「────なぁスヴェン、聞いているか?」
リヴァルの声に俺はハッとしてはいつものようにサッと首を動かさずに周りを見渡し、視界に入ってくる景色を確認する。
テーブルと室内の飾りつけからここがクラブハウスだということ、そしてテーブル上にあった書類を俺が手に持っていることからクラブハウスでも生徒会室内だということは分かった。
次に窓際のカレンダーと書類に載っている日付、そして外を見てあの夜会から数日後の放課後だと理解した。
「ああ、何でしたっけリヴァル?」
という訳で俺は『優男』の仮面を装着し、すぐに当たり障りのない返事を返す。
幸いなことに、さっき見た限りでは近くにはリヴァルしかいない。
「いや、ここのところルルーシュが本調子じゃないというか……よそよそしいんだよ。 スヴェンは何かあったか知らないか?」
「い、いや? どうだろう?
「なんじゃそりゃ? 何もなかったのに何かがあるのか?」
いや、言ったそのままなんだが。
「あとはシャーリーも本調子じゃないんだよなぁ~。 普段から心ここにあらずって感じが時々あったけれどここ最近は特にひどくて壁にぶつかったり、ダイビングボードから足を滑らしたり、クラス中に意味不明な奇声を出しながら体をくねらすし、無言で百面相したり。」
いや、それって多分思春期特有の
アレだアレ。
『実技や予習は完ぺきだがいざ本番だと全く力が出ないどころか転んでその後に恥ずかしさから一人で舞い上がるタイプの照れ隠し』。
っと、現実逃避はここまでにして────
「────それよりもリヴァルは髪を下ろしたままなんだな?」
「んぁ? あー……まぁな。 あの夜会の後、
「────いまなんて???」
「だからミヤちゃんたちとかにこの髪型を────」
「────ミヤちゃんとは誰だ?」
やべ。
『そんな子いたっけ?』の強い疑問に思わず素が出てしまった。
「ああ、ミーヤのあだ名らしい。 で、そう呼んでくれって頼まれたんだ。」
ホッ。
リヴァルが単純でよかった。
セェェェェェェェェフ!
でもあのアニメだとあの『なーにマイハニー?』のワンシーンでしか登場しなかった
確かに『残念な二枚目』から『そこそこ優秀な二枚目』に俺がプロデュースしたが……いくら何でも『あだ名で呼んでくれ』って早すぎじゃないか?
「いや~、あの時は大変だった。 いつもならルルーシュかお前の近くにいるから遠慮するやつらが居たのに二人ともいなくなった瞬間、すぐさま俺たちの所に人が集まってあっという間に
「今までのリヴァルが
「オイちょっと待てスヴェン! どう言う意味だよそりゃ?!」
やべ。
「すまん、言葉足らずだった。 『今までのリヴァルがあまりにも『ミレイ先生推し』で他の女性に目も向けなかった反動だったのでは?』と言いたかっただけだ。」
「それでもヒデェ────!」
「────あのぅ……リヴァル会長?」
横から新人の準生徒会部員の一人がいつの間にかドアから顔を出させながら、遠慮するかのような声をかけてくる。
「ん? どうした?」
「会長宛に手紙が来ているんですが、いま良いですか?」
「オレに? はぁぁぁぁぁぁ……またかよ。 今度はどのクラブからだ? テニス部か? それともバスケ部か? ラグビー部か?」
「いや、その……封蝋がされているヤツです。」
「じゃあ馬上部か? それとも剣術部……は、どちらもスヴェン案件だな。」
なんでじゃい。
そもそも俺、先生になっていることをこいつは忘れているんじゃないかな?
