小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第98話 高速道路のプチバトル2

 バァン! チッ! カァン

 

 乾いた銃声が空間の大気を震わせ、銃弾は的を掠ってはそのまま奥へと進み、角度のついた鉄板に弾かれて強制的に地面へと落ちる。

 

 そこはディーナ・シー内部に設置してあるシューティングレンジで、現在の()()が自由に歩き回れる場所の一つだった。

 

 バァン! バスッ! カァン

 

「あ、当たった!」

 

 ついこの間まではいつもドレスしか着ていなかったがディーナ・シーに来てからは“目立ちすぎる”と言われ、今ではアンジュから無難な服装を借りて銃用耳栓をしたユーフェミアが構えていた拳銃の後ろからパァっとした笑顔になる。

 

『行政特区事変』から前に進もうと彼女は今までやりたかったこと、あるいは興味があったが皇族故に遠ざかれていたことに次々と試し、以前の洗濯(家事)アワアワ事件もその一環だった。

 

 その教訓から、ディーナ・シーの乗組員たちも(以前同じ境遇に陥った)アンジュも加わってか今のユーフェミアは“人並みに家事と身の回りのことができる”ようになった。

 

『私、射撃をやってみたい!』と、彼女のイメージからほど遠い宣言にはさすがにアンジュ+乗組員の何人かがハラハラドキドキしながら近くで何が起きても動けるように待機付き添ったが。

 

「う、うーん……“当たった”と言えばそうなんだけれど……」

 

 ちなみに上記ではユーフェミアは嬉しがっていたが、アンジュが見たのは中心から大きく外れて枠の外に穴が開いた的だった。

 

「ね、もう一度銃を構えてみて?」

 

「???」

 

 ハテナマークを出しながらも、ユーフェミアはかつて皇族でわずかに護身用として触れた構えを取るため拳銃を持つ利き腕側の足を後ろに引いて身体が半身だけが見える────俗に“ウィーバースタンス”と呼ばれる構えを取る。

 

「的に狙いを定めて。」

 

「えっと……はい。」

 

「リア、フロント、的がちゃんと一直線になっているまま目をつぶってから、ゆっくりと拳銃を下ろしてからもう一度構えを取ってから目を開けて。」

 

「あ、あれ?!」

 

 ユーフェミアは言われた通りにすると、いつの間にか銃身が右に逸れていてフロントサイトは下がっていた。

 

「え?! わ、私ちゃんと腕を下げてから上げただけなのに、なんで???」

 

 アンジュはユーフェミアの肩に顎を乗せてできるだけ彼女の見ていた光景に近づけようと体を動かす。

 

「あー、右に逸れているなら足が前に出すぎ。 銃口が下がっているなら握る手の薬と小指あたりが強く握りすぎているということよ。 小指は“握る”じゃなくて“抱える”だけ。 薬指はオーバーラップじゃなくて絡めて────」

 

 今度はアンジュがユーフェミアを後ろから彼女の手に自分の手を添えて構えを調整していきながら何をしているのかを口にし始める。

 

 なお美少女二人のうち一人が背中越しに体を重ねたこの場に暇人居合わせた者たちの関心は『銃を撃つお姫様』から別なモノに変わったそうな。

 

 無理もないが。

 

「────構えはいろいろあって “一般”や“初心者向け”とされているものもあるけれど、結局は“体格”という個人差が出てくるから一人一人、“自分だけに合う構え”というものがあるわ。」

 

「な、なるほど?」

 

「身長、体重、筋肉の付き方に目の良さも要因だけど、一番大事なのは骨格ね。 それだけは大掛かりなケガや手術をしていなければ変わらないし、まさに“個人差”の大部分ね。 だから何度も構えを少しずつ直してから追求すれば────」

「────あ! 今度は照準がちゃんと合いました!」

 

 アンジュはユーフェミアから離れ、一歩下がる。

 

「んじゃ、そのまま撃ってみて。」

 

 バァン! バスッ! カァン

 

「「「おおお。」」」

 

 パチパチパチパチ。

 

「あぅぅぅぅ……」

 

 ユーフェミアが撃った的の中心に穴が開くと、見ていた者たちが純粋な気持ちで拍手をすると彼女は気まずそうに照れて銃を握ったまま頬っぺたを覆おうとする。

 

