ジジッ。
オーブンの音で俺はハッとなりながら慌ててきつね色にこんがりと焼き上がっていたマドレーヌのトレーを取り出し、グローブとスプーンを使って型から網の上へと移す。
濃厚なバターとさっぱりしたオレンジの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
……うん、焦げる前で良かった。
ちょっと中身がパサついているかもしれないが、紅茶かコーヒーで誤魔化せられるだろ。
「危ないところだったな。」
ふぉ?!
背後からの予期せぬ声に俺は思わず固まり、ポーカーフェイスを維持しつつすぐに周りを見回しながらゆっくりと振り返る。
そしてクラブハウスのキッチンにまたも制服姿のC.C.がいた。
窓の外からの景色的に、今の時間帯は放課後辺りか?
てかいつも思うのだがその高等部の制服はどこから拝借しているんだお前は?
「なぜここに居る?」
って、違うだろ俺!
どこがどうなって『その制服は誰から借りているんだ? そもそもこう何度も学園に来ること自体どうなんだ?』が、どうやって『何でここに?』になるんだよ?!
相手の女子が困っているんじゃないかな……
あとで『変質者に制服が取られた!』なんていうクレームが来なければ良いんだが。
「はぁ? 何だその質問は?」
「別に。」
あたかもここに居ることがまるで当然だと言い返すC.C.だったが……意外とイラっと来ることは無かった。
最近まではお前より清々しいな程までに
「それよりもマドレーヌか、いい趣味だ。 しかしなぜマーマレードではなくオレンジの皮を入れた?」
お、意外とまともな質問だな。
C.C.のくせに。
「オレンジピールマドレーヌだが?」
「お前、何を考えているんだ? 皮を取って置いていたからてっきりマーマレードを作るのかとてっきり思っていたぞ。」
「よく見ているな?」
「別に?」
チッ、さっき俺が言ったセリフをそのまま返してきたか。
でも言えないんだよなぁ~。
『
────ガシッ!
「待て────」
「────お前、なぜ止める────」
「────なに手掴みでマドレーヌを取ろうとしているんだお前は?」
「フォークを取るのが面倒くさい。」
まったく、不老不死だからと言って痛いものは痛いだろうに……
「火傷するぞ。 早く食いたいのならばこれを使って冷めさせるのを手伝え。」
俺がすかさずトレーをテーブルに置いて(手軽に3Dプリンターで)作った団扇をC.C.に渡すと────
「────人使いが荒いな。」
思わず『どの口が?』と言いそうになるような、イラっとした感情が表に浮上しそうになる。
うん、『耐性ができた』のは俺の勘違いだったようだ。
フ……
パタパタパタパタパタパタパタ。
それでも頼んだことを嫌々な態度をしながらも究極的にはちゃんとするからC.C.はどこか憎めないんだよなぁ~。
以前のピッツァ荒し食い事件でも数日後には大量のトマトと小麦粉とモッツァレッラチーズがクラブハウスに届けられていたし。
『ダース単位の箱で』だけど。
あの時は置き場所と保存に苦労したな。
あと隣で作業や設備の手配などを手伝っていたルルーシュがブツブツと『完璧な計算が~』とか『もやしをメインに~』とか愚痴っていたけど……
あの時は『絶対に家計簿の調整じゃね?』と軽~く聞き逃していたが、
バン!
「やっぱり先輩ですー!」
ここで俺の疲れや悩みさえも吹っ飛ばすほど天然活発元気いっぱいのライラが乱入!
チャラ~ラ~♪ ラ、ララ~♪(某ブラザーズ風テーマ)
「マドレーヌのいい匂いがホールにまでしていたです~!」
「ライブラさん、走ったらだめですよ? それと学園では『先生』です。」
そしてここが一応学園なので『優男』の仮面を装着。
「先輩は先輩じゃないです~?」
「
「は~い。」
「ププ。」
おいそこのC.C.さん、笑うんじゃねぇよ。
ここは『学園』で俺は『教師』だからこれが『普通』なんだ。
「あ、C.C.さん! こんにちはです~!」
「あ、ああ。」
流石のC.C.もライラの圧力の前では無力!
