緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十三章・『赤き戦の仕事人』 鬼が駆けるよ (配点:傭兵団)~

 仁王立ちする小町に対して二代はゆっくりと身構える。

「武蔵アリアダスト教導院副長、本多・二代で御座る」

 「ああ、知ってるよ」と言うと小町は地面に突き刺さった鎌の柄を持ち、体重をかける。

 この目の前の少女、自分の身長より大きい鎌を片手で持っていた所を見るに只者ではないだろう。

 黒煙は大分晴れ、煙の中から屈強な男達が現れる。

「姐さん! 全員無事ッス!」

「よしよし」と頷くと小町は男達に指示を出す。

「あんた達は撤退用地点の確保に向かいな! あたいはこいつに用があるから」

「へい!」と男達が走って行く。

それを追いかけようと構えると小町が此方を阻むように立つ。

「ちょっと、待ち。珍しくあたいがやる気なんだから無視しないでおくれよ」

 鎌を引き抜き、此方に向ける。

「あんたに自由に動かれると面倒なんだよね。だからここで足止めって訳さ」

「成程、しかし拙者は急ぐ身、押し通らせてもらうで御座るよ!!」

 駆ける。

 小町は左手を腰のポーチに入れると銭を取り出した。

親指と人差し指で挟み、指弾を放つ。

 放たれた弾丸は一直線に此方の首を狙うが蜻蛉スペアの柄でそれを弾いた。

攻撃を弾かれるのを見ると小町は右手の大鎌を横に薙ぐが、それを跳躍した。

 敵は頭上を飛び越えられるたと知ると空ぶった鎌の柄に左手を掛け、そのまま一回転した。

 胴を狙う一閃に対して蜻蛉スペアの刃を鎌の刃とぶつけ、弾く。

金属音が鳴り響き、二代は相手から大きく距離を取った。

そして着地と同時に“翔翼”を展開し、加速する。

━━突破成功で御座る。

 あっと言う間に小さくなる敵を横目に二代は駆けた。

今は味方の救援が最優先。

 彼女との戦いはその後だ。

そう思っていると、突然首筋に寒気が走った。

「!!」

 振り返っている暇は無い。

 咄嗟にその場に伏せると頭上を鎌が薙いだ。

━━追いつかれた!?

 跳ねるように起き上がり、相手を確認する。

 そこには先ほどと同じように鎌を構えた小町が立っていた。

小町はゆっくりと鎌を肩に掛けると口元に笑みを浮かべる。

「だから言っただろ? 無視するなって」

 相手との距離を取りつつ、先ほどの事を思い出す。

 あの時敵との距離を大きく離した。

それをこれほどの短時間で詰めて来るとは、敵は加速系術式の使い手か?

しかしそれには違和感がある。

 通常敵が後ろから追ってくればそのプレッシャーを感じられる筈だ。

だが敵の気配は突然現れた。

 ならば敵の能力は瞬間移動かそれに近いものだ。

もしそうならこの敵から逃れるのはかなり難しい。

「お? ようやくやる気になってくれたかい」

「Jud.、 先ほど見事にスルーしたこと、申し訳なかったで御座る。存在感をアピールできないと忍者のようになるで御座るからな!」

・十ZO:『あれ? なんの脈絡も無く貶されてるで御座るよ!!』

 表示枠を閉じ、蜻蛉スペアの先端を敵に向ける。

「では改めて、本多・二代! 参る!!」

 距離を詰める。

 今度は突破の為ではない。

敵を討つ為の加速だ。

 まず二連続で突きを入れる。

敵は一発目を鎌で弾き、二発目は体を反らして回避した。

 直ぐに三発目を放とうとするが敵の左手には二枚の銭が握られていた。

顔を狙った二連続の射撃を頭を右肩に付け避けるがそこへ胴を狙う鎌の一撃が叩き込まれる。

 蜻蛉スペアの柄を鎌の柄とぶつけるが鎌の刃は此方を包むように迫った来た。

━━刃が曲がっているとここまで厄介で御座るか!

 槍の柄を持っていた右手を左腰の刀に掛け、引き抜く。

 刀の刃と鎌の刃を当て、距離を取る。

 再び仕切りなおしとなり、互いに構えなおす。

「まったく、人間が死神から逃れるんじゃないよ」

「生憎、拙者はまだまだ人生を楽しむつもりで御座る」

 小町は「ふ」と笑い鎌を頭上に構える。

━━来るで御座るか!!

