緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十二章・『海上の競い手』 さあ意地のぶつけあいだ (配点:伊勢湾)~

 四日目の早朝。

霧掛かった伊勢の軍港に北畠具教を初めとした北畠家の家臣の殆どが集まっていた。

 家臣団に混じっていた北畠具房は朝の冷たい風に身を震わせると、一歩前に出る。

「父上、全十一隻。全ての艦の出港準備が整いました」

北畠家の家臣は二つに分かれており、一つは自分を含め霧山御所に残る恭順派。

もう一つは父や祖父と共に徳川との戦いに臨む抗戦派だ。

 父・具教は頷くと此方の肩に手を置いた。

「具房よ。後の事、任せたぞ」

 父の言葉に強く頷き返す。

そんな此方の様子を満足げに見ると表示枠を開いた。

そこには九鬼水軍に向かった祖父・晴具の姿が映っており、彼もまた引き締まった表情で佇んでいる。

「父上、そちらの方は?」

『既に完了しておる。傭兵どもも伊勢湾上空で合流する手筈だ。後は、お主の号令のみよ』

 父は皆の前に立つ。

「まずは礼を言おう。皆、私の我が儘に付き合ってくれて感謝する。

此度の戦、我等は敵を討つのではない。戦場において徳川に、また他の国々に我等が意地と決意を見せ付けるのだ!」

 「おお!」と家臣たちが意気込む。

「だが! だが、無駄に死してはならぬぞ。戦に赴き、生きて帰ってこその勝利だ!

皆、勝とう! そして勝ってこの伊勢に凱旋しようではないか!!」

 次に此方を見る。

「そして霧山に残る者たちよ。我等が勝利を信じ、宴の準備をしていてくれ。

戦が終わり次第、共に祝おうではないか!」

 自分を含め恭順派の家臣たちが頭を下げる。

「さて、出陣の日というのに生憎の濃霧だがこれは天運のように思える。

我等、霧掛かる山に住まう者、この霧を纏いて戦に臨もう!!

皆、出陣ぞ!!」

 伊勢の軍港を喊声が飲み込んだ。

午前七時、十一の艦船が軍港から飛び立った。

 

***

 

「やれやれ、倅も随分と立派になったものだ」

 息子の号令を日本丸の第二艦橋から聞いていた北畠晴具は口元に笑みを浮かべた。

隣の表示枠には自分と同じように笑みを浮かべて艦長席に座っている九鬼嘉隆がおり、彼もまた頷く。

『第二艦橋はどうですかい? 北畠の大旦那。なかなかいいもんでしょう?』

「儂は航空艦という者を食わず嫌いしておったが、ふむ、良い船だ」

 その言葉に嘉隆は満足そうな顔をする。

 第二艦橋にある大型表示枠には伊勢の軍港を飛び立つ航空艦隊の姿が映されており、最後の一隻が飛び立つのを見届けると嘉隆は立ち上がった。

『野郎共!! 船を出すぞ!! カタパルトを展開しろ!!』

「”カタパルト”? なんじゃそれは?」

『ああ、この船じゃあ例の作戦が出来る高度まで上げられねぇんすわ。だからカタパルトで一気に上昇して、後は高度を保つっていう寸法でさ』

 なるほどと頷き、艦正面のカタパルトが展開されるのを見ながらふと思う。

射出?

「まて、どの位の勢いで船を出す気だ……?」

『そりゃ勿論、かなりの速度で。あ、ちゃんと座ってた方が良いですぜ?』

 「おい」此方がと言う前に嘉隆は席に座った。

彼は座席に取り付けれている拘束具を装着した。

自分もそれに倣い、慌てて装着する。

正面を見れば艦橋に居る人員は全員体を固定していた。

 一体、どのくらい加速するのだ!?

