全て、ありがたく活力剤にして頑張っております!
楽しんでいただければ幸いです!
「…………………………」
スヴェンの居場所がダールトンによりコーネリアへと通報されている間、人工波付きプールは様々な人たちが出始めた波にキャーキャーと楽しむ声を出していた。
今日は初日オープンという事で、殆んどの者たちは貴族や有力者のみ。
よって、彼ら彼女らには庶民的な刺激は新鮮であった。
「きゃ~!♪」
ライブラもその一人で、初めての波に合わせてジャンプしたりしていた。
「楽しいですお兄様!」
「そうか、それは良かったよナナリー。」
ナナリーと、彼女の為に借りたフローターを支えたルルーシュもひと時の平穏をかみしめて笑顔になっていた。
「………………………………………………」
そして波に身を委ねたままのアリスの目は死んでいた。
「きゃ~♪」
たゆん。
『波付きプールに行こう』と言い出した本人だが、波が来るその度にダメージを負っていった。
「きゃーきゃー♪」
たゆん。 たゆん。
「理不尽。」
原因は身長的に
「え? 何がですかー?」
「(し、しまった! 声に出していた?!) あ?! う、ううん! その……“ライブラは肩が凝らないのかなぁ~”なんて……ウァハハハハ。」
「ん~?」
ライブラはアリスの視線を辿っていく。
「あー、
グサッ!
「グ。」
ライブラのあっけらかんとした、悪気のない答えで更にダメージを負うアリスであった。
「や、アリス!」
「え゛。」
そんな彼女は完全に失念していた。
監査対象であるミレイが次から次へと言い寄ってくる男たちをあしらう様子ではなく、先ほど自分がハンドサインをサンチアにしていたのをライブラに見つかっていもしない蜂を追い払う際に腕を振っていたのを。
「あれ? アリスの知り合いですか?」
『ギギギ』と錆びついた人形のようにアリスが首を回すと 全身ウェットスーツを来たダルクがニカニカしながら立っていた。
「や! 頼まれたように来たよ!」
「(なななななななんで?!)」
…………
………
……
…
別の場所では、スヴェンはあの後嫌な予感がしたからかすぐにダールトンから逃げた。
ダールトンも本気ではないのか、楽しんでいるのか笑いながらゆっくりと歩いていたことで彼を見失ったところでコーネリアがその場に到着していた。
コーネリアは動揺を隠すように、凛としたままズカズカとグランドリゾート内を徘徊していた。
まさか、『ユーフェミアが持っていた“似顔絵の少年”が実在していたのか』と未だに疑いながら。
「どうだ、奴は見つかったか?」
彼女は自分が目立つことを利用し、スヴェンをダールトンやギルフォードに探させていた。
「(ダールトンめ、わざわざ逃がすとは……お前は楽しんでいるかもしれんが……もし。 もしこれでユフィが────)」
ホワホワホワ~ン♪
そこでコーネリアの頭上には少女漫画風に描かれたモヤモヤ妄想バブルで、中では(何故か白いウェディングドレス姿の)ユーフェミアが似顔絵の(そして口に何故かタキシードでキラキラしながらバラを咥えた)少年に寄り添っていた。
『お姉様! 私、この人を騎士にします! そして生涯も共にします! もう、決めたことです!』
『Ha,ha,ha。 今日からは、ボクも義姉さんと呼b────』
「(────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)」
コーネリアは立ち止まり、盛大に悶えそうになることを必死に軍で鍛えた精神で覆い隠す。
「(だ、ダメだ! ダメだぞそんなのは! 夢見がちで無垢なユフィが、どこの誰とも知らない少年の毒牙にかかって、あ~んなことやこ~んなことをヲヲををヲを?!