 片手で鎌を回転させ、甲板を抉る様に振る。

「魂符「生魂流離の鎌」!!」

 一閃。

鎌から流体が放たれ、甲板を砕きながら迫る。

 それを回避するため上空に逃れるが、地を走る流体から多数の光が射出される。

「これは━━━━人魂で御座るか!!」

 人魂は此方を目掛け体あたりを行おうとする。

 直ぐに右肩の装甲を外し、人魂に投げつけると爆発が生じた。

爆風に吹き飛ばされ、コンテナの上に叩きつけられる。

 痛みから一瞬息が止まるが、直ぐに息を吐き出した。

立ち上がり、息を調えながら構えなおす。

「人魂、いや、人魂に似せた流体攻撃で御座るな」

「そんなところだ。まあ前の世界では本物の人魂使ってたんだけどね。どういうわけかこっちの世界では人魂召喚できないから流体の塊に変えてみたってわけさ」

 小町も構えなおす。

「さて、どうする? 武蔵の副長さん?」

 

***

 

 正直、今の一撃には自信があった。

だが相手は凄まじい反応速度と判断力で凌いだ。

悔しいが敵の戦闘技術はこちらより上だ。

ならば不意打ちで勝ちを得ようと思ったが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

 まったく、こんな事なら冥界で戦闘訓練受けておけばよかった。

 戦いにより若干興奮している思考に冷静さを取り戻す。

そうだ。自分の仕事はこの武蔵の副長倒すことではない。

 あくまで自分は陽動。

相手を引きつけれれば良い。

 相手が加速術式を展開する。

━━来るかい!!

 武蔵の副長が消える。

全く、天狗のような奴だ!!

 この距離では射撃は無理だ。

それに鎌を振るにもこの巨大な鎌では間に合わない。

ならばと石突側を持ち上げ、顎を狙う。

 敵は顔を反らし、槍を突き出すが狙いを定めないその一撃は容易に弾けた。

━━よし! 弾いた!!

 敵は大きく仰け反っている。

その胴を両断しようと踏み込むが、相手はそのまま大きく身を反らした。

 顎下、敵のつま先が来る。

「ちぃ!!」

 今度仰け反ったのは自分だ。

 相手は空中で一回縦回転すると着地し、再度突撃を仕掛けてくる。

 放たれる連撃。

それを鎌の柄で弾き続ける。

 両者の間を幾度も火花が散り、その都度金属が削られる音が響く。

一見拮抗しているかのように見えるが、武蔵の副長が押しており此方は徐々に押し込まれていた。

━━だけど、こう攻撃が単調なら!

 敵の攻撃速度はかなりのものだがその速度ゆえに一定の間隔で放たれている。

その間隔さえ分かれば、後はこちらから踏み込むまで。

 次の一撃。そこにカウンターを入れる。

 そう思い、前に出ようとした瞬間タイミングがずれた。

「!?」

 敵は突きを一度、止め。溜める。

━━フェイントか!? これが本命の一撃!?

 防御のテンポがずれ、動きが一瞬鈍る。

そして、それが致命的となった。

 放たれる一撃。

 最早避ける事は出来ない。

 敵の槍が胸を貫いた。

 

***

 