『よし、てめぇ等!! 行くぜ!!』

「「おう!!」」という男達の叫びと同時に艦が振動する。

 重力制御エンジンの駆動音は徐々に大きくなって行き耳元で人が叫んでも分からないぐらいになった。

カタパルトの灯火が青になる。

双胴の船が雄たけびを上げ、加速する。

かかる重圧に体が椅子に食い込み、歯を食いしばる。

そして気がつけば雲が下になっていた。

そんな中、晴具は「乗るんじゃなかった」と一人後悔をしていた。

 

***

 

浜松に停泊している武蔵、その艦上にいつもの賑やかさは無く何処と無く緊張に包まれていた。

八隻の航空艦の内中央一番艦である”武蔵野”。その艦橋前に地摺朱雀の調整を行っている直政がいた。

彼女は地摺朱雀の肩に立ち朱雀の首関節部を確認すると足元で作業をしている三科・大に合図を出す。

大は朱雀から離れると腰に手をあて、叫ぶ。

「地摺朱雀用の長距離砲!! 急ピッチで整備したから一発試し撃ちして!!」

「Jud.!!」

 朱雀に長距離砲を持たせると肩膝を付かせ撃鉄を起こす。

「今から一発試し撃ちするよ!!」

『Jud.、 南東側にお願いします━━以上』

 表示枠に映る”武蔵野”に言われ狙いを南東側に定める。

照準を安定させ、引き金を引いた。

 長砲より放たれた弾丸はやや小さめな弧を描き、重力障壁に衝突し弾ける。

その様子を見届けると大に向かって叫んだ。

「大! いい調整さね!! これなら武蔵野から全方位を狙える!!」

 そう言われ大は得意げに鼻の下を擦った。

「そうそう! 砲弾だけど今撃った通常の砲弾と、高速鉄鋼弾があるけど高速鉄鋼弾は三発分しか用意できなかったから慎重に使って!!」

 「あいよ」と手を振り応える。

大が機材を持って撤収するのとほぼ同時に、艦内アナウンスが流れる。

『”武蔵”より市民の皆様へ、本艦は間もなく浜松港を出航し伊勢湾上空で徳川本隊と合流します。残留した非戦闘員は教導院を臨時避難所として開放しておりますのでお使いください━━以上』

 ”武蔵”からのアナウンスが終わると八艦に振動が起こった。

地摺朱雀の肩からは武蔵が仮想海を展開する様子が見え、いよいよ戦いが始まると感じられる。

「今日は騒がしくなりそうさね」

 そう言って直政は地摺朱雀の肩に座り、煙管を咥えた。

そして一回噴かすと気だるげに伊勢の方を眺めた。

 

***

 

 比那名居天子は武蔵野で眠さが残る体を伸ばしていた。

頭には未だに昨日の事が残っている。

 あの白い少女は誰だったのか?

あの後衣玖に言い、浅間に調査を行ってもらったが浅間神社の結界には何者かが侵入した形跡は無かったそうだ。

 ナルゼに「酔ってたんじゃない?」と言われたがあの時感じたプレッシャーは本物だと思う。

それに目撃者は自分だけではないのだが……。

「あんたが話せればねぇ……」

 そう言って足元で寝そべっているシロを見る。

シロは後悔通りで白い少女に会って以降、此方を守るように家まで付いてきた。

結局衣玖の了承を得て一日泊め、今もこうして一緒にいる。

「これから戦いだって分かってる? ここに居たら危ないわよ?」

 シロは欠伸をして尻尾を一回振る。

これは”分かっている”という事だろうか?

 その様子に苦笑していると非戦闘員の避難の手伝いをしていた衣玖がやって来た。

「総領娘様、間もなく出航だそうです」

「やっとね。ここ最近暴れてないから楽しみだわ」

 衣玖は小さく笑うとシロの頭を一回撫で横に立つ。

「私、昨晩悩んで決めました」

 「何を?」と目で言う。

「この戦いが終わったら性教育しましょう!」

「…………へ?」

「どうやら総領娘様の無知さが様々な場所で悲劇を生んでいる様子。この事態を何とかするためにこの永江衣玖、恥を忍んでみっちりと性教育をしたいと思います」

 鬼気迫った衣玖の様子に思わず一歩下がる。

性教育とはそんなに凄いもなのだろうか……?

 昨日とは別の意味で背筋が凍っていると武蔵中で警報が鳴る。

そして大きな振動の後、八隻の航空艦が上昇を始めた。

「船の上だとあまり活躍できないのがネックね。要石召喚できないし」

 まあ今回の敵は今川とは違い弱小だ。そんなに苦戦せずに終わるだろう。

「例によって眼鏡が作戦立てるんでしょ? 何だかんだ言ってあいつも当てになるし、まあ私達は悠々と戦に臨みましょう」

 

***

 

武蔵野艦橋の屋上。

そこにトゥーサン・ネシンバラと副王二人が居た。

 ネシンバラは風を浴びながら右手で髪を梳き、左手で眼鏡を押さえる。

そして不敵に笑うと表示枠を開いた。

・未熟者:『やあ皆、待たせたね! スーパーネシンバラタイムの始まりだよ!!』

・礼賛者:『あのー、小生思いますに最初の行動、必要有ったのでしょうか?』

・ウキー:『嫁から解放されいつも以上にイカれているな』

・未熟者:『はい! そこ! うるさいよ!!

