緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~序章・『異界の舞台役者達』何処から来て、何処へ行くのか(配点:境界線)~

 大地を覆う緑が広がっていた。

草原だ。

 草原の北には大小様々な山が連なっており西には背の低い林が広がっている。また南西には小さな丘があり、更に南方には海が見える。

 その草原に三つの塊があった。一つは草原の西側で長方形の陣を敷いた青い軍団。二つ目は同じく東側で陣を敷いた白色の軍団。そして最後の三つ目の軍団は一つ目の軍団と同じ青い軍団だが他の二つから少し離れた丘の上にいた。

 いずれの軍団も皆装甲服を来ており青の軍は三つ葉葵の旗を掲げており、白の軍団は丸にニ引両の旗を掲げていた。両軍とも距離にして300メートル程で睨み合っており正面に半透明な術式盾を展開し、長銃を構えていた。互いに動かず膠着状態が続いていたが唐突に乾いた音が鳴り響いた。

銃声だ。

 一発目の銃声に続いて次々と白の軍団から銃声音がなり響く。放たれた銃弾は青の軍団の術式盾にぶつかり破砕する。盾を後ろから押さえていた男が叫んだ。

「くそっ、今川の奴等め! 2ヶ月置きに仕掛けてきやがって! 馬鹿にしてんのか!」

 銃撃の合間を縫って長銃を射撃している男が叫び返す。

「黙ってろ! 馬鹿にされないために俺たちが居るんだろうが!」

 今度は後ろで弾を詰めていた男が叫ぶ。

「今川の連中、この前よりも増えてないか!?」

三つ葉葵の軍団の戦力は丘にいる部隊を除くと約500人であり、丸に二引両の軍勢━━今川の軍勢は約900人であった。戦況は数で勝る今川が徐々に押し始めていた。

 

***

 

 戦場から離れた丘の上に200人程の小部隊が陣取っていた。その陣の中で一人の小柄な少女が一眼の望遠鏡を覗き見ている。

 小柄な少女は黒い鍔付き帽子に白い服を着ており、青く長い髪の毛と炎の様な瞳をしていた。そんな、青髪紅眼の少女の横に装甲服を着た男が駆け寄った。

「比那名居様、我々も酒井様の軍に助力したほうが良いのでは?」

 比那名居と呼ばれた少女は右目で望遠鏡を覗きながら左目で男を見た。

「馬鹿ね、近接戦闘主体のウチの部隊が入ったって壁ぐらいにしかならないわ。アンタ達

 がそれでいいってなら今から介入するけど?」

 男は返答に詰まる。

「それに今川だって本気でやってる訳じゃないわ。統合争乱以降聖連によって国家間の戦争を禁じられた代わりにガス抜きの為に相対戦や小規模の争いを許可する臨時惣無事令……仕掛けられる側は溜まったもんじゃ無いわね」

「はあ」と男は気の抜けた返事をした。少女はそんな男の様子を片目で見て苦笑する。

「まぁ今回はあの歴史オタクの作戦で今川を驚かしてやろうって訳だけど、今のところ戦況は微妙ねぇ」

 暫くの間互いの銃声音が鳴り響いていたが突然今川側の銃声音が止んだ。不審に思っ

た少女は望遠鏡で今川陣を覗き驚きの声を上げた。

「━━アレは!」

 

***

 

「と、止まった?」

 今川からの銃撃が止まったことによって三つ葉葵の陣に僅かな動揺が走っていた。

「お、おい! どうしたんだよ?」

「弾切れか?」

「誰かー! 浅間様の隠し撮りプロマイド落しちまったんだが知らないかー!」

「おいっ! 今川軍が動いたぞっ!」

 前方を見れば長方形陣を作っていた今川軍が二つに分かれ始めていた。今川軍が二つ

に割れると中央から4人の今川兵に押された物体が現れる。物体は白の外装でその長さ

は約3メートルあり、正面には人の頭1つ分の穴と術式によって表示される照準が浮い

ている。下部は貨物用の浮遊型装甲になっており、左側面には火器管制用の表示枠が付

いており、右側面には製造会社を示すロゴとして『IZUMO』と彫られていた。

「最新型の野戦砲だとっ!」

 その叫びに呼応するかのように術式加工された爆砕砲弾が発射された。砲弾は直線に

飛び三つ葉葵の陣に直撃するかのように見えた。

「━━結べ、蜻蛉スペア!」

透き通った声とともに砲弾が破砕する。破砕した砲弾の破片は流体光を纏って術式盾

に衝突する。破片が地面に落ちると同時に陣の後方から一人の少女が飛翔してきた。少

女は地面に着地した。少女は長い黒髪を後ろで結んでおり右手には長い槍を携えていた。

「武蔵アリアダスト教導院副長本多・二代!今川軍よ拙者が相手になろう!」

 二代が「うむ」と一人頷いていると彼女の横に通神枠が現れた。

『おい、二代。今の私たちは武蔵じゃなくて徳川に所属している身だぞ』

「おお、そうで御座った。流石は正純で御座るな」

 通神枠の少女が半眼になるが二代は気にせず改めて今川軍に体を向けた。

「徳川家客将本多・二代!拙者が相手になろう」

━━直後二発目の砲弾が発射された。

 

