小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

330 / 344
第325話 『お義兄様(?)』 が あらわれた (挿絵)

「あれ……」

「なになになに~?」

「窓の外、白くなっていない?」

「ふぉぉぉぉぉぉ! 雪ですー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」

 

 時間は秋口よりさらに進み、その年の初霜にライラや(北米)大陸の南部出身の者たちが窓の外で降ってくる雪を見ては授業中なのに大はしゃぎしていた。。

 

 う~ん……これは注意すべきかな?

 いや、時間もあるし皆真剣に授業を受けていたんだ。

 少しだけ羽目を外しても目を瞑るか。

 

 クラス中にある教壇の横に立っていた(スヴェン)はいつもの『優男』の仮面の下で微笑ましくライラ達を見ながら開いていた教科書を閉じた。

 

 しかし、雪か……EUを────ヴァイスボルフ城での日々を思い出すな~。

 つい去年のことなのに、大昔のように感じる。

 あの頃はほとんどしがらみもなく、ただ毎日を充実させながら『普通』の生活を送っていた。

 

 ……いつかあの変態ババァたちともう一度会える日が来るのかな?

 

 一段落したら会いに行くのも一つのスローライフかもな。

 

「わぁ! 本当に真っ白~!」

「地面が真っ白になっていく~!」

「本当に雪が降ると静かになるんだねぇ~。」

 

「(子供は無邪気で良いねぇ~。 こっちにまで元気が分け与えられるみたいだ。)」

 

 ガラッ!

 

「開店ガラガラー(棒読み)。」

「「「「「わぁぁぁぁぁ!♪」」」」」

 

 俺はニコニコしながらあの頃を思い出して感傷に浸っていると生徒の一人(アーニャ)が平然と窓を開け、ライラと一緒に外へと繰り出したのを合図に他の生徒たちも乗り出して積もり始めた地面を駆け────ってちょっと?! 

 

 何してくれとんじゃいアーニャ?!

 

 これで怪我とかしたら俺の責任問題────!

 

「寒~い!」

「冷た~い!」

「ちょっとくすぐったいねぇ~。」

「ですー!」

 

 ────……でも皆が楽しそうだからいいか。

 注意だけしておこう。

 

「あまり遠くへ離れないでくださいねぇー。 目安で私の目が見える範囲内にいてくださいねー。」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 はぁぁぁぁぁ……素直でいいな~。

 ナナリーとは別方向で心が満たされるというか、癒されるというか……

 

「……」

 

 ん?

 

 そう思いつつも外にある、白い空の下で降り積もる雪の中をクラスの者たちが元気いっぱいに走り回る様子を見ていたスヴェンは、自分に向けられた視線に気付いて視線先を辿ると、俺を見ていたアリスと目が合う。

 

「……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アリスはクラスメイト達のように外へ出る様子はなく何やらふてくされている様な、もしくは何かに納得していないジト目で俺を見ていた。

 

「な、何よ。」

 

 おっと、今は『教師』だから『優男』に成りきらなければ。

 

 ニコ。

 

「いえいえ、何も?」

 

「相変わらずの胡散臭~い笑みね。」

 

「相変わらずの嫌味ですね。」

 

「その口調、どうにかならないの?」

 

 ほっとけ。

 

「はぁ~……なんでこんな奴なんかに────

「────何ですか────?」

「────な、()()()でもないわよ?!」

 

 アリスがそそくさと窓から外に出てクラスメイト達と一緒になるのを見送った俺はただこう思った。

 

『今アリスって“にゃん”と言わなかったか?』と。

 

 

 ……

 …

 

 

「う~ん……」

 

 後日、『ダモクレス事件』の事や前皇帝シャルルに関する教材のアイデアを聞かれたので俺は歩きながら頭をフル回転にしていた。

 

『何で見習いの教師にまで意見を?』と思うかもしれないが、『そこまで深く考えることはない』と言ってきたから大体の予想はつく。

 

 恐らく、『バイアス(偏見)のない教材』の元となる声が欲しいのだろう。

 

 例の『学生自治軍』じゃないが、今のアッシュフォード学園は合衆国日本内にあるブリタニア帝国の飛び地みたいな扱いだ。

 

 いずれ合衆国日本の一部となる時までそう遠くは無いと思うが、ブリタニア帝国側から見た世界への偏見がある教科書の見直し等を必死に裏で行っている。

 

