緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第二章・『遠き地の来訪者』 どんどん来るよ (配点:英国)~

「困りましたねぇ……」

と浜松港の航空艦搭乗口を英国の制服を着、眼鏡を掛けた四角い顔の男が落ち着き無く行き来していた。

彼は英国の紋様が刻まれている航空艦の前で止まるともう一度呟いた。

「困りました……」

彼の背後には小さな包みを持ったメイド服を着た銀髪の少女が立っており、彼女はポケットからハンカチを出すと男に渡す。

「汗、掻いてますわよ。これから徳川家康との会談なのですから身形には注意を」

「これは失礼」とハンカチを受け取ると男は額の汗を拭った。

そして溜息をつくとメイドの方を向く。

「もともと外交官は私達二人だけですし、護衛としてきた彼女も問題は起こさないでしょう」

「誰に向かって言ってるか分からない現状説明、ありがとう御座います」

とメイドが頭を下げると、男は大きく口を開いたまま固まった。

メイドは「それにしても」と言うと浜松港から見える武蔵の方を見た。

「あそこに居る人たちは随分とお騒がせのようですね」

「はは、確かに。彼等は英国に引けを取らないほど個性的ですよ━━おや?」

男が武蔵方面の道を見る。

メイドもそちらの方を見ると、極東の制服を着た忍者と英国の服を着た金髪の女性がやって来た。

「まさか、彼女とは」

と男は呟き、頭を下げた。それに続きメイドも頭を下げる。

「お久しぶりです。第一特務、そしてメアリ様」

「メアリって確か……」とメイドが横目で男を見る。

 近くに来た忍者は「ご無沙汰で御座る」とお辞儀をし、先ほどメアリと呼ばれた女性が笑顔で頭を下げた。

「お久しぶりです、ハワード。えっと、そちらは?」

メアリに尋ねられメイドはスカートの端を摘むと丁寧な礼をした。その完成された動きに点蔵はおもわず感嘆の声をあげる。

「お初に目にかかります、十六夜咲夜と申します」

点蔵とメアリもそれに合わせ頭を下げる。そしてハワードの方を見た。

「妹は息災ですか?」

「Tes.、 女王陛下はお変わりありません。ただ、最近は良き友人に出会えたせいか以前にも増してやんちゃに━━いえ、何でもありません」

「友人……ですか?」

「ええ、彼女の名はレミリア・スカーレットと言いまして。

この世界に着て5ヶ月ほど後の事で、スカーレット卿は突然教導院に殴り込みを行い陛下と三日三晩争われたのです。

そうしたらなんというか、いつの間にか意気投合してしまって……」

ハワードの言葉の端はしから苦労している事が読み取れる。咲夜の方も困ったように溜息をついた。

 そんな様子に点蔵とメアリは苦笑する。

「そちらも色々有ったようで。ともあれ岡崎城で家康殿がお待ちで御座る」

「ええ、行きましょう」

点蔵に連れられ、一行は岡崎城に向かうのであった。

 

***

 

「出迎え、ありがとう御座いました」

ハワードと咲夜は点蔵たちに礼の言葉を言うと岡崎城に入っていた。

 正門が閉じられ二人の姿が見えなくなると点蔵とメアリは来た道を引き返す。

「エリザベス殿の話を聞けて良かったで御座るな」

「Jud.、 妹は良い友人を得られたようです」

そう言い、メアリは目を弓にした。

二人が峠に差し掛かったあたりで上空を一隻の飛空挺が通過する。

飛空挺は高度をゆっくりと落としており、恐らく浜松港に向かったのだろう。

「今日は船の数が多いですね。点蔵様」

「今の船は遊撃士協会のもので御座るな」

「見えたのですか?」とメアリに尋ねられ、点蔵は頷く。

 忍者にとって五感は命だ。それ故点蔵は他の人よりも視力には自信がある。

「あっちの方の出迎えはウルキアガ殿たちが担当していた筈で御座るな。

ところでメアリ殿、昼食はどうするで御座るか?」

「そうですね」とメアリは暫く思案すると自分の腕を点蔵の腕に組ませてきた。

━━オパ━━━━━━ッイ!!

