緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第一章・『新しき始まり』 心機一転 (配点:十月)~

 夢を見た。

私の手を引き歩く父の大きな背中。

見知らぬ土地に連れて行かれ戸惑う私。

家は大きくなった。知らない大人たちが私の後ろに付く様になった。

最初は驚いたが良くしてくれるので嬉しかった。

 家の窓から外を見る。子供達が蹴鞠をしている。

楽しそうだったので混ぜてもらうように頼んだ。だけど鞠を持つ男の子が言う。

「地上人の癖に」

「成り上がりが」

「親の七光り」

私は家に帰って泣いた。

それ以降私の考えは変わった。

取り巻きの奴等は私を可愛がっていたのではなく総領事である父に取り入るため。

━━下らない。

馬鹿にした奴等を見返すために力をつけた。

ある日奴等の前に行くと、何時かと同じように此方を見下す。

だから教えた。私が凄いところを、そうしたらもう馬鹿にされない/友達になってくれる/と思っていた。

 その日から私は本当に孤独になった。

何もかもつまらない、父に言われ学を付け、武術も身に付けた。だが何をしても心は冷めたまま。

 気まぐれで倉庫に忍び込み家宝の剣を手に入れたがやはりつまらない。

 

 ある日、修行が嫌になり抜け出し天界の端に行って見た。

その時初めて世界を見た。下界は穢れていると聞いていたがそんな事は無い、皆楽しそうで時折巫女や魔女が空中で派手な見世物をしていた。

 何時しか自分は下界に惹かれていた

「いつかあそこへ!!」

 

そこで夢は途切れる。

 

***

 

 息苦しさを感じ、目が覚める。

体は妙に暑苦しく、顔に何かが押し付けられているが少し良い匂いがする。

 手で顔に押し付けられている物を押しのけようとしたら妙に柔らかかった。

━━ん? むにゅって……!!

慌てて押しのける、自分にへばり付いていたそれは横に転がる。

「こ、こいつ! またっ!」

先ほどまで自分に抱きついていたのは寝巻きを着た同室の衣玖で転がった際に胸元が大きく肌蹴る。

 着物から覗く扇情的な首元に一瞬赤くなるが、直ぐに頭を振る。

「何回目よ……」

こういったことは初めてではない。以前も何度か寝ぼけた衣玖が布団に潜り込んできてその都度忠告していたのだが……。

「まったく効果が無いわね……」

時計を見ると針は朝五時を指しており、まだ起きるには早い。

しかしもう一度寝る気にはならず、窓の外を見る。

 秋の空は晴れ渡っており窓からは品川のデリックが稼動している様子が見える。

もう一度暢気に寝ている衣玖を見ると天子は溜息をつき、足音を立てないようにクローゼットに向かうと寝巻きを脱ぎ下着だけになる。

戸を開けた際に内鏡に映った自分の裸体を見て少し胸を触る。

━━ブラジャー、買ったほうがいいのかしら……。

深くは考えまい、うん。

 お気に入りの服を着、帽子を被ると玄関のほうに向かう、そして外に出る前に一度だけ振り返った。

「行って来ます」

小声で言ったので聞えていなかっただろうが僅かに衣玖が手を動かした。

その様子に少し苦笑すると、天子は戸を開ける。

 僅かに冷たい秋の風が吹いた。

 

***

 

 家を出た天子は教導院に続く階段に座り頬杖をついていた。

朝の空に航空艦のエンジン音が響き一隻の輸送艦が停泊中の武蔵上空を通過して行く。

輸送艦に描かれた紋様を見るに恐らく北条からの交易品を積んだ船だろう。

 駿府での一戦以来浜松に寄港する船は目に見えて減ったが聖連が織田に苦戦している事や徳川が北条との間に不可侵条約を結んだため、少しずつだが浜松は嘗ての賑わいを取り戻している。

