とりあえずストックが続くまでは連続投稿を続けようと思います。
お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!
7/3/2022 5:41
誤字報告、誠にありがとうございますモルゲンスタインさん!
紅月家に引き取られた一年は楽しかった。
何せ前世とは違っても、日本は日本だからな!
ただやっぱり髪を染めても、俺の顔から容易に『日本人ではない』と分かるからか他の子供たちは近づかなかったな。
……………………フッ、学校帰りに一人で食べる『ビッグモナカ』は美味しかったぜ?
少なくともカレンの野郎に見つかるまでは。
あいつ、俺がかじっているのを横からかっさらって『あ! わたしもー!』と言いながらバクバクと容赦なしに食べていくからな。
しかもあれで『胃が痛くならない』&『頭がキーンとしない』のだから、もう子供のころから人間離れしていたのかと納得してしまった。
原作ではスザクほどではないが、彼女も人間離れした運動神経の持ち主だったし。
………………考えてみれば、コードギアスのほとんどの登場人物の身体能力がバケモノじみていたな。
俺のもその部類にはギリギリ入るんだろうけども。
困ったものだよジョージィ。 Ha、ha、ha。
「スヴェン君、カレンの様子はどうだい?」
「カレンお嬢様の調子はこの頃いつもよりは良いかと存じ申し上げます、
そんな思い出に浸って目が遠くなりそうな俺は愛想笑いを浮かべたまま、シュタットフェルト家の現当主であるジョナサン・シュタットフェルトにそう答えると、彼が疲れた苦笑いを浮かべる。
原作通り、2010年の8月にブリタニアは日本に対して宣戦布告を宣言し、四方面からの電撃作戦を行った。
開戦から一か月以内に負け続けていた日本は徹底抗戦派の筆頭であった枢木ゲンブの死をタイミングにして、ブリタニアに降伏した。
これもまた、原作通りに。
「(と、いうことは藤堂と出くわしたあの日にスザクがいなかったのは
『あの兄妹』とは勿論、外交の捨て駒として日本に送られたルルーシュとナナリー・ヴィ・ブリタニアの二人。
そして彼らが幼少時代のスザクが秘密基地として使っていた枢木家の土蔵に住まわされることを理由にいちゃもんをつける……
まさにコードギアスが中心に回る重要人物たちが初めて出会うシーンだ。
幼少期エピソードの筈が、すごくダークな内容だっただけに覚えている。
「そうか。 それは重畳……すまないね、スヴェン君? 本来なら、他家のご子息である君もそんな『従者見習い』などをする道理はないのだが────」
「────いえ。 マイ・ロードのお許しと慈悲があるからこそ私はここにいます。 感謝以外、何もございません。」
そして俺はカレンたちと共に正視の後継ぎができる様子のないシュタットフェルト家に引き取られ、俺は本格的に『従者見習い』となった。
『従者見習い』というか、『
本性は男勝りな
男の俺がこの役回りをさせられているのは絶対にシュタットフェルト夫人の嫌がらせだよな?
そうとしか考えられん。
あと、
最初はカレンたちと俺だけを引き取るとシュタットフェルト夫人はゴネていたが、現当主であるジョナサン・シュタットフェルトが独断で強行し、彼女と契約を交わした後だった。
………………毎日シュタットフェルト夫人や彼女側の使用人たちから嫌がらせや暴行を受けているから、彼女が『無事』と言える部分は『原作通りだから』だけど。
ちなみにジョナサン様が強行した理由は(憶測だが)、『
まぁ……そのせいで元々シュタットフェルト夫人がナオトさんやカレンに向けるはずのヘイトは俺や
「……これからも、カレン
「イエス、マイ・ロード。」
またも外交任務に本国へと駆り出されたジョナサン・シュタットフェルトを俺は屋敷の前で待っていた車まで見送って見えなくなるまで腰を折り、頭を下げ続けた。
この行動の半分だけは演技だ。
原作でほぼ出番がない人だったけど、今ではこうやって会う機会があるから断言しよう。
ブリタニア人とか、関係なく『シュタットフェルト伯爵自身は凄くいい人だ』、と。
『従者見習い』である俺をこうやって見送りに指名したり、気を使ったり、カレンやナオトのことを思って家族や正妻の反対を無理やり抑えて
おそらくシュタットフェルト夫人は猫をかぶって政略結婚を完成させ、玉の輿を狙って成功したんだろう。
それにジョナサン様も貴族と今の職務の立場があるから、表立って彼女に対して大きな行動が取れなくなっている。
でないと、色々と納得がいかない。
「おい、お前。」
ほぉら、早速来た。
俺は
「はい、何でございましょうシュタットフェルトふ────?」
────ヒュ!
