緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十三章・『月の夜逃げ者』 赤い月 白い兎 (配点:優曇華)~

「不味いで御座るよぉー!!」

 空から落下しながら点蔵・クロスユナイトはそう叫んだ。

 皆と共に空から筒井城に入ったが途中で対空砲の砲撃を受け乗っていた要石の軌道がずれた。

 既に地面は目の前であり、このままでは落下死だ。

━━せめてメアリ殿だけでも!!

 となりで要石に掴まっていたメアリの腰を抱きかかえると跳躍した。

何処まで衝撃を抑えられるかは分からないが落下地点に爆弾を投げつけその爆風を背中で受けて減速する。

 爆風で背中が色々酷い事に成りそうだがメアリを助けれらるのであればそれでいい。

そう思い、覚悟を決めた瞬間風が来た。

「これは……アマテラス様?」

 風は二人を包むと繭のようになり落下の速度が減った。

否、それどころか浮遊しているように思える。

「これは風の精霊で御座るか?」

「Jud.、 アマテラス様が風の精霊を動かしたようです」

 なんと……。

流石は慈母。この程度造作も無いという事か。

 地面にゆっくり着陸すると直ぐに周囲を警戒する。

背後には壁があり、その上には天守が見える。

「どうやら天守の裏側。一層下に落ちたようで御座るな」

 他の連中も無事だろうが位置が分からない。

直ぐに合流しなければいかんで御座るな。

と思っていると目の前に小屋が有る事に気がついた。

 ここでは色々目立つ。

ともかく身を隠すべきだろう。

 そう思いメアリを見る。

「メアリ殿、取り敢えずあの小屋の中に隠れるで御座るよ」

「Jud.」とメアリが頷くと二人は駆け出した。

近くまで来ると足を止め周囲を確認する。

 敵兵は見当たらない。

ならば後はあの小屋を確認するのみ。

 そう思い歩き出した瞬間、小屋の扉が開いた。

小屋からは二人の少女が現れ、一人は東砦で見たブレザーを着た少女でもう一人は小柄な薄い桃色の服を着た少女であった。

「…………え?」

「…………あ」

「…………おや?」

「…………まあ」

 四人は互いに固まりあい、動けなくなった。

 

***

 

 天守の裏にある武器庫で鈴仙・優曇華院・イナバは頭を抱えていた。

師匠である八意永琳に武器庫から武器を取り出したら正門に向かえと命令を受けてから三十分。

 彼女はこの小屋から動けずにいた。

 弾薬の入った木箱に腰掛け頭を抱える彼女を因幡てゐは呆れ顔で見ていた。

「いつまでそうやってんのさ」

「だ、だって私に戦えとか無理よー。弾幕ごっこじゃない本物の殺し合いなんて……」

 まったく。相変わらず肝が小さいというか臆病と言うか……。

この友人は普段偉そうな事を言っているくせに本番に弱い。

「でも行かないと師匠に殺されるよ?」

 そう言うと鈴仙は「う」と固まった。

「……そういうあんたは何してんのよ」

「あー? 私? 私はサボり」

 鈴仙が半目で「あんたも殺されるわよ……」と言って来たがまあいざとなったら鈴仙を生贄に逃げよう。

 それに自分の担当は筒井城の裏側の警戒。

ここならば兵士が連絡を入れれば直ぐに駆けつけられる距離だ。

 本当はこの友人が武器庫に入ったきり出でこなくなったので様子を見に来ただけなのだが……。

「そうやって怯えて隠れて。また逃げる気?」

 その言葉に鈴仙が固まった。

そして眉を吊り上げると睨みつけてきた。

「あんたにどうこう言われる筋は無いわ!!」

 「言われる筋は無い」か……。

たしかにそうだ。

 彼女がどんな思いで月から逃げたのかは分からない。

だが。

「月の兎はさ、私の憧れだったのよ。だから、まあ、憧れの対象のままでいて欲しいなぁーってね」

 そう言うと鈴仙は黙って俯いた。

それを横目で見ると踵を返す。

「ちょっと、何処に行くのよ……?」

「正門に。師匠には私から持ち場を交代したって言っておくから」

 そのまま外に出ようとすると鈴仙が慌てて立ち上がった。

そしてその場でなにやらじたばたした後、大きく溜息を吐いた。

「いいわよ、行くわよ!」

 此方の横に立つ。

「地上の兎に月の兎の偉大さを見せ付けないとね!」

 そう言って此方を向くと互いに苦笑した。

鈴仙がドアノブに手を掛け開くと外から冷たい風が入ってくる。

 その風に身を少し縮めると鈴仙が外で立ち止まっていることに気がつく。

「?」

 なんだ? と外に出てみるとそこには極東の制服を着た忍者と英国の制服を着た金髪巨乳がいた。

 

***

 

 あ、あれ?