「折角ですから岡崎の方で食べませんか?」

デート! デートに御座るな!!

慌てて周りを見る。

よし外道どもはいない。今なら他人の目を気にせずのんびりとデートできる。

これはチャンスで御座るよ!!

そう思い「じゃあそれで」と言うとした瞬間、一枚の黒い羽根が降って来た。

 地面に落ちたそれを拾い上げてみるとその羽根はカラスのものにしては随分と大きい。

「大きな羽根ですね」

興味深げに羽根を見るメアリに羽根を渡すと、空を見る。

 もう遠くなってしまい、ハッキリとは分からないが何かが岡崎城のほうに向かった。

━━デートはおあずけで御座るな……。

「メアリ殿、少々用事が出来たで御座る」

「Jud.、 ではご一緒に」

そう言うと二人は再び岡崎城の方に駆け出した。

 

***

 

「まずは先の駿府での戦いお見事に御座います。こちらはその祝勝品に」

ハワード正座のまま礼をすると隣で正座していた咲夜が包みを前に置き、差し出した。

それを家康の後ろに座っていた小姓が受け取り、上座に座る家康に渡す。

 岡崎城に着いたハワードたちは大広間に通され、そこで家康との会談となった。

家康が包みを解くと中からガラス瓶が現れる。

「ほう? これは?」

「英国の精霊たちによって作られた高級酒に御座います」

家康は「これは有り難い」と満面の笑みで言い、酒を包みに戻し小姓に渡す。

 小姓が奥の扉から退出するのを確認するとハワードは眼鏡を指で押し、姿勢を正す。

「我々英国は今後とも貴国とは良き友人有りたいと思っております」

「ふむ」と家康は表情を僅かに曇らせる。「なにか?」と聞くと家康は静かに頷いた。

「正直なところ貴国の考えを計り知れずにいる」

「徳川様とはこれまで友好的な関係でしたので、これからもそうでありたいと思うのは普通では?」

と咲夜が言う。

「それは嘗ての事であろう。現在我が国は聖連と敵対関係にある。

我が国と関係を持てば英国にとって不利益となるのでは無いか?」

なるほど。とハワードは思う。確かに聖連に近い英国にとって聖連との関係が悪化するのは好ましくない。

 その事は十分に承知だ。しかし、彼が聞きたい事はそんな表面的な事では無いだろ。

もっと裏の、そう英国の真意を。

「そんなことは御座いません。何せ近頃は物騒ですからな“いざ”と言う時に味方は大いに越した事は無い、と言うことです」

「英国の“蓄え”は十分で?」

「Tes.、 大きな“祭り”が出来るぐらいには……」

そう言って二人で笑う。

 咲夜がやれやれといった感じで首を横に振り苦笑する。

「いやはや申し訳ない。話が脱線してしまったな」

「いえ、此方としても英国の現状は知っておいて貰ったほうが何かとやりやすいですし」

「うむ」と頷くと家康は表情を和らげる。

「時にお二人は何時英国に帰られるおつもりで?」

突然の質問にしばし沈黙する。

「……東側の調査を含め4日程滞在しようと考えておりますが」

「帰るのなら今日中か4日以降がいいだろう」

それはつまり━━。

「ああ、今日は新しい“祭り”の宣告をしようと思ってな」

 

***

 