 そしてその一つが、超合集国連合内で広まっている前皇帝シャルルを示すあだ名が一つだ。

 

『暴君シャルル。』

 

 ブリタニア帝国の前皇帝であったシャルルが引き起こした『ダモクレス事件』後に()()して発表された事実により、彼を差す裏の名として広がるまでそう時間はかからなかった。

 

 シャルルが自分なりの理由を元に色々と行動していたとわかっている身としては複雑だが、ルルーシュたちが何も言ってこないので(スヴェン)も何も言っていない。

 

「う~、寒いですー!」

「ん。」

 

 校内を歩いている俺の横にいたライラにアーニャが同意なのか生返事なのかよく分からない声を出す。

 

「……」

 

 ライカはライカで全く意に介していない、俺以上のポーカーフェイス(無表情)を保っている。

 

「……」

 

 でも確かに寒そうではある。

 

「……」

 

 アッシュフォード学園ではニーハイやサイハイソックスやタイツの着用は認められているが、それでも女子は生足が殆んど丸出し状態だからな。

 

 そう思いながらアーニャを見る────

 

 「────えっち。」

 

 いや、別に胸とか見ていないし。

 

 せいぜい剥き出しの太股だし。

 

 ゲシッ!

 

「ぐぉ!?」

 

 ど、どうして俺に飛び蹴りを食らわせたアーニャよ?!

 しかも弱い脇に!

 

「……ジー。」

 

 というか流れるように歩きながら飛び蹴りをしたのに、また何ごともなかったように元の場所に戻って再び歩くって随分と器用だな。

 

 いや、流石はラウンズ。

 スザクじゃなくても身体能力のバケモノだな。

 

「バカなことを考えている。」

「そう見えるか?」

「うん。」

「違うのだがな。」

「ダウト。」

 

 速攻でバレた?!

 俺のポーカーフェイス……いつから鋼から軽金装甲に変わった?!

 錬金術か?!

 

「……」

 

 相変わらず無表情だが……何だろう?

 

 何だか不安げ────というよりは……『不服』?

 

『察しろ』って言いたそうな……

 

 何故だ?

 

 う~ん……

 

 そう思って周りをもう一度見ると、いつも以上に男子生徒が目立つ。

 対して女子は……マフラーをした男子生徒と密着して────ケッ! オープンにイチャイチャしやがって!

 

 じゃなかった。

 でもよく見ると……なるほど、これで分かったぞ。

 

 生徒だった頃の名残からか、俺は温室通路を使わずに最短距離を歩いていた。

 

 つまるところ、俺の所為で寒~い中をこいつらは歩いていたということになる。

 

「すまなかった。」

「よろしい。」

 

 だからなんでアーニャはそんなに上から目線なの?

 

「それでどうなの?」

「どうとは?」

「鈍感。」

 

 なんでや。

 急に『どう』と言われても意味がわからんがな。

 

 ……あ、そうか。

 ナナリーの事か。

 

「順調だ。」

「そう?」

「立つことから始めている。」

「そう。」

「今はアリスが傍にいる。」

「ならいい。」

 

「何の話をしているですー?」

 

 如何にもハテナマークを周りに浮かばせている様子のライラが横から俺とアーニャを覗き込む。

 

「「内緒。」」

 

 すかさず俺が答えると、図らずともアーニャとハモってしまう。

 というのも、ナナリーはリハビリの事をなるべく秘密にしたがっている。

 

 理由は聞いていないが、恐らく彼女にも懸念はあるのだろう。

 これが別にライラやマリーベルだけならば良いが、弱さ(弱点)を克服しようとしている彼女の話を聞いて悪意を持った者がアプローチを掛けたり、ある事ないことを『噂』として流しかねない。

 

「??? アーニャちゃんと先輩、凄く仲がいいです?」

 

「「そう?/そうか?」」

 

「やっぱり仲が良くないです?」

 

「「気のせいだ/よ。」」

 

「アリスちゃんみたいにまた同じタイミングで喋ったですー!」

 

 キッ!

 

 いやん、そんなに睨んじゃヤダわアーニャたん♪

 ワザとじゃないのよ~ん?

