緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十五章・『咆哮上げる純情者』 獅子と 魔獣と 御犬様 (配点:動物園)~

━━戦闘用魔獣……!!

 ゼムリア大陸出身の傭兵団が魔獣を戦闘用に訓練しているという話は聞いた事があったが、獅子まで運用しているとは!

 戦況は一気に悪くなった。

戦闘用魔獣の出現に気を取られた守備隊を突破し、傭兵団は武蔵野艦橋に向かっている。

 それを追撃しなくてはならないが今、ここで背を向けるのは危険だ。

獅子が一歩前に出、咆哮を上げる。

 低く威圧するような叫びが武蔵野を包み、思わず気圧される。

・俺  :『ネイト! ネイト! ここはお前もやり返せ! こう「あおーん」って!!』

・ホラ子:『獅子vs狼。意地のぶつけ合いですね。さあ、どうぞ思い切って行ってみましょう』

・銀 狼:『あの、それやら無くてはいけませんの……?』

・賢姉様:『いい? ミトツダイラ、ここで貴女が対抗しなければ敵を前に武蔵の騎士が一歩引いた事になるのよ? だからレッツ御犬プレイ!! わおーんって!! わおーんって!! いいわ! なんか楽しくなってきたわぁ!!』

 狂人は無視するとして、確かにそうかもしれない。

自分は武蔵の騎士。

相手が名乗るのなら、それに相対せねば!

 先程獅子がやったように一歩前に出る。

そして獅子の双眸を睨みつけ、大きく息を吸った。

「━━━━あぉおお━━!!」

 静まる。

 軍用犬たちは狼の遠吠えに一歩下がり、獅子は不動だった。

「ォォォォォォオオオッ!!」

 獅子が身を震わせ、天を仰ぐ。

「あぉおおおお!!」

「ォォォォォォオオオッ!!」

「あぉおおおお!!」

 

***

 

・天人様:『なんか聞き覚えのある遠吠えが聞えるんだけど……。なにしてんの?』

・賢姉様:『ライオンがイケボブッパしてそにれ対抗してミトツダイラのテンションも有頂天を突破してアニマルカーニバルよぉぉぉ!!』

・天人様:『……誰か!?』

・あさま:『要するに獅子が叫んだらミトもテンション上がって叫んで、大合唱してるんです』

・天人様:『………………誰かっ!?』

・未熟者:『いや、だいたい合ってるから落ち着こう』

・天人様:『ああ、うん。いつも通り馬鹿やってるって事だけは分かった』

・労働者:『分かっているなら言わなくて良い』

 

***

 

━━やりますわねっ!!

 いい加減息が上がってきた。

獅子も自分と同じようで体を揺らし、大きく呼吸している。

獅子の意地か相手は絶対に視線を逸らさない。

 見事な意地だ。

ならばそれに対して最大限の敬意を持って立ち向かおう。

 息を大きく吸う。

肺に限界まで息を溜め、喉を開く。

そして拳をきつく握ると天を仰いだ。

「ぉぉぉぉぉぉぉ!! ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 咆哮が伊勢の空を切り裂く。

渾身の咆哮。

 額から汗が垂れ、やりきった達成感が全身を包む。

━━どうですの!!

 勝ち誇った表情で獅子を見れば、そこには意外な表情があった。

「くぅーん……」

 獅子は眉を下げ、口元を歪めその視線は先程の威圧的なものからなんだか熱っぽいものに……。

「……え?」

 

***

 

・ウキー:『これは、アレか? アレなのだな』

・煙草女:『なんというかまあ…………』

・傷有り:『まあ、点蔵様? 武蔵野の方から喜びの気が漂ってますよ。でも一体何方が?』

・十ZO:『メアリ殿、人生というのは色々有るので御座るな。その喜びの気は恐らく獅子のものでそれはつまり、えーっと?』

・賢姉様:『LOVEよぉ━━━━━━!!』

 

***

 

━━えーーーーー!!

 ど、どうしますの!?

こんな事予想してなかった。というか予想できるわけが無い!!

