「話に聞いてはいたけど、でっかいわねー」
と飛空挺の甲板からエステルは言った。眼前には浜松港が見えており、その少し離れたところには武蔵が停泊しているのが見える。
筒井から急な転属で伊勢に寄り、そこで協会本部の飛空挺に拾ってもらった。
しばし空の旅を楽しんで今に至る。
「アレだけの物が浮かぶって言うのは驚きだね」
隣で自分と同じように手すりに寄りかかっているヨシュアが言う。
「僕が知っている限りで最大級の船は“方舟”だったけど、この世界にはそれより巨大なものが多く有る」
まったくだ。この世界では船だけではなくあのパテル・マテルの様な巨大兵器が運用されている。
気候もゼリアム大陸とは大きく違い、最初はなかなか慣れることが出来なかった。
ふと船の左舷側を見れば、遥か遠くに巨大なドーム状の空間がある。
そこはP.A.Odaの領地で、織田は統合争乱後自分の領土をステルス障壁で覆ってしまった。そのため内部がどのようになっているのかは誰も知らない。
一説によれば巨大な軍事要塞になっているとの事だが……。
ヨシュアが此方の視線に気がつき、織田の方を見る。
「織田信長━━第六天魔王といわれているらしいけど……」
もし、その名の通りの人物であったら何時かは対峙するかも知れない。
そう思っていると妖夢が甲板に出てきた。
「お二人とも、そろそろ武蔵に到着します。中に戻ってください」
「武蔵に? 浜松港にじゃなくて?」
そう問われると妖夢は頷いた。
「浜松港は現在英国からの外交官が来ている関係で少々混み合っているため飛空挺を武蔵に直接接舷させるそうです」
━━━━英国。
仕事で何度か行った事はあるが色々とインパクトのある国だった。
「ともかく、ようやく悪の本拠地です!!」
そう妖夢は目を輝かせた。
***
飛空挺の船長に礼を言い、品川に降りると秋の冷たい風が肌を撫でる。
妖夢は先ほどから落ち着き無く行き来している。
彼女はなにか大きな勘違いをしているような気がするが、まあ大丈夫だろう。
降りた地点で暫く待っていると向こうから紅い服を着た黒髪の女性と白い半竜が現れた。
「もしかしてあの人たちが案内人?」
「たぶん」とヨシュアは頷く。
近くに来て二人の異様さに気がつく。女性のほうは両腕と両足が機械であり、何処となく無骨さを感じる。
一方で半竜の方はその白く巨大な体躯が目を引く。
二人は此方の前に止まると頭を下げた。
「武蔵アリアダスト教導院第二特務キヨナリ・ウルキアガだ」
「同じく第二特務補佐伊達・成実よ」
成実の言葉に妖夢が訝しむ。
「伊達成実と言えば伊達家の武将では? 何故徳川に?」
「まあ、色々と事情があったって事よ」
はぐらかされ妖夢は僅かに眉を顰めた。
「エステル」とヨシュアに横から言われ、ハッとなる。
そして一歩前に出ると自己紹介を始めた。
「あたしの名前はエステル・ブライト。正遊撃士よ」
「僕はヨシュア・ブライト。同じく正遊撃士だ」
少し遅れて妖夢が続く。
「魂魄妖夢です。準遊撃士をやってます」
「ふむ、二人ともブライトと言ったか? 兄弟か?」
ウルキアガの言葉に成実が溜息をつく。
「なんだ成実よ。悪いものを食べたか?」
「むしろ察しが悪いものを見たって感じね。二人の雰囲気を見て分からないの?」
そう言われウルキアガはまじまじと此方を見る。
こう観察されると少々恥ずかしい。
暫く観察すると「成程」と言い自分の顎を撫でる。
「さては双子か━━━━待て、成実。何故そんな目でこっちを見る? 何? 違うだと!?」
えーと。
と困りヨシュアを見れば彼も困り顔で笑っていた。
「あたしとヨシュアは兄弟じゃないわ」
「なんと! 夫婦であったか!!」
ふ、夫婦!?
