『夜会』。
たった二文字だが大きな意味を持つ。
特に貴族制度が根強く残っているこの世界では。
高位な貴族であっても下級貴族であってもこれは変わらず、『貴族の令嬢』というだけで様々な前提をクリアしなければ話にならない。
センスが良く、バストとヒップの見栄えが高まるコルセットを着た上に高価なドレスと、セットした髪に装飾品での仕上げ。
これ等の一つがミスマッチしていれば『事業が上手くいっていないんじゃないか?』、『領地内で何かあったのでは?』、『お金や情報の伝手が無いのでは?』などど、様々な『邪推』が『噂』となり、それが積もれば『暗黙の認識』にまで至ってしまい、家同士の交渉や取引などに支障が出かねない。
というのが通常の『夜会』の認識である。
「ひゃあ?! シャ、シャーリーちょっとそこは!」
「あ、ごめんねカレン。 きつかった?」
「
「わぁ……なんていうか……」
「あ、分かるわよニーナ♪ 言葉だけ聞くと何だかエロいよね♪」
ギリギリギリギリギリ!
「ぐぇぇぇぇぇぇ!」
「もう! 動いちゃダメだよカレン!」
「ミミミミレイさんんんんンンンンンンン?! 本当にシャーリーで大丈夫なの?!」
「安心してカレン! シャーリーって裁縫だけは得意だから────」
「────『特化している』って言ってくださいよ先生! あ、コテいるニーナ?」
「ううん、大丈夫。 あ、ミレイちゃんはネックレスをしないの?」
「う~ん……ママには『付けて胸へのアピールをアップしなさい!』って言われているけれど、この時期だとちょっと冷たいから『ショールの方が良いかな』って。」
「それも手作り?」
「手芸部のね♪」
「もう本当に何でもありだよね。」
ドレスを身に纏ったニーナは、ため息交じりに
「だって仕方ないじゃない! あの二位まで上達したエカトリーナって子、ライカちゃんを指定したんだから! 断ったら絶っっっっっっっっっっっっっっっっっ対に面倒くさくなるよりはマシでしょ? それに『入場の条件が“ペア”と言うだけで、何も“異性のペア”であることは書かれていませんよねミレイ先生?』って、目が全然笑っていない顔を向けられたらニーナは断れるの?」
「それは……
「『ちょっと』だけねぇ~……じゃあニーナは教授も兼任しちゃう?」
「え?! む、無理だよ~!」
「でもでも~! 『一般的な舞踏会にて場違いではないものならば何でもオッケー』の指定と『パッと見て男装で可ならオーケー』のおかげで、『手作りのドレス』も男女のペアが作れなかった子たちも参加できるようになったですよ?」
「そのおかげでオートクチュールや値段や流行で競うことは無くなりそうだけど……」
「どうしたです、ミレイ先生???」
ライラはミレイが視線を向けていた本校を見る。
学園の行きと帰りを基本、(防弾&対テロ対策が施されている)リムジンで行き来しているライラは知らない。
夜会の前日から騒がしくなっていたアッシュフォード学園はさらに増してどこもかしこも騒がしかったことを。
特に女子の着替え室は『阿鼻叫喚』としか言いようがなく、女生徒たちは髪を結い合ったり、コルセットを締め合ったり、靴を履かせ合ったり、ドレスを着せ合ったりしている。
なお『バニー&バトラー』の夜会ではあるのだが流石にバニーを着て、そのままダンスする猛者は
というのも当初は給仕にはメイド部も先ほどライラが言った指定の変更により参加するようになってしまい、人の手を借りて着飾るオーダーメイドのドレスなどの類は至難の業。
その反面、バニーや給仕のメイドは比較的に着易い。
だが着易いから着るという訳でもない。
『ねぇ、これってファンデーションを塗った後だっけ?!』
『前!』
『ちょっとコルセットきつすぎ!』
『このぐらい締めなきゃ入らないでしょ?!』
『ぎえぇぇぇぇぇぇぇ!』
『ピンクとオレンジのチークのどっちがいいかどうやって決めるの?!』
『衣装に合わせる!』
本校から少し離れた位置にある生徒会のクラブハウスも例外では無かったが、その比は比べる間でもない。
「てかシャーリーは大丈夫なの、ドレス?」
「ん~?」
ドレスの裾上げなどをしていたシャーリーは裁縫セットを手にしたまま聞かれると、カレンを見上げる。
「だってオフショルダーのドレスの編み上げ紐、全然留めていないじゃない。」
「ピンで留めているから大丈夫だよ!」
「でもさっきから何度もズルズルと落ちているようだけれど……」
「え? そう? カレンがドレスを着るところって割と珍しいから気づかなかった────」
────ビリ!