さて、現状の確認から行こう。今僕達は伊勢湾上空で徳川本隊と合流して再編成している所だ。もう皆も見てると思うが正面、伊勢側に横列で並んでいるのが北畠家。

鶴翼陣を組んでいるのが徳川だ。

互いの戦力は北畠家が大小合わせて十一隻の航空艦。対して此方は武蔵や浜松をはじめとして三十二隻だ』

・労働者:『戦力では圧倒しているわけだな』

・未熟者:『Jud.、 だけど一つ懸念がある。それはこの場に居ない二つの勢力だ』

・銀 狼:『九鬼水軍と北畠家が雇った傭兵団ですわね』

・十ZO:『九鬼水軍の船が出撃したのは伊勢の間者から確認されているで御座る』

・○べ屋:『傭兵に関しても同じね。北畠家はかなりの金をばら撒いたみたいよ』

・天人様:『となると北畠家はこの二つを切り札として使ってくるでしょうね。問題は何処にいるか、か』

・未熟者:『そうだね。どのタイミングで、何処から来るかは常に警戒する必要が有る。これについては臨機応変に対応するとしよう。

さて、次は僕たちの勝利条件と敗北条件だ。

まず勝利条件は単純、北畠家に敗北を認めさせれば良い。つまり完全勝利だ。

そして敗北条件は二つある。一つは単純に此方が壊滅する場合。

もう一つは敵の勝利条件を満たせてしまう場合だ』

・貧従士:『敵の勝利条件……ですか?』

・未熟者:『いいかい? この戦い、敵は自分達の意地と誇りを証明する為に戦う。

そう、”敵は最初から勝つ気は無い”んだ』

・● 画:『それっておかしくない? 勝つ気が無いのに勝利条件があるなんて』

・副会長:『そうか、敵の目的は武蔵の撃沈か!』

・未熟者:『Jud.、 北畠家は一か八かの突撃で武蔵の撃沈を狙うはずだ。武蔵を撃沈すれば徳川の戦力を大きく削げるし、何よりも名声を得れる。

まともに戦ったら数の差で圧倒される以上、必ず突撃を仕掛けてくるはずだ』

・ホラ子:『では、武蔵は後方待機ですか? そうすれば敵の目論見は達成できなくなりますが』

・未熟者:『いや、あえて武蔵を単艦で突撃させる』

・魚雷娘:『それでは敵に好機を与える事になりますよ?』

・立花夫:『それこそが狙い、という事ですね?』

・立花嫁:『どういうことですか宗茂様?』

・立花夫『先ほど書記は我々の目的は完全勝利と言いましたね。つまり敢て敵の全力を受け、それを全て跳ね除ける事によって北畠家に完全敗北という納得の場を与える。そういう事ですね?』

・未熟者:『Jud.、 勿論徳川艦隊からは支援砲撃もしてもらうけど基本的には武蔵単独で戦う事になる。

でも僕は今の武蔵ならそれが可能だと思っているよ』

・煙草女:『まったく、船を修理する側の事も考えて欲しいさね』

・天人様:『ふふ、嫌いじゃないわ。この作戦。

いいじゃない、敢て危険に飛び込み勝利を掴むこのスリリングさ』

・● 画:『また始まったわー。あんたやっぱりマゾなんじゃ……』

・金マル:『呆れつつ凄い勢いでネーム切ってるね! ガッちゃん!!』

・俺  :『まあ、皆文句無い様だからよ、あとなんかあるか?』

 あと何か。そう言われ正面の北畠家艦隊を見る。

・未熟者:『僕たちの前に立ちはだかるのは自分達を証明しようとする強い意志だ。

だけど僕たちだって負けていない。彼らの意地を受け、そして彼らに納得の場を与えよう!

それこそが僕たちの意地の証明だ!

