緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十章・『泥中の和解者』 雨降って 地固まる (配点:主従)~

 

 ウシワカの言を信じたわけではないが念のためという事で彼の言う北東に向かって点蔵たちは歩いていた。

 だがその足取りは重く、思うように進めない。

その原因は明白だ。

━━うーん……気まずいで御座るなぁ……。

 あの後天子とは合流したが一切口を開いていない。

彼女は最後尾で不機嫌そうに歩き、その様子を眉を下げて心配そうに見ている。

 なんとか仲直りできないものか?

そう思っているとミトツダイラが意を決したように口を開く。

「あの、天子……?」

「…………なによ?」

 半目で返されミトツダイラは言葉を詰まらせると此方を見た。

「えーっと…………第一特務が話があるそうですわ!」

━━ちょぉお!?

・十ZO:『ミ、ミトツダイラ殿!? いきなり此方に振るのは酷くないで御座るか!?』

・銀 狼:『いえ、なんというか……その、私には二人の間を取り持てそうになくて……』

 じゃあなんで話しかけた!?

そう抗議の声を上げたくなったが天子が此方を見ているので何らかの返しをしなければ。

「いやぁ、今日の夜空は綺麗で御座るなぁ!」

「竹で見えないけどね」

「こ、こう雨が降った後だと草の臭いが心地よいで御座るな!」

「私泥まみれだけどね」

「…………」

・十ZO:『む、無理に御座るよ! これ!』

・● 画:『ヘタレが』

・金マル:『今のはちょっとないかなー』

・煙草女:『というか不機嫌な時に空はいい景色ですねとか、喧嘩売ってるように思われて当然さね』

・十ZO:『何見てるで御座るかぁ!! というか見てるなら救助の手を……』

・● 画:『嫌よ』

・あさま:『まあそれだけ皆心配しているということですね』

 確かに。

 なんだかんだ言って皆気に掛けているようだ。

━━うーん、何かきっかけがあればいいので御座るが……。

 そう思っていると足元の違和感に気がついた。

後ろで衣玖が「あの、総領娘様?」と話しかけようとしていたが少し中断させる。

「どうやら話は本当だったようで御座るよ」

 そう言って足元を指差せば折れ曲がった雑草が線になっていた。

「獣道という可能性は?」

「獣が通ったにしては道が大きすぎるで御座る。それに……」

 地面に落ちていた物を拾うとそれを皆に見せる。

「薬莢ですわね……」

 アマテラスも道を嗅ぎ始めると正面に向かって吠えた。

「どうやら当たってたようだぜ!」

 薬莢を握り、正面に投げつけた。

すると奥のほうの風景が歪み、まるで波打つ水面のようになる。

「迷彩術式で御座るな」

 そう言うと皆は慎重に進み始めた。

 

***

 

 迷彩術式が張られている場所の近くまで来ると点蔵が「少し調べるで御座る」と皆を止めた。

 彼が近くの草むらや竹のチェックを始めるとやることが無くなり、取りあえず近くの竹に寄りかかる。

━━これじゃあ私の手柄にならないじゃない……。

 一人で敵の抜け道を見つけ、昼の失敗を挽回する事が出来なくなった。

その事に少し苛立つと同時に、探しに来てもらったにも関わらず礼もいえない自分に嫌悪感を抱いてしまう。

 何時からだろうか?

自分がこんな面倒くさい性格になってしまったのは?

