緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三章・『白き船の盗み人』 駆け回って 集まって (配点:怪盗)~

 体の揺れを感じ、深い眠りから目覚める。

「…………ん」

 いつの間に寝たのだろうか?

体中に疲労感があり首を動かすのも億劫になる。

 ふと顔に重みを感じた。

━━そう言えば寝る前に本を読んでいたわね……。

 英国からの長旅は思った以上に大変であった。

飛空挺を途中で三度程乗り換えその度に帰りたいと思った。

 だが英国女王に関東に行くと言ってしまったので戻れない。

ともかく本を顔からどかそうと持ち上げると目の前に金髪の馬鹿の顔が有った。

「やあ、パチュリー君! おはよう!」

「むきゅ!?」

 驚き仰け反り、後頭部を椅子の背もたれに打った。

「はは! 目が覚めたかね……ってミュラー君? 顔、怖いよ! ちょおっ!」

 黒髪の男━━ミュラーがオリビエを床に押さえつけた。

そして此方を見ると。

「……すまない」

「…………ああ、うん」

 

***

 

「全く、ミュラー君酷いなぁ……。おかげで顔に絨毯の跡がついちゃったよ」

「朝から馬鹿なことをしているお前が悪い」

  三人は朝からどたばたとした後運ばれて来た朝の機内食を飛空挺の最前席で食べていた。

この機内食日持ちする物をメインにしている為か硬く、味が薄い。

「おや? パチュリー君、その魚食べないなら貰おうか?」

「おい、オリビエ。行儀が悪いぞ」

「構わないわ。もともと私には食事は不要だから」

 魔法使いとなった自分にとって食事は必要ではなく食事はちょっとした娯楽に近い。

なのでわざわざ不味い物を食べる必要は無いのだ。

 オリビエに自分のプレートを渡すと彼がいつもの赤い服から白い服に着替えている事に気がつく。

「……いつもの赤い服じゃないのね」

「ああ、あれかい? あれだと流石に目立つからね。今の僕は旅の吟遊詩人さ」

 金髪に白服であまり変わらない気がするが本人が良いなら放って置こう。

「今日の昼前には浜松に着くけどどうするのかしら? 関東に行けなくなったけど」

「ああ、それだが武蔵に寄ろうと思う」

 ミュラーの答えに「武蔵?」と首を傾げると彼は。

「そこの遊撃士協会に知り合いが居る。彼らの力を借りようと思ってな」

「そう。まあそこら辺は任せるわ」

 そう言い、紅茶を飲み干すと鞄から本を取り出した。

この長旅で持ってきた本を殆ど読んでしまった為浜松で補充しようかと考えていると艦内放送が流れた。

『当機は二時間後に浜松港に着陸します。皆様引き続き空の旅をお楽しみください』

 窓から覗けば紀伊半島が見えていた。

 

***

 

 浅間神社ではアマテラスを向かえるための突貫工事が完了し浅間・智や直政たちが荷物の運びいれを始めていた。

「トーリ君たちも手伝わせてしまってすみません」

「おお、構わねぇよ。でも大丈夫なのか? 神社改造しちゃって?」

「Jud.、 父も了承済みですし何よりも天照大神を普通の部屋に住まわせるわけにはいけませんから」

 アマテラスの部屋は境内近くを改築して作ったもので、一応伊勢神宮の分社という事になった。

「とりあえず建物のチェック終わったさね。後は結界だけど、そっちはあんたに任せる」

 直政に礼を言うと彼女は片手を振り境内の階段を下りていった。

━━でも勝手に祭っちゃって良いんでしょうか?

 一応伊勢神宮や天岩戸神社に分社を武蔵に建てることは連絡したがアマテラス本人が居る事は言っていない。

言えば無理やり回収しに来るかもしれないからだ。

━━これ、バレたらヤバイですよね?

