初冬が過ぎ、本格的に冬が日本を含むアジア諸国に訪れようとしていた。
夜空の星より明るい街の明かりが特に目立つ、東京の片隅にある小さなお店に場は移る。
ガチャ!
お店のドアが乱暴に開かれる音が店内に響く。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ! さっっっっっっっっぶ!」
店内に入ってきたカレンは内外との温度差で一気に耳まで赤くさせ、着ていたジャケットを脱ぐと丈が短く、身体のラインがはっきりと分かるコンパニオン夜会風のドレスを着ていた。*1
「あ! カレン先輩、お疲れ様ですぅ~!」
そんなカレンを出迎えたのは店員で和風衣装を身に纏ったライラだった。
「ライラちゃんも~! 取り敢えずいつもの!」
「ハイでーす! 熱燗ですね~?」
ガチャ!
「「さっっっっっびぃぃぃぃぃぃぃ!」」
「あー、騒がしくてごめんねライラちゃん。」
またもドアが開き、今度はスーツ姿のチャラ男玉城と杉山、そして軍服姿のスザクが入店する。
「だいじょうブイ! です!」
「てかカレン、お前も仕事上がりか~?」
「それ以外の何に見えるの? てかもう酔っていない? 早いと思わない、ライラちゃん?」
「めっちゃ早いです。」
「ああ、その……実はこの馬鹿、よりにもよって他人の予測を鵜呑みにして一転狙いしたんだよ。」
「あの金髪赤目の評論家姉ちゃん、全ッッッッッッッッッッッッッッッッッ然当たらねぇとかあり得るかっての!」
「ちなみにアンジュさん、料理も下手です。」
「なんでライラちゃんが知っているの?」
「えっと…………………………………………………………内緒ですよ?」
真剣な顔をしたライラが手招きし、玉城を近くの椅子に座らせてから近づいたカレンと杉山に囁くように小声で喋る。
「私たちの遠い親戚なんです。」
「「Oh……」」
「えええと……ご愁傷様?」
「フッ。 あの人の料理が『意思の持った蠢くコールタールの様なナニカ』になって這い回る姿を見るのは一度だけで十分です。」
「「「(どんだけだよ。)」」」
ここではどこかを見つめながら上記を口にしたライラの目は遠く、いつも誰の事も悪く言わない彼女がこのような姿を人前で見せたことにカレンと杉山とスザクの三人は内心でまだ見ていないアンジュの料理に引いた。
「それはそうとさぁ、スザクぅ~?」
「ん?」
「藤堂さんから聞いたぜ~? お前さぁ~、ま~だあの子に
「ぬぅえ?!」
「へぇ~?」
「ふぅ~ん?」
「ほぇ~?」
「んな?! じ、自分はそんなことしていないであります! 兵士たるもの、お勤め第一!」
カレン、杉山、そしてライラが同じニヨニヨした顔で焦りだすスザクを見る。
「そもそも~? お前が狙っているの、世界の反対側から合同訓練に来たお姫様将軍の妹だろぉ~?」
「う゛。」
「しかもその子、訓練中は『示しが付かない』とか言われてお菓子が取り上げられて我慢できなくてコッソリ街に出る時に絡まれたところをお前が巡回中に遭遇した~? どこの青春ラブコメディ漫画なんだよ?! 主人公補正か?! 主人公補正なのかぁぁぁぁぁぁ?!」
「いやあああああああ、あっはっはっはっはっは! ライラちゃん、取り敢えずナナリーにはいつものをお願いする!」
「(『その人たちも異母姉妹です』って今言っちゃったら駄目です……よね?) ハイでーす────!」
「────大丈夫ですよライラちゃん。 皆さんの声、厨房まで聞こえていましたから。」
店内にある仕切りの向こう側から先ほど注文されたものを載せたおぼんを持ったナナリーが姿を現す。
「あれ? ライラちゃんだけで珍しいと思ったら、ナナリーが厨房に立っていたのね?」
「あれ、アイツらは?」
「ハイ。 二人とも、今日はちょっと急用が入ったらしくて今夜はいないんです。」
「え、まさかアイツ────」
「────いえ、二人とも別件だそうです。」
「あー、良かった! ルルーシュだけじゃなくアイツも沼にハマったらと思うと……」
「「「彼に限ってそれはあり得ません/あり得ないわね/ないです。」」」
ナナリー、カレン、ライラの声が重なる。
「だよなぁ……『俺は世界を相手に勝つ!』、とか大口叩いていたのになぁ……」
「ルルーシュの奴も、あれだけ頭がいいのになんで就職せずに賭け事や競輪にばかり出かけて妹たちをほったらかしにするのか……」
「しかもあんまりいい噂を聞かないし……」
「いくらアイツでもガセネタじゃね?」
ガチャ!