***

 

 二代は二発目の砲弾が発射されるのを見ると直ぐに槍の先端に砲弾を映す。

「結べ! 蜻蛉スペア!」

 二発目の砲弾も先程と同じように空中で割断され爆散した。すると今川軍は術式盾を展開し直し長銃を再び構える。

━━来ぬで御座るか。

「ならば此方から参るで御座る!」

 二代は今川軍へと駆け出す。それに追従して徳川軍の歩兵隊が突撃を開始した。約百名から成る突撃隊は左腕に小型の弾除け用の術式盾を装備し、右手には乱戦用の太刀を装備している。

対して今川軍は野戦砲を守るように術式盾を展開し、盾と盾の合間から長槍を突き出し構えながら長銃による射撃を続けた。

 突撃隊が今川軍との距離を残り100メートル程詰めると今川軍は野戦砲正面の術式盾の展開を止め、野戦砲を前に出した。野戦砲はその砲身を既に突撃隊に向けており火器管制用の兜を被っている兵士が仮想引き金に指を掛けていた。兵士は眼前に映される仮想照準で突撃隊を捉えながら叫ぶ。

「無策で飛び込んで来るとは馬鹿めっ! この砲で砕け散るといいっ!」

 兵士が引き金を引くと同時に野戦砲が爆散した。

 

***

 

 今川軍の指揮を執っていた武将━━朝比奈泰能は突然の事態に動揺を隠せなかった。既に砲弾を搭載していた野戦砲が爆発したため砲の周囲は炎に包まれており多数の負傷兵が出た。更に砲が破壊されたことによって全軍に動揺が走り、隊列に乱れが生じていた。

━━何故だ?何故野戦砲が破壊された?

敵将本多・二代の所有する神格武装蜻蛉切の特徴は事前に知らされていた。あの距離ならば割断する事は不可能な筈。「ならば何故?」と思い空を見上げ、ソレを視認すると目を見開いた。

「おのれ徳川め! 魔女を林に隠しておったかっ!」

 泰能が叫ぶと同時に二度目の爆撃が始まった。

 

***

 

 今川軍の遥か上方に18人の魔女達が飛翔していた。魔女達は皆箒方の機動殻に跨っており、機動殻の両側に爆発術式を詰め込んだ投下型爆弾を装備していた。魔女隊は既に二度目の爆撃を済ませており現在は戦場の上空で旋回軌道をとっていた。

 魔女隊の先頭を飛行していた黒の六枚羽を背中から生やしている少女が同じく先頭を飛行している金の六枚羽を生やす少女に近づいた。

「大成功ねマルゴット。今川軍は大混乱でたった今二代達の突撃隊が今川の前衛部隊と交戦状態に入ったわ」

 マルゴットと呼ばれた少女は地上の様子を窺いながら答えた。

「そうだねガッちゃん。二代達の突撃隊を囮にして事前に林の中に隠していた魔女隊で今川軍を強襲する作戦。正直上手くいくか不安だったけど大成功!この分なら勝てそう」

 黒翼の少女━━マルガ・ナルゼは「そうね」と答えると機動殻を傾けながら旋回した。

それに続いてマルゴットと後続の魔女隊も旋回を始める。ナルゼが旋回中に丘を見ると

丘の上に陣を張っていた比那名居天子の部隊が丁度丘から駆け下りている所であった。

「あの貧乳天人、さっきまでサボってた癖に今さら仕掛けてるわ」

「ナイナイ基本的に面倒臭がり屋だからねー」とマルゴットは苦笑した。それに釣られ

てナルゼも苦笑する。

「この事、衣玖の奴は知ってるの?」

「アサマチが通神で実況してるから見てるよ」

 ナルゼとマルゴットは旋回を終え、再び高度を上げた。

「何て言ってた?」

「『後でチョー叱ります。電流流すくらい』だってさ」

 ナルゼは再び苦笑した。十分に高度を取ったため再び姿勢を正し、戦場を見ると既に

今川軍は撤退を始めており二代の部隊と合流した天子の部隊が追撃を始めていた。

「どうするガッちゃん?あともう一回ぐらいはやれるけど?」

「そんなの勿論━━」

 二人の天使は一気に加速し降下する。

『Herrlich!!』

撤退中の今川軍が再び吹き飛んだ。


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