緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第八章・『城郭内の意地張者』 上も下も大忙し(配点:攻城戦)~

 駿府城第3層の戦いは今川軍精鋭部隊と徳川軍による乱戦となっていた。

ネイトはその乱戦の中、銀鎖を展開しながら迫り来る今川兵を薙ぎ払っていた。右から回り込んできた今川兵に銀鎖をぶつけて吹き飛ばすとネイトは自分の右方を見た。

 右方では合流した榊原康政の部隊が交戦しており、その中にはノリキを初めとした見知った顔も居た。

一方左方では井伊直政率いる赤備え隊が岡部元信の部隊と交戦していた。

今川軍は兵力では徳川軍に劣っていたがその士気の高さで互角の勝負に持ち込んでいた。

 槍を構え突撃してくる兵士の槍を掴み、投げ飛ばすと眼前に崩れた櫓の柱が飛んできた。ネイトは銀鎖を2本展開し一本目で柱を砕き、二本目でその破片を吹き飛ばした。柱の破片が地面に落ちるのを確認し、ネイトは柱の飛来した方向に身構えた。

すると青色の混じった白髪を腰まで伸ばした女性が現れた。

女性はネイトに一礼すると透き通った声で語りかけてきた。

「先ほども挨拶したが今川家家臣の上白沢慧音だ」

ネイトは警戒しつつ

「武蔵アリアダスト教導院第五特務ネイト・ミトツダイラですわ」

慧音はその声に頷くと先ほどの柱を見た。

「人狼の戦闘能力は聞いていたが大したものだな。自分は本来戦闘系ではないが━━しばらくの間私に付き合ってもらおう!」

そういい終えると同時にネイトは銀鎖を放った。一直線に飛んでくる銀鎖に対して慧音は右に駆け出し崩れた櫓の裏に入った。

━━無駄ですのよ!

銀鎖は櫓の正面近くに来ると角度を変え、櫓を飛び越えた後急降下して慧音を穿った。

銀鎖が慧音に激突し、金属音が響き渡る。

━━金属音!?

その直後慧音に激突した銀鎖が弾かれ、横に大きく反れた。そして櫓の裏に隠れていた慧音が駆け出し、崩れた櫓の柱に足を掛けると大きく跳躍した。月光を背にした慧音の手には幅広の剣が握られており上段の構えを取っていた。

「銀鎖、二本追加!」

左右の腰から二本の銀鎖が追加されるとそれを頭上でXの字に交差させ剣を受け止めた。銀鎖に受け止められた慧音は反動で空中に浮き、ネイトは三本目の銀鎖で横腹から穿った。

横からの攻撃を受けた慧音は身を丸めながら地面に転げ落ちた。暫くの間咳き込むと剣を杖にして立ち上がる。

「まったく、こんな事なら接近戦の訓練もしておくべきだったかな?」

そう言うと慧音は剣を構えなおした。

ネイトが両肩の銀鎖で相手を囲むように展開すると慧音は上に飛ぶが残りの二本でそれを打ち落とした。そして相手が着地するよりも早く駆け出し、落ちてくる慧音の胸元に正拳突きを放つ。

しかしその直後ネイトは違和感を感じた。

━━感触が無い!?

危険を感じたネイトは後ろに大きく跳躍する。その数瞬後、先ほどまで自分の首があった場所に斬撃が飛んできた。

先ほど攻撃を受けた慧音の姿は砂のように崩れ落ち、その背後からもう一人の慧音が現れた。

ネイトは相手を警戒しつつ距離をとった。

慧音はそんなネイトを見ると苦笑し剣の剣先をネイトに向けた。

「武蔵の騎士よ。お前は白澤という聖獣を知っているかな?」

ネイトは眉を顰めつつ

「たしか中国の聖獣でしたわね。万物の知識を司ると聞いていますわ」

ネイトはそこまで言って相手の言おうとしていることに気が付く。

「まさか━━」

「そうだ、私はお前と同じ半人半獣。私の血には白澤の血が半分流れている。そして━━」

慧音が左手を掲げると彼女の両側に巨大な鏡と勾玉が現れた。

「私が持つ武器は古来より伝わる三種の神器━━のレプリカだが、その性能は保証するぞ?」

そう言うと鏡と勾玉が空中に浮かび光り始める。

「では、互いに半人半獣同士。全力を尽くして戦おう」

両者の間に再び火花が散った。

 

***

 