顔が赤くなる。
「はは、夫婦という訳でもないんだ。まあ、そこのところは今度説明するよ」
この男、サラッと流しおる。
なんだか釈然とせず半目でヨシュアを睨んでいるとウルキアガが奥多摩を指差した。
「こんな所で立ち話も何だ、そろそろ行くとしよう」
***
奥多摩に行く途中武蔵の各所を紹介された。これだけの巨大艦があること事態が驚きだがその上で生活しているというのだからますます驚く。
目の前を歩くウルキアガに武蔵の名所と住むに当たって重要な事を教えられているうちに奥多摩に到着していた。
「武蔵に住むに当たって重要な事は重量税に気をつける事だ。協会支部にあまり物を持ち込み過ぎない方が良いだろうな」
「本部からある程度の資金は出るけど税金については支部長とちゃんと話し合っておかないと……」
ヨシュアは先ほどからウルキアガの横に立ち、熱心に話を聞いている。
妖夢は先ほどから一番後ろでなにやら考え込んでいるので話しかけづらい。
そう思っていると横に成実が来た。
「貴女の彼氏、真面目な人ね」
「か、彼氏!?」
「あら、違うの?」と言われ少し困窮する。
「ヨシュアとは何と言うか、家族で兄弟みたいなもので……まあ、そう言われればそうだけど」
最後は恥ずかしさから小声だ。そんな様子に成実は少し楽しそうに言う。
「スケベで、姉好きよりは良いんじゃないかしら?」
ふと思ったがこの二人もそう言う関係なんだろうか?
そう思いさりげなく質問してみた。
「そうよ」
あっさりと言われ驚く。ウルキアガはいつの間にかに振り返っており頷く。
「成実は拙僧の嫁だ」
な、なんと言うか凄いわねー。
ここまでお互いに開き直れたら楽だろうか? 想像してみて色々とカオスな状況が浮かんだので止める。
ふとウルキアガが足を止める。そして此方の「ふむ」と唸った。
「一人足りなくないか?」
「…………え?」
後ろを振り返ればいつの間にか妖夢の姿が消えていた。
***
魂魄妖夢は悩んでいた。
武蔵に来る以前は徳川とは戦を世に撒く国だと思っていた。
しかし実際に着てみると、道行く人々は明るく平和そうでとても悪の国とは思えない。
もしかして自分の思い違いであったのだろうか?
嘗て自分の師匠であり、祖父である魂魄妖忌はこう言った。
「剣客たるもの己の道に迷った時は刀に聞いてみるとよい」
つまり、斬ってから考えろという事だろう。
しかし。
━━流石に武蔵の人々を全て斬るのはただの辻斬りなのでは?
どうしたものかと思い悩みながら道を歩いていると目の前を歩いていたエステルがいなくなっている事に気がつく。
周りを見てもおらず、そもそも自分が何処を歩いていたのかすらも分からない。
まったく。
「どこかに行くのなら、一声掛けて欲しいです」
妖夢はそう溜息をつく。
こういう風にはぐれてしまった場合は動かないほうが良いと以前教わった。
半霊に空から周りを探るように命令すると近くに座れるような場所が無いかと見渡した。すると正面のほうが騒がしくなってきたて、人ごみが出来ている。
━━祭りかしら?
人ごみを掻き分け中心に向かえばそこには服を着ておらず、座り込んでいる少女がいる。
「ち、痴女!?」
しかし痴女にしては様子が変だ。ふと視線を横に移せば慌てふためく全裸がいた。
「ぜ、全裸!?」
異常な光景に頭が混乱するが、落ち着かせ状況を整理する。
顔を真っ赤にし涙ぐむ裸の少女に、全裸の男。
これらが示す事は……。
━━あの男は変質者で、あの少女は被害者!!