引きながらも口がヒクついておるがな。
「それでマドレーヌはいつ頃できる感じです、先生?」
「冷えてからですね。」
「む~……」
「我慢できないようでしたら冷蔵庫にあるブランマンジェに温めたチョコソースをかけるのはどうですか?」
「おおおおおおおお~~~!!!」
うん。
やっぱりお目目キラキラのライラは可愛いな~。
ガバ。
「ふぇ?」
思わず頭を撫でたくなるじゃあないかぁぁぁぁぁぁ!!!
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ────!
「────きゃああああああ────♪」
「・ ・ ・」
────ヨォォォォシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ────!
「────セットした髪の毛が崩れちゃうですよー!!!♪」
「・ ・ ・ ・ ・ ・」
あれ?
なんだかヒヤッとしたぞ? 隙間風か?
「コホン! いま思ったんだが……冷蔵庫でマドレーヌを冷やせばいいのではないのか?」
「あ! そう言えば……先生はどうして冷蔵庫を使わないんですー?」
「ふむ……いい質問だな二人とも。 そんな二人に聞くが、焼き上げたパンをそのまま冷蔵庫に入れないのは何故だ?」
「……???」
って、
いや、『一応皇族の中でも庶民っぽいライラならワンチャン』とは思ったけどね?
ちょっとだけだよ? ……ちょっとだけね。
「せっかく焼き上げたパンが台無しになるではないか!」
お。 やっぱりBBAで女子力の高いC.C.は流石にわかるか────
「────同じ生地をピザに使えばそのまま作り置きとして冷蔵庫に────」
「────結局はピザ一択なんですね────」
「────ピザに対して不満でもあるのかお前は? ピザのように単体で完全な食事はほかにないぞ?」
「……去年(傭兵を装っていた時に)作ったカロリーメ〇ト風の栄養満載ショートブレッドを食べてみるか?」
「あの緑で苦みのある微妙なやつか? とてもじゃないが食えた物じゃないぞ?」
いつ食べたお前?!
「どこで(食べた)?」
パタパタパタパタパタパタ。
「それよりもマドレーヌの説明はどうした?」
こいつ、逃げやがった。
都合の悪い時はルルーシュ────というか
……呪────ゲフンゲフン。 似た者同士の血筋か何かか────?
「────なんだその目は?」
「いや……『奇妙な冒険にならなければ良いな』と思っていただけだ。」
「何の話だ?」
デスヨネー。
いや待てよ?
……リ〇リサな感じで『C.C. 』から『L.L.』に改名────
「────コホン! それで? 何故冷蔵庫でマドレーヌを冷やしたら駄目なんだ?」
「
────ドッ────!
「────ぐほぉ?!」
ここここいつ……器用に団扇を扇ぎながら溜め中Kをしてきやがった!
あとピンクな布がチラッと一瞬だけ見えた!
この絶妙なチラリズマー使いが!
「馬鹿なことを言っていないでさっさと説明しろ。」
……
…
「クロエと────」
「────ヒルダの────」
「「────おしえてコーナー!」」
「ところでクロエ軍曹は知っているかな?」
「何を、ヒルダ軍曹?」
「マドレーヌはなるべく冷蔵庫で冷やさないほうがいいみたいなの。 なぜでしょうかね?」
「う~ん……言われてみればなぜなんだろう?」
「答えは、『マドレーヌを冷蔵庫に入れるとバターが“急に寒いよ〜!”とびっくりして固くなっちゃうから』よ!」
「へぇ~! そうなんだな~!」
「バターが固まっちゃうとね、マドレーヌ特有のしっとり感が減っちゃってちょっぴりパサパサになって常温に戻しても固く感じるんだって~。」
「じゃあ冷やすにはどうすればいいのヒルダ?」
「そこはやっぱり常温ですって。 自然と冷めたらあのふわふわでやわらかい食感にバターのいい香りを楽しみやすいのよ!」
「春とか秋とか冬はそれでいいけれど、夏はどうなの?」
「夏や残暑などの暑い季節だとやっぱり傷みやすくなるから、少し手間だけれど一つ一つをサランラップで個別包装して温度設定を『弱』にした冷蔵庫に入れてもいいわ。」
「ふんふん。」
「食べるときは食べる前に出して時間をおいて常温に戻すとおいしさが復活しやすいみたいよ。」
「へぇー、知らなかったー。」
「知らないことは恥じゃないわ。 むしろ聞いてみるものよクロエ。」
「そうだねヒルダ!」
「「おしえてコーナー、今日のまとめ~! 『『マドレーヌは寒いのが苦手!』』 おいしい食感を守るなら、基本は常温保存なのだ! でしたー!」」
…
……
「────ということだ。」
「ほえぇぇぇぇ……」
「今のは何だ?」
「教師だからな。」
「わかりやすかったです!」
「紙芝居にした甲斐があってよかったです。」
「いや、それでもなんだその絵は? オーバーオールはわかるが……なぜウサギ耳なのだ?」
そこにはツッコまないでくれC.C.。
『なぜなに』と言ったら『着ぐるみかウサギ衣装とオーバーオールが正装』と相場が決まっているんだ。
「絵、可愛いです!♡」
うん! (ライラは)素直でよろしい!
