緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第二章・『隣国の武士達』 何処も忙しくなってきた (配点:信玄)~

 

 駿河国の北に位置する甲斐国。

山々に囲まれ中央には甲府盆地が広がっていた。

その盆地の中央には要害山城を中心とした躑躅ヶ崎館が広がっている。

 統合事変以降気候の変化が激しくなった甲斐ではその気候から身を守る為にドーム型の結界で覆った城や街が増えた。

 その躑躅ヶ崎館に馬場信房は召集された。

彼は冬用の衣服を着込み煙管を咥えながら躑躅ヶ崎館の正門を潜る。

「やれやれ、対徳川に出てた俺を召集するとはのぉ。余程の事と思える」

 そう呟き歩いていると前方を見知った赤い着物の男が歩いていた。

彼は振り向くと足を止めた。

「おお! 鬼美濃か! お前まで呼ばれるとはな!」

「昌景よ、俺だけではないぞ? ほれ」

 と指を指せば兵の詰め所から衛兵を連れた男が出てきた。

「あの仏頂面、“逃げ弾正”か」

「俺も居るぞ」と声を掛けられ振り返れば鎧を着た男が立っていた。

「なんじゃ昌豊。お主まで来たのか」

「ああ、上杉を見張るだけで暇だったのでいいが……よもや四天王全員召集とはな」

「それだけ事態は深刻ということだ」

 いつの間にかに衛兵を連れた男━━高坂昌信が昌景の横に立っていた。

彼は「あれを見てみろ」と西門の方を指差すと六文銭の旗を掲げた軍団が入って来ていた。

「真田昌幸まで来たか……これはいよいよ大事だぞ」

 そう言うと一同は頷き、本館へ向かった。

 

***

 

 本館の評定の間に武田家の家臣たちが集まっていた。中央の上座には僧服を来た男が座っており最前列には四天王と真田昌幸が、その背後には多くの家臣たちが座っていた。

「……あ奴はまた評定に出ぬか」

 高坂昌信がそう言うと上座の男が笑った。

「九朗殿は自由人だからのう。今さら気にせんよ」

 「さて」と上座の男が一息入れる。

「皆も知っているように隣国で少しばかし厄介な事態が起きておる。怪魔どもの出現地が信濃国に近いため多くの怪魔が我が国になだれ込んできている」

 そう言うと昌幸が頭を下げた。

「現在我が息子信繁と神奈子が対応しているが少しずつ被害が増えておる」

「うむ、このままでは被害は増える一方。故に本格的な怪魔討伐の軍を起こす」

 その言葉に広間はざわめいた。

「しかしお館様よ。今大軍を動かせば徳川や北条、そして上杉に背後を突かれるやも知れませんぞ?」

 信房がそう言うと上座の男━━武田信玄は頷いた。

「まず北条、奴等は飛騨の異変以降国境を閉鎖した。これが何を意味するのかは知らぬが我々にとってさほど危険ではあるまい。次に徳川だが確かに昨今の徳川の躍進、流石と言うべきであろう。だがかの国にはまだ我が国と争うだけの国力は無い。国境に兵を置けば動かぬだろう。そして我等にとって宿敵とも言える上杉だが……ほれ、入ってまいれ」