今度は先ほどの輸送艦が来た方向とは逆側、伊勢の方から一隻の輸送艦が近づいてくる。

船体には英国所有である事を示す紋様が堂々と刻まれ、浜松に着陸しようとしている。

 英国と武蔵は繋がりが深いらしく英国王女が何故かあの存在感薄いのと付き合っているが詳しい事は知らない。

━━それにしても……暇ねぇ……。

 早く目が覚めてしまったため散歩に出たものの商店街の店は全て閉まっており、道を歩く人も少ないため直ぐに飽きた。

だからここでこうして行き来する輸送艦を見ていたのだがそれも限界だ。

 いい加減帰るかと思い立ち上がると道を誰かが走って来る。

道を走っていた人物は此方に気付くと手を振り近づいてきた。

「あれ? 天子さん、こんな所でどうしたんですか?」

道を走っていた人物━━アデーレ・バルフェットはいつもの制服姿ではなくジャージ姿でその背後にはたくさんの犬がいた。

「ちょっと目が覚めちゃってね、それで散歩中。アンタは?」

「自分は日課のジョギングです」

「その犬どもは?」

と背後の犬を指差すと一匹が吠えた。

「ああ、この子達ですか? 飼ってるわけじゃないんですけど何時もジョギングしてるといつの間にかに増えてるんです」

「犬に好かれるのね」と言いもう一度アデーレの背後にいる犬達を見ると一匹だけ異彩を放っている犬がいることに気付く。

 その犬の体毛は白く美しくどことなく気品を感じさせる。

アデーレは天子が白い犬に見入っている気が付くとその犬を手招きした。

そして近づいて来た犬に抱きつくようにくっ付く。

「天子さんも気になりますか? この子」

「まあ、一匹だけ白いからね」

「この子駿府城での戦い以降に武蔵に迷い込んだらしくて、餌を与えていたら懐かれたんです」

「野良犬に餌やるな」とアデーレを叱るともう一度白い犬を見る。白い顔に黒い瞳、そしてやや短い眉毛、それを的確に表すなら……。

「━━━━間抜け面な犬ね」

犬が抗議するように唸るが、無視する。

「そんなこと言ったら可愛そうですよー」とアデーレは言うと白犬の頭を撫でる。

犬とじゃれあうアデーレを見ていると自然と口元に笑みが浮かんでいた。

 正直言ってこの武蔵の従師は嫌いではない。

人当たりは良いし、礼儀も弁えている。そして何よりも“色々”な意味で肩身の狭い武蔵において数少ない同胞だ。

他にも騎士や白魔女、向井・鈴がいるが騎士は周りの奴等がアレだし魔女はこの前自分と衣玖を“薄い本”とかいう如何わしい本にしようとした為却下。

鈴は、うん、あれだ。あの娘はいろんな意味でマジ大切。

 そんなことを考えているとアデーレが此方を見ている。

「な、なに?」

「いえ、なんだか楽しそうだなーって思って」

「楽しそう?」と聞き返すとアデーレは頷いた。

「ほら、天子さんって最初に会った時は一匹狼というか他を寄せ付けない雰囲気があったじゃないですか。でも最近は自分達打ち解けられたかなーって」

「な」

アデーレの言葉に少し赤くなる。気恥ずかしさから慌てて話題を変えようと白犬を見ると背中に何かが着いている事に気が付いた。

 小さいためよく見えないが虫のようだ。

「ちょっと、その犬。虫が着いているわよ。ちゃんと綺麗にしてやりなさいよ」

と言い虫を摘む、そしてそのまま排水溝に投げ入れた。

「何すんだァァァァァァァァァ!!」

と少年の様な声がどこから聞えてきたが周りに子供はいないし気のせいだろう。

白犬は暫く口をぽかんと開け、排水溝を覗いている。

そんな様子を横目にアデーレは暫く思案すると頷いた。

「この子たち、普段どこにいるか分からないですからねー。今度みんな洗ってあげた方がいいかもしれませんね」

天子は「そうしなさい」と言い、時刻を表す表示枠を見る。今は朝六時十分でそろそろ帰ってもいい頃だろう。

アデーレに別れの言葉を言おうとした、その瞬間「くぅー」という大きな音が鳴った。

 どこから鳴った音かは明白であり、それはつまり自分の腹の虫の音なのだが……。

恥ずかしさから顔を背ける。

 そんな様子にアデーレは笑顔になり「あ、そうだ」と言う。

「今日これから青雷亭。あ、総長の方ですよ。そこでちょっとした打ち合わせがあるんですけど、天子さんも来ませんか? 朝食も兼ねてで」

青雷亭本舗━━あの馬鹿がバイト店長をやっている店だとは聞いているが……。

どうするか決めかねているとアデーレが「総長のパン、美味しいですよー」と言ってくる。

 空腹の身には非常に魅力的な言葉だ。

「一度くらいいいかしらね」と呟くとアデーレの方を見る。

「衣玖も呼ぶけど、いいかしら?」

「Jud.、 大丈夫ですよ」

アデーレの了承を得、衣玖に通神を送る。

そして送信された事を確認すると、腰に手を当てアデーレに尋ねた。

「それで? どこにあるの、その本舗とやらは?」

 