「でもこの真ん中にいる生き物は何です先生?」
「ああ、これは……」
『茶色のす〇す〇白沢っぽいもの!』は……『ナシ』か。
「「……?」」
「これは……『あられちゃん』だ!」
ちゃんとひらがなだぞ!
断じてドクターでう〇こが一つのキャラでアク〇ョン〇面の中の人がスーパーな人のパロディなスランプの方じゃないぞ!?*1
「ん? よく見たらこの二人……EUの二人組ではないか。 なんだ、もしかしてあの二人が本命か?」
『本命』って。
「……そう、なんです?」
いや確かにクロエとヒルダは可愛くて『亡国のアキト』への潜入時は二人のやり取りが確かに癒しではあったけれどもそんなにしょぼんとした表情をオイラに向けないでくれライラさんやお願いしやす。
ニヤリ。
確信犯か。
「そんなC.C.はどうなんだ?」
「は?」
「お前とル────」
「────はぁ?」
うわ。 今までにないほどの怒りを表しながら『頭が沸いてんのかお前は?』的な顔をしたぞ。
「頭が沸いてんのかお前は?」
口にしやがったよこいつ。
てかここまで感情をあらわにするってことは図星かな?
「どうなんだ?」
「お前の目は節穴か?」
あり? 原作だとC.C.とルルーシュってもっとこう……油とラー油な感じだったような気がするんだが?
「あれは……そうだな、『三件隣に住む手のかかる近所のクソガキ』だ。」
何その絶妙に微妙な例え方は?
俺じゃなきゃ笑っていたね。
「そう言えば今日の晩、お前はどうするんだ?」
『今日の晩』って……何かあったっけ?
「??? 何のことだ?」
「耄碌でもしたか?」
失礼な。
確かに前世も含めたら俺は(多分)おっさんだがどっちかというと耄碌するのはお前のほうが先だろうが。
「あの将軍の退役パーティだろ?」
『将軍の退役パーティ』とC.C.に言われて思い出した。
俺とC.C.やライラが知っている『将軍』は少ない。
十中八九、グリンダ騎士団のシュバルツァー将軍のことだよな?
