緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十四章・『空を渡る忍び者』 基本的に良い人なんですよね (配点:援軍)~

「一番艦、二番艦共に武蔵の後方につきました」

分離した“日本丸”の第一艦橋。

その中で九鬼嘉隆は部下から報告を受け頷いた。

 <<赤い星座>>の飛空挺を送り届けた後両艦はステルス障壁を展開し武蔵の後方で合流、後方についた。

 現在は上陸部隊の援護、そして武蔵を北畠本隊と挟撃するため砲撃を行っている。

「後方! 徳川艦隊から砲撃来ますぜ!!」

「こっちはステルス張ってんだから、出鱈目の砲撃だ! それにこっちは鉄鋼船だ!! そう簡単には墜ちねぇ!!」

 とはいえ此方から砲撃を行っている以上、敵に位置は把握されているだろう。

ステルスは気休め程度にしかならない。

 今の状況、長引けば不利になるのは此方だ。

この勝負、あの傭兵どもにかかっているだろう。

 もしあいつ等が失敗したなら……。

そのときは北畠の大旦那の出番だ。

そうならないことを祈っていると二番艦のステルスが解除された。

「どうした!! なんで解除してる!!」

「て、敵の長距離攻撃です!! 敵はむ、武蔵の射殺巫女!!」

 船体を衝撃が走り、ステルス障壁が解除される。

━━巫女の術式払いか!!

 これで敵に丸見えだ。

「てめぇら!! 気合入れろよ!! こっからが本番だ!!」

「「応っ!!」」

 

***

 

「随分と腕の良い狙撃手が居るようだ」

 品川のデリックの上、狙撃銃のスコープを覗いたガレスが頷く。

発射地点は教導院の屋上。

そこから3km以上離れたステルス艦への射撃。

 矢は何れも船頭部の中央に当たっていた。

━━あれだけの狙撃手が居るならここは危険か?

 そう思いスコープを覗くが巫女は教導院の中に戻っていった。

巫女は人を撃てないそうだが実に勿体無い。

 傭兵なら良い稼ぎ手になるだろう。

 視線を武蔵野艦橋に向かうザックス達に移す。

彼らは既に眼前まで迫っておりそれを止めようとしている武蔵の兵士達を蹴散らしている。

━━支援はいらないか……。

 では先程仕留めた獲物を確認しよう。

先程の一撃は頭への直撃。

いかに銃弾を防ぐ皮膚を持っていたとしてもこの大口径の狙撃銃の前では無意味だろう。

 大通りに倒れる少女の姿を確認した。

額からは血を流しており、全く動かない。

 ライフルを持った傭兵が慎重に近づき、相手が死んでいることを確認しようとする。

そしてうつ伏せで倒れている少女を足で仰向けにしようとした瞬間、少女が飛び起きた。

「なに!?」

 少女は剣を切り上げ、傭兵の胸を裂く。

直ぐに援護の為、狙うが路地に逃げ込んだ。

「奴め、寸前の所で避けたか……」

 恐ろしく勘の良い小娘だ。

 胸を裂かれた傭兵は幸い軽症だったらしく直ぐに武器を構えなおした。

 だが狙撃手に高所を取られている限り、相手は不利だ。

次の一撃で決める。

 そう決意し、スコープを覗いた。

 

***

 

危なかった。

 敵の攻撃に気が付き、敢て足を滑らせたのが幸いした。

額を切られ血が止まらないが頭を撃ち抜かれるよりはましだ。

 とはいえ状況は悪い。

 頭に強烈な衝撃を受けたせいで未だに視線は定まらず、足元もふらつく。

その状況で敵は三人、うち一人は武器を失い一人は軽症、そして一人は無傷。

更に遠方から狙撃してきた奴がいる。

 眼前の敵を相手にするにも狙撃兵が居ては自由に動けない。

 どうしたものかと考えていると帽子がなくなっていることに気が付いた。

「…………あ!」

 慌てて大通りを確認するとそこには破けた帽子が落ちていた。

 お気に入りだったのに!!

