「スヴェン先ぱーい────じゃなくて先せーい、手を痛めたんですか?」
掛けられた言葉に俺はハッとして、手を見る。
目の前に大型パネルがあることと指し棒を持っていること、そして『先生』と呼ばれたことでここが教室だと思い出す。
そして恐らく指し棒を持っている手がハンカチに巻かれていることから声がかかったのだろう。
「うん? ああ。 これはですね、料理中に考え事をして注意散漫になってこう……ざっくりと。」
「「「「「え。」」」」」
俺の言葉にクラスにいる生徒たち(主に料理経験のある者たち)が顔を青ざめる。
本当はトイレ後に手を洗った際にオルフェウスとの一件で治っていない手の傷の所為でメイクが落ちて手持ちの物では上手く隠せないから慌ててハンカチを巻いただけなんだけどな。
でもこの学園に『家庭科』ができても、これで釘を刺せるだろう。
何せ前世でもバカをやった生徒たちの自業自得(あるいは虐め)の所為で家庭科では『炊飯器の使い方だけ』になったり、『家庭科』そのものが無くなった学校もあるぐらいだしな。
「という訳で、どれだけ『慣れた』と思っても過信はしないことを
「「「「「……」」」」」
「……文字通りに
「「「「「……」」」」」
あれ?
静かになるのは予想していたが、冷たい目やジト目とかじゃなくてほっこりしている?
「あの、
「いやぁ……」
「だって……」
「ねぇ?」
分からないから説明をプリーズ。
「
「あれだあれ。」
「「「「『スヴェンにもこういうミスするんだなぁ』って。」」」」
「「「「「それと『ギャップ感』。」」」」」
「あと初めておっさn────人間らしいところを見た。」
「無精ひげを生やしたらナイスミドルになるかも……」
オイ、ちょっと待て最後の二人こら。
外見はお前らと1、2年ぐらいしかあまり変わらないからな?
確かに前世を含めれば精神的に(多分)オッサンだがダジャレはアキトやシンたちも…………………………………………………………………………
アカン。 基準がダメなやつだった。
気持ちはわからないでもないが、これでも俺って一応『教師』だからな?
一線は引かなければいけないな。
という訳で口調とトーンと笑顔を借りるぞ、シン。
「アッハッハッハ。 皆さんがどんなふうに私を見ているのかよぉ~く分かりましたよ。」
ニッコリ。
「「「「「ヒェ。」」」」」
思っていた以上に効果覿面だった。
「ええと……今ちょっと別の話題の質問をして良いですか?」
俺の
「ん? 何ですかハミルトンさん?」
「スヴェン先生って、ミレイ先生が提案している舞踏会の為にダンスの講師をするって噂があるのだけれど……本当ですか?」
あれから数日ぐらいしか経っていないのに噂が出回るの早すぎ。
あ、でもこの際だから良い宣伝にできるかも。
「ええ、まぁ……学園にはダンスの教育を家庭教師から受けていない者たちが多いと聞いたので、あくまでも
「「「「「『こじんてき』。」」」」」
「なぁスヴェン……先生? それって今日から何だっけ?」
「ええ、その予定です。」
「そこにさぁ……男性も練習できる相手って、いるのか?」
うん?
どういうことだ?