ここに居るのはミレイの代わり?的な意味だし。
「いえ、ですからリヴァル先輩宛て何です……」
「……」
リヴァルはおずおずと手渡されてきた手紙の封蝋を見て俺が今まで見た中で一番分かりやすい、今にでも彼の背景にデロンデロンでブルーな嫌悪感を表すエフェクトが似合う表情を浮かべた。
というかリヴァルのこのこんな
「どうしたリヴァル?」
「カリフォルニアからの手紙だ。」
「カリフォルニア? 母親からか?」
「親父からだ。」
「そ、そうか……珍しいな。」
「租界……じゃなくて『トウキョウのブリタニア区にある邸宅にいるから来い』って。」
「……お、おぅ……」
これは……ちょっとだけ重いな。
リヴァルの奴、お世辞にも『父親との関係は良くない』って言えないぐらいお互いを嫌っているからなぁ……
それが突然父親からの手紙の上に呼び出しは……
「どうする、リヴァル?」
「いや、どうするも何も『行かない』って選択は────」
「────無いんじゃないか? 母親に迷惑をかけたくないんだろ?」
「まぁな。」
リヴァルは素っ気なさそうに答えながら天井を見上げる。
「相談するならいつでも話を聞くぞ?」
「ん。 そんときゃよろしく。」
「リヴァルお前、シャーリー・フェネットと仲睦まじい様子じゃないか?」
「…………確かにフェネット嬢は友人ですが、残念ながら恋仲というのはただの噂ですよ父上。」
東京内の租界だった高速道路を走るリムジンの中でリヴァルは外の景色を見つつ平然を装いながら内心で舌を打ってから正面に座っている実の父親────ロベルト・ヒューズの言葉を否定する。
「噂? いいや、ただの噂ではない。 私の耳に『フェネット嬢の心はヒューズの子息にあり』という情報が届いている。」
「情報? 一体────」
「────最近のお前の私生活と見た目、それに散々嫌がっていた舞踏会への参加なども届いている。 その上フェネット嬢とのダンスとその時の様子。 僅かな可能性があるのならば噂の真意などどうでもよい。」
「父上はご存じないのかも知れませんが、フェネット嬢が懇意にしているのは同じ友人の────」
「────現皇帝代理のおかげでこれからのご時世では血の存続や過去の献上だけでなく、社会への貢献も必要となってくる。 何やらサクラダイトによらない電力供給などの話が出ているが、未だにサクラダイト関連────例え副業だとしてもは地味だが製薬会社の職は確かで、これからの時代へのとっかかりにもなる。」
「ですから、彼女は既に────」
「────彼女の相手は平民だ。 成績も常に首席近くであろうが器量も良いそうだが所詮はただの平民。 どうとでもなる。」
「……手荒い真似は感心しませんよ父上。」
「手荒い真似? そこまで私が時間を割くと思うか?」
「(分からねぇから聞いているんだよ、クソ親父。)」
「私はその同じ時間と労力を使うのならば交渉で使いたい……フェネット嬢が懇意にしているお前の友人とやらの両親と私が直に話そう。」
「父上の口にするその『交渉』というのは『圧力』も入るのですか?」
「私は野蛮人ではなく貴族だ。 他の貴族はともかく、貴族としての誇りと秩序を曲げるような真似はしない。 交渉はあくまで遺恨の残らない交渉だ。」
「(その『遺恨が残らない』ってのが既にアウトなんだよ。) 場所は邸宅ですか?」
「フェネット家の屋敷になるだろう。」
「……」
「どうした?」
「ああ。 えええっと……意外と思いまして。」
「こちらの都合なのだ。 礼儀というものを知っておけリヴァル。」
「(その礼儀をどうして貴族相手だけに限定するんだよクソ親父。 ほんのちょっとだけそれを貴族とその他に向ければ────って、また怒鳴り合いになるか。)」
「────という訳なんだが……スヴェンは何かアイデアが無いか?」
何で俺やねん。
コホン。
『父親からの呼び出し』があって翌日リヴァルが会いに行くところまではいいが……
会ってまさかの『シャーリーと付き合え』って、話が跳躍しすぎていないか?!