「あ、あと銃は絶対に顔に近づけないこと。 めちゃくちゃ危ないからね。」

 

「え? で、でも映画とかでは、よく壁際について────」

「────そうやって構えたままドアップで撮ったら緊張感が高まって見栄えがいいだけよ。 暴発したり、間違って撃っちゃったりしたら凄く危ないでしょ? あと普通に自分の視界を遮っちゃうし。 あ、あと屋内で壁際に近すぎるのも危険。 跳弾の危険もだけど、近すぎて曲がり角を曲がったときに相手と遭遇して銃を摘まれたら最悪のケースよ。 打ちたくとも自分の顔の近くに持っていたわけだし。」

 

「ほわぁ……アンジュってばすごい!」

 

「ンフフフ~♪」

 

 目をきらきらとさせながら自分を褒めるユーフェミアにアンジュは胸を張ってヘリコプターのようにアホ毛がグルグルと回転し、得意げなどや顔を披露する。

 

「あれ? でもアンジュってなんでこんなに銃のことに詳しいの?」

 

 またも余談だがこの二人、似た者同士&以前からの顔見知りからかすぐに仲良くなっている。

 

「う……そ、それは……まぁ……受け売り……だから……」

 

 ここでアンジュは気まずく指と体をもじもじさせながら小声になって答える様子に、ユーフェミアは思わずシュンと畏まる子犬を連想してしまう。

 

「受け売り? って、毒島さんですか?」

 

「あー、冴子(毒島)は銃ってあんまり好きじゃないわ。 スヴェンの受け売りよ。 あ。 それで思い出したけれど、相手も至近距離で拳銃を使っていたら横に逃げるのよ。」

 

「よ、横に?! 距離を取るのは────」

「────それなら時と場合によるけれどもっと危険ね。 銃撃戦って、距離が至近距離だと脳から手の筋肉に信号が伝達するまで時間差があって、至近距離だと“相手を撃つ”って信号が送られる前に横に動いていたら結構外れるみたいよ。」

 

「は、はぁ……要するに、反射神経の関係で“手でつかみ合う距離でない場合は横に逃げるとひとまず当たらない”ということですよね?」

 

「ぶっちゃけるとね。 でも、相手が機関銃や散弾銃に刃物を使っている場合は無効ね。 最初の二つはもう想像できると思うけど、刃物は銃と違って動作一つ(ワンアクション)で行動が済むから。」

 

「では、もし相手が刃物を使った場合はどうすればいいのですが?」

 

「え?! え、えええっと……えええええええええええっと……」

 

 アンジュが考え込むと同時にさっきまでくるくる回っていたアホ毛が今度はピンと立っては車のワイパーのようにユサユサと横にまるで電波を受信しようと動く。

 

「……と、取り敢えずそんな時の為に常時持っている自分のナイフか何かで初撃をやり過ごして距離を取る?」

 

「なんで疑問形なのですか?」

 

「だって……接近戦といえば冴子で、私……冴子に勝ったことがないんだもん。」

 

「冴子……桐原泰三の孫の、毒島冴子さんですね? いつも刀を持ち歩いている? やっぱり日本人って、刃物の達人が多いのですね?」

 

「冴子は“達人”どころじゃないわよ。 何せこっちが引き金を引くと同時に銃口から弾道を予測して避けながら急接近するなんて反則級よ、反則。」

 

 ユーフェミアの頭上には以前、コーネリアが見せたような少女漫画風の妄想が浮かび上がる。

 妄想の中での毒島はどこぞのハクメンアクションヒーローっぽい動きをしていた。

 

「……興味本位で聞きますけれど、彼女に勝てる人物となるとやはり桐原さんでしょうか?」

 

「ん~……爺さんと、彼女に剣術を教えた藤堂さん……あとはスヴェン辺りかな?」

 

「……すごいのですね、あの人(スヴェンさん)は……」

 

「まぁねぇ~!♪」

 

 アンジュのアホ毛がまたも得意げなドヤァとして顔をする。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 ディーナ・シーとは明らかに変わった景色のEUへと戻る。