シュタットフェルト夫人は近くに置いてあった花瓶を俺の顔めがけて投げる。
動作のタイミングから見て、おそらくは俺が振り返り始めた頃に花瓶をすでに持っていたのだろう。
花瓶は俺の鼻に接触して、そのまま顔面に直撃────
ビュンッ!
────される前に俺はそれを手に取り、遠心力を利用して花瓶の中身が漏れないように体ごと回転させてからシュタットフェルト夫人たちにニッコリとした笑みを再度向ける。
「こちらの花瓶、水を入れ替えておきます。 お手を煩わせて申し訳ございません。」
「チッ。 私のことはシュタットフェルト伯爵夫人と呼びなさいと、何度言えば分かるのですか?」
いま舌打ちを打ったな、こいつ。
あわよくば花瓶を俺に直撃させて壊れたのを擦り付けて解雇しようって魂胆か。
『パーフェクト従者見習い』に全力を入れた俺をなめるなよ、この
ジョナサン様が長期不在気味だからって、屋敷に新しい愛人とか呼び出しやがって。
「失礼いたしました、シュタットフェルト伯爵夫人。」
「……………………フン!」
シュタットフェルトのビッチ夫人はそれを最後に、踵を返してツカツカと歩き出して明らかに不機嫌な主人の次のターゲットになってしまったメイドたちが俺を睨む。
フハハハハハ!
だが今はその睨みなど堪えぬわ、この愚か者どもめー!
おそれおののくが良いわー!
フハハハハハハハハハハハ!
『完璧すぎて付け入る隙がない従者』であることにこの体の全力を入れた俺は礼儀良くかつ皮肉も交えるのだぁぁぁぁ!
ハァ~……一人でこのデカいホールで(内心の)どや顔しても虚しくなるだけだ。
中庭の近くに花壇用の一式があったな。
…………
………
……
…
花瓶の入れなおしとアレンジメントのセットをしてから、『我がお嬢様』の具合を見てきますか。
「────、────!」
ん?
俺がそうぼんやりと考えながら歩いていると、かすかにだが怒鳴り声が聞こえてくる。
この屋敷に、怒鳴り声をする人物は大方決まっている。
シュタットフェルト夫人か、あるいはメイドたちかの二択。
だがこの時間帯、シュタットフェルト夫人は出かけているはずだ。
つまりは後者ということで、思いつく
「貴方! なぜ花壇を荒らしたのです?!」
「(ああ~、やっぱりか。)」
俺は物陰から怒鳴り声のする中庭の様子を見ると、予感が的中していた。
中庭の花壇は見事なまでに荒らされ、その日に花壇の世話係にされていた留美さんを数人のメイドたちが取り囲んでいた。
留美さんのメイド服には土や葉っぱがこびりついており、彼女の三つ網だった髪の毛はほどけかけて泥まみれだった。
「わ、私は────」
「────もしや気まぐれで行ったとでも? みっともない!」
「それでもシュタットフェルト家に仕えるものですか?!」
「それとももしや、召使の責務もイレヴンは満足にできないと言うのですか?!」
「(『言い訳もさせない』ってか……それにしても、
次から次へと、怒鳴り声を聞いたほかの使用人たちなどが群がり始める。
その中には、衛兵の姿も。
「(だが、
俺はにやけそうな顔を引き締めて『愛想のよい
「わ、私はつい先ほどここに来たばかりで……花壇はすでに────」
「────嘘はいけませんよ、このイレヴン如きが。」
「私は……嘘なんか────」
────今にも声とともに身体が消え入りそうな留美さんを背後に、俺は彼女の前に立った。
これ以上ない笑顔を顔に浮かべて。
「同じくシュタットフェルト家で仕える者同士、虚偽の報告は感心しませんよ? 同時に許されることでもありませんが。」
「す、すば────スヴェンくん? ど、どうして?」
メイドたちの視線が俺へと向けられ、彼女たちは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「まぁ、なんてひどい。」
「私たちはそのようなことはしておりません。」
「ええ、私たちはそこのイレヴンが花壇を荒らしたことに注意をしただけです。」
メイドたちがクスクスと笑う。
彼女たちは生粋のブリタニア人たちで、古くからシュタットフェルト夫人に仕えていた者たちだ。
加えて俺は貴族とは言え『従者見習い』で、後ろにいる留美さんは『イレヴン』で『ただのメイド』。
言い合いへと発展するのなら、普通ならば誰が有利なのかは一目瞭然。
そう、
仮面を維持したまま、俺は口を開ける。
「最初に言ったはずです。 “虚偽の報告は感心しません、同時に許されることでもありません”、と。」
「「「????」」」
「どちらかを信じるなんて、実に愚かな質問です……衛兵!」
俺の叫びに野次馬と一緒に紛れ込んでいたジョナサン様側の衛兵数人が前に出て拘束する。
「な?!」
「は、はなしなさい!」
