小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第60話 キュウシユウ戦役2

「あーあ! こ~んなに頑張って準備しているのに中止になるのかな、学園祭?」

 

「だって実質、中華連邦のバックが付いている“日本”とエリア11を通してブリタニア帝国の代理戦争だぜ、これ?」

 

 朝日が差し込む生徒会室でシャーリーがボヤき、リヴァルが言葉を付け足す。

 

「「「…………………………」」」

 

 ミレイ、シャーリー、ニーナの三人が黙り込む。

 

「ねぇニーナ、美術館から借りる予定の屋外ブースは?」

 

 その気まずい沈黙を破ったのはミレイだった。

 

「あ、それならもう手続き終わっているよ。 あ、でも出来れば科学庁に寄ってもいいかな?」

 

「科学庁……ってあの人の贈り物?」

 

「うん。」

 

「あの人?」

 

「「ロイド先生/伯爵。」」

 

「あの女たらしめぇぇぇぇぇ! こちとら複数人の作業をしていて会長というモノがありながら────!」

「────いやいや、そんなんじゃないから。 全然、ね……」

 

「???」

 

 ミレイにしてはかなり珍しい、俯きながらのアンニュイな顔にリヴァルがハテナマークを出す。

 

「それにしても、一気にガラーンとなっちゃったわよね。 ルルはひらりと消えちゃってスザクは軍、カレンは病院、スヴェンはカレンの付き添い、アリスとライブラは家の用事……」

 

「ミィ。」

 

「あ、もちろんアーサーもいるのは分かっているよ?」

 

 シャーリーの言葉にアーサーが鳴き声を出して彼女は思わず人語でしゃべりかける間、ミレイは窓の外を見て先日スヴェンと話した内容を思い出す。

 

 

 

 アッシュフォード家は現状、かなり曖昧な立場に立たされている。

 昔のコネを使ってアッシュフォード学園の管理と経営を行い、かなり成功させているもののかつての大貴族だった頃の栄光とは比べ物にならない。

 よってミレイの両親は『ミレイ・アッシュフォード』というカードを使って再興する為の政略結婚のお見合いを度々セッティングしている。

 

 貴族の社会で、特に成人前で何の功績もない女性に発言権や決定権はほぼ無いに等しく、立場あるようで実際は無く、肩身はかなり窮屈なもの。

 

 事実上、『貴族政略の駒』でしかない。

 特に弱小(没落)貴族ともなれば。

 

 貴族で純愛結婚など童話、夢物語(フェアリーテイル)に出てくる稀なもので。 婚儀のほとんどがビジネスに似た『家同士のギブアンドテイク関係』が普通である。

 よってミレイはそれ等お見合いをそれとなくぶっ壊して破談にしてきた。

 

 今までの相手は年上や()()()な相手が多かったが、アッシュフォード家より認識は上だが所詮は数ある低級貴族階級。

 破談になっても『あ、やっぱり駄目か~』な感じに周りの貴族たちから見られてもしょうがなかった。

 

 だがロイドとなると、話の次元が今までのお見合い相手とは完全に違ってくる。

 

 帝国の第二皇子シュナイゼルと繋がりを持ち、彼自身も伯爵の爵位を持つ上位貴族。

 そんな彼が、ダメもとでアッシュフォード家が送った手紙に『お見合いイイヨ♪』の一言で即オーケーの返事を返してきたのだ。

 

 本来貴族は長ったらしい文面や何回かのやり取りで時間を稼ぎながら相手の素性を探ったり、家の情報などを集めて『品定め』をしてから『イエス』か『ノー』の返事をするものだがロイドは即返事をしたことでミレイの両親は大喜びですぐにミレイに相談せず準備を進めていた。

 

 今度の相手は『破談』とするには難しすぎる事情も事情ゆえに、色々と問題があった。

 

 祖父である理事長のルーベンはあまり気乗りしていなかったが、元々アッシュフォード家の没落する原因を作った本人であるので強く言えなかった。

 

 そんな時ミレイはどうしたらいいかルルーシュに相談しようかと思ったが、殆んどお手上げ状態。

 

 そんな時、彼女は時々底が知れないような言動を見せる『シュタットフェルト家の従者見習い』に相談することを決めた。

 