 教導院の教室。

そこには残留した非戦闘員達が集まっていた。

 皆窓から外の様子を見ており、その中に上白沢慧音と今川義元もいた。

 慧音は教導院前で補給を受けていた魔女隊が再び飛び立つのを見届けると隣の義元を見る。

彼は先ほどから何か思案するような顔をしており、時折「どういうことだ?」と呟いている。

 彼の思考を妨げるのは悪いと思い、教室の方を見る。

 そこには妹紅が机の上に座っており、表示枠を見ている。

「何を見ているんだ?」

 「ん?」と顔を此方に向けると表示枠を此方に向けた。

「これは、武蔵の戦況か?」

 表示枠には武蔵上の部隊の展開状況と敵の位置が記されていた。

「ええ、武蔵の書記に頼んでね。見せてもらったの」

「なるほど」と頷いていると義元が「ちょっと見せてくれるか?」と妹紅の横に立った。

暫く食い入るように見ていると「やはり妙だ……」と呟く。

「なにが?」と妹紅が聞くと義元は武蔵全体を表示した。

「敵の布陣。妙だと思わないか? 北畠艦隊を囮にし、ステルス艦及び、飛空挺部隊による奇襲。ここまでは良い。

だがその後だ。降下してきた傭兵団の動きが変だと思わないか?」

「そうでしょうか? 順当に降下しただけのように思えますけど?」

 此方の言葉に義元は首を横に振る。

「いや、ここまで綿密に策を練っているというのに傭兵団を武蔵各艦に降下させたのはおかしいんだ。

本来面攻撃は敵より多勢のときに行う。

しかし、降下してきた傭兵団の数は武蔵上に展開している部隊より少ない。

実際、各所で武蔵の部隊が盛り返して来ている」

 たしかに。

確かに妙だ。敵は少ない戦力を更に分散させている。

 武蔵の撃沈や、航行停止を狙うなら武蔵野に戦力を集中させるべきだろう。

「それに、降下後の傭兵団の動きが気になる。奴等のこの布陣。

これは守りや持久戦に長けた布陣だ。援軍が望めない以上この布陣は意味がないのだが……」

そこまで言って、義元は目を見開いた。

「そうか! そう言うことか!」

 慌てて表示枠を開く。

その様子を妹紅と共に首を傾げて見ていると、義元は武蔵の書記と通信を始めた。

「坊主! これは罠だ!」

 

***

 

『敵の布陣が妙なのは感づいているな?』

 それについては自分も違和感を感じていたところだ。

最初の鮮やかの奇襲に比べ、その後の動きは鈍い。

「Jud.、 敵の布陣が守備型なのが変ですね」

『そうだ。敵が戦力を集中させず、武蔵全艦に降下させた理由。それは各艦の連携を断つためだ!』

「!!」

 そうか! そういうことか!

敵は各艦の守備隊と交戦する事によって釘付けにし、更に北畠本隊からの砲撃によって自動人形たちの注意を分散させる。

 これだけの事をして、次に来るのは……。

「本命の一撃……!」

『“武蔵野”より各員へ! 正面より再び大型の航空艦が現出しました!━━以上』

 正面、ステルス障壁を解除しながら黒い双胴の船が現れる。

「直政君!!」

『分かっているさね!!』

 

***

 

 弾丸を直ぐに特注の高速鉄鋼弾に切り替え、地摺朱雀は飛翔した。

狙うは装甲の一番薄い中央部分。

 此方の妨害のため一隻の飛空挺が接近するが浅草からの砲撃を受け、墜落した。

「感謝するよ! 立花・誾!」

 照準を覗き、引き金に指を掛ける。

重力による弾丸の降下を計算し、狙いを定める。

 そして放った。

 衝撃で銃身が跳ね上がり、地摺朱雀の体が後ろへ飛ばされる。

 放たれた高速鉄鋼弾は空を切り裂き、鉄鋼船の中央部に━━━━。

「なに!?」

 鉄鋼弾は双胴の船の間を抜けた。

一つだった船は二つになり、武蔵の両舷に移動する。

「連結式の船かい!」

 体勢を整えるため一度武蔵野に着地する。

 直ぐに二発目の鉄鋼弾を装填しようとした時、表示枠が開いた。

『敵鉄鋼船後方より高速で接近する飛空挺三隻。照合したところ三隻とも傭兵団<<赤い星座>>所属の飛空挺です。強行着陸して来ます!━━以上』

 

***

 