 父は一言「お父さんに任せなさい」と満面の笑みで親指立ててたがいったいどうする気なのだか……。

「ところでアマ公は?」

 賽銭箱を除いていた女装に言われ頷く。

「トーリ君、一応神様なんですからその呼び方は……。アマテラス様は何か正純に呼ばれてミトたちと一緒に伊勢に向かいました」

そういえば伊勢に向かったんですよねー。バレ無ければいいんですけど……。

だがその可能性は低い気がする。

誰が見たってアマテラスを神とは思えないだろう。

「浅間様、この台座は何でしょうか?」

「あ、それですか? それは天照大神の尊像を置こうと思って。ほら、そこに置いて……」

 指差した先で女装が脱いでいた。

ホライゾンが回し蹴りを喰らわすと半裸の女装を見て。

「トーリ様がアマテラス様の尊像ですか……。それはちょっと……」

「いやいや! 置きませんよ!? というか像は……?」

 像が置いてあった場所には下に敷いていたビニールシートだけしかなかった。

周りを見渡すが何処にも像は無い。

というか結構重量が有るものなのでそう簡単には動かせないはずだ。

 しばらく途方に暮れているとやっぱり着なおした女装が「あのよ」と近づいてきた。

そして胸元からカードを取り出す。

「こんなもん挟まってたんだけど……」

 カードを受け取り読んでみる。

そこにはこう書かれていた。

“この美しき尊像は頂いた。返して欲しくば謎解きに答えよ。 怪盗:B”

 三人は顔を見合わせるのであった。

 

***

 

「で、その謎解きをすることになったって訳さね」

 戻ってきた直政に事情を言うと彼女はカードの裏を見た。

「学多き者集う小さき学び舎に時の鐘鳴り響く」

「これ、教導院のことじゃないさね?」

「ですよね……」

 だがこの事を教導院に居る正純に連絡して探してもらったのだが何も見つからなかった。

「鐘ってんだったら時計塔は?」

「そこも探しましたが無かったそうです」

 「うーん」と悩んでいるとホライゾンがカードをじっと見つめた。

そして暫く思案すると手を上げる。

「これ、教導院は教導院でも小等部のことじゃ無いでしょうか? この“小さき”というフレーズからしても小等部の生徒という意味では?」

「成程……」と全員が顔を見合わせると頷いた。

「そんじゃ行ってみるか?」

 

***

 

 小等部に着いたトーリ達は職員室に居た慧音に時計塔に入らせてもらえるように頼んだが、時計塔は最近故障したため生徒が入らないように封鎖されたという事を聞かされた。

 皆はとりあえず校庭に出ると時計塔を見る。

「……困りましたね。入れないとなると調べようがありません」

「というか本当にここであってるんさね? その怪盗とやらも入れない場所に来るとは思えないんだが」

「でもよー、他に目ぼしい場所ってあるか?」

 正直なところ此処が正解だと思っていたのでそんな場所思いつかなかった。

思い切って昇ってみましょうか?

とも思ったが小等部が許してくれるはずが無い。

 本格的に手詰まりだと思っていると小等部前の道を御広敷が通った。

彼は此方に気がつくと近づいて来る。

「おや、皆さんどうしたんですか? こんな所で?」

「あー、俺たち時計塔に入りたいんだけどよぉ。封鎖されちまって入れねーんだよ」

「ああ」と御広敷は頷くと腰に手を当てた。

「入れますよ? 中に」

「…………え?」

 

***

 