「ああと……そのだな……男性も練習できるのか?」
ああ、なるほど。
二年前のアッシュフォード学園の生徒比率は男女半々だったが、第一と第二ブラックリベリオンの所為で男子より女子たちが帰国して男子生徒の方が多くなっている。
『普通は逆なんじゃ?』と思うかもしれないが、まだ古い価値観からかブリタニアでは未だに『長男=跡継ぎ』と『娘=家同士の繋がり道具』の思想が強い所為で男子側の長男が減った割合に比べ、女子は長女だけでなく二女や三女までもが実家に帰っていった。
まぁ、オデュッセウスの政策で政略結婚の
それこそ『ペアで舞踏会に参加する』という条件を付けたら、下級生からパートナーを見つけないとあぶれてしまう構図となるぐらいには。
「男子生徒の相手って、もしかしてスヴェンも担当するのか?」
「「「「「え。」」」」」
あ、なるほど。
こいつ、もしかして『シュゼット』に期待しているごく一部の一人か。
しかしその質問、投げかけるのにかなりの勇気が必要だったはずだ。
ならばそれに応えてやろうではないか。
「ええ。 男性相手
「「「「「おおおおお!」」」」」
「「「「「きゃああああ!♪」」」」」
クラスの約半分が男女に関係なく黄色い声を出す。
恐らく何人かは『シュゼット』を思い浮かべているのだろうが、残念だな。
『シュゼット』になるのは俺ではない。
………
……
…
同日、さっそくダンスレッスンが始まる少し前に俺は男子生徒相手の
「────と言う訳なのだが、頼めるかライカ?」
「いいぞ。」
「早。」
「??? 何がだ?」
「『承諾するのが早かったな』と言う意味だ。」
「男性のダンス相手の為に、僕に声をかけて来たのだろう? 断る理由が僕には無い。」
そんなに淡々と即決できるもんなのかねぇ……
「しかしドレスの調達はどうする? たしか舞踏会には家格表示としてオーダーメイドが基本だろう?」
「そこは平民出身の者たちも参加するから既存製品で通せる……いやちょっと待て、俺の話を聞いていたか? 俺が頼んでいるのは舞踏会のダンスの練習相手で、舞踏会への参加ではないぞ?」
「その為に『舞踏会への参加』を前提に聞いただけだが?」
真面目過ぎる。
「いや……練習相手なので今あるドレスでいい。」
「分かった。 試着はどうする?」
「予定が無いのならば、今でも手伝える。」
「では行こうか。」
「……………………………………」
「ん?」
視線を感じた方向を見ると、ライカを見ているアーニャが居た。
「……何?」
俺の視線に気が付いた彼女はいつもの表情だった。
「いや、別に。」
「そう。」
『いや、確実に俺を見ていただろ?』と追及するのも時間の無駄と思った俺の返事に、ライカレベルの淡々とした受け答えを俺はアーニャとする。
ガチャ。
「着替えたぞ、兄さん。」
おぅふ。
「股は慣れたが、肩がスースーするのは……どうもな。」
アカン。
想像以上だ。
着替え室から出てきたライカは……なんというか……俺の指示があったとはいえ『俺以上のシュゼットだった』。
俺が某フィンランドの魔術名門家のお嬢様を
カラーコンタクトもやり過ぎか?
しかもどこか俺の女装────変装時が高飛車に対してライカはダウナーっぽいから『やったねスヴェン♪ これでセ〇バーを二体インチキ召喚したのに仲間割れして即負けした姉妹だヨ♪』なのか?
いや落ち着け俺。
思考が途方もない方向にスパイラルしているという語彙力が崩壊しつつある。
ガシッ!
「ライカ。」
「なんだ?」
「男に言い寄られたらすぐ俺に言いに来い。 いいな?」
「???????」
両手で肩を掴んだ俺の
「『言い寄られる』とは?」
「『言い寄られる』とは……いや、声をかけてきただけでも俺に言え。 いいな?」
「分かった。」
あまり世の中を知らないというか疎くて『殺気』以外には鈍感なライカの事だ。
殺気が無い相手が近づかれて『あこいついいカモだ』とか思われてそのまま巧みに言いくるめられて一服盛られてそのまま身動きが取れないまま〇〇〇とか×××××とかされてこのまま海外に逃げようとしたところを俺が仕留めても『事後』ということに変わりは────
「────兄さん。 肩が痛い。」
おっと、いつの間にか力を込めていたか。
「ああすまない。 肩は……そうだな、ショールを羽織ればいいかも────いや、肌の露出が低いドレスの方が良いか。」
「……スヴェン
アーニャが何か言った気がするが無視。
ガヤガヤガヤガヤ。
数時間後、個人的なダンスレッスンには男女関係なく多くの者たちが集まっていた。
思っていたよりも大所帯になったのは、それだけ平民出身の者たちやダンスに自信が無い生徒たちが居るからだろうな。
まぁ、それだけ『ダンス』とは無縁な人生を歩んでいたということだろう。
こんな機会でもなければ、『ダンスの練習相手になってください!』なんて異性に言えないからな。
「多いな。」
「そうだなぁ……」
その『援軍』ことルルーシュとリヴァルのことである。
『なんで?』と思うかもしれないが、理由は単純だ。
まずリヴァルだが(そこそこ)イケメンで俺が『二枚目デビュー』させた後、本人の人当たりの良さと陽キャが功を表して知人が増え、芋づる式に自然と男女や平民に貴族関係なく人が集められる。
その中から基礎ができている者たちや教え上手な人たちに、『異性とのダンスに慣れる』ことを優先させる。
次第に素人も基礎ができるし、基礎はできているが緊張で上手くダンスが出来ない奴らは自信が上がれば自ずと本来の技術が出しやすくなる。
そしてルルーシュだが……どうやらいつの間にかシャーリーと正式に付き合うことになっていた。
それもルルーシュたちのクラスを担当している時、彼とシャーリーが良く一緒にいるところを見てリヴァルに聞いたところ『ああ、アイツらなんかちゃんと付き合うことになったんだよ』という返事が来た。
未だに『スヴェンも固まる時があるんだな!』ってケラケラ笑うリヴァルが恨めしい。
いやそれよりも何時だよ?!