皆! 頼んだよ!』

・”約”全員:『『Judgment!!』』

 

***

 

「では皆さん、よろしくお願いします」

「おね、がい、します」

 お辞儀をする二人に対して武蔵野艦橋にた自動人形たちが頭を下げる。

”武蔵野”が鈴を椅子に座らせると鈴から音鳴りさんを受け取る。

 そして戦場の流体模型を作ると艦橋にいた”曳馬”が感心したように頷いた。

「凄いですね、鈴様。これほどまでに精密な流体模型を作れるとは」

「みんな、の、ほうがすごいよ?」

 ああ、なんて素直なんだろう。どこかの記者もこのぐらい素直になればいいのにと微笑む。

そして思考を切り替え、姿勢を整えると”武蔵野”に対して頭を下げる。

「特務艦艦長予定”曳馬”。これより戦闘情報の記録を行わせていただきます」

「了解しました。艦の情報を逐次送信します━━以上」

 ”武蔵野”にもう一度頭を下げると流体模型を見ていたアデーレが「これって……」と指を指した。

そこには三隻の航空艦が表示されており、それらは戦場から離れた清洲側に布陣していた。

「照合したところP.A.Odaが所有するドラゴン級航空艦です━━以上」

「監視って所ですかね……」

 それだけでは無いはずだ。

P.A.Odaは徳川と北畠の戦いが織田領に飛び火しないように監視する裏で、徳川の戦力を見極めるつもりだろう。

━━同盟国とはいえ、他国は他国ですか……。

 此方も織田に間者などを送っているため批判できないだろう。

「ともかく、あまり戦場を広げられませんね。徳川本隊との連絡は?」

「既にネシンバラ様の作戦を伝えております。徳川本隊は武蔵が前進した後左右に展開、武蔵に対して攻撃を行う北畠艦隊を包囲します━━以上」

 ”武蔵野”の言葉にアデーレは頷くと前方の大型表示枠に映されたカウントダウンを見る。

開戦まで残り五分。

アデーレは表示枠を開くと、一度咳きをする。

「あー、艦長代理より全員へ。間もなく開戦します。艦上に展開している部隊は戦闘態勢に移ってください」

 ”武蔵野”と一度視線を合わせると頷き、自分の席に座る。

開戦まで残り一分。

 カウントダウンは一秒過ぎるたびに音を鳴らし、そしてついに零になった。

「武蔵、発進!!」

『これより重力航行を行い、北畠艦隊前方に出ます!━━以上』

 八隻の航空艦が加速し、唸りを上げた。

 

***

 

 武蔵は重力航行で北畠艦隊と一気に距離を詰めると通常航行に戻した。

━━さて、来るか!?

 教導院の屋上からネシンバラは身構えるが北畠艦隊は予想と反して動きを見せなかった。

━━動かない? 正攻法で来る気か?

 それはありえない。

正面からぶつかり合えば北畠家に万が一も勝機は無い。

 ならば策か?

北畠家が艦隊を動かさない理由。それは何だ?

 もし、敵に此方の考えが読まれていたのなら、敵はどう動く?