 他家の従者とは言え彼は有能で口も堅く、(少なくとも学園では)人当たりが良かった。

 

「と言う訳で、どうしたらいいかなスヴェン?」

 

「ミレイ会長の“と言う訳”に私は若干トラウマを覚えつつありますが? (ニッコリっ)」

 

「う。 ゴ、ゴメンってば────」

「────というのはこれぐらいにして、ミレイ会長が悩んでいるのは何のことでしょうか?」

 

「えっと……スヴェンはアスプルンド家の事を知っているかしら?」

 

「ええ、まぁ……一言で言うと“今の帝国宰相(シュナイゼル)の後ろ盾として知られている人間性に問題アリの変人”ですね。」

 

 スヴェンの笑顔に反し、ミレイの顔は自然と引きつってしまう。

 

「そ、それが一言なんだ? ……ねぇ、もう聞いているかもしれないけれど私……今度のお見合いがその“変人”なんだけれど────」

「────おめでとうございます。 (ニコッ)」

 

「……全然おめでたくないのだけれどありがと。 で、どうやったらうまく破談に出来るかな?」

 

「“最初から”、は無理ですね。」

 

「…………………………やっぱり?」

 

「『人柄』や価値観はともかく、貴族は『体面』と『地位』を重視しますから。 ので逆に今度こそ破談すると、ミレイ会長がプ────ロイドさん以上の『変人』の認定やレッテルを貼られかねませんから。」

 

「(あれ? 相手は伯爵なのに、名前でさん付けで呼ぶなんてスヴェンにしちゃ珍しいわね? 会ったことあるのかしら?)」

 

 

 余談だがこの時スヴェンは思わず『プリン』と言いそうだったのをセシルの『ロイドさん』に変えただけである。

 

 

「ですので、ここは彼にこそギブアンドテイク(ビジネス)の関係を結んだらどうでしょうか? 彼の事を考えるのなら、恐らくオーケーした理由はガニメデやイオ()()ですから。」

 

「あの、貴方がよく倉庫に行って整備している基本フレームの? 何体かあるけれど、ちゃんと動くのは()()()()()()()()よ?」

 

「あれは今のサザーランド……いえ、下手したらグロースター並みの機動力を理論上は出せますから。」

 

「え、嘘?!」

 

「理論上です。 それに興味を引かれたロイドさんはミレイ会長とのお見合いにオーケーを出したのでしょう。 彼は研究に対する探究心の塊で、それ以外のほとんどに興味を持ち合わせていませんから。 ですので、『ガニメデの観察や基本データなどを代わりに婚約者ごっこを続ける』というものを逆にこっちから話を持ち掛けるのです。」

 

「……スヴェン。 貴方、ウチの専属にならない? カレンに話は通すからさ。」

 

「私はカレンお嬢様ではなく、シュタットフェルト家当主に雇われている身ですので。」

 

「……それとさっきの相談、ありがとう。」

 

「いえいえ。 ミレイ会長には色々と借りがございますので……あ。 最後に一つだけ忠告がございます。 ロイドさんが嫌うのは────」

 

 

 そしてスヴェンの言葉もあってか、初っ端からの破談をミレイは諦めた。

 面会すれば指定された場所は特派専用のトレーラー内。

 しかも初めて会うのに『時間の無駄、結婚しよう』である。

 

 思わず淑女の猫かぶりをミレイが破って『はやっ?!』と言いながら『(すぐにスヴェンの言っていた『時間の無駄遣いが嫌い』が出た?!)』と思うほど。

 

 そこからは流されるまま『結婚はまだ早い』ということで『取り敢えず婚約、結婚は保留』という話になっていた。

 

 ロイドの『あは♪ バレていたの? 君も賢いね?』のお墨付きで。

 

「(やっぱりロイド伯爵の狙いはアッシュフォード家に残っているガニメデとイオに関するデータだった。 こっちからそれとなく話を振ったら、一気に主導権をこっちに譲るなんて正直、驚いたわ。 それに、ニーナの趣味にも乗り気だったし……でも────)」

 

『────所詮は時間稼ぎ。』

 