夢の『ルルシャリ』カップル誕生の瞬間を見たかったッッ!!!!!!!!!
コホン。
とまぁ……ルルーシュがようやくシャーリーとくっついてからというものの、ルルーシュへのアピールはほぼゼロにまで下がった。
「でも『ダンス』って面倒くさいから、ここまで本気になる人たちが大勢いるなんて知らなかったなぁ~。」
「シャーリーが言うと本当に不思議に思うよな。」
「リヴァル、それは流石にダメだぞ。」
「てかシャーリーさ? 良いのか? ルルーシュが他の女子とダンスするの?」
「え? う~ん……面白くはないけれど……人助けの為だし、ルルが私を見てくれているってわかっているから♡(ポッ。)」
「そうだな。 それよりも早く卒業したいな。」
「え。 それって……どう言う意味?」
「……く、口に出すのは少し……ここでは恥ずかしい……」
「あー、はいはいはい。 お熱いねぇお二人さん?」
え? 『内心が逆ぅぅぅ』?
両方だよ。
「……しかしそれとは別にあれだぞ、スヴェン。 参加者が頑張りたくなるような褒美を用意しなければ間に合わないかもしれん。」
部屋の端で見ていたルルーシュが突然口を開いたと思ったら上記の言葉を『監督』である俺に言う。
「ルルーシュもそう思うか。」
「参加したからにはその意思があるが……『人間』はゴールが見えなければ自然と不安を感じる生き物だ。 そしてその不安が本王を刺激し、『変化』を避けてしまう。 たとえその変化が良いモノでもな。」
あー、愚痴をこぼしながらも毎日同じことをやる人のメンタリティーの奴だな。
「まぁ、任せておけ。 考えがある。」
ニヤリ。
あ。 めっっっっっっっっっっっっっちゃ嫌な予感がする笑みだ。
「コホン! あー、一つ言い忘れたことがある! 一番上達した男女にご褒美として、舞踏会本番で一曲目をスヴェンとライカが踊ってあげると言ったぞ!」
え゛。
ルルーシュ────
おま────
ちょ────
なに勝手に────
えええええええええええええええええええええええええええええええ────
「「「「「────おおおおおおおおおおおおおおおおお────?!」」」」」
「「「「「────きゃああああああああああああああああああああああ!!!」」」」」
ルルーシュの言ったことを聞いた者たち全員が悲鳴に似た喝采を上げ、女生徒たちは期待に満ちた目をしながら胸の前で両手を握りしめ、男子生徒たちはガッツポーズをしていた。
もうこれ、漫画だったら目に星か炎マークを付けているな。
……努〇マンとか某ヒーローみたいに。
「とっっっっっっっても素敵な提案ですわ!」
「舞踏会でスヴェン先生と……」
「頑張るぞ!」
「あの儚げな表情が庇護欲をそそるだよな……」
「アプローチしようにも、スヴェンが過保護過ぎて……」
「私は、ライカちゃんの方が────」
「「「────だから何でこういう状況でカミングアウトする訳?」」」
えええええええええええええええ。
そこまで?