轟音と共に第二層への門が崩れ落ちたのは交戦を開始して14分後の事であった。

突然の事に今川軍は動けなかったがそれは徳川軍もであった。なぜならば徳川軍は今川軍の奮戦の前に苦戦していたからである。

今川・徳川両軍が戦場の左方を見ると紅い機動殻の部隊が集結していた。

機動殻隊の前方に肩に砲を付けた機動殻がおり、その砲身は砲撃のために赤熱していた。

誰かが叫んだ。

「赤備えか!」

その声に応えるように機動殻隊の中から山県昌景現れた。

『いかにも、武田家山県昌景だ! 今川義元公の保護に参った! 各々方道を退けい!』

その迫力に兵士達は下がりそうになったが徳川軍から紅い派手な鎧を着た男が出てきた。

井伊直政だ。

直政は昌景を見ると鼻を鳴らせ、怒鳴った。

「なーにが赤備えだ! こっちこそ正真正銘の赤備え隊だ!」

『貴様等の方が後出しだろうが!』

そう昌景に言われると直政は眉を顰め表示枠を開いた。

 

***

 

・彦 猫:『やべぇ、言い返せねぇ…』

・能筆家:『魂、魂ですぞ男は魂!』

・無 双:『左様、武士にとって魂こそ大切なものよ』

・さかい:『いや、それ関係なくないか?』

・大狸様:『おぬし等最近変わったのぅ……』

 

***

 

 表示枠を消した後直政はしたり顔になって昌景を指差した。

「後とか先とか関係ねぇ! ようは魂の問題だ! 魂が赤備えなら赤備えなんだよ!」

 

***

 

・赤備え:『おい、すこし感動しちまったぞ』

・東風谷:『魂の名! 男のロマンってやつですね!』

・鬼美濃:『おーい、そこ敵地だからな。一応な』

 

***

 

 昌景は直政を見ると笑い、手に持っていた槍を向ける。すると直ぐに直政を庇うように彼の部下達が集まった。

『そこの紅いの。いい部下を持ってるではないか。本来であれば相対したいが生憎こちらも忙しいのでな、先に行かせてもらう』

そう言うと昌景は駆け出し、二層へと向かい始めた。徳川の兵は直ぐに射撃を開始するが射線を遮る物が現れた。

それは両腕を大盾にした信貞であった。

そしてその背後から信種も現れた。

見れば彼等の背後には11機の機動殻が待機しており、残りの二機は昌景の護衛のために追従していた。

『我等赤備え11名と2機。お相手しよう』

そう信貞が言うや否や機動殻隊は突撃を開始した。

 

***

 