 ぼろぼろになった帽子を見て、腹の底から怒りがふつふつと沸いて来る。

今すぐ飛び出して帽子を回収し、三人ぶっ飛ばして狙撃した奴をぶん殴りたいが不用意に飛び出したら死ぬのは自分だ。

 誰かに狙撃兵を何とかしてもらう。

そう思うのだがどうにも自分の性格は素直ではないらしい。

通神をしようとする直前で手が止まってしまう。

「……帽子の敵よ」

 帽子を見ながら頷き、思い切って表示枠を開いた。

 

***

 

『━━と、言うわけで狙撃兵が居るわ。別に私が苦戦してるからとかじゃなくて、あんたたちが被害受けるといけないから心優しい私が“しかたなーく”教えてあげてるわけ!

だから何とかしなさい! 直ぐに!!』

 何故か顔を赤らめ、怒鳴る天子が表示枠から消えると武蔵野艦橋は何ともいえない雰囲気になった。

「え、と? たすけて、ほしいの?」

「ですよねー。何というか中々難儀な性格で……」

 アデーレは苦笑しながらそう言うとネシンバラに通神した。

「だそうですけど……どうします?」

『そうだね……。敵の位置が不明な以上動きようが無い。だけどこのまま放置するのは危険だ』

 そうですよね。

 どこかに狙撃手が居ると分かった以上、皆動き辛くなっている。

第二特務のように一発二発受けても平気ならばいいが大抵の人間は狙撃銃で撃たれれば一発アウトだ。

「敵の位置を予測できる人が居れば良いんですけどねぇ……」

 そんな風に呟くと“曳馬”は「あの」と手を上げた。

「一人、それが可能な人物がこの武蔵に居ます」

「それは誰ですか?━━以上」

 “奥多摩”の質問に“曳馬”は頷き、表示枠を開いた。

「はたて様? 聞えていますよね? 私に盗聴器つけてばれてないつもりでしょうけど普通に気が付いてますよ?」

 表示枠から椅子や何やらがひっくり返る音が聞え、『い、ったぁぁぁぁぁぁ!!』と言う叫びが聞えた。

「そっちと映像繋げますよ?」

 『え、ちょ!』と慌てる声を無視し、“曳馬”は大型表示枠に映像を映した。

そこには天狗族の少女が映っており、彼女は後頭部を摩っている。

━━あれ? この人?

 確か岡崎に来ていたという新聞記者では? なぜ武蔵に?

