小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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大変長らくお待たせいたしました、次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


第76話 ブラックリベリオン4

 大きな地鳴りを鳴らしながら、ブリタニアの紋章を赤い塗料で塗りつぶしたG1ベースが、かつてエリア11がまだ『日本』と呼ばれていた時代の名残である廃墟にある街道を走っていた。

 

 周りには多く鹵獲し、急遽黄色いカラーリングを施した大量の元ブリタニア軍のサザーランド、戦車、装甲車などが次々と合流しつつあった。

 

 戦車や装甲車の看板には、トウキョウ租界へ向かうG1ベースの侵攻に便乗する多くの志願兵が中に入れずに座る姿もあった。

 

 この光景を、G1ベースのバルコニーから元ナオトグループの幹部たちが見下ろす。

 

「次々と数が膨れ上がるわね……整備班の皆も頑張ってくれているわ。」

 

「ヤマナシグループと、サムライの血の生き残りも向かっているらしいぜ。」

 

「数だけでも数万はもう超えている……ちゃんと統率が取れるのかな?」

 

「『藤堂さんの指導を受けた幹部(俺たち)次第』……ってところか。」

 

「って、なんでそこで俺を見るんだよ?!」

 

「「「「別に?」」」」

 

 後方支援部隊のまとめ役である井上に続き、玉城、吉田、そして南が続けて上記の言葉を発し、全員が玉城に同じタイミングで視線を向ける。

 

 原作での彼ら彼女らはこの圧倒する景色に舞い上がっていたが、『カレンのおっさん化』にブチ切れ怒ったスヴェンの頼みで幹部たち(主に男性(おっさん)たち)は軍で行われる訓練(指導)(の名を借りたブートキャンプ)を経験した。

 

 そのような荒治療の効果からか、彼らはただ浮かれるだけでなく、少しだけ現実的にものを見れていた様子だった。

 

 そんな傍でカレンは携帯電話をチェックしていた。

 

「(まだ『未読』、か……)」

 

 彼女が見たのはスヴェン宛に送ったメッセージ。

 内容は彼が今どこで何をしているのかと、機密である筈の“アッシュフォード学園占拠”の作戦についてだった。

 

「(スヴェンの事だから、何か手は打っていてもおかしくない……生徒会の皆、ちゃんと避難しているかな? お母さん……大丈夫かな?)」

 

『ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように。』

 

 そんなスヴェンが先日言った言葉がカレンの脳裏を過ぎり、彼女は複雑な気持ちになる。

 

 

 

 ……

 …

 

 

 

『そこの機体、止まれ。』

 

 トウキョウ租界と、ゲットーよりさらに外の無法地帯の境界線付近にて、防衛に配置されたと思われるサザーランドたちが近づくグロースターを音声のみの通信で呼び止める。

 

『ここはトウキョウ租界、アツギ防衛戦だ。 所属と名を名乗れ。』

 

 サザーランドの呼び掛けにグロースターが通信を開くと、ダールトンが乗っていたことが判明する。

 

『私はダールトン将軍だ。 大至急、コーネリア総督の元に行かねばならない! そこを通せ!』

 

『よくご無事で、将軍。 どうぞ。』

 

 そう黒い機体が答えると道を開け、ダールトンがそのまま通ろうとすると背後からの動きに思わず反射神経で向かってきたランスを自分のランスで弾く。

 

『ッ! 貴様ら、どういうつもりだ?! いや、それよりどこの所属だ?!』

 

 ダールトンが見たのは紫のカラーリングをしたサザーランドに加え、黒い見知らぬ機体たちが答えずに建物の陰から出てくる場面だった。

 

 

 ……

 …

 

 

『反乱軍の接近によりゲットーの治安が悪化しています。市民の皆さんはシェルター、または家から出ないようにお願いします────』

 

 アッシュフォード学園のクラブハウスでナナリー、シャーリー、リヴァルの寮生活者たちはテレビのニュースを見ていた。

 

「学園も……巻き込まれるのでしょうか?」

 

「「……………………」」

 

 ナナリーの言葉にシャーリーとリヴァルは互いを見る。

 

「あー……ないない! ここ、ただの学園だよ? 占拠なんかしたら『正義の味方像』が崩れるじゃん?」

 

「そうだよ、戦場になるのならもっと政庁の方や中央寄りの所になるだろ普通?」

 

「……そう、ですよね。」

 

 

 ……

 …

 

 

「ええ。 ええ。 承知しております、殿下。」

 