 “日本丸”の間を抜け、赤い装甲を持つ三隻の飛空挺が飛ぶ。

三隻の飛空挺は何れも下部にコンテナを積んでおり、時折それを揺らしている。

 そんな三隻の中、先頭を航行する飛空挺の中では完全武装した三十人程の男達が武器の点検を行っていた。

 大剣を点検していた男が立ち上がり他の男達を見る。

「いいか! 今回の戦い、隊長たちは不在だが<<赤い星座>>の名に泥を塗るような戦いはするな!!」

「了解(ヤー)!!」

 男達の応えに頷き、表示枠を開く。

「ガレス、そっちの準備はどうだ?」

『準備は出来ている。降下次第所定の位置に移動する』

 「よし」と頷くと、艦内通信が入る。

『ザックス、あと三十秒だ! 降下後、コンテナ降ろすぞ!』

 「了解した!」と応えると部下達が立ち上がる。

 しばらくの間小さな揺れが起こった後、一度大きく船体が揺れた。

 降下用のゲートが開かれ、部下達が駆け出す。

自分もそれに続き、飛び出し武蔵野上に着地した。

 全員が降下するのを確認すると灯火で合図を出した。

飛空挺はコンテナを外し、離陸を始める。

 表示枠で他の二隻が無事に降下したのを確認すると部下にコンテナの開放を命令した。

コンテナの中からはいくつもの鎧を見に纏った魔獣が現れ、その中には獅子のような姿のものもいる。

「一班は俺と共に武蔵野艦橋へ! 二班は戦闘用魔獣を率いて陽動! 三班はLZの確保だ! 作戦時間は二十分とする! 二十分以内に落せなかったら直ぐに撤退するぞ!

分かったか!!」

「了解!!」

  掛け声と共に部隊が分かれる。

自分が率いる一班は十二人で<<赤い星座>>の中でも精鋭部隊だ。

 狙うは武蔵野艦橋。

ここを落とし、武蔵を航行不能に陥らせる。

これこそが北畠家の計略だ。

 大剣を肩に掛けると駆け出す。それに続き、部下達も駆け出した。

 

***

 

「わわ! また揺れましたよ!」

 奥多摩にある遊撃士協会支部。

その中で魂魄妖夢は落ち着き無く窓から外の様子を窺っていた。

「大丈夫よ、妖夢。一応私の結界で支部を守っているから流れ弾で“グシャァ!!”って事は無いから」

 カウンターで幽々子は茶を飲みながらそう言う。

「ただ、まあ、武蔵その物が落ちたら皆お仕舞いねー」

 そう笑う主に対して妖夢は半目になる。

二階に上がり、外の様子を窺いに行っていたヨシュアとエステルが戻り、カウンター席に着くと二人に茶を入れる。

 「ありがとね」と笑うエステルに頷くと自分もカウンター席に座った。

「それで、どうでしたか? 武蔵の戦況」

「結構な数の傭兵団が降下しているようだ。幸い奥多摩は激戦区じゃないけど他の艦は結構被害を受けているようだね」

「そしてさっき、<<赤い星座>>がこの戦いに参戦した」

 幽々子の言葉にヨシュアとエステルは眉を顰める。

 傭兵団<<赤い星座>>。

<<赤い戦鬼>>シグムント・オルランドが率いるゼムリア大陸最強クラスの傭兵団。

不変世界でも様々な戦いに参加し、その武名を轟かせている。

 そして彼らはかつてクロスベルにおいて例の<<結社>>と協力し「碧の零の計画」を行ったという。

そんな連中が来たのだ。

武蔵は大丈夫だろうか……。

 そんな不安を察したのか、エステルは此方の肩に手を乗せる。

彼女に頷きを返すとその様子を見ていた幽々子が微笑む。

 そして目を細め、窓の方を見る。

「ともかく、こっからが本番よ? 武蔵の皆さん」

 

***

 

 武蔵野艦橋に続く大通り。

そこに術式盾を構えた極東の生徒たちが集結していた。

 報告によれば降下した<<赤い星座>>は三つに分かれ、その内の一隊。

武蔵野艦橋を狙った部隊が向かって来ているとの事だ。

 隊長格の男子生徒が長銃を構え、指示を出す。

「ここで止めるぞ! 相手は少数、しっかり陣形を組めば勝てるぞ!」

 盾を構えている生徒たちが額に汗を掻きながら頷く。

「来たぞ! 数は十二! 正面だ!」

 部隊の両脇の家屋の屋上で伏せていた男がそう叫ぶ。

額の背を拭い、叫ぶ。

「射撃隊! 構え!」

 盾の合間から長銃を出し構える。

 そして現れた。

正面、大通りを突破してくる赤い装甲服を着た集団。

 敵も此方に気がついたようだがその速度を落さない。

━━このまま突破するつもりか!