 信玄が手招きし家臣たちが慌てて振り返った。

 すると大部屋に三人の男女が入ってきた。

先頭を歩くのは甲冑を着た老人でその右隣に上越露西亜の制服を着た魔人族の女性だ。そして左隣には黒い衣服を身に纏い茶と紫が混じった髪の女性が居た。

 三人は信玄の前に来ると正座し、頭を下げる。

「おい、鬼美濃……あれは……」

「うむ、流石に予想外だ」

 最初に老人が頭を上げた。

「上杉家家臣、宇佐美定満に御座います」

 次に頭を上げたのは魔人族の女性だ。

「上越露西亜所属、本庄・繁長だ」

 そして最後に黒衣の女性が。

「命蓮寺の僧。聖白蓮です」

 三人が名乗りを終えると定満が懐から手紙を取り出した。

「本日は上杉家と武田家の同盟のための使者として参りました」

「何と! 上杉家と同盟とな!?」

 内藤昌豊の声と共に動揺が広がった。

信玄は親書を受け取り、右手で一同を制すると目を通し始めた。

そして最後まで読みきると目を閉じた。

「お館様、これは一体……?」

 昌幸がそう尋ねると信玄は頷く。

「上杉家も我等と同じと言う事だ。西には本願寺の一向宗。東には最上家。特に近頃最上家は戦の準備をしていると聞く。故に上杉家は我等と争う暇が無いという事よ」

 「かつて」と信玄が背筋を伸ばす。

「かつて我等は五度川中島にて相対した。しかしその間に西では織田信長が力をつけ勢力を伸ばした。

その結果武田がどうなったのかはわしよりも知っている者が多く居ろう。

その過ちを繰り返してはならん。まずは長年の宿敵と手を組み、織田を叩く。

上杉家との結着はその後でも良いだろう……のう、定満?」

「その通りで御座います。謙信公もその時を楽しみにしていると……」

 「そうかそうか」と信玄は笑うと真顔になる。

「上杉との同盟、異論が有る者は申し立てよ」

 誰も動かない事を確認すると信玄は定満の方を向いた。

「ではその同盟、お受けしよう」

 そう言って信玄が頭を下げると家臣達は一斉に頭を下げた。

それに応えるため定満たちも頭を下げる。

「さて」と信玄は立ち上がると家臣達は一斉に姿勢を正した。

「信房! 兵二千を率い徳川国境に向かえ! やつらを牽制するのだ!」

「御意」

「昌景! お主は赤備えを率い先遣隊として信繁に合流せよ!」

「応!!」

「昌信は航空艦隊の指揮を執れ!」

「……必ずや」

「昌豊は後詰として躑躅ヶ崎に待機」

「は!」

「そして四郎!」

 前列の隅に居た義息を見る。

「お主はわしと共に本隊を率いよ!」

「は! ははあ!」

「ではこれにて評定を解散とする! 皆、迅速に動くように!」

 その号令と共に家臣達は一斉に動き始めた。

 

***

 