 時はちょうどアヤノがスマイラスとレイラを車から対戦車手榴弾を使って誘き出し、爆発の余波に紛れて彼女がスマイラスの背後を取って彼を人質にしていた。

 

 生き残って近くにいたワイバーン隊はこれを見過ごすはずもなく、乗っていた装甲車内にあった火器を手に取ってフードを深くかぶったアヤノに向けていた。

 

「グッ────」

「────下手な動きをすると、こいつ(スマイラス)の首に風穴が開くよ?」

 

 とはいえ、ワイバーン隊も銃の扱いには不慣れだった。

 スバルの施していた『基礎訓練』とは文字通り基礎中の基礎で、主に『体力の底上げ』や『筋力作り』だった。

 

 ナイトメアを十分に操縦するにも生き延びるにも、この二つは必要不可欠である。

 特に脱出装置が搭載されていないアレクサンダを使うワイバーン隊は機体から脱出後、生身で戦場から退去しなくてはならなくなるからだ。

 

 一応彼らにも銃火器の扱いは理解してはいるが、構えや狙い方は新兵同然でとても人質を取られた相手だけを撃つ自信など持っていない。

 

 ドォドォドォドォン!!

 

 この一触即発の状態ががらりと変わったのは、スバルがグラスゴー相手に『生身』かつ『橋』という地形を利用しながら虚を突いた頃だった。

 

 原作でのアヤノはグラスゴーをアキトが撃墜させたことで動揺し、スマイラスを無力化してレイラも人質にしようとしたところを逆に反撃されていた。

 

「ッ。」

 

 だがアヤノはチラッとグラスゴー────否。 グラスゴーの近くに視線を一瞬だけ移し、またも自分に銃を向けるワイバーン隊に戻してからじりじりと橋から降りる階段の方へと、人質(スマイラス)と一緒によじっていた。

 

 バァン! ギィン

 

 銃声と、耳に来る金属が弾き合う音にワイバーン隊の注意が行きそうになった瞬間をアヤノは利用し一気にスマイラスとともに────

 

「ぬん────!」

「────え────きゃ?!」

 

 ────駆けようとしたところに息を潜めながらアヤノの背後に回っていたアキトが彼女をスマイラスから引き離し、小太刀を持っていた腕を後ろで組まれたまま地面に組み伏せた状態になる。

 

「くっ────!」

「────これ以上動けば、腕を折る。」

 

 この時、アヤノがアキトを見ようと首を回した拍子にフードが少しめくれて彼女がアキトを恨めしそうに見る。

 

「アンタも、日本人なのに!」

 

「??? お前は────」

 

 ボッ!

 

 その場にいた皆の視界の一面を真っ白に無理やり書き換えるような閃光が爆発音とともに発生し、アキトは自分が掴んでいた腕の感覚が無くなるのと同時に平衡感覚と痛みで自分が打撃を食らったことを理解する。

 

「…………撤退したか。」

 

 やがて視覚と聴覚が回復していくと、アヤノやスバルと対峙していた白い仮面と服装をした者の姿がいなくなっていたことにスバルは静かに告げた。

 

 さっきまで激しい攻防をしていたことを証明するかのように、視界を遮るヘルメットを脱ぎ捨てた顔や首には擦り傷や切られた肌から血が出て、ライダースーツはボロボロだった。

 

「……テロリストにしては、気持ちがいいぐらいの手際だったな。」

 

「ああ。」

 

 アキトはそんな状態でも平然とするスバルを見ながら違和感を持った。

 

 見た目や軽い自己紹介ではおそらく自分と同じか近い歳の筈。

 だというのに、スバルの行いや振る舞いはどこか自分(アキト)と似ているが“なにかが違う”。

 

 そんな違和感が、アキトの脳裏でチリチリと燻っていた。

 

 ……

 …

 

 

『ナイトメアはナイトメアで対抗するのが必須。』

 それはコードギアスの世界では7年前にブリタニアがグラスゴーを実践導入したことで一般常識化した認知であり、一種の『当たり前』となっていた。

 

 勿論、理論的に歩兵部隊でもナイトメアを倒すことはできるがそれらは極稀かつ様々な要因や『手持ちロケットで奇襲』に『騎乗される前の強襲』や『地雷原に誘い込む』といった、回りくどい戦い方などが前提となる。

