緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第七章・『天の頂にて待つ者たち』 止まる気は無い (配点:五大頂)~

 日本のほぼ中心にある近江国。

 その美濃国との国境の平野に二つの軍勢が集結していた。

 一つは黒い航空艦隊を浮かばせ、丘の上に布陣する軍団で黄色い布地に永楽通宝が描かれており黒い装甲服を着た集団だ。

 もう一つは様々な旗が立ち並び、黒い軍団を圧倒する兵数で布陣している。

 黒い軍団の左翼。

 比較的軽装を装備した部隊の中に浅黒い肌を持ち総髪に流した男性が対面する軍を気だるげに見ていた。

「うじゃうじゃと群れやがって」

 そう忌々しげに言うと「それだけ僕達が怖いって事だろうね」と後ろから声を掛けられた。

 振り返るとM.H.R.R.の制服を着たやや長髪の男性が手を振りながら近寄って来る。

 彼には足が無く、霊体系種族であることが分かる。その肩には女性型の走狗を浮かばせている。

「トシ、お前右翼担当だろう? いいのかこんなとこに居て?」

「平気だよナっちゃん。僕が相対してるのは朝倉さん所だからね。どうやら自分から動く気は無いみたい」

「あいつらはヤル気みたいだがな」

と浅黒い肌の男性━━佐々・成政は前方を指差す。

 前方には六角氏を示す旗が立ち並び、最前列では機動殻隊が集結していた。

「高機動型の機動殻だね。六角家は聖連と繋がりが深いから結構な装備を持ってるみたいだ」

「ち、めんどくせぇ」と成政が舌打ちすると幽霊の男性━━前田・利家は苦笑した。

「まあ、僕達はいい方さ。柴田先輩の方は大盛況って感じだね」

 中央の方を見れば、浅井家を中心に聖連の部隊が集結しておりその戦力は他の場所に比べ圧倒的だ。

「柴田先輩、緒戦でやりたい放題だったから完全にマークされてるね」

 岐阜を落して以来、聖連とは何回か小競り合いがあった。

その時に柴田・勝家はたった一部隊で聖連の部隊を何度も撃退したため、警戒されている。

「あっちにはあの立花宗茂がいるらしいよ? 襲名者じゃ無い方のね」

「まあ、柴田先輩なら負けねーだろ」

 成政がそういった瞬間、表示枠が開いた。

そこには鬼族の男性の顔がドアップで映し出される。

『んー? 呼んだかぁー? ナルナルぅくーん? いまさらびびったかなぁー? ビビッタのかなぁぁぁぁ?』

「ウゼェ……」と半目で言う。

「柴田先輩そっちはどうですか?」

『あ? 絶好調だ! さっきもお市様の特性弁当喰っててこれがまた腕を上げててだなぁ!』

 「惚気話は後にしてください。ウザいんで」

『あぁ!? テメェお市さまの話が聞きたくねぇだと!? ああ、そっかぁ! ナルナルくん彼女いねぇからなぁー! ざまぁぁぁぁぁぁ!!』

 成政は額に青筋を浮かばせ、表示枠を叩き割った。

 隣の利家が「まあまあ」と宥めると上空を黒の航空艦が通過する。

航空艦は船体を敵艦隊に対して横にすると整列して行く。

「鉄鋼船を壁にすんのか?」

「Shaja.、 船の数も相手が上だ。だから防御力の高い鉄鋼船を前面に配置して、その間に他の艦を配置する。これなら被害を最小限に抑えられるからね」

 整列して行く鉄鋼船を数えていると4隻足りない事に気がつく。

「おい、なんか足んねーぞ」

「彼女の策だよ。残りの4隻で勝負を決するらしい」

 「彼女」と聞き成政は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「ナっちゃん相変わらず彼女が苦手だね」

