緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第五章・『黒と白の御転婆娘』 やっと出番だぜ! (配点:霧雨)~

 絨毯の敷かれた部屋に三人の男女が居た。

一人は年老いた男でソファーに座り緊張の表情を浮かべている。

その背後には銀の長い髪を持つ少女がおり、老人と同じ表情を浮かべていた。

 そして老人と向かい合うように青と白の六護式仏蘭西の制服にサラシを巻いた女性が座っている。

「…………どうしても駄目か」

 サラシの女性の言葉に老人は深く頷く。

「我々を守ってくださるというお気持ちは有り難い。ですが出雲・クロスベルは中立の立場を変える気はありません」

 女性は眉を僅かに動かす。

「何度も言ったが“中立を宣言する”のは簡単だが“中立を守る”のは簡単じゃねえ。七年前を思い出してみろ。あの時もここは一色家に占領され、結局あたし達が取り返してやった」

「その事には感謝しております。それでも私はこの出雲・クロスベルを守る為に……」

 「一つ」と女性が手を上げる。

「一つ教えてやる。本当のことを言うとな、六護式仏蘭西にとってお前たちの意見はどうでもいいんだ」

「な…………!」

「周りを見ろ。既に世界は戦いの世になった。どこもかしこも自国を守るために、そして繁栄する為に周辺諸国と争っている。

そんな中大した軍事力を持たない出雲・クロスベルが何時までもつ?

六護式仏蘭西はこの場所を他国に奪われるぐらいなら力ずくで手に入れる」

「それは……大国の傲慢と言えますぞ……!」

 女性は胸を張る。

まるでそれがどうしたとでも言うように。

「そうだ。傲慢、虚栄こそ覇者たる六護式仏蘭西の証。それをどう言われようがあたし達には関係ない」

 老人は額に汗を浮かべる。

この相手には小国の如何なる論も効かない。

なぜならば彼らは大国であり、強者は弱者を従えるという自然の摂理に倣っているのだ。

 つまり彼は何の後ろめたさも無く他国を征服できるのだ。

 どうするか……?

こんな時ならティーダ君だったらどうしたであろうか……?

「…………決められねえか? あたし達としては出雲・クロスベルを征服するんじゃなく自分の意志で六護式仏蘭西に組して欲しいんだが」

 答えは出ず沈黙が部屋を支配する。

 テーブルに置いてある水の入ったグラスを手に取りゆっくりと口をつけた。

乾いていた喉を水が潤し、気分が少し落ち着く。

 グラスをテーブルに戻すと突然女性の表示枠が開いた。

彼女は暫く表示枠を見ていると一度眉を動かした。

 この反応、何かあったのだろうか?

「どうかなさいましたか……?」

「ああ、隠したってこっちには何の得もねーから教えてやる。徳川が怪魔に襲撃された」

「なんと……!」

 と思わず腰が浮く。

「どうやら姉小路の艦隊にくっ付いていたみたいだが、どうにも……」

 そこまで言いかけ彼女は「いや、なんでもない」と言った。

そして此方を見る。

「あたし達は後三日ここに滞在する。それまでに決めてくれ」

 そう言って彼女は立ち上がった。

それが話の終わりだというように部屋に侍女服を着た自動人形が入ってくる。

 女性は自動人形から手荷物を受け取ると部屋を出ようとするが「そうだ」と言って振り返った。

「…………みっしぃって何処で見れるんだ?」

 

***

 

