小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第37話 雨、時々鉄

「さて。 俺からの提案なんだが毒島、お前は個人として反ブリタニア組織に籍を置く気はないか?」

 

 そう提案した俺に対して、毒島はわずかに目を細めた。

 

「…………………………面白い言い方をしたな、スヴェン?」

 

 ま、そりゃあそうだろうな。

 

 特に六家の関係者である彼女(毒島)からすれば。

 

 旧財閥系家門である六家は日本敗戦直後、侵略者であるブリタニア帝国に身を翻して植民地支配の積極的協力者となった。

 

 今でもブリタニア帝国の軍事活動を支持するほどの莫大な税を納めている。

 

 ()()()()

 

 その実、六家はその金の幾分かをブリタニアの監視官に渡して『キョウト』と呼ばれる秘密結社で日本全国の反ブリタニア運動の支援を行っている。

 

 武器、情報、金、その他諸々。

 

 ここまで反対運動がエリア11で絶えないのは、ひとえに『彼ら(キョウト)のバックアップがあるからこそ出来る』とも言い換えられる。

 

 そして毒島は遠縁といえども『六家』。

 今までの行動力や言動などを考えれば、『キョウト』と無関係であるはずがない。

 

 故に、俺は提案に『個人』とつけた。

 

「反ブリタニア組織といえば、この頃噂になっている『黒の騎士団』とやらにか?」

 

「違う。」

 

 来た。

 来てしまった。

 俺が一番取りたくなかった方法をとる時が。

 

 ああ、ゲロ吐きそう。

 

 さっき胃薬を溶かした水と追加の胃薬を飲んだのに(ストレスから)まだ吐きそう。

 

 いうぞ。

 言うぞ!

 俺は言うぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 別にレイズもポーカーも魂も賭けていないけど言ってやるぅぅぅぅ!!!

 

 そう思い、俺は数時間にも感じられる(恐らく実際は数秒にも達していない)間の後に口を開ける。

 

「俺は、()()()()()()()。」

 

『ドス』っと、重い何かが俺の腹と肩に乗せられたような錯覚が俺を襲う。

 

 うん……

 最初はこの世界が『コードギアス』と分かってからなるべく原作や原作キャラから距離を取りたかったけれど、流れで主人公であるルルーシュの『懐刀』とも呼ばれるカレンと直接のかかわりを持ってしまったから無理。

 

 ならばと思い、『黒の騎士団(主人公側)にいながら原作知識を使って上手く立ち回る』と決めていたが……

 この間のナリタ市で遭遇した意味不明機たちなどが出てきた。

 

 それからよく考えたら、俺一人では無理がある。

 特典(チート)があったとしてもだ。

 

 いや、フルに活用すればどうにかなる……かも知れないがまだ命を賭ける時じゃない。

 元から賭ける気はないけれど。

 

 ならどうすれば良いと考えたら、『仲間を増やせばいい』。

 

 まったくもってルルーシュが考えぬいてたどり着いた結論とかぶってしまって不本意だが、俺の活用できる人員を増やすしかない。

 

 あれだ。

『私設武装組織』だ。

 安心しろ、別にクライマックスで『俺が! ナイトメアフレームだ!』とか宣言するつもりはないから。

 

「ほぉ? スヴェン、思い切ったな? 黒の騎士団とは違うやり方でブリタニアに挑むつもりか?」

 

 挑む気はもとから毛頭ございませぬ。

 

 とは言えない。

 

「違う。 黒の騎士団一つに、()()()()()()()()()()()と感じただけだ。」

 

 これは本心だ。 

 実際、原作ではルルーシュは自分一人に全てが依存するように仕向けた結果、土壇場で彼がいなくなった瞬間に黒の騎士団は瞬く間に崩壊した。

 

 多くの戦死者を出して。

 

 俺はなるべくそうならないように、黒の騎士団を()()()()()()()()()()()を作る。

 

『組織』といっても、構成員は今ここにいる俺とアンジュリーゼたち(そして承諾するなら毒島)だけの予定だが。

 

 俺の言葉を聞いたアンジュリーゼが腕を組んで(バスターポーズを決めて)『フフン! (ふさぁ)』。

 

 マーヤがニコニコして(静かに祈るように)肯定する。

 

 そして毒島は口端が吊り上がる。

 

「なるほど。 君の()()が、どのようなことを意味するのか分かって言っているのか?」

 