 大広間の天井裏、その狭く暗い空間を一人の少女が這って移動していた。

少女は茶色い髪をツインテールにし、白いブラウスに紫と黒のチェックが入ったミニスカートを履いており、背中には二対の黒い小振りな翼がついている。 

 少女はスカートのポケットから携帯式通神機を取り出すとニタリと笑う。

━━ふふん、簡単に忍び込めたわ。

此処まで来るのに何人もの警備の兵士がいたが、自分にとってそんなものは大したことは無い。

なぜなら━━。

「私の“念写能力”があれば、事前に警備の位置を把握できるしね」

さて、と尖った耳を床に押し当ててみれば会話の声が聞える。ポケットから小型の穴あけ機を取り出すと音を立てないように慎重に作業を行う。

 穴あけ機が床を貫通した感触を得ると取り外し、穴をのぞき見る。

そこから大広間に座る家康と英国の外交官を確認する。

━━あら、あのメイド。

英国の外交官らしきメイドには見覚えがある。彼女は確か自分と同じ幻想郷出身だったはずだ。

「それにしても、よく聞えないわね……」

天井が高いせいか会話がよく聞き取れない。

一度穴から目を離し、胸ポケットを探る。そしてそこから有線式の小型集音機を取り出した。

そしてそれを釣り糸の様に穴から垂らす。

耳にイヤホンを着け、もう一度穴を覗く。

 集音機からは三人の会話が聞え、なにやら“祭り”について話している。

━━“祭り”ってのはなんかの暗喩よね。

英国が企み、そして徳川の次なる“祭り”。つまりそれは━━。

「英国は戦を起こす気で、徳川も4日以内に戦をする気ね!!」

これはスクープだ。この情報を持ち帰れば自分の地位は一気に上がるだろう。

思わず笑みが出る。

「ふふ、文の奴。見てなさいよ、この大戦果でぎゃふんと言わせてやるんだから」

もっと多くの情報が取れないか集中していると足のほうが涼しい事に気付く。

━━む、スカートが引っかかったかしら?

誰もいないとはいえ、下着丸出しは恥ずかしい。乙女として良くない。

スカートを直そうと後ろを見ると、変なのがいた。

 それは帽子を被りマフラーを巻いた男でスカートの端をつまみ、持ち上げていた。

「ふーむ、紫のストライプに御座るか……。結構なご趣味で」

忍者は頷き、親指を上げる。いや、そんな事より……。

へ、へへへ、へへへへへへへ!!

「変態だわぁ━━━━━━━━━━!!」

変態から逃れるため翼を大きくし、叩きつける。

「へ、変態とはなんで御座るか! 変態とは!!」

「あ、あんたの事よっ!!」

立ち上がろうとした瞬間、床が抜けた。

 

***

 

━━いかん!!

目の前で少女が落下した。

有翼人種とはいえ咄嗟の事であり、少女は頭から落ちて行く。

 直ぐに後を追い、飛び出す。

少女の足を掴むとそのまま引き寄せ抱きかかえる。そして空中で半回転をし、足から着地した。

 腕の中で硬直している少女を床に座らせると安心させるべく、肩を軽く叩く。

「よかったで御座るな」

すると少女はハッとし、フルフルと震え始めた。

やはり、怖かったで御座るか。と思っていると少女がキッと此方を睨んだ。

そして真っ赤にした顔で叫ぶ。

「いいわけ、あるかぁ━━━━っ!!」

少女の見事な右ストレートが顔面に入る。

「な、何をするで御座るか!! 大体勝手に忍び込んでいるほうが━━━━」

そこまで言って気がつく。自分達が何処にいるか。

 そこは大広間の中央であり、英国の外交官と家康のちょうど間ぐらいであった。

三人とも驚き固まっている。

━━こ、この状況はいかんで御座るよ!

とにかく何か言おうと声を出す。

「じ━━━━」

事故に御座るとは続かない。

それよりも早く悪寒が来たからだ。

 身の危険を感じ咄嗟に後ろに跳躍しようとした瞬間、首元に鋭い刃を突きつけられた。

それは銀製のナイフであり、いつの間にか自分と少女の間にメイドが立っていた。

━━何時の間に!?