「どうにもあいつはいけ好かねぇ」

 最後の一隻が配置につくと同時に陸上部隊も配置を終える。

それを確認すると利家は表示枠を開き、自分の部隊に命令を出す。

「さて、そろそろだろうし僕は右翼にもど━━━━」

 突如頭上で爆発が起きる。

 正面の聖連艦隊が一斉砲撃を始めたのだ。

 鉄鋼船は障壁を展開し、後方の艦を守る。

 後方の艦は鉄鋼船が敵の攻撃を受け止める間に、砲撃を開始した。

「正面!! 機動殻隊が来るぞ!!」

 誰かの叫びで前を見れば六角家の機動殻隊が横一列になって突撃を開始していた。

「トシ、行って来るわ」

 「頑張ってねー」と手を振る利家に苦笑しながら丘を駆け下りる。

それに合わせ部下達も突撃を開始した。

 正面の機動殻隊は槍を構え、その速度を上げる。

 勢いに任せて此方を引き潰そうという魂胆だろう。

「雑魚が!」

 此方の戦力を計らない無謀な突撃、その司令官に腹立ちながら、またこんなくだらない戦をする自分に腹立ちながら拳を構えた。

 拳に百合の紋様が浮かぶ。

跳躍を行い前面の機動殻を狙う。

「咲け! 百合花ァ!!」

 直後、機動殻が砕け散った。

 

***

 

 自分の部隊に戻った前田・利家は表示枠から左翼の様子を見ていた。

 先制で突撃を仕掛けた機動殻隊は成政の強烈なカウンターを受け、あっと言う間にその陣形を崩した。

 現在は落ちついた左翼の部隊と六角の後続隊が交戦を始め、乱戦状態となっている。

 集団の中で光が生じ六角家の機動殻が砕かれながら吹き飛ぶ。

「ナっちゃんノリノリだねー」

と隣のまつに言うとまつも『ねー』と頷いた。

「利家様、そろそろ」

「ああ、うん。分かっているよ」

 護衛の兵士に言われ正面を見れば朝倉家の第一陣が迫ってきていた。

 左翼の不利を知り、その援護のために一番手薄な右翼を突こうという事だろう。

判断は間違っていない。

 M.H.R.R.から来た援軍として来た自分の部隊は織田家の中では最も兵力が少ない。

しかしそれは羽柴から送れた兵士が少ない訳ではない。寧ろ必要が無いからだ。

 何故ならば。

「じゃあとりあえず十万から行ってみようか」

 背中に負っていた袋から金貨を取り出し術式の触媒とし、術式を展開する。

 いつの間にか迫ってきていた朝倉軍の周辺に10万の動白骨たちが現れ、取り囲む。

「どうだい? 僕の“加賀百万G”は……」

「……ぷ」

 後ろを振り向くと護衛の兵士が顔を背けた。

「…………とにかく、これで朝倉を引き付ける事には成功したね。後は柴田先輩かな?」

 そう言いここからは見えない中央の方を見た。

 

***

 