 学園の理事長室ではルーベンが電話を受け取りながら汗を拭きとっていた。

 

「勿論、私としても生徒の安否が最優先であることは承知しております。 ですが、ナイトメアを敷地内に待機させることで学園が反乱軍の攻撃目標に……ええ、ですので敷地外で……学園を『非戦闘地帯』にですか? 確かに、反乱軍の中核を担う黒の騎士団が了承すれば……」

 

 そんな理事長室の中に、椅子に座って足をプラプラさせるライブラの姿があった。

 

「(お兄様……そこまで……)」

 

 

 ……

 …

 

 

「ニーナ! クラブハウスに避難しましょう!」

 

 学園内の倉庫でミレイは油やグリスまみれになるニーナに声をかけ、残ったガニメデを見上げていた。

 

「ミレイちゃん、先に行っていて。」

 

「で、でも────」

「────大勢の野蛮なイレヴンが来るんでしょ? なら私はスヴェン君の代わりに、これの最終チェックとエナジーフィラーを取り付ける。」

 

「そんなの、彼は望んでなんかいないわ────!」

「────だったら……なんで彼はいつでもこれを動けるようにしておくような整備をしていたの?」

 

「そ、それは……」

 

「非常時の時に、いつでも使えるようにでしょ? 今が非常時じゃないのならいつなの?」

 

 珍しく、意思がいつも以上に強いニーナ……以前の頑固なニーナが出てきたことにミレイは戸惑うが、ニーナは自分の作業に没頭する。

 

「(そう。 きっと、そうよ。 こんな日の為にスヴェン君はガニメデの整備を怠らなかったのよ。)」

 

 ニーナが横目で見たのは、ぼんやりとピンク色の光を放つシリンダーだった。

 

「(ウランの事もきっと同じ。 でも今、彼はここにはいない……だったら、私が代わりにやらなくちゃ!)」

 

 

 ……

 …

 

 

 

『おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為かかり────』

 

 ────ピッ♪

 

 トウキョウ租界のアパートにいたベルマは何度目になるのか分からないメッセージを聞いて電話を再び切る。

 

「(あの人、大丈夫かしら。)」

 

 ベルマは窓の外からブリタニアの警察などが騒がしくなったゲットーへ出動する光景を見る。

 

「(租界だけれど、ここはゲットーにも近い……)」

 

 彼女が見るのはテーブルの上の封蝋が開けられた手紙だった。

 それに書かれた“開ける状況下”とは“トウキョウ租界付近に暴動が起きるような気配”。

 そして内容はシンプルだった。

 

If you feel you’re in danger use anything(身の危険を感じたら何でも使ってもいい)

I won’t blame you nor will I let anyone else(君を責めないし責めさせない)。 

So don’t worry about me(だから俺の事は心配するな)。』

 

「(“何でも使ってもいい”って……)」

 

 ベルマが見るのは先日、アパートの掃除をしていた時に見つけた銃などの軍用装備だった。

 

 だが彼女は不安を感じ、何とかスバルに連絡を取りたかった。

 

 記憶を失っているとはいえ、軍人である彼女は無意識的に『誰かの肯定』を欲しかったのかもしれない。

 

 あるいは────

 

 ────ドォォォン!!!

 

「(爆発? それに距離が近い?!)」

 

 爆発音がし、アパートの壁などが震えてベルマが窓をまた見ると地下水道から租界内へとなだれ込む人たちの姿を見る。

 

「まさか、ゲットーに警察が出動したのを待っていた?」

 

 そのなだれ込む人たちが手あたり次第のビルを傷つけたりや閉まったドアを蹴破ってから中へと入っていくのを見たベルマは、アパートのドアのカギを全て閉めて電気を消す。

 

 予測通り、他の階や周りからドアなどが破られる音や住民の叫びが聞こえてベルマは震える。

 

 ドン!!!

 

「きゃ?!」

 

『やっぱり誰か中にいる!』

『ドアを破れ!』

『ブリタニア人はリンチだ!』

『積年の恨み、ここで晴らしてやる!』

 

 ついに自分のいたアパートのドアが荒々しく叩かれ、ベルマが思わず出した声に外の者たちがさらに騒ぎ出す。

 

「(す、スバルさん!)」

 

『身の危険を感じたら何でも使ってもいい。』

 

 ベルマは先ほどテーブルの上に置いた拳銃を見る。

 

『君を責めないし責めさせない。 だから俺の事は心配するな。』

 

「(そうよ。 私は、ここを護る。 あの人が、帰って来られるように。)」

 

 気が付けば、彼女は拳銃を手にするとその重みに()()()()とも呼べる感じを不思議に思いながらもそれをドアの方へと構える。

 

「(一発……一発だけ。 怖がらせれば────)」

 

 ────バキバキバキバキバキバキ!