 こんな連中うちに居たっけ?

 一人は何か地味なの忍者でもう一人は金髪の巨乳。

というか忍者の着ている制服は極東の制服でありそれはつまり……。

「あ、その。厠はどっちで御座るか?」

「えっと、そっちだけど」

 「これはご丁寧に」と頭を下げて忍者達は通り過ぎようとする。

━━じゃなくて!!

「動くなぁ!! この曲者!!」

 直ぐに腰に提げていた二丁の拳銃を引き抜くと構える。

すると忍者と金髪巨乳が振り返り顔を見合わせた。

「自分達、怪しい者では御座らんよ?」

「いや! 怪しいでしょう!? うちに極東の制服を着ている奴はいないわ!」

 忍者は「うーん」と唸ると何かを閃くように手を叩いた。

「自分、武蔵に向かっていたスパイで御座る。先ほどまで徳川の陣にいたので御座るが戦いが始まったのをきっかけに此方に戻ったで御座るよ」

 そんな馬鹿な

だいたいうちのスパイだったら私も知っているはずだ。

そう言うと彼は頷いた。

「忍者が目立っちゃいけないで御座るよ?」

 た、たしかに!!

え? じゃあ、本当にスパイ?

「じゃあそっちの英国女子は?」

 忍者は暫く考えると金髪巨乳の方を見た。

「協力者であり、自分の嫁に御座る」

 「まあ」と金髪巨乳が頬を赤く染めるのを見ながら思考のどつぼに嵌った。

 この二人が現れたのが突然のことであり全く冷静ではない。

ともかく一旦落ち着きどうするかを考えなければ。

 そうだ、てゐがいるじゃない!

 彼女の意見も聞くべきだろう。

そう思い振り返れば彼女は愉快そうにニヤついていた。

「…………ねえ? どう思う?」

「私が答えると思うー?」

 ええ、そうよね! あんたそういう子よね!!

 判断がつかないのならば取り敢えず拘束し、師匠に聞くべきだろう。

「二人とも動かないで! 一時拘束し、師匠の判断を待ちます!!」

 その言葉に見知らぬ二人は顔を見合わせると頷いた。

そして突然駆け出した。

━━やっぱり侵入者か!!

 どうやって入ったのかは分からないが逃がすわけにはいかない。

 拳銃で忍者を狙い引き金を引く。

 銃口から放たれた流体弾は忍者の背中目掛けて飛ぶが忍者は突然姿勢を低くするとそれを避けた。

━━避けた!?

 背後からの弾丸を限界まで体を低くし避けたのだ。

 相手はかなりの手錬!!

「てゐ!!」

「あいさ!!」

 てゐが格納用の二律空間から巨大な木槌を取り出し駆け出した。

小柄な彼女はその姿からは想像できないような速度で駆け、あっと言う間に敵との距離を縮めた。

 それを援護すべく忍者の前方に銃撃を行う。

 てゐは減速した敵を追い抜くと正面に回りこみ木槌を地面に叩き付けた。

 衝撃で土砂が巻き上がり降り注ぐ中、挟み撃ちにあった忍者達は足を止め背中を合わせるのであった。

 

***

 

━━退路を断たれたで御座るか……。

 この二人を前にこれ以上の逃亡は無理だろう。

ならば覚悟を決め、相対するのみ。

 ちょうど敵の数は二人。ならば……。

「メアリ殿、正面の方。お頼み申す」

「Jud.、 点蔵様も御武運を」

 メアリと背中を離すと眼前に居るブレザーを着た少女の方に向かう。

「武蔵アリアダスト教導院第一特務、点蔵・クロスユナイトに御座る」

 此方が名乗りを上げれば向こうは二丁の導力銃を構える。

「筒井家所属、鈴仙・優曇華院・イナバよ」

 腰の短刀を引き抜き構える。

 敵は兎系の半獣人。天子の話では幻覚系の術を使うらしい。

そして彼女が両手に持っている拳銃だが見たところ最新型の流体導力銃でグリップ部に弾倉を入れる場所が無いためバッテリー内蔵式のものだろう。

 導力銃は流体弾を発射するため銃身が熱くなりやすく冷却期間が必要となる。

そのため大口径の物になるとあまり連射が出来ない事が多い。

━━ともかくまずは突いてみるで御座るよ!