『真っ向から単身でナイトメアに挑む』など、死地に飛び込む行為と等しい。

 

 それに、現状で兵士が個人で持てる兵装で()()()()()()()()()()

 

 だというのにスバルは見たこともない武器を使い、見たこともない戦い方をしてグラスゴー(ナイトメア)に勝ち、不意打ちをかけた明らかに接近戦を得意とする者に対応して生き永らえていた。

 

「パイロットは……脱出しているな。」

 

 しかも『それが普通だ』というかのように放心したり、成し遂げた偉業から感慨に浸ることなく、空中で騒ぎに駆け付けた空軍の戦闘機がグルグルと回り始めていた今でも平然としながらユーロ・ブリタニア仕様のグラスゴーを調べていた。

 

 そんな彼は、周りの者たちに様々な思惑や感情を脳内や胸に生ませる。

 

『畏怖』、『関心』、『放心』、等々。

 

「(もしかして、私は新たな戦い方を目撃していたのでしょうか?)」

 

 レイラもその中の一人だった。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上記のスバルたちがいる橋の地中、パリの地中を迷宮のように張り巡らされたカタコンベの中では場違いなカラカラとした笑いが響く。

 

「いやぁ~! 負けた負けた!」

 

「「「…………………………」」」

 

 カラカラと満足そうに笑う毒島と違い、リョウたちは神妙な気持ちに浸ったまま静かに歩いていた。

 

 毒島より三人の振る舞いこそ、『お通夜状態』と呼べるだろう。

 

「(アイツ……本物(マジ)か?)」

 

 リョウは未だにグラスゴーに見知らぬ武器で挑んだスバルの動きなどを分かっても理解しづらいモノだったようで、まるで夢を見ていた気持ちだった。

 

「(鵜呑みにしないとしても……生身でナイトメアを相手するなんて相当の修羅場をくぐっている……ネットの噂はデマじゃなかったということかな? それとも単純にイカレているかだね♪)」

 

 ユキヤはいつもの笑みを浮かべながらルンルン気分のまま足を運ばせていた。

 

「(アイツら……日本人のくせに、EUの軍人なんかになって……特にあの三つ編み野郎はなんかムカつく!)」

 

 そして直情的なアヤノは珍しく、静かに怒りを覚えていた。

 

「(ウム。 思った通り、スバルの活躍を間近で見たことで少なくともリョウの興味は引かれ、私の言ったことが出鱈目ではないと分かったな……それにしても、不意打ちを仕掛けても反応するとは。)」

 

 毒島は自分が仕掛けた初撃へのカウンター気味に出された蹴りを食らって、未だにジクジクと痛む脇腹に手を添えた。

 

「これで少なくとも、スバルの戦闘力のことは信じてもらえただろうか?」

 

「……本当に俺たちが断っても、いいんだな?」

 

「ああ、いいとも。 性格上、彼はそれでも戦うだろうさ。 ただその場合、君たちは彼の成し遂げることを横から見ているだけになり、“思っていたのと違う”と言えない立場になるな。 何せ、()()()()()()()のだから。 それと気付いていないかもしれんから言うが、あのままだとEUの空軍から攻撃を受けていたぞ? 何せ人質に取ろうとしたスマイラス将軍は日和ったEUではあまり人気がないらしいからな。 “テロに巻き込まれ、死んだ”となれば好都合と思う連中もいただろう。」

 

「……アンタの話の続き、聞くだけ聞こうか?」

 

「分かった。 (この感じだと、恐らく誘われていることを懸念しても来るだろうな。 さて……今度は頃合いを見て、こいつらをスバルの元に連れていくか……一体全体、彼にはどこまで視えているのやら。)」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所はさらに変わり、今度はトウキョウ租界やブリタニアが占領したエリアの大都会内でよく見る巨大ソーラーパネルや蓄電所などの隣に旧古代ローマ風の建物などが聳え立つ街並みへと移る。

 

「ペテルブルグ……でありますか?」

 

 ここはユーロ・ブリタニア、かつて市民革命からブリタニアへと亡命した貴族の末裔が立ち上げた独立国家でも首都と大差ない都市の一つだった。

 