 獅子は先程からもじもじと前足を交差させており、完全に恋するアレだ。

どうしますの!! とザックスを睨みつけると、彼は困ったように視線を逸らした。

と、とにかく何とかしなくては!!

・銀 狼:『ど、どどどどどどどどどどうしましょう!!』

・あさま:『落ち着いてくださいミト! ただ戦闘中に獅子にLOVEされただけです! うん! 何も問題ありません!!』

・銀 狼:『問題大有りですのよ!!』

・ホラ子:『これには流石のホライゾンも少々驚いております。ミトツダイラ様に獅子がオプションパーツで付くと布陣を少々考え直す必要が有りますね』

・俺  :『あー、流石にうちじゃあ流石に獅子は飼えねーなぁ』

・銀 狼:『あ、あれ? どうして私と獅子がくっ付く方に!?』

・賢姉様:『そんなの決まってるじゃない━━━━その方が楽しいからよ!!』

・銀 狼:『だと思いましたわ!!』

・● 画:『く、くそ! 飛空挺をやり合ってなかったらソッコーでネーム切ってるのに!!

誰か録画してない!? なるべくアニマルカーニバルの辺りから!!』

・○べ屋:『ばっちり録画してあるけど……いくらから買う?』

・守銭奴:『ちなみ今さっき六護式仏蘭西に高値で売れた。買取人は人狼女王だ』

・銀 狼:『最悪ですのよぉ━━━━━━!!』

・不退転:『それで? どうするのかしら? こういうのはしっかりと応えなきゃ駄目よ? 男ってすぐ付け上がるから』

・ウキー:『成実よ、なぜ拙僧を見る? さては更に惚れたな!!』

・不退転:『既に上限来てるのに更に上があるの?』

・約全員:『おおう……』

 た、確かにこのまま答えをはぐらかすのは良くないだろう。

互いの事を考えるならちゃんと答えなくては。

 そう思い一度咳きを入れると獅子の目をしっかりと見た。

「私は武蔵の騎士。仕えるべき王が居て、私は王と共に歩もうと思っていますの。

だから、その、貴方の思いに応えることは出来ませんわ」

 頭を下げた。

誠心誠意の言葉。自分に好意を持ってくれた相手を拒絶するのは若干心が痛むが仕方が無い。

 ゆっくりと頭を上げると、目の前の獅子は俯いていた。

そして体を小刻みに揺らし、泣いた。

見事な男泣き。

「グッォッォォォォォォ!!」

 滝のような涙を流しながらの突進。

獅子はその巨大な前足で薙いで来た。

 

***

 

 獅子の腕は見た目より長く、回避のため後方に跳躍した此方の腹を掠った。

騎士服が破け、傷が出来る。

 獲物を逃した獅子は再度跳躍を行い此方と距離を詰めてくる。

四肢を使った跳躍。

その速度は自分の跳躍速度より速い。

ならば、

「銀鎖!!」

 肩の銀鎖二本で近隣の壁を掴み体を引き寄せる。

壁に足から着地すると、壁を蹴り着地態勢に入っている獅子に対して牽制を狙う。

 しかし此方が飛んだ直後、獅子の背後からザックスが現れた。

 大剣を上段に構え、振り下ろす形。

回避を行うために腰の銀鎖を地面に向けて射出し、その衝撃で横に飛んだ。

 緊急回避のため着地態勢は取れない。

地面に近づくと両腕で地面を殴り、跳ねる。

 着地すると直ぐに次の攻撃を行おうとするが横から何かが飛び出して来た。

それは獅子の背後にいた犬型の戦闘用魔獣であり、頭部には刃を取り付けた装甲をつけていた。

 軍用犬の刃がこちらの首を狙う。

「━━!!」

 咄嗟に軍用犬の頭を掴み、投げ飛ばすが既にもう一匹が背後に回りこんでいた。

「くっ!!」

 数が多いですわ!!

 敵は軍用犬二匹と獅子が一匹、そしてザックスが此方に付いており、残りは守備隊を相手にしている。

 この状況まずいですわっ!!