俺も聞かされた時は驚いた。
何せ原作のオズO2だと今の時期辺りだと将軍は大半の大グリンダ騎士団のようにマリーベルの『絶対服従ギアス』で自我喪失した文字通りの『傀儡化』されていて、オズO2のクライマックスではKMF戦闘であのオルドリンとタイマンで戦いながら大グリンダ騎士団の指揮をとるぐらい、『年寄り』だと感じさせない強者だったからな。*2
色々と原作から離反したが、年寄りなのは変わらない。
原作では死んだ彼が生きて退役する日が来たのかと思うと……こう、来るものがあるな。
「それで? どっちのパーティにお前は出るつもりだ?」
ちなみにC.C.がここで俺に聞いてくる『どっち』とは『大人組』か『未成年組』のことだ。
ダモクレス事変後、『ピースマーク』の需要が減少した現状を見てか『(元)ウィザード』ことオイアグロ・ジヴォンはグリンダ騎士団に新たに加わり、まるで彼と入れ違うかのようにシュバルツァー将軍は歳を理由に退役をマリーベルに申し込んでいた。
無論、本来ならば彼の申し込みはマリーベルではなく一年前にそのマリーベルからグリンダ騎士団を指揮下に置いたノネット・エニアグラムにする筈なのだが、彼女がグリンダ騎士団を指揮下に置いたのはマリーベルから戦力をもぎ取る演技でもあり、様々な勢力からマリーベルへの注目の目をそらすなどの目的でもあった。
正式および表面的にグリンダ騎士団は長をノネット・エニアグラム、そして副官をシュバルツァー将軍として世間的に動かしていたが実際はノネットとマリーベルの二人が時と場合により交代制で騎士団の指揮を執っていた。
だが『ダモクレス事変』後、戦乱が続いた世界が落ち着いていく兆しが見えてきた為か長らく引きとどめていたシュバルツァー将軍の退役をマリーベルはようやく受理し、*3シュバルツァー将軍はノネットと自分の代わりとなるオイアグロに引き継ぎを続けていた。
ようやくその作業が終わり、彼の退役を労うパーティを開く企画をオイアグロとノネットを筆頭にグリンダ騎士団が勧めていたが、問題は『どこで行うか』で長らく迷っていた。
本来ならばブリタニアに所属する騎士団なので帝国の本国で開かれるのが通例なのだが、アドリブと偶然が幾度も重なりあまりにも原作からかけ離れた結果、グリンダ騎士団を支えたシュバルツァー将軍を祝いたい者たちはブリタニアだけでなく超合集国の────より詳しくするならばダモクレス事変でグランベリーとリア・ファルの二艦と共に並んで戦った
とは言え、超合集国とブリタニアの間に終戦ではなく停戦協定が結ばれているのでいまだにブリタニアへの反感を多く持つ日本の中央ともいえる東京でグランベリーやグリンダ騎士団にラウンズのナイトオブナインであるノネットを招待してパーティを開くのはやや刺激的なので、なるべくブリタニアと超合集国の双方が不満を持たない蓬莱島で行われることに先日決定された。
なおここで追記するが領主代理であるレイラとゼロにマリーベルたちの間で話し合いが済み、本来蓬莱共和政府の領主である
「う~ん……」
そしてパーティ当日、蓬莱島の港で届いた物資と持っていた資料を相互に見ながら受け取り確認をベニオは行っていた。
「……」
彼女の隣にはEUの軍服と帽子を深くかぶり、『なるべく早く終わらないか』と思っているのか貧乏ゆすりを我慢するような、イライラしている様子の者が居た。
「えーと。」
「……」
ビシ!
「……………………はい! 確認しました! お疲れ様です大佐!」
「……ああ。」
元気よく敬礼するベニオに対し、相手は気だるい声と実のこもっていない敬礼を返した。
「今日は新しい和菓子屋さんでどら焼きを食べようかな~♪ あ、でもパーティもあるんだっけ~?♪」
そしてスキップ交じりにその場からルンルンと鼻歌交じりにベニオを見送ったEUの軍人は次第にワナワナと震えだし、人気が少なくなった港で空を見上げながら大きく口を開けた。
「な・ん・で! 大佐に昇級したこの俺が! こんな極東まで来て! 年下の! しかもイレヴンの! ガキ相手に! へこへこしなければいけないんだぁぁぁぁ!!!」
だぁぁぁぁ?! だぁぁぁぁ?! だぁぁぁぁ?! だぁぁぁぁ? だぁぁぁぁ…… (エコー)
EUの大佐の出した全身全霊の叫びは周りの構造により反響したせいで言葉がぐちゃぐちゃと分からないものに変換され、まだ作業を行っていた者たちは怒り狂う彼の逆鱗に触れないようにその場からそそくさと離れたのがせめてもの救いである。
これが元wZERO部隊の司令官、そして元EU軍所属のワルシャワ103補給部隊の部隊長────ピエル・アノウの出した叫びであった。
元中佐のアホウ、生きていました。