畳みかけるようにリアルの事情が……
「お久しぶりです、ジョナサン様。」
「う、うむ。 スヴェン────いや、ハンセン卿も息災で何よりだ。」
「いつものように名前でいいですよ?」
「いや。 君も当主としての自覚を持たせるためにここはちゃんとした方が良いだろう。」
昔みたいに呼んでもらえないのは寂しいなぁ~。
「それに社交界デビューした際、君と会えば以前のように思わず接してかねないかもしれないしな。」
『貴族社会って超が付くほど面倒くさいから社交はしないと思う』……と言ってもいいかもしれないかな?
ジョナサン様は外交官だし、助言をしてくれるかも。
「大丈夫ですよジョナサン様、私は────」
ガチャ。
「────用事は終わったわ。」
「「え?」」
久しぶりにジョナサン様と会ったからか雑談がいつの間にか弾んでいた俺たちの会話を遮るかのように戻ってきたベアトリスが入ってくる。
てか失礼過ぎないか、こいつ?
いくら何でもこれはジョナサン様も注意すべきなんだが……
「……」
俺が視線をジョナサン様に戻すが、彼は苦笑を浮かべながら肩をすくませるだけだった。
「何かしら?」
「い、いやなに……ファランクス女公爵が戻ってくるのが予想以上に早かっただけだ。」
「シュタットフェルト卿、先ぶれもなく私用で来たのだから肩の力は抜いても構わないわ。」
だからその上から目線はやめろって。
じゃないと俺が怒っちゃうゾ☆
「それと貴方、車を出せるかしら?」
それなりの理由を口から出したジョナサン様の言葉をベアトリスはトーンを変えないまま答え、すぐに話題を俺に振ってくる。
「出せますが?」
というか有無を言わせないその圧力をかけないで。
「じゃあアッシュフォード学園までお願いできるかしら。」
「は、はぁ……」
「煮え切らない答えはやめなさい。」
そろそろ俺、怒ってもいいかな?!
「ではジョナ────シュタットフェルト卿、また後日にこの話の続きをしましょう。」
「あ、ああ。 次の来訪を楽しみに待っているよ、ハンセン卿。 スミカに挨拶は────まぁ……気兼ねなくいつでも来てくれて構わないよ。」
スタスタと歩くベアトリスの後を追う俺に、ジョナサン様は『頑張れ』と言いたそうな表情と共に苦笑いを送った。
なるほど……ジョナサン様はもう諦めているのか。
どないしよ。
…………
………
……
…
「はい、アルバム。」
「え?」
車に乗り込む前に、ベアトリスがアルバムっぽいものを渡してきて俺は思わず固まった。
「いらないの?」
「……あ、ありがとう?」
そう言えばあったな、アルバム。
「なぜ疑問形なの?」
「気のせいでは?」
「貴方、忘れていたの?」
「……いや?」
「・ ・ ・」
いやん♪ そんな冷た~い目で見ないでくださいまし♪ しもやけしちゃうわ♡
そもそも引っ越しもアンタの所為で急だったから、アルバムがあったことをすっかり忘れていたどころか留美さんが手放すのも躊躇していた様子だったし、あまり考えていなかったというか……
「……」
はい、完璧にど忘れしていました。 俺の自業自得です。
「「……」」
無言で乗り込んだ車を出してまたも静寂な沈黙が俺とベアトリスの間で流れる。
フゥゥゥゥゥン。
しかもこの世界はサクラダイトによって技術が電力に傾いているからか、車も前世でメジャーだった内燃機関じゃなくて電気モーターだからか、余計に音が無いからこの静かな時間が更に気まずい。
ラジオでも聞くか。
それともでもいつも聞いているアンジュの(中の人)系統のアニソンとか────
「────貴方は────」
「────ん?」
気を紛らわすために俺がラジオに手を伸ばすと、不意に後ろの座席に座っていたベアトリスから声がかけられて思わず俺は固まる。
「……………………………………」
えーと?