何と言うことだ白昼堂々と犯行に及ぶとは。もう一度周りを確認するがエステルたちはいない。
ならば自分がどうにかしなくては!
そう思うと同時に駆けていた。そして足に力を入れると全裸の脇腹目掛けて渾身のドロップキックを放つ。
「こぉぉぉぉぉぉぉぉんのぉぉぉぉぉぉぉ変質者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全裸が吹き飛び近くの商店の壁に埋まる事を確認すると上着を脱ぎ、少女の肩に掛ける。
━━あれ? この人見覚えあるような……?
ともあれまずはあの変質者だ。
背中に背負っている楼観剣を引き抜く。そして高らかに宣言した。
「準遊撃士、魂魄妖夢! 悪を断ちます!!」
***
宣言を終え、先ほど全裸が吹き飛んだ方を見れば壁の穴から無傷で現れた。
━━あれで無傷とは!!
「オ、オメェ! いきなり何すんだ!!」
「黙りなさいこの変質者が! 白昼堂々女性を襲うとは何と言う極悪非道! さっきまでは“もしかしていい国なのでは?”とか思っていましたが撤回します!!」
「は? 襲う?」と全裸が眉を顰める。
「いやいや、さっき追われてたのはオレだし。まあ、悪いのは俺だったけど。さっきは悪かった」
そう言って全裸は少女に頭を下げる。
少女は暫くの間不機嫌顔で黙っていたが、溜息をつく。
「とりあえず五回ほど殴るから、それと当分奢りなさい」
全裸が頭を掻き笑う。
━━あれ? なんか私必要ありません?
しかし今覗きと言ったかこの男。もしかしたら覗きの常習犯なのかもしれない。
よし、とりあえず。
「斬りましょう」
「は? いやいや、オメエさっきまでの話聞いてたか!?」
「はい。でもとりあえず斬ってから考える事にしました」
そう言うと腰を低くし掛けだす。とりあえず峰打ちだ。
慌てて避けようとするが遅い。
既に刀は放たれており止める事は出来ない。
そう思った瞬間、全裸と刀の間に何がが降って来た。
「!!」
何かに刀は弾かれる。直ぐに体勢を立て直し後ろへ跳躍すると、それを確認する。
それは銀で出来た鎖であった。
「我が王!」
全裸の背後から何人かの極東の制服を着た女子生徒たちが走って来る。
銀の大ボリュームの髪を持つ少女が全裸の前に立つと此方を睨んだ。
「何者ですの!」
名を聞かれたのなら名乗らなくては。
「遊撃士協会所属、準遊撃士。魂魄妖夢です。そちらは?」
「遊撃士」と銀髪の少女は目を丸くすると構えを解いた。
「武蔵アリアダスト教導院第五特務、ネイト・ミトツダイラ。何か誤解が生じているようですので話し合いを求めますわ」
第五特務!?
特務といえば教導院の中でも実力者の集まりだ。なぜそのような人物が変質者を庇うのか?
それにさっき王って……。
「道を歩いていたところそこの男が全裸で少女に詰め寄っていたため抜刀いたしました」
「トーリ君? ちょっとお話が」と黒髪の少女が全裸を正座させる。
自動人形の少女が縄で全裸を撒き始めたが何なんだろうか?
「何故、武蔵の総長連合が変質者を庇うのですか?」
そう質問すると第五特務が「えーっと」と困ったような表情をする。
もしや言えない様な事情があるのだろうか?
実はこの全裸を放置していたのは背後にもっと大きな犯罪組織があってそれを調べるためとか?
もしそうなら自分はとんでもない事をしてしまったかもしれない。
そう思っているとネイトが小声で言った。
「……総長ですの」
総長? なぜここで武蔵の総長の名が?
