が出来た。」

 

 俺は強張る一方の身体を無理やり動かし、その場から離れる寸前に思い出す。

 

「アリス、ライラ。」

「な、なによ? 急に真剣になって?」

「すごい気迫です?」

 

 ああ、うん。

 

 全力で『優男』の維持をしていたのが裏目に出たか。

 

 スマイルスマイル♪

 

 ニチャ~。

 

「なんか怖いわよ。」

「変な笑顔ですー!」

 

 青くなりながら引くアリスと、ケラケラ笑うライラをみて少しだけほっこりした。

 

 少しだけな。

 

「「あ、いつもの調子です!/ね。」」

 

 何か言ってきたアリスたちに返事をせず、俺は行儀悪く携帯を使いながら点々と学園中を歩き続けた。

 

 さぁ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

「う~ん、いつ来てもここは活気に満ちていていいねぇ~!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「よく来てくださいました、エニアグラム卿。」

 

 アッシュフォード学園の校内を歩いていたノネットを、またも制服に身を包んだマリーベルとオルドリンが出向かえていた。

 

「予定より早かったですね?」

 

「うん? クロヴィス殿下が来たがっていたからね、色々とスムーズだったよ。」

 

 ノネットとマリーベルは人気のない校内を歩き出す。

 

「でもどうしたんだろうね? 急に『話がある』だなんて……君たちは何か聞いていないかい?」

 

「私は特に……マリーは?」

 

「ウフフフフ♪」

「(この様子じゃ何か知っているわね……)」

「(でも敢えて口にしないところを見ると……)」

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園の『旧館』とも呼ばれて普段は使われていないところにある教室に(スヴェン)はいた。

 

 ガヤガヤガヤガヤ。

 

 周りからは俺が呼びに呼んだ()()()()の話声がひっきりなしに聞こえてくる。

 

 教壇にいた俺はその上に置いてある、鏡のように景色を移し返すジェラルミンケースをただ見下ろしていた。

 

 返ってくるのは顔面蒼白になっていた、俺自身の顔。

 

 ガチャ。

 

「やぁ! 遅くなってごめんごめん!」

 

『エニアグラム卿?』

『それにマリーベルやオルドリンも……』

『これで何人になるんだろ?』

『あの箱なんだろ……』

 

 よし。

 

 そう思いながら、俺はカラカラになった口を開けた。

 

「今日は……その……急な呼び出しに、応じてくれて……感謝する。 今日は、重要な話が……皆にあるんだ。 こ、心して……いや、そうじゃない。 そこまでじゃない……」

 

 俺の言葉に部屋がシンと静まり返る。

 心臓がバクバクとさらに力強く鼓動を打ち、視界がブレる。

 それに比例して体は冷えていき、震えていく。

 そして体中から汗がブワリと吹き出す。

 

 ……だが言ってやる。

 それでも言ってやるぅぅぅぅ!!!

 

 俺は世界一のばくち打ちだぁぁぁぁえひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!

 

「俺は……」

 

『どうかしたのかしら?』

『顔色が良くないね。』

『何かマズイ事でもあったんじゃ……』

 

 ええい、ままよ!

 

 俺は意を決してジェラルミンケースを開けて、その拍子に中にあるいくつかの箱が空いたりひっくり返したりしてしまう景色から目を背けるために瞼を閉じる。

 

「俺は! 今! 今日この場で! ここに居る皆に指輪を送る!」

 

 閉じた瞼の向こう側から、室内にある皆の視線が俺に集中砲火を行っているのを感じる。

 

 血が鉛のように重く、今すぐにでも足がすくみそうで教壇に両手でしがみ付く。

 

 嫌な想像がどんどんと脳内に湧いてくる。

 

 皆、俺を軽蔑しているだろうか?