「……………………………………何でもないわ。」
リアビューミラー越しに俺がベアトリスを見ていると彼女は目を逸らしながら上記の言葉をかけてきた。
何でもないのなら声をかけて来ないでくれる?
運転中なんだが、俺。
「そうか。」
ほどなくしてリクエスト通りにアッシュフォード学園に送ると、車から出たベアトリスは無言のまま学園内へと戻っていく。
彼女はまだ
「まだもう一つ用事がある。」
いま俺……考えていたことを口にしていないよね?
「……来ないのかしら?」
「隣を歩いていいのなら。」
「勝手にすれば?」
何だろうこののらりくらりとしたマイペースな感じ……
『頭が痛くなる』以前にこう……『不毛な時間』というか『暖簾に腕押し』が半端ないというか────「────ぐぇ?!」
俺が現実逃避も含めた考え事をしていたと思ったら首辺りが苦しくなり、目の前の景色が茂みの向こう側へと変わってジクジクとした鈍痛が背中から感じ、『ああこれは無理やり引きずり込まれたな』とようやく気が付く。
これってもしかしなくてもベアトリスの仕業だよな?
見た目以上に力持ちてか一言ぐらい前もって言え!
未だに目の前で星が散っているんだが?!
「な────ごば?!」
「シッ。 静かに。」
そして開けた俺の口をベアトリスが塞ぐ。
物理的に。
どうかしているんじゃないかこいつの頭の中?
って、こんな時に『ベアトリスの指って氷のように冷え冷えだな~』と思う俺自身も人の事が言えないか。
「もがががが────」
「────騒がないのなら指を退けるわ。」
コクコクコクコク。
俺が頷くとベアトリスの手(&指)で塞がれていた俺の口が解放され、ハンカチで手を拭く彼女の視線を辿ると
遠くからだが、リヴァルの隣にはミーヤもいるのが分かったが思っていた以上に距離があるな……
耳をすませば何とかなるか?
『────』
……ダメか。
遠くから見ているがそれとなく雰囲気で状況が分かる。
平然としている父親と違ってリヴァルの方はイライラしていて、彼の言うことをヒューズ卿が『貴族視点から見た正論』で言い返し、どんどんイライラするリヴァルだったが、途中でミーヤが会話に入り込んだと思ったら彼女は頼みごとをするかのように腰を曲げて頭を下げる。
これを見てリヴァルパパことヒューズ卿が戸惑い、その間にミーヤを見て落ち着いた様子のリヴァルが前に出て話しかけ、ミーヤと同じように頭を下げる。
するとさっきまで強気だった
うんうん。
青春やの~。
『ウオッホン!』
呆気に取られていた
きっと付き合う際に気をつけるべき注意事項のあれこれなんだろうな。
「ここまでのお膳立てをしてもこれか、リヴァル・カルデモンド。」
ちょい待ちベアトリスちゃん。
今なんて?
って、素直に聞いてもベアトリスが答えるわけないか。
パラッ。
という訳で暇つぶしにさっきベアトリスに手渡されたアルバムを俺が開くと若い頃の俺やカレン、ナオトさんに留美さんが写っている写真が並べられていた。
おおお、懐かしい~。
ちっちゃい頃のアルバムだ~。
あ、タバタッチをゲットした時の祭りも映ってる。
この頃は無邪気で気も楽で、コードギアスの世界に転生したと分かってからでも最高に楽しかったなぁ~。
まぁどっぷり片足どころかドナドナ気味に原作だけじゃなくて外伝とその他諸々に関わっちゃったんだけどな!!! (ヤケクソ)
え? 『内心が見えているぞw』?
だったらそこに『血涙』も足したいのだがいいガネ?
もう本当にどうしてこうガッツリとコードギアス物語に関わることになった……
ああ、思い出したぞ。
あのクソショタ老害V.V.の所為だった。
せっかくどうするべきか悩みに悩んで行政特区で思い切ってルルーシュに訳を話そうとしたところを文字通りに横やりを入れられたんだった。
クソ、どこかで見たらぶん殴ってやる!