「ですから、そこの全裸は私達の総長ですの」
「━━━━━━━━は?」
何を言っているんだ? この人は。
いくらなんでも総長が全裸なんてことは……。
第五特務の背後にいる生徒たちを見れば誰もが目を逸らす。
「マジで?」
「マジですわ」
暫しの沈黙。
「いやいや、いくらなんでも国のトップが裸は無いでしょう」
「あら、彼の六護式仏蘭西の太陽王も全裸ですのよ」
「…………そんな馬鹿な」
***
「おや? 今誰かが朕の噂をしたかい? ん? どうしたアルマン? “何故分かるのか”かい? そんなの簡単さ、風が教えてくれる。
やあ、輝元。 なんだい? “なんで天守の上に立ってるのか?”だって? それはこの国を見渡すためさ。こうやって高いところから見渡す事によって朕は朕の国の太陽となるのだよ。
え? 大爺殿が呼んでいる? そう言うことなら降りるとしよう」
***
━━どうしたものか……。
あの武蔵の特務が言っている事は嘘ではなさそうだ。
しかし、仮に総長であっても覗きで婦女子を泣かした男を放置してよいのだろうか?
嘗て困ったときは初心に帰れ、と師匠に言われた。
初心━━やはり先ほどの言葉が思い出される。
刀に聞く。
「事情は分かりました……」
その言葉にネイトが緊張を解く。
「とりあえず斬ります」
「「なんでだよ!!」」と武蔵の生徒たちから一斉に突っ込みを受ける。
「今回の件、私には判断がつきません。故に刃を交えてその先にある本質で判断したいと思います」
第五特務が少し困った表情をしていると上半身に男子の制服を着た黒髪の女子生徒が前に出る。
「武蔵アリアダスト教導院副会長、本多・正純だ。その提案を受けたい」
***
━━正純!?
驚き正純の方を見ると表示枠が開く。
・● 画:『最近戦争無いからってついに遊撃士に宣戦布告したか!?』
・金マル:『あー確かに、最近平和すぎてセージュン、この世の終わりのような顔してたしねー』
・副会長:『待てお前ら! 私を戦争中毒者みたいにするな!』
・● 画:『え? 違うの?』
・副会長:『いや、確かに最近暇だなーとか思っていたが……』
・銀 狼:『それよりも、どうするおつもりですの?』
・副会長:『ああ、これなら誤解を解きかつ遊撃士の実力を測る事ができる。
さらに結果次第によっては遊撃士協会との良い交渉カードになるだろう』
成程、そう言うことなら納得がいく。それに決闘を申し込まれたのだ、騎士としてこれを受けないわけには行かない。
表示枠を閉じ、正面の妖夢を見る。
「Jud.、 その決闘、受け入れますわ」
正純が頷き、妖夢の方を向くと手を掲げる。
「相対するにあたって、ルールを決めておきたい。
まず民間人を巻き込むのは禁止する、また必要以上の公共物の破損も禁じる。
それでいいか?」
「構いません」と妖夢が頷き、こちらも正純の言葉に頷く。
「よし、ではこれより武蔵アリアダスト第五特務ネイト・ミトツダイラと準遊撃士魂妖夢による相対戦を始める! 両者、始めっ!!」
***
正純の声とともにネイトは後ろに跳躍した。
敵の獲物はあの二本の刀であろう。
手の内が分からないうちは攻めづらい。
妖夢は刀をゆっくりと腰元に落すと宣言した。
「我が刃に切れぬものはあんまりない!!」
「“あんまり”かよ」と外野が呟く。牽制のため銀鎖を放とうかとした瞬間、妖夢の姿が消えた。
「!!」
否、消えたのではない。身を低くし、瞬間的に跳躍したのだ。
━━早い!!
驚くべきはその瞬発力だ。たった一度の跳躍であっという間に距離を詰めてきた。
放たれるのは横なぎの一閃。
避ける時間は無い。ならばと逆に体を前に出した。
敵の刀を持つ手を掴み、相手の速度を利用して背後に投げ飛ばす。
そしてその際に蹴りを叩き込んだ。
━━マサとの訓練の成果ですわ!