 まぁな。

 つまり某アニメや漫画でいう『秘密結社』だ。

『陰から主人公側を支援する組織』、お助けキャラ的な。

 

 う~ん、少年心が刺激される。

 

 胃はもたれそうだけど。

 

「ああ。」

 

「…………………………いいだろう、君の軍門に下ろう。 日付けが分かった時、もう一度連絡をくれ。」

 

「無論だ。」

 

 俺は胃がムカムカしながらも不安で脈を強く打つ心臓のまま屋上を後にする。

 

 今朝、咲世子さんが『ナナリーお嬢様が熱を出されました!』って騒いでいたからな。

 

 俺の予測……

 というか原作通りなら、今日は『シャーリーため息出すデイ()』なのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 屋上ではアンジュリーゼ、毒島、マーヤの三人はスヴェンが後にしても無言でいた。

 

 その沈黙を破ったのは意外なことにマーヤだった。

 

「これは……もしかして────?」

「────ああ、多分君の思っている通りだマーヤ。」

 

「え? え? え?」

 

「やはりですか……随分と理解が早いのですね?」

 

「これでも奴とは昔からの知り合った仲だからな。 これぐらいはやる男だろうと思っていたさ。」

 

「????」

 

 ただただハテナマークを出すアンジュリーゼを横に、毒島とマーヤは勝手に話を進めていた。

 

「昔からの……聞いてもいいかしら? 昔の昴の事を。」

 

「ほぉ? 名前を教えるまで君を信頼しているとはな? 何故だ?」

 

「『彼の為ならばこの命惜しくは無い』という、真摯な言葉と誠意を伝えたまでです。」

 

 マーヤの顔を見て、毒島は思わずニカっとする。

 

「お前も見る目があるな!」

 

「毒島こそ。」

 

「この際だ、冴子でいい。」

 

「では私もマーヤと。 それと、冴子の知っている昴は────?」

「────あ。 彼の昔話なら私も聞きたい!」

 

 やっと自分も輪の中に入れると思ったアンジュリーゼが口を開ける。

 

 どこかズレながらも、意気投合する三人だった。

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園生徒会室では、いつかのように書類が溜まっていた。

 

 ただし前回と違ってルルーシュとリヴァルの姿は見えず、居たのはミレイ、シャーリー、ニーナの三人、そして準生徒会員のスヴェンとライブラだった。

 アリスは熱を出したナナリーの看病をしていて、同じクラブハウスだが別の場所にいる。

 

「う~~~! 書類がいっぱいありすぎるです~~~!!! 先輩たち、何でもっと早く処理しないですかー?!」

 

「うぐ……いや、その……ねぇスヴェン?」

 

「私に振っても内心ではライブラさんと深く同意していますから、ミレイ会長。 (ニコッ)」

 

「んぐ……スヴェンまで────」

「────はぁ~……」

 

 見事に正論で撃沈されるミレイの横では今日、何度目かわからないため息をシャーリーが吐きながら手元にある封筒を見る。

 

 いつも(ライブラに次いで)元気な彼女が何かに悩んでいるのは、誰もが見ても明白だった。

 

 気付かない人がいたとすれば、彼女が悩む理由の相手だけだろう。

 

 多分。

 

「どうしたの、シャーリー? ルルーシュがいなくて寂しい?」

 

「ち、違いますよ。 その……『今日もルルとカレンって欠席なんだなぁ~』って。」

 

「呑気ねぇ~。 先日のナリタで世界が騒いでいるっていうのに。」

 

「でも確かに先輩たちがいないと寂しいです! いくら陰険でヌボ~っとしてもです!」

 

「い、『陰険』……」

「『ヌボ~』?」

 

 ここでライブラが思い浮かべたのはルルーシュ(陰険)カレン(ヌボ~)で、シャーリーとスヴェンも時間差アリで二人を思い浮かべた。

 

 人はそこにいるだけの存在感で、かなり調子が違ってくる。

 ポツンと一人でいるのと、無言でも誰かと一緒にいるような違いである。

 

「いいわねぇ~、真っすぐで。 そういうところ、私は好きよ♪」

 

「茶化さないでください会長!」

 

「じゃあはっきりと言っちゃえばいいのよ。 “好きです~”って。」

 

 ミレイの言葉にシャーリーの顔が真っ赤になり、彼女はモジモジしながら頬に手を当てる。

 