 その中でも一際豪快な建物の中で、とあるやんわりとしながらも芯がしっかりとしていそうな男────『ミケーレ・マンフレディ』が台座に座っていた。

 

 ここに滞在しているのはユーロ・ブリタニアが保有する騎士団でも、元ナイトオブツーだったマンフレディ卿が率いる『ユーロ・ブリタニアの騎士団内でも最強』とうたわれている聖ミカエル騎士団が配置されている。

 

 実質上、ユーロ・ブリタニアのトップである宗主の『オーガスタ・ヘンリ・ハイランド(ヴェランス大公)』が直接、立場が違うようになってもマンフレディ卿に直接声をかけるほどにその存在は大きい。

 

「そうだ。 先日、ペテルブルグの西方のナルヴァ近辺でラファエル騎士団が壊滅したことでヴェランス大公からそのような勅命を聞いた。」

 

「ラファエル騎士団が……壊滅ですか?」

 

 マンフレディ卿の前に立っていたのは青い長髪をまとめたポニーテールをした美青年────聖ミカエル騎士団の副官である『シン・ヒュウガ・シャイング』。

 

「ああ。 生き残った者たちからの報告によると、“敵は包囲陣の中に突如出現した”となっている。 ナイトメアらしき残影とともに、()()()()の痕跡もな。」

 

「“突如”に、“歩兵部隊”……まるで、古代ローマ帝国を襲った“ハンニバル将軍”と特徴が酷似していますね。」

 

「ハンニバル、か……ではさしずめ、『ハンニバルの亡霊』とでも呼ぶか? シンにも、ユーモアがあるのだな?」

 

「恐れ入ります、マンフレディ卿。」

 

「そこは義兄上と呼ぶのではないか?」

 

 シンはマンフレディ卿の言ったように東洋人だが、浮浪児として生きていた彼はユーロ・ブリタニアの騎士を剣術で負かしたところをマンフレディ卿が目撃してからユーロ・ブリタニア軍に入団させた。

 するとシンは数々の武功を成し遂げていき、今ではマンフレディの後押しを受けてシャイング家の養子になり正当な後継者の地位にまで上り詰めていた。

 

「いえ、私はマンフレディ卿に比べればまだまだです。」

 

「ハッハッハ! 未だにお前の謙遜する態度は変わらんか! だが、真に“亡霊”と呼ぶべきはEUだ。 やつらは300年前の革命がもたらした夢にすがり付くばかりの亡霊で、己の利益しか目に映らぬ愚民どもの集まりでしかない。

 シン。 お前には東洋の武人(もののふ)の血が流れているが、私はお前以上にユーロ・ブリタニアに貢献した者を片手でしか知らん。 正統なる貴族団に加わる日も近いだろう。 ()()()()よ、その時お前は何を望む?」

 

「……義弟……ですか……」

 

「うむ。 私はお前を()()()()()()()以上に思っているぞ!」

 

 シンは顎に手を添えると、あっけらかんと以下の言葉を口にする。

 

「ではマンフレディ卿、ミカエル騎士団を()()()頂きたい。」

 

「………………ハーハッハッハ!」

 

 シンの言葉に、マンフレディはポカンとするがすぐに笑い出す。

 

 シンの冗談と思いながら。

 

「シン! お前の真顔で冗談を言うのは新鮮────!」

「────ですので『マンフレディ卿、私の為に死んで』ください。」

 

 マンフレディはぴたりと笑うことを止めると、腰から剣を抜いてそれを自らの首に真剣な顔で添える。

 

「ああ。 お前の為ならば、喜んで死のう。」

 

 ザシュ!

 

 ザァァァァァ!

 

 肉が素早く切られる音と、血が噴き出す音が室内に響き渡ると頭が胴体から離れたマンフレディの亡骸が地面へと落ちる様を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()シンは汚物を見るような目で涼しく見下ろしていた。

 

「さようなら、ミケーレ・マンフレディ。 私は貴方を愛していましたよ? “兄弟”、としてではありませんが。」

 

 自分にかかった返り血を全く気にせず、まるで子供のようににっこりとした笑みをしたまま上記の言葉を口にするシンの様子はあまりにもチグハグだった。




投稿時間がずれてしまい、申し訳ありませんでした。 m( _ _;)m

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