しかし妖夢は咄嗟に腕で蹴りを受け、その衝撃を利用して大きく跳躍した。
地面に着地するのと同時にもう一度刀を構える。
「今のは合気道ですか?」
「Jud.、 かなりアレンジが入っていますけど」
妖夢は再び腰を落す。今度こそ牽制の為に銀鎖を一本放つとそれを潜り抜けるように再び跳躍する。
だがこれは予想済みだ。時間差でもう一本の銀鎖を横なぎに叩き込む。
これをも姿勢をさらに低くし回避するが、相手の軌道は直線的だ。
一歩踏み込み拳を放つ。
拳は妖夢の顔面を捉え……無い!?
妖夢は自分の前で急停止をし、跳躍した。頭上を飛び越え、背後を取られる。
「銀鎖!!」
最初に放っていた銀鎖で商店の柱を掴み、自分を引っ張る。
その直後、刃が空を斬った。
危なかった。あと僅か遅ければ今頃両断されていただろう。
次の攻撃に備え、振り替えると驚愕した。
なんと妖夢が二人に増えていたのだ。
━━どういうことですの!?
「魂符「幽明の苦輪」。半人半霊である私は半霊を分身として扱う事が出来ます」
半人半霊。人間と霊体系種族の間に出来る種族と言うが、実物を見るのは初めてだ。
しかし半人半霊の証拠たる半霊を自分は見なかったが。
「空に浮かばしておきました。いざというときに備えて」
そう言い、妖夢が構えると分身もそれに続く。
「では、参ります!!」
二人の妖夢が駆け出した。
***
・金マル:『もしかしてミトっつぁん押されてない?』
確かに先ほどからミトは防戦一方だ。最初は速度を生かした一撃離脱戦法を主体にした剣士かと思っていたが、どうやら分身を利用したこの戦い方こそが彼女の本来の戦い方のようだ。
━━ミト、どちらかというとパワータイプですからね。
テクニカルタイプ相手は相性が悪いのだろう。
・あさま:『それにしてもウルキアガ君たちは何処に行ったんでしょうか?』
・貧従士:『あ、それでしたらこっちに向かってるそうです』
だったらこの相対直ぐに終わるかもしれませんねー。
と思っていると着替えに行った天子たちが戻ってきた。
天子は一度立ち止まると深呼吸をし、スタートダッシュの構えを取る。そして全力で駆け出し、跳んだ。
そして綺麗なフォームで膝蹴りを繰り出し、縄で縛られた全裸の顔面に当てた。膝蹴りを入れられた全裸は回転しながら吹き飛ぶがホライゾンが縄を引き、全裸が元いた位置に叩きつけられる。
・天人様:『ふう! スッキリした!!』
・ホラ子:『お見事です天子様』
・天人様:『当然よ。あ、あと四回ね』
・礼賛者:『小生思いますにミトツダイラ君の応援をしてあげるべきでは?』
・あさま:『あれ、みんな見てるんですか?』
・いんび:『はは、ちょっとしたイベントだからね! みんな表示枠に釘付けさ!』
・粘着王:『我輩も体を揺らして応援しているぞ!』
うちってイベント好きですよねー。と今さら思う。
ふと視線を野次馬の方に移すと半竜たちが駆け寄ってきていた。
***
「ちょ、ちょっとなんで戦ってんのよ!」
エステルはそう言い、慌てて人ごみに入ろうとする。しかしそれを半竜が制した。
「どうやら正式な相対戦のようだ。今拙僧たちが割り入っても良い結果にはなるまい」
半竜にそう言われエステルは困ったように立ち止まる。そしてこっちに視線を送ってきた。
正式な相対戦である以上、自分達が口を挟む事ではないだろう。
ただどうしてこうなったのかが気になるが。
「まあ、どうせ正純の奴が戦争できないストレスから相対戦を持ちかけたのであろうな」
そんなことで!?と驚き成実の方を見れば、成実は「何時もの事よ」と肩を竦めた。
どうやら思った以上に凄いところらしい、武蔵は。
「ともあれ」という半竜の声に視線が前に戻る。
「暫くはこのレアイベントを楽しむとしよう」
***
━━隙がありませんわ!!