なんで皆オールーオーケーで喜ぶの?
「ククククククククククククククククククククククククク。」
こここここ
絶対ワザとだ!
このドSが!
「まぁ、正直に言うとアレだスヴェン。」
啞然としていた俺に、ルルーシュが小声で話しかけてくる。
「お前とヴィレッタが婚約しているというのはあくまで『噂』だ、発表が無かったからな。 その程度なら、まだ皆は目を瞑ってまで『夢』が見れる。 言い換えれば……そうだな、お前は『一度は付き合ってみたい男性』のままだ。 しかも自分の努力で思い出になるような経験ができる。 しかもお前の『シュゼット』を文字通りに表現してくれているライカもいるから男子にも『夢』ができた。」
釈然としないが……『理解』は出来る。
「皆の為だスヴェン。 甘んじて褒美となれ。 ククククククククククククククククククク。」
ぶん殴りてぇ。
ザワザワザワザワザワ。
次の日の放課後、ダンスレッスンの続きを予定していた教室に来ていた生徒の数に俺は思わず固まりながら頭を傾げた。
いや、人数が増えたのは純粋に嬉しいのだけどね? これであぶれる人とかが減るし、何よりダンスが上手い人たちも来ているみたいだし、率先してダンスを教えてくれているから負担が減るし何よりどう言う訳かライカはともかく俺とルルーシュとは女生徒は踊りたくないという『何故に?』状態からは脱したけれど……どうしても不思議なのよ。
何でかって?
もうね、倍増とかの比じゃないぐらい明らかに教室がごった返すほどの人数が来ているのよ。
「スヴェン……お前、何をした?」
「
「……素が出ているぞ、スヴェン。」
そんなジト目で俺を見るなよルルーシュ!
焦りで思わず素が出ちゃうくらいに俺だって知りてぇよ!
「おおおお~! 増えてる増えてる♪」
入り口で立ち止まっていた俺とルルーシュの背後からミレイの声が────あ。
「ミレイさん?」
「な~に、スヴェンさん?」
「何かしましたね?」
「何かしましたとも♪」
「何をしました?」
「いやね、昨日のルルーシュが言ったことを
「……会長────じゃなくて先生! まさか?!」
ルルーシュが焦っている。
それに伴いワイの不安ボルテージもただいま限界突破中の天元突破。
「そ♪ 『ダンスが一番上達した人が一曲目の相手を誰だろうと指名できる』って褒美を変えたの♪」
「「何しているんですかミレイ先生?!」」
「まぁまぁ。」
俺とルルーシュの声がハモり、俺たちの気迫にミレイは苦笑いを浮かべながらも声を下げながら言葉を並べていく。
「皆、ルルーシュやスヴェンとかの様な『
「────ならばなぜ誰も俺たちと踊りたくないんだ?」
ナイスな質問だルルーシュ。
「ちょっとストップ。 ルルーシュ、本気でそれ言っている?」
「本気ですが?」
「えええええ…… スヴェンからも何か言ってよ!」
「私も理由が聞きたいですね。」
「え。 マジ?」
マジですが、何か?
「貴方たちね……二人だから言うけれどさ? どうしてここまで自分の美貌と女の子の羞恥心に無頓着なの? 意図的なら正直に言ってクズよ?」
「「『意図的』?」」
「うっっっっっっわ。 天然かよ。 コホン……優秀な頭脳と整った顔に引き締まった体つきに穏やかな話し方に高貴な振る舞い……そんな、どこからどう見ても『普通じゃない』二人は『特別』なの。 それは最早二人に相手がいるかどうかなんて関係なく堪えようのない『夢』。 誰も土砂降りの中でお気に入りの服と靴を履きたくないでしょう?」
「「……なるほど。」」
つまりアレだな。
『気軽に接するのは恐れ多い』という奴。
「はぁ~……ミレイ先生は『商人』が似合っていますよ。」
「ちょっと、どう言う意味よルルーシュ?」
「人の求めるものを理解し、興味を引き、周りを巻き込む方法は凄い才能ですよ。 『教師』では活かしにくい類の。」
「あらありがとう♪ でも私助教で止まるつもりはないから。 いずれはおじいちゃんから理事長の座を譲ってもらうから、その時はよろしくね二人とも♪」
「「ははははは、気が向けば/時間があれば。」」
「……今はそれでもいいわ。 そ・れ・よ・り♪ もうそろそろ教室だと狭いから講堂の使用許可をもらったからそっちに移りましょう?」
いつの間に?!