 その事実がミレイの脳裏に小さな針のようにチクチクとくっついて離れなかった。

 

 いずれミレイは貴族でも社会でも学園から卒業すれば『成人した女性(大人)』と見られる。

 

『モラトリアムが出来る内は楽しむべき!』、と本人は言っていたが根本的に状況が改善されるわけではない。

 

「(……………………『ジョナサン・シュタットフェルト様』宛てに書いて、ブリタニア本国に送れば届くわよね?) ねぇ皆? 『理事長の孫』って社会的ステータスでどのぐらいだと思う?」

 

「「微妙?」」

 

「ングッ。 び、“微妙”……」

 

 ニーナとシャーリーが首をかしげながらそう言うと明らかにミレイが(精神的)ダメージを受ける。

 

「お、俺は良いと思うぜ会長────!」

「────皆さんお久しぶりです~。」

 

 いつもの元気いっぱいの様子ではないライブラがフラフラ~と入って来てリヴァルの言葉を遮る。

 

「どうしちゃったのライブラちゃん?」

 

「お兄様の苦手な人が本国から来ているのです~……そして何故か私を見ると抱きしめてなかなか放してくれないのですよ~……学園祭、もしかして中止ですか?」

 

「う~ん、どうなんだろうね? でも最悪、私たちだけでも巨大ピザを作ろうかな?」

 

「そうですか~……(ライブラ)は噂の『()()()』に会ってみたいです!」

 

「「「う゛。」」」

 

「……(ポッ。)」

 

 ライブラの言ったことでシャーリー、リヴァル、ミレイの三人が気まずくなり、ニーナが頬を静かに赤らませる。

 

「ラ、ライブラちゃんはどこでそのことを知ったのかしら?」

 

「中等部の皆ですー! 私が学園祭の事を周りに聞いたら『お姉さまに会いたい!』って言う子がいっぱい居たので聞いたら高等部では『女王様』と呼ばれているって分かりましたです! なぜかアリスは遠い目をしましたですけど……」

 

「「(無理もねぇ/ないよ。)」」

 

 リヴァルとシャーリーがそう思う後ろでキラリと何かの閃き(ニュータイ〇フラッシュ)がミレイの頭を駆ける。

 

「そうね! 復活させてもいいかも、『女王様』!」

 

「え?! かかかか会長?! 本気ですか?!」

 

「ええ! と言う訳で金庫開けてカツラを取り出しておくから。」

 

「うわぁ……また性癖を拗らせる奴がわんさか出るのかよ。」

 

 「性癖……(ポッ)」

 

 シャーリーが明らかにドン引きしながら慌て、リヴァルが青ざめ、ニーナがさらに赤くなる。

 

「んっふっふー! では学園祭が決行できた暁には、我が生徒会の出し物は────!」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「我々は澤崎とは合流しない。」

 

 黒の騎士団の本拠点になりつつ潜水艦の中でゼロがそう宣言する。

 

「えっと……あっちは“日本”って名乗っているけど────?」

「────あれはただの傀儡政府だ、中華連邦のな。 主君と名前が変わるだけで現在と何も変わらない。」

 

「それくらいわからんのか、役立たずが。」

 

 玉城の言葉にゼロが答え、CCがこの間『ゼロの愛人』呼ばわりされたことの意趣返しをする。

 

「んな?! それくらい分かってらぁ!」

 

「ゼロ、ここは明確に組織としての目的を言うべきではないでしょうか?」

 

 ディートハルトが一瞬だけ部屋の端にいるスバルを見てそう言う。

 

「そうだな。 我々はトウキョウに独立国を作る。」

 

「はぁ?!」

「独立?!」

「なんだって?!」

「く、国を作るのか?!」

「ッ! ゼロ、やはり貴方は!

 

 ゼロの宣言に黒の騎士団のだれもが動揺や感動を示す。

 

「(これにも動揺しないか、心が死んでいるとしか思えん……拷問の後遺症か? それともすでに予測していたのか?)」

 

 ゼロが見ていた、一人だけを除いて。

 

「待ってくれ! いくら黒の騎士団が大きくなったと言っても、相手はブリタニアだぞ?!」

 

「世界の三分の一を牛耳る大国を相手に、黒の騎士団だけで?」

 

「ならば問おう! 我々以外の誰かが、ブリタニアを倒してくれると思っているのか?」

 

 藤堂は一瞬だけスバルを脳内で思い浮かべる。

 

「“誰かが自分の代わりにやってくれる”? “待っていれば いつかはチャンスが来る”?

