緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十六章・『船渡りの大神』 実は凄いんです (配点:アマテラス)~

 

「なによ……この神力……」

 狙撃兵ガレスを撃退した後、上空で偵察を行っていたはたては武蔵野で生じた流体の爆発を見た。

 今は流体の光が収まり元に戻っているが武蔵野からははっきりとした圧迫感を感じる。

この圧迫感は神々が放つ神力であり、自分が知っている中でも相当上位のものだ。

━━武蔵にこれ程までの神格を持つ神が居るなんて聞いてないわ!

 もしこの神格の所持者が徳川所属ならば真田や武田にとって大きな障害となる。

情報を集めようと思った瞬間、胸ポケットのイッスンが頭の上に乗った。

「ようやく見つけたぜ! はたてのネーちゃん、さっきの光のところに言ってくれ。そこにアマ公が居る」

 イッスンの言葉に頷きかけたが、ふと引っかかった。

━━あの神力の所に居る?

「ちょっと待って、あんたの探してるアマ公ってもしかして……」

「おう! オイラの相棒はアマ公ことアマテラスオオカミの事だィ!!」

 

***

 

・未熟者:『アマテラスオオカミだって!?』

・賢姉様:『知っているの、眼鏡!』

・未熟者:『天照大神は太陽を神格化した神で極東つまり神代の時代の日本民族の総氏神とされているんだ。皇室の祖神で、その事を説明すると長くなるけど聞きたい? 聞きたいよね! じゃあ……』

・俺  :『ともかくすげー神様って事だな!』

・ホラ子:『おや、トーリ様にしては分かりやすい説明を』

・あさま:『うちが奉っている木花咲耶姫も天照大神の孫である瓊瓊杵尊の妻ですから天照系列の神って事ですね。

というか神道においては天照大神は頂点となる存在です。

伊勢神宮の内宮、つまり皇大神宮や天岩戸神社で奉られていますね』

・未熟者:『…………』

 慈母・アマテラス……? シロが……?

にわかには信じられないことだが目の前でシロが圧倒的な神力を放っていることは事実だ。

あれ? つまり私、天照大神に餌付けしてたの……?

 なんだか物凄い事をしてしまったような気がするが、もう過去の事だ。

うん、気にしない。

・貧従師:『あれ? 私アマテラスさんにお手とか伏せとかあまつさえちんちんとかさせてましたけど……やばくないですか?』

・あさま:『はい、さっき上の方に聞いた結果「まあ知らなかったみたいだし」「天照様楽しんでたし」「というか厳密にはうちの神とは違うし」という事で無罪っぽいですよ。よかったですねー』

・貧従師:『ちなみに有罪だった場合は……』

・あさま:『三日間ナメクジが頭の上に振ってきて、毎朝背筋違えて、寝る前に箪笥に必ず小指をぶつける罰ですけど……?』

 あ、危なかった!!