 宗茂は迫り来る今川兵を蹴り飛ばしながら後方を見た。

後方では比那名居天子が第一特務とその補佐である英国王女と合流し先ほど第二層に進入した山県昌景を追撃しようとしているところであった。

視線を正面に戻すと紅の機動殻が長槍を手に突撃を仕掛けてきた。

それに対して宗茂は回避するのではなく逆に相手の懐に飛び込む。

意表を突かれた機動殻は咄嗟に槍を突き出すが宗茂は僅かに体を傾かせ槍を避け、そしてそのまま瓶貫を敵の首関節に叩き込んだが敵は咄嗟に横に跳躍した。

機動殻は急加速による跳躍を行ったため城壁に激突し右肩の関節を破損させた。宗茂は追撃のために駆爪を展開しようとしたところ左方から砲撃が来た。

回避のためにそのまま駆爪を展開し、前方に大きく駆けながら振り返ると先ほどの砲撃の方向には信種がおり、更に信貞がこちらの着地を狙って突進して来ていた。

 地面に着地し迎撃のため身構えると信貞の死角に回りこんだ立花・誾が十字砲火による砲撃を放つ。

死角からの攻撃であるため砲弾は直撃するかに思えたが信貞は左手の大盾を傾かせ砲弾を逸らしながら砲撃とは反対方向に跳躍した。

反れた砲弾が城壁に激突し爆散すると信貞は誾の方を見た。

『おお、あぶねぇなぁ』

誾も必ず当たると思っていたためか少々動揺していたが直ぐに冷静に戻る。

そんな様子を見ながら信貞は大盾を構える。

『流石は西国無双とその妻。此方の計算と予測を超えていく』

『Tes.』

と信種が信貞の横に立つ。それに対して誾も宗茂の横に移動した。宗茂は誾に目配せをすると瓶貫を構え直した。

「元・西国無双です。今は武蔵アリアダスト教導院副長補佐の立花・宗茂です」

信貞は頷き

『赤備え隊の自動人形、信貞だ』

『━━信種』

そう言い、お互い頷き合うとまず信貞が動いた。

彼は両腕の大盾で正面を守りながら宗茂に向かって加速した。それを援護するように信種が肩の小型方を放つ。

それに対して宗茂と誾は二手に分かれた。

信貞は宗茂をそのまま追撃し、信種は誾に長銃による銃撃を浴びせていた。宗茂に追いついた信貞は右腕の大盾を振り下ろし宗茂を頭上から叩き潰そうとするが宗茂は右足で踏み込むと後ろへ一気に跳躍することで信貞の側面を抜けて回避を行う。

信貞の背後を取った宗茂は攻撃を行うために再加速を行おうとしたところ正面から大盾が迫ってきていた。

「!」

宗茂が咄嗟に左に飛ぶと大盾は地面に激突し轟音と共に砂埃を散らした。大盾には鎖が繋がれておりそれは信貞の左腕の内部に繋がっていた。

「ハンマーのようにも出来るという事ですか」

『Tes.、 接近戦だけしか出来ないという訳では無いと言う事だ』

そう言いながら信貞は大盾を引き戻し自分の左腕に合致させた。

両者はしばし睨み合うと信貞が右腕の大盾を射出した。大盾の後部には加速用の術式が展開され一気に加速を行う。

信貞が直ぐに左の大盾で横に薙ぐと宗茂は姿勢を低くしそれをかわしながら背後に回りこんだ。

━━死角からの攻撃ならば!

そう思い宗茂は瓶貫を信貞の左肩関節に穿とうとした瞬間、信貞は宗茂の方を見ずに左後ろ足で蹴りを放った。

宗茂は顔を逸らしながら加速し、そのまま滑り込むように回避を行うが信貞の蹄が左肩を掠り血飛沫を上げる。

「宗茂様!」

誾は叫ぶと十字砲火の一門を信種に向かって撃つともう一門で信貞を抑えながら宗茂の横に駆けた。

誾が宗茂の横に立つと信貞も下がり、信種の左前に立った。

「大丈夫ですか宗茂様」

そう誾が尋ねると宗茂は微笑しながら左肩を押さえた。

「大丈夫ですよ誾さん。傷は浅いですし」

そう言うと宗茂は思案顔になる。

先ほどの攻撃は完全に死角からの攻撃であった。通常死角からの攻撃を受ければそれに対する対処は殆ど出来ない。出来たとしてもそれは一部の達人であろう。

先ほどの蹴りは死角に入った此方を迎撃するための咄嗟の攻撃だったのかも知れないがそれにしては狙いが此方の顔を狙った正確なものであった。

━━まるで見えているような……。

そう思い相手を見ると一つ思い当たる事があった。それを確かめるために。

「誾さん、ちょっといいですか?」

 

***

 

信貞は正面の敵、立花・宗茂と立花・誾が顔を近づけて何かを話しているのを見ながら不思議な感覚を感じていた。

 自分と信種は此方の世界で生まれた自動人形である。そのため実戦経験は殆ど無く、戦闘は過去の記録と先人達の話からシュミレートする場合が殆どであった。

勿論他者との合同訓練はあったがそれはあくまで訓練であり自分の性能を完全に発揮できるものではない。

そういう意味ではこの今川の乱は自分達にとっては僥倖だ。実戦を経験出来るだけではなくあの西国無双を相手に立ち回れているのであるから。

 信貞はよく山県昌景が戦について誇らしげに語るのを聞いていたがあの時は彼がなぜ誇らしげに戦話をするのかが理解できなかった。

だが今は。

━━感情があればこういうのを心地よいと言うのであろうな。

 言葉数の少ない信種もおそらく自分と同じ事を思考している筈だと不可思議な断定をしていると宗茂が武器を構えなおした。

『作戦会議はもういいのか?』

「Jud.、 そちらとしては我々が話している間に攻撃をすれば良かったのでは?」

『我々には情報収集の任務もある。貴公等が全力である時の情報が欲しいのだ。不意打ちでは意味がない』

宗茂は「成程」と言うと加速術式を展開させた。

「では、全力で行きましょう!」

そう言うと宗茂は加速を行った。信貞は右腕の大盾を射出すると左腕で自身を守りながら自身も駆けた。それに合わせ信種が宗茂に砲撃を行う。

宗茂は大盾を避け、砲弾をかわすと後方の誾に叫ぶ。

「誾さん、お願いします!」

誾は十字砲火を此方に向けるのを見ると信貞は頷いた。

自分の様な機動殻を相手にするならば関節を狙う必要がある。しかし自分の前面は装甲に覆われており更に両腕の大盾がある。ならば相手が狙うは自分の背後、つまり死角からの関節部に対する攻撃。それを行う為にも砲撃で此方の視界を奪おうという事であろう。