 

 っと、現実逃避の『なんちゃってオネェ』はここまでにするか。

 

 実はナナリーのリハビリを秘密にしたがっている理由には、個人的なものだけでなく政治的な意味合いもある。

 

 今だから言うが、実は現ブリタニア帝国の状態はあまり芳しくない。

 特に内政は皇帝代理であるオデュッセウスの帝政になってからはちょっとした『にらみ合い』が『改革派』と『保守派』の間で続いている。

 

 オデュッセウスの施策後は特に目立つようになったが、あくまでも分かりやすい『きっかけ』だ。

 

 今までのブリタニア帝国の傾向と方針が『力(物理)こそ正義』で通ってきたのは長年────下手したら何百年もの間が『乱世の世』だったからだ。

 

 だが『平和』になって、それまでずっと保たれていた『戦時体制』によって成り立っていた社会構造があまりにもコスパが悪い。

 

 遅かれ早かれ、社会構造が破綻していただろう。

 

 自然に破綻していれば戦時体制によって甘い汁を飲んでいた大衆の注目は『政府の上層部』や『貴族たち』など曖昧な感じになっていただろうが、オデュッセウスが施策をした所為で全て彼の身────ひいては『皇族』に向けられている。

 

 とまぁ……色々と面倒くさいのだがこれ、要するに『政治』なのよね。

 

「あ。 そう言えばスヴェン先輩、時間あるです?!」

 

「ライラさん、今の私は先生ですよ?」

 

「でも私にとっては先輩ですよ?」

 

「ですから先生です。」

 

「……ダメです?」

 

「ダメじゃない。」

 

「やったー!」

 

 クッ……あんなすがるような眼で見られると断れない!

 

「それで、『時間が』と言っていましたが?」

 

「はい、スヴェン先輩に会いたい人がいるです!」

 

 俺に会いたい人?

 誰だろう?

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「やぁ!」

 

 ライラが言ってきた『会いたい人』に声をかけられる以前に、そいつの容姿を見て俺は固まっていた。

 

「君がスヴェン・ハンセンかい?」

 

「……」

 

 場所はそれなりに人通りが多くも少なくもない公園内で、屋台のオッサンも俺のようにとまではいかないがギクシャクとした動きで後片付けや料理の下ごしらえをする()()を必死にしながらなるべく俯いていた。

 

「はいです!」

 

 どう振る舞えばいいのか困惑していた俺の代わりにライラが肯定の声を返し、この時ばかりは彼女の素直さを恨んだ。

 

 ちょっとだけな。

 

 俺の目の前には黒のつば付きの帽子に黒のセーターと濃い紫色のカッターシャツと黒のジーンズにサングラスと大きなマスク。

 

 その大きなマスクもホットドッグをもぐもぐ頬張る動きに合わせて動き、その人物の特徴的な()()()の上からズレていてもはや意味をなしていなかった。

 

 このどこからどう見ても不審者丸出しの人物を、俺は知っている。

 

「ん? どうしたんだい?」

 

 この男はブリタニア帝国の皇位継承権を持ち、コードギアスでは一期でブラックリベリオンの事でオロオロと『シュナイゼルが居れば~』と何秒間しか出番が無く、R2だと天子ちゃんの婿になった者だ。

 

 もうここまで言えばわかるかな?

 目の前で、『散歩のついでに屋台で買い食いを~』と呑気なままのほほんとしているこの男はオデュッセウス・ウ・ブリタニア、ブリタニアの第一皇子だ。

 

 そもそもここに第一皇子────いや、現時点でブリタニア皇帝代理────がいる事に誰も気が付かないのはおかしいと思っているのは俺だけか?

 

 ……え?

 影武者とか、そっくりさん?

 ドッキリ?

 

「ああ、アールストレイム卿も立ったままでいいよ。」

 

 俺と同じように固まっていたアーニャがスッと片膝をつく動作に入るとオデュッセウスがそれを制止する。

 

「ホットドッグは嫌いかい?」

 

「えっと……」

 

「あ! じゃあ私も一つ欲しいですー!」

 

「と言う訳でもう一つ追加で。」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 ああ、屋台の人がビクビクしている……

 

 だがこれで納得がいった。

 多分だがこの周りに居る人たちに紛れてSPとかが居て、前もって周りをガチガチにガードしているな。

 

「いやー……それなりに緊張して服を慎重に選んだけれど、やっぱり気づかれないものだねジヴォン卿?!」

 

 俺はオデュッセウスの近くで彼と似た服装をしたオルドリンを見る。

 

 なるほど。

 この『不審者』の服装はオルドリンの入れ知恵か。

 

 これで『変装』のつもりなのか?

 

 何でこうもコードギアスの人たちが持つ『変装』に対しての意識が低いの?

