小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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お待たせいたしました、かなり長めの次話です。

『キリの良いところまで』とコツコツ書いていたらいつの間にか文字数がガガガがががが。 (汗汗汗汗

…………………………お、お読み頂きありがとうございます。 色々不安ですが楽しんでいただければ幸いです。 (;´-`)


第95話 世界平和を望む日本人たち2

 先ほどのナルヴァ辺境らしきところから、場所は再び古城の外にある滑走路へと変わる。

 

 大気の風は肌寒く、待機しているジェット機のエンジンの上は陽炎のようにユラユラと空気が揺れる光景があるにもかかわらず、レイラは軍服の正装に上着だけ羽織ってじっとジェット機へ上がる階段手前で立っていた。

 

「マルカル少佐~。」

 

 そこで未だにやる気ゼロとボサボサ茶髪に無精髭を気にしていないクラウスが明らかに軍のものより私服の分厚い上着を着ながら小走りでレイラに近づいてからもう一つの手で持っていたマニラ色のフォルダーを手渡す。

 

「それでどうなのですか、クラウス中佐?」

 

 レイラの質問にクラウスは苦笑いを浮かべる。

 

「いやぁハハハ……やってくれちゃいましたよ、アノウ中佐。 結ばれた契約書は本物でした。 あ、コピーは入れています。」

 

「それと、()のことは?」

 

 ここでクラウスは目が泳ぎそうになるのを、頭をボリボリと掻いて誤魔化しながら頭痛を感じているかのように目を瞑る。

 

「ん~、一応俺のほうで調べられるところまで調べてみたんですが……にわかには信じがたい内容ですね。」

 

「それほどですか?」

 

「だってどう考えても、体の良いプロパガンダ(デマ)でしかないでしょう? それはそうと、時間大丈夫ですか? スマイラス将軍の招集に遅れちゃいますよ?」

 

「急な調査依頼を受諾してありがとうございます、クラウス中佐。」

 

「いやいやいや、俺なんて大したことをしていないっすよ。 んじゃ、お偉いさんたちにもよろしく。」

 

 それを最後にレイラはジェット機に乗り、通常の飛行機道に入って精神的過労から目的地に着くまでの束の間、寝落ちするまでクラウスから渡された資料などを読んでいた。

 

 中身は大まかにまとめると、132連隊の撤退作戦後の報告だった。

 

 レイラとあまり年が離れていないワイバーン隊の生き残り。

 残ったアレクサンダたちの状態

『傭兵のスバル』と名乗り出た者のこと。

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に関する資料だった。

 

 それらを彼女は今まで蓄えた知識などを使って当時、黒の騎士団が保有していたと思われる戦力や装備などを予想していた。

 

 未だ()()()()()()()()()()()()()()()()等と言った内容を信じられずに。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 EUの首都で中枢であるパリは一見すると、ブリタニア本国のペンドラゴン(首都)と同等────否、開発具合からしてさらに緑が少ない分、『ペンドラゴンより発達し(栄え)ている』とも言えた。

 

「132連隊の撤退を確保したα作戦の功績を認め、レイラ・マルカル少佐を中佐に昇進し正式にwZERO部隊の司令官に任命する。」

 

 そんなパリの軍事の中枢を担っている基地内でも豪華な執務室で、レイラは緑色に灰色が混じった見事な髭をした将軍────ジィーン・スマイラスが現状のEUを動かしている『国防40人委員会』から送られてきた資料を読み上げながら勲章を付ける。

 

「おめでとう、レイラ。」

 

「レイラ・マルカル、拝命致します。」

 

 さっきとは違う、雰囲気がやんわりとなったスマイラスとは対照的にレイラは未だにキビキビとした振る舞いを続けていた。

 

「ん? どうした、やっと自分の発案した部隊の司令になった割に嬉しそうではないな?」

 

「スマイラス将軍。 私の提案した作戦は敵地に侵入し、敵陣背後に我が部隊が奇襲攻撃をかけるモノです。 そして事前情報で包囲網を敷いているのが、ユーロ・ブリタニアが所有する最大戦力の一つである四大騎士団の聖ラファエル騎士団と知りながら“正規軍投入の余地なし”と────」