「やれやれ、苦戦しているな」

 中央で柴田隊と戦う浅井家の軍団の後方に赤い制服を身に纏った軍団がいた。

 その中で双眼鏡を持ち、前線の様子を伺う青年が居た。

 彼の腰には青い刀が下げられており、その刀身を光らせている。

「足並みが揃わなくては勝てるものも勝てない。そうですね宗茂様?」

 声を掛けられ振り返れば薙刀を持った女性が立っている。

「協力しろと言う方が無理だろう。六角と浅井・朝倉の関係は悪い。そんな彼らに連携なんて取れるはずが無いさ」

「その為の私たち三征西班牙では?」

「はは、そんな面倒御免こうむる」

 はあ、と女性が溜息をつくと半目で宗茂を見る。

「それで? いつまでここに居るおつもりで?」

「獲物を獲るなら大物がいい。中央を見てみたまえ誾千代。怖い鬼が居るぞ」

 双眼鏡を渡され中央を見れば鬼が浅井の兵達を吹き飛ばしている所であった。

「随分と暴れまわっているようで」

「ああ、なかなかいい風を纏っている」

 「風ですか?」と聞かれ頷く。

「あれは暴風だ。放って置けば戦場全てを飲み込むだろう。故に━━」

 刀の柄を触る。

「故に征しがいもあるだろう」

 「やれやれ」と誾千代は肩を竦めると双眼鏡を自分の腰に提げた。

「では私はここで観戦すると致しましょう」

「おや? 一緒に来てはくれないのかい?」

「ご冗談を、あんなところに飛び込むのは馬鹿だけです。そして私の夫は飛びぬけた馬鹿だと存じていますが?」

 口元に笑みが浮かぶ。

全く大した女性だ。流石は我が妻とも思う。

「では、鬼退治に行って来るとしよう」

「行ってらっしゃいませ」と誾千代が頭を下げるのを見ると駆け出す。

 術式を展開し、加速器を召喚する。

 そして草原を蒼い雷光が駆けた。

 

***

 

 戦場の中央にいる誰もが信じられない光景を目の当たりにしていた。

敵の数十倍いた兵士はいつの間にか半分に減っており、その大半がたった一人の男によって倒されていた。

 男の周りには無数の兵士達が横たわり、男はその中央で退屈そうな表情を浮かべている。

「はぁ……いくらなんでもオマエ達弱すぎだろうが」

 化け物だ。

 この男は正真正銘の化け物だ。

 あっと言う間に自分の部隊も自分を残し全滅した。

槍を持つ手が震え、足は今にも逃げ出しそうになる。

 男は冷めたように此方を見ると、大きく溜息をつく。

「びびってんじゃねぇかよ。さっさっと消えな雑魚」

「き、貴様ぁー!!」

 槍を突き出し突撃する。

 渾身の突き。

しかしそれは男には届かなかった。

 男は此方の槍を掴んでおり、微動だにしない。

体中から血の気が引く。

「……消えな」

 男の手に持っていた槍が突き出される。

 覚悟を決め目を閉じるが、槍は自分の体を貫くことは無かった。

どういうことだ? と目を開けると、自分と男の間に青年が割り入っていた。

 青年は青い刀で男の槍を受け止め、此方の肩を掴む。

「下がっていたまえ」

 そういわれた瞬間。後方に投げ飛ばされた。

 

***

 

「テメェ……」

 目の前にいる男に柴田・勝家は僅かに驚いていた。

 この男が自分の前に現れたのは一瞬の事で、気を抜いていたとはいえ感知できなかった。

 左手で殴りつけるが、男はそれを軽く避け後方へ跳躍する。

そして不適に笑うと刀を構えた。

「P.A.Oda五大頂、六天魔軍が一人柴田・勝家殿とお見受けする」

「一応名前を聞いてやる。覚えるかどうかは知らねぇがな」

「嫌でも覚えてもらうさ。俺の名前は立花宗茂。一応西国無双という事らしい」

 ほう。と内心唸る。

 襲名者の方の西国無双とはやりあった事がある。

だが目の前にいる男は襲名者では無く、神代の英雄だ。

「三征西班牙が送ってきたのは航空艦隊だけだと思っていたがな」

「まあ、始めはそうだったんだが俺が無理やり同行した。五大頂の内一人でも今後楽が出来るだろうしな」

「おもしれぇ。ヤれるもんならヤってみやがれ!」

 「そのつもりだ」と言うと宗茂は術式を展開する。

そして体を屈ませると一気に加速した。

 宗茂は体に雷光を纏わせ、此方の懐に飛び込む。

「お?」

 高速の突き。狙われたのは右脇だ。

 腕を上げ、刃を避ける。

 宗茂は突きが外れると、直ぐに体を回転させ今度は左脇腹に斬撃を叩き込む。

「おお!?」

 手に持つ瓶割の柄で刀を弾き、石突で顎を狙う。

 それに対し宗茂は身を反らし、顎を上げると石突を避けた。

そしてそのままサマーソルトを逆に喰らわす。

「おおお!!」

 ダメージこそ無いものの蹴りを入れられたことには驚いた。

「しゃらくせぇ!!」

 後方へ跳躍しようとする宗茂に突きを入れるが宗茂は加速術式を緊急展開し、逆に飛び込んできた。

 寸前のところで槍をかわし、此方の背後に回りこむ。

 そして首を狙って横薙ぎの一撃を入れる。

「!!」

 咄嗟に左肩に力を入れ、肩と首の力で刃を受け止める。

そのまま回転しながら瓶割を叩き込もうとした瞬間、刀の刀身が展開される。

「━━爆ぜろ、雷切!」

 刀身から稲妻が生じ、光が爆ぜた。

 