 御広敷に案内され小等部の屋上に行くと彼は時計塔の壁を外した。

すると人が通れるぐらいの穴が現れ、中に入る事が出来た。

「よく知ってましたね。こんな場所」

「Jud.、 小生、何とかして体育の時間の小等部の子達を見れないかと探していたところ見つけまして」

「あ、慧音先生ですか? はい、屋上に一名変質者が……」

「ちょお!! 教えたのに酷くないですか!?」

「そうですねー。ありがとう御座いますねー。でも番屋には行ってもらいますから」

 笑顔で弓を取り出し構える。

「く! これだからババァは! 人の好意を直ぐにふいにするのですから!」

 とりあえず顔面に一発矢を打ち込んでおくと振り返る。

そこでは女装が大時計を動かす歯車を覗き込んでいた。

「トーリ君、危ないですから気をつけてくださいね」

「おう、大丈夫大丈夫……て、あれ? おい、下のほうになんかあるぞ?」

  彼と同じように覗き込んでみると確かに歯車と歯車の間に何かが挟まっていた。

「どうやって取るんさね? あたしの腕じゃ取れないよ」

 カードは結構下にあるため身を乗り出したくらいじゃ届かない。

「何かマジックハンド見たいな物が有ればいいんですけど……ホライゾン? どうしたんですか」

「Jud.、 ホライゾンいいこと思いつきました。では、トーリ様。体張って行きましょう」

 「は?」とトーリが言った瞬間にホライゾンは彼の背中に蹴りを入れる。

不意打ちの蹴りに彼は手すりから滑り落ちる。

そして体が完全に落ちる瞬間にホライゾンは彼の足を掴んだ。

その後柱に顔がぶつかり鈍い音が響いた。

 ホライゾンは足を持ちながら下を覗き込むと左手でグッジョブと送った。

「お、おめぇ、こういう事は事前に話さねぇ!?」

 「まあまあ」とホライゾンがトーリを宥めるたびに彼の体が左右に揺れるので心臓に悪い。

 彼は体を仰け反らせると歯車に左手を置き、右手でカードを引き抜いた。

カードが引き抜かれたことにより歯車が動き始める。

「よーし取れたぜホライゾン! 引き戻してくれー」

「Jud.、 では行きますよ、トーリ様」

 彼女は思いっきり腕を振り上げた。

しかし振り上げた勢いで思わず手を離してしまい女装が天高く舞い上がる。

「たまやーーーーーー!?」

 女装はそう叫びながら上昇し天井にぶつかった。

落ちてくるまでの途中三度程柱にぶつかり最後は顔面から床に落ちた。

 それから暫く遅れてカードが落ちてくる。

 ホライゾンはそれを掴み確認する。

「大丈夫です。ノープロブレムです」

「いや、おめぇ。ふつー俺の心配しね? しね?」

 ホライゾンは女装の抗議を無視するとカードに書かれた文字を読み上げる。

「機と人。赤き鎧を白く照らす」

 そう読み終えるとホライゾンは首を傾げた。

 

***

 

「で、ここに決まったと」

 小等部で御広敷を慧音に渡し彼が壮絶な頭突きを喰らうのを見た後、小等部を後にし途中自宅に帰宅中の正純を加えウルキアガの家に向かった。

 彼の家は倉庫を改築したものであり、玄関も半竜が通れる大きなものであった。

「“機と人”という事と“赤い鎧と白い何か”。確かにウルキアガと伊達副長の事に思えるな」

 正純がそう言うとトーリが扉を叩いた。

暫くすると白の半竜が現れる。

「なんだ貴様等ぞろぞろと。成実はいま居ないぞ」

「ああ、ちょっと聞きたいんだけどよー。こんな感じのカード見なかった?」

 「ふむ?」とウルキアガはカードを受け取ると確認する。

「見たぞ。さっき掃除をしていたら同じようなカードが本棚の裏から出てきた」

 「暫く待っていろ」と家に戻ると正純は浅間を見る。

「なあ、浅間。これ番屋に連絡したほうがいいんじゃないか? 明らかに悪戯の域を超えているだろ」

「そうなんですけど、こう露骨に怪盗と名乗られると自力で解決したくなりますねー。トーリ君たちも乗り気みたいですし」

 なんだかんだで直政もずっと一緒だ。

 ミトツダイラかアマテラスが居れば臭いからも捜索出来たかもしれないが間が悪い。

いや、もしかしてそれを狙ってた?

 まさかですよね?

と思っているとカードを持ったウルキアガが出てきた。

 彼はトーリにカードを渡すとトーリは読み始める。

「えーと? 桃色の死蝶舞う屋敷にて困り人を待たん?」

「また随分と抽象的なものが出たな……。桃色の死蝶には心当たりがあるか?」

 正純が一同を見るが皆首を横に振った。

「と、なるとこの“屋敷にて困り人を待たん”がヒントになるな」

 「屋敷」「困り人」「待たん」と皆呟くとウルキアガが「ふむ」と唸った。

「お、ウキーなんか分かったか?」

「うむ、これは遊撃士協会の事ではないか? 奴等は人々から依頼を受け、解決するのが生業だ」

「確かに一理ある。ともかく行ってみるとしよう」

 こうしてウルキアガも合流し、遊撃士協会支部に向かう事になった。

 

***

 