「どういうこと?! な、何を?!」
勿論、拘束したのはブリタニア人のメイドたちだ。
俺が懐から書類を出すと近くの衛兵も同じ書類を出す。
「ロード直属の衛兵長とともに調べました。 貴方たちには横領の疑いがかけられています。」
これを聞いたメイドたちの顔色はわかりやすく真っ青になる。
「お、横領ですって?!」
「ふざけないで!」
「そんなことは────!」
「────とぼけても無駄です。 貴方たち三人は屋敷の消耗品などの仕入れ値をごまかしてきたでしょう? それもここ数年間の間。」
「「「ッ?!」」」
「シュタットフェルト家に仕える者たちでありながら、自らの主の信頼を裏切ったのです。 相応の処罰が待っていることでしょう。」
「そ、そんな?!」
「あの程度の金額!」
「そうよ────!」
「────はて? “あの程度の金額”と? あなたたちの金銭感覚は随分と狂っているようですね? それに金額がどうあれ、貴方達は『仕えるべき主の信頼を裏切った』という事実に変わりはない。 どちらにせよ
衛兵に黙り込んだメイドたちが連行され、時間の経過とともに『余興』を見に来た野次馬たちはその場を後にする。
近くの場と窓やバルコニーに気配がないことを確認してから留美さんへと振り向く。
「……………………フゥ~。 大丈夫ですか────?」
ポス。
ギュウゥゥゥゥゥ。
「────(ぐえぇぇぇぇぇぇぇ。 嬉しいけど苦しいぃぃぃぃ。)」
振り向きざまに、留美さんが俺を力いっぱいに抱きしめる。
声が出せないほどに。
「ごめんなさい昴君! 私が! 私が我儘をあの人に言ったばかりに! ブリタニア人である、貴方にまで迷惑を! う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
とうとう泣き始めた留美さんは俺の肩で声を押し殺してすすり泣きと謝罪を始める。
そんな彼女を、俺は黙って泣き止むのを待つしかなかった。
一年だけだが、一緒に住んでいたころの留美さんは俺にとって第二の……
いや、その言い方は的確じゃないな。
彼女は俺のことを、実の息子であるナオトさんと同等の扱いをしてくれた、いわば『転生後の母親』だ。
周りに俺が感知できる気配がないとはいえ、双眼鏡で口を読む術はこの世に存在するし、この屋敷は主人たちの部屋以外は使用人たちが非常時に使用できる抜け道などが存在する。
つまり、どこで誰が耳を立てているのかわからない。
だから今の俺にできることと言えば、できるだけシュタットフェルト夫人側の人間を排除することぐらいだ。
それを考えて生じる胸の痛みは………………まだまだ消えそうにない。
…………
………
……
…
コン、コン。
俺はとある部屋のドアにノックをするが、返事はなかったことで次は手袋を外して小指の爪でドアの表面を引っ掻いた。
カリカリカリカリカリカリカリ。
俺がしたのは中にいるはずであろう人への合図だった。
『……どうぞ。』
「失礼します、
部屋の主人から許可を得た俺は部屋の中に入るとすぐさまドアを閉め、分厚い特注品のドレープカーテンをかけると機械的な雑音めいた音がベッドスタンドから部屋の中を包む。
これで大声を出さない限り、『部屋の中の声は外部に聞こえない』という寸法だ。
「調子はどうだ、カレン?」
俺は仮面を外し、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……窮屈。 病弱設定したのをすっごい後悔している。」
部屋の中のベッドに上には寝間着をラフにはだけさせながら、両足をブラブラさせて片手に駄菓子を持ち、もう一つの手で本を読んでいたカレンがいた。
「だがそのおかげで、貴族の義務ともいえる舞踏会や家同士の付き合いから遠ざけられている。 それに…………」
「“それに”?」
「『ハーフ』だという事で、他の子供たちから暴行を受けていたことも設定に再利用できただろう?」
「いや~、それはスヴェンの助言があったからだよ! 当たる瞬間に、大げさに首や体を捻ってノーダメージの割に大怪我したように見せつけられたし! 相手にカウンターを入れてやったし! でないと皆を片っ端から物理的にぶっ飛ばしていたよ!」
そのおかげで恐らく、原作のジョナサン様は立場が危うくなっていたんだろう。
貴族的にも、社会的にも。
『じゃじゃ馬が後遺症で病弱になった娘の父親』と言うレッテルを張られて。
「よせ。 お前が殴っていたら一時的にはスカッとするかもしれないが、きっと後でねちねちとしたことをされてもっとイライラしていたぞ?」
って、そうじゃないだろ俺。
ベッドの上で寝転がりながら俺へと顔だけ向けるカレンに注意するべきところだろうが?