 ともかく足を止めなくてはいけない。

敵部隊が全て射程に入った瞬間、号令を出した。

「撃てぇ!!」

 長銃による一斉射撃。

この距離ならあまり当たらないが足止めには十分だ。

相手が止まってからは波状攻撃を掛け、味方の援軍が来るまで持ちこたえる。

 次の射撃を命令しようとした瞬間、誰かが叫んだ。

「あいつら、止まってねーぞ!!」

 敵は止まっていなかった。

何人か銃撃を受けたのにもかかわらずその突撃速度は変わらない。

いや、むしろ速まっていた。

 ライフルを持った兵士達が先行し、走りながら射撃を行う。

射撃部隊は直ぐに盾の後ろに隠れるが何人かが銃弾を受けた。

 連射される弾丸が盾に弾かれ、近くの家屋の壁に穴を開ける。

ある程度まで距離を詰めると射撃を行っている兵士達の後ろから長い筒を持った兵士が現れる。

「バズーカ砲かよ!」

「大丈夫だ! 術式盾なら防げる!」

 敵はバズーカを此方に向け…………無い!?

敵が狙ったのは部隊の右横にある家屋。

 砲弾が放たれ、家屋が破砕する。

「━━しまった!!」

 破砕した家屋から木片が飛び散り、右側で盾を構えていた部隊が倒れる。

全員の視線がそちらに向き、その瞬間目の前に何かが投げ込まれる。

それは金属の筒状の物で……。

「閃光弾!?」

 視界を焼く閃光が走った。

咄嗟に目を瞑れなかった何人かが倒れ、陣形が崩れる。

「まず━━━━っ!!」

 眼前に居た。

大剣を構えた男が傾いた盾を足場にし跳躍する。

 振り下ろされる大剣。

その衝撃で部隊の中央が吹き飛ぶ。

 気が付けば宙を浮いていた。

そのまま地面に叩きつけられ、動けなくなる。

 傭兵団はそのまま突破し、見えなくなる。

なんとか息を吐き出し、表示枠を開くと叫んだ。

「中央……突破されました……!!」

 

***

 

「突破された!? 中央が!?」

 武蔵野の右舷側、バリケードに隠れながら比那名居天子はそう叫んだ。

此方の戦況は膠着しており、敵が持久戦の構えを取っており思うように動けない。

『ああ、このままじゃ敵は武蔵野艦橋に辿り着く。なんとか動けないかい?』

 表示枠に映るネシンバラにそう言われ、部隊を見る。

敵の射撃が激しいため皆動けないでいた。

 この状況を突破できるのは自分か衣玖ぐらいだろう。

「私が行くわ。ここからなら間に合う」

『頼んだ━━!!』

 表示枠を閉じ、衣玖の方を見る。

ネシンバラとの会話を聞いていた彼女は此方に頷く。

「ここは私達にお任せください」

 衣玖に頷き返し、立ち上がる。

 建物の影に隠れ、様子を窺った。

敵も此方の出方を窺っているらしく、今は攻撃の手を緩めている。

 しばらく待ち、衣玖に合図を出す。

そして飛び出した。

 その直後敵から銃撃が起こるが衣玖が雷撃を放ち、部隊がそれに続いて射撃を行った。

そして何とかその場を離脱する事に成功した。

 

***

 

 部隊から離脱した後、武蔵野の路地を駆ける。

細く、薄暗い路地の角を次々に曲がり、武蔵野艦橋に続く大通りを目指した。

━━普段の散歩が役に立つなんてね!

 それにこの前馬鹿を追いかけたとき、武蔵野の道は把握した。

最後の角を曲がり、大通りに出ると正面に傭兵達の姿が見えた。

「見つけた!!」

 一気に加速し、距離を詰める。

最後尾の傭兵が此方に気がつき先頭の男に叫ぶと、傭兵たちは振り返った。

「特務級か!! お前たち、三人! 足止めしろ!!」

「了解!!」

 先頭を走る男の指示を受け槍斧を持った男が反転し、腰に提げていた物を投げつける。

物体は此方の前方に落ちると爆発し、煙幕を出す。

━━スモークグレネード!!