***

 

 暗い空洞が広がっていた。

壁は整えられた石でできており地面には水が張っている。

光源となるのは天井に設置されている巨大な鉄格子から差し込む光のみで、どこか不気味な雰囲気を放っていた。

 その天井を一人の少年が見上げていた。

少年は緑色の笠を被り、肩には葉っぱのようなマントを掛けている。少年は後頭部を摩り、

憤ったように跳ねる。

「チキショーー、何しやがんだ、あのねーちゃん!! オイラの大事な頭にコブが出来ちまったじゃねェか!!」

暫くその調子で跳ねていたが、途中で息が切れ座り込む。

「アマ公はどっかいっちまったみたいだしよォ……。これからどうすっかなァ」

と悩んでいると空洞の奥で何かが蠢いた。

 少年は慌てて立ち上がり、腰に差していた刀を引き抜く。

「な、なんだァ!? 新手の妖怪かァ!?」

その何かは徐々に近づいてきており、その姿をはっきりとさせていった。

それは黒く丸い形をした生き物で、5匹程の集団であった。

「しんいり? しんいり?」

ジワジワと迫ってくる生き物に向かって少年は慌てて剣を振りかざした。

「オイラの事を誰だと思ってやがる! オイラこそ天下に名高き天道太子イッ━━━」

少年が言い終えるよりも早く黒い生き物達が彼を担いだ、そしてそのまま空洞の奥に連れ去って行く。

「何処に連れて行こうってんだァァァァァァァァァ!!」

そう闇の中に少年の声が木霊した。

 

***

 