 子供のときは素直だったと思う。

よく近所の人に可愛がられていたし、自分もそれを素直に喜んでいた。

 だが天界に行き、他の天人たちと知り合ううちに屈折した。

━━そうよ、あいつ等が悪いんだわ。

「……って、駄目ね。人のせいにしちゃ……」

 深く溜息を吐き空を見上げれば満月が笹の葉の間から僅かに見える。

 暫くそうしていると点蔵が皆の元に戻り「少なくとも“外側”には罠は無かったで御座る」と言う。

「で? どうするの? この迷彩術式」

 そう問えば彼は頷き。

「これだけの術式を常時展開しているとなると必ず流体の中継装置があるはずで御座る」

  そう言って点蔵はしゃがみ、草むらを掻き分け始める。

「はい、点蔵様。明かりです」

「有難うで御座るよ、メアリ殿」

 メアリに手元を照らされながら草を掻き分けぬかるんだ地面を触れていくと「お、有ったで御座る」と土の中から何かをつまみ出した。

「……これは、ケーブルですか?」

 衣玖の問いに頷き

「Jud.、 流体を経由するケーブルで御座るな。こうやって地面を伝って術式発生装置に繋がってるので御座ろう。で、あるから……」

 腰の短刀を引き抜き、ケーブルを断つと正面の風景が崩れていった。

「ケーブルを断ってしまえば装置は止まるで御座る」

「あ……!」

 先ほどまで竹林であった場所はその姿を変え、広い土地が現れた。

その中央には大きな穴が開いており、階段が深く続いている。

 皆、警戒しながら近づきミトツダイラが「見つけましたわね」と言った。

「他にもありそうですね」

「恐らく元は坑道であったので御座ろう。それを改修し、抜け道に変えたので御座ろうな」

 衣玖と点蔵がそう言うと突然アマテラスが唸り始める。

「おいおい、アマ公。どうしたんだァ?」

 アマテラスは何かを知らせるように此方を振り向き吠える。

「━━━━まさか! 皆、逃げるで御座るよ!!」

 その瞬間、眼前で爆発が生じた。

坑道から生じた爆発は地面を盛り上げ、砕く。

 爆風で皆、吹き飛ばされ近くの竹にぶつかった。

━━罠!?

 舞い上がった土砂が雨のように降りかかり、平地はあっと言う間にその姿を変えてしまった。

「大丈夫で御座るか!? メアリ殿!」

「はい、点蔵様が庇ってくれましたから」

「ア、アマ公ー! こ、こっちだァ!! 埋まっちまって動けねェー!!」

「あ、有難う御座います。ミトツダイラ様」

「ええ、岩が飛んできて危ないところでしたわね……」

 互いに無事を確認しあうと坑道のあった場所まで駆け寄る。

だが坑道は最早その原型を留めてなく、完全に塞がってしまっていた。

「……恐らく外側から術を解除されたら爆破するようになっていたので御座るな。坑道が見つかるところまで想定しているとは……」

━━……何よ、それ?

「こ、これじゃあ挽回も何も無いじゃない」

 皆が気まずそうに目を逸らす。

「……だが、これで敵の奇襲は防げるように……」

「五月蝿い!! 黙れ!! だ、だいたいあんたがもっとしっかり調べてれば……!!」

 点蔵に詰め寄ろうすると間に衣玖が入ってきた。

「な、なによ! どきなさいよ!」

「…………失礼」

 突然右頬に熱を感じた。

そして暫くしてひりひりするような痛みが生じ、思わず呆然とする。

「…………ぇ、ぁ」

 何が起きたのか分からず困惑し、少ししてから自分が平手打ちを喰らったことに気がついた。

「なに、すんの……!」

「もう一発失礼」

 今度は左頬をぶたれた。

 

***

 

「うわぁ……」

 目の前で高速往復ビンタを喰らっている天子を見てミトツダイラはそう唸った。

 最初の頃は避けようと思えば避けれる速度であった。

だが途中で天子が抵抗しようとする度にその速度を上げ、最早目で追うのも難しくなってきた。

・あさま:『な、なんか、凄いですね』

・ホラ子:『流れるような往復ビンタ。ホライゾン感銘いたしました。こちらも負けてられませんね、トーリ様』

・俺  :『ホライゾン、な、なんで手振り上げてんだ? やめね? やめね!?』

・● 画:『なぜかしら……。急に鳥肌が立ってきたわ……』

・賢姉様:『フフ』

 向こうも盛り上がっているようで何よりだ。

それにしても速い。

 元々前線で戦うことの少ない衣玖だが、彼女の動きを見るに武術の心得もあるように見える。

 数えるのも馬鹿らしくなるぐらいビンタすると衣玖はその手を止めた。

「……ふぅ」

 そう彼女は息を吐くと呆然としている天子を見た。

「では、私に文句があるのでしたらどうぞ言ってください」

━━ええ!? ぶってから聞きますの!?