 

 バァン!

 

 ようやく先ほどから重いモノで軋む音から壊れる音と共にドアの蝶番が壁から外れ、乾いた銃声が租界に響く。

 

 

 

 租界の様子に気付き、引き返したブリタニアの警察がその場に駆け着くまでに、元暴徒と思われる者たちが撃たれ、絶命していた遺体の道があった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 黒の騎士団を中心に、トウキョウ租界へと進行していた反乱軍は防衛配置されたブリタニア軍との小競り合いを続けていた。

 

 否。

 

『消極的な小競り合いをしては撤退する』行動をブリタニア軍は続けていた。

 

「(おかしい……なんだこの手ごたえの無さは?)」

 

 外で実際に戦っている反乱軍とは別に、G1ベースの中からこの戦況を見たゼロはこのことを不気味に思っていた。

 

「(ブリタニアらしくない、消極的な行動……コーネリアならばもっと上手く誘い込むなり、虚を突こうと奇襲をかける筈だ……それにこの時間だ。 ダールトンがコーネリアと会って会場での出来事と周波数を伝えている筈。 まさか彼、もしくは彼らに何かあったのか────?)」

「────ゼロ。」

 

 そこにG1ベースのブリッジにいたディートハルトが声をかける。

 

「どうした、ディートハルト?」

 

「ブリタニアから、『アッシュフォード学園を非戦闘地帯の承認、及び双方側の野戦病院にしたい』との申し出が来ました。 いかがいたしましょうか?」

 

「(アッシュフォード学園を? 何故だ? 何故そこを指名────いや、これはチャンスだ。 ブリタニア軍も恐らくいるが、合法的に黒の騎士団を送り込んでナナリーの警護に回せる。 それにもうここまでくれば、あとはコーネリアと俺が上手く接触するだけだ。) 

 分かった。 『その申し出を条件付きで承諾しよう、詳細は追って話す』と返せ。 ディートハルトはこのままG1ベースに残り、前線は藤堂に任せろ。 全軍は極力ブリタニア軍との交戦は控え、十分な余力を()()()()()()()との方針を再度通達しろ!」

 

「分かりました。」

 

 ゼロが立ち上がってG1ベースのブリッジからガウェインの待機している後方に出ようとしたところでドアが開く。

 

「ん? 桐原に、皇────?」

「────む、ゼロか────」

「────よかったぁ! 間に合いましたぁ────!」

「────皇の、今は────」

「────私、貴方のデビュー時からずっとファンだったんですよ────?!」

「────ですから今は────」

「──── “ようやくちゃんとお話が出来る”と思ったのに私を置いて今度もさっさと出陣しちゃうなんてひどいなぁ────」

「────えっと────」

「────背、意外と高いんですね────!」

「────あの────」

「────あ、でもご心配なく! きっとすぐに追いつきますから!」

 

「…………………………………………」

「(ニコニコニコニコニコニコニコッ。)」

 

 神楽耶のマシンガントークにゼロが一言も入れられずに圧倒されて黙ってしまうと、まるで彼のその様子を『面白い』(もしくは『微笑ましい』)と感じたのを表現するかのようなニコニコ顔を神楽耶はしていた。

 

「(……なんなんだこいつ? まるでライラの身体に会長(ミレイ)を入れたような……)」

 

 ようやくゼロがそう考えだすと『何事か』と思ったディートハルトは桐原、そして神楽耶がいたことがギョッとする。

 

「こ、これは?! キョウトの方々はフジサンに残ったはずでは?!」

 

「むふ~ん! 追いかけて来ちゃいました!」

 

 ゼロ、CC、ディートハルトが桐原を見ると彼は気まずくそっぽを向く。

 

「何ゆえそのようなことを、皇の────?」

「────それは勿論、()の戦いぶりを見る為にです────!」

「────夫────?」

「────ですから私の事は気軽に“神楽耶”とお呼びください、()()()!」

「…………………………………………………………は? (お戯れを。)」

 

 ゼロの問い&言葉をまたも遮った神楽耶の言ったことに一瞬思考がフリーズし、思わず彼の内心と発するはずの言葉が逆になってしまう。

 