 それとも────

 

「「「「「「「「「「────……」」」」」」」」」」」

 

 俺が涙交じりに片目を開けると、全員目を見開かせていた。

 

「こ、こ、こ、これは強制ではなく、それに今日都合が間に合わなくてここに来られなかった、者たちもいるし……あくまでも、俺の……一方的な、その……ただその……受けてくれると……大変嬉しく……存じ上げ、ます……

 

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」

 

 ヤバい。

 この方法の婚約の申し込みは駄目だったか。

 

 怖い。

 

 怖い。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 

 頼む。

 

 

 

 頼む。

 

 

 

 

 頼む……

 

 

 

 

 頼むから……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 

 

「アッハッハッハ!!!」

 

 響く笑い声に俺はヒュっと息を吸い込む。

 

 バン!

 

「ごはぁ?!」

 

 そして倒れそうになった俺の体を、誰かが背中を叩いて無理やり立たせる。

 

 その拍子で俺は目を再び開けて見ると、ニカッと笑っているノネットがいた。

 

「少年は思い切ったことをするねぇ! 『おかしい』とは前々から思っていたけれど、まさか私たち全員に指輪を送るなんてさぁ!」

 

 そしてノネットを筆頭に次々と雪崩のように声が出てくる。

 

「え────」

「────『指輪を送る』って────」

「────そういう意味だよね────?」

「────って今、『全員』って言った────?!」

「────来られなかったボスたちとかにも話を通さないと────!」

「────え?! え?! え?! これって────?!」

「────マリエルたちにも伝えようよ────!」

「────まぁ……シュバールさんは目覚ましいまでの功績を挙げ続けているのに、()()()方面は興味がなかったかと────」

「────謙遜からかあるいは単純に忙しかったのもあったかもな────」

「────貰い手がいて良かったわね、オズ────♪」

「────待ってマリー、もしかしてこの為に私をここに留まらせたの────?」

「────だって私たちの周りによくいる男性って()()問題があるからこうでもしないと────」

「────いやいやいや、そんなわけ────」

「────それともオズは私や貴方以上の武人を知っているのかしら────?」

「────だからそれとこれとは話が────」

「────それとも彼が嫌い────?」

「────……いや、ちょっと待ってよマリー────」

「────いま間があったわね────?」

 

 バァン!

 

「────まてぇぇぇぇぇぇい────!」

「「────ちょっとルル/ルルーシュ────!」」

「────ええい放せシャーリー! スザクもだ────!」

「────ちょっとルルーシュ────!」

「────ユフィも止めるな────!」

 

 急にドアが蹴破られる勢いで開き、ずんずんと腰と足と腕に抱き着いたシャーリーとスザクとユーフェミアを振り切ろうとする『大きなカブ』状態のルルーシュが入って部屋の中でニコニコするナナリーに近づく。

 

 いやちょっと待てなんでユーフェミアまでここに居るの?!

 

「ナナリー────!」

「────お、お兄様────?」

「────お前の理想の相手は、変わっていないだろうな?!」

「「「「「「────ナナリーの理想の相手────?」」」」」」」

「────ええ、変わっておりませんよ? 私の理想の相手は、『お兄様を超えられるような方』でなければお嫁に行きませんよ?」

 

 「「「「「「……ゑ?」」」」」」」

 

『ルルーシュ=ゼロ』、または『ルルーシュ=極度のシスコン』、あるいは両方か()()()()の理由を知っている者たちの喉からカエルの鳴き声に似た奇怪な息が吐き出される。

 

「流石は年がら年中、妹独占欲求不満魔を表現する男だな────」

「────黙れC.C.! 兄妹同士の話に入るな────!」

 

 否定しないんかいルルーシュ。

 それと一瞬、今のセリフが赤い人の声で『C.C.』じゃなくて『ナナイ』と聞こえたのは俺だけだろうな。

 

「────しかしそれは良かったぞナナリー────」

「────というわけでスヴェンさん?」

 

 あ。

 なんかゴイスーなヤヴァイ予感がする。

 

「指輪に続くお話、いつでもお待ちしておりますね?♡」

 

 ………………………………………………ん?

 

『指輪に続くお話』って────

 

「────あ! じゃあライラもです~────!♪」

「────ちょっと待って二人とも落ち着いて────!」

「「────アリスちゃん────?」」

「────二人とも早まらないで! 場に流されないで?! もっと自分を大切にして?! ね?! ね?! ね────?!