 

 スマイラスは手を上げ、静かにレイラの言葉を制止する。

 

「────レイラ。 君の言いたいことは分かるが、今のEUは戦争で()()()()()()が死ぬことを良しとしていないのだよ────」

「────それで“()()()()()()()()イレヴンなら幾ら死んでも構わない”と仰りたいのですか?」

 

 レイラは余りにも露骨で保守的な行動方針に対し、ワナワナと震えそうになる手で拳を力強く作る。

 

「……物事の全てを『白か黒』の色のように、『明確にしよう』とするのは愚鈍な思考だ。 それに君がそう見えていると思っていても、『人間』は正論だけで納得させるには難しい生き物なのだよ。 現に、“wZERO部隊は傭兵を雇った”と耳にしているが?」

 

「彼は、違います。 それに、契約は前司令の独断────」

「────そうだ。 確かにアノウ中佐がしたことだが契約は正式なもので、契約は『個人』ではなく『部隊』にされているそうだね? もしこの世界が君の『理想な世界』ならば、彼のような存在は『白』と『黒』のどちら側になるのだ? そして、彼の処遇はどうするのかね?」

 

 本来、金などの見返りに尻尾を振る傭兵などはレイラからすれば『勝ち馬に乗るだけ乗って簡単に乗り換える我が身大事な金の亡者』にしか見えないのだが、彼はそんな『予想した傭兵像』とはかけ離れた活躍をしていた。

 

 彼の事を様々な角度から調査した結果、彼の事の裏付けが取れていた。

 

『傭兵のスバル』。

 かつて日本と呼ばれたエリア11で今まで誰も見せたことの無い反ブリタニア活動を行っていた黒の騎士団が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 調べられた情報から抜けている個所に憶測も多少入っているが、その予測されている活躍により黒の騎士団は『組織として整いつつあった』ともされていた。

 

 さらに『亡国のアキト』原作で、ナルヴァ作戦からの生還者はアキト一人と彼のアレクサンダのみだったが、スバルの介入により(重症の負傷者を含めて)日系の少年たち数名が生き永らえていただけでなく、曖昧だった契約期間にも関わらず生き残った者たちの為に兵士の誰もが受ける筈である、基礎訓練のスケジュールも組み立てていたことが上記の情報源等の説得力を上昇させていた。

 

 その働きはEUでは珍しく、wZERO部隊はこのことを(受け入れる)不幸(警戒する)か決めるには、未だに迷っていたが。

 

「まぁ……アノウ中佐のやったことには私も個人的には呆れているがね。 まさか、イレヴンの少年たちとその家族に市民権は与える手配をしたは良いが、まさかその者たちに約束された保障が着服されていたとはね。」

 

 さっきまでスマイラスの周りにあった、やんわりとしていた空気が重くなる。

 

 アノウ中佐が『元日本人の少年たちが死んだ場合』として約束したEUの市民権と生活の保障は、彼が部隊の大半を失ってからの調査にてその実務が判明した。

 確かにEUの市民権は手配されてはいたが、生活の保障に使われる為の費用は偽造された口座や空想の会社などを経由されていて殆んどがそれ用の口座にたどり着く前に消えていた。

 

 このようなことはある程度、EUの上層部を知れば全く驚かない内容なのだが法律的に追おうにも被害対象は『EU市民権を得た元イレヴン』。

 

 傭兵と同じ金の亡者である弁護士が見返りのない訴えの依頼を受けるわけがなく、政府の内部調査員も利益が無いので動く気配も無かった。

 

「……その所為で、中佐はワルシャワの補給部隊へ左遷────おっと失礼、()()となったそうだ。」

 

「転属……ですか。」

 

 表情がさらに曇るレイラに、スマイラスは苦笑いを浮かべる。

 

「私も手ぬるいとは思うが……あそこはEUとユーロ・ブリタニアとの中地点間近で補給部隊は現状、24時間活動しなければいけない。 過労で倒れたり、寿命が短くなる後遺症が一番多いと聞いている……君にすれば、気休め程度にしかならないかもしれないが。」

