お茶会から数年ほど経った今、俺はカレンと共にアッシュフォード学園に無事入学した。
やはり原作通りにカレンは『病弱かつ成績優秀』、そして俺は彼女の代わりに『通う係』として。
『テステス~、聞こえるか?』
そんな俺は今、都会から少し離れた山の中で無線機のテストを行っていた。
無線機と言ってもブリタニア正規の物ではなく、アングラで売られていた旧軍用のものを直して独自に改造した奴だ。
「ああ、声質は良好だナオトさん。」
『やっぱ昴はスゲェな! 壊れたやつを直すどころか、性能をアップするなんて!』
「なんてことはない、俺は手先が器用なだけだ。」
皮肉にもハンセン家で世話になっていた頃、がむしゃらに能力を底上げしようと色々なものに手を出していたことが幸いした。
『それだけな訳がないだろ?! おれ等の銃も、装備の類も安く仕入れてお前が手を加えているじゃねぇか!』
「ただ出来そうだったからやっただけだ。 全くの偶然だ。」
『ハァ~、欲もなくて可愛くない奴のままだよな……そのそっけない口調も。 カレンの言っていた、学園とかで噂になっている“人当たりのいい奴”はどこに行った?』
「こっちの方が素だ。」
『はいはい、分かっているさ……これでお前が本格的に運動に参加をしてくれれば────』
「────俺はナオトさんたちが思っているほど、そこまで出来る奴じゃない。 こういう地味な仕事が性に合っている。」
『そういう事にしとくよ。 でも、気が変わったらいつでも────』
「────それは無い。」
そう。
これまでの会話で分かっているかもしれないが、ナオトさんが本格的にレジスタンスを立ち上げ、扇もパートでやっていた教師も辞めて本腰を入れた。
あとついでに原作でも目立ちたがり屋な玉城も。
ナオトさんと扇はハーフのブリタニア人や名誉ブリタニア人になっても状況が変わらない人たちを中心に志望者や支援者の数を増やし、ついには実行員と後方支援の部類が出来るまで大きくなった。
かくいう俺も、後方支援の整備班……の手伝いをしている。
事実上のワンマンチームに近いが。
一番大きくて構成員の殆んどが旧日本軍の生き残りで結成された『日本解放戦線』や、中部の『サムライの血』に日本降伏直後のどさくさで『日本解放戦線本体』に合流できなかった軍人たちが元一般人を鍛え上げた『
だが、そのどのグループよりも勝っている点がナオトグループにも
元新宿だった『シンジュクゲットー』を拠点に活動していることだ。
何故ならばシンジュクゲットーは現在、日本だったエリア11を牛耳るブリタニア人の多くが活動する中枢に最も近く、かつ最も監視が厳しいゲットーエリアだからだ。
だというのに、ナオトさん率いるレジスタンスは何度もブリタニアの監視や追尾を逃れながら活動を続けている。
ナオトさんの手腕は純粋に凄い。
それで元は他の皆と一緒で一般人の学生だったのだから、純粋に凄い。
戦術はゼロとなったルルーシュや藤堂ほどではないが、洗練されていて、にわか軍人も顔負けするほどだ。
しかもきっちりと足を引っ張る玉城のようなメンバーでも不満にならない役割をそれとなく用意して不満を抑え込んでいる。
原作で見た、扇のグループとして活動していた印象はない。
もしナオトさんが居なくならずに、そのまま原作でレジスタンスのリーダーを続けてゼロとなったルルーシュと合流していたら……
もしかすると、原作でのブラックリベリオンはあそこまで結末が酷くなかったのかも知れない。
本当に限りなくゼロに近い可能性だが、あるいは────
「────いや、今は目の前のことだ。」
「ん? なんか言ったか、昴?」
思わず俺は思っていたことを口にし、退屈そうに小銃の点検がてらにナイフを片手でジャグルするカレンが反応する。
彼女も時々屋敷を抜け出してはレジスタンス行動を共にするが、ナオトさんはなるべく彼女を後方支援部隊の護衛として配置していることが多い。
「何でもない、気を引き締めていただけだ。」
「ふ~ん? アンタでもそうやって自分に声掛けをする時があるんだ? 本当に機械じゃなくてよかった!」
「……………………お前は俺のことをどう思っているんだ、カレン?」
まさかどこぞのサイボーグ人間じゃないだろうな?