 メイドに動く動作は無かった。まるで瞬間移動のようで━━。

「お動きにならないよう」

メイドは冷たく言い放つ。それは自分に言ったのでは無く彼女の背後で逃げようとしていた少女に対しての物であった。

 少女は四つん這いの状態で固まると顔だけをメイドのほうに向ける。

「ほ、捕虜に人権ってあるわよね……?」

上座に座っていた家康が大きく溜息をついた。

 

***

 

 トゥーサン・ネシンバラの足取りは軽かった。

今朝までは英国から外交官来ると聞いて陰鬱な気分だったのだが英国の外交官の中に“彼女”がいないことを知り、今は書店で情報誌『クロスベル・タイムス』の新刊を買って帰宅する途中だ。

「まあ、流石の彼女もこんな忙しい時期に理由なしに来れるはずが無いか」

半ば言い聞かせえているように思えるが、そこは無視で。

 家の前に着くと違和感を感じた。

今朝出る前に扉に挟んだ本の栞が落ちている。

突然背筋が凍り、周囲を確認する。

「ま、まさか」

ドアノブを回すと開いた。鍵をかけていた筈なのに。

「い、いや。ただの物盗りの仕業かもしれない!」

“ただの物盗り”という時点でどこか間違っているのだが焦りきった彼は気付かない。

玄関に入り、足音を消しながら寝室に近づく。

 寝室の戸は閉まっており中は確認できない。

ノブに伸びた手が止まる。

━━落ち着け! 落ち着くんだ僕!!

深呼吸を三度程してノブを回した。そして、一気に部屋に入る。

「誰だ!?」

しかしそこは外出したときと変わらない間々であった。一気に緊張が解け、肩の力が抜ける。

「そ、そうだよね。いくらなんでも━━」

そう言ってドアを閉めた時、ドアの後ろにいた。

それは眼鏡を掛け、金髪の少女で、それはつまり━━。

「やあ、トゥーサン」

「━━━━━━━━ひぃっ!!」

 

 

***

 

 奥多摩の道路を今川義元は歩いていた。彼は小等部の教材を抱えており、その表情はどこか疲れていた。

━━しかし、教師というのがこんなに大変だったとは……。

 駿府で敗れ、武蔵に臨時講師として招かれて以来手の足りない小等部の教師になったのだがこれがまた思った以上に大変だ。

 最初は奇異の目で近寄ってこなかったと思えば今や“麻呂元”とか変なあだ名で呼ばれている。

━━だいたい“麻呂”ってなんだ“麻呂”って!

世間では自分はそう言う風に認知されているのか……。

あとで確認しなくては。

 それに比べ、自分と同じく小等部の教師になった慧音の手腕は見事だ。

あっという間に自分のクラスを纏めてしまった。

━━俺も頑張らんとな。

そう思っていると、目の前を見覚えがある奴が歩いていた。

まぁ全裸なんて一人ぐらいしかいないが、気になるのは彼が抱えた梯子だ。

あんなもの何に使うんだ?

 興味が沸いたので声を掛けてみる。

「おい、そこの小僧」

声を掛けると全裸はこちらに気がつき、空いた手を振る。

「よお、おっさん」

「おっさんじゃない」と言い近づく。全裸は梯子を地面に置くと武蔵野の方を指す。

「オレ、今からベルさんの所で覗きしようと思っているんだけど、一緒に来ねぇ?」

「お前サラッと凄い事言うなぁ━━━━」

自分はこんなのに負けたのかと思うと少し沈む。

だが覗きとは聞き捨てなら無い。

「坊主、今覗きと言ったか?」

「おう、さっきまで打ち上げやってたんだけど。それ終わったら浅間たちがベルさんところで一っ風呂浴びようって事になったんだ。だから覗きに行こうかなーって」

最初と最後が繋がってない!

しかし、この少年に問わなければいけない事が出来た。

「坊主、貴様にとって覗きとは何だ」

すると全裸はニタリと笑い

「そりゃオメェ、宿命だろ」

気がつけば全裸と熱い握手を交わしていた。

 

***

 

 銭湯“向こう水”には喜美を除いた先ほどまで青雷亭にいた連中が集まっていた。

マルゴットとナルゼに正純、それとアデーレとホライゾンは浴槽に浸かり、天子とそれを挟むように浅間と衣玖、そして浅間の隣にミトツダイラが座り体を流している。

 そんな中先ほどから天子は落ち着き無く自分の左右を見る。

━━で、デカイわね。二人とも。

浅間はともかく衣玖もこんなに大きいとは……。

こんなのに挟まれているとどんどん自己嫌悪に陥る。

 ふとアデーレを見る。彼女の胸は浴槽に浸かっても浮かばず、その光景は自分に安らぎを与える。

「い、いま! 物凄く失礼な目で見てませんでしたか!?」

「気のせいよ」と言っておく。

しかし、デカイ。なぜ同じ性別で此処まで差が出るのか。年齢的には私のほうがずっと上のはずだ。

しかし何だ、この不条理は!!