 

 レイラにとって納得のいかないことだが、既に本部の警備隊がアノウに転属(左遷)命令書を送り届けていて彼はもう既に新しい転属先に移送中であった。

 

 それ(転送)に関しても一悶着あってかレイラは更に納得がいかず、スマイラスも頭を痛めていたのだが。

 

「……さて、明日も40人委員会の会議がある────」

「────明日()でありますか? ここのところ、毎日ありますね……」

 

「会議をすることで、彼らは自身と民を安心させるのだよ。 どうやって無駄に時間を過ごしつつ体面を保つかを、彼らは『会議』という抜け道にしがみついているに過ぎない……君もいつか見学すればこの国のことがもっと分かるだろう。 この後、レイラは何か予定はあるのかね?」

 

「ナルヴァ作戦帰還祝賀パーティに招待されています。」

 

 ピクリとスマイラスの眉毛が反応し、彼はため息をする。

 

「……そうか、君もその目で見ると言い。 下がってよい。」

 

「??? 失礼します。」

 

 スマイラスの言ったことにレイラはハテナマークを浮かべながら部屋を退室するとピリピリした通路へと出る。

 

「皆さん、お待たせしました。」

 

 レイラがそう言った先には軽傷から包帯をEUの軍服に下に巻いたワイバーン隊の生き残りたちと、EUとは違うデザインをした軍服っぽい服装を着たスバルがいた。

 

 原作ではワイバーン隊のアキト一人だけが生き残ったことで、レイラの部下が実質彼一人となった。

 よって原作では彼一人にパリでレイラの身辺警護の全てを任されていたが、生き残りがいたことと先ほど記入した『アノウ中佐との一悶着』の所為でアキトの姿はなかった。

 

 その一悶着とはアノウ中佐の転属で、既に中央司令部が了承を済ませた事柄に転属先の補給部隊の指揮を執っている方面軍司令部が認めていなかった。

 

 というのも、アノウ中佐が指揮していたwZEROのワイバーン隊の損耗率が遂行した作戦の数と比例して激しかったことから『wZERO部隊はEUの軍法廷に従って解体されてしかるはずであり、移送は受け入れない』などと言い訳をしてきたのだ。

 

 要するに、地方の方面軍司令部が『そんな厄介物件俺らに押し付けんじゃねぇこのダァホども! 移送するんだったらそっちで勝手にしろ!』と()()()()()に責任転換をしたのだった。

 

 アノウ中佐は今までのやったことと彼の転属理由になった自爆作戦などからwZERO部隊とワイバーン隊の全員から軽蔑&嫌悪されており、当時のスバルは部外者同然だったことから仮にも『正規軍中佐』の移送を単身で任せるわけにもいかなかった。

 

 よってアノウ中佐の移送は何の感情も見せないままオーケーをしたアキトが行うこととなり、彼は後にwZERO部隊がいるパリと合流する手筈になっていた。

 

 ちなみにこのことを聞いたスバルは内心の片隅で『あっるぇぇぇぇぇぇ? なんか俺の知っている亡国のアキトと微妙にちゃうねんけど……』と思っていたらしいが、そもそも『亡国のアキト』の描写が少なかったことから『そんなもんか』と納得したそうな。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時は夜へと変わり、パリ市内にある立派な会場でナルヴァ帰還祝賀パーティが開かれていた。

 

 パーティからは軍とは程遠い、優雅な『ホホホ』や『ハハハ』として笑い声に『投機』や『投資』などののほほんとした空気があった。

 

「あの絵、先日いい値が付きましたのよ。」

「やはり今の時代、投機は金でなく芸術品ですなぁ。」

「いやいや、戦時国債も投資としては有望ですよ?」

「そうですな。 何せブリタニアはユーロ・ブリタニアと違って戦の拡大をよしとしていないみたいですしね。」

「そうそう。 にらみ合っている今こそ平和より儲け時ですよ。」

 