 駆けた。

 敵を目掛けた突撃。

それを見た敵は後方へ跳躍すると同時に二丁拳銃による射撃を行った。

 右手の一発は此方の左側を通過し、左手の一発は目の前に着弾した。

 目の前の地面が砕けるのを見ると同時に横に跳躍し相手を中心に駆ける。

 敵の腕は中々の物。

無闇に突撃をすれば簡単に撃ち殺されるだろう。

 開けたところを避け、障害物の多いところで戦う!

 此方の牽制のため敵が銃を撃ってくるが足を止めずに先ほどの小屋を目指す。

あのあたりは資材や木箱が積み重ねられており隠れるにはちょうど良い。

 一発の流体弾が前方を通過し、左側の木の幹が砕けた。

すでに敵は二発目を撃とうとしており、咄嗟にスライディングを行い小屋の裏に滑り込んだ。

 小屋を背に立ち上がりゆっくりと息を整えると端から様子を窺う。

敵は拳銃を構えながら慎重に移動し回りこんでくる。

小屋に立てかけてあった木板を小屋の端から投げると板は空中で流体弾に撃たれ砕け散る。

それと同時に小屋の裏から飛び出した。

二発目の流体弾が小屋の壁を砕き木片が体に当たる。

 近くの木箱のの裏に隠れると敵は追いかけてきた。

直ぐに周囲を見れば近くには樽が積み重ねられており、視界は悪い。

━━ここで反撃に出るで御座る!!

 上着のポケットから煙玉を取り出すと着火し投げつけた。

「爆弾!?」

 敵が驚愕の声を上げると同時に周囲を爆発音と共に白い煙が敵を包んだ。

 

***

 

━━やられた!!

 まんまと誘き出された。

 資材等が積み重ねられ死角の悪い場所にこの煙幕。

 相手は忍者だ。

撹乱戦は大の得意だろう。

━━どうする!? 煙幕から逃げるか!?

 いや、それは危険だろう。

 下手に動き敵に背を向ければ敵はそこを突いて来る。

今は冷静になり、煙が晴れるまで動かずにいるべきだろう。

 両手の導力銃を構え深呼吸をする。

━━何時来る!?

 僅かな音も聞き逃さないように耳を立てると何かが聞えてきた。

それは地面を転がるような音であり、自分の左側から鳴って来る。

そして突然煙の中から影が飛び出した。

「!!」

 左手の銃で影を打ち砕く。

影は中央から砕け散り破片を撒き散らす。

 足元に転がってきた破片は木片と鉄板であり……。

「樽!?」

 背後から再び影が現れた、今度のそれは人の上半身の形をしており咄嗟に右手の銃で迎撃する。

 影に流体弾が当たると回り煙が晴れ、影の正体が分かる。

それは黒い、極東の制服の上着であった。

 突如、舞う上着の後ろから忍者が現れた。

 

***

 

━━貰ったで御座る!!

 敵は此方の陽動に引っかかり両方の銃を使った。

敵が再度撃てるようになるまでまだ時間が掛かる。

その上で敵への奇襲だ。

 敵は咄嗟に右足で横蹴りを放つがそれを跳躍で回避し、敵の背後に着地する。

 敵は蹴りを放った体勢で肘打ちを行おうとするがそれよりも早く此方が飛び込んだ。

短刀で狙うは敵の背中。

「御免!!」

 踏み込み短刀を突き出した瞬間、振り返った敵と目が合った。

 彼女は口元に笑みを浮かべており、得体の知れない悪寒が体を走る。

 その瞬間、世界が歪んだ。

地面がまるで水面の様に波打ち、黒の夜は赤く染まり敵の姿が消えた。

━━これは……!?

 噂の幻術か!?

 足に力を入れ踏みとどまろうとするが揺れる地面に足を取られ膝から倒れた。

四つん這いの体勢で何とか立ち上がろうとするが銃声音が鳴り響いた。

 咄嗟に横に飛ぶ。

しかし何処からか飛んできた銃弾は肩を抉った。

 肩から鮮血が飛び散り、体は地面を転がる。

次に見たのは歪んだ世界で銃を構える少女の姿であった。

 

***

 

 永江衣玖は八意永琳と距離を取っていた。

敵の実力は自分より遥かに上、その上で敵の戦術は全くの不明だ。

 はっきり言って分が悪すぎる戦い。

だが自分の仕事は敵に勝つことではない。

━━なるべく戦いを引き伸ばし敵の戦術を明らかにする!!

 その為には様々な攻撃を仕掛けなくてはならない。

━━まずは遠距離戦です!

 右腕に羽衣を巻きつけ筒状にすると雷撃を放つ。

放った雷撃は三発。

 敵に一直線に飛