***

 

 勝家に一撃を叩き込んだ直後、後方へと一気に跳躍する。

 今の一撃が効かなかったとは思わないが、あれで倒せたとも思えない。

 極限まで圧縮された雷撃による爆煙が晴れてくると鬼の頭部が見えて来る。

「━━やれやれ、今ので倒れてくれないと自信が無くなるんだがね……」

 鬼は立っていた。

 目だった負傷は無く、頬に若干こげ痕をつけたぐらいだ。

 勝家は此方を見るとニタリと口元に笑みを浮かべた。

「“惜しかったな”なんていわねぇぞ。実際テメェはしくじったんだからな」

 全くだ。と頷く。

 加速術式用の内燃排気はまだ余裕がある。

しかし雷切は先ほどの一発でかなり消耗した。

 さっきの技はあと一回が限度だろう。

「一つ聞くぞ。何で加速術式を選んだ?」

「俺の襲名者が加速術の使い手だと知ってね。ちょっとした対抗心さ」

 くく。と勝家は愉快そうに笑う。

そして目を細めると武器を構えた。

「テメェの目的は分かっている。味方が後退するまでの時間稼ぎだろ?」

「分かっているなら付き合ってもらうか?」

 勝家は「は」と笑う。

「嫌だね! テメェは死ね!!」

 来るか!

 雷切を構え、加速術式を展開する。

「かかれ! 瓶割!!」

 宗茂の周囲が一気に破砕された。

 

***

 

「戦況はあまり良くないか……」

 聖連艦隊の旗艦、ヨルムンガンド級戦艦“岡豊”。

その艦橋で長宗我部元親は中央に表示される戦況図を見て唸る。

 数では圧倒していた連合軍だが個々の軍の連携が取れておらず、結果として各個撃破されている状況だ。

 中央の浅井の軍が持ちこたえているおかげで総崩れにはなっていないがこのままでは時間の問題だろう。

 地上軍が総崩れになる前に織田艦隊を潰さなければ……。

「艦隊を前進させ、攻撃密度を上げる! 損傷した艦は後方に下がり、援護をするようにしろ!」

「Tes.!!」

 鉄鋼船の防御性能は驚異であるが此方は物量で攻撃を仕掛け、少しずつ相手を削る。

その結果鉄鋼船は装甲が砕かれ始め、中には黒煙を出している物もある。

 このまま攻撃を続け、鉄鋼船の壁を崩せば此方の勝ちだ。

 空を抑えれれば織田の地上軍を一方的に砲撃できる。

「二番艦前進を開始。援護のため三征西班牙の武神隊が出ました」

 うむ。と頷き、前進する二番艦を確認すると織田艦隊閃光が生じた。

 閃光は二番艦の装甲を砕き、薙ぎ払って行く。

「大火力の流体砲撃か!? 敵の位置を確認しろ!」

 正面の大型表示枠に最大望遠で敵が映し出される。

「人だと!!」

 そこには緑色の髪を持ち、背中から植物状の翼を生やした女性が映っていた。

 

***

 

脆い船ねぇ……。

 横薙ぎに装甲を砕かれ、墜落して行く船を見ながら風見幽香はそう思った。

 正面を見れば、前進しようとしていた聖連艦隊は此方を警戒し動きを止める。

「あら? 来ないのかしら?」

 自分が受けた指示は寄ってくる敵の撃破だ。

その為此方から攻撃する必要は無い。

 楽な作戦なので不満は無いが、不服はある。

「……あいつの指示ってのが気に喰わないわね」

『楽な事はいい事ですよ? 幽香様』

 表示枠が開き、金髪に帽子を被り、赤い服を着た少女が映る。

『幽香様だって仰っていたじゃないですか。面倒な事はしたくないと。

今朝もなかなか起きてくれませんでしたし』

「それはいつもの事でしょう、エリー? 