 評定の後、客間に通された定満達はそこで待たされていた。

一応同盟の了承は得たが様々な事を話し合う必要がある。

 その為家中が落ち着くまで待つ事にしたのだ。

「一応はおめでとう御座います。定満様」

 そう言ったのは聖白蓮だ。

彼女は正座し茶を飲みながら笑みを浮かべる。

「うむ。だがある意味ではこれからが本番だな。武による戦は無くなったが外交もまた戦。なるべく我が国が有利にならなければ」

「共に手を取り合いながらも背中には刃を隠すと?」

「それが戦国の世というものだ」

 白蓮は何かを言いたそうに口を開きかけるが途中で止めた。

「政に私は口出ししないほうがいいですね」

 そう言って茶を啜る。

すると突然先ほどまで黙っていた本庄・繁長が立ち上がる。

 突然の事に白蓮は驚き。

「あの、何か私失言しましたでしょうか……?」

「いや違う。…………何者であるか!!」

 そう叫び構えると部屋の襖が開かれ小柄な少女が現れた。

「あら、貴女は」

 少女は白蓮を横目で見ると部屋に入ってくる。

「ありゃりゃ、ばれちゃったか。勘がいいねぇ」

「…………盗み聞きとは随分と舐められたものだ。もう一度問う! 何者であるか!」

 繁長の声に少女は五月蝿そうに耳を塞ぐとその場に座る。

「私は洩矢諏訪子。盗み聞きしてたのは謝るよ」

 繁長は「洩矢?」と眉を顰め白蓮を見ると彼女は小さく頷いた。

「彼女は洩矢神社の祭神ですよ。土着神の頂点とも、邪神とも言われてます」

「そうそう、いやぁ顔見知りが居ると説明楽でいいわー」

 と諏訪子は帽子を脱ぎ笑った。

「今日はあの“嫌味な”神は一緒じゃないんですか?」

 白蓮は笑顔で尋ねるが何処と無く怖い。

「……あんた、神奈子と何があったのよ? あいつは今飛騨国境だよ。うざい怪魔共を退治してるところじゃない?」

 「成程」と白蓮は頷くと湯飲みを置く。

「それで? 何か御用ですか? ただ盗み聞きしてただけではないでしょう?」

「うん、ちょっと警告しようかなーってね」

「警告……?」

「そう、何か家に同盟を持ちかけたらしいじゃん? 太郎は了承したみたいだけど私はちゃんと見張ってるからね。

この武田家は言うなれば私の氏子達、つまり私の子供なわけ。

もし彼らに危害を加えるなら━━━━徹底的に潰すから」

 その瞬間部屋中に背筋が凍るような殺気が充満する。

白蓮は僅かに眉を動かし、繁長と定満は構えた。

暫くにらみ合いになったがやがて諏訪子は小さく笑い、殺気を収めた。

そして立ち上がると「ま、そう言うことだから」と部屋を出ようとする。

「あ、ちょっと待ってください」

 白蓮は慌てて呼び止めると彼女は顔だけを向けた。

「ん、なに?」

「貴女は怪魔についてどう思っていますか?」

 諏訪子は暫く「うーん」と唸り言葉を慎重に選ぶように言った。

「私が思うにあいつらは自然の生き物じゃないね。それに“意思”があるとも思えない。つまり……」

「一連の異変には黒幕が居ると……?」

「そう、それも途轍もなくヤバイ奴がね。皆暢気に戦争してるけどこの世界、実は滅茶苦茶ヤバイんじゃない? あんたたちも気をつけたほうがいいよ。

いつか皆纏めてお終いって事になるかもね……」

 そう言って彼女は部屋から出ていた。

 

***

 

「え!? 関所を通れないってどういう事ですか!?」

「飛騨で怪魔が現れてから急に北条家が国境を封鎖したんだよ。だから今この関所は誰も通せない」

 駿府から伊豆へ向かう関所で茨木華扇は足止めをくらっていた。

北条が国境を封鎖したため陸からも海からも関東に入れなくなったというのだ。

「でもなんで封鎖を?」

「お偉いさんの考える事は良く分からん。どうしても通りたいってんなら徳川から親書でも持ってくるんだな」

 「ほれ、後がつっかえてるんだ」と追い返され、しぶしぶ下がる。

 関所には自分と同じく関東へ向かうはずだった商人や旅人が溢れ、時折怒声が飛び交っていた。

「……どうしましょう?」

 海からも入れないとなるとどうしようもない。

いっその事不法に国境を越えようかとも思ったが後の事を考えれるとやめた方がいいだろう。

 旅人用の茶屋は開いていたのでとりあえず入り団子を頼んだ。

 自分の旅の目的は“妖怪の腕”を探す事だ。

その為各地を回っていたが西日本ではそれらしきものは無かった。

故に今度は東日本でと思ったのだが出鼻を挫かれてしまった。

 団子と茶が運ばれてくると団子を一個食べる。

「関東に入れないなら東北から回ろうかしら……?」

 それも一つの手だが東北に行くにはそれなりの準備をしなければいけない。

東北は非常に寒冷化が進んでおり今の装備では凍えてしまう。

━━そういえば徳川の親書を持ってれば通れるらしいわね。

 自分みたいなただの旅人が貰えるとは思わないが一か八かで試してみるのもいいかもしれない。

 そう思うと残りの団子を一気に平らげ、茶を飲みきる。

そして勘定を終えると店の外に出た。

「さて、着た道戻る事になるけど。岡崎目指しましょうか」

 そう行って東海道を歩き始めるのであった。

 

***

 

 飛騨国南部、そこではP.A.Odaと怪魔の群れが未だに激しい戦いを行っていた。

 荒れ果てた平地を一つの巨体が転がる。

巨体は白くゴムのような皮膚を持つ四本足の竜であったが、それには頭部が無かった。

 その竜型の怪魔を追いかけるように浅黒い肌を持つ男━━佐々・成政が駆ける。

 怪魔は転がりながらも迎撃の為両前足を鞭のように薙いだ。

「チッ! ウゼェ!」

 成政は止まらず跳躍すると怪魔の腕の上に足を掛け、再度跳躍する。

「咲け!! 百合花ァ!!」

 起き上がろうとする怪魔の状態に拳を叩き込み、怪魔は断末魔の声を上げながら地面に埋まった。

 成政は潰れた怪魔を二三回踏みつけると動かない事を確認し、体から飛び降りる。

そして胸ポケットから櫛を出すと髪を整えた。

「おーおー、派手にやってるね!」

 前方からP.A.Odaの女子制服の上に男性用の上着を着、眼鏡を掛けた女性が近づいてきた。

「…………不破か。何しに来た?」

「何しにって酷いわね。補給物資、届けに来たのよ」

 そう言って自分の背後を指差せばそこでは数隻の輸送艦が着陸を行っていた。

「で? どうなの、戦況?」

「良いとは言えねぇな。倒しても倒しても次々沸いてきやがる」

 この数日でいったい何体の怪魔を倒しただろうか?