なんかもう罰の内容が神道関係ないような気がするが危うく悲惨な目にあうところだった。

 アマテラスが此方の傍に寄ると魔獣を睨みつける。

戦闘用魔獣たちは最初の神力に当てられ戦意を喪失しており後ずさる。

「ど、どうした!? 相手は犬一匹だぞ!!」

魔獣を引き連れていた男が激を入れると一匹の魔獣がアマテラス目掛けて飛び出した。

兜と合一したブレードを振るいアマテラスの胴を薙ごうとするがアマテラスは上方へ跳躍した。

空中で一回転をすると背中に剣を召喚し、下方。

 魔獣の背中に叩きつける。

魔獣は地面に叩きつけられるとバウンドし、空中に浮く。

そこに後ろ足で蹴りを入れ、魔獣を吹き飛ばした。

 その一連の動作後、状況は一気に動き出した。

まず動いたのは残りの戦闘用魔獣だ。

 空中に浮いているアマテラスの下方に入り込み敵の腹部に刃をぶつけようとするがアマテラスは空中で回転すると背中を敵側に向け、鏡を召喚した。

 刃と鏡が激突し、甲高い金属音が鳴り響く。

 戦闘用魔獣は攻撃に失敗した事を悟るとそのままアマテラスの下方を駆け抜け此方目掛けて突撃してきた。

それに合わせ背後のショックハルバードを持った傭兵も動き出す。

 挟み撃ちの状況。

まず対処すべきは足の速い戦闘用魔獣だ。

戦闘用魔獣はアマテラスへの攻撃をした体勢のまま突撃を行っているため低姿勢であった。

それを飛び越えるように前に跳躍し、上空でのすれ違い際に緋想の剣を上部の装甲に叩き込む。

 衝撃を受けた戦闘用魔獣は地面を滑る様に吹き飛び、反対側の傭兵の足を遅らせる。

着地の際一瞬だけアマテラスの方を確認するとアマテラスは復帰したもう一体の戦闘用魔獣と交戦していた。

━━もう一人は!?

 大通りには戦闘用魔獣を引き連れていた傭兵の姿は無い。

この大通りで姿を隠せるとは思えない。

ならば敵のいる場所は……。

「アマテラス!! 路地よ!!」

その声と同時にアマテラスの後方の路地から傭兵が現れる。

傭兵はライフルを構え、白い体躯を狙う。

そして引き金が引かれ……。

「アマ公!! あぶねェ!!」

空から少女が降って来た。

 

***

 

急降下したせいで体の節々が痛む。

だがその甲斐あってギリギリ間に合った。

 右手で傭兵の胸元に掌底を放ち、左手に持っていたイッスンをアマテラスの方に投げた。

それをアマテラスがイッスンを口でキャッチし頭の上に乗せるのを確認すると、状況の把握を行う。

敵は傭兵が二人と戦闘用魔獣が二体。

 戦闘用魔獣の内一体はアマテラスと対峙、もう一体はハルバードを持った傭兵と合流。

数で不利なのは天人側。

ならば戦場の中央にいる自分が出来る事は一つ。

「……こいつをぶっ飛ばしてあの天人に合流!」

 そう判断すると同時に動いた。

掌底を受けよろめく敵の頭部目掛けての回し蹴り。

跳躍し、空中で一回転してからの蹴りだが体勢を立て直した傭兵は此方の足を掴んだ。

「レディの足に触らないでくれる…………!!」

 翼を開き、相手の目に当てると敵は苦悶の声をあげ手を離した。

足が自由になると同時に後方への跳躍、そして続けての突進。

 それに対して傭兵は視界を奪われた状態で前方に拳を放った。

その拳の下を潜り抜けるように駆け、敵前でサマーソルトキックを放つ。

傭兵の顎に靴の先端が当たり衝撃を受け、傭兵は仰け反りながら上方へ吹き飛んだ。

そして近くの木箱の上に落ち砕きながら沈んだ。

 それを見届けると今度は前方を見る。

そこでは天人が戦闘用魔獣と傭兵に挟まれながら戦っており手間取っているようだ。

「……次!」

 

***

 