現状打破の為に出来る事それは、

「頭を潰しますわ!!」

 飛び込んだ。

狙いはガレスただ一人。

軍用犬を引き離し、獅子の腕を抜け、ザックスの目前に飛び込んだ。

 

***

 

「敵部隊、武蔵野艦橋に侵入しました。間もなくここに到達します━━以上」

 “武蔵野”のその言葉を聞き、アデーレは立ち上がる。

艦橋には屋上から退避してきたネシンバラ、女装、ホライゾンと鈴がおり、この面子で動けるのは自分だけだ。

「書記、作戦指揮の方お願いします」

「Jud.、 僕に任せておけば万事上手く行くよ」

「急激に不安要素が上がりました━━以上」

 “武蔵野”のツッコミにネシンバラは「またまた」と手を仰ぎ笑うが“武蔵野”他自動人形達の表情は険しい。

━━書記の作戦って見た目重視ですからねー。

 そのせいで度々船を損壊させ、艦長たちからはあまり評判が良くないようだ。

「では、私もご一緒しましょう」

 そう言ったのは先程まで総長と100連ジャンケンして100連勝していた“曳馬”だ。

彼女は崩れ落ちている総長を跨ぐと此方の横に立った。

「あれ? “曳馬”さん大丈夫なんですか?」

「Jud.、 一応白兵戦スキルは所持しておりますし白兵戦経験を持ついい機会です」

 「武器は?」と確認すると“曳馬”は二律空間から長銃を引き出した。

それは通常の長銃よりやや長めの銃身を持っており、葵紋が刻まれていた。

「狙撃用の銃ですか。でもスコープは?」

「スコープでしたらここに」

そう行って“曳馬”が自分の瞳を指差すと納得した。

そういえば目が良いって言ってましたっけ。

 浅間さんといいどうにもうちには肉眼狙撃をする人が多い気がする。

 ともかく今は一人でも戦える人が居たほうが良い。

「それじゃあ、行きましょうか?」

 

***

 

 艦橋へ繋がる通路。

その通路に様々な物が無造作に積み重ねられバリケードのようになっていた。

「おい! 障子ってバリケードになるかな!!」

「誰だ! 俺の1/8スケールフィギュア置きやがったのは!!」

「というか、こんなんじゃあっと言う間に突破されるぞ!!」

「て、言ってもなぁ……他にバリケードになりそうな物なんて……」

『みなさーん! 援護しに来ましたよー!』

 背後を振り返り機動殻が向かってくるのを見ると男達は頷きあった。

 

***

 

 守備隊を突破し武蔵野艦橋部に侵入した<<赤い星座>>の傭兵たちは艦橋間近に迫っていた。

次の角をを曲がれば武蔵野艦橋まで一直線だ。

 通路の先頭を走っていた男が壁に背を付け、慎重に角を覗き込む。

「!?」

「おい……どうした?」

 別の男が角を覗き込むと通路の真ん中に何か丸い物体が鎮座していた。

「……ありゃ、重装甲型の機動殻か?」

 その背後には数人の守備隊がおり、長銃を構えている。

「機動殻を緊急用のバリケードにしたか」

 だが敵の数は少ない。

先頭の男がハンドサインで一斉射撃を命令すると、傭兵たちは一斉に角から身を乗り出し射撃を行った。

 連射される銃弾が機動殻の装甲に弾かれ、兆弾が壁に当たる。

『あいた、いた、たたたたたたたたたたたたたたっ!!』

 機動殻から奇怪な叫びが聞えるが機動殻には傷一つ付かない。

━━なんという装甲だ!