“
「それもそうなんだけどさぁ~、設定のおかげで殆んど監禁状態じゃん? いっそのこと、お兄ちゃんみたいに家を留守に出来る理由にすればよかったな~。」
そう、この時からすでにカレンは『病弱な身体が日常に支障をきたす程』の設定を本格的に始めていた。
出来るだけ、ブリタニアの世界や貴族絡みのものから自分を遠ざける為に。
丁度『紅月家』から半ば無理やりシュタットフェルト家に引き取られたことと転入された先の学園での虐めを理由に、『ストレスの所為で心身ともに病弱』の設定をカレンはし始めた。
即行動に移ったのは『十歳の子供にしてはよく出来た』と言えるが、兄であるナオトは同じことを言っていられない。
何せ、彼はシュタットフェルト家の嫡男という立場だ。
たとえ病弱でも、無理やり『政治』と言う表舞台に引きずり出されるだろう。
そこでナオトさんは『平民として生きて来たから他家で己を貴族として鍛え直したい』と言って、外をブラブラしている。
それでもやっていけているのは、彼が貴族の礼儀作法などを実際に身に付けているとアピールできるからだ。
と言うか、彼は普通に『やればできる男』だ。
道理で原作ではレジスタンスのリーダーだったわけだ。
ちなみに原作開始時点で、引き継ぎでリーダーをやっている扇にも会ったが、顔見知り程度だ。
あっちは何故か俺のことを『気味悪い子』と思っているみたいで、避けられているが好都合だ。
コンコン、ガチャ。
カレンの部屋のドアがノックされて開けられると、カレンは光速の速さに迫るスピードでブランケットをかぶって『寝たきり状態』を装い、俺はすぐに入ってくる者に愛想笑いを浮かべる。
「ん。 スヴェンか。」
「どうかなさいました、シュタットフェルト伯爵夫人付きのメイドさん? お嬢様は見ての通り、寝ておりますが────?」
「────いや。 お前たち二人に話があって来た。」
…………………………どういうことだ?
「先ほど夫人様宛てに、招待状が届いた。 お前には、ナオト様の代理としてお嬢様のエスコートをしてもらう。 そして二人で他家との『お茶会』に参加するようにと夫人様が申していた。 分かったか?」
………………………………はい?
カレンも?マーク出しながらブランケットから様子を見るな。
設定がバレるぞ?
「承知しました。 謹んでお受けしましょう。 して、主催者はどこの家でしょうか?」
この明らかにナオトさんたちに嫌がらせをしようとしたところで丁度彼が家にいない期間に気付いて八つ当たりで適任者を俺に振ったシュタットフェルト夫人の申し出に乗る、俺の『パーフェクト従者見習い』を演じる口が憎いでござる。
「主催者は『
皮肉の含んだそれを最後にカレンの部屋のドアは閉まり、部屋の主は起き上がり、俺も『仮面』を取る。
と言うか、『
ピンとこないのだが……
「ど、ど、ど、どどどどどうしよう昴?!」
カレンが明らかに慌て始めて、ベッドから飛び降りてこけそうになりながらも俺の腰に抱き着く。
と言うか
「落ち着け、カレン────」
「────私、貴族の礼儀作法とかマナーとか全然知らないよ────?!」
「────落ち着け────」
「────もしかして、今までサボっていたことがアイツにバレた────?!」
「────だから落ち着けよ。 俺に考えがある。」
「す、昴ぅぅぅぅ~~~~……」
俺は仮にもカレンの『世話係』。
付け焼刃になるとはいえ、この『お茶会』でカレンを『病弱なご令嬢』として他家にアピールしてやる!
こんな『雨の中に段ボール箱の中に捨てられた子猫か子犬みたいにまるですがるような上目遣いをする』といった迫真の演技ができるカレンならばいける筈だ!
今更ですが紅月ママとシュタットフェルトパパの名前は独自設定です。
ちゃんとあるのなら申し訳ございません。 (汗