 空を裂く様に六つの流体光が放たれた。

流体光の内の一つが警護艦に直撃し警護艦が粉砕される。

「なんて大きさよ……!」

 空に浮かぶ巨大な蛸を見てエステルはそう叫んだ。

「クラーケン型。富士の戦いで出没した奴だ。あの異変以降目撃されていなかったけど……」

 あの空飛ぶ蛸は怪魔の航空戦艦に当たるものだ。

記録では富士の戦いで多くの航空艦があれに落とされたと言う。

「あれは此方では対処できん! こっちは救助に専念するぞ!」

 ミュラーに言われ頷く。

『接舷します! 衝撃に注意して下さい!』

 輸送艦が姉小路艦の左舷に接舷した。

直ぐに甲板にいた兵士達が梯子を掛け、船を固定する。

「よし! みんな、行くわよ!」

 エステルが駆け出し皆それに続く。

此方に気がついた怪魔が押し寄せてくるとオリビエと誾が立ち止まった。

「では援護は任せてもらおう」

 威力の低い導力銃で狙うのは翼の付け根。

そこをピンポイントで打ち抜きバランスを失った怪魔を横転させた。

 横転した怪魔を踏みつけ迫る敵に対してエステルは根を地面に突き立てると跳躍した。

そして敵の真上からの振り下ろしで一匹を叩き潰す。

「ヨシュア!」

「…………分かってる!」

 エステルに気を取られた怪魔たちの間を黒い影が抜ける。

足を立たれ次々倒れる怪魔たち。

 そこに太刀を持った妖夢が飛び込み止めを刺して行く。

「見事な連携ですね」

と宗茂が言うとミュラーが頷く。

「皆、修羅場は潜ってきたからな」

「では我々も彼らに負けずに」

「ああ、行こうか」

 宗茂とミュラーが駆ける。

二人は襲い掛かる怪魔に足を止めず薙ぎ払って行く。

そして数分後には輸送艦と姉小路の部隊の間に道が出来るのであった。

 

***

 

「まさか怪魔との戦いに巻き込まれるなんてね」

 品川のデリックの上に座りカメラを構えながら姫海堂はたては口元に笑みを浮かべた。

「それにクラーケン型をこんな至近距離で映せるなんてついてるわ。そっち映像映ってる? 椛?」

『はい、しっかりと映ってます』

 表示枠には白く短い髪に狼の耳を生やした少女が映っており彼女は送られてくる映像を確認していた。

「富士の異変以降出没しなかったクラーケンの映像、これで文を出し抜けるんじゃない?」

『…………えーと』

 椛は言葉を濁すと耳を摩る。

『クラーケンの映像はもうすでに手に入ってるといいますか……姉小路に出没したのはあれだけじゃないんで既に交戦記録もばっちりあります』

 思わずカメラを落としそうになる。

え? じゃあ今私のやってることの意味って?

「一応聞くけど最初に記録したのって……」

『ご想像通り文様です』

 岡崎の空に憎たらしい文の笑顔が浮かんだような気がした。

というかまたあいつか!

 毎回毎回、こっちのネタを奪って!

『…………ですが変ですね』

「何が? 文の顔の事?」

『いえ違います。あのクラーケンです。こっちで記録されているクラーケンは大きくてもドラゴン級航空艦程度、ですがあの固体はどう見ても……』

「ヨルムンガンド級はあるわね……」

 だがただ単純に大きい固体であっただけでは無いだろうか?

怪魔に若干だが個体差があるのは判明している。

 そう思っていると警護艦隊がクラーケンに向けて一斉砲撃を始めた。

いかに大型種とはいえ流体砲に耐えられる筈が無い。

 記録も此処までかと思い立ち上がると信じられない光景を目にした。

砲撃が曲がったのだ。

クラーケンに直撃したかのように見えた砲撃は直前で曲がり、拡散する。

 そして反撃が来た。

六発の流体砲撃。

 それが武蔵を掠める。

「これ、どういうことよ!」

 

***

 

「敵は空間を歪め流体砲撃を逸らした模様。続けて行われた砲撃も同様に逸らされました」

 観測手からの報告を来た“曳馬”は直ぐに実体弾による攻撃に切り替えた。

しかし実体弾は先ほどと同じく敵の直前で逸らされ、外れる。

「……何れも敵から100mほどの地点で逸らされていますね。爆砕術式による衝撃攻撃を行いますか?」

『いや、敵が空間を歪めれるなら衝撃派も逸らされる可能性が高い』

表示枠のネシンバラがそう頷く。

 つまり遠距離戦は不利だという事だ。

「では、接近戦を?」

『ああ、マルゴット君たちが近接戦闘を行う。航空艦は援護砲撃に徹してくれ』

 援護砲撃は自分の最も得意とする事だ。

「総員へ、これより援護砲撃を開始します。主砲を狙撃モードから連射モードへ移行。面攻撃による制圧射撃を行います」

 船を前進させ警護艦に並べる。

「“曳馬”様。上方より敵怪魔多数接近」

「対空迎撃を行いながら攻撃をします。主砲発射」

 船上部に取り付けられた対空砲が一斉に迎撃を始め、流体砲がクラーケン目掛けて放たれた。

 

***

 