と思っていると“奥多摩”が“曳馬”の方を見た。

「これはどういうことでしょうか?━━以上」

「Jud.、 彼女は武蔵に取材をしに来たと“言い張った”為、“しかたなく”宿を用意して差し上げました」

『おいこら! このポンコツメイドロボ! 嘘付くなーぁ!!』

 “曳馬”は彼女の抗議を無視する。

「此方の話は聞いていたと思いますので単刀直入に言います。貴女の念写能力を使って敵の狙撃兵を見つけてください」

『━━━━あんた、なんでそれ知ってるの?』

 相手の表情が険しくなる。

そこには先程までの抜けた感じが無く、獲物の様子を窺う鴉のものだ。

「寧ろ我々が貴女のことを調査してないと思いで? 此方にも幻想郷出身の方々は居ます」

 はたては『ち』と小さく舌打ちをすると視線を逸らした。

『それで? 私があんたに従うと思っているの?』

「Jud.、 貴女にとってこの状況は面白くないはず。なぜならばこのまま武蔵が撃沈すれば貴女は大した“記事”を書けずに“新聞社”に戻る事になります。

それは嫌ですよね?」

 はたては苦虫を噛み潰したような表情をする。

「それにイッスン様との約束を果たしてないはずですよ? イッスン様まだそちらに居ますよね?」

『おうよ!!』と応えたのははたての胸ポケットから現れた小人だ。

イッスンははたての頭の上に上ると跳ねた。

『はたてのネーちゃんよォ。このままじゃあ、アマ公を見つけられねェ。

どうにかできないのか?』

『……それは』

「昨日一日だけですが私は貴女とアマ公様を探している間、こう判断しました。

困っているお年寄りが居れば手助けし、子供と遊び、慈しむ。

貴女はやさしいお方です」

 “曳馬”がそう言うとはたては俯き、黙った。

誰もが二人に注目している。

 イッスンも心配げに下を覗き込むとはたてはイッスンを掴んだ。

そして胸ポケットに入れると携帯式通神機を取り出す。

『ああ、もう! 分かった! 分かったわよ!! 調べりゃ良いんでしょうが!!』

「ありがとう御座います。ツンデレのはたて様ならそう仰ると思っていました」

『やっぱりやめようかしら……』と半目になるはたてに微笑むと“曳馬”は此方に頷いた。

なんだかよく分からないが上手く行ったようだ。

「まったく、今度からは事前に連絡してください━━以上」

 “奥多摩”に言われ“曳馬”は頭を下げた。

「まあまあ、いいじゃないですか。上手く行きましたし」

 “曳馬”のフォローをすると“奥多摩”も頷いた。

「ところで、“曳馬”さんツンデレとかそう言う言葉、どこで知ったんですか?」

「Jud.、 以前榊原様がお読みになっていた“萌え!萌え! 戦艦娘 第三号”ですけど、なにか?」

 

***

 

・能筆家:『…………え!?』

・彦 猫:『おめぇ……』

・能筆家:『ち、違いますぞ! これは異界の事を知るためで、決して“新刊号の表紙の翔鶴ちゃん可愛いなー”とか! そう言うわけでは無いですぞ!!』

・無 双:『む? では先日拙者に頼んだ1/8スケール翔鶴木造、いらぬのか?

我ながら上手く出来たと思うのだが……』

・能筆家:『いる! というか某だけを責めるのは不公平ですぞ! 酒井殿も先日“曳馬”殿に茶を入れてもらってたではないですか!!』

・さかい:『あれは“曳馬”ちゃんに茶道を教えてただけだ』

・約全員:『“ちゃん”?』

━━さかい様が退出しました。━━

・彦 猫:『逃げたな……』

・能筆家:『ずるいですぞ! 某も“曳馬”さんに茶を入れていただきたい!!』

 

***

 

━━武蔵っていうか徳川ってもしかして馬鹿……?

 通神ハッキングして会話の様子は此方からも見ているのだが……。

うん、見なかったことにしよう。

 それにこちらがハッキングしている事もばれているだろう。

今見れているのは一般的な通神網、ちょっとしたチャットなどをするときの物だ

本当に重要な会話は別のセキュリティーが能力が高い通神網で行われるため手がつけられない。

抜けているように見えて実はしっかりしているのが武蔵だ。

 競争社会の天狗の里は自分にとって少し居心地が悪かったがこの国の雰囲気は嫌いではない。

「って、なに考えてんのよ!」

 半ば強制とはいえ狙撃手を探すと言ってしまったんだ。

約束した以上、責任は果たさなければ。

 携帯式通神機を開き、電源を入れる。

そしてそれを額につけると術式符を展開した。

 術式符は空中に舞い上がり砕けた。

そして砕けた流体粉は宿の窓から飛び立ち、武蔵中に広まって行く。

この流体粉が自分を媒体とし、通神機に映像を映す。

 見る。

武蔵八艦を。

 飛び立つ魔女。

 墜落し炎上する飛空挺。

 怪我を治療する極東の兵士。

そして、狙撃銃を構える男。

居た!!

場所はかなりの高所。

武蔵全体を見渡せ、下方にはコンテナが積み重なっている。

この場所は知っている。ここは確か……。

「品川!! そこの前から二番目のデリックの上!!」

 

***

 

「デリックの上か……。陸上部隊じゃ手を出せないな」

 狙撃兵が居ると知り、屋内に戻ったネシンバラは顎に手を掛けながら艦橋へ歩いていた。

既に狙撃兵が居る事は全部隊に知らせた。

 不意打ちによる被害は減るだろうが動きにくくなったのは事実だ。

「マルゴット君たち、対応できるかい?」

『んー、いまちょっとキツイかな!! さっきから飛空挺に追いかけ回されてて手一杯!!』

 双嬢が動けないとなると他の魔女隊を動かすか?