「おっしゃァ!! 行くぜアマ公! オイラ達の力見せてやろうぜェ!!」

 アマテラスの頭にしがみ付きそう叫ぶとアマテラスは嬉しそうに一回「ワン」と鳴いた。

敵は一匹。

数々の戦いを潜り抜けてきた自分達にとっては恐れるに足りない相手だ。

アマテラスが能力の大半を失った現状でも苦戦する相手ではない。

それに。

「オイラが手伝ってやらァ!!」

 その声と共に二柱が行った。

白い大神は放たれた矢のように魔獣に向かう。

 それを恐れた魔獣は後方へ逃れようとするが突如後方から突風が吹いた。

「!?」

 体を突風に押され後方に跳躍するどころかアマテラス側に引き寄せられる。

逃れられないと悟った魔獣はアマテラスに飛びかかろうとするがアマテラスは背中に勾玉を召喚し光弾を放つ。

 全身に光弾を受け装甲が砕ける。

アマテラスは攻撃の手を止めず幾つもの勾玉を繋げた鞭で魔獣の体を引き寄せると頭突きを入れた。

 そしてくの字になる敵の背後に回りこみ背中への後ろ蹴りを放ち魔獣を家屋の壁に叩きつけた。

 壁に叩きつけられた魔獣は舌を出し気を失った。

「よし! 一丁上がりだなァ! アマ公!!」

 そう言うとアマテラスは体を伸ばし、天に向けて遠吠えをした。

 

***

 

後方から回り込んでくる魔獣に対して後ろ蹴りを放つとその姿勢のまま正面から振り下ろされたショックハルバードを受け止めた。

しかし片足状態であったため重量のあるハルバードを受け止めきれず後方へ押し飛ばされる。

━━これだから力馬鹿は…………!!

 比較的軽量級の自分では重装備を相手に正面からぶつかるのは不利だ。

なんとかして此方が有利になるように立ち回りたいがそれを魔獣が遮って来る。

 押し飛ばされ崩れた体勢を立て直すと同時に傭兵のほうへ跳躍するが、そこへ再び魔獣が飛び掛って来た。

それを空中で迎撃しようと構えるが飛び掛った魔獣は先程空から来た天狗の飛び蹴りを喰らい吹き飛ぶ。

 天狗は此方に目で“行け”と言い、それに頷きを返す。

魔獣からの妨害が無くなった今が好機。

 傭兵に跳躍からの上段切りを喰らわせるが敵はそれをハルバードの柄で受けた。

そのまま的の左斜めに着地し回り込もうとするが敵は横薙ぎを行った。

その攻撃を回避するために体を屈めてからの回し蹴り。

「!!」

 敵は体を捻らせた状態で強引に回避のための跳躍を行うが無防備な体勢となった。

ここが好機!!

「天気「緋想天捉」!!」

 自身の内燃排気を流体弾に変化し放ち、空中にいる傭兵はそれを避ける事が出来ず全身に受け装甲を砕きながら吹き飛んだ。

敵が空高く吹き飛び遠くに墜落するのを見ると天子は残りの敵を確認する。

既に残りの敵は撤退しており大通りには自分達だけであった。

 ひとまず終わったわね……。

そっと肩の力を抜き振り返れば天狗とアマテラスと一寸法師というよく分からない組み合わせが此方を見ている。

「……で? これ、どういう事?」

 そう言うと天狗はそっぽを向きアマテラスは眠そうに欠伸をした。

 

***

 