 そして何故かニーナもモジモジ身じろいだ。

 

「だ、だめですよ。 もしそれで────」

「────シャーリー、少し横から口を出してもいいでしょうか?」

 

「「スヴェン?」」

 

 ここでずっと黙々と書類とにらめっこをしていたスヴェンが声を出したことにミレイとシャーリーが視線を向ける。

 

「短い間ですが、ルルーシュの人柄は()()()()()知っていると思いたい自分ですが……彼はかなりの鈍感かと思われます。 特に『色恋沙汰』に関しては。 

 ですから、はっきりと言葉にしないと彼は永久に気付かない可能性がありますよ?」

 

「え、あ……そ、そう……なのかな?」

 

「そうですよ? 特に頭のいい者ほど、周りに気付かないのですよ?」

 

「そ、そうだよね! ルルって頭良いのに、変な使い方するし! うん! そうだね!」

 

 シャーリーが一瞬戸惑うが、思い当たる節があったのかスヴェンの言葉に同意した。

 

「はぁ~……本人としてはどう思う?」

 

 そして今度はミレイがため息を出し、ちょうどその時に部屋に来た私服姿のルルーシュに話題を振った。

 

「ん? 何がでしょうか会長?」

 

「るるるるるる、ルル?! なななな、なんでここに?!」

 

 シャーリーが慌てながら手をアタフタとする。

 

「いや、ナナリーが熱を出して看病をしてくれていたアリスに休憩を取ってほしくて。 ちょうどさっき交代したところで気分転換に来ただけだ。」

 

「ルルーシュ、今時間は空いていますか?」

 

「ん? どうしたんだスヴェン────?」

「────へ────?」

「────いや、シャーリーが悩みを持っているそうなので相談に乗ってほしいとか。」

 

「あわわわわわわ?!」

 

「??? そうなのか、シャーリー?」

 

「へ?! いや、その────!」

「────違うのか────?」

「────へぇぇぇぇぇ?! ちちち違わなくて! ……ちょちょちょちょちょっと! 一緒に! 来て?!

 

 シャーリーはニヤニヤとするミレイ、キラキラと目から星を放つライブラ、ニコニコするスヴェンから逃げるようにルルーシュの手を無理やり引っ張りながら生徒会室から出ていく。

 

「(よし、これでルルーシュとシャーリーの関係を前進させる!)」

 

 実はというと、スヴェンにとって『ナナリーが熱を出した』ことは『シャーリーがルルーシュにコンサートチケットを渡す』というナリタ後のイベントを思い出させていた。

 

「(それに日付もさっきチラッと見えたから、それを毒島に送ろう。)」

 

 原作では様々なすれ違いが起きて、このイベントは微笑ましい青春モノから悲劇へと繋がった。

 

 以前に言ったが、ナリタに出張中だったシャーリーの父ジョセフがゼロの起こした土砂崩れにあって窒息死したのだが、スヴェンはこれを変えた。

 

『自分にノーリスクかつもっとハッピーな結果』の一環でルルーシュに、『人の心を保たせる』為に。

 

「(今頃は甘酸っぱい青春を謳歌するだろうな~、あの二人は。)」

 

「あ、あの……スヴェン君?」

 

「ん? 何でしょう、ニーナさん? (珍しいな、彼女が声を出すなんて……もしかして俺の『事前にニー()と接して、他人と話しやすくさせる橋係作戦』の成果か?)」

 

「この間は……ありがとう。」

 

「(“この間”?)」

 

「私が、“イレヴン”って言いそうだった時。」

 

「(ああ、あれか。 色々あって忘れていたよ。) いえいえ、どういたしまして。 (ニコッ)」

 

 そういいながらも『優男』の仮面を維持しながらスヴェンは内心、ニーナの見せた変わり具合にガッツポーズをしていた。

 

「『青春』ねぇ~。」

「です~!」

 

 ミレイとライブラは笑顔だった。

 

「(あううううううう! ミレイちゃんにライブラちゃん~~~~~~!!!(ポッ))」

「(違うぞお前ら、ニーナは人として成長しただけだ。 それにお前らはまだ知る余地もないがこれで『フレイヤ(戦略兵器)』開発を止められるのなら安いモノさ。)」

 

 一人(ニーナ)は内心で悶え、もう一人(スヴェン)は否定をしていると、超ご機嫌なシャーリーが戻ってきていた。

 