「いや、それは危険だ……」

 敵はかなりの手錬。

特務級以外が相手にするには危険すぎる。

━━藤原君に頼むか?

 そう思っていると表示枠に“曳馬”が映った。

『ネシンバラ様。どうせですのではたて様に協力していただいてはどうでしょうか?』

「それは……」

『いいわよ?』

 “曳馬”の映る表示枠の隣にもう一つ表示枠が開かれ姫海堂はたてが映る。

「……いいのかい?」

 此方の質問にはたては苦笑すると頷いた。

『乗りかかった……ていうか沈みそうな船を助けるだけよ。

それに後でちゃんと報酬は貰うけど、どうする?』

 報酬……何かしらの情報の譲渡の事だね。

今後の事を考えると彼女の要求を呑むのは危険かもしれないが今は現状の打破が最優先だ。

「Jud.、 報酬はあくまで“武蔵の”だけど、構わないかい?」

『“徳川の”と言うほどがめつくないわ』

 彼女の言葉に頷く。

『交渉成立ね。それじゃあ行って来るわ』

「あ、ちょっと待ってくれ! もう一人連絡したい人物がいるんだ」

 そう言うとはたては首を傾げた。

 

***

 

 銃弾が風を切り飛ぶ。

先端の尖った銃弾は浅草で対艦砲を持つ軽武神の右膝関節を砕き、軽武神は転倒した。

 その様子を見た近隣の武神たちは慌てて建物の影に隠れて行く。

「……流石に対応が早いな」

 品川のデリックの上、そこに寝そべりスコープの覗いていたガレスはそう呟くと狙撃銃に次弾を装填する。

 次に狙うのは武蔵野にいる武神だ。

朱色の装甲を持つ武神はパイロット合一式ではなく肩に乗せているため格好の標的だ。

だが、

「上手く動く」

 敵は此方の狙撃には気付いており、品川側に対して決して自分を曝さない。

武神の関節を狙い続けて攻撃してもいいがそれだけをする弾薬も時間も無い。

 この位置を取ってから結構な時間が経った。

そろそろ此方への迎撃が出るだろう。

━━次の一発を撃ったら移動するか……。

 そう思いスコープを覗き直すと武蔵野の後方、奥多摩の方から炎が飛翔した。

炎は空中で一回転すると翼を生やした。

 燃え上がる羽根を撒き散らし、嘶いた。

そしてもう一度空中で回転するとそれは不死鳥となった。

 不死鳥は翼を大きく広げ、此方への突撃を開始する。

「今川家に居た不死鳥か!」

 この銃ではあの炎の鎧を貫くことは出来ない。

直ぐに近隣の飛空挺に連絡すると、飛空挺が不死鳥の左側に現れ機銃による射撃を始めた。

それに合わせ狙撃銃を持ち上げ撤収の準備を始める。

 弾薬を箱に入れ、持ち上げようとすると頭上に影が差した。

━━上か!!

 直ぐに狙撃銃を垂直に構え敵影を確認する。

それは一直線に急降下を行っており黒い翼を折りたたんだ少女の姿であった。

 狙いを定めず引き金を引く。

衝撃で銃身が跳ね上がり体も仰け反る。

 放たれた銃弾は少女の左翼を掠っただけで外れた。

そして眼前に少女が着地した。

 

***

 

━━あの状態で当ててくるなんてねっ!!

 不意打ち状態からの目測射撃。

それを此方の翼に掠らせて来るとは。

 どうやらあの眼鏡の言う事は正しかったようだ。

自分一人で向かえば易々と迎撃されていたはずだ。

━━でも懐に飛び込めればこっちのものよ!!