 否! 自らが動かない限り、そんなチャンスは絶対に来ない! 扇、我々黒の騎士団は何だ?」

 

「え?! え、えっと……正義の味方?」

 

「そうだ! そしてこの澤崎が自称している“日本”は、不当に値する力で動いているにすぎない! その力は彼自ら得たものではなく、中華連邦の助力によるものが大きい! 澤崎は知らずのまま“日本”を中華連邦に売り渡す呼び水になっていると気付かぬふりをしている悪党にすぎん!」

 

「だ、だけどあの映像には日本解放戦線の少将も────」

「────ならばなおさら質が悪い! それならばせめて送る映像に中華連邦の将軍やナイトメアを見せないなり工夫すればよかったものを、おそらくは交渉に負けたのだろう! 無知は罪であるが、彼のやっていることは加担と同様である!」

 

「ではゼロ、これから黒の騎士団はどう動く?」

 

「澤崎、そして彼の操っている中華連邦を叩く。 これにより、我々の存在を世界にアピールし、支援者を増やし、その流れをトウキョウ独立に使うつもりだ。 この作戦には黒の騎士団で“傀儡国家日本”が展開している部隊を各個撃破する。」

 

 それからゼロは次々に指示を出すが、やはりスバルは動揺せずにただそれらを聞いて頷き、作戦室が解散される。

 

「あ、スバル!」

 

 カレンがゆっくりと歩くスバルに追いついて彼の肩に手を置く。

 

「今回は一緒の部隊だね! 背中は任せたよ!」

 

「……ああ。」

 

 スバルはそう短く、くぐもった声でそっけなく答えるとカレンは小さな違和感を覚える。

 

「??? (なんか……なんだろう、これ? ()()()()()()()?)」

 

 

 ほぼ同時刻では、世界で初の浮遊戦艦アヴァロンがキュウシュウブロックの上空へと向かっていた。

 目的とともに、ブリタニアの作戦は単純だった。

 

『中華連邦によって“日本”の旗印になった澤崎敦の捕縛。』

 

 アヴァロンといえどもブレイズルミナスは全方位式ではなく、一隻だけでこれは不可能である。

 

 ランスロットの突破力ならではの特攻作戦だった。

 

「………………」

 

 ランスロットのパイロットであるスザクは静かに格納庫の中で枢木ゲンブの形見である────否。 自分の戒めとして持ち歩いていた懐中時計を見ていた。

 

 針はスザクが父を撃ったあの時で止まり、本体は今では懐かしいと感じ取れる『シンジュク事変』で友であるルルーシュをクロヴィスの親衛隊から庇って撃たれたときに壊れてしまった。

 

 それでも尚スザクはそれを持ち歩いて、今度はバックパックを搭載したようなランスロットを見上げる。

 

『ランスロット・エアキャヴァルリー』。 アヴァロンやガウェインで十分データが取れたフロートシステムを外部パーツとして搭載され、飛行能力を得たランスロットの新しい名だった。

 

 ただし、毎度のことながらその新装備は未調整で急ごしらえのこともあってかエナジー供給はランスロット本体からされている。 これによって既にエナジー消費が激しいランスロットの稼働時間はかなり短くなってしまった。

 

 ロイドやセシルの計算だとどれだけ見積もっても『作戦の成功率は6割』とかなりよく聞こえるがそれはあくまで『作戦の全体成功率』であって『パイロットの生存率』ではない。

 

「それでも、俺はやるしかないんだ。」

 

『作戦地域に近づいています、枢木スザク少佐はランスロット・エアキャヴァルリーに騎乗してください。』

 

 艦内放送を耳にしたスザクはランスロットに乗り込んでシステムを作動させる。

 

 コックピット内からでも聞こえる爆発音とアラームにセシルの通信が届く。

 

『弾幕を張りますか、枢木少佐?』

 