 そしてその会場ホールから聞こえてくる会話の内容は軍や戦とは無縁の、資産家などがする話題しかなかった。

 

「では、連れを待たせていますので私はこれにて。 ああそこの君、ノンアルコールモノはあるかね?」

 

「フレッシュジュースがございますが。」

 

「では一つもらおう。 (ムホホホホ♡ ええ食い込み具合と谷間やのぉ~♡ 眼福眼福~♡)」

 

 そんな中、場に合わせてスーツを着たスバルが『優男』の仮面をつけたまま残念そうにする夫人などを含めた女性陣の輪から抜け出して近くのバニーガール衣装を着た者を見かけてはノンアルコールドリンク(ジュース)を手に取り、ホールで明らかに『浮いている空間』の空気が漂う先へと歩きだすと次第に周りからひそひそとして小声が聞こえてくる。

 

「見てあの人たち、軍服をしているわ。」

「ここで軍服なんて、無粋ね。」

「あの少女は確か……マルカル家の?」

「ああ、イレヴン共があんなに……汚らわしい。 香水を余分に持ってくるべきだったわ。」

 

 ホールの片隅でポツンといたレイラは興味が無くなったのか背中を壁に預けながら戦術論の本を読み、周りの元日本人の少年兵たちはそれぞれ違う反応をしていた。

 

 ある者はキラキラとした周りに魅入られ、ある者は周りから来る嫌味に沸々とイラつきを抑え、またある者はあまりのギャップに放心しかけていた。

 

「どうしたタカシ? ポケ~として?」

 

 スバルは最後の放心しかけていた一人の少年────竹林タカシに声をかける。

 

「あ、スバルさん────」

「────さん付けはよせ。 歳はそう変わらないだろう?」

 

「スバルさん、これってナルヴァ作戦の成功を祝してのパーティなんですよね? 何で軍人が僕たちだけなんですか?」

 

 イライラとしていた気持ちを抑えながらそう話しかけたのは藤原イサムで、イラつきはとうとう声が震えるまでこみ上げていた。

 

「……それは────」

「────()だからでしょう。」

 

 スバルは一瞬だけレイラをチラッと見ただけだが、彼女はそれに気付いて察したのか口をあける。

 

「それによく、スーツをお持ちでしたね? それも傭兵業絡みですか?」

 

「暴力を使わなくても戦場は戦場。 そして情報は何よりも大事だ。 最新の武器や装備、訓練に人員がいても情報が無ければ無駄が多くなるし、生き残れない。 森での活躍でも、その一端を見せたと思うが?」

 

 ここでスバルが言ったのは小型無人機の事で、彼を調べている途中でこのことを知ったとある技術士官は大いに興味を引いたそうな。

 

「……それでスーツを着ながら情報収集ですか。」

 

「そうだ。 司令やお前たちは、飲み物を……いや、俺が持って来よう。」

 

 スバルは自分と違い、軍服を着た皆を見ては目と心の保養のバニーガール目当てに飲み物などを持ち歩いている者へと向かう。

 

「おー! レイラじゃないか!」

 

 すると丁度入れ替わるかのように、周りと大差がない裕福そうな二人組の男性がレイラの名前を呼びながら、まるで腫物から距離を取るかのように自然と開いた空間の中に入ってくる。

 

「レイラ! パリに来ているのなら、なぜ連絡をしてくれないんだ!」

 

「そうだぞ! 一年ぶりではないか!」

 

 この二人組はダニエル、そしてステファン・()()()()

 レイラの義兄たちでありダニエルはパリで銀行を、ステファンは工場を経営している。

 

「お久しぶりです。 ダニエルお義兄様、ステファンお義兄様。」

 

 嬉しそうに話しかけてくる義兄とは違い、スンとした素っ気ない口調でレイラは挨拶を返す。

 

「レイラ、せっかくのパーティにその格好はどうかと思うぞ。」

 

「そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ダニエルはレイラやイレヴンの少年兵の軍服をチラチラと見て、ステファンは横目で一瞬だけスバルに視線を送る。

 

「これが私にとっての正装です。」

 