 

 俺だけならともかく、ミス・エックスやオルフェウスが見たらブチ切れるぞ。

 

 …………………………あとは単純にガタイのいい不審者や帯剣している人に誰も近づきたくないだけだと思う。

 

 近づいたとしても、人知れずSPたちに取り押さえられてそのまま消えるとかもあり得そう。

 

 俺はどうしたら良いのだろう?

 

「う~ん……やっぱり立ったままだと落ち着かないね。 ベンチに座るかい?」

 

 ここはポーカーフェイス────いや『優男』で────それもダメだ、ここは慎重に『怖気づいた一般人』を装おう!

 

「い、いえ。 その、でん────」

「────おっと、私に対するそれ(敬称)()()で頼むよ? 怖~い人が飛んできちゃうかもしれないからね。」

 

 それって『フレイヤ』のことじゃないですよね?

 

「君と実は話したいと思ってね、ダメかな?」

 

「その、お誘いは大変恐縮ですが……私はただ一介の────」

「────準辺境伯である君が一介なら、他の者たちはどうなるんだろうね?」

 

 ヒェ。

 

 ニコニコしている筈なのに、『ごちゃごちゃ言わずに座って話をしよう』という無言の圧力がオデュッセウスからくる。

 

 まるでルルーシュ……それとも『ルルーシュが兄のオデュッセウスのように』と言った方が良いのだろうか?

 

 いや、そこまで行くのなら『シャルルみたいだ』と例えれば良いのか。

 

 本人たちは多分、頑なに否定するだろうけれども。

 

「敬称は無しと言ったけれど、君の事は聞いているよ?」

 

『聞いている』って、誰から────って、考えるまでもないか。

 

「???」

 

 俺をここに案内した張本人(ライラ)はホットドッグを頬張るのを止めて俺の視線に気が付き、ハテナマークを無邪気に出す勢いで視線を返しながら首をコテンと横にかしげる。

 

 クソ、可愛いかよ。

 

「で、では……お言葉に甘えて座らせていただきます……」

 

 ということで、俺が今考えるべきことは────『この人が俺に会って何を話したいのか?』、だ。

 

「君の話は実に興味深くてね、()()()楽しみにしているんだ。」

 

 おおおおおぉぉぉぉぉぃいいいいいいいぃぃぃぃぃ?!

 

 急に不安になった俺は『何を話した?』という念を込めた視線をライラに送るが、代わりに帰ってきたのは頬をハムスターのように膨らませながらビシッと敬礼する彼女の姿だった。

 

 小動物みたいに口の周りにケチャップをつけていて可愛い。

 

「土地を帝国に返上して得た準辺境伯の地位に目がくらまず、地道に働いている君と話がしたくてね……」

 

 何だ。

 身構えて損した。

 

「そう、()()とね。」

 

 あ、これ先日のルルーシュみたいな感じだ。

 

 いやでもあの時はナナリーが倒れそうになったから支えて結果的に抱くような形になっただけ────って、俺は誰に弁明しているんだ?

 

「君からは、今の帝国……いや、今の世界はどうだい?」

 

 これまた漠然とした質問だな。

 

「『今の世界はどう』と、仰られても────」

「────じゃあ、ぶっちゃけようか。 貧富の格差の事をどう思う?」

 

 わお。

 

 本当にぶっちゃけて来たなこのヒゲオッサン?!

 

 いや、分かるよ?

 多分、これはあれだ。

 

 いつもの『執務漬けで羽を伸ばしたい!』の無断外出だろ。

 ときどきテレビでも話題になるし、トトから話を聞いている。

 

 でもさ?! 『社会問題』をほぼ赤の他人に放り投げてくるか、普通?!

 

「……………………」

 

 キリキリキリキリキリキリ……

 

 そんな表情が消えた顔で俺を見ないでくださいオデュッセウスのおっさん……

 

 「ワクワク♪」

 

 キリキリキリキリキリキリ!!!

 

 ライラもそんな期待に満ちた目で俺を見ないでくだせぇ……

 

 だが、考えようによってはチャンスだ。

 何せ『貧富の格差』なんて深刻で世界レベルの問題なんて殆んどの国か全ての国が一丸となって対処しなければいけないからな。

 

 そして以前より弱体化はしても、ブリタニアの影響力は現時点で他国と比べ物にならない。

 

 上手くいけば、今すぐでなくても10年後は改善されているかもしれない。

 

 俺は一旦他のすべての考えや懸念を放棄しては考え込む。

 

 これでもブラックリベリオン後、『亡国のアキト』や『オズ』に介入する為に様々な国や土地に立ち寄ったから、情報源としてのサンプルサイズはそれなりに大きい……と思う。

 

 久々に連想ターイム!