 ドラゴン型の怪魔の体当たりを受け、地摺朱雀は甲板を砕きながら後方へスライドした。

竜は右腕を伸ばすと此方の頭部を狙う。

 しかし腕は此方に届く事は無かった。

 金と黒の人形が大剣で右腕を切り落としたのだ。

 腕の断面より流体の光を帯びた青色の鮮血が噴出し竜が叫びを上げる。

「投げつけろ! 地摺朱雀!」

 右手に持つ巨大レンチを投げつけ竜がそれを腹に喰らう。

バランスを崩した竜目掛けゴリアテが駆け出した。

 二対の大剣を揃え突き出しながらの突撃。

ゴリアテは猛牛の様に激突し大剣を深く突き刺した。

 竜が苦悶の叫びを上げる。

「痛い? でもね、あんたたちのせいで多くの人が痛い以上の思いをしたのよ…………!」

 人形が両腕を広げる。

竜の胴が腹から裂け、そして両断された。

 二つに立たれた竜が倒れ地響きを上げる。

「…………」

━━一仕事終わりね。

後は輸送艦まで撤退するだけだ。

 そう思い、アリスは姉小路部隊の撤退の援護を開始した。

 

***

 

「あの蛸に近づけだなんてあの眼鏡無茶言うわね!」

 三人の魔女は敵の間を抜けクラーケンに近づいていた。

「気を付けろ! あいつの攻撃はヤバイ!」

「確かにあの攻撃喰らったらスミケシだよね!」

「いや、そうじゃなくってヤバイのはあの足だ」

 魔理沙が指差すとクラーケンは八本の足を広げ始めた。

それらには多くの吸盤が…………。

 吸盤じゃない!?

 それは無数の瞳であった。

瞳は暫く周辺を確認するように動くと一斉に此方を見る。

 そして放たれた。

 まるで豪雨のような流体光線の雨。

 それが襲い掛かってきた。

三人は散開し、光線を回避する。

「何これ! 鬼畜弾幕ゲーってわけ!?」

「この程度の弾幕で当たるなよ!」

 魔理沙が加速し弾幕の雨を進む。

「そういえばナイナイたちの世界って弾幕ごっこやってたんだっけ!?」

「じゃああいつは天子と同じ世界の住人ね!」

 他世界の魔女が弾幕を抜けているのだ。

自分達も負けるわけにはいかない。

 機殻箒を加速させ二人は魔理沙の横に並んだ。

魔理沙は此方を横目で見ると口元に笑みを浮かべる。

「私の速さについて来いよ! 二人とも!」

 そして三人の魔女が加速した。

 

***

 