「『何でも黙々とそつなくこなしちゃう不愛想な奴』。 で、私の『演技の模倣先』。」
「それは違うな。」
「え?」
「俺はお前に演技を教えた覚えはない。」
「まぁね。 私が勝手に見真似で会得したんだし────」
「────だから下手くそなんだ。 たまにボロが出そうになって、冷や冷やする。」
ヒュッ!
パシッ!
カレンが俺の方に目掛けて投げた鞘入りのナイフを、俺は空中で掴み取る。
あっぶねぇな、おい?!
「よし。 表にでろ、昴。 今日こそお前の顔に一発ぶち込んでやる。」
「断る。 お前と違って俺は明日、学園に通わなければいけない用事がある。」
「??? “通わなければいけない用事”、だって? なにそれ? ……………………あ。 あああ~、なるほどね~。 もしかしてデート……とか?」
こいつ……ニマニマしていて、明らかにからかっているな?
「大変よね~? 学園とかで設定を続けるのは? 『誰にでも人当たりのよくて有能な優男』さん?」
お前に言われたくねぇよ、『素手でハチとか払い落とす病弱設定』。
フ、だが残念かな?
『男子と女子がともに時間を過ごす』ことを『デート』と定義するならば、俺の答えは『イエス』だ。
「そうだな、“デート”とも言えなくはないな。」
と言う訳で、ここはクロスカウンターじゃい!
くらえーい!
「んな?!」
ガシャン!
ん?
なんだ、カレンの奴
「銃を落とすな。 暴発したらどうする?」
そしてそんな初歩的なことが原因で死んだらどうする?!
今までの頑張りがパァになるじゃねぇか?!
「あ、あ、あ、アンタが
おお?
思ったよりダメージが大きいな、これ?
ナチュラルなd20をロールしたか?
クリティカルヒットか?
「私より先にアンタがデートなんてありえないよ?!」
どういう意味だオイ?
ポーカーフェイスの『全力ジト目』をお見舞いだ。
「う゛……だ、だってアンタってば女性に色目使わないじゃん! 一度も!」
いつの間にか聞き耳を立てていた他のレジスタンスたちがウンウンと頷く(主に女性たち)。
いや、そもそもお前たちレジスタンスの女メンバーに『手を出す』という選択肢は俺にないからな?
そうなると自然にレジスタンス行動→黒の騎士団への入団→ブラックリベリオンで捕まるか死ぬ→捕まっていたら後にシュナイゼルの口車に操られるという泥沼に漬かるからね?
俺は裏方でいいの。
目立ちたくないの。
積極的に命に関わる出来事から距離を取りたいの。
「カレン、お前の言っている意味が分からない。」
「だって……アンタ、今まで毒島さんからのアプローチとかに全然反応しないじゃん!」
ああ。
いい忘れていたが、毒島さんは無事に日本侵略を生き残って意外なことにキョウト六家の遠縁の者としてアッシュフォード学園に通っている。
いや、俺もびっくりしたよ? 毒島さんがキョウトの家系だなんて。
そんな設定ないし。
六家の
毒島が剣術部の副部長なのは驚かないけどさ。
……ただ、『剣術部の女王様』ってあだ名はどうかと思うが。
それにな、カレン? お前は『アプローチ』と言うが、アレは剣術部に俺を誘惑しようとする時の言動と目つきは確実に俺のことを『全力を出せる玩具』としてしか認識していないぞ?
何せ以前に、エグイ勝ち方して顧問から他校との試合以外で出禁を一時期食らったからな。
それにしても、アッシュフォード学園指定の女性の制服はええのぉ~。
コードギアスだから美少女ぞろいだし。
特に生足が目の保養に……
って、これ以上あらぬ誤解がカレン+周りの人たちから拡大する前に訂正するか。
「ああ、すまん。 “デート”と言うのは半分嘘だ。」
「はぇ? は、半分?」
「知り合いの女性が留学して、慣れない環境に困っていてな? 明日、学園の案内をする約束がある。 というか約束させられた。」
「“知り合いの女性”だって? ……誰?」
「ちなみにカレンも知っている奴だぞ。」
「わ、私が知っている奴?」
原作では見たことがない、?マークを出してキョトンとカレンも『ポケ-とする猫』そのまんまで目の保養だな。
近づいたら『フシャー!』と鳴かれて次の瞬間、自分の顔中が引っ掻き傷だらけになっているかもしれないが。
俺は今までいじっていた対戦車ライフルの作業に一区切りを終えてからボロイタオルで手に密着した油などを拭きながら未だに困惑しているカレンを見て答える。
「『アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ』だ。」
す、ストックがそろそろマジでヤバイです…… (汗