 天子は暫く目蓋を何度も開け閉じすると「え、うん」と頷いた。

・賢姉様:『これで、落ち着いたわね』

「あ」

 そうか、先ほどの状態では天子は激情に身を任せ本心とは違う事を言うかもしれない。

だがこうやって冷静になるくらい叩くことで落ち着きを取り戻させ本心を聞こうというのだ。

多分。

なんか衣玖がやり切った顔をしているが……。

「……ねえ、衣玖? 何で私を信頼してくれなかったの? 仮に念のためだとしても直ぐに私に報告しなかったのはなんで? もっといえば相談してよ!!」

 彼女は今までの気持ちを吐き出すように声を出す。

「他にも! あっと言う間にみんなと溶け込んで! さぞかし楽しかったでしょうね!? 私は全然溶け込めなくて、それで悩んでいたって言うのに!! なんで気づいてくれなかったの!?」

 そこで息を吸う。

「どうせ、どうせ貴女も父様の権力に肖りたかっただけでしょ! 他の、他の連中みたいに! 内心では“地上人”の癖にとか馬鹿にしてさ!!」

 彼女の目じりには涙が浮かんでいた。

 衣玖は子供のように叫ぶ天子の言葉を目を閉じ聞き続ける。

「今もそうよ! 涼しい顔してさ! 何か言いなさいよ!!」

 そう叫んだ。

それが自分の言葉の全てだと言う様に。

「…………そうですか」

 衣玖はもう一度小さく「そうだったのですか」と呟くと目を開ける。

「総領娘様」

「…………なに?」

「とりあえず、座りなさい」

「…………は?」

「いいから座りなさい」

 天子は困惑したように足元を見る。

「あの……ここ、泥なんだけど……」

「構いません、座りなさい、正座なさい。直ぐに」

 あまりの迫力に天子はその場に正座する。

「さて」と衣玖が口を開くと彼女は見上げてくる天子と視線を合わせる。

「話は分かりました。まず謝罪を、総領娘様がそこまで思い悩んでいるとは気付けませんでした。これは全て私の不徳の致すところです。

で、私が総領娘様のことを馬鹿にしてたとかそういう事ですが……」

 衣玖は一息入れると頷いた。

「ええ、普通に思ってましたけど?」

「「ええええええええええ!?」」

 思わず忍者と声が重なった。

唖然とする天子を横目に衣玖は言葉を続ける。

「だいたい、我が儘で高慢ちきでボッチで一人で自分の部屋掃除できなくて、そのくせ偉そうな事を言うばかりの総領娘様を尊敬できると思っているのですか? 馬鹿ですか?」

 あんまりの言葉に天子は口を魚のようにパクパクと動かす。

「それでいて地上に地震起こしたり、そのあとぼこぼこにされてたりマゾですか? 構ってちゃんなんですか?」

 なんだかこのまま凄い事いい続けそうなので止めようかと思い始めていると衣玖は「ですが」と言った。

 そしてその場に座り、天子と視線を合わせる。

「あ……服……」

「構いません。後で洗えば良いだけです」

 そう言うと衣玖は天子の帽子を外し、頭に手を乗せる。

「私は知ってるんですよ? 総領娘様はそういった問題行動を多々起こしますが実は物凄いお人よしで、繊細で、面倒見が良くて。不器用だけど自分の悪いところは隠れて直そうとする。そんなお人だという事を。

そして、そんな貴女が私は好きなんです」

 「え?」と赤面する天子に微笑みかけると頭を撫で始めた。

・● 画:『こ、これはぁーーー!! マルゴット! 記録してる!?』

・金マル:『ばっちりだよ! ガッちゃん!!』

・銀 狼:『あのー、一応いい話してるんですからね? ね?』

・ホラ子:『おっとホライゾンとしたことがつい夢中になってしまいました。所で今どの様な状況で?』

・あさま:『うわ! トーリ君! 饅頭みたいになってますよ!?』

「それに信頼してくれとのことですが……。だったらなんで私たちを信頼してくれないんですか! 総領娘様が私たちを信頼してくれなきゃどうにもならないじゃないですか!!」