地上も空中も埋め尽くさんとする怪魔を相手に戦い続けていたため兵の消耗は激しい。

「真田の方じゃクラーケン型が何匹も確認されてるんでしょ? 大丈夫なの?」

「昨日、こっちでも数匹仕留めた。おかげでこっちも二隻沈められたけどな」

 そう言うと不破・光治は「ああ、後方で見たわ」と眉を顰めた。

 一隻の鉄鋼船が上空を通過する。

鉄鋼船は船体を横に向けると遠方に対して一斉砲撃を行い直ぐに後退した。

 暫くその様子を見ていると突然背後から「あ、お二人ともここに居たんですね!」と声を掛けられる。

 振り返ればそこには触手が居た。

触手は体をうねらせながら寄って来る。

「うわー触手がにょろにょろと来るわー。思わず怪魔と間違えて撃っちゃいそうね」

「な! 失礼な! 僕をあんな汚らわしい怪物と一緒にしないでください! 僕は綺麗な触手なんです。昨日だってちゃんとお肌の手入れのためにオイル塗りましたし!」

「ちょー卑猥な映像しか思い浮ばないんだけど……」

「だいたいあいつらには人を思う心が有りません! それに比べ僕はあの人のことを…………。ああ! 最近考えてなかったから急に締め付けるような感覚がぁ! 落ち着け! 落ち着けぇ! 僕!」

「うわー、チンコが地面でビタンビタンしてるわー」

「おい、森。お前は出撃しなくていいのか?」

 そう問われ触手━━森・長可は止まった。

「あ、はい。何でも武神隊は温存しておけとの事で。多分ですけど途中で武田と衝突するからでは?」

「確かに私達の敵は怪魔だけじゃないからねー。このまま行けば桜洞城あたりでかち合うかもね」

 再び鉄鋼船が上空を通過する。

再度の砲撃のための全身であったが船は砲撃を中止した。

『前方より姉小路艦隊来ます! どうしますか!?』

 表示枠が開き、船の艦長が指示を請う。

三人は顔を見合わせると光治が「とりあえず沈める?」と言うと成政も「めんどくせぇからそれでいい」と頷いた。

「いやいや! お二人とも! 流石にそれはまずいですよ!」

「その通り、奴等は通して構わない」

 長可の声に女性の声が続いた。

三人は声の方を向くとそこには九尾の女性が立っていた。

 

***

 

「見逃しちゃっていいの?」

「ああ、彼らにはある“役”を演じてもらう」

 そう九尾の女性が言うと成政は眉を顰めた。

「またあいつの策か?」

「そうだ。この事は既に信長公も承認済みだ」

 「ああ、なるほどね」と光治が頷くと残りの二人は首を傾げる。

「あの、どういうことでしょうか?」

「うん、つまりあの姉小路艦隊には餌になってもらうんでしょ? そして織田領に入るのは許可するけど着陸はさせないと」

「おい、いっている意味が分からねーぞ」

「まあ佐々は馬鹿だから順番に、わかーりやすく教えてあげる」

 光治は「ウゼェ」と言う成政を宥めると表示枠を開いた。

そこには姉小路艦隊の予測進路が映し出される。

「じゃあ、まず最初。このまま姉小路艦隊を通したらどうなると思う?」

「それは……一応の制空権を得ているとはいえ、未だ多くの敵が空に居ますから追撃されるのでは?」

「そう、じゃあその状態で直ぐにでもどこかに逃げ込みたい姉小路の受け入れを織田が拒否したら?」

「そりゃあ、他のところに…………待て、まさか」

「Shaja.、 織田に行けなかったら彼らが向かうのは六角か徳川。でも六角はいま柴田先輩達がひゃっはーやってるから危険。だったら姉小路が向かうのは?」

 二人は沈黙する。

九尾の女性は光治の横に立つと地図の下側。徳川領を指した。

「この事は他言無用だ。“我々は被害者だ”と言える様にしておけ」

 そう言うと彼女は光治と補給物資の運搬について話し合い始めた。

それを横目に成政は小さく溜息を吐くと遠ざかって行く姉小路艦隊を見る。

「……めんどくせぇ事になりそうだ」

 

***

 