ところでそっちの様子はどうかしら? 鉄鋼船、結構損害有るみたいだけど?」

『はい、割とヤバめです。今も私の重力制御で予備装甲動かして穴を塞いでますし』

「くるみは?」

 そう言うとエリーは「あー」と困ったような表情をする。

『船の中だからって安心してたんでしょうけど、さっきの砲撃で船体に穴が開いて……』

「一緒に潰された?」

『いや、違います。開いた穴から太陽光入って半分焦げた感じです』

 「日光対策しとかないと」と言うとエリーは苦笑した。

『ところで三征西班牙の武神がそっちに向かっているらしいですよ?』

 「あら?」と正面を見れば赤と白の装甲を身に纏った三機の航空武神が向かってきていた。

『対艦用装備をしてますね……。こっち来ると厄介なのでさっさと倒しちゃってください』

「主人使いが荒いわねー」と文句を言いながら構える。

そして表示枠のエリーにウィンクをした。

「でも私、弱いもの虐め好きなのよね」

『知ってます』

 翼を広げ羽ばたく。

 風を切り、敵との距離を一気に詰めた。

 

***

 

 前進する艦の護衛のため出撃した武神隊は急遽その目標を変えていた。

 攻撃目標は織田艦隊ではなく此方に飛翔してくる緑髪の少女だ。

『クソ! こっちは対艦用装備だぞ! 小回りの利く相手には不利だ!』

『文句を言うな、やるしかないだろう!』

 敵の攻撃能力は先ほどの一撃で十分に分かっている。

 航空艦を一撃で粉砕するほどの火力。

“猛鷲”の装甲では防げないだろう。

しかし自分たちは対艦戦闘用の重装備で機動力が落ちているため、それだけ回避能力が低下していると言える

 眼前を飛ぶ隊長機が此方に指示を出す。

『とにかくやるしかない。相手は特務級、それも大火力の持ち主だ。

まず俺とb2が先行する。

b3、お前は俺たちが左右から挟んだら対艦用の小型ミサイルを使え!』

『Tes.!!』

 隊長のb1とb2が飛翔器を展開させる。

『行くぞ!!』

『『Tes.!!』』

 轟音を立て、b1とb2が加速する。

 まずb1が長銃で射撃し、敵が回避した方向にb2が射撃する。

しかし敵は此方の弾丸を手に持つ傘で弾いた。

『どんな傘だよっ!!』

 敵は反撃のため構えるが、それよりも早く左右に分かれた。

b2が射撃を行い、b1がハンドグレネードを投げつける。

「━━」

 敵は焦る事も無く体を回し、射撃を回避すると傘の先端から流体光を放ちハンドグレネードを焼き払う。

 爆発がおき、周囲の空気を焼く。

『b3!! 今だ!!』

 b1の指示と同時に一気に接近する。

 爆炎の中、敵の位置はしっかり見えている。

 脚部のミサイルコンテナを開き、全弾を射出する。

そしてそれと同時にコンテナをパージする。

『墜ちろ!!』

 ミサイルは雨のように敵に降り注ぐ、そして直撃するかのように見えた。

『━━!?』

 突如大地から緑の柱が現れ、敵を包む。

 柱に当たり爆発するミサイル群。

全てが爆発し、爆煙が晴れる頃には無傷の敵と焼け崩れた柱が残った。

『植物だと!?』

 b2の叫びに望遠し確認すればそれは地上から伸びた木の根のような物であった。

視線を敵に移せば目が合った。

 そして敵は口元に笑みを浮かべる。

「酷い事するのね」

 敵が視界から消える。

否、加速したのだ。

 先ほどまで柱にいた敵は既に眼前に迫っている。

『糞っ!!』

 長銃を投げ捨て、流体剣を引く抜くが間に合わない。

 敵は拳を突き出し、此方の目を狙う。

そして貫かれた。

 視覚は途絶え、頭部が引きちぎられる。

 気がつけば地面に向かって墜落していた。

 