「ち、違うわ! 信頼してないわけじゃない! してないわけじゃないけど……」

「どう接すれば、どう話せばいいのか分からないのですね?」

 天子は黙って頷く。

その姿はまるで親に叱られている子の様であった。

「そんなの簡単です。いつも通りで良いんです。普段どおりの総領娘様で。だってそうでしょう? 想像してみてください、いきなりお嬢様口調で“うふふ”とか言い始めたら気持ち悪いでしょう?」

 

***

 

「へっくしっ!!」

「あら、風邪?」

「いや、誰か私の事話してんのかなぁ?」

 

***

 

「まあ確かに、違和感というかはっきり言って気持ち悪いわね……」

 そう言うと天子は俯く。

それを衣玖が優しげに見ると此方を見た。

「いい機会です。皆様、ここで友情の契りを結びましょう!」

「ち、契り?」

「ええ、見ての通り総領娘様は素直ではないのではっきりと言葉に出してしまいましょう」

━━それもそうですわね。

 点蔵たちも同じことを思ったらしく頷く。

「では、まず私から。天子、これから友人として共に切磋琢磨してまいりましょう」

「困った事があれば直ぐに頼ってくれで御座るよ」

「これからもよろしくお願いしますね。天子様」

「オイラ達はまだ会って日が浅いけど、ヨロシクなァ!」

 最後にアマテラスが一回吠え、尻尾を振った。

 固まっている天子の手を衣玖が取るとともに立ち上がり、天子に帽子をかぶせる。

「私も、私もこれまで通り。いえ、これまで以上にお仕えいたします」

 そう言って天子の背を押すと彼女は暫く「う」とか「えーと」とか呟き深く俯いた。

そして肩を小刻みに揺らすと顔を挙げ、此方を指差す。

「ふ、ふん! いいわよ! 友達になってあげるわ! 天人である私があんたたちと友達になるなんて滅多に無いんだから感謝しなさいよ!!」

 顔を真っ赤にしてそう言う天子に皆笑うと彼女は「こらー! 笑うなー!」と叫んだ。

『うっし、何か上手く収まったみたいだしここは俺らも参加すっか!』

『Jud.、 天子様の貴重なデレ期ですね。皆様よく記憶しておくように』

「な……な、なんであんた達が!? いつから!?」

 トーリが『最初から』と応えると彼女は「がー!!」と竹に頭をぶつけ始めた。

「良かったですわね」

 と衣玖に話しかけると彼女は頷き「はい、でもまだですよ?」と言った。

「総領娘様?」

 顔を手で覆って蹲っている天子に声を掛けると彼女は「……なに?」と篭った声で返した。

「総領娘様が話すべき相手はまだいる筈ですよ? 陣地に」

「…………」

 天子が立ち上がり頷く。

「では行きましょう。徳川秀忠様の所に」

 

***

 