 炎上する城があった。

否、それは最早城とは言えない。

 天守は崩れ、城壁には大穴が開いている。

 柱が折れ、炎の中に落ち轟音を立てる。

そんな観音寺城の様子を上空で満足げに見ている女性が居た。

 風見幽香だ。

 彼女は城が崩れ炎が大きくなる度に目を細める。

『随分とあっさり陥落しましたね』

「徒党を組めなければ所詮こんなものよ」

 表示枠に映るエリーにそう言うと彼女は

『まあ上空からギガスパーク爆撃されたらひとたまりもありませんね。今すぐ帰還なさいます?』

「あとちょっと城が崩れるのを見てからにするわ」

 そう言い表示枠を閉じる。

国境沿いの一戦以降、戦いは一方的になった。

 逃げる連合軍を背後から攻撃する事を繰り返しついに六角家の本拠地観音寺城を攻め落とした。

 こうなった最大の理由はT.P.A.Italiaの撤退だ。

四国で西園寺家と河野家が長蘇我部家に宣戦布告したため下がらざるおえなくなったのだ。

「でもこうもあっさりだとつまらないわよね……そう思うでしょ? そこで覗き見してる奴」

『あは! 分かっちゃった?』

 空間が裂かれ闇が吹き出る。

そして闇の中から黒いマントを羽織った黒髪金眼の少女が現れる。

「それだけの瘴気を振りまいていれば誰だって分かるわ。それで? 私に何の用かしら?」

「わたしね? 今部下を募集中なのよ。もう直ぐ大きなパーティーをしようって思っているのだけれどどうにも人手が足りなくてね……あなた、わたしの部下にならない?」

 その瞬間少女の顔が爆発した。

幽香は傘の先端を少女に向けると眉を上げる。

「随分と舐められたものね! 私を部下にしようだなんて」

「ふふ、貴女のそう言う暴力的な所って素敵! ますます気に入ったわ!」

━━無傷?

 攻撃は本気で行った。

しかし眼前の少女の顔には傷一つ無く何事も無かったかのような表情をしている。

「でも残念ね……わたし、手に入らない玩具って嫌いなの」

「誰が玩具で…………!」

 言葉は続かない。

少女はいつの間にか此方の背後に回りこみ、首に抱きついていたのだ。

 あまりの悪寒に鳥肌が立つ。

「…………あなた、何者よ?」

「ふふ、驪竜(りりょう)って呼んでくれると嬉しいわ」

 驪竜は口を此方の耳に近づけると囁いた。

「━━━━世界の真実が知りたいならわたしの所に来なさい」

 意を決し、彼女を振り払おうとする。

しかし背後には既に彼女の姿は無かった。

『ふふふ、また来るわ。その時に返事を聞かせてね? 最強の妖怪さん』

 後には驪竜の不気味な笑い声と背に汗を掻く嫌な感覚だけが残った。

幽香は息を整えると忌々しげに崩れ落ちる観音寺城を睨みつけるのであった。

 

***

 

 窓を閉じ、薄暗い大広間に複数の男女が居た。

大広間の中央には日本地図が広げられ彼らはそれを囲む。

「六角」

 上座に居た赤いマントを羽織った男が地図の観音寺城に短刀を突き刺す。

「浅井・朝倉」

 次に六角の北方にある二国。

「武田・真田」

 甲斐信濃の二国に。

 その場に居た皆が唾を飲み込む。

自分達の敵となる国には全て短刀を刺したのだ。

だがマントの男の横にはまだ一本、短刀が残っていた。

 男が短刀を掴み掲げる。

そして振り下ろした。

 振り下ろした先は清洲の下。

即ちそれは……。

「徳川」

 大部屋に緊張が走る。

「…………徳川は我等の同盟国では」

「知っておる」

 男は立ち上がるとその場にいた全員を見渡した。

「我等にとって最大の敵は何だ? 聖連か? 武田か? 上杉か? 否、それらは強豪ではあるが天下人の素質無し」

「故に徳川と……?」

「いかにも。竹千代めは我亡き後猿の豊臣を滅ぼし天下を取った。それを偶然とでも言うか?」

 誰もが反論をしない。

「徳川は必ずや天下に近づくであろう。だがそれはさせぬ。奴等が天下を取れば世界は滅びる。我等が計画の邪魔をさせるわけにはいかぬ」

“計画”という言葉に皆が背筋を伸ばした。

「近い内に事を起こす。皆、その備えをせよ」

男が窓を開ける。

日光が部屋を照らし、マントが烈火のごとく輝く。

「天下布武にて世界を終わらせる!」

 その号令と共に皆が頭を下げた。


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