 駆け出した身を止められず煙幕の中に突っ込むとライフルによる射撃が行われた。

銃弾が顔を掠り、鼓膜を刺激する。

 このまま敵の正面に出るのは危険だ。

そう判断すると、横に飛んだ。

そして立てかけられている看板を発見するとそれに足を掛け、跳躍する。

 煙幕を抜け、商店の屋根に出ると正面を見る。

「やばっ!!」

 正面には槍斧を振りかざした傭兵。

「読まれてた!?」と驚愕しつつ後方へ跳躍する。

 槍斧は屋根を砕き、突き刺さる。

 相手の武器が突き刺さっている今がチャンス。

そう思うや否や駆け出す。

 相手は槍斧をを持ち上げるが間に合わない。

緋想の剣を構え、切りかかろうとした瞬間。槍斧の刃が展開した。

「!!」

━━ショックハルバードって奴!?

 刃から衝撃派が生じ、体が大きく吹き飛ばされる。

体を転がし、落下の衝撃を減退させるがそこに残りの二人が射撃を行う。

━━避けれないか!!

 直ぐに立ち上がるが銃弾が体に当たる。

顔を守り、路地に飛び込む。

 服には穴が開いたが幸い一発も銃弾は皮膚を貫通していない。

「……天人じゃなかったら即死だったわね」

 天人はその特性上体が非常に頑丈である。

物理的な弾丸であればある程度は防げるが流石に連続して喰らうと辛い。

 顔を守っていた右腕が赤く滲んでおり、皮膚に突き刺さった銃弾を引き抜く。

  路地から僅かに顔を出し、周囲を確認する。

敵の姿は無いが撤退したという事はないだろう。

既に敵の本隊の姿は見えなくなっている。

 「ちっ」と小さく舌打ちをすると表示枠を開く。

「逃したわ。残りの敵は九人、かなりの手錬よ。こっちも急ぐけどそれまで持ち堪えて」

『Jud.、 もう直ぐミトツダイラ君が着く。そっちも頑張ってくれ』

 ミトツダイラが居るなら大丈夫だろう。此方はあの三人を何とかしなくては。

そう思った瞬間、頭上から何かが降って来た。

「!!」

 何かは確認せず、大通りに飛び出す。

その直後、爆発が生じた。

 爆風によって体は吹き飛ばされ、反対側の家屋の壁に叩きつけられる。

「おいおい! あれだけ当てたのに無傷かよ!」

 自分が居た路地の上。そこに立っていた傭兵が驚愕の声を上げるが直ぐに銃を構えなおす。

「あんた達とは違うのよ!!」

 看板に手を掛け、銃撃を受ける前に投げつける。

 銃撃を行おうとした傭兵は直ぐに後ろに跳躍し、隠れる。

それを追撃しようとすると別の路地から傭兵が現れ、ライフルで此方を狙う。

「ああ、もう!!」

 数発当たるのは覚悟で飛び掛る。

七発が肩に当たり内、二発が貫通するが構わない。

 緋想の剣を振りかざし、傭兵を両断しようとするとライフルは銃を投げつけてきた。

緋想の剣で振り払い、ライフルが砕ける。

 敵は後方に下がろうとするがそうはさせない。

そのまま止まらず切りかかろうとすると横から槍斧を持った傭兵が出てきた。

「ちぃ!!」

 直ぐに緋想の剣で槍斧を受け止め、受け流す。

そして顔面に蹴りを放つと距離を取った。

 相手は血が止まらない鼻を押さえ、やはり距離を取る。

「ちきしょう、やりやがったな!」

「は! 女の子相手に複数で襲い掛かるからいけないのよ!」

 正面の敵に注意しながら周囲を警戒する。

残り二人、一人は武器を破壊したがもう一人は未だにライフルを所有している。

 銃を失った傭兵が合図を出し、槍斧の傭兵が頷く。

 どう来る?

そう構えると二人は踵を返した。

 此方にわき見も振らず、走り出し家屋の上に上る。

━━逃げる?

 何を企んでるにせよ追いかけなくては!

そう思い、自分も家屋の上に上った。

 敵は三人とも正面で合流しており此方に背を向けている。

それを追いかけようとした瞬間、背後から猛烈な悪寒を感じた。

 足を止め、振り返る。

その瞬間、頭に強烈な衝撃を受けた。

 額から血が噴出し、視線が大きく揺れる。

足の感覚が無くなり、上下の区別が出来なくなった。

そして気がつけば屋根から落ちていた。

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