「その堅い口調も相変わらずだね────」

 「────おやおや~? そこにいるのはレイラかねぇ~?」

 

 そこに女性を両腕に侍らせ、ウェーブのかかったチンピラっぽいチャラ男男性の声が遮るとレイラの依然とした表情が苦いものになる。

 

「ヨアン、お義兄様……」

 

 ヨアンは侍らせていた女性たちを自分から押し、今までとは明らかに違う表情をするレイラやおろおろとするダニエルたちに近づきながら少年兵たちを見る。

 

「フゥ~ン……これが噂に聞くイレヴンたちか。」

 

「こちら私の部下である竹林、藤原、そして春川で────」

 

 ヨアンはレイラの言葉に耳を貸すどころか無視しているかのようにツカツカと近づいて一人一人を値踏みするかのように見ながらレイラを遮る。

 

「────俺はマルカル家の三男、ヨアン・マルカルだ。 お見知りおきを……それとこれも言っておくよ、彼女は僕のフィアンセでもあるんだ。」

 

「ヨ、ヨアン────」

「────こいつはさ、マルカル家の養女なんだよ! 親父の大のお気に入りでね、俺との結婚も親父が決めたことさ!」

 

 タジタジするステファンをヨアンは声を上げて無理やり黙らせ、高らか宣言するかのような音量へと上がっていく。

 

 同じくレイラの『イラつきボルテージ』も上がっていき、今にでも家内の事情を言いふらすヨアンを黙らせる為にどのような手を打とうか考えていた。

 

「失礼、もしやヨアン・マルカル氏ではないしょうか?」

 

「ん?」

 

 ピリピリとし始めたその場にスバルの『優男』の声で、ハの字になっていた眉毛をさらに曇らしたヨアンの注目はニコニコとした彼へと移る。

 

「ああ、これは失礼いたしました。 私、スバル・半瀬と言います。」

 

「……まさか、混ざりモノ(雑種)でしかもイレヴンとはな……何用だ?」

 

「先ほど紹介をされたのでその返しをしただけですが……“郷に入っては郷に従え”という事ですし。」

 

「……フン。 生意気にもスーツを……」

 

 一気にヨアンはこの場を遠目に見ていた者たちの中で、何か面白いものを目にしたのか目の端が僅かに上がり、彼は近くのテーブルへと歩き出す。

 

「だが良い心がけだ。 そういう事なら────」

 

 ヨアンは目当てのワインのボトルを手に取り、流れるようにそのままスバルのいる場所へと戻りながらボトルを開ける。

 

「────一緒に挨拶の乾杯をしようではないか。 これは俺からの奢りだよ、イレヴン。」

 

 彼はそのまま封の開けたワインをニコニコとしていたスバルの頭上で逆さますると周りにいた誰もがその迷いのない行動に目を疑った。

 

 ワインのボトルからドボドボと落ちる液体はそのまま予想通りにスバルの頭や肩などへと落ちていき、ワイン特有の匂いが辺りに充満していく。

 

 「ヒャァ……」

 「勿体ない……」

 「ウワァ……」

 「気持ちは分かるけれど……」

 「フン、あのマルカル家の小僧……思っていたより度胸があるな。」

 

 流石に今まで見て見ぬふりをしていた者たちでもこれによって思っていたことを口にし始め、会場はヒソヒソ話で満ちていく。

 

 wZERO部隊の皆からは、抑えようともしない怒りが爆発待ったなしの臨界状態まで達していたが。

 

「ありがとうございます。」

 

「……あ?」

 

 だがスバルは怒る所か、未だにニコニコとしたままだった。

 

「いえ。 私、実はワインに興味がございまして。 特にこの地域特有のワインの匂いと味には前から気になっていたのですが今の状況から手に入りにくく、迷っていましたが……」

 

 ニッコリ。

 

「お陰様で、迷いの一つを今解消できました。」

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 スバルの平然とした返しに、周りの者たちは呆気に取られていた。

 

 が、この行為は中心人物のヨアンの気に障ったらしかったようで彼の見下すような顔がどんどんと赤くなっていく。

 