まぁ……この世界に
三途の川だったらワンチャン、『ゲム・ギ〇・ガン・ゴー・グフォ』までいかなくても頭を無理やり川に突っ込ませて溺れさせ────
「────茂みの近くでアルバムを見るのかしら? 貴方、仮にも教師なのでしょう? そのままだと変質者に見えなくもないわよ?」
グッ。
こ、このクール気味マイペース煽り女め!
いつの間にかリヴァルたちが居なくなった学園の方向にベアトリスが歩きだし、こちらに振り返る。
「歩かないのかしら?」
なんだかなぁ……
こいつの言われた通りにするのは癪というか────
「────じゃ。」
短くそう言ったベアトリスは今度こそ前を向いて振り返らずにただ歩きだす。
癪は癪だが『
「「……」」
そして(少なくとも俺にとっては)気まずい空気が俺たちの間で再び流れる。
「「……」」
『何か話題を上げなければ』と感じたわけでもないので、俺としては構わないのだが……
気まずいものは気まずい。
ただ帰宅どころか部活動の時間さえもとっくに過ぎた放課後で人気が無くなった、夕焼けのジェレミア────じゃなくて、オレンジ色に包まれたアッシュフォード学園はどこか幻想的だった。
別にこのような景色を見たことは初めてじゃないし、『ロストカラーズとかで見たから~』と今まで思っていたが、平和になってから蓬莱島との行き来で久しく見た今だと改めて眺めていると、どこか
「貴方は────」
「────ん?」
「意外と抜けているのね。」
おい。 どういう意味だゴラァ。
「何に対しての質問だ?」
「貴方は一体何をしていたの?」
リヴァルたちの事か。
こちとらおまんと違って隠居できていないから忙しかったんじゃい!
「忙しかった。」
「単純に準備不足ね。
一日二日でそこまで調べるのは無理があるんだが?!
……いや、いま考えたら確かに調べようとしたらできていたかも。
ネットがあるし、仮にも情報屋をやっていたからソッチ系の伝手もあったし、何よりルルーシュ辺りに聞いていれば分かったかも。
「確かに、準備不足だったな────」
「────後先考えずに丸投げしようとするからそうなるのよ。」
うぐぅ……
スバっと一刀両断する様なド正論が痛む。
「何か言うことはないかしら?」
おっと、ベアトリスちゃんの容赦ないジト目攻撃!
これは慣れることはないな。
多分。
メイビー。
「ああ、ありがとう。」
「……貴方は。」
「うん?」
「…………………………」
なんだか気まずいデジャヴ。
「貴方は……
そう質問してきたベアトリスは表情こそ変えなかったが、どこか俺を値踏みしている様な────いや違うな。
まるで俺を見透かすかのような目をしていた。
でも『何のために戦う』、か。
割と激突でシリアスな質問だな、オイ?
『始めは面倒ごとは嫌だったが引きずり込まれたから仕方なく』、はちょっとな。
『生き残るため』、はどこか違うし納得しない気がする。
『原作を知っていたから』は論外。
話したら最後、失神レベルのビンタかチョークスリーパーされて拷問される未来しか見えない。
「答えられないの?」
やばい。
なんだか口調にとげが付いている……気がする。
しかも
う~ん……
てか考えれば考える程『理由』って、元々全部が
ええい、ままよ!
「俺が戦う理由は……」
「……」
「
「……」
いったいどんな反応するんだろうか。
呆れるのかな?
笑うのかな?
嫌悪するのかな?
それとも鼻で笑われたりされるのかな?
『見たくない。』
そんな思いから俺は視線をベアトリスの顔から外し、地面へと逸らしたその時だった。
「そう。
「え?」
今までのような冷たくて感情が籠っていない機械的な声とは違う、人間味のある言葉に俺はビックリして思わずベアトリスを見上げる。
「ッ。」
そして僅かにだけ笑顔でこちらを見下ろしていたベアトリスの表情に思わず息を呑んだ。
こう……なんていうのかな?