 右舷二番艦・“多摩”から中央前艦・“武蔵野”へ続く大通り。

そこを忍者と英国王女が駆けていた。

 すでに武蔵各艦で降下した傭兵団の撤退が始まっており部隊回収のための飛空挺が降下を開始していた。

未だに激しい戦闘が行われているのは<<赤い星座>>の主力が降下した武蔵野でありその援護の為に向かうことになった。

━━しかし思った以上の被害を受けたで御座るな……。

 走りながら“多摩”の被害状況を確認していたが各所で火災が発生し倒壊した家屋も多くある。

 徳川━━武蔵にとって初の最新兵器を所有した敵との交戦だが戦い方を見直すべきかもしれない。

六護式仏蘭西は他国に先んじて飛空挺や導力戦車の戦場への投入を始めていると聞く。

徳川が天下統一を目指すなら何れは彼らともぶつかる。

それまでには対策を考えなければ。

「点蔵様、徳川も最新の武器を得ることは可能なんですか?」

 後ろを走っていたメアリも同じ事を考えていたようで横目で“多摩”の被害を見ながら思案顔であった。

「……少々難しいで御座るな。今回の傭兵団が所有している武器は何れも西側で開発されたもので御座る。

ライフルやバズーカといった物は此方でも製造可能で御座るが最新型の飛空挺や導力戦車などは徳川には製造技術が無いため無理で御座る」

「では、西側の企業に頼むというのは?」

「それも難しいで御座ろうなぁ……。

西側の企業は聖連との繋がりが非常に深いで御座る。中立の出雲・クロスベルも中立故に現在の危うい世界情勢では下手に武器を売る事は出来ないで御座る」

 もし出雲・クロスベルが徳川や関東諸国に武器を売れば六護式仏蘭西やT.P.A.Italiaの介入を受ける危険が増える。

 立地的に大国に囲まれた出雲・クロスベルは西側の火種になりかねないのだ。

だからこそ経済面で他国を牽制しながら中立を保っている。

「…………ともかく、まずはこの戦いを切り抜けて勝つことが重要で御座るよ」

「Jud.」と頷くメアリに頷き返すと武蔵野への牽引帯が見えてきた。

 ここからでも武蔵野艦橋から上がる黒煙がはっきりと見える。

━━ミトツダイラ殿、きっとテンション上がってるで御座ろうなぁ……。

そう思いながら点蔵とメアリは牽引帯に飛び移った。

 

***

 

 ガレスへ目掛けて突撃を仕掛けたネイトは一つの動きを見た。

敵は手に持っていた大剣を此方に目掛けて投げつけてきたのだ。

━━回避は間に合いませんのよ!!

 投げつけられた大剣を弾く為殴りつけ吹き飛ばすがその大剣の裏からガレスが現れた。

「!!」

 不意のショルダータックルを避けられず吹き飛ばされると地面を転がった。

衝撃と地面を転がったせいで視点が揺れるが上方に危険を感じ直ぐに横へ飛び込むように回避する。

 その直後先程まで自分が倒れていたところに獅子の腕が振り下ろされ地面の木板が砕かれる。

ガレスはその間に大剣を回収し此方を挟みこむように動く。

━━挟まれては不利ですわね!

 獅子が突撃を仕掛けてくるのに合わせ此方も獅子目掛けて駆け出す。

そして敵が体当たりを行う瞬間にスライディングで獅子の下を抜ける。

 ガレスは直ぐに腰の投擲用のナイフを引き抜き投げつけるがスライディングの体勢で銀鎖を地面に向けて放つ。

 地面に突き刺さった銀鎖は体を空中へ持ち上げ一気に跳躍を行った。

着地先は艦橋右側の道。

そこに降りようと道を見れば第一特務と英国王女が向かってきているのが見える。

 また下方では獅子が此方の着地地点目掛けて駆けている。

━━良いタイミングですわ!!

 第一特務の背後に着地し体を捻る。

「頼みましたわよ!! 第一特務!!」

「……ちょぉ!?」

 忍者目掛けて渾身の回し蹴りを行った。

 

***

 

「……何だと!?」

 武蔵の騎士が行った行動に思わず足を止めてしまった。

最初騎士は援軍に現れた忍者に合流したのだと思った。

しかし騎士は味方である忍者に回し蹴りを放ったのだ。

忍者が吹き飛び、宙に浮く。

 乱心したとしか思えないその行為に理解が追いつかない。

忍者は吹き飛びながら上着を脱ぎ体を広げ……。

━━まさか……!?

 予感は的中した。

なんと忍者は向かってきていた獅子の顔に飛びついた。

上着を顔に覆い結ぶとそのまま下に回りこみ獅子の背後に出た。

そしてそこから立ち上がり背中に飛び乗ると装甲の隙間に短刀を突き刺し背中に張り付く。

 いつ指示を出した!?

騎士と忍者が合流したのは一瞬だ。

合図なども無く忍者は蹴り飛ばされた後獅子の視界を奪ったのだ。

━━こいつら、その場の空気を読んで動いてやがるのか……!!

 互いを信頼しているからこそ出来る連携。

「クソ!!」

 身の危険を感じ騎士の方を見るがそこには金髪の少女のみであり、彼女は此方に微笑むと手を振った。

━━は?