 

 貧富の格差、金、仕事、国、政府、役人、社会、セーフティネット、保険、金、宝石、貴族、『人はぁ、平等ではないぃ』……

 

 俺が考えをまとめて口を開けたのは、ライラが四つ目のホットドッグを頬張った後だった。

 

「……そうですね。 私見ではありますが……貧富の格差の原因はやはり、『体制の維持』ですかね?」

 

「ほぉ? 体制の維持は即ち『平穏』を意味するのでは?」

 

「そうですね。 体制の維持はある意味『平穏』です……『()()()()()()にとっては』、ですが。」

 

「ふむ?」

 

 おっと、不敬罪に繋がるような一言はNGだった。

 

 ……よし、アレで行こう。

 

「私が一時期、旅に出ていたことはご存じでしょうか?」

 

「確か……シュタットフェルト家のご令嬢を探すためだったかな?」

 

 ちゃっかりそこもリサーチ済みなのね。

 でもそれならば話が早い。

 

「ええ。 その旅中、私はブリタニア以外の国をいくつも転々とし、一時的にですが各地で生活もしていました。 そして『体制の維持』が貧富の格差に繋がっているとそう私は感じました。」

 

 

「それは何故かね?」

 

「サクラダイトが発見されて様々な技術が進んでいるにも関わらず、『社会』が変わっていません。」

 

「だが技術が進んでいることで、人々の暮らしは便利になっているだろう? 現にこの数百年、国は以前より豊かになっている。」

 

「マクロのレベルでは確かにそうかもしれません。 ですが、『社会』が変わっていないからこそ技術の恩恵はごく一部の者たちにしか得られていないのも事実。 いえ、むしろ技術開発が飛躍的に進んだことで人々の生活と有り様が急速にぐんぐんと変わり、一般の暮らしは悪化さえしています。」

 

 オデュッセウスの表情が初めて曇る。

 

 今にも『なんでそうなる?』と言う疑問が聞こえてくるぐらいだ。

 

 だが色々と考えた末に出た考えがそうだ。

 

 俺の前世でもコンピューターやインターネットができてから、技術開発が進んだことで人々の生活と有り様が急速にぐんぐんと変わった。

 

『技術が進めば暮らしが便利になってより豊かになる』と人は言うが、現実は逆だ。

 

『豊かになる』のはその『流れ』に乗れる者たちだけであって、他は置き去りにされてしまう。

 

 技術が全速力並みに進んだコードギアスでは特に酷い。

 

「確かに、技術が進んだことで仕事や労働の効率化は得られています。 ですが、その類を『職』として生きていた者たちは? 端的に考えれば職を失ったことになります。 そして職が無ければ収入も、次の仕事にありつくまでありません。 むしろ職を失った時点から生きるだけでも全てが赤字です。」

 

「しかし、次の仕事さえ見つかれば何も問題はないのでは?」

 

「仕事や手順が効率化されているのにですか? 技術が進歩し、効率化が早ければ早い程失業者は増加の一途を辿ります。 その反面、転職しようにも仕事が無ければ生きていけません。

 ここまで来れば、民衆はどんなに安い賃金や過酷な労働環境でも受け入れるしかありません。 そうしなければ文字通り、死活問題ですからね。 しかし今度はそのような条件でも働き手がいるので貴族や資本家は喜んで現状維持の為に力を入れます。 そして庶民の貧困は再び加速し、立派な悪循環の出来上がりです。」

 

「……」

 

「逆に今、世界が平和になったことで傭兵を生業としてきた者たちも職を失って盗賊などの類に落ちては略奪をいまだに行っています。 いえ、むしろ超合集国連合に加盟して軍事力を放棄せざるを得なかったので、地域によっては以前より悪化していると聞いています。」

 

「……」

「ほぇー。」

 

 黙ったままのオデュッセウスの隣で、ライラが感心するような息を出す。

 

「……意外。」

 

 どういうこと、オルドリンちゃん?