「えへ、えへへへへへ♡」

 

「うまく渡せたみたいね。」

 

「うん!」

 

「これでシャーリー先輩は、『おとなのかいだん』って奴を登るのですか?」

 

「ふぇ?!」

「お、大人の階段……」

 

「ニーナまで?!」

 

「まぁ、大きな一歩目ね♪」

 

「(ニコニコニコニコ。)」

 

 「会長の変態! ストップ! ほかの人も変な想像しない!」

 

 生徒会室に戻ってきたシャーリーはこの上ないほどご機嫌な様子で帰ってきたのを生徒会室にいた者たちがからかうのだった。

 

 

 

 


 

 

「コンサート、面白かったねルル!」

 

「あ、ああ。 そうだな。」

 

 私服姿のシャーリー、そしてルルーシュはついさっきまでクロヴィススタジアムの中でオーケストラを楽しんでいた。

 

 だがシャーリーはルルーシュと二人きりでいられたことで劇場に全然集中できなかったが、それはルルーシュも同じだった。

 

 集中できなかった理由はシャーリーとは程遠かったが。

 

「(おかしい……)」

 

 ルルーシュはゼロとして、反ブリタニア組織に支援を行なっているキョウトからの誘いで今日会う日の筈だった。

 

 だが急に別の用事が入ったのか、別の文が送られて来た。 『最初の勅書に書かれたのとは違う日にして欲しい』、と。

 

「(何故キョウトは急に会見の日を変えたいと追記の勅書を送った? 変更の理由も説明も何も無かったことからキョウトにとって予想外の出来事(ハプニング)が起きたとみられる。 が、『日にちの変更をしたい』という事は致命的なものではないな。 

 ブリタニアに動きがあったとしても、情報網に何も引っ掛からなかった。

 日本解放戦線も、予想より被害は少なかったが草壁との一件で彼らにすぐ動く度胸は無いはずだ。

 では何が────?)」

「────ルル! ねぇ、ルルってば!」

 

「(おっと。) どうした、シャーリー?」

 

「もう! 話聞いていなかったでしょ!」

 

「すまない、ちょっと考え事を────」

 

「────あ。」

 

「ん?」

 

 シャーリーの視線に釣られ、ルルーシュが見るとスタジアムの外は雨が降っていた。

 土砂降り、とまでは行かないがとても中を移動できるものではない。

 

「ど、どうしよう……私、傘持ってきていないよ~。」

 

「天気予報で言っていただろ?」

 

 「……に浮かれて、チェックするの忘れた。」

 

「え? 今なんて?」

 

「チェックするの忘れた。」

 

 バサッ!

 

「ほら────」

「────へ?」

 

 ルルーシュは折り畳み傘を取り出して、それをシャーリーの上に差す。

 

 大きさは丁度、二人が密着すれば入る大きさの傘だった。

 

 シャーリーは驚きながらも頬を赤らませ、未だに彼女の変化に気付かないまま平然とルルーシュは横に並んで歩き出す。

 

 「あ、相合傘だよね? これって?」

 

「何か言ったか?」

 

 「な、な、なんでもないの!」

 

「顔が赤いぞ? 雨に当たったか? ほら、もっと近くに────」

 「────だだだだだだだいじょぶダカラ!」

 

「そうか?」

 

 二人は肩を並べながら、一つの傘の下で歩くのだった。

 そこには、誰が見ても青春を満喫中のカップルの姿だった。

 

 

 

 

 

 上記とは明らかに別の場所では、着物を着た毒島の向かいに年を取っても尚鋭い目と気迫を持った老人が座っていた。

 

桐原(きりはら)泰三(たいぞう)』。

 六家とキョウトのリーダーである家の(すめらぎ)に変わってその二つの組織のリーダー格をやっている人物で、日本がまだ国だった当時は枢木ゲンブと並んで『裏の政治』を牛耳っていた。

 

「お久しぶりです、桐原様。」

 

「久しいな、毒島の娘。」

 

 挨拶を交わしながら、桐原が視線を一瞬だけ向けたのは堂々と(カチコチに)して(固まって)いた少年、()()()()だった。

 

「(なんで……俺がここに?)」

 

 そして彼らの周りを取り囲むように立っていた桐原のSPたちが出す圧と明らかに武装していることにスヴェンは(内心)ダラダラと汗を掻いていた。

 

「(………………………………………………どうしてこうなった?)」


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