断じて! 断じて私が許さんッッ!!! ユフィの側に居られるのは私が認めた奴だけだ!)」
「(それに私と違って昔からモテるのは今更だが、先にウェディングドレスを着ての式など羨まs────けしからん! 言語道断だ!)」
実はコーネリア、自分が『きつい見た目&性格』をしているのをそこで気にしてしまうほど動揺していたのが幸いし、近くの茂みの形が偏っていたのを見落とす。
「……どうだ?」
「距離は20メートルとどんどん離れていくようですね。」
「よし、総督の気配が遠ざかっていく今の内に移動するぞ。 あくまで一般の客として振る舞うぞ。」
スヴェンは茂みの中から反対側の方へ、サンチアとルクレティアの二人と一緒に出ては歩き出す。
彼は『(ナンデココニイルの?』とは聞けなかったが、さっきのダルクと同じでアリスの『援軍非常時求める』の
それを知らずにスヴェンは助けられたことで『あ、これアリスが関与しているな』と思いながらアドリブで彼女たちと行動を取り敢えず合わせる。
「あ、スヴェン……って誰です、その子たちは?」
ギクッ。
スヴェンに声をかけたのは────
「ま、マーヤ。 ど、どうしてここに? 招待状は?」
────彼の事が心配になり、毒島に了承を取らずに独断行動に出たマーヤだった。
「どうしてって……
「(あのぬらりひょん爺か!*1)」
「それでその……冴子から聞いたのだけれど……(コーネリアを)
「(“
「え?」
「そうだな。 流石にそうなると我々にも正式な招集がかかる。」
一瞬キョトンとするマーヤにサンチアが静かにそう伝える。
「「………………………………」」
「(え? なに二人とも互いを見ているの? 俺にも分かるように教えてヨン。)」
「(この子たちの身のこなし方と足運び……神様とマオちゃんが言っていた
「(この値踏みされているような視線……なるほどこの女、アリスが言っていた
「「…………………………」」
マーヤとサンチアの間に気まずい空気が流れて数秒間後、二人は同じ方向へと同時に歩き出す。
「まずは総督と彼女の腹心たちが諦めるまで移動する。」
「その姿で使っても大丈夫なの?」
「ああ。 感知系は
「なるほどね。 流石は“裏部隊”ってところね。 情報を取り入れるのが早い。」
「逆に軍属でもないお前には感心しているぞ?」
「(何この会話? 二人の間で一体何があったの?)」
何が起こったのかを知らずにスヴェンはそのままついていくとスイスイ泳ぐかのように自分を探しているコーネリアと会わずにグランドリゾートの出口の方へと移動していた。
サンチアとルクレティアの連携&能力は勿論の事、マーヤも人のあしらい方や人混みの中をどう移動すれば隠れやすいのかが幸いした。
「(なんか……
完全にアウェイ感覚のスヴェンがそう思っていた頃にマーヤが突然彼を横へと押し、サンチアとルクレティアの二人も彼を物陰の中へと引きずった。
「ハァ、ハァ、ハァ! き、君! ここらへんで銀髪の少年を見なかったかい?!」
「(す、スザクまで?!)」
「(奴は確か、特派の……)」
「(速かった……本当に人間?)」
そこに現れたのは息を切らし気味のスザクだった。
「(枢木スザク……元日本の首相の子でありながら、名誉ブリタニア人になって軍に入った奴! そして耳にはコーネリアたちと同じく軍用通信機をしている!) ああ、私が見かけたのは確か────」
「────頼む! 彼を最後に見かけた場所まで案内してくれ!」
「へ?! あ、はい?!」
スザクに腕を掴まれたマーヤがスヴェンたちのいる場所を見る。
「(後は頼みましたよ!)」
マーヤがスザクに連れ去られて数分後、サンチアとルクレティアが物陰から出る。
「………………………………行ったようね。 さ、私たちも────」
「────おおお! そこにいるのはマッド野郎の部隊の?!」
「(ぐぇ。 ま、また……)」
スヴェンも出ようとしたところでまたも狭い物陰に押し戻され、サンチアたちに陽気なダールトンが近づく。
「久しぶりだな、サンチア中尉!」
「(クッ! 『緊張感』と『警戒』に察知を限定したのが裏目に出た!) お久しぶりです、ダールトン将軍。」
「ここらへんで少年を見なかったかね? 銀髪と赤みがかかった目の? いや、総督が探していてな? 見ていないのならそれはそれで君たちに捜索願を出したい!」
「……分かりました。」
サンチアがルクレティアと目を合わせてからダールトンに答える。
「(ここで彼の頼みをむげにしたら不信感が出る可能性が……それに出口までそう遠くない。)」
「(私たちで時間を稼いで、ダールトン将軍を上手く利用すればコーネリア殿下たちの動きも操作できるかもしれない。)」
そう思った少女二人は愉快なダールトンと一緒にその場を離れる。
「……フン!!!」
辺りに人気がない事で、スヴェンは無理やり押し込まれた物陰から出ようとするが当初と違って変な体勢でねじ込まれたことで上手く抜け出せられなくなっていた。
「(ま、マズイ。 今の俺に携帯もないし、こんな人気のないところまで来ていたら最悪────)」
「────ん~? どうしたんだい、少年?」
「(また少年呼び────いやそれより見つかったぁぁぁぁぁ?! ってあれ? この人……)」
スヴェンはギョッとしながら首を回して自分を見つけた、上着を羽織ってコーネリアとは同じデザインで色違いの水着を身に着けていた女性の方を見る。
「(『どこか』で見ている? アニメの一期じゃない、『ナイトメア・オブ・ナナリー』でもない……確か────)────おわ?!」
彼女はスヴェンの腕を掴んで無理やり狭い物陰の中から引きずり出す。
「大丈夫かい?」
「あ。 は、はい。 おかげさまで。 (ち、力強かった! ええええっと? あれ? さっきまで喉を出かけていたのに……)」
「へぇ~? 若いのにちゃんとしているな! 何か訓練でもしているのか?」
「ま、まぁ……体術を少々嗜んでおります……」
「あとナイトメアの操縦はどこで?」
ギクッ。
「(は、はぁぁぁ?! どうして?! なんで?!) な、ナイトメアなんて……自分は騎士では────」
「────君の身のこなしに筋肉の付き方だよ。
「ッ。 (こいつ……)」
「ま、今の私は良い気分で丁度出口を目指していたんだ。 一緒に来るかい?」
「…………………………ええ、ではお願いします。 (ニコッ)」
スヴェンは『優男』の仮面をかぶりなおして後を歩きながら、どうにかしてこの女性から逃げられるかを考えていた。
「(見ただけ相手の事を見抜く洞察力にナイトメア操縦で付く筋肉を熟知している……十中八九軍人だが────)」
「────君は、河口湖にいた一人だね?」
「(え?)」
そんなスヴェンの考えを、美人軍人の声が遮る。
「あの時、私の親友の親族が居たんだ。 礼を言う、ありがとう。」
ええええええええ?!