「心外だな────!」
「────うわぁぁぁ────」
「────出たぁぁぁぁ────!」
「────心配をする前に人をまるで亡霊か何かそれに類するものを見た反応をするな!」
「ああ、ルルーシュか。」
「スザクのこれが正常な反応だ。 諸君も彼を見習いたまえ。」
「「「(それだけは『無い』。)」」」
「ああ、おかえりなさいお兄様。」
「今日もがんも、大根、卵です~?」
「なんでナナリーはそんなに冷静なわけ?!」
「え?」
「こいつがなんて言われているか分かっている?!」
「えっと────?」
「────ルルーシュはな! 夜な夜な街に出ては常に傲慢な態度でどの店に行っても『ツケ』で片づけるんだよ?!」
「しかも『無職の博打打ち』で有名!」
「それに後払いだけじゃなくて『女たらし』で『ろくでなし』!」
「ちょっと待て。 最初はともかく、最後は俺ではない。」
「「「認めんのかえ。」」」
「そもそもだ、俺のやっていることは至極まっとうな投資……経済活動だ!」
「「「どこが『まっとう』やねん。」」」
ルルーシュはそのまま近くの壁に手を置いてから時計回りに回すと、近くの壁の一部が『かたん』と音を出して外れて金庫が出てくる。
「うむ。 問題なさそうだな────」
「────いやいやいやいや! 何そのギミック?!」
「しかも金庫って────」
「────これから大きな勝負に出るところだから金が必要になる……何を驚く?」
「いやまぁ……」
「でもこのお店のことを考えたら────」
「────さて、記憶通りに一億であれば────」
「「「────『一億』?!」」」
ガチャ。
手慣れた様子でルルーシュが開けた金庫の中には札束がびっしりと綺麗に詰め込まれて────
「────何────?!」
────いなかった。
「ななななななない?! 一億の現金は、いったいどこに?!」
「あ。 それならライラと一緒に寄付しました。」
「「「「一億を『寄付』って。」」」」
「ハイです! 慈善団体に寄付したです!」
「慈善団体って────」
「────はい。 『国際スバル教財団』です。」
「『国際スバル教財団』?」
「はい。 『居場所のない人に居場所を。 皆で幸せを。』 がモットーです!」
「胡散臭いのか、本当にそれを実行しようとしているのか判断がイマイチ付かないなぁ……」
「でもナナリーたち、よくそんな慈善団体を知っていたね?」
「あ。 それはライラが久しぶりに会ったマーヤさんから『あなたは今幸せですか?』って聞かれて、その流れで。」
「?????」
ナナリーの答えを聞いた瞬間に『胡散臭さ』がカレンたちの中で倍増し、全員が無数のハテナマークを出しながら頭を傾げたライラを見た。
「クッ! 何というイレギュラーだ! 帰ってきて早々だがこれから一億をひねり出さなければいけなくなった!」
「そもそも一億使って何する気だよ?」
「賭け事だろ?」
「フ、お前たちごときが理解できるとは思えんが……企業の買収だ。」
「あ、まともだ。」
「意外とまともだ。」
「あの詐欺師みたいなルルーシュがッ!」
「皆ルルーシュお兄様の事をボロクソ言い過ぎだと思うです……」
「そ、そう言うライラちゃんも否定していなくないかしら?」
「芸術で何とかやっていけているクロヴィスお兄様の方が良いです。」
「何を驚いている? 企業の買収は最初の一歩にすぎん。 その次は会社の見た目だけを大きく膨らませ、株式分割し、資産家たちが寄ってきたところで株価が限界近くまで上昇させ、増やした資金で別の企業を買収し、再び株価を吊り上げる! ここまで来れば理解できるだろう? いずれは世界を牛耳ることになるのだと!」
「それって『買収』と『吊り上げ』が上手くいくのが前提だろ、この馬鹿?!」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは?! 世界を動かすには僅か半分……世界の大多数である50%を動かすための26%を押さえていれば十分! それに足が付かないように、計画は三十弱のセーフティネットやバックアップを練っている……フ、完璧だ。」
「ルルーシュ……その計画は、ナナリーの為かい?」
「否定はしない。 この近所にも、再開発計画が進んでいるからな。」
「でもそれってお前の押し付けだろ?! 分かっていないなぁ。」
「分かっていないのはお前だ、杉山! ライラもほぼ無給で手伝わなければならないこの店一つで得られる未来など、たかが知れている。」