「────あ。 ちなみに今ならアリスちゃんも付いてきますよスヴェンさん?」

「「「え。」」」

「アリスちゃんも付いてくるのでお得意です!」

 

 ちょっと待ってくれナナリー&ライラ。

 

 なんだその『ハッピー〇ットのオマケグッズがくるヨ♪』みたいなノリ?

 

「ちょっと待って二人とも。 なにその『セットのオマケグッズが付いてきます♪』、なノリは?」

 

「クッ! まさかアリスが俺の考えていたことを代弁するとは────!」

「────は、はぁぁぁぁ?! 私、別に代弁したつもりはないんですけどぉぉぉぉぉ────?!」

「────なんてことだ────!」

「────だから代弁したつもりはないんだってば!」

 

「ほら、アリスちゃんも口でなんだかんだ言いながらもスヴェンと仲がいいじゃないですか♪」

「息ぴったりで満更でもない様子です!」

 

 えええええええ。

 

 「クッ! その手がありましたか!」

「ま、マリー?」

「わ、私ならオズだけでなく、ソキアも付いてくるわよ!?」

「ちょっと待ってマリー私はともかくここにいないソキア────じゃなくて冷静になって?!」

「私はかつてないほどに冷静よオズ! ハッ?! な、なんなら元アイドルのエリシアも追加で酒池────!」

 「────落ち着いてないじゃないぃぃぃぃぃぃ?!?!?!」

 

「だから神楽耶様も言っていただろう? 『英雄色を好む』とな。」

 

「あの……ライラは良いの?」

 

「何のことですアンジュ先輩? これならばみ~んなが同意さえすれば、誰も不幸になることは無いですよね?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(もしかしてこの子、ずっとこのことを予想していたというの?!)」

「お、恐ろしい子……」

 

「う~ん……こうなっちゃったかぁ~……ね、ニーナはどう思う?」

「え? わ、私はその……『愛されるなら何番目でもいいかなぁ~』って。」

「………………………………………………え?」

 

 ミレイは時間差で赤面しながらモジモジするニーナを意外そうな顔で見た様子で、周りにいた者たちはやはり今のはニーナらしくないと確信めいた。

 

 バァン!

 

 ドアが再び開けられ、今度は壊れたオペラガラスを手にしていたクロヴィス(外骨格付き)がかつてない気迫のままライラへ近づいた。

 

「ライラ、本気じゃないよな? 将来結婚するのは兄の私のような人だったよな────?」

「────え? スヴェン先輩ですよ────?」

 「────貴様! 貴様! 貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 俺、別に『女のような名前』なんて言っていないのにマジギレぇぇぇぇ?!

 

「ば、バトレー! ではなくギルフォード卿! でもない、おいお前たちぃぃぃぃぃ! そいつを殺せぇぇぇぇぇ────!

 「────スザクぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 黒の騎士団の全戦力を以て諸悪の根源を打つと藤堂とシンクーに連絡だぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「「「え? やだ。」」」」

 

 サンチア、ダルク、ルクレティアにスザクの四人の即答にクロヴィスとルルーシュはパクパクと口を開けた。

 

「「そんなお兄様なんか嫌いです────」」

「「────ぬが────?!」」

「「────プイ────」」

「「────ノォォォォォォォォォォォォ?!」」

 

 そしてライラとナナリーがそっぽを向くと、まるでこの世の終わりを告げられたかのような『絶望』を表現する顔芸をクロヴィスとルルーシュが披露しながら倒れた。

 

 もうね、アレをいうしかないのよ。

 

 『カオスの根源』とイケボハルト風に。

 

 でも……

 

 そうか。

 

 受け入れてくれるのか、こんな俺でも。

 

「ッ……ッ……」

 

 ああ、声を殺して泣いているのか、カレン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()

 




後書きの余談:

『指輪を送る』行為は、時代/世界による『価値観』によっての意味合いが違います。
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