「「「「あ。」」」」
シャーリーがカレンに指摘されてドレスを着直そうと立ち上がると同時に、不吉な布類が破れる音が出て騒がしかった場が静まり返る。
顔を真っ青にしたシャーリーが恐る恐る振り返ると、中途半端に留められていたドレスのヒモをシャーリー自身が踏んでいたことに気付かずそのまま立ち上がろうとして引っ掛かり、不格好かつ曖昧なところでほとんど千切れかけていた。
「「「「……………………………………………………」」」」
ガチャ。
「戻ってきたわよ────」
「────って、この状況は何かしら?」
着替え室のドアが開かれるとミレイのように男装したアンジュとメイド姿のマーヤは、あんぐりと口を開けて自分たちを見るシャーリーたちの様子に思わず入室することを躊躇した。
「ひ、ひ、紐が……」
「貸して。」
シャーリーが千切れかかっていた紐を持ち上げるとアンジュは近くの裁縫セットから針と糸を取り出して手慣れた様子でそれを縫う。
「ハイ。 これで取り敢えず無茶や無理な力を入れなければ解けない────」
「────ア゛ン゛ジュざん゛あ゛り゛がどう゛ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
涙目で(というか実際に涙を流しながら)シャーリーはアンジュに抱き着いた。
「ちょっと、こら! 言った傍から無茶な動きをしないの!」
「だっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ほらほら、メイクが台無しになっちゃうわよ? はい、鼻かんで。」
「ふぇぇぇぇぇぇん。」
「「「「……」」」」
「やっぱり全然似ていないです。」
「「「「ぷ。」」」」
つい先ほどまで『アンジュとシャーリーはやっぱり
男女など性別に関係なく今日はまさに、誰もが着飾っても文句は言われない日。
女性は勿論の事、男性も『夜会』に対しての準備が必要である。
何せいつもはアイロンをかけていないよれよれの制服を着ている男子生徒でも、面倒くさがらずパリっと
そろそろ夜会の開催時間が迫っている時間帯になり、目当てのパートナーとの合流を果たして一足先に会場へ集まったり、相手がまだ来ていない者たちはソワソワしながら携帯を弄ったりしていた。
「………………………………」
そして服装は既にフォーマルなものを着ており、あとは靴を履いて出かけるだけという状態のままの時間帯にリヴァルは
「………………………………………………………………よし。」
彼は数分後、覚悟を決めたかのような声と表情をしたまま近くに置いてある櫛と久しぶりに出したスタイリング用品セットを手に取った。
「……遅いな。」
俺の横でルルーシュが小さくぼやきながらポケットから出した懐中時計を見る。
正装を身に纏っている彼は絵になるなぁ。
『品位』というか、『気品』というか、なんというか……
まぁ、実際『皇族』の教養がある上に『中二病全開かつカリスマ的存在のゼロ』も完璧にこなせるからTPOは徹底しているし。
「女の子の準備には時間がかかるものですよ、ルルーシュ。」
「スヴェンに言われなくとも分かっている。 分かってはいるのだが……」
「何ですか、ルルーシュ?」
「何よ。」
俺を挟んでルルーシュは反対側にいるライカ(男装)とアリス(男装)を見る。
「お前たちはそこまで時間をかけていないだろう?」
「はっはっは、ルルーシュも面白いことを言うのですね。」
ニッコリ。
「……ライカ。」
「はい?」
「なんだその……初めて会った時のスヴェンを見ているようなんだが?」
「ああ。 これは兄さんの事を知っている者たちから話を聞いたり、過去のイベントで兄さんがどのような言動をしていたのを聞いてトレースしました。」
『トレース』ってライカ、お前。
それはリヴァルの十八番やんけ。
ああいや、アイツだったら『
「『
俺も同感だよ、ルルーシュ。
目の色だけを除いたら髪型や服装だけでなく、口調も完全に『従者見習いのスヴェン』そのもので『2Pカラー』といっても違和感がない。
でも『
「ルルーシュ。」
「なんだ、スヴェン?」
「待つことも大事だぞ?」
「………………………………………………………………………………そうだな。」
おりょ?
ちょっと間があったが、てっきり口八丁か反論するのかと思ったけど?
『ルルーシュも成長している』ということか。
「じゃあいちいち時間を確認するの、やめてくれる? こっちまで緊張するんだけど。」
アリス(男装)が割と強めな口調で上記を言う。
「……なによ。」
おっと、見過ぎて視線に気付かれたか。
「どうせアンタの事だから、『似合わない』とか思っているんでしょ?」
ジト目アリス、今日もごっそさんです!