「だけどねぇ────」
「────ならば聞こう! お前たちに、ナナリーの幸せを! 未来を保証する力をお前たちが持っているとでもいうのか?!」
「「「「……」」」」
「あー、ルルーシュ? ちょっといいかい?」
「ん? 何だスザク?」
「実は僕に、年下の妹みたいないとこがいるんだ。」
「何? 初耳だな。」
「うん、神楽耶って言うんだけどさ? 毎年の夏休み、彼女は僕の家に遊びに来て『将来はお兄様のお嫁さんになって差し上げますわ!』とか上から目線で言っていた……会えなくなったけど。」
「……それで?」
「会えなくなった理由、聞く?」
「手短に。」
「彼女は毎回家に来ては毎日ゴロゴロしたり、ネットに書き込んだり、僕のへそくりで買った漫画を読んだり、アイスを買わせたりし、宿題もやらされて『嫁の生活を保証するのが夫の務め!』とか言って言い返したら蹴るし殴るし真冬に水風船を投げてくるし────!」
「────それは最早『妹』の範疇を超えているのでは────?」
「────DVじゃん────」
「────『でぃぶい』って何です、玉城さん────?」
「────ライラちゃんにはまだ早い────!」
「────それでとうとう周りも耐えられなくなって、近所の冴子に相談して『お行儀作法全寮制学園』を紹介してもらって送り出してからは音沙汰無しで……」
「恐ろしい話だ……だがその話、単純にスザクの愚痴だろ?」
「あ、バレた?」
「お互い、女難の相に悩まされているのだな。」
「ルルーシュも……」
「キモイ! 急に脈もなく『分かち合う』流れに入るなんてキモイぞお前ら!」
「ついでだから玉城……お前の女に関する話を聞いてやろう。 お前なら
「バカ言うな! 俺は一匹オオカミよ────!」
「────の割には井上さんには頭が上がらないじゃん────」
「────うるせぇよカレン────!」
「────そういうわけで、俺は一億を稼ぎに行く。」
ルルーシュはそのまま店を出ると、ナナリーが彼を追って外に出る。
「あ! 待ってくださいお兄様────!」
「────止めるなナナリー! これはお前の為なんだ────!」
「────お兄様────!」
「────これは一体どういうことなんだ?」
振り返らずにそのまま早足で歩きだそうとしたルルーシュたちに、横から来た声に全員が見る。
「あ、スヴェンさん!」
ナナリーは嬉しそうに駆け寄り────
「お前、スヴェンか? 今まで何をしていたんだ?」
────ルルーシュが目を見開き、上記の問いをスーツ姿のスヴェンに投げた。
「ん? どうもこうも、
「「「え。」」」
「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」
「流石スヴェンさんです♪」
「一段落したので、ここに来た。 まぁ人員不足なので、新しい国の住民になりたいかどうか誘いに来たというのもある。 興味はないかい皆?」
「「「「「ある。」」」」」
「ちょっと待てスヴェン! 貴様、どこを────勝手に他人の妹を撫でて────いや、そもそも全ての前に、どうやってその資金を得た?! お前はただのホストだった筈だ! 俺みたいに賭け事などをしない限り、そのような資金調達は不可能────!」
「────ああ。 実は先日、
「────きききききき貴様ぁぁぁぁぁぁぁ! は?! ということは────?!」
「────えっへん! サプライズ成功です!」
ハッとしたルルーシュが見ると案の定、どや顔で胸を張るライラが居た。
「という訳でカレンたちも来ないか?」
「うん! 勿論だよ!」
「そうか。 杉山さんは?」
「新しい国……面白そうだな。」
「そうか。」
「おう、オレもいくぜ!」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「なんでそこで黙って俺を見るんだよ、スヴェン?!」
「玉城だからな。」
「玉城だからか。」
「玉城だからなぁ……」
「玉城さんだからですぅ……」
「それで通じるのか?!」
「玉城さんもお店のツケ、払って下さいね?」
「ア、ハイ。」
「ああ、その前に言うことがあったな。」
スヴェンがナナリーに開き直り、なるべく彼女と目線を合わせようと身をかがめる。
「ただいま、ナナリー。 随分と待たせてしまい、苦労を掛けたな。」