***

 

「さて、まずは一つ」

 墜落して行く武神を見届けると、残りの二機を確認する。

 二機は此方から距離を取り、此方を中心にするように円飛行を行っている。

「結構、冷静なのね」

 敵もプロだ。

味方を一機潰されても冷静に勝機を窺っている。

 最初に攻撃を仕掛けてきた機体がミサイルを放つ。

「同じ手は喰らわないわよ?」

 傘を降り注ぐミサイルの群れに向け、流体を放つ。

そしてそれを横に薙いだ。

 空中に爆発の壁が出来、昼の空が一瞬赤く染まる。

 後方に回り込んできたもう一機が長銃で射撃を行うが、それを宙返りで避ける。

 しかしそこにミサイルを撃った方が射撃を叩き込んで来た。

「!!」

咄嗟に傘を開き、弾を反らすがその反動で体勢が大きく崩れる。

今度は後方の機体が流体剣を引き抜き突撃を行う。

 それに合わせ、前方の機体も同じく流体剣を抜き、突撃を開始する。

「ああ! もう!!」

 前後から放たれる斬撃を体を地面に対して水平にしながら回避し、後方の機体の左手首関節に渾身の蹴りを放つ。

『ちぃ!!』

 武神の左手首関節は砕けるが切断するには至らない。

 武神たちは此方から距離を離すと、再び旋回を始めた。

 苛立ちを感じていると表示枠が開く。

『今の結構やばかったですねー。はい、私仕事の合間にクッキー食いながら心配してました』

 表示枠を傘で割り、溜息をつく。

いい加減終わらせましょう。

 そう思い傘を開く。

どちらかを攻撃すればもう一方がその隙を突く。

単純だがいい作戦だ。

しかしこれは相手が一人だから成立する作戦である。ならば。

「そろそろ帰って寝たいの。だからね━━━━消えなさい」

 背後に分身を展開し、同時に大出力の流体光を放つ。

そしてそのまま回転した。

 突然の同時攻撃に武神達は驚き反応が遅れる。

一機は下半身を砕かれ、そのまま爆散する。

もう一機は咄嗟に上昇するが脚部を砕かれた。

 生き残った武神は飛翔器を展開すると、後退して行く。

僅かな疲れから目を閉じれば自分の分身が流体光となって消えて行く。

『一機逃したけど良いんですか?』

 観戦していた部下に言われ頷く。

「あれじゃあもう驚異にはならないわ。それにこの後のことはあいつの仕事だしね」

『成程。戻られます? いい紅茶があるんですけど』

「そうね」と笑う。

「貰おうかしら」

 

***

 

「武神隊、壊滅しました……」

 通神を行っていた兵士がそう報告し艦橋が沈む。

 せめてもの救いはあの敵が後退した事だろうか。

とにかくここで空まで崩れればこの戦は負けだ。

「あの敵が下がっている内に艦隊を前進させるぞ! 彼らの犠牲を無駄にするな!!」

「Tes.!!」

 艦隊が前進を始める。

対して織田艦隊は後退する事も無くその場に留まった。

━━なぜ動かない……?

 まだ何か策があるのか?

そう思っていると警報が鳴り響く。

「何事だ!!」

 索敵班が振り返り、叫ぶ。

「か、艦隊の後方に敵艦出現! 数は四隻です」

「馬鹿な!! ステルス障壁対策はしていた筈だ!!」

 「そ、それが」と索敵班が言いよどむ。

「━━敵は突然現れたんです! 何の前兆も無しに!」

「馬鹿な」と言いかけて止まる。

 そうか! これが敵の狙いか!

どうやったかは分からないが敵は此方の背後に艦隊を出現させた。

 それも前進中の陣形が崩れたこのタイミングで。

「直ぐに陣形を立て直━━━━」

「敵艦隊から砲撃来ます!!」

 直後衝撃が起こり、岡豊の艦尾が砕けた。


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