妖夢の攻撃は熾烈であった。互いの隙を補うように攻撃は繰り出され、さきほどから自分はかわしたり、弾いたりするので手一杯だ。
とにかくあの連携を崩さなければどうにもならない。
顔を狙った刺突が来る。顔を逸らし、避ければ分身が腰を狙った横なぎを行う。
直ぐに腕に右手に銀鎖を巻き、刃を受け止めるとそのまま力任せに押し出した。
分身の体勢が崩たところを突きたいがそうは行かない。
既に本体のほうが構えており、下手に前に出れば切りつけられるだろう。
左の銀鎖で再び商店の柱を掴むと一気に距離を取る。
妖夢たちは既に追う体勢を取っておりこのままではジリ貧だ。
そう思うと同時に近くの看板を掴み投げつける。
「必要な損害ですのよ!」
妖夢はそれを切り払う。
他には! と手を伸ばし掴んだ。そしてそれを先ほどと同じように投げつける。
「あ」とホライゾンが声をあげる。
何事かと思い、投げたものを確認するとそれは全裸の王であった。
━━やってしまいましたのよぉ━━━━!!
直ぐにホライゾンに縄で引っ張れと目で合図する。するとホライゾンは頷き手を離す。
な、何故!?
「いえ、ミトツダイラ様が囮としてトーリ様を投げたのではと思い。これは直ぐに加勢しなければと手を離しました。ホライゾン、ナイスプレイです」
ガッツポーズをとるホライゾンを無視し、宙を飛ぶ全裸を見る。銀鎖で回収するのは間に合わない。
下手をしたら王が斬られるかもしれない! と戦慄すると、妖夢の動きが止まっている事に気がつく。
どうやら突然全裸が飛来した事に驚愕しているらしく立ち止まっていた。そしてそれが致命傷となる。
全裸は妖夢目掛けて一直線で、ちょうど股間が彼女の頭の位置にある。そして見事クリーンヒットする。
誰もが沈黙する。
そして妖夢がひっくり返った。
***
妖夢は大の字でひっくり返りその顔の上に全裸の尻が乗るというなんとも悲惨な状況となっている。
いつの間にかに分身は消えており、色々な意味で主を心配しているようだ。
━━えーっと?
これは勝ったということで良いのだろうか?
ふと全裸がこっちを向く。
「じ、事故だ! な、な、ネイト!」
「え、ええ! 事故、事故ですのよ!」
とりあえず王を銀鎖で回収し、横に置く。
・● 画:『うわぁ……これは一生もんだわ』
・天人様:『いるのよねー、どう頑張っても最後はネタになる奴って』
助け起こしたほうが良いのだろうかと思っていると、妖夢が立ち上がった。
表情は消え、幽霊のようにフラフラと歩く。
「だ、大丈夫ですの?」
心からの心配。
妖夢は暫く立ち尽くしていると突然肩を振るわせ始めた。
そして怒りやら絶望やら悲しみやらが入り混じった顔で刀を振り上げた。
「も、もももも、もうルールとかどうでもいいです! 全部斬りますっ!!」
妖夢の叫びとともに刀に流体光が灯って行く。
なんだか知らないがアレはマズイ。そう本能で危険を察知すると、全裸を後ろに投げ飛ばし駆け出した。
「迷津慈航━━━━」
「銀鎖!!」
互いにぶつかる瞬間、蝶が舞った。
二人は動きを止める。いつの間にかに二人の間には一人の女性が立っていた。
女性は桃色の髪に、青い着物を着てその両手に持つ扇子を妖夢と此方の首に突きつけていた。
そして此方を見ると笑顔でウィンクをした。
「はい、そこまで」
そう言うと、胸元から団子を取り出し食べ始めるのであった。