「急いで輸送艦に乗って!」

 姉小路の部隊を救出したエステル達は乗艦までの援護を行っていた。

姉小路の兵は負傷した者も多く脱出はなかなか進まない。

「頼綱さん! 今甲板にいるのが全員!?」

 自分と同じく脱出の援護をしている姉小路頼綱に訊くが彼は首を横に振った。

「まだ艦橋に何人か居る……」

「そんな!? 助けに行かなきゃ!」

 駆け出そうとするエステルの肩を頼綱が掴む。

「…………無理だ。艦橋までの通路には怪魔が侵入している上、これ以上この船に留まる事は出来ない!」

「でも……!」

 見捨てるなんて納得できない。

そう言おうとすると輸送艦から包帯を巻いたアリスが現れた。

「私たちはここまで来る間に多くのものを犠牲にしたわ。それを理解して」

「エステル、彼らのいう事は正しい。ここで艦橋乗組員の救助に向かって全滅したら全てが台無しだ」

 反論できる余地は無い。

悔しさから唇を噛み締める。

「…………彼らの事を思ってくれて感謝する」

 頼綱はそっとエステルの肩を叩き頷いた。

 一匹の怪魔が輸送艦に近づく。

それ止めるべく妖夢が切りかかり、倒した。

「急いでください! これ以上はもちそうにありませんよ!」

 甲板を見れば輸送艦を襲おうと怪魔が大挙していた。

「だがどうするかね! 今飛べばあのクラーケンに撃ち落されるよ!」

 輸送艦の上から射撃を行っているオリビエがそう叫ぶとアリスの表示枠が開いた。

『それならこっちで対処する!』

「魔理沙、生きてたのね…………」

 安堵からかアリスの表情が和らぐ。

『私はそう簡単に死なないぜ。他は駄目だったが……』

「…………そう。それで、どう対処する気なの?」

『ああ、いま武蔵の魔女と一緒でな! こいつ等と一緒にあのクラーケンを潰す! それが完了しだい脱出してくれ!』

 魔理沙の言葉に皆が顔を見合わせた。

「あの紫もやしも来てるんだから勝手に死んだら許さないわよ」

『あー、あいつから“借りた”本、全部飛騨に置いてきちまった……』

 「どうせ返す気なかったんでしょ?」と言うと魔理沙は苦笑した。

 ともかく方針は定まった。

「皆、あと少し頑張ってくれ」

 頼綱の言葉に全員が強く頷きを返した。

 

***

 

 クラーケンの側面を通過した魔理沙たちは後方に回り込み突撃を仕掛けた。

敵に近づかれたクラーケンは長大な足を動かし絡めと取ろうとする。

 纏わりつくように、絞め殺すように近づいてくる八本の足の間をほぼ箒にしがみ付くような体勢でかわし足を抜ける。

  敵体の上部に出ると二人の魔女天使に合図を出した。

白と黒の二人が加速し前方に出る。

 それに合わせ自分は降下した。

敵は巨体であるため死角が多い。そのため足についた瞳を使い索敵と迎撃を行うのだ。

 だがその足は今後方で閉じられ敵の視界は前方に付いた六つの目だけだ。

この隙を逃すわけには行かない。

 双嬢が敵の目の上を通過するとほぼ瞬間的に流体光が放たれる。

だが双嬢はそれをギリギリの所でかわし、離脱した。

 そこへ行く。

双嬢を追いかけた上部左側の目。

 その正面に出る。

 双嬢を追いかけていた巨大な瞳が此方を見る。

 全身が反射で映るほど大きな瞳に対して向かい合い、懐からミニ八卦炉を取り出す。

「よう化け物、こいつはお前にやられた他の魔女達の礼だ! 恋符『マスタースパーク』!!」

 至近距離からの強烈な流体砲撃。

それは敵の瞳を焼き、肉を砕き突き進んだ。

 生き物が焼ける嫌な臭いと共にクラーケンは断末魔の声を上げ、爆発した。

 黒煙を上げ焼け落ちるクラーケンを見ながら帽子を深く被る。

「…………敵は取ったぜ」

 白の巨体が大地に墜ち流体の光の中へ消えてゆく。

 

***

 

「クラーケンが墜ちたぞ!」

 誰かの叫びでクラーケンの方を見れば白い巨体がゆっくりと墜落する所であった。

「流石ね、魔理沙」

「…………相変わらず無茶な奴」

 アリスとパチュリーが顔を見合わせると小さく笑う。

 これで敵から砲撃を受ける危険は無くなった。

 撤退作業も完了し兵士達が梯子を次々と外して行く。

まだ何体もの怪魔が押し寄せてくるがオリビエと誾が迎撃した。

『離舷します! 衝撃に注意を!』

 輸送艦がその船体を揺らしヨルムンガンド級から離れる。

 小さくなっていく船を頼綱は見つめ、拳を深く握っていた。

━━本当に此処まで来るまで多くの犠牲を払ったわ。

 多くの顔見知りが死んだ。

 だが今自分達は生き延びた。

生き延びたなら生き延びた者の責務がある。

 輸送艦に三人の魔女と半竜と朱の機動殻が着地する。

魔理沙は此方に駆け寄ると遠のく船を見た。

「…………何人助かった?」

「半分」

 「そうか」と魔理沙は短く言うと船を見つめる。

自分達を守ってきた、いや今も守っている船がゆっくりと高度を落とす。

 そして突如爆発した。

船体は一瞬で燃え上がり大地に墜ちて行く。

「自爆ね…………」

 パチュリーがそう小さく呟いた。

 自分達の船が落ちる様子を姉小路の兵士達はある者は涙を流しながら、ある者は己の無力さを悔しがる様に見る。

 後退する輸送艦の横を徳川の警護艦が通過した。

『これより掃討戦に移ります。一匹たりとも逃さないでください!』

 最早小さな塊になった怪魔に一斉砲撃を浴びせる。

白い怪物たちは一匹、また一匹と墜落して行くのであった。

 

***

 