 待て! 騎士は何処に行った!?

 視界の下方に映る銀の光。

それは体を極限まで低くした状態で駆ける武蔵の騎士であった。

護衛の犬型戦闘用魔獣の間を抜け銀狼が迫る。

大剣を振り下ろすが間に合わない。

「AGRRRRRRRRRRRRRRR!!」

 拳が放たれ胸を穿った。

 激痛と衝撃が全身を走りぬけ、体が吹き飛ぶ。

そして次の瞬間には壁に叩きつけられていた。

 

***

 

『あいたたたたたたたたたた! あいたぁーーーー!!』

全身に銃弾を浴びその都度装甲に響く金属音のせいで耳が変になりそうだが、こうして此処で仁王立ちすることによって敵を食い止めることに成功していた。

━━でも流石にきつくなって来ましたよー……。

 ライフルだけならばいいがたまにバズーカの弾頭が飛んでくるのが問題だ。

流石に何度も喰らえば装甲が凹むし、何よりも五月蝿い。

『あいたぁーーー!!』

 もはや何度目か分からないバズーカによる攻撃を胸部に喰らい叫ぶ。

 が、我慢です!!

 これが終わったらお菓子食べよう。鈴さんを連れるのも良いですねー。

と現実逃避をしていると敵の攻撃の手が止まった事に気がつく。

━━あ、あれ? もしかして弾切れですか?

 自分の背後に隠れていた兵士達も突然の静寂に首を傾げ様子を窺っている。

「敵、撤退を開始しました」

 その声に後ろを振り返ると長銃を持った“曳馬”が立っていた。

彼女は三つの長銃を二律空間に収納すると先程まで敵が居た角のほうに向かう。

それに釣られ前に出ると通路には既に敵の姿は無かった。

『あのぉー? とりあえず何とかなったという事でしょうか?』

「Jud.、 既に敵の大半が撤退。<<赤い星座>>の突入部隊も撤退した以上、我々の勝利は間近だと判断できます」

「後は」と“曳馬”は此方の方を向く。

「艦橋前次第かと……」

 

***

 

「背中に張り付いたは良いけど、その後の事考えて無かったで御座るよぉー!!」

 獅子の背中に抱きつきロデオのようになっている状態でそう叫んだ。

獅子は此方を振り落とそうと壁に激突したり跳躍したりしており、その都度振り落とされそうになる。

━━ミトツダイラ殿! いきなりは酷いで御座るよ! いきなりは!!

 危うく死に掛けた。

いや現在進行形で危ないのだが。

 ともかく艦橋前から遠ざけなければ。

そう思った瞬間、獅子が跳躍した。

振り落とされないように抱きつくが視点が反転する。

━━これは!!

 獅子は空中で体を捻り背を地面に向けたのだ。

此方を叩き潰すための捨て身技。

 急ぎ短刀を獅子の体から引き抜き背を蹴って離れる。

獅子は背中から地面に落ち、自分も地面を転がる。

地面を転がりながら直ぐに立ち上がると獅子もその巨体を起き上がらせ、此方とは別の方向に駆け出した。

 獅子が向かった方向は自分達が来た方でありそっちにはメアリが居る。

「メアリ殿!!」

 しかしメアリは此方に微笑み手を振ると獅子の前に立つ。

━━…………どうする気で御座るか?

