緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

16 / 103
第二部・伊勢海戦編
~序章・『支える篭手を持つもの達』 守りたいものがあるから (配点:遊撃士)~


 闇が広がっていた。

夜の筒井の山々は静まり返り聞こえてくるのは時折鳴く梟の鳴き声や小動物が走りまわる音のみである。

 突如筒井の夜を轟音が引き裂く。

音は山の峰から響き、音が鳴るたび木々が折れ土ぼこりが舞う。

 夜闇に包まれる森の中を誰かが走っていた。

少女だ。

 緑の服に美しい白髪、そして背には一振りの太刀と腰には脇差を差している。

少女は時折木の根に躓きながらも体勢を立て直し走り続ける。

その背後からは轟音が迫り、地響きが続く。

少女は背後を一切確認せずただひたすらに走ると眼前に明かりが見えてきた。

 緩みそうになる気を保ちながら前に進み続ける、そして後わずかというところで突如右側の木々が砕けた。

 咄嗟の判断で地面に伏せると先ほどまで自分が立っていた位置を何か巨大なものが薙いだ。

このとき初めて振り返ると闇の中から白い巨体が現れる。

四つ足で歩くそれは一見竜の用であったがその体には鱗は無く、白い筋肉で覆われている。また頭部と思えるもの無く異様な姿であった。

 怪物はゴムのように伸ばした腕を戻すと今度は地面に伏せている少女目掛けて叩きつける。

「!!」

少女は跳ねるように飛び出し、再び駆け出す。

獲物を逃した怪物は咆哮すると少女を追いかけ出す。そして追いつきその大きな口で少女を丸呑みにしようとした瞬間、森を抜け開けた場所に出た。

「今です!! エステルさん! ヨシュアさん!」

少女の叫びと共に怪物の左右から二人の男女が現れた。

一人は茶色い髪をツインテールにし、長い棍を持った少女で棍を怪物の口に叩き付けた。

渾身の一撃を喰らった怪物は大きく仰け反り苦悶の声をあげる。

「ヨシュア!!」

茶髪の少女━━エステルが右側の少年に声を掛ける。

ヨシュアは双剣を構えると怪物の胴を潜り、後ろの両足をすれ違いざまに切断した。

足を失った怪物は地面に叩きつけられ地響きが起こる。

怪物は再び腕を伸ばしエステルを捕らえようとするが横からそれを断ち切られる。

怪物の腕を切り落としたのは先ほどまで追いかけられていた少女で彼女の手には太刀を握っており、刀についた血を振り払うと上段に構えた。

 危険を感じた怪物は咆哮を上げ残った手で少女を叩き潰そうとするがエステルがそれを棍で払う。

 少女は目を閉じ、深呼吸をする。

刀身が緑の光を帯び、光り輝く。そして光が最高潮に達したところで少女は刀を振り下ろす。

「冥想斬!!」

刀から放たれた光は刃となり怪物の体を両断していく。そして怪物は一際大きく咆哮すると地響きと共に崩れ落ちた。

 

***

 

 体を正面から両断され動かなくなった怪物にヨシュアは慎重に近づくと双剣を体に突き刺し死んでいることを確認する。

反応が無い事を確かめると彼は後ろの二人に向かって頷いた。

 先ほど光の刃を放った少女が安堵のため肩をなでおろす。エステルはその両肩を掴み笑顔で少女の顔を覗き込む。

「お疲れ! 妖夢! 流石ね、そろそろ正遊撃士に成れるんじゃない?」

「いえ、まだまだ自分は未熟です。もっと精進しなければ」

「まじめねー」とエステルは苦笑すると戻ってきたヨシュアとハイタッチをした。

 妖夢は疲れからの溜息をつき、既に消滅を始め、流体となり始めているている怪物の体を見る。

「それにしても怪魔の出現頻度、最近高くなってますね。この前は六護式仏蘭西と出雲・クロスベル周辺。それで今日は筒井。

こうも振り回されると少々疲れますね」

妖夢の言葉にエステルは頷く。そして暫く思案すると手を上げた。

「はいはい! ていあーん! 今度の依頼をこなしたら皆で温泉行きましょう?」

ヨシュアも賛同し

「休息も大事だからね。休めるときには休まないと」

そういった瞬間ヨシュアの小型通神機━━エニグマが着信音を鳴らす。ヨシュアはエニグマに書かれた通信元を確認すると「本部からだ」と呟いた。

温泉トークで盛り上がっている二人に一瞥するとヨシュアは通神に出る。

「はい……はい……、え? 明日ですか? ……分かりました、エステル達にも言っておきます」

ヨシュアがエニグマを閉じるとエステルが「誰から?」と聞いた。

「本部からだ。二人とも悪いけど温泉は無しだ。明日から遊撃士協会本部から転属になる」

「転属……ですか? どこの支部に行くんですか? 私達が行くほど手一杯な支部は無い筈ですけど……」

と妖夢が聞く。

「ああ、以前新支部を創るって話があったのを覚えてるかい? そこに僕達の正式配属が決まったらしい」

「それって……」とエステルが眉を顰めるとヨシュアは頷き

「そう、遊撃士協会武蔵支部だ。新支部長とは武蔵で合流する事になっている」

武蔵。

いま何かと話題の場所だ。と妖夢は思った。

臨時惣無事を破り、織田と共に世界制服を企んでいる国だと聞く。

おそらく武蔵の総長というのはとんでもない悪人なのだろう。

ならば!!

「行きましょう!! 二人とも!! 悪を断ちに!!」

エステルが「あのぉ、妖夢?」と眉を顰めているが恐らくいきり立つ自分を宥めてくれているのだろう。

確かに冷静でなければ勝てるものも勝てない。

先輩二人に感謝しつつ妖夢は決心する。

見ていてください! 幽々子様! 妖夢は悪を倒し、必ずや一人前になってみせます!

そう秋の夜空に妖夢は誓うのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。