……貴族的にしていないんだろうな。
「リヴァル……前に相談して良いと言ったが、なんで先に
「だってこの頃、オレより良く一緒にいるようになったじゃねぇかお前ら。」
まさかの
てかリヴァル、そんなムスッと拗ねた顔をするなよ。
無駄に二枚目にプロデュースしてしまったから思わずお茶目に見えたじゃないか。
「そうは言うが、リヴァルの父親はルルーシュの両親に会うんだろう? ルルーシュに話をする方が適任じゃないか?」
という訳で『秘儀・マ〇オマント返し』!
『丸投げw』?
そうとも言うネ。
「いや、スヴェンの方が貴族として上だし貴族に慣れているからと思ったんだが……やっぱルルーシュに話をした方がいいか。」
うんうん。
素直でよろしい!
…………
………
……
…
「────という訳なんだが……スヴェンはどう思う?」
何だかスッゲェデジャヴ感。
違いがあるとすれば場所がクラブハウスじゃなくて機密情報局のアジトで相談しに来た相手がリヴァルからルルーシュにチェンジしたことか。
「いや……そこは俺ではなく、ルルーシュが……その……
『秘儀・マ〇オマント返し』! アゲイン!
「母さんたちか……俺も考えたが、母さんはともかくあの男に頼るのは癪だ。」
ルルーシュ、そんなムスッと拗ねた顔をするなよ。
あれ? デジャヴ感が上昇したぞ? 5倍以上のエネルギーゲインがある!
「そもそも『ランペルージ』という姓もアッシュフォード家を通してあの二人が用意したのだろうルルーシュ?」
「…………………………………………………………何故スヴェンがそれを知っている?」
あ゛。
そう言えば
いや、俺だって聞きたくなかったよ?
でもね、
その時にどんどんアニメや外伝で語られなかったじゃんじゃか出てきた話に引いたよ?
思わず『なんでお前ほどの男がその周到さと甲斐性を直接ルルーシュやナナリーたちに伝えなかった?!』って叫びそうだったよ。
「……………………………………………………………………」
ううううう……そのジト目攻撃を止めてぇぇぇぇぇぇ。
キリキリキリキリキリキリキリ。
吐き気と胃の痛みがぁぁぁぁぁ……
「……まぁ良いだろう。」
ホッ。
「そうだな。 スヴェンの言う通り、あの二人に話せば済むことなのだが……どうやら『ランペルージ』の設定は作ったはいいが、『実』が伴っていないらしい。」
「??????????????????」
「つまり、書類上は完璧だが……」
あああ、なるほどね。
「ふ。 あの男もミスをするのだな。 フフフ……」
いや、そうやって愉悦に笑っているけれどよりにもよってそれを君が言うのかね?
ま、シャルルの事だから『両親との対面』とかに事が発展する前に潰すつもりだったんだろうけれど。
君の作り上げたゼロみたいに何重にもセイフティーネットを重ねてさ?
で、まさかの
「さて……ここで何故君に俺が相談しに来た理由だが……『設定』の指示はあの男が出したことだ。」
うんうん。
「直接携わったのは機密情報局だ。」
うんうん。
「そしてその機密情報局に命令をしたのはあの男の元主席秘書だ。」
……うん?
「スヴェン、君とベアトリス・ファランクスは面識があるな?」
オラ、やな予感がすっぞ。
「彼女と話を付けてくれないか?」
ニッコリ。
『秘儀・マ〇オマント返し』がブーメランじゃなくて巨大ブーメランとして頭にざっくり戻ってきやがった。
なんでじゃい。
…………
………
……
…
「ふぅん……それで?」
俺が説明し終えると目の前のベアトリスが眼鏡を外して興味無さそうなトーンのままただそう返してくる。
取り敢えず(内心で)言っていいかな?
俺の休日と時間を返せぇぇぇぇぇぇ!!!!
その見た目とジト目と胸の形がクッキリ出る服は眼福だがその態度と『あ、戦ったら死ぬ』感で台無しだよ!
「いや、『それで?』と返されても────」
「────
「『だけ』って────」
「────要するに、ルルーシュ・ランペルージが
それはそうなんだけど……他の言い方がなくないか?
『辛辣』ってレベルじゃないぞ?