ルルーシュの言ったように、ミレイって手際良すぎる……
「ミレイ先生のその才能……本当に理事長を目指すのですか?」
「私が納得しているなら、それで十分でしょ?」
「……それもそうですね。」
そこで
「……」
「君は舞踏会に参加しないのか?」
「ぎ────むぐ?!」
スヴェンたち一行が教室から講堂へと移動する様を、気付かれないよう静かに物陰から見ていたカレンが突然後ろからきた毒島の声に悲鳴を挙げそうになった自分の口を慌てて両手で塞ぐ。
「ぶ、毒島さん────?!」
「────だから『さん付け』は! ……いや、もういい。 それよりも参加はしないのか?」
「えっと……『どうかな~』って、思っています。」
「??? 何を迷う必要がある? それとも……君が最近よそよそしくしているのと関係しているのか?」
「え、ええええー? そんなことは無いと思いますけどー?」
「私の中では、君が一番の
「気のせいですけどー? それと『候補』って、なんのことやら~?」
「……悪いことは言わん。 アンジュが何かを誤魔化す時にする真似はやめろ────」
「────真似じゃないですけど?! というかあのイノシシ女と一緒にしないでよ?!」
カレンの仕草が余りにも似ていたのか、目の前のカレンにアンジュが面白いほど綺麗に被った。
「…………………………そうか。 それと、君はミレイ先生から聞いているか? 『ダンスが一番上達した人が一曲目の相手を誰だろうと指名できる』────」
「────あー、確かに聞いたわ。 それが何?」
「なぜ君が彼を避けているのかは知らないが、いいチャンスだと────」
「────『チャンス』って────」
「────なに、ダンス中なら二人きりで話ができると言いたいだけだ。 それなら────」
「────話す? 私がアイツと?」
カレンは毒島から目を外し、複雑そうな笑みを浮かべながら俯いた。
「……毒島さんだから言うけど、ちょっと……
「怖い? 何がだ?」
「…………………………昔、酷い仕打ちをしたんだ。 アイツに。」
長く気まずい沈黙の後に、カレンの口から出てきた言葉は毒島にとって意外なものだった。
「それは……君にそんなことを言わせるとは……相当なものなのだろう。 だが彼の事だ、誠心誠意を込めた謝罪────」
「────ダメ。 それは……
「それならば、感謝を申し上げるのはどうだ?」
「え?」
「全身全霊を込めて、伝えるのだ。 一対一の場で、ただ『ありがとう』と。 それだけでいいのではないか?」
「そう、かな?」
「そうだとも。 謝るよりも、感謝のほうがたいていの場合いい意味として伝わりやすい……と、お祖父ちゃんの受け売りだ。」
「……毒島さんってお祖父ちゃんっ子なんですね?」
「他の皆には内緒だぞ? 聞かれたらどこぞのアイドルファンのように着替えて歳に似合わず騒いで、恥ずかしいことこの上ない状況が出来上がるからな。」
「……ねぇ、毒島さん?」
「なんだ?」
「毒島さんは……ライカの事を
「うん? 『世の中を知らない雛鳥』……かな?」
「そっか。 変なことを聞いてごめんね?」
「構わないさ。 ああ、それとダンスの練習をするのならヴィレッタのところへ行くといいぞ。」
「ありがと!」
「……」
毒島はそのままカレンを見送り、誰もいない教室内を見る。
「(『ライカの事をどう思う』か……もしやとは思うが、私の『記憶違い』では無いということか? ……いや、『
毒島は浮かんだ疑問にあまり時間はかけず、そのままカレンの走っていった方向を歩きだした。