「必要ありません、アヴァロンの防衛に使ってください。」

 

『では作戦概要の確認を行います────』

 

 セシルの声を聞きながら、スザクは別のことを考えていた。

 

「(できるだけ敵の本拠地であるフクオカ基地を強襲し、混乱させてコーネリア様たちが率いる別動隊が防衛線を突破する隙を作る。 それだけに僕は集中すればいい。)」

 

 スザクやロイド達は元から『澤崎敦の捕縛』は諦めていた。

 どれだけ性能が良くても、ランスロットはたった一機で稼働時間も危うい。

 

 セシルは最後まで反対したが、当の本人であるスザクはこの作戦を承諾したことで決行された。

 

『ランスロット、発艦!』

 

「発艦します!」

 

 スザクはランスロットがカタパルトを一気に最高速度で移動を開始したことで自分の体に圧し掛かるGに耐え、ランスロットのフローターユニットが展開今まで感じたことのない浮遊感に感動しそうな自分の一部を押し殺してそのままフクオカ基地へと突貫していく。

 

 ミサイルに戦闘ヘリをできるだけエナジー消費の少ない機動とスラッシュハーケンでできるだけパイロットの乗っている機体に致命傷を避けた攻撃で宙を舞う。

 

「(いいぞ、このままいけば基地での稼働時間が────)」

『────私は澤崎敦だ。 こちらに向かって来る君は、枢木ゲンブの息子かね?』

 

 そこにオープンチャンネルでスザクに映像付きの通信を送ってきたのは澤崎本人だった。

 

「ッ。」

 

 スザクは父親の名を聞いて思わず動揺から黙り込んでランスロットの操縦に専念する。

 

『そうか、こんな子供に育ったのか────』

「────自分は戦いを終わらせに来ました、降伏さえしていただければ────」

『────そうして“日本独立”の夢を奪う気かね? 日本は蹂躙されたままでいいと?』

 

「ですが、こんな手段は間違っています! 正しい手段で叶えるべきです!」

 

『そうして君は自分の我儘を虐げられている日本人に強いるのかね?』

 

「ッ! ち、違います! それは────ノッ?!」

 

 ランスロットがフクオカ基地に降り立つと鋼髏(がんるぅ)が文字通り周りからの建物などから次々と出てきては一気に発砲してランスロットが持っていたVARIS(ヴァリス)が被弾して誘爆する前に捨てられる。

 

「クッ!」

 

「(ふふ、会話に集中しすぎて周辺警戒が疎かになるとはまだまだ青いな。)」

 

 澤崎はMVSを出して応戦を試みるランスロットを愉悦に浸りながら画像を見る。

 

 アリのように次々出てくる鋼髏(がんるぅ)の一機一機がランスロットはおろか、サザーランドに遠く及ばないものの多勢に無勢。

 

 かつて『ホホホ、アリが恐竜に勝てると思うのか?』と言った悪役がいたが、もしそのアリの数が数億などで一匹一匹が毒を持っていれば話は違うだろう。

 

「フロートシステムが?!」

 

 それと同じように、ランスロットは苦戦を強いられていた。

 

 右腕のMVSで鋼髏(がんるぅ)を、左腕のブレイズルミナスで射撃を、とランスロットが応戦するが────

 

「あれは、無頼改?!」

 

 ────今度は日本解放戦線の機体たちとかち合ってしまい、攻撃を受ける。

 

 前方に無頼に無頼改、後方に鋼髏(がんるぅ)

 

 今まで軽い被弾だけで済んでいたランスロットが直撃を受けて所々が火花と露出した電流を出し始める。

 

『スザク君、エナジーを戦闘と通信に絞り込んで!』

 

「了解です!」

 

 展開中だったランスロットのファクトスフィアがボディに戻り、あらゆるデータが無くなりスザクはモニター越しで肉眼で得た情報を身体能力で補う。

 

『投降したまえ、悪いようにはせん。 枢木首相の遺児として────』

「────お断りします!」

 

『全く、その強情さは父親譲りだね。』

 

「ここで父の名を使ったらそれこそ、自分は自分を許せなくなってしまいます! (それも、この先長くはないけれど……)」

 