 飛び込む。

身を屈めながらの跳躍。

 対して敵は上を向いた狙撃銃を振り下ろしてきた。

此方の頭頂部を狙った振り下ろしに対して体を捻らせると右側に回避する。

 狙撃銃は空振り、此方の腰元で止まる。

動きを止めた銃身側面への掌底。

その衝撃で狙撃銃を持っていた手が外側に向き、敵は無防備になる筈だった。

しかし敵は狙撃銃を手放した。

左手を腰にかけるとナイフを引き抜く。

「!!」

 敵はナイフを逆さに持つと刃を突き出してくる。

狙いは此方の喉、急所を狙った一撃だ。

 回避は間に合わない。

ならばと敢て飛び込む。

左手を突き出しナイフを持つ手を掴み、右手で襟元を掴むと背後に投げ飛ばした。

「文ほどじゃないけど私だって天狗よ!!」

投げ飛ばされた敵は地面を転がると腰の拳銃を引き抜きながら立ち上がる。

 三発連続しての射撃。

━━なんて反応の良い奴!!

 急ぎ上へ跳躍するが一発が下駄の底を砕いた。

翼を広げ反撃を行うとするが敵は空中に何かを投げた。

そしてそれに向けての射撃。

 あたりは一瞬で煙に包まれ視界を遮られる。

「煙幕!! しまった!!」

 慌てて煙から飛び出し敵を確認すると、敵はデリックの端に向かって走っていた。

そして端まで到達すると飛び降りた。

━━あの高さから降りる気!?

 敵が飛び降りた直後デリックの間を赤い飛空挺が通過する。

飛空挺は高度を取ると一気に離脱をして行った。

「……逃げられたわね」

 デリックの上に着地し飛空挺が飛び去った方を見るがその姿は既に見えなくなっていた。

 ともかく敵は撃退できた。

後は他の武蔵の連中の仕事だ。

「はあ、下駄、買わないとね……」

 割と気に入っていた下駄なのだが。

そう思い足元を確認するとそこには何か線のようなものが張ってあった。

何かと思いそれをなぞる。

 よく見れば線はデリック上にいくつもありそれはデリックの中央に向かっていた。

線の先を見ればそこには黒い機械の箱があり、それはつまり━━━━。

「爆弾!? 嘘でしょ!?」

 急ぎ跳躍するが上昇した直後爆発が生じた。

爆風が広がり、此方に迫る。

「ま、間に合わない!!」

 腕で体を守るがそれで防げるわけが無い。

目を瞑り、覚悟を決めた瞬間胸ポケットからイッスンが飛び出た。

「まかせなァ!! はたてのネーちゃん!!」

 彼は同じく胸ポケットに入っていたペンを持ち上げると空中に線を引いた。

その瞬間、突風が吹く。

 爆風が突風に押され横へ押し流されて行く。

そして目を数秒後には爆発が収まりデリックが倒壊を始める。

 その様子に暫く空中で呆然としているとイッスンが頭の上で跳ねる。

それをつまみ手のひらに載せると別のデリックの上に着地した。

「……あんた、何者よ?」

 イッスンはその小さな体を反らすと高らかに叫んだ。

「オイラこそ天下に名高きコロポックルの英雄! 天道太子のイッスン様だい!!」

 そして大きく跳躍し、此方の右肩に乗る。

「ヨロシクな!! 鴉天狗のネーちゃん!!」

 

***

 

 戦場を急速離脱する飛空挺の中。

ガレスは表示枠を開き、ザックスと通神を行っていた。

「━━というわけで、此方は撤退した。そっちは自力で何とかしてくれ」

『了解だ。こちらももう直ぐ武蔵野艦橋に到着する。お前は撤収する部隊を回収してくれ』

 ザックスの言葉に頷き表示枠を消すと近くの椅子に腰掛けた。

そして背もたれに寄りかかると飛空挺の天井を見る。

「…………狙撃銃、置いてきてしまったか」

 

***

 

 浅草の載積地区。

そのコンテナとコンテナの間に爆発が生じた。

 爆風により数人の傭兵が吹き飛び、慌てて貨物の裏に隠れた傭兵たちは慎重に爆発の生じた方を見る。

爆煙から両腕を義腕にした少女が現れ、彼女は空中に浮かべた四つの砲を貨物に向ける。

「“十字砲火”!!」

 貨物が破砕し、裏に隠れていた傭兵が吹き飛ぶ。

残った傭兵たちはその様子に唾を飲むと、踵を返した。

「お疲れ様です。誾さん」

 後ろから声を掛けられ、立花・誾は振り返るとそこには自分と同じく傭兵団の撃退をしていた立花・宗茂の姿が有った。

「宗茂様……。そちらはどうでしたか?」

「ええ、三部隊ほど片付けましたが戦況は芳しくありませんね。ここにも<<赤い星座>>が降下したそうで、今からそっちに向かおうと思っています」

「それほどまでの手錬ですか?」

 「Jud.」と宗茂は頷く。

「それに武蔵野上に戦闘用魔獣の発見の報告があります。向こうはかなり大変そうですね」

 言葉ではそう言うものの救援に向かわないのは彼らを信頼しているからだろうか?