 徳川の艦隊が怪魔の掃討を行っている様子を近隣の山の山頂で目を細め見ている女性が居た。

 彼女は白い導師服を着、服には八卦の紋様が描かれている。

 最後の怪魔が撃ち落されるのを見ると彼女は金の長い髪を靡かせ振り返る。

「あら、いつの間に居たのかしら?」

 彼女の背後には茨木華扇が立っていた。

「八雲紫……。何を企んでいるの?」

「企んでいるなんて酷いですわ。私はただ徳川と怪魔の戦いを見に来ただけよ」

「……そうは思えないわね」

 「あら? 何故?」と紫は更に目を細める。

「貴女は徳川と怪魔の戦いを見に来たと言ったわね。何故怪魔が徳川に来ると知っていたの? 普通は姉小路が来るのを見に来たと言う筈よ」

 彼女は答えない。ただ目を細め、口元に笑みを浮かべる。

「もし今回の件。貴女が仕組んだ事なら流石に見逃せないわよ……!」

 華扇はゆっくりと構えた。

相手は幻想郷きっての実力者。戦うならそれなりの覚悟がいる。

「ふふ、貴女と戦う気はありませんわ。それにお客様もいらしているようですし」

 「客?」と眉を顰めると森の中から「いやー、バレとったかー」と緑髪の白い神父服を着た男と桃色の髪のシスターが現れた。

「教会の犬が何の御用かしら?」

「教会の犬って……きっついお嬢さんやなー。オレはケビン・グラハム。そんでもってこっちが……」

「リース・アルジェントです」

 グラハムは人当たりの良い笑顔を浮かべると此方の横に立つ。

「でな、ちょっとあんたに聞きたいことがあってな」

「<<身喰らう蛇>>の事かしら? <<外法狩り>>さん」

 その瞬間空気が変わった。

 グラハムは「なんや、知っとったんか。その名前は変えたんやけどなー」と笑うがその目は笑ってない。

リースも見た目は平常だがいつでも動けるようにしている。

「……なら話は早い。どこまで知ってる?」

「少なくとも“私”は知りませんわ。そもそも彼らに興味はありません」

「成程。だけどP.A.Odaが<<身喰らう蛇>>に協力している事は知ってる筈や」

 紫は持っていた傘を開いた。

それに合わせリースが動こうとするがグラハムが手で制す。

「さあ? どうでしょうね。でも一つだけ言える事がありますわ」

 「それは?」とグラハムが尋ねると彼女は微笑んだ。

その微笑みは余りにも冷酷で背筋が凍るような笑みだ。

「私たちは元の世界に戻るためならば如何なる犠牲も厭わない……そのつもりで動いてますわ」

 緊張が走る。

最早いつ戦いになってもおかしくない雰囲気だ。

 グラハムは大きく溜息をつくと頭を掻いた。

「そか……なら、しゃあない!」

 腰からボウガンを引き抜き紫の胸目掛けて撃つ。

しかし放たれた矢は途中で空間に飲まれ消滅した。

「!!」

 リースが直ぐに蛇腹剣を取り出し横に薙ぐ。

だが刃は空振り近くの木を切り倒した。

 紫の姿は既に無く、場を支配していた重圧感も消えている。

 ケビンは先ほどまで紫が立っていた場所に駆け寄ると周囲を見渡し溜息をついた。

「逃げ足の速いこって」

 彼はボウガンを仕舞うと此方に振り向いた。

「いやあ、驚かせてしまってすまんなあ。あんた彼女の知り合いかい?」

「知り合いというか何というか。私たちの世界ではちょっとした有名人ですから」

 「せやろうなー」と苦笑するとケビンの近くにリースが来る。

「ケビン、どうするの?」

「滅多に姿を見せんから次は当分来ないやろな。でも<<結社>>とP.A.Odaが繋がってるのはこれで確実や。まずは教皇総長殿に連絡して……」

 そこまで言ってケビンは苦笑する。

「あー、そういえばこれって民間人に聞かれたらやばい話ちゃうか?」

「…………ケビンのドジ」

 あ、なんかやばいかも。

 この二人、どう見てもただの神父にシスターじゃない。

こういう話は大抵秘密を知った人間は消される運命にある。

 冷や汗を掻くと同時にこの二人から逃れられそうか計算を始める。

するとケビンは「そや!」と閃く。

そして満面の笑みでこう言った。

「あんた世界救ってみない?」


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