 スザクが見るのはさっき消したアラームの一つで、分数に迫っていた合計稼働時間だった。

 

『枢木スザク────!』

「────え?! ゆ、ユーフェミア様?!」

 

 そこで澤崎のオープンチャンネルに割り込むようにユーフェミアがモニターを塗り替える。

 

『あの、私は……えーと……』

 

 だがさっきまでの勢いはどこに行ったのか、ユーフェミアがまごまごしだす。

 

「あの、今は作戦中────」

『────く、枢木スザク! 私を好きになりなさい!』

 

「はい────え?」

 

 スザクは器用にユーフェミアの通信と包囲を試みる敵の機体たちから逃げることを平行に行い、通りざまに無頼の腕を切って落とすアサルトライフルを手に取ってランスロットのOSソフトウェアドライバーがインストールするとそれを撃ち出す。

 

「(ユフィは、今なんて?)」

 

 それでも、彼は思わずユーフェミアの言葉を聞いた自分の耳を疑ってしまう。

 

『どうしよう?』と思っているスザクにユーフェミアは今まで出したことの無い、真剣で熱意のこもった言葉を口にする。

 

『その代わり、私が貴方の事をその分よりもっと好きになります!』

 

「(聞き間違いじゃ、なかったんだ。)……ええっと────?」

『────私は貴方の頑固なところも優しいところも時折悲しくて寂しい瞳も不器用なところも猫にかまれるところも全部好きです!』

 

 そこでスザクにはピンと来てしまう。

 

「(ああ……僕の行動が逆に心配させたのか。) いきなりですね?」

 

 さっきから紅く点滅するアラームを無視してスザクが思い出すのはユーフェミアが政庁のビルから飛び降りて文字通り空から降って来たとき。

 

 純血派の内部抗争の場に飛び出て迷わず皇女を名乗り上げたとき。

 

『学校に行けるのなら通うべきです!』と聞く耳持たずにアッシュフォードへの入学を進めたとき。

 

 名誉ブリタニア人とはいえ、ナンバーズである自分を『皇族付きの騎士』と任命した時。

 

『そうです! いきなりなんです! いきなり気付いちゃったんです!』

 

「そうやって僕や周りを困らせているけど、その“いきなり”のおかげで僕は数々の扉を開けられた気がする。」

 

 彼女のおかげでルルーシュやナナリーに再び出会えた。

 色々あるけれど、学園に通う事も出来た。

 

『軍人』としてではなく、『枢木スザク』という一人の人間として。

 

「ありがとう、感謝している。」

 

 そんな感動の真っ只中、スザクは稼働時間を見ると感動と同等な悲しみが彼の胸を襲う。

 

「(ああ、俺はこれからこんな人を悲しませてしまうのか。) ()()()、お願いがあります。」

 

 フクオカ基地の司令部まであと少しというところで、ランスロットがエナジー切れを起こし始める。

 

『さ、最後って?』

 

 展開中だったブレイズルミナスは消え、さっき奪ったアサルトライフルも弾切れを起こし、MVSもただのナイトメアサイズの剣となり、ランドスピナーの動きも緩やかな速度に落ちていく。

 

「これから僕に何かあっても、決して自分を嫌いにならないでください。 でも『枢木スザク』という人がいたことは消してください。」

 

 スザクは残った緊急用エナジーを通信から全て駆動部に切り替える準備をしておく。

 

「あ、あと学園の皆には内緒に。 僕は転校したことにでもしてください。」

 

『スザク?! まさか────』

「────ありがとうユフィ。 僕は……俺は、君のおかげで────」

 『────だめぇぇぇぇ! スザク死なないでぇぇぇぇ! 生きてぇぇぇぇ!』

 

 ユーフェミアの悲痛に満ちた声……というよりは『生きて』と叫ぶ声にスザクは一瞬意識を失いそうになるが目の前にいた敵の機体たちは空から降る赤い閃光に包まれ、熔解し始めると爆発したことで視界が戻る。

 

「ッ……僕は────」

『────枢木よ、動けるか?』




ちゃんと後半シーンを表現できたか不安です。

何度見ても胸にグッときて泣けるこの名シーンのおかげで長くなりましたが、後悔はないです。 ( つω;`)ウッ

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