 奥多摩の遊撃士協会支部に近づくと、支部の前には見知った顔がいた。

彼女等はこちらに気がつくとエステルが手を振る。

「みんな、どうしたの? そんなに大勢で」

「いや、済まない。ちょっと聞きたい事があってな。お前たちのところにカードが来てないか?」

 「カード?」とエステルが首を傾げると正純はカードを手渡した。

するとエステルとそれを後ろから見ていたヨシュアが目を見開く。

「ヨシュア、これって…………」

「ああ、間違いなく“彼”だ」

「ん? 何だ知っているのか?」

と正純が問うとヨシュアは頷く。

「怪盗:B。彼の正体は<<怪盗紳士>>ブルブラン、<<身喰らう蛇>>の執行者No.Ⅹです」

「<<身喰らう蛇>>って……おい!」

「あん? なんだせーじゅん知ってんのか?」

「Jud.、この前幽々子と情報交換したときに<<結社>>について教えてもらったんだ。彼らはエステルたちの世界の組織で様々な事件の裏で暗躍していたと聞く」

 ネシンバラ君が聞いたら喜びそうな話ですね……。

と思いつつもそんな組織の幹部が関わっているなら重大な事態だ。

「その……<<身喰らう蛇>>の幹部が動いているという事は、この謎解きかなり危険なんじゃ……」

 そう言うとエステルは「あー……どうだろ?」と困り顔をした。

「これはあんまり危険じゃないというか……恒例行事というか……」

「ともかく危険は無いわ」とエステルに言われて一同は顔を見合す。

「それじゃあこのカードを……」

 見てないか? と正純が言おうとした瞬間誰かが駆け寄ってきた。

それは金髪の白い服を着た男であり…………。

「ヨーーーーシューーーーアーーーーくーーーーんーーーー!!」

「成敗!」

 飛び掛ってきた男を妖夢が叩き伏せた。

 

***

 

これ、どうすればいいんだ?

 地面に潰れた蛙のように倒れている男を見ながら正純は悩んでいるとエステルが慌てて駆け寄った。

「オ、オリビエ!?」

「や、やあ……エステル君……。遊撃士の新人君はなかなか過激だね……」

 どうやらエステル達の知り合いらしく二人に起こして貰っていた。

「どうしてここに? 確か英国に居たんですよね」

「ああ、関東に行く途中でね。挨拶しに寄ったんだよ。ほら、ミュラー君も来たよ」

と指差せば向こうから黒髪の軍服を来た男と紫の少女がやってきた。

「久しぶりだな」

「ミュ、ミュラー少佐まで!」

「……紅魔館の魔女ですか」

「あら? 遊撃士をやっていると聞いていたけど本当だったようね」

 新しく三人が加わり遊撃士協会支部前は賑やかになっていた。

すると「あらー? なんだかお客さんがいっぱいねー」と幽々子まで出てきた。

「あーと……済まないが自己紹介を頼めるか?」

 と正純に言われると白い服の男が胸元からバラを出した。

「僕はオリビエ・レンハイム。旅の吟遊詩人だ。覚えておいてくれたまえ、美しきお嬢さん」

 正純はバラを渡されるが困った表情をしとりあえずホライゾンに渡した。

その後バラはホライゾンによって女装の鼻に突っ込まれた。

「ちょ、ホライゾン、これ棘が! 棘がぁ!!」

「無視して構わないぞ?」

と一言入れるとやや引き気味だったミュラーが頷いた。

「俺の名はミュラー・ヴァンダール。こいつのお守りのような者だ」

そして最後に紫の少女が気だるげに。

「パチュリー・ノーレッジよ」

と言った。

全員が自己紹介を終えるとミュラーは女装の方を見、「ところで」と彼を指差す。

「彼は何故女装なんだ?」

 その瞬間三名を覗く全員が「あー、やっぱり聞いちゃうかー」と溜息をついた。

「な、なんだ? もしかして何か事情が……」

「甘いなぁーミュラー君は。彼が何故女装しているのかが分からないかい?」

「…………碌な事を言わなそうだが、一応聞いてやる」

「彼の女装を見たまえ! この気合の入った化粧! 体格を隠すように絶妙に配置されたハードポイント! そして、下手な女子より女性らしい動き! つまりは楽しいからだよ!」