「そうか!! 前方の艦隊は全て囮!! なら別働隊は!?」

『本艦上空に大型の航空艦が出現! 更に多数の飛空挺がステルス障壁内から出現しました!━━以上』

 上空を見る。

 そこにはステルス障壁を解除しながら雲を切り裂く双胴の鉄鋼船が有った。

ステルス障壁の中からは多数の飛空挺が現れ、急降下を始めている。

「九鬼水軍の鉄鋼船と傭兵団か!」

『敵艦より流体砲撃来ます!━━以上』

 鉄鋼船から二つの流体砲撃が放たれる。

直ぐに重力障壁で弾くが、その合間を飛空挺が突破する。

『敵飛空挺隊、武蔵全艦に上陸します!━━以上』

 迎撃のため、魔女隊が飛び立つが既に多くの飛空挺が着陸を行っていた。

飛空挺からは傭兵団が次々と降下し、展開して行く。

 部隊の降下を終えた飛空挺は直ぐに離陸し、対艦攻撃を行い始めていた。

「ナイト君にナルゼ君! 飛空挺の迎撃を頼む!」

『Jud!!』

 双嬢が飛び立ち、近くに居た飛空挺の後ろを取るとエンジンを撃ちぬいた。

墜落してゆく飛空挺を見届けると直ぐに次の指示を出す。

「武神隊は魔女隊の支援砲撃!」

『まったく、いきなり大乱戦さね!!』

 正面の北畠艦隊からの砲撃が始まり、重力障壁でそれを防ぎ始める。

しかし障壁内に進入した飛空挺からの攻撃は防げず、各地で爆撃による爆発や火災が起き始めていた。

 状況を打破するにはまずあの鉄鋼船を落さなければいけない。

「”武蔵野”君、敵の駆動音から探索を頼む」

『Jud.、 敵は此方の周囲を旋回している模様、次の砲撃を受け次第敵艦の位置を特定します━━以上』

 頭上を一隻の飛空挺が通過する。

飛空挺は魔女隊に追われ、武蔵野に強行着陸しようとしていた。

 後部機銃で魔女隊を追い払うと着陸姿勢に移るが、その瞬間後部装甲を砕かれる。

 バランスを失った飛空挺は前のめりとなり、そのまま武蔵野の先端に激突した。

『まず一隻さね!!』

 地摺朱雀は既に砲弾を装填しており、次の目標に狙いを定めている。

「おう、さっそく張り切ってんなー。直政のやつ」

 トーリが隣に立ち、そう言い。それに頷く。

 武蔵野の前方では既に幾つかの部隊が降下し交戦を始めている。

「あの辺りは天子様の部隊が居るところですね」

 ホライゾンがそう言った直後、交戦地区で雷光が弾ける。

あの雷は永江衣玖のものだろう。

 彼女達ならば大丈夫だろうと思い、視線を正面の北畠家艦隊に移す。

「さて、次はどう来る…………」

 

***

 

 作戦が成功し、歓声に沸く艦橋で北畠具教は一人、真剣に武蔵を見ていた。

 一の策は成った。

しかしこれはあくまで次の策への布石。

 相手はあの徳川、そして武蔵だ。

一つ一つ油断せずに進めなければ、あっと言う間に此方が飲み込まれるだろう。

「徳川本隊より砲撃、来ます!」

 武蔵救援のため徳川艦隊が砲撃を開始する。

直ぐに障壁を展開するが相手の砲撃の数は圧倒的で障壁を次々砕いて行く。

「は、反撃を!」

「ならん!」

 部下達を落ち着かせるように手で制す。

「本隊はこのまま武蔵への砲撃を続行! 武蔵の注意を分散させろ!」

 冷静さを取り戻した部下が直ぐに各艦に指示を出し、北畠艦隊が武蔵への砲撃を続ける。

傭兵団の展開が完了が終わり次第、第二の策を仕掛ける。

 そしてこれこそが本命だ。

「父上、頼みますぞ……!」

 額に浮かぶ冷や汗を拭いながら、そう呟いた。

 

***

 