「あのぉー、天子? 何してるんですか?」

浅間に言われ気がつく。自分が先ほどから浅間の胸を揉んでいる事に。

「こ、これは新ジャンル!?」

とナルゼが表示枠に何かを書き込み始めるが衣玖が石鹸を投げつけ阻止する。

「人体の秘密について考えていたのよ」

「天子、それは考えてはいけないことですのよ」

ミトツダイラの目が遠い。

どうやら彼女も嘗て自分と同じ境地に至ったらしい。

しかし……デカイ。

 やはり男はデカイ方がいいのか?そう思っていると先ほどの事を思い出す。

「ねえ、浅間?」

「なんですか?」と浅間が髪を洗いながら言う。

「さっきの、赤ちゃん云々の事だけど━━━━いや! 創り方は聞かないから!!」

隣の衣玖が物凄い勢いで睨んできたので弁明する。

一つ咳を入れて尋ねた。

「もしかしてだけどさ━━━━あんたとミトツダイラってあの馬鹿が好きなの?」

 

***

 

━━もの凄い暴投球が来ましたわぁ━━━━━━!!

完全に不意打ちだ。智の横で良かった。

 今自分は物凄い顔をしているだろう。智は完全に硬直している。

唯一良かった事はここに喜美がいなかったことだろう。いたら今頃ひどい事になっている。

「えーっとですね。どうしてそう思ったんですか?」

と智が質問する。と言うより時間稼ぎだろう。

「いや、さっき赤ちゃんの話であんた達が反応してたから、もしかしてって思って」

く! 以外に女子力高い!!

 智は完全に困窮したらしく此方に横目を流してくる。

しかたありませんわね。

「て、天子? 確かに私は我が王のことを好いていますのよ」

「おお」とどよめきが起きる。第四特務が物凄い勢いで何か描いているがあとで検閲しよう。

「ですがそれは騎士としての物ですわ」

「そ、そうです! それにトーリ君にはホライゾンがいるじゃないですか! ね! ホライゾン」

ホライゾンは「Jud.」と応え親指を上げた。

「ホライゾンは皆様が望み、トーリ様も望むのであればむしろウェルカムです」

━━退路を断たれましたのよぉ━━━━━━!!

これはいけない、本当にいけない! なんとかしなくては!

そう思っていると智が反撃に転じた。

「て、天子は! 天子はどうなんですか!?」

あまりの迫力にやや引き気味に天子は考える。

「そうねぇ……まず大前提に私の言う事何でも聞く奴ね。あとルックスいいのは当たり前だし、強い奴がいいわ」

「あんた、婚期逃すタイプね」

と第四特務が言う。

「な、なによ。衣玖は、衣玖はどうなの!」

「わ、私ですか?」と突然振られ衣玖は驚く。

「だってあんた前婚活する云々言ってたじゃない。あれどうしたの? 結局失敗? 売れ残り?」

衣玖の笑みがどんどん深まって行く。

そろそろ止めるべきではないかと友人の命を心配する。

「あ、あのぉ。天子? そろそろやめたほうが━━━━」

その瞬間、何かが降って来た。

 

***

 

「しかし、お前よくこんな所知てるなぁ」

と銭湯の屋根裏で義元は言った。

 前を四つん這いで歩く全裸と先ほど友情の契りをした二人は銭湯の裏手に回り梯子をかけて屋根に上った。

そして僅かに開いた穴から入ったのだが。

「んー? 前どこかにいいエロゲーの隠し場所ねぇかなーって探していたらここ見つけたんだよ」

「何してんだお前」と呆れ気味に呟く。

「だがここの番頭はあの向井・鈴だろ? バレているんじゃないか?」

「かもなー」とトーリは笑う。

だ、大丈夫なんだろうか?