 伊勢の陣地に戻った天子達は直ぐに秀忠の陣幕に向かい、面会した。

 可動式の机を挟み天子と秀忠が向かい合うと天子は「う、うーん」と唸り続けていた。

「……衣玖よ? これはいったい……」

「まあまあ、少しお待ちになってください」

 衣玖は天子の傍に寄ると耳元に口を近づけ囁く。

「━━素直になるんですよね?」

 すると天子は意を決したように顔を上げた。

「徳川秀忠!」

「う、うむ!」

 呼び捨てかー。と秀忠が思っていると天子の顔は見る見る赤くなりまるで茹蛸のようになっていた。

「え、っと、その。ご、御免なさいでしたぁーーー!!」

 丁寧語なのか良く分からない言葉で叫ばれ思わず目が点になる。

「ふむ? 何の謝罪かな?」

「昼の……戦いでの失態で……。あと勝手に陣地抜け出したことで……。その……」

そこまで言って彼女は大きく息を吸った。

「全部私の失態です! でも、挽回の機会を下さい! 次の指揮も私にとらせて下さい!!」

 そう頭を下げた。

 陣幕に沈黙が訪れる。

 衣玖も緊張の面持ちで見守っていると秀忠は口元に笑みを浮かべた。

「なんだ、そんな事か」

「え?」

「確かに先の戦、逸った貴殿の失態である。だがその後被害を最小限に留め無事帰還、さらに今までの働きも鑑みれば指揮権を剥奪するほどではないと思っている」

 そう秀忠が言うと天子と衣玖は顔を見合わせ、笑った。

「━━だが、失態を犯したのは事実。部下の手前、二度目はない。分かっているな?」

 二人は真剣の表情になり頷いた。

「して、挽回の手は?」

「秀忠公、私は直ぐに軍を動かすべきだと思います」

 天子がそう言うと秀忠は眉を動かす。

「理由は?」

「先ほどウシワカと名乗る男が筒井が明日には何らかの動きをすると伝えてきました。その前に動くべきです」

 秀忠は「ふむ」と顎に指を添え、思案すると「その情報。信用に値するものか?」と聞けば天子は力強く頷いた。

 強い眼差しを送ってくる天子の顔を見、秀忠は満足そうに頷くと立ち上がった。

「出陣の準備を致せ。我が隊も使うが良い」

 そう言い、陣幕から出ようとする。

そして幕を開けると立ち止まり、振り返った。

「良い顔になったな」

 そう言い退出した。

 秀忠が退出すると天子は脱力したように机に突っ伏し、衣玖がそれに小さく微笑むのであった。

 

***

 

『坑道見つかっちゃった見たいですねー』

 という表示枠越しのてゐの報告に天守から筒井城を見下ろしていた八意永琳は頷いた。

「いつまでも隠し通せる物ではなかったわ。少し予想より速かったけど……」

 坑道が潰れた以上徳川軍は直ぐに動いてくるだろう。

明日の朝に出陣すれば筒井城の近くに来るのは昼ごろ。

 近隣の支城を落としながらならば術の発動は間に合うが……。

━━相手は徳川。最悪のケースを想定しながら動かなきゃ駄目ね。

 筒井城では既に機材の設置が始まっているが急がせた方がいいかも知れない。

幸い今夜は満月であるため月からの流体補給は十分に間に合う。

「随分と勘がいいじゃない? 徳川は」

 振り返れば主である輝夜がおり、彼女は空を見上げ月明かりに目を細めた。

「ふふ、術の発動前に乗り込まれるかもね?」

「姫様、冗談でもそう言うことは言うべきではありませんよ」

「あら? 冗談だと思う?」

 そう訊かれ言葉に詰まる。

「私のカンって結構当たるのよね」

「……たとえ突入されても私が撃退します」

 大抵の連中なら撃退する自信はある。

そう頷くと輝夜は口元に笑みを浮かべ頷きを返した。

「それで? 私は何をすればいいのかしら?」

「姫様には術の管理と役半分の内燃排気の提供をお願いします。私の排気と合せ術式を発動させ、この城を隠します」

 自分一人の内燃排気でも術式は発動可能だが念のため半分のみを使い、残りの半分は戦闘に使える様にする。

 輝夜にしても内燃排気が半分残っていれば有事の際に対応ができるであろう。

 正門を見れば補修工事が行われており優曇華院が手振り身振りで何かを指示しているのが見える。

可能な限り危険性を減らす。

思いつく限りの補修や対策を練るがそれでも予想外の事が起きるのが戦場だ。

正直に言えばもっと時間が欲しかった。

 だが坑道が潰れた以上急ぐ必要がある。

「姫様にはまた不自由をさせてしまいますが、何卒ご容赦ください」

 そう頭を下げれば輝夜は頷いた。

「引きこもるのには慣れてるわ。でもそうね……」

 彼女は天守の手すりにつかまり、伊勢の方を見る。

「引きこもる前にあいつの顔を見るのもよかったかもね……」

 そう言い、顔に風を浴びながら目を細めた。

その様子に永琳は黙り、頭を下げる。

そして天守を退出した。

 一人残った輝夜は靡く髪を手で押さえながら夜闇に静まる筒井の山を暫く眺めているのであった。


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