よくよく考えると自分もあまり心配しておらず、“まあ彼らなら何とかするだろう”とそう思っている。

 他の人たちもそうなのでしょうか?

他で戦っている連中も互いを信頼し、自分の仕事に専念しているのだろうか?

ならば自分のするべき事は。

「宗茂様、このまま敵を船首の方に追いやりましょう」

「Jud.、 それが結果として一番皆のためになりますからね」

 宗茂が手を差し伸べた。

それを取り、駆け出す。

 そして二人は載積地区を一気に抜けた。

 

***

 

 ネイト・ミトツダイラは武蔵野艦橋前に到達すると艦橋防衛部隊と共に敵を待ち受けていた。

 敵は既に目前まで迫っており、もう間もなく現れるだろう。

此方の戦力は30人ほど。

精鋭部隊を相手にするには心もとない。

━━ここはやはり私が頑張らなければいけませんわね。

 ここを突破されれば武蔵野艦橋が、更に我が王と姫が危険に曝される。

それだけは何としてでも阻止しなくては。

そう決意すると正面から赤い装甲服の集団が現れた。

 軍団は此方に気がつくと先頭の男が静止させ、艦橋守備隊と対面する形になる。

「武蔵アリアダスト教導院、第六特務ネイト・ミトツダイラ。申し訳ありませんがここで引き返して頂きますわ」

 先頭の男━━ザックスが大剣を構え、前に出る。

「悪いな嬢ちゃん。こっちも仕事だ、突破させてもらう!!」

━━来ますわね!!

 ザックスは大剣を下段で構え、駆け出す。

それに続き残りの傭兵達が続いた。

 ザックスの攻撃を援護するためのライフルの連射が行われ、それを防ぐために銀鎖でバリケードの一部を持ち上げる。

 銃弾がバリケードに当たり、金属が弾ける音が止むと持ち上げたバリケードを投げつけた。

 それに対し傭兵団は二つに分かれ突破を狙う。

「射撃隊、一斉射撃!!」

 自分の後方で待機していた守備隊が長銃による一斉射撃を行い、敵集団の足を止めた。

そこで気が付く。

最初に突撃してきたザックスがいない事に。

━━正面ですわね!!

 地面に突き刺さったバリケード、その裏からバズーカを構えた男とザックスが現れる。

バズーカから弾頭が発射され、此方を狙うがそれに対して自分がする事は。

「叩き弾く!!」

 直線的に飛んでくる弾頭を捉え、水平の平手打ち。

それにより弾頭は横に逸れ、至近の壁に当たった。

「冗談だろ!?」

 驚愕するバズーカ兵と違いザックスは冷静だ。

彼は弾頭が外れるのを見るや否や突撃の速度を速め、大剣の間合いまで詰めてきた。

「━━銀鎖! 二本追加!!」

 腰元のハードポイントから銀鎖を追加し、自分の下方で交差させると切り上げられる大剣を受け止めた。

だが相手は止まらない。

 大剣を持っていた左手を離し、胸に携えていたナイフを引き抜くと此方の顔面目掛けて投げつけて来る。

「!!」

急ぎ顔を反らし、ナイフを避けるが前髪が数房もって行かれた。

敵はその間に距離を離し、構える。

そして背後、来た道を見ると口元に笑みを浮かべた。

ザックスの背後、新たに二人の傭兵団が駆けつけた。

援軍はそれだけでは無い。

 その二人の背後から5つの小さな影と、一つの大きな影が現れる。

それは鎧を着た五匹の犬と一匹の獅子であった。


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