 「この……」

 

 ヨアンは空になったボトルをスバルに投げつけ、スバルはこれをキャッチすると拳を突きだしたヨアンを躱す。

 

「この! サルが!」

 

 ヨアンは更に赤くなっていき、ニコニコするスバルを殴ろうとするがそれらはことごとく躱されていき次第に彼は息を肩でし始める。

 

「少々酔いが回っている様子ですが、大丈夫ですか?」

 

 スバルはそう言いながらダニエルとステファンを見る。

 

「ヨ、ヨアン────」

「そ、そうだね。 もうここらで私たちは失礼させてもらうよ────」

「────だ、ダニエル! ステファン! 放せ、俺はまだ────!」

 

 二人は息を切らしながら顔を真っ赤にしたヨアンをそのまま会場から連れ出すと、スバルはハンカチを出して顔などを拭き始める。

 

「いやはや会場の皆さま、お騒がせいたしました。 私も夜風に当たってきます。」

 

 

 


 

 

 あのモジャモジャ頭のクソチャラ男。 次はケツの穴に腕を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやらぁ。

 

 (スバルは)はそのまま煮え繰り返すような思いを『優男』の仮面の奥にしまい込みながら会場を後にしてバルコニーに出ると、ヒンヤリとした風が染みつき始めたワインの匂いを一瞬だけかき消す。

 

 ああ、クソ。

 

 原作ではあの場で絡まれて妾呼びされたレイラをアキトが無理やりヨアンを黙らせたが、まさかアキトがいなくともタカシ(ワイバーン隊)たちが居ただけでヨアンがあんな風に来るとは……

 

『ヨアン・マルカル』。

 レイラを養女として受け入れたマルカル家の三男で、他のダニエルやステファンと違って自分の企業は倒産させてしまっている。

 よって彼は成功した兄たちも立派な家も嫌い、今度は自分より年下で出世したレイラの事を聞いては絡んできた……というのが俺の見解だ。

 

 

 実はというと、スバルは知らないがこの見解は当たっていた。

 ヨアンはマルカル家でも特にこれといった社会に認められるような才能を持っていなかったことから除け者扱いされていて、そんな彼に唯一優しく接していたのが養女のレイラだった。

 だが時が経つにつれてレイラは飛び級で学校を卒業したり、軍事学校を首席で卒業する、歳を考えると異例の少佐から中佐への昇進などがヨアンの純粋だった好意を嫉妬へと変えてしまった。

 

 そんな裏設定を知らないスバルはただ『穏便に済ませたは良いがこのスーツのクリーニングどうしよ』と思っていたところに足音が近づいたことで振り返るとレイラや他のワイバーン隊員たちを見る。

 

 

「あの後、大丈夫だったか?」

 

「それはこちらのセリフです……何故……どうしてあのようなことを?」

 

 う~ん、やっぱりコードギアスだけあって軍服でもレイラは様になるな……

 どう答えよう?

 “アキトがいないから”なんて言えるわけないし……

 

 あ。 キタ。

 

「職業柄、ああいう輩にも出くわすがああいう手合いは怒るとどんなことをし出すか分かりませんから注目を自分へ向けて対処しただけです。」

 

「ええっと、スバルさん────」

 

 だから『さん付け』やめろイサム。

 

「────いつも通りにしないの? 凄い違和感があるんだが。」

 

 あ。

 あー、うん。 そういや今までポーカーフェイスでwZERO部隊の奴らに接してきていたな。

 

「ならいつも通りにしよう。 まぁアレだ。 俺は雇われているからそれに従って動いただけだ。」

 

 うん、これで良いだろう。

 契約の内容には確かに『wZERO部隊の手助け』みたいな項目もあったから嘘ではない。

 

 それはそうと、何だかジッと俺を見る視線が痒いのだが?

 

 おお、こっち(EU)でも結構星が見えるもんだな。

 

 …………………………アイツの方は無事に済んだのだろうか?