 右舷一番艦・”品川”。

そこでは降下を完了した傭兵団と警護隊が交戦を行っていた。

 ”品川”のコンテナ積載地区では完全武装をした傭兵団が警護隊の一隊が強襲を行い警護隊は苦戦を強いられていた。

「クソ! あいつらの銃、フルオートの導力銃かよ!」

 積み重なった資材を横に倒し作ったバリケードの内側で青年が叫ぶ。

「文句言うな! 相手が連射するんならこっちは一発ずつ当てりゃいい!」

 先ほどの青年の横に居た男が身を乗り出し、長銃で射撃を行う。

 傭兵団は反撃を受けると直ぐにコンテナに身を隠し、様子を窺う。

男は弾を撃ち尽くすと舌打ちし、バリケードの中に隠れる。

 横を見れば先ほどの青年が半目で此方を見ており、「なんだよ」と言うと「当ててねーじゃん」と言った。

「じゃあテメェがやれよ!」

「自慢じゃねーが俺、射撃は不得意中の不得意なんだよな!!」

「ほんとーに自慢じゃねーなっ!!」

 いがみ合っていると「止めないか」と先ほどから座って銃に弾を詰めていたやや歳をとった男が言う。

彼は銃に弾を詰め終えるとそれを男に渡し、今度は男の銃を受け取る。

「今動けんのはお前たちだけなんだからな、しっかりしてくれよ?」

 そう笑い、自分の足を指差す。

彼の足には包帯が巻かれ、赤く染まっていた。

「まったく、最初の強襲で足をやられちまうとはな。俺も焼きが回っちまったか」

「大丈夫ッスよ。おやっさん、もう直ぐ他の奴等が援護に来ますから」

青年が笑い、男もそれに賛同する。

二人は顔を見合わせ頷くと同時に身を乗り出した。

しかし「まじかよ!!」と叫ぶと直ぐにバリケードの内に隠れる。

「どうした?」と年配の男が身を少し伸ばし、バリケードから頭を出すとそこには飛空挺が居た。

飛空挺は機銃を回転させ、攻撃をする寸前である。

「クソがっ!!」

 体を動かし若い二人を守るように覆いかぶさる。

 機銃の回転が最速になり射撃が行われると思った瞬間、自分達を何かが飛び越えた。

「結べ! 蜻蛉スペア!!」

 飛空挺は機銃から右主翼を勝断され、墜落する。

その様子を見ていた傭兵たちは慌てて撤退を行う。

「す、すげぇ……」

 青年が感嘆の声を漏らすと、本多・二代は振り返る。

「大丈夫で御座るか?」

「おう、助かったぜ。副長」

 年配の男が片足を引き摺り立ち上がる。

 慌ててその肩を男が支えると二代の方に頷いた。

「こっちはもう大丈夫です。ただ貨物搬入口の奴等がかなり苦戦しているらしくって、そっちの援護をお願いします」

 「Jud.」と頷くと二代は”翔翼”を展開し、跳躍した。

黒髪の少女の姿はあっと言う間に見えなくなる。

 口を開けて固まっている青年を男が小突くと歩き出した。

「ぼーっとしてんな! 後退して立て直すぞ! 俺たちの仕事は始まったばかりだ!」

 慌てて青年が追いかける。

 暫くして墜落した飛空挺が爆発した。

 

***

 

━━思った以上に押されているで御座るな……。

 積み重なったコンテナの上を走りながらそう本多・二代は思う。

 武蔵の部隊とて決して弱いわけではない。それ所かかなりの錬度をを持っているという自信がある。

しかし今降下してきている傭兵たちはそれ以上に戦慣れしている。

常日頃から戦場にいる彼らは知識と技術、そして場の流れを制する事に長けている。

それに彼らの装備。

あれは西側で使用され始めている最新鋭の装備だ。

 旧式の装備が多い武蔵では武装面でも苦戦を強いられる。

━━だが、数は此方が上で御座る。

 最初の強襲で各部隊が連携を崩されたが、徐々に立て直してきた。

この調子なら持ちこたえられるだろう。

 ともかく搬入口にと思っていると、右側面に飛空挺が現れる。

「新手に御座るか!!」

 側面機銃から射撃が行われ、直ぐにコンテナの陰に隠れる。

 飛空挺は此方の上空を旋回すると様子を見る。

━━狙いは拙者で御座るか……。

 今は一刻も早く搬入口に行かなくてはならない。

ならば!

 コンテナの陰から飛び出し、再び駆けはじめる。

 飛空挺も直ぐにこちらを追いかけ、再び側面についた。

側面機銃が此方を向く。

 その様子を確認すると右足に力を込め急ブレーキを掛け、蜻蛉スペアの石突を地面に突き立てる。

「伸びろ! 蜻蛉スペア!」

 後方に一気に跳躍した事により、飛空挺は目標を見失う。

そして着地と同時に蜻蛉スペアの刃を飛空挺の後部、エンジン部に向ける。

「結べ! 蜻蛉スペア!!」

 エンジン部を割断され、飛空挺が墜落する。

しかし飛空挺は大きく旋回し、此方に向かってくる。

「体当たりに御座るか!」

 ”翔翼”を展開し、後方へもう一度跳躍する。

飛空挺はコンテナと激突し、その装甲を砕きながら滑るように転がる。

 跳躍を終え、前方を見れば黒煙の壁が出来上がっていた。

なんと無茶な……。

 金で雇われた傭兵にしてはかなり強引なやり方だ。

 敵が完全に沈黙したか確認しようと一歩前に出た瞬間、黒煙から何かが放たれる。

「!!」

 放たれた三つを蜻蛉スペアの柄で弾く。

 銃弾?  いや、これは銭で御座るか!?

 地面に弾かれた銭が落ち、甲高い音を上げる。

「やれやれ、人間にしちゃあ随分と反応が良い」

 黒煙の中から少女が現れた。

赤い綺麗な髪を持ち、着物を着た少女は肩に掛けていた鎌を地面に突き刺すと仁王立ちする。

「九鬼水軍所属、小野塚小町。少しだけつき合ってもらおうか」

 そう言って小町は破顔した。


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