だがそれは後方が見えない場合の話だ。

十字砲火より砲弾が放たれた。しかしそれは一つではなく二つであった。

『二つ!?』

一発目の砲弾は自分の目の前に落ちると爆発により砂埃を上げ、もう一つは信種の眼前に落ち砂埃を上げた。

━━どこだ!?

完全に断たれた視覚の中、信貞は後方に蹴りを連発したが全て空ぶった。

では前か!と左腕で薙ごうとした所自分の肩に足が掛かった。信貞は左側を視覚素子越しで見るとそれは宗茂の足であり、彼は此方に一礼すると手に持つ瓶貫を突き出した。

「━━行きます!」

そう叫ぶと宗茂は一気に加速し、まるで吸い寄せられるように後方にいた信種の砲の関節部を穿った。

砲は火花を散らすと爆発を起こし、信種の右顔を砕いた。そしてそれと同時に自分の背後の視覚も消失した。

 

***

 

 宗茂は小型砲が爆発した事によって砕け、宙に散った信種の右肩装甲に足を駆けると跳躍を行い信種、信貞両名から距離を取った。

 信種の右肩は砲の爆発によって装甲が砕け内部の関節部が剥き出しになりながら火花を散らしていた。更に顔の右半面が砕かれ視覚用の部品に大きな皹が入っている。

信種は損傷のためか足元が定まらず、度々体を揺らしていた。

 そんな信種を庇うように信貞が前に立つ。

『何故━━気付いた?』

「最初に違和感を感じたのは初めに誾さんの死角からの攻撃を防いだ時です。そして二度目の私の攻撃を防いだ時、私は後方に視覚があるのかと思いましたがあなたの後部にはそれらしき物は無い。

そこであなたが常に相方の前に立っている事に気付きました。そこで一つ賭けてみたという事です」

『自分の賭けが間違っていた場合は?』

宗茂は微笑すると

「その時はその時で方法を変えます。それに誾さんの援護が有りますから」

そう宗茂が言い終えると信貞は静かに頷いた。

『成程、臨機応変にそして相方を信頼することによる戦いという訳か。━━学ばせて頂いた』

「Jud.」と宗茂は頷き再び瓶貫を構える。

「それで、どうしますか? まだ戦いますか?」

そう宗茂が問うと信貞は構えを解き、信種に腰のハードポイントから牽引用の鎖を繋げた。

『残念ながらここまでだ。我々には情報を持ち帰るという任務もあるのでな』

『━━いずれ再戦を』

そう言うと二機の自動人形は後ろへ駆け出した。信種は信貞に引きずられる用に駆け、数秒後には見えなくなった。

宗茂はそんな二機の様子を見届けると誾の横に立った。誾は宗茂の方を見ると

「宜しいのですか? 宗茂様?」

宗茂は頷きながら微笑む。

「ええ、いずれまた合い見える時が有るでしょう。それに、我々にもまだやるべき事があります」

そう言い頷き合うと二人は今川軍に向かって駆け出した。

 

***

 

 天子達は今川軍の部隊を突破し第二層の門に差し迫っていた。

天子の直ぐ後ろには衣玖がおり、更にその後ろに点蔵とメアリ、そして合流したノリキと100名程の徳川兵が続いていた。

 第二層の門を潜ると左右から突然二機の紅い機動殻が飛び出して来た。それは先ほど山県昌景に追従した赤備え隊であり、対人用の長槍を手に突撃を仕掛けてくる。

天子はそんな機動殻を視認すると後ろの点蔵に叫んだ。

「忍者、右!」

点蔵は「Jud!!」と叫ぶと短刀を引き抜き一気に駆け出した。機動殻が点蔵を迎撃するために長槍を突き出そうとすると点蔵は身を逸らし制服の上着を脱ぎ、機動殻の正面に投げた。