 朝の浅間神社の境内に二人の人物が対峙していた。

一人は本多・二代でもう一人は着物姿の本多忠勝だ。二人は互いに模擬戦用の槍を持ち構えている。

そんな二人を遠目に立花・宗茂と誾、そして巫女服姿の伊達・成実が見ていた。

 まず動いたのは二代だ。

二代は正面から突撃し、連続で槍を突き出す。

対して忠勝は少しずつ後退しながら体を反らし槍を避ける。そして4度目の突きの際に手に持っていた槍を突き出される槍の先端に当て、弾いた。

二代は槍を弾かれ体勢を崩すが逆にそれを利用して回転力をつける。

忠勝の側面を抜け、背後に回りこむと彼の腰を目掛け槍を叩き込もうとするが突然消えた。

「!!」

槍は空を切る。

 忠勝は回りこまれた瞬間に地面に伏すように姿勢を低くし回避を行っていた。その体勢から立ち上がるのと同時に二代の頭を目掛けて槍を突き出す。

 槍に引っ張られる体を右足を無理やり踏み込むことによって二代は体を止め、仰け反らせる。

そしてその瞬間足払いをされた。

 地面に倒れる二代に隙ほどまで突き出されていた槍が振り下ろされる。

直ぐに槍でそれを受け止めるが地面に叩きつけられる形になり防御が崩れる。

次の瞬間には喉元に槍を突きつけられていた。

 互いに動かず、瞳を合わせる。

忠勝が槍を戻すのと同時に誾が息をついた。

「勝負、ありましたね」

その言葉に宗茂は頷く。彼は神妙に何度も頷き「見事なものです」と呟いた。

成実も肩に張っていた力を抜き、境内の掃除を再開する。

 地面に背をつけている二代は暫く何度か「う~む」と唸っていると跳ね上がるように正座した。

「御教授を」

忠勝も二代に向かい合うように正座する。

「まず二代殿の攻め手、見事で御座った。術式を使ってでの戦いであれば某とて討ち取られていたであろう」

その言葉に二代は頭を下げる。

「しかし拙者は負け申した」

「うむ、二代殿の攻撃は見事。しかし、攻め一方では何れ手の内を読まれる。動作に緩急をつけるのが良かろう」

「緩急に御座るか……」と二代は思案する。

「物事には流れと言うものがある、何時攻め、何時守り、何時逃れるか。これは戦だけではない、政においても大切な事だ」

「喜美殿が言っていた舞に御座るな」

「ほう?」と忠勝が続きを促す。

「舞はその場の流れを読み、その形をどんどん変化させていく。そう、以前教わったで御座る」

「喜美殿と言えば総長の姉君であったな。なるほど、姉弟揃って大したものだ」

とどこか感心したように、嬉しそうに頷いた。

話を終え、二代の手を引き立ち上がると。今度は宗茂が立ち上がった。

「忠勝殿、次は自分の相手をお願いしたい」

忠勝は頷き訓練用の槍を渡す。

槍をしっかり握り締め、構える宗茂を横から見ていた誾は尋ねた。

「宗茂様、楽しそうですね」

「Jud.、 神代の英雄との手合わせともなれば武人として奮いあがらないわけがありませんよ」

そう言って宗茂は足に力を込める。

「では、立花・宗茂。参ります!!」

こうして境内での訓練は昼まで続くのであった。

 

***

 