「いえ。 いつかきっと来て下さると信じていましたから……」
「な、なんだこのやり取りは……これではまるで……まるで新婚────!」
「────ルルーシュお兄様は知らないです?」
「何がだ、ライラ?」
「スヴェン先輩、プロポーズしてナナリーがそれを受けたですよ?」
「なに?! 俺はそんな話、聞いていないぞ?!」
「隠居した両親が了承したですよ?」
「馬鹿な! あの二人がか?!」
「条件付きですけど。」
「何故だ……何故……」
「よく家を留守にして音信不通になるルルーシュお兄様が悪いです。」
がくりと膝と手を地面について落ち込むルルーシュに、ライラの容赦のない言葉がグサリと刺さる。
「い、いや! まだだ! まだ終わっていない! スヴェン!」
「なんだ?」
「お前はその国を足掛かりに世界でも手に入れるのか?」
「しない。」
「なぜだ?! あの一億を金庫に入れたのは半年前だぞ?! その期間で国を作れるのならば、世界を────」
「────面倒くさい。」
「「「「は?」」」」
「俺としては、周りが笑顔でいればそれだけでいい。 だがそれを害するのならば……たとえ世界を敵に回してでも守りたい。」
「やっぱりスヴェンさんのそういうところ、大好きです!♪♡」
「……………………………………………………………………むへ。」
何だかスゴイ夢を見たような気がする────
「────あ、ニヨニヨしながらお兄さんがやっと起きた────♪」
「────ぬを?!」
「アハハハハハハハハ! 変な声! 初めて聞いた♪」
いや朝一からドアップで美少女がのぞき込んでいたら誰でもするだろ?!
でもその前にマオちゃんや、俺の身体に乗っかかるのはやめてくれ。
「マオ。」
「なーにー?」
「どいてくれないか?」
その……色々と柔らかい部分がですね、当たっているのですよ。
「え~? お兄さんにもボクにも得しかないのに~?」
『得』って。
「とりあえず、どいてくれ。」
「は~い。 うんしょ、うんしょ。」
「待て待て待て待て待て。 何故前進する。」
そんなことしたらおパンツ見えちゃうでしょ?!
「え? お兄さんにパンツ見せようと思って。」
確信犯かよ。
「……見たくないの?」
そこ、
「……♡」
パチン♪
あと年齢的に似合わない上目遣いと紅潮した頬で妖艶なウィンクで誘惑的な雰囲気を出さない。
「はぁ~……マーヤはどうした?」
「マーヤお姉ちゃんなら先に来ていたよ?」
なにっぬ。
「多分、お兄さんの寝顔とか見ていたんじゃないかな?」
俺はマオ(女)の言葉を余所に、自分の顔を触る。
「??? どうしたの?」
「ああ、何でもない。」
なるほど。
マーヤはマオ(女)がくることを知って先に来たのか。
以前は寝ていても警戒はしていたのにこの頃────というかダモクレス後に『R2が終わった』という実感が湧いてからというものの、気を緩くし過ぎたか。
もしマーヤが来る前にマオ(女)じゃなくても他人が来ていればヤバかったな。
さてと……起きるか。
「……」
「どうしたの、お兄さん?」
「いや……無性におでんが食べたくなった。」
「『おでん』?」
……よし。
学園で作るか。
「…………………………………………………………」
同時刻、目を見開いたナナリーはベッドの上で耳まで真っ赤になりながら天井を見上げていた。
「(最近、合衆国日本の方たちと話したからか……………………………………………………………………凄い夢────)」
彼女は座り上がり、両手を自分の頬に当てる。
「(────ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、夢の中とはいえ……わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、私! 私はなんて言葉をサラリと人前で口にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!)」
なお、顔を両手で覆いながらベッドの上で悶えていたナナリーの姿と自分たちの声が届いていないことに侍女たちは彼女が何か発作的な病によって苦しんでいると勘違いし、名のある医者を無理やりたたき起こしたとか。
「いや、だから私もう医者じゃないから。」
どんまい、ラクシャータ君。
「はぁぁ……若いって、いいわねぇ~。」
……どんまい、ラクシャータ(29才)。(二回目)