 オリビエがそう言うとミュラーは頭を抱えた。

「あのなぁ、そんなわけ…………」

「あんた分かってんな! 女装も全裸も俺の芸風! やるときは本気だし、楽しいんでるぜ!!」

 そういって女装と金髪がハイタッチを交わした。

その様子をミュラーが絶句する。

 パチュリーにいたっては見なかった事にするようだ。

━━なんだかまた途轍もなく濃いのが来たなー。

と遠い空を見つめていると幽々子が小さく笑った。

「ふふ、面白い子が増えたわね」

「フ、お美しい女性にそう言われ、大変嬉しく思います」

とオリビエが幽々子の手を取るが妖夢が「成敗!」と再び叩き伏せた。

「それで? そっちの三人はエステル達に会いに着たみたいだけど、あなた達は?」

 そうだ、完璧に本題からずれていた。

「今私たちは<<怪盗紳士>>ブルブランの謎解きをしているんだが、このカードを見なかったか?」

 <<怪盗紳士>>ブルブランと聞きオリビエとミュラーは顔を見合わせた。

「あら、それならさっきカウンターの下にあったわよ」

と幽々子は胸元からカードを取り出した。

「「おお!」」

 トーリとオリビエが幽々子の胸元を覗き込もうとするがホライゾンと妖夢が叩き伏せた。

「相変わらずいつの間に置いたんだか…………」

「まあ彼の動きを察知するのは困難だからね……」

 エステルとヨシュアが苦笑する横でカードを受け取ると次の謎を読む。

「“人集う、全ての始まりの橋にて待つ”」

 全ての始まりの橋…………それなら直ぐに分かる。

みんなの顔を見ると皆同じ事を思い浮かべたらしく頷きを返してきた。

 

***

 

 幽々子を除く全員が教導院の前まで来ると予想通りに橋の上に尊像が置いてあった。

「これ、壊れてませんよね!?」

と浅間が駆け出すのに皆が続く。

「安心したまえ! その像には傷一つ付けてはいない!」

 突如頭上から声を掛けられ、慌てて上を見上げるとそこには白い服を見に纏った仮面の男が浮いていた。

「久しぶりだな遊撃士の諸君! そしてお初にお目に掛かる、アリアダスト教導院の諸君! 私の名は<<怪盗紳士>>ブルブラン! <<身喰らう蛇>>執行者No.Ⅹだ!」

 彼は高らかに名乗るが梅組の皆の反応は薄かった。

「…………拙僧思うに、<<結社>>とは色物揃いか?」

「いや……違うというか……彼を中心に<<結社>>を想像するのはどうかと……」

 ヨシュアが困った表情をするとエステルも苦笑した。

「ほう? 君達の中に分かっている人物がいるようではないか」

そう言ってブルブランは女装を見る。

「おや、流石は<<怪盗紳士>>。君にも分かるかね? 彼の美への追及が」

ブルブランはオリビエの言葉に頷き。

「特注品のウィッグ。エロスと繊細さを表現する服飾! 素晴らしい!」

 ガッツポーズをするブルブランに頷くオリビエ。そしてセクシーポーズをとる女装と場は何とも混沌としてきた。

「ホライゾン思いますに、この人達馬……いえ、阿呆なんじゃ?」

「ホライゾン! ホライゾン! 気を使ったつもりでしょうけど全く意味同じですよ!」

 とりあえずセクシーポーズ取る女装をホライゾンが縛り上げるとエステル達が前に出た。

「ブルブラン! あんたたち今度は何をしようとしているの!」

 エステルが棍を取り出すと構える。

「フフ、残念ながらその質問に答えることは出来ない。今の私は<<結社>>から距離を離している身でね。私以外の執行者たちも多くが招集に応じていないようだ」

「では、何故姿を現したんですか? 貴方が姿を見せる事は滅多に無いはずだ」

 ヨシュアにそう言われるとブルブランは頷いた。

「今日はちょっとした警告しようと思ってね」

 「警告?」と皆が首を傾げると彼は手に持つ杖で岡崎の方を指した。

「まもなく災厄が訪れる。だが気をつけたまえ。真の災厄は蜘蛛が得物を狙うようにじわじわと近づいている事を」

「ま、待てそれはどういう━━━━」

『“武蔵”より皆様へ。現在姉小路艦隊が岡崎に接近中。これに対し岡崎の警護艦隊が出動しました━━以上』

 災厄とはこの事か!?

そう問おうとブルブランの方を見るが既に彼の姿は無かった。

『本多君! 聞いたかい!?』

 表示枠にネシンバラが映り彼に頷きを返す。

「ああ、今教導院の前にいる。直ぐに来てくれ」

『Jud.』

 表示枠を閉じると今度は皆を見た。

「動き回って後で悪いが皆直ぐに動けるようにしてくれ」

「「Jud!!」」

 それから暫くして総長連合のメンバーが教導院に集まり武蔵を出撃させる事に決定した。

 白い船体が仮想海を展開し飛翔する。


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