「だってこの戦いに勝利で終わった後は、いずれ伴侶()が必要になりますでしょう? 旦那様がお素顔を見せられない身ならば、体面的にでもそれを補う者がいるとは思いませんか?」

 

「……………………ふむ?」

 

 彼女の言葉に、ゼロは考えるような仕草をする。

 

「(第一印象とは違い、こいつはご尤もな提案をする。 確かにこの状況が終われば“ゼロの素顔”に関して疑問に思う者たちが出るだろう。

 それに扇たちには既に“ゼロが日本人ではない”と宣言して桐原が肯定したからな……ならばキョウトの当主である皇が“ゼロの伴侶”として傍にいれば、日本人たちに対しての“自国の象徴”になる。

 それを理解しての提案ならばこの娘、俺の外交補佐などをさせても問題ないだろう。 それに背の差はさほど問題にはならん……筈だ。 うむ。 これは思わぬ収穫、活用しない理由は…………)」

 

 その時、ゼロ(ルルーシュ)の脳裏をシャーリーが過ぎる。

 

「(何故ここでシャーリーが出てくるのだ? 意味が分からん。 分からんが────)────あなたは『勝てる』と思いますか?」

 

「それが例え『物理的勝利』でなくとも、『交渉の勝利』は勝利ですから!」

 

「(やはりこの娘、本人自身の戦闘能力は恐らく無いものの、頭の回転はかなり速いし戦術の読みも悪くない。 恐らくだが、俺が今まで出した指示が『何らかの布石』と薄々感じているような言葉だ。 しかも今までの言葉と動作を考えれば……) なるほど。 貴方の提案、あとで詳しく相談しましょう。」

 

「お待ちしております、旦那様!」

 

「ゼロで良い。」

 

「分かりました、ゼロ様!」

 

 ゼロがガウェインの待機している格納庫へと速足で歩く。

 なぜなら彼は気付いてしまったのだ。

 

「なるほど。 だからあんな服ばかりを持っていたのか。」

 

 CCがいたことに。

 

「今は黙れ────」

「────お前の周りにいる奴らが知ったらどんな反応をするだろうな────?」

「────だから今は────」

「────なぁ? ろr────」

「────あくまで政略かつ政治的な体面を考えている。

 

「そういうことにしておくよ。 童貞ぼ・う・や♪」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『聞くがよい、ブリタニアよ! 我が名はゼロ! 力なき者に対する弾圧者に反逆する者である!』

 

 トウキョウ租界の外延部に聳え立つ砲台や部隊などの有効射程距離外にガウェインをCCが動かした後、ゼロの仮面を取ったルルーシュがそう高らかにオープンチャンネルで音声のみの宣言をする。

 

『(出たか、ゼロ!) エリア11の総督としての最終通告だ! いますぐ武装解除し、降伏せよ! さすれば正式な“捕虜”として丁重に扱おう! だが開戦後、条件が同じだと思うな!』

 

 ショックから来た悲しみを怒りに変えたコーネリアがまるでゼロへの意趣返しにオープンチャンネルの通信を送る。

 

『(コーネリア……やはり前線に出たか。 だがおかしい……) いかにもブリタニアらしく、他者を見下した一方的な条件だ! してコーネリア、ダールトンから何か聞いていないかね?』

 

『貴様……安い挑発には乗らん。』

 

「(やはり、何かのアクシデントがあったか。)」

 

 ゼロの言葉に、コーネリアがカッとなりそう声を無理やり冷たいものへと変えたことにルルーシュは上記の結論へと至る。

 

『(もしダールトンがかけられたギアス通りに動いていれば彼女の返答や行動は違う筈だ。 マズイ、このままでは奴と俺の軍の全面衝突になりかねん……どうにかして双方の軍にとって不自然ではない方法で時間を稼がなければ────)────零時だ。 零時まで待とう、我が軍門に下れ! これが私の最終通告である!』

 

 ルルーシュはガウェインの画面に映る時間を見て少々焦ると同時に140.23の周波数に一つの回線を繋げたままにする。

 

 コーネリア、もしくはスヴェン側からの接触が無かった場合を想定して顔色を悪くさせながら周波数を別動隊に切り替える。

 

『ゼロ番隊と特務隊、今の内に学園へと移動し“非戦闘地帯”の真偽を確かめいつでも占拠できるように下準備をせよ。 偵察隊はトウキョウ租界の外延部から距離を取りつつ敵の配置を各隊に送信し、ダールトン将軍と思わしき人物を発見し次第、私に報告せよ! 決して奴を攻撃してはならん!』

 