 ん? 言ってみ? お兄さん怒らないから?♪

 

「……それでは、ハンセン卿は一般人の一助となるのはなんだと思う?」

 

 っと、今はこっち(オデュッセウス)だな。

 

「体制が昔からの『有力者優遇の政策』のままではダメですので、貴方の施策は良い一歩だと思います。 ですが、足りないかと。」

 

 現に、改革派と保守派と言う二つの派閥の間で『にらみ合い』が起きているからな。

 上手く出来たら、そのにらみ合い自体を最小限の被害かつ最短で解消できるはずだからな。

 

 理論上は。

 

 その辺は腹黒(シュナイゼル)や、(ちょっと極端だが)ルルーシュやマリーベルでもやってのけるだろう。

 

「なら、君ならばどうする?」

 

「技術と社会生活の調和、そして民衆の暮らしを守る法律とその法律に反した場合の厳罰の実行を徹底します。 『貴族と連なる者が咳をすれば民衆は風邪をひく』と言われるほどまでに、民衆の立場は弱いものですから。」

 

「……要するに、『国を変えろ』と?」

 

「若輩者でありながら『権力者たるもの時代の変化を恐れず、危ない橋を渡っても新しい時代に順応するのが責務』かと、存じます。」

 

 うおおおおおおおおおお?!

 雰囲気と流れでそれっぽく言って今更なんだが俺は何を言っとんじゃいいいいいいい?!?!?!?!

 

『弱みを見せれば寝首を掻かれる』、『軽んじられれば付け入られる』、『権力を示さなければ奪われる』が『貴族』なのによりにもよってこの世界でその頂点にいる『皇族』に────!

 

「────なるほどね、噂と聞いた話にそぐわぬ聡明さだ。 ベアトリス女公爵やエニアグラム卿がなぜ君に目を付けていたのかも得心がするよ。」

 

 はぇ?

 

「ムッフー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 どや顔をして胸を張るライラが可愛い。

 

「・ ・ ・ ・ ・」

 

 何だろう?

 

 急に寒くなった様な気が────

 

 ────ポン。

 

 そんなことが脳を過ぎったが、ニコニコスマイル状態のまま立ち上がったオデュッセウスの手が俺の方にずっしりと置かれて意識が引き戻される。

 

「有意義な話だったよ。 ありがとう、納得した♪ 」

 

 ほっ。

 

 取り敢えず、聞きたい話をしたみたいで────

 

 ────ゴキっ。

 

「ッ?!」

 

 俺の肩に激痛が走り、思わず叫びそうになった。

 

 ()()()君の話は聞いたと言ったよね?」

 

 巨体のままボソボソとこそこそ耳元ででささやくオデュッセウスさん?!

 と言うか肩が痛い!

 外れていないか、これ?!

 

 あんた、ミドルネームが『クリーク』とかじゃないよね?!

 

 「『指輪を送るにしても、“順序”を守って欲しいなぁ~』、なんて思う人は大勢いるからね。」

 

 プッツン。

 

 アンタがそれを言うのか?!

 

 ガシッ!

 

 俺は痛みが走っていない左手で無理やりオデュッセウスの手を退かせる。

 

 「ならば早く身を固めてくださいよ、オデュッセウス殿下。 第一皇子である貴方が皇后を迎えていない所為で、他の誰もが婚約を結べていないのですよ?!」

 「むぐ?! そう言う君も、そう言えるのかな?」

 「私は! ()は! 皆が笑顔でいれば()()()()()()()! 誓ってもいい! 自ら進んで、皆を不幸にはしないと!」

 

「二人は何を話していると思うです?」

「男と男の話。」

「アールストレイム卿の言葉は微妙に当たっているようで、外れていますライラ皇女殿下……」

「どういう風にです?」

「う……」

 

 俺とオデュッセウスのやり取りを見てライラの質問にアーニャが答え、複雑な顔で気まずくなったオルドリン。

 

「……」

 

 そんな彼女たちの近くで、普段の俺と同等のポーカーフェイスで無言のままただジッと俺たちの様子を見ていたライカが何故か印象的だった。




不思議なものですね。
『ワルキューレは汝の勇気を愛せり』を聞いていると、何故か政治的な気分になる……
そうだろう? キ〇〇〇〇〇?

後書きEXTRA:
オルドリン:そう言えば貴方、あの人みたいに無口ね?
ライカ:そう言う君も、兄さんの番候補か?
オルドリン:つが?! え?! 『も』?! え、えぇぇぇぇぇ……
アーニャ:ドロドロ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。