 射撃中止の命令を出し、バズーカ砲を持った男に命令を出すと男はバズーカ砲を機動殻目掛け放った。

 弾頭が機動殻の頭部に直撃し、爆発が起こる。

『あいたぁーーーーー!!』

 しかし敵は倒れなかった。

それどころか装甲は以前と変わらず傷一つ無い。

「じょ、冗談だろ!? 装甲車の装甲を貫ける砲弾だぞ!?」

 機動殻は頭を摩り、腰に手を当てると此方を指差した。

『何するんですかぁー!! 全く、怪我するかと思ったじゃないですか!!』

 信じられないことがあの機動殻の装甲は並大抵の戦車以上のようだ。

ならば、

「突撃するぞ! 接近戦で仕留めろ!!」

「「了解(ヤー)!!」」

 まずショックハルバードを持った男が飛び出した。

その後に続こうと他の傭兵たちが接近戦用の武器を構えた瞬間、飛び出した男が吹き飛んだ。

 男は壁に叩きつけられ、ショックハルバードを床に落す。

━━な、なんだ!?

誰かが叫んだ。

「狙撃だ! 狙撃兵が居るぞ!!」

「この、狭い通路で狙撃だと!?」

 二発目の狙撃が逃げ遅れた男の肩を貫いた。

 

***

 

 通路の奥、前面で足止めをしているアデーレの後方約50m程の所で“曳馬”は長銃を構えていた。

 一発目、二発目共に直撃。

残りは通路の角に隠れた。

 自動人形の自分には敵の様子がはっきりと見えており、弾道機動の調整も重力制御で行っているためこの距離なら万が一にも外す事は無い。

 敵は角から身を乗り出さなくなり銃身だけを此方に向けて射撃している。

「おや、これでは狙えませんね……」

隠れてしまっては直線的に飛ぶ銃弾を当てることは出来ない。

でしたら……。

高速思考で銃弾の軌道を計算し、狙いをつける。

 狙うのは角近くの左壁。

最後の調整を終え、引き金を引くと重力制御で通常より加速した弾丸が放たれる。

 銃弾は壁に当たり、弾かれ今度は置くの壁に当たった。

そして二度目の兆弾の後、弾丸は角の方に消えていった。

 暫く立った後、武器が床に落ちる音が床伝いに聞えてくる。

━━これで三人目ですね。

 残るは六人。

この調子なら対応できますね。そう思った瞬間銃弾が此方の頬を掠った。

「…………おや?」

 背後を振り返れば床に銃弾が落ちている。

次に見るのは左側の壁。

そこには銃弾が当たった痕がある。

━━私の真似をして撃ってきましたか……。

 先にやったのは自分なのだから使用料を請求するべきでしょうか?

ともかく今のは当てずっぽうの射撃だろうがこれをやられると厄介だ。

「では射撃数を増やしましょう」

 二律空間から新しく二丁の長銃を取り出し、重力制御で自分の両側に浮かべる。

━━正確性は下がりますが、遅滞攻撃には最適です。

 三つの銃の狙いを定める。

そして引き金を引く前に思い出した。

 そういえば以前、井伊直政様が戦うときに相手に言うといい言葉があると言っていた。

たしかそれは……。

「くたばりやがれこの不能野朗!!」

 満面の笑みで引き金を引いた。

 

***

 

━━はて、またで御座るか……。

 自分は敵の胸を完全に貫いた筈だ。

しかし敵は自分の遥か前方に居た。

「ふむ、拙者先程までこう蜻蛉スペアをグサッと突き刺して“獲ったどーぉ!!”とやるつもり御座ったのだが……」

「……さらっと怖い事言うね……」

 最初の時と同じで御座るな。

あの時も敵はなんの動作もなく此方との距離を詰めてきた。

敵の能力はおそらく、

「対象との距離操作で御座るな」

「ご名答。あたいの能力は“距離を操る程度の能力”。あたいの前ではいかなる物理的距離は意味を成さない」

━━厄介に御座るな……!

 接近戦を得意とする自分にとっては相性の悪い相手だ。

敵が此方との間合いを自由に操れるなら、それはつまり全てが“敵の間合い”であり“此方の間合いの外”という事になる。

 どうする?

 敵が自在に距離を操れるなら此方から動くのは危険だ。

ならば敵の攻撃に合わせたカウンター攻撃で御座るか?

 そこでふと気になることがあった。

敵は此方との“距離”を操ると言ったが、高さはどうだろうか?