と、いうのは別に置こう。
「いや、どっちかと言うと似合っている。」
「私が『女らしくない方が良い』って言いたいわけ?!」
「いや? いつものアリスも可愛いが男装の時は普通に凛としていて、そのポニーテールもあってか清流のような爽やかな浄気さが滲み出ている。」
「はへ。」
『何のことだ?』と思っているかもしれないが、こうね? スーツを着ているポニテアリスの姿が完全にアレと一致するんだわ。
Zeroの挿絵にあったスーツセイバー。
「そ?! そんなことアンタに言われても迷惑という何ともなくないというかゴニョゴニョゴニョ……」
「クッ! 天然なのかこいつは?! 何故よりによってナナリーは……」
この間の甚平といい、その時のマーヤの感想といい、この間の聖〇の泥みたいかつ首無しデイダラでボッチ的なゼラチナス・ウーズ(小)モドキと、なんでこうも立て続けて『〇ate』に関連ネタがさく裂するの?
フラグなの?
フラグじゃないよね?!
フラグだったら今すぐにでも全部捨てて全力で隠居するからな?!
「おっまたせー!」
「ですー!」
おおおおお。
元気のいい声に振り向くとドレスを着たシャーリー、ライラ、カレンの三人がいた。
ライラとカレンのドレス姿はこれまでもたまに見たことがあるが、シャーリーのオフショルダードレス姿は……
うああああ……
うっわぁぁぁぁぁぁぁ……
「ど、どうしたのスヴェン?」
「なんだか先輩、今にでも画家を呼びそうな雰囲気です……」
「・ ・ ・ ・ ・ ・ ・」
冷ややかな視線にバーニング!
う~ん……カレンのドレス姿は数年ぶりだな。
というか写真に収めたいな。
本人は嫌がるけど。
「「カレン/カレン先輩?」」
「……あ。 な、何でもないよ? スヴェン、待った?」
「いや、さっき俺もここに来たばかりだ。」
「ルル、お待たせ♪」
「ああ、待ったぞ。」
「もう! そこは嘘でも気遣うところだよ!」
「多分、シャーリーのプリプリしながら怒るところを可愛いと思ってワザと煽っているんじゃない?」
「あ、アリスちゃんもそう思うです────?」
「────そんなことはない。」
ルルーシュのノータイム食い気味否定が面白すぎて思わず『図星やんけ!』って言いそうだったよ。
「そ、そ、それでさルル……ど、ど、どうかな?」
「何がだ?」
ドレスに決まっとるやろがこのウスラトンカチ。
「またまた~、ドレスの事だよ!」
「あー、ハイハイ。 似合ってる似合ってる。」
あれ?
思っていたより、割と掛け合いがフランク?
というか距離が近くないか、あれ?
ンンンンンンンンンン?
「あ、あの二人って正式にお付き合いしてかなり距離が近くなっているわよ?」
「なにっぬ。」
「いや、『なにっぬ』ってなによスヴェン?」
クッ! アリスのくせにニヤニヤしやがって!
べ、別に羨ましくなんてないんだからな?!
「・ ・ ・ ・ ・ ・」
コホン。
取り敢えず隣から来るジト目は無視して!