視界を突然奪われた機動殻は思わず立ち止まり左手で上着を払おうとしたが、その瞬間前両足の感覚が無くなり前のめりに倒れる。

倒れた衝撃で上着が外れ前足を確認すると膝から下が断たれていた。そして背後には王贈剣一型を抜いたメアリがおり、彼女は一礼すると駆け出した。

 一方天子は機動殻が突撃してくると緋想の剣を地面に突き刺した。すると正面の地面が浮き上がり、岩の壁となった。機動殻は既に槍を突き出しており、槍の先端が岩に突き刺さり引き抜けなくなる。

 機動殻は直ぐに武器を放棄し腰の太刀に手を伸ばそうとすると突然両腕に羽衣が巻きついた。羽衣の先には衣玖がおり彼女は肩にかけていた羽衣を両腕で掴み、機動殻の腕を拘束していた。

 その間に天子は側面に回りこみ緋想の剣を腰関節に叩き込む。

機動殻は「ゴ」とも「ガ」とも聞こえるうめき声を上げた後、膝から崩れた。

 天子はそれを見届けるまでも無く再び駆け出しそれに衣玖も続いた。天子は駆けながら点蔵の方を見ると

「あんたたちは障壁の発生装置を叩いて!」

「天子殿は?」

「私と衣玖はこのまま追いかけるわ!」

そう天子が言うと点蔵は頷き、後ろの部隊も第二層の障壁装置の方に向かって行った。

 

***

 

 障壁装置の前には今川軍の兵士210名が集結しており守備陣系を取っていた。今川軍はいずれも重装甲に長銃や長槍を装備しており徳川軍を待ち構える。障壁装置には防御用の術式が張られており徳川軍の銃撃では破壊が出来なくなっていた。

一方数で劣る徳川軍は崩れた櫓などを盾にして応戦するが苦戦を強いられていた。

そんな中ノリキは身を低くしながら隣にいる点蔵に声をかけた。

「このままだとジリ貧だぞ。どうする?」

それに対し点蔵は頷きを返し

「何か相手の注意を引ければいいので御座るが……。援軍が来るとか」

「そう都合良く……」

とノリキは途中まで言いかけ自分達が来た方向を見ると目を見開き絶句した。点蔵は何事かと振り返るとやはり絶句する。

そこには居る筈の無い者が居た。

全裸だ。

正確には全裸とホライゾンと立花夫妻の4人であった。全裸は辺りをキョロキョロと見ていると点蔵を見つけ手を振った。

「おーい、点蔵、おめぇそこで何やってんだ?」

 

***

 

「何をやっているんだ、あの馬鹿はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

教導院の屋上でオリオトライや教頭であるキヨナリと共に茶を飲みながら戦いを見守っていた正純は思わず立ち上がってしまった。

勢い良く立ち上がったため座っていた椅子が音を立てて倒れるがそんな事は気にせず、表示枠を凝視する。

表示枠には全裸が体をくねらせたり踊ったりしているのを横のホライゾンが裏拳入れている映像が流れている。

・あさま:『見ないと思っていたら何時の間に……』

・賢姉様:『あら、愚弟とホライゾンなら最初から下に居たわよ? 面白かったから誰にも言わなかったけど』

・あさま:『喜美、後でちょー叱りますからね。叱りますからね!』

正純は思わず頭を抱えてしまった。オリオトライはそんな様子を笑うと楽しそうに目を細めた。

「でもこれで注意は引けたわね」

 

***

 