 一度目も二度目も敵が操作したのは自分と同じ高さの距離だ。

もし敵が高さまでは操作できないのならそこから攻略の糸口となるかもしれない。

 とりあえず試してみるで御座るか……。

 

***

 

 小町は敵の動きを見た。

敵は後方に大きく跳躍を始め、此方との距離を取りはじめた。

━━様子見のつもりか……?

 間合いを離し、此方の動きを見てから動こうという判断だろうか?

だが無意味だ。

どんなに間合いを離した所で此方は一瞬で間合いを詰めれる。

 先程の交戦で分かったがこの敵に対して攻撃の隙を与えるのは危険だ。

一気に勝負をつける気で行かなくては。

「━━詰めろ!!」

 敵の方向を睨みつける様に両眼で見、術式を展開させる。

薄い霧状の流体が全身を包み、次の瞬間には敵が拡大された。

否、敵が拡大された分けでは無い。

急接近によりそう視覚的に見えただけだ。

 鎌を腰元で持ち、横へ薙ぐ為の構え。

そして敵が眼前まで来た瞬間に鎌を薙ごうとした瞬間、一つの動きを見た。

 後方へ跳躍していた敵は地面に着地する瞬間に槍の石突で地面を突いた。

「伸びろ! 蜻蛉スペア!!」

 弾丸が射出されるように敵は上空への再跳躍を行う。

━━なに!?

 敵との間合いを詰める能力は敵との位置が重なったためその効果を失い体が停止した。

「上方へ逃れれば距離を詰められても攻撃は受けない、そう判断したのかい!?」

 敵は「そうだ」と言うように空中で身を翻し、槍の先端を此方に向ける。

「伸びろ!! 蜻蛉スペア!!」

 槍が伸び、此方の胸を貫くように迫るが此方も咄嗟に鎌の石突を天に向けた。

石突を槍の刃にぶつけ、逸らすと敵はそのまま柄による叩きつけに攻撃を替える。

「━━離せ!!」

 敵が此方の頭頂部を叩き割る直前に距離を離した。

先程まで大きかった敵の姿は再び最初と同じ大きさになり、着地した様子が窺える。

 今のは危険だった。

一つでも迎撃の判断を誤れば死んでいただろう。

 死神が死に恐怖するとわね……。

 額の汗を拭い、息を整える。

 同じ手は使えない。

敵は今の攻防で此方の能力を完全に見切った。

 それだけの事が出来る相手なのだ。

そして彼女はそれが出来なければ死ぬような世界を渡り歩いている。

「まったく、外の世界……未来の世界ってのは怖いねぇ」

 さて、どうしたものか。

映姫様ならこの状況を易々と打破して見せるのだろうが生憎自分にそこまでの才は無い。

 相手は“戦いの達人”。

それを相手に船頭がどう対抗すべきなのか……。

━━まあ、搦め手だろうねぇ……。

 正面から行けないのなら裏口から。

より楽なほうに行くのが自分のポリシーだ。

もっともこんな事してる時点でポリシー無視している気もするが。

「ま、たまには本気の戦いってのも良いか」

 口元に浮かぶ笑みを隠し、表情を引き締めると鎌を構えた。

 

***

 

━━来るで御座るな!!

 敵の雰囲気が変わった。

先程まで自分と相対している死神は本気の中、ある程度の余裕を持っていたがそれが変わった。

 不純物の無い、純粋な本気。

獲物の命をその大鎌で刈り取ろうという死神そのものだ。

 敵が一歩踏み込む。

「!!」

 危険を察知し、横に跳躍すると地面を光の皹が走った。

「これは最初の技で御座るか!」

 皹から霊魂型の流体が噴出し、眩い光があたりを包む。

だがそれだけではなかった。

 二つ目の皹が来たのだ。

皹はこちらの跳躍先に向かっており、このままでは皹の上に着地する。

 それを回避するため蜻蛉スペアを地面に向けると伸ばし、石突が地面を突いた衝撃を利用してブレーキをかけた。

 一つ目の皹と二つ目の皹の間に着地すると周囲の異常さに気がつく。

 敵が放った皹は全部で六つ。

自分を中心に六方に放たれた皹は霊魂を噴出し、周辺を霊魂で埋め尽くしていた。

「これは…………」

「鳥篭さ。戦場を自由に駆け回る鳥を捕まえる為のあんた専用の篭。

さあ! 武蔵副長、この状況、どう打開する!?」

 