「いいのか? “ダールトンは協力者”って言わなくても?」

 

 そこで通信を切ったルルーシュに、CCがそう彼に問う。

 

「そうすれば、“コーネリアの腹心の男をどうやって懐柔したのか”という疑問が浮かび上がってしまう可能性が出る。」

 

「アッシュフォード学園は?」

 

「“非戦闘地帯”で不当な扱いをしていれば、後々いい対ブリタニアプロパガンダの元となる。」

 

「フフ。 お前のその指示が“妹の安全の為”と知ったら、あいつらはどんな顔をするだろうな?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『非戦闘地帯』と指定されたアッシュフォード学園の学生たちは寮へと戻され、校内グラウンドには野戦病院のテントなどが立っていた。

 

「お、おいビデオ撮っているか?」

「当たり前だ、誰がこんなことを信じる?」

 

 それだけでも奇妙な景色……とミレイの学園祭などを考えればそれほど珍しくはないのだが『奇妙』となる原因は学園の敷地内にはブリタニア軍、そして黒の騎士団のテリトリー(縄張り)のような物が出来上がっていた。

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

 双方の勢力の境界線ではにらみ合うナイトメア、そして兵士たちが息を潜んでお互いを見張っていた。

 

 そんな一触即発の中、ミレイたちはクラブハウスが黒の騎士団らしき者たちの持ち込んだ機材などによって彼女たちが今いるのが『黒の騎士団側』と知る。

 

 その機材は『医療用』と書かれていたが明らかに違うモノばかりにミレイたちは戸惑っていた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! あんたたち、ここをどうする気だ?!」

 

「あ? ウッセェな、ブリキ野郎。 ここは黒の騎士団が陣取ったんだよ、好きにするさ。 あ! そいつは違う場所だ!」

 

 リヴァルの問いに玉城が面倒くさそうに答え、指示を再開する。

 

「すまない、少しだけ辛抱してくれ。 “ブリタニアがここを利用しない”という保証がない以上、俺たち黒の騎士団は関係なかったと証言する機材だ。」

 

 そこで玉城のように配置された扇が申し訳なさそうにリヴァルに説明する。

 

「うわっとと!」

 

「おっと! 君、大丈夫かい?」

 

 そこに真っ白のショットカットをした少女が機材を持ちながら転びそうになるのを扇はとっさに手を貸す。

 

「あ、はい! ありがとうございます!」

 

「ん? 新入りかい?」

 

「あ、はいそうです!」

 

「そうか。 ここにいるという事は優秀なんだね? 名前は?」

 

「マ、マーシャです!」

 

 そこには黒の騎士団の制服を身に付け、『マーシャ』と名乗るマオ(女)がいた。

 

 

 ……

 …

 

 

「フゥー。 (なんでこんなガキどもの面倒を……)」

 

 アッシュフォード学園の敷地外にまで巡回(パトロール)しに来ていた一人のブリタニアの兵士が、他の者たちから離れてタバコに火を点け、一服していた。

 

「(それに黒の騎士団も何故かいるし、上は何を考えて────)」

「────あ、兵隊さんの人?」

 

「ッ! 誰だ!」

 

 兵士が照明付きの銃を構えると少々大きめで茶色い帽子に腰まで伸びた長い薄めのピンクの髪をしたアッシュフォードの学生と思われる少女がいた。

 

「ここの学生か?」

 

「うん♪ ちょっと租界に出ていたけれど“学園に”っていうメッセージがあったから来たけれど正門は凄いバチバチ火花を飛ばしていた人たちがいたから『裏口から入ろう』と思ったの。」

 

「そうか。 ここは危ないから早く帰った方が良い。」

 

「え~? 私、ここに用事があるのに……」

 

「俺が取ってき────」

 

 ビュッ!

 スパッ!

 

「────ぇへ?」

 

 兵士が右手を出すと、親指を残して他の指が中手指節関節の先から切り落とされ、少女のスカートは鋭利なナイフを取る際にひらりと上がったことを気にせず流れる動作で兵士を仰向けに倒し、マウント取(馬乗りにな)って持っていたナイフの矛先を彼の心臓真上に構える。

 

「ねぇ、優しい兵隊さん? 死にたくなかったらお名前、クララに教えて欲しいな♪ (ニッコリッ)」

 

『クララ』と名乗った少女は笑っていたが、兵士にとって彼女の笑みは悪魔との契約時にするようなものに見えた。

 

『あながち、間違いではない』と彼に答える者はその場にいなかったが。


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