なんで あたま さげるの?!
たわわな胸がががががががががががががががが!
「あ、いえ! その! 軍人さん?! あ、あ、あたまを! というかなんでしょうか?!」
尚あまりの急展開にスヴェンは思わず今まで誰にも見せたことの無い、内心にだけとどめていた素の口調を一瞬だけとはいえ口に出していた。
「そうか。 なら一つだけ聞いても良いか?」
「あ、はい。 一介の市民である自分に、質問とは光栄至極です。 (ニコッ)」
「君は、ブリタニア人なのに何故『日本語』を喋るんだい?」
……そう来たか。
『何故日本語を喋れる』……単純な質問のようで、実際は違う目的があると見えるな。
どう答えようか……
「私は、『世界を変えたい』……とまで言いません。 ですが、『出来るだけの人を救いたい』という願いを持って様々な分野に手を出しています。 何がどこで、役に立つか分かりませんから。」
「へぇ~? でも確か『日本語』でもこういうのがあるらしいじゃないか? “二兎を追う者は一兎をも得ず”って奴さ。」
「……別に一つの分野をマスターしなくとも、自分に足りないものを補ってくれる同士が居れば────ッ。」
その時、スヴェンの中で何かがちくりとして彼は一瞬言葉を失う。
「ん?どうした?」
「い、いえ……自分に足りないものを補ってくれる者たちが居れば、何とかなる……かと。」
なんだ、今のは?
何で、カレンや毒島達が?
あの後、スヴェンは出口を出てから彼が逃げやすいようにコーネリアたちの妨害をしていた毒島達に連絡を取って荷物を持ってくるようにお願いしていた頃、彼と話をしていた軍人────『ノネット・エニアグラム』がルンルン気分でユーフェミアのいる車へと戻っていた。
「(“別に一つの分野をマスターしなくとも、自分に足りないものを補ってくれる同士が居れば何とかなる” 、か。)」
「どうしたんです、エニアグラムさん?」
「だーかーら! 昔みたいに『ノ
「え、えとでも……え? ありがとう、ございます?」
「君の探していた少年と会ってきたよ。」
「えええええええ?! か、彼は無事なのですか?!」
「うん、無事だよ。 そこで面白いことを聞いてね……ユフィ。 お前、好きなんだろ? あの『クルルギ・スザク』って奴の事を。 もう騎士にしちゃいな。」
「はぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
なお原作のように学校を中退して副総督の任に就く前にユーフェミアは政庁を抜け出してはスザクと出会い、その日から彼の事が気になっているのをノネットはコーネリアの愚痴によって聞かされていた。
「そこがアンタと
ノネットはこれ以上ないほど清々した笑顔を浮かべていた。
「アンタは優しいよ、ユフィ。 でもね? これはアンタの問題なんだ。 『騎士』というのは“矛”であり“盾”であり“剣”。 確かにコーちゃんの選んだ人たちの中に知恵者や武人や確かな家柄がいたけれどね?
それらじゃ『騎士』は務まらない。 一番大切なのは『心の底から互いを信じられる』ような関係を結べることかどうかなんだ。」
「『心の底から信じられる』……」
「例えどんなことがこれからあろうとも、世界が敵になろうとも、コーちゃんでも嫌がろうとも、私はユフィの血の繋がっていない『姉』としてサポートはするつもりだよ。」
この言葉により、さっきまで迷っていたユーフェミアの表情は強固なモノへと変わった。
別の薄暗い、明らかに地上ではない場所では透き通るような白い肌に煌びやかなブロンドヘアー、左右に髪留めをつけながらおでこを晒している子供が暇そうに地面をゴロゴロしていた。
「……暇だ。 何か起きないかなぁ~」
ボソリと言葉が子供から発されるとタイミングを見計らったかのように近くで立っていた黒いフードをした人物が彼の元に歩く。
「
黒いフードのボソリといった何かに、さっきまでつまらなさそうな表情をした子供────“
「へぇ? その検索、どこが元なの?」
「エリア11、と聞いています。」
『コードギアス』という思惑がうずめく海に見え隠れする『陰謀』という氷塊。
どうやら水面下の根はスヴェンの思っていたより深くて重い。
運命とは個人の選択である程度操作できるも結局は先が見えない双六、『あがり』まではサイコロの目次第で鬼と出るか蛇と出るかわからない。
次回予告:
『虐殺の皇女に向けて準備する』
スヴェン、火中の栗を拾って火傷する覚悟はあるだろうか?
ノネットさん、マジ尊敬できるような男前性格していて書きやすかったです。