原作だと行き違いの事を手遅れになるまで引きずっていたカップルだったし、コードギアスファンとしちゃ嬉しい景色だけれどこうリアルで間近に見るとグッと胸にくるものがあるな。
あと涙腺がジワリと……
「……何かいうことは無いの?」
おっとっと。
「カレンも綺麗だぞ。」
「……なんだかその言い方、オマケみたいに聞こえる。」
「いや、普段からも可愛いが今日は一段といい。」
「はぇ……そ、そうでしょうとも! えっへん!」
「……」
パサ。
「え? あれ? ルル?」
「着ていろ。」
ルルーシュは自分の着ていた上着を脱いでシャーリーの方にそれをかけた。
「肩が……その……肌が出過ぎじゃないか?」
「えええぇぇぇぇぇ? ルルってば意外とファッション方面だと保守的な考え? お父さんだってそんなこと言わないのに。」
「しかし装飾品の類が無いのは意外だな。」
「う~ん……一応色々と見たんだけれどね? ピンとくるものが無かったの! ……ごめんね?」
申し訳なさそうにシュンとするシャーリーを、ルルーシュはもう一度見ると僅かに微笑んだ。
「いや。 よく似合っている。 逆に無用なものが無い分、シャーリーをそのまま引き立てている。」
「はぅ?!」
「??? どうした?」
「も、もう! おだてたって何もないんだからね?!」
「???????? おだてる必要がどこにある?」
「あ、う……」
「さ、行こうか?」
うわぁ……
まさかつっこまれないどころか、スラスラと褒める言葉が出るとは思っていなかった。
ルルーシュもつっこんだり、からかったりせずにただ自分の隣に立つことをさも当然化のように振舞うためにか、彼女に腕を差し出した。
「あ、えと……じゃ、じゃあ……」
シャーリーがおずおずと、自分の手をルルーシュの腕に差し入れた。
ッ。
これだ。
これを見たかったんだ。
あああ……
これで……
「────スヴェン?」
む。
俺は俺でカレンをエスコ-トをしなければ。
会場はそれなりに豪華な様子に変わり、天井にも飾り立てられたシャンデリアと、壁際に出来たてのビュッフェスタイルの料理とアイスクリームに合うデザート類が並んでいた。
そしてその食事スペースは見事に学生たちでごった返しだった。
『花より団子』というか『華より団子』だな、あの込み具合は。
「「「「……」」」」
まぁ、目をキラキラ輝かせているシャーリーたちもそうだが。
「シャーリー、どれがいい?」
気が付けば、いつの間にか俺たちは食べ物を載せてお皿を持って、壁際に並べられていた椅子に座っていた。
「う~ん……あ!」
シャーリーはトッピングをバゲットに留めてあったピンチョスを指で摘まむと、悪戯っ子がするような笑みでルルーシュの口元にそれを向ける。
「はい、あーん。」
「………………………………………………」
そしてルルーシュはシャーリーの行動に対して『お前、正気か?!』とでも言いたそうな表情を浮かべて、近くで空気に徹しながら見守っていた俺たちをちらりと見る。
「「「「……」」」」
「あーん。」
「………………………………………………」
「ドキドキです。」
「「「……」」」
「あーん。」
「………………………………………………」
「ワクワクです。」
「「「……」」」
ルルーシュの奴、君を睨んでいるぞシャーリー?
これ以上は逆効果じゃないかな?
そもそも周りの生徒たちの注目を浴びているのに、更に注目を浴びて────
────パクッ。
た、食べよったぁぁぁぁぁぁぁ?!
「「「た、食べたー?!」」」
「おおおおおおおおおおお! (キラキラキラキラ。)」
俺が心の中で思っていたことを周りの者たちが口に出し、ライラは目をキラキラさせ、周りのざわめきにどよめきが混じる。
「ムグムグムグ……もう一つ頂こうか、シャーリー?」
「は、はいぃぃぃぃぃ?!」
「どうした?」
あ、これは知っていて行動している表情だな。
ま、顔を輝かせながらせっせとルルーシュの口に食べ物を運び続けるシャーリーを見たら言う気が失せるから言わないけど。
「……………………………………ねぇルル。 どの子か覚えている?」
「きちんと覚えているから安心しろ。」
いや、よく見たらエントランス近くの壁際でポツンと立っている子がいる。
すらりとしつつも低身長の割に整った顔立ちとかなりというかものすごくアンバランスなほど肉付きのいい胸を持ったミーヤ・ヒルミックだから注目がそれているから、ルルーシュの行動はシャーリーの為だけじゃないな。
彼女の周りに、ペアとなる男性か男装した子の姿が見えない。
様子から見て、彼女のパートナーがまだ来ていないことにひそひそしていた生徒たちの注意をルルーシュはわざと引くためのパフォーマンスをしたんだろうな。
かつシャーリーを喜ばせるなんて鮮やかな手……本当に怖い。
『きゃあああああああ?!♡』
そこまで考えるとエントランスから動揺を含んだ黄色い声が聞こえてくる。
何事かと思い、俺たちが見ると何が────いや、『誰』が悲鳴の原因か分かった。
というか、見ていたらまるでモーセの海割のように生徒たちが避けるかのように道を作っていく。
その『原因』とは見目の良い男性であり、彼は一直線にぽかんと固まっていたミーヤへと近づく。
え? 誰?
見たことがあるような……ないような……
「……」
「よ。」
でもあんな貴公子っぽいやつ、学園にいたか?
やっぱりネーム無しのモブでもイケメンや美女がいるんだな、コードギアスは。
「ちょっと準備に時間がかかったが、間に合ったようだな。」
「……え。 もしかして……先輩?」
「他の誰かに見えるか?」
「ふん。 ようやく吹っ切れたか、リヴァル────」
「「「「────アレがリヴァルぅぅぅぅぅぅ?!」」」」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!
嘘やろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!?!?!?!
エロパートまでたどり着けなかった……次話こそは…… (泣