「もう一度言うわ。 それで? 貴方たちは私に話を持ってきて何をしてほしいのかしら? ヒューズ卿の暗殺?」
「なるべく穏便な方法で……」
「ヒューズ卿程度の
この人コワイヨー。
「殺しは無しで。」
「……シャーリー・フェネットとリヴァル・ヒューズが交際しつつルルーシュ・ランペルージがシャーリー・フェネットの愛人ならば────」
────ドロドロの昼ドラ人間関係やんけ!
「そういったものもなしで────」
「────チッ。」
この人、舌を打ったよ?!
どことなく大人版アーニャを見ている様な気が────
「────何かしら?」
「……いや?」
「そもそもそのリヴァルとシャーリーの二人は貴方にとって何かしら? ただの友人でしょう? なぜそこまでするの?」
「なぜと言われても……友人だからこそ────」
「────『友人』と言ってもたかだか4,5年の仲でしょう?」
確かに『たった4,5年』かも知れないが、俺にとって二人はこの世界に来る前から知っているからなぁ……
でもド直球にそんなことをこいつに言えないし……
「……」
「それとも何かの考えがあっての────?」
「────『友達』なんだ。」
「だから、友人────」
「────『友達』に、
「……」
「
「……」
「俺は……
俺の言葉にベアトリスはただじっと俺を見る。
まるで品定めをするかの────いや、まるで俺の目を通して魂まで見透かされているような気分だ。
「…………………………………………良いでしょう。」
はぇ?
「ヒューズ卿が来る予定を連絡しなさい。 私が合わせるわ。」
「え?」
「『え』?」
「いや……『合わせる』って言われても────」
「────ああ、そうね。 ルーベン・アッシュフォードにもその日のアポイントをすべてキャンセルするように伝えて。」
「あ、ハイ?」
「アンジュリーゼも同じく。」
「あ、ハイ。」
「それとリヴァルにいい雰囲気の相手はいるかしら?」
「え?????????????????」
「いないの? いるの?」
「えっと……ミーヤ・ヒルミックって子────」
「────ヒルミック……ああ、あの家系ね。 リヴァルとそのミーヤはもう
「────ダンスですね! ダンスはしました!」
この人ってば極端過ぎる!
「ダンス……弱いわね……」
なんだか指を口元に当ててブツブツと独り言を言い出したぞ。
ま、その隙に周りを見るか。
前に来たときは余裕なんてなかったからな。
ベアトリスだけならともかく、マリアンヌもいたからなぁ……
周りを見ようとちょっとだけ気を緩めたらフワリとした花の匂いが俺の鼻をくすぐる。
匂いの元を辿ると、開いていた窓のすぐ外に真っ赤な花が植えられていることにちょっとびっくりする。
あ、いや……花があることにビックリしたのではなく、花の種類にビックリしたというべきだったか。
真っ赤な花のアレは確か……シネラリア。 日本では通称『サイネリア』。
花言葉は……ええええっと……『
日本語だと……『純愛』、『希望』、『喜び』、『常に輝かしく』、『華やかな恋』だったか?
このベアトリスにまっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったく似つかわしくないからびっくりだよ。
「あー……俺はもう行っていいか?」
俺がそう質問するとベアトリスは独り言を続けながら、まるで犬を追い払うかのように手をヒラヒラさせる。
いや、ほんっっっっっっっっっっっっっっっっっとうにシネラリアなんて似合わねぇ……
………………
……………
…………
………
……
…
それがどうしてこうなった。
「ほぉ……まさか貴方のような可憐なご婦人がルルーシュ・ランペルージの叔母とは……」
「あらあらまぁ♪ ヒューズ卿もまだまだ若々しくて逞しいですわぁ♪」
アッシュフォード学園の理事長室内にあるソファーに座っていた
俺?
今の俺は長い間着ていなかった従者見習いの服を身に付けながら紅茶を淹れている。
どうしてこうなった。(二回目)
未だに私生活がバタバタしていて投稿が私的なことで遅れて申し訳ありません。