 青雷亭本舗の食堂にはマルゴットとナルゼ、ミトツダイラに浅間、そして端の席にはアデーレと天子と衣玖が座っていた。

 トーリとホライゾンは奥の厨房で作業を行っておりそれを喜美が楽しそうに見守っていた。

 全員が集まってから暫くして正純が入ってきた。

「みんなすまない、遅れた。お、今日は比那名居たちも一緒か」

「ん、邪魔かしら?」

と天子が尋ねると「そんな事は無い」と笑いながら席に着いた。

するとミトツダイラが手を上げる。

「あの、第一特務と第二特務、あと第六特務は? 書記や会計もいないようですけど」

「ああ、後で話すがクロスユナイトたちは英国からの外交官を向かえるための準備を、キヨナリは出雲・クロスベルから来る遊撃士の出迎え。

ベルトーニたちは昨夜伊勢に向かった、直政は機関部の仕事。で書記だが英国から外交官が来ると聞いて居なくなった」

最後の言葉に皆「あぁ……」と頷き、天子と衣玖がきょとんと顔を見合わせる。

「さて」と正純は姿勢を正すと皆を見た。

「今日の予定だが、今日は少々忙しくなるぞ。午前は英国との会談、そして午後には我々の次の目標が家康公から正式に発表されるだろう」

「次の目標」と言う言葉に皆固唾を呑む。

それはつまり次の戦いが起きるという事であり、世界征服に向けての次の段階に移るということだ。

天子の隣でクッキーを齧っていたアデーレが質問する。

「あのー、もしかして会計が伊勢に行ったのと関係が?」

正純は頷き

「Jud.、 次に我々が向かうのは伊勢、北畠家だ」

北畠━━伊勢を支配する大名で現在の日本では小国ながらその経済力の強さで聖連の支配を撥ね退けた国だ。

「ま、北条と和平結んだ以上。そうなるわよね」

とナルゼが言う。

徳川は駿府での一戦後北条側の提案で和平を結んだ。そのため東側に行く事は出来なくなった。しかし北の甲斐連合は強大であるため、おのずと徳川が次に向かう場所は決まる。

 伊勢を支配できれば徳川の財力は大きく上昇するだろう。

しかしそれは

「徳川は伊勢湾を支配する事になりますね。織田が許すでしょうか?」

と浅間が言う。

「確かに伊勢湾は織田にとっても重要な交易路だからねー。同盟国とはいえ、他国が支配するのは嫌がるでしょ」

とマルゴットが続いた。

それに対して正純は頷き、表示枠を出した。

「その件については織田との協議で伊勢を共同統治することに決まった。伊勢支配による利益に関しても織田は全体の3割で妥協している」

「随分と消極的ね。織田信長と言えば欲しいものは力ずくで手に入れるタイプの人間だと思っていたけど?」

天子がそう言うと正純は表示枠に近畿地方の地図を映した。

「織田は現在六角との国境で聖連率いる連合軍と睨みあ合いを続けている。更に背後には真田と姉小路、織田としてはこれ以上揉め事を増やしたくないんだろう」

と言うと厨房の方からトーリとホライゾン、そして喜美がパンの乗った皿を持って出てきた。

 トーリはテーブルに皿を置きながら正純に質問する。

「でもよー、織田が聖連倒しちまったら伊勢を奪いに来るんじゃね?」

「Jud.、 その可能性は十分にある。だからこそ徳川は迅速に伊勢を征しそれを足がかりに紀伊半島全体を支配する。

国力を増強できれば織田とてそう簡単には手を出せなくなるからな」

「なるほどなー」とトーリは頷くと食堂に居る皆を見る。

テーブルには出来たてのパンが並んでおり、食堂中が甘い匂いで満たされる。

「うし、じゃあ難しい話はこれぐらいにして朝飯にしようぜ━━っと」

「どうした?」

と正純が尋ねるとトーリとホライゾンは厨房に戻り、パン籠を持ってきた。

それには少し焦げたパンが入っておりトーリは籠をテーブルの中央に置く。

「トーリ君? これは?」

浅間の質問にトーリは親指を立て

「オレとホライゾンが焼いたパンだぜ!」

「え?」と二名を除いて硬直する。その様子にトーリは苦笑いしながら

「安心しろよ、オレがなるべく手伝ったから。━━まぁまさか普通の材料から妖怪詰め合わせセットみたいなのが出来るとは思わなかったが」

ホライゾンが得意げに親指を立てる。

いや、誇るところじゃないだろ。

「まぁなんだ、つまりこのパンはオレとホライゾンの共同作業! つまりオレたちの子供って事だな!!」

その言葉にネイトと浅間がピクッと反応する。そしてその様子を天子は不思議そうに見ていた。

 喜美はホライゾンとトーリを抱き寄せると微笑む。

「そうね、愚弟! 二人で朝から共同作業して釜から出したんだから、ハッ、これってエロス、エロスよー!! ねぇ浅間?」

「なんでこっちに振るんですかぁ━━!?」

食堂はあっと言う間に賑やかになる。そんな中天子がふと疑問を口にした。

「なんで釜から子供でエロスなの? それに赤ん坊って、こう、空から降ってくるもんじゃないの?」

その言葉に食堂が凍った。

 

***

 

えーっと……?

 正純は突然の爆弾発言に困り視線を梅組みの皆に移す。

葵姉は“物凄く”楽しそうな笑みを浮かべており、それに張り付いていた浅間は硬直する。ミトツダイラも同じようなもので、双嬢にいたっては恐ろしいものを見たかのように抱き合って固まっている。

 天子も流石におかしいと思ったらしく、困惑する。

「え? え? なに? あんたたちの反応?」

ミトツダイラは深呼吸するとゆっくりと尋ねた。

「あのー、天子? 子供がどうやって出来るのか知ってますの?」

「は? 何言ってんの? 恋人同士が同じ布団で寝ると出来るんでしょ?」

“これはいけない”とミトツダイラが目を見開く、そして此方を見てきた。

その瞳には、教えてやれと書いてあり……。

━━なんで私に振るんだぁ!?

自分を落ち着けるために一度咳をする。

「あー、子供ってのはだな。うん、ナルゼ、頼んだ」

「はぁ!?」

ナルゼが物凄い勢いで睨んでくるが無視する。

皆の注目がナルゼに集まり、彼女は観念したように頭を下げた。

「こ、子供ってのはね、こう男と女が裸になって……」

「裸!?」

と天子が立ち上がる。彼女はハッとすると顔を少し赤らめ「知ってたわよ」と呟いた。

「……で、女のアソコにこう、男のアレを━━━━もがぁっ!?」

突如ナルゼが視界から消える。

「ガ、ガっちゃん!?」

ナルゼはいつの間にかに床に転がっており全身を羽衣で巻かれていた。慌ててマルゴットが駆け寄り解こうとする。

「あ! 地味に鼻と口の部分だけずらしてある!」

そんな二人を横目に衣玖の方を見ると、彼女はゆっくりと飲んでいた紅茶をテーブルに置いた。

そして満面の笑みで

「みなさま、この話はここまでと言うことでいいですね━━ね?」

あまりの迫力に皆頷く。天子だけが「えー」と抗議の声をあげるが睨まれ直ぐに静かになった。

 皆が静かになり、此方を見る。

先ほどから顔が少し引きつったままだが仕方ない。

「よ、よし、とりあえず朝食にしよう」

その言葉に誰もが賛同するのであった。


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