言語化するのが難しい感情が、俺の中で浮上しては沈んでまた浮上していくような……
「あ。」
「なに?」
「いや……何も。」
「そう。」
あの笑顔は見間違いだったのだろうかと思う速さでベアトリスの表情はいつもの無表情に戻った。
……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「それと
「あ────」
それを最後に、ベアトリスは今度こそ振り返らずにスタスタと駐車場の方へと歩きだした。
……タイプは違うけどある意味マリアンヌや幼少期のお転婆ナナリーみたいな嵐の様な人だな。
それにしても最後の彼女のセリフ……どういう意味なんだろ?
ヒュゥゥゥゥゥ……
俺だけがその場に残されているからか、ただの風があざ笑うかのような感じだった。
なんだこのロンリーボーイな風は。
……………………カレンに電話しよ。
べ、別に寂しいとかじゃないからな?!
本当だからな?!
トゥルルルルルル、トゥルルルルルル。
『もしもし? スヴェン?』
「カレンか。 今、まだ学園か?」
『え? そうだけど……どうしたの? 何かあった?』
「いや、別に何もない……とも言えないが色々あったがついさっき終わってな、子供の頃のアルバムが手に入ったから一緒に────」
『────今どこ?!』
ふお?!
キィィィン。
み、耳! オラの耳がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!
と、取り敢えずもう片方の耳で……
「い、今か? 学園で、クラブハウスに向かっているところだが?」
あそこからだと機密情報局のアジトから蓬莱島に行けるからな。
『分かった!』
キィィィン。
ギャアアアアアアアアス?!
ダブルで耳がぁぁぁぁぁぁ?!
ダブル耳ショーック!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
地鳴りに似た音に俺が振り向くと、悪鬼迫る表情のカレンがががががががががががががが?!
「見ちゃダメェェェェェェェェェェェェェェェ────!!!」
「────どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!」
キキィィィィィィ!!!
今! 今! タイヤのゴムがアスファルトの上で急ブレーキをかけた時の音が!
頭文字〇だ!
「アルバムどこ────?!」
「────ここここここ、ここに────」
「────寄こせ。 今から検問する。」
『検問』? なぜに?!
「ちょっと待てカレン、『検問』────」
「────検問! します!」
おぅふ。 ズイっとクローズアップでカレンの長い眉毛────だからなんで『検問』?!
「だからなんでだ────?!」
「────なんでもだよ!」
なにこの有無を言わせない圧は────
「────いいから寄・こ・し・な・さ・い!」
カレンはそのまま俺の手にしていたアルバムを無理やりひったくろうとする。
「ちょ、ちょっと待てって────!」
「────貸・し・な・さ・い────!」
「「────グギギギギギギ────!!!」」
────バッ────!
「「────あ。」」
まったく聞く耳を持たないカレンに思わず対抗意識を持った所為で俺とカレンの間でアルバムの取り合いになったのも束の間で、アルバムは見事なまでに真っ二つになりそこら中に写真が散らばっていく。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
カレンが宙を舞う写真を必死にとっていく横で、俺はとある写真が目に入────「────ぶっ?!」
ああ、うん……
これは恥ずかしいというかアカンというか思わず吹き出したというか。
風呂場で撮ったと思われる写真には、若い頃の俺とカレンが裸ではしゃぐ姿が写っていた。
「あー……うん。 これは……うん────」
「────ほほほほほほほら?! ほらね?! いくら小さい頃だって言っても、流石にお風呂は駄目でしょ!?」
「そう……だな────」
「────だから検問してこういうのを抜き取っておくね?!」
これはカレンのやりたいようにさせるのが吉だな。
「………………………………………………ハイ。」
『後日検問し終えたアルバムを渡す』とカレンに言われたスヴェンはその場から離れ、それを見送ったカレンは再びアルバムを開いて写真を見ては再度安堵した。
「良かった…… (先にお母さんが抜き取ってくれたのかな?)」
作者:セーフ? アウト? ギリ? (汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