***

 

「よし、止血したし足もふらつかない」

 路地の中、比那名居天子は一回軽くジャンプし自分の状態を確認する。

眼鏡からの連絡で狙撃兵が撤退した事は聞いた。

だが依然として数の不利はあり、状況は芳しくない。

 敵も此方が傷を癒している内に態勢を立て直したらしく軽症を負った男が応急治療を終え、ライフルを失った男がハルバードを持った男から予備の直剣を受け取っていた。

━━能力をフルに使えればいくらでも打開できるんだけどね……。

 航空艦の上では自分の大地を操る能力は使えず、緋想の剣頼みだ。

「遠距離戦できるのが一人、残り二人は接近戦用装備か」

 ならばまずはライフル持ちを狙う。

交戦中に援護射撃を受けるのは避けたい。

 慎重に路地から大通りの様子を窺い敵の位置を確認する。

敵は三角形に陣を組み、ライフルを持った男が後ろ残り二人が正面だ。

 路地に置いてあった桶を掴むと飛び出す。

 まずは桶を投げつける。

此方の奇襲を警戒していた敵は直ぐに直剣で桶を払うが予想済みだ。

今はその僅かな隙が重要となる。

 敵二人の間合いに飛び込むとハルバードを持った傭兵が横薙ぎにしてくるが体を限界まで低くし、ハルバードの下を潜り抜ける。

 直剣の傭兵も剣を振り下ろすが直前の桶を払った動作が会った為、刃が下に振り下ろされる頃には二人の間をすり抜けていた。

 ライフルの男が後退しながら此方に射撃を行うが“気符「無想無念の境地」”を展開し、銃弾を正面から受けながら追撃する。

━━頭と心の臓さえ無事なら!!

 敵は射撃が無意味と悟るとナイフに持ち替えようとするがもう遅い!

渾身の斬撃を敵の右肩に叩き込み、緋想の剣が肩の装甲を砕き肩の骨の真ん中まで至る。

「が」という鈍い叫びをあげ傭兵が倒れると剣を引き抜き振り返る。

「次!!」

 敵は既に突撃を仕掛けており直剣を持った傭兵が剣を突き出してきた。

 それに対し緋想の剣の石突で直剣の刃を叩き、逸らすと傭兵の腹部へ膝蹴りを入れた。

衝撃で体勢を崩す傭兵の横を抜け、残りの一人目掛け駆け出す。

 傭兵がハルバードを突き出すのと同時に跳躍しハルバードの刃の上に乗る。

そして再度の跳躍。

 相手の背後を取ろうとした瞬間横から何かが体あたりをしてきた。

━━……なに!?

 地面を転がるように落ち、直ぐに立ち上がるとハルバードの傭兵の後ろには鎧を纏った犬型軍用魔獣が居た。

 そして背後からの気配。

それに振り返ればそこには二匹の犬型軍用魔獣と一人の傭兵が回りこんでいた。

━━このタイミングで援軍!?

「随分と好き勝手やってくれたな! 小娘!!」

 傭兵がライフルを構えると魔獣たちが飛び掛った。

 そして此方に牙を突き立てようとした瞬間、背後の二匹が吹き飛ぶ。

 近くの家屋の壁に叩きつけられた魔獣は悲鳴を上げ、地面に落ちる。

「…………シロ?」

 自分の目の前には見慣れた白い犬がいた。

犬は此方に一瞥すると天に向かって大きく咆哮する。

その直後、犬の周りに流体が集まり、爆ぜた。

 全身を威圧するような、それでいて全てを慈しむ光。

それが晴れ、目を開けるとそこには一匹の“オオカミ”が存在した。

 眩い白い体毛に隈取のような赤い線を入れた“オオカミ”は此方に振り向くともう一度大きく咆哮を上げた。

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