 

 

 


 

 

 

 都市などの人間という動物が密集すればするほどに、そして『()』が目立つ分、より根強くかつ酷い『()』も存在する。

 

 現状の社会の形状では切っても切れない『光在る所に闇在り』はここパリも例外ではなく、『表裏は互いに極力干渉しない』のが暗黙の了解も健在()()()

 

 その闇、アンダーグラウンドでは激しい抗争が二つのグループの間に行われてそれらが表沙汰になりつつあった。

 

 一方は昔から窃盗、強盗、殺人、暗殺、汚名の偽造に麻薬の取引などなんでもする『パリの闇の一角』とまで称されているマフィア一歩手前の組織。

 

 もう一つは『ブリタニアに占領された国の出』ということからスパイ容疑、『先祖の血が流れている』ということから蛮族と思われ嫌われ、それらが『敵国の奴隷』とまで歪んだ認識のおかげで強制収容された、日本人や日系人である。

 

 さて、エリア11での『リフレイン』を覚えているだろうか?

 

 EU国民としての権利や人権などがはく奪され、財産なども没収された者たちの末裔たちが身を寄せ合っていたグループたちにもリフレインが蔓延していた。

 

 無論、『金になるから』とリフレインを無差別に売っては人の臓器などを支払いの『利子』などとかこつけて売買していたことが()()()()()()の逆鱗に触れたことでこの抗争は始まった。

 

 リフレインを売っていたギャングは当初油断していたが大きく古い組織であった為に小回りと対処が後手になり、多大な犠牲を生んでいた。

 

 その反面、もともと強制収容所から脱走した日系人たちの数も少なくギャングよりさらに立場が悪かったため通常では考えられない過激な作戦や(コードギアスの闇の世界でも)非人道的な行いを全く気にせず遂行していた。

 

「チ、もう替えるか……」

 

 リフレインをEUにいるイレヴンなどに売りつけてはすべてを搾り取る組織の一員らしき者がぐったりと目を虚ろにしたまま、リフレインが入っていて空になった小瓶などと共に地面に横たわる裸の女性を後にしながら男性は舌打ちをする。

 

「んじゃ、こいつは()()でいいんすか?」

 

「おう。 物好きな奴らがいるからな。 出来るだけ綺麗に────」

 

 ザシュ!

 

「────ケブレェ?!

 

 舌打ちをした男性の首に一線の光が走ると頭が胴体から離れ、言語とも呼べない意味不明な音が出るともう一人の男性が振り返る。

 

「フゥム……切れ味が良すぎるのも考えモノだな。 手ごたえが無さ過ぎる。」

 

 その場に似合わない、ゆったりとした女性の声に男は拳銃を出しては構える。

 

「だ、誰だテメェ! お、俺らを組織の者と────」

 

 スパッ。

 

「────ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

 

 またも光が走ると今度は拳銃を握っていた手の親指が付け根辺りから切られ、パニックになりそうな男は叫びながら関節を切られて酷く出血する手を押さえるだけ押さえる。

 

「さて……先ほど“組織”と言ったが、ここら辺で日本人と抗争している者の一人か?」

 

「は、ハヒィィィィ!」

 

 パニックを起こした男性はコクコクと頷く。

 

「(末端ではなく、やっと仲介人にたどり着けたか。 やはり()()とは少し文化の違いもあってかたどり着くのが遅くなったが……彼ならばこれでさえも計算済みで、私に経験させたかったのかもしれんな。)」

 

「俺の手ぇぇぇぇ! い、医者を────!」

「────私の質問に答えたらすぐにでも呼ぼう。 さて、お前たちのボス……『ドクター』とやらはどこだ?」

 

 その場に現れた少女は地面に横になっていた女性の亡骸の目を閉じさせながら、ひんやりとした声で上記の問いを恐怖する男性に投げる。




長くなって申し訳ございません。 m(;_ _ )m

あと、ワイバーン隊の生き残った少年兵たちの名前は独自設定です。 (汗



余談の追伸:
リスなどの小動物は見た目が可愛くてもネズミ。 まさかのまさかで、光回線を食い千切るのが好きだとは最近まで知らなかった。 というか知りたくなかった……

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