 メアリは向かってくる獅子を迎撃する訳でもなく立ち止まる。

そして獅子の双眸を見つめた。

 メアリ殿ならば大丈夫であろうが念のためいつでも動けるようにしていると獅子が彼女の前で停止した。

「グォォォォォォォォォォォ!!」

 彼女の前で体を大きく見せ、咆哮を上げる。

だがメアリに動じた様子は無く寧ろ獅子に対して微笑んだ。

「……いけませんよ? そう自暴自棄になっては」

「…………」

 威勢を挫かれた獅子は彼女から一歩下がる。

それに合わせてメアリは一歩前へ。

「悲しみに暮れて相手を傷つけてしまっては自身を更に傷つけてしまいます」

 一歩下がり、一歩前に出る。

「獅子としての誇りがあるからこそ自分の弱さを見せられないのですね……」

更に一歩下がる。

「ですがそれが本当に貴方が望むことですか? 爪を振り下ろしてしまってからでは取り返しがつきませんが今からならいくらでも挽回できます。

私は応援していますよ」

 メアリが獅子の額に触れるとついに獅子は膝を屈した。

それに寄り添うようにメアリが座ると優しく頭を撫で始めた。

 

***

 

・● 画:『え? 獅子×ミトツダイラって英国王女公認?』

・魚雷娘:『これは、三角関係……なんでしょうか?』

・金マル:『獅子×ミトッつぁん×総長ってどうなのかなー?』

・天人様:『獅子ですら春が来ているというのに家の竜宮の使いは……』

・魚雷娘:『総領娘様? 今そちらに向かいますね? あ、逃げても無駄ですよ。しっかり位置情報見えてますから』

 

***

 

━━うーむ。メアリ殿、魔獣まで手懐けるとは。流石に御座る!

 そう頷いているとメアリが立ち上がり此方に寄って来た。

それに少し遅れ獅子も立ち上がる。

「終わったので御座るか……?」

「Jud.、 『漢を磨いて出直してくる』だそうです」

 獅子は此方に頭を下げるような動作をすると大通りに消えて行く。

━━いや、出直すってまた来る気で御座るか……。

 ミトツダイラ殿も大変で御座るなー。と思っていると武蔵野の船首の方から赤い煙弾が上がった。

それとほぼ同時に武蔵野艦橋から傭兵団が出てくる。

「どうやら決着がついたようで御座るな。メアリ殿、ミトツダイラ殿と合流するで御座るよ」

 そう言うとメアリと共にミトツダイラの所に向かった。

 

***

 

 煙弾が作る赤い柱を横目で見ながらミトツダイラは敵を見た。

 渾身の一撃を喰らわし敵を壁に叩き付けたがこの傭兵は未だに立ち上がっていた。

否、立ち上がっているのでは無く大剣を地面に刺し寄りかかっているのだ。

 最早戦闘を続行できる状態では無いのに関わらずこの敵は未だに闘志を身に纏っている。

━━見事な意地ですわ。

 最強の傭兵団<<赤い星座>>としての誇りが彼を立たせているのだ。

「……決着は着きましたのよ」

「…………そのようだな」

 ガレスは煙弾の方を見ると頷いた。

武蔵野艦橋の方を見れば傭兵たちが駆け寄ってきており更にその背後からアデーレの機動殻も来ている。

「負け惜しみに聞えるかもしれねぇが、次は勝つ。

今回の件でお前たちは<<赤い星座>>の名に泥を塗った。次は隊長たちが来るぞ」

「ええ、いくらでも受けて立ちますわ」

 そう胸を張って言うとガレスは笑った。

「お前らがこのまま進むなら近い内にまた来るぜ。その時を楽しみにしてな」

そういってガレスは破顔した。

 

***

 

 撤収するガレスたちを見送るとアデーレと第一特務たちと合流した。

「随分とやられましたわね。アデーレ」

『あー、そうですね。この戦いが終わったら修理に出さなきゃいけませんね』

そう言ってアデーレは凹んだ装甲を触った。

「これで敵の上陸作戦は破ったわけで御座るな」

「Jud.、 まだ一部が残ってますけど問題にならない程度ですわ。後は北畠艦隊を叩くだけ……」

『“武蔵”より皆様へ、後方の敵艦が前進を開始。前方の北畠艦隊と合流する模様です━━以上』

 “武蔵”からの通神を受け四人は顔を見合わせると頷いた。

「さあ、大詰めですのよ……」

 

 


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