「何をやってるで御座るか!」

と点蔵は思わず立ち上がり叫んでしまった。するとトーリは頭を掻きながら笑った。

「いやぁ何かおめぇらが苦戦してるっぽいから激励しに来た?」

「なんで最後疑問系なんだよ」と誰かが呟く。思わぬ乱入者の登場によって誰もが困惑し、戦闘が止まってしまっていた。

そんな雰囲気は我知らずと言った感じでトーリは話続け

「でな、ここに来る途中でムネムネとムネ嫁に会ったから付いてきてもらったってわけよ」

トーリがそう言うと宗茂が頷いた。

「それで? おめぇらはそこの奴等が居るせいで苦戦してんのか?」

と自然に問われたため思わず頷いてしまう。トーリはその頷きに頷き返し今川軍の方を向くと

「というわけで、どいてちょーだい☆」

と言いながら所謂セクシーポーズという物を取った。そして今川軍の隊長格らしき人物が叫んだ。

「て、敵の大将だ! う、撃てぃ!」

その叫びと同時に今川軍がトーリ目掛けて一斉に射撃を行う。そんな攻撃にトーリがおどけていると宗茂が彼を抱え、その横では誾がホライゾンを抱えて走り出す。

点蔵はそんな様子に軽い頭痛を感じているとノリキが叫んだ。

「おい! 隙が出来たぞ!」

点蔵は直ぐ差にハッとなり号令を掛ける。

「いま、今で御座るよ! 全軍、突撃!」

そして徳川軍が遮蔽物から飛び出し突撃を仕掛けた。トーリ達に気を取られていた今川軍は徳川軍の突撃に対する反応が遅れ、あっという間に乱戦状態となる。

そんな中ノリキは身を低くすると一人目を飛び膝蹴りで倒し、二人目の顔をその勢いを付けたまま右拳で正面から殴った。足が地に着くと正面の抜刀した兵士が横薙ぎを行った為、ノリキは姿勢を地に着くぐらい低くしながら回避し兵士の顎にアッパーを行った。

ノリキが再び駆け出そうとすると背後から兵士が短刀を構えて突撃してきた。

思わぬ敵の出現に内心舌打ちをしながら回避を行おうとすると、その兵士の頭頂部に点蔵が踵落しを行った。

兵士は衝撃で顎から地面に倒れ動かなくなる。

ノリキは点蔵に頷くと再び駆け出した。

そして敵の間を潜り抜けると障壁装置の前にたどり着いた。ノリキは足を止め乱れた息を整えると拳を構える。拳には創作術式“弥生月”が展開されていた。

「3発殴って道を開く!」

3発の拳が障壁に叩き込まれ、装置を守っている防御術式が砕ける。その様子を見届けた点蔵がホライゾンを抱えている誾に叫んだ。

「誾殿、よろしく頼むで御座る!」

「Jud!!」

と叫ぶと誾は十字砲火を一門召喚し、装置に向かって砲撃を行った。

そして砲撃を受けた装置が爆発し、砕けた。

 

***

 

 障壁装置が破壊され駿府城を覆っていた障壁が崩れる様子を太原雪斎は駿河艦橋から見ていた。

駿河艦橋では障壁が崩れたことによって騒然としており、通信兵が各艦と連絡を取っていた。

 雪斎は静かに目を閉じると心の中で「見事」と敵に賞賛を贈る。そして次に目を開けると号令を掛けた。

「全艦、散開陣形! 障壁が無くなった以上徳川艦隊が攻撃を仕替けてくるぞ!

そして散開後は前進しながら砲撃を行え! 少しでも駿府城に対する直接攻撃を減らすのだ!」

そう言い終えると今川艦隊が散開しながら前進を開始した。雪斎は眼前の徳川艦隊を睨みつけると

「我等が今川の意地、見せようぞ!」

今川艦隊の兵士達が喊声を上げた。

 

***

 

「今川艦隊前進してきます━━以上」

と武蔵野艦橋で“武蔵野”が表示枠越しに正純に連絡した。

正純はそれに頷くと今度はネシンバラに連絡する。

『ネシンバラ、家康公に艦隊を下げるよう連絡してくれ』

そう言うと表示枠がもう一つ開き、ネシンバラが頷いた。

『もう連絡してあるよ』

武蔵野艦橋にある立体地図には徳川艦隊の配置が表示されており、その徳川艦隊を表す記号が後退を行っているのが分かった。

正純は武蔵前方に艦隊が居なくなるのを確認すると

『では“武蔵野”。頼んだ』

“武蔵野”は正純に対して頷き返すと艦橋に座っていた鈴の傍に立ち頭を下げる。

「では、鈴様。号令をお願いします━━以上」

鈴は少し緊張したように頷くと直ぐに微笑み。

「J、Jud. みん、な。かとう、ね?」

「“武蔵野”より全艦へ、これより武蔵は『対航空都市艦級障害物重力制御砲ACC-GC0021“兼定”』をショートバレルモードで使用します。射線上にいる友軍艦は直ちに退避してください━━以上」

“武蔵野”がそう言い終えると発射準備が終わったことを自動人形が伝えた。

そして少し間を空けると“武蔵野”が号令を掛ける。

「ショートバレル“小兼定”発射します!━━以上!」

その直後、圧縮された重力障壁が今川艦隊に向かって放たれた。


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