 ある程度行くと全裸が止まる。そして床の板をずらす。

「お、いたいた」

「何だと、おい、見せろ」

ここからだとよく見えず前に出る。

「お、おい。おっさんここ脆いから━━━━」

その瞬間床が抜けた。

 二人で浴槽に落ち、水しぶきを上げる。

全裸は先に浴槽から出、ふらついた足つきで歩く。

そして転んだ。転んだ先は青髪の少女の目の前で……。

「な、なぁ!!」

少女の顔がどんどん赤くなって行く。そして立ち上がると華麗に回し蹴りを入れた。

 全裸が回転しながら吹き飛び、出口を突き破る。

天子は体にタオルを巻くとそのまま全裸を追いかけていった。

「待て、この変質者ぁ!!」

この隙にと浴槽から出て、そおっと這っていると誰かの足にぶつかった。

 何時の間にかに自分の前には巫女と騎士が立っており、二人とも満面の笑みだ。

慌てて正座の体勢になる。

「よ、よし。話そう。話せば分かる!」

「智、義元公は今教師ですのよね」

「ええ、身柄は“武蔵の”なので平気ですよ? ミト?」

これは死んだな……。

そう思い、義元は目を閉じた。

 

***

 

「待てって言ってるでしょうがこの変態!!」

銭湯を出た天子は全裸を追い掛け回していた。

 乙女の裸を見るとは言語道断。三回位殺してやる!

そう思って追いかけていたがなかなかに手ごわい。

 全裸は道を知り尽くしているらしく、先ほどから路地に入ったり出たりでなかなか距離を詰められない。

しかしそれもこれで終わりだ。

今走っている道は大通り、横道も無く直線だ。

 立て掛けてあった看板を掴むと思いっきり投げつけた。全裸は看板に足を取られ転ぶ。

ようやく追い詰めた!!

大股で近づいていくと全裸が慌てて振り返った。

「ま、待て! オメェ!」

待つわけが無い。

「自分の格好を見ろ!!」

格好? 格好なんて━━。

そこで気がついた。自分がタオル一枚であることに。

そしてそれは解け始め━━━━地面に落ちた。

「……っ!!」

自分の体を隠すように座り込む。

恥ずかしさで顔が赤くなり、涙が出てきた。

「ま、まて、泣くな! ほ、ほらオレも全裸だし、大丈夫だ!」

「大丈夫なわけあるかぁ!!」

と怒鳴る。全裸は困ったように頭を掻き、タオルを拾う。

それをこちらに渡し、頬を掻く。そして何かを言おうとした瞬間向こうから何かが走ってきた。

それは、銀髪の少女で

「こぉぉぉぉぉぉぉぉんのぉぉぉぉぉぉぉ変質者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

見事にドロップキックを全裸に喰らわした。

 全裸が吹き飛び、近くの商店の壁に埋まる。

少女は目の前に立ち止まると自分の上着を脱ぎ、此方の肩に掛けた。

そして刀を引き抜くと高らかに叫ぶ。

「準遊撃士、魂魄妖夢! 悪を断ちます!!」

 

***

 

━━どうしたものか……。

半殺しにされ宙釣りにされた義元はそう考えていた。

 武蔵の連中は外に出て行った全裸たちを追いかけいなくなってしまった。

先ほどから縄を解こうとしているがなかなか上手くいかない。

 どうにかして動けないものかと体を捻っていると戸が開いた。

「ここの湯はいいぞ━━━━」

戸を開けたのは慧音でその後ろには妹紅もいる。

 無論ここは銭湯。服なんて着てるわけ無く……。

「ふ、今日は厄日だっ!!」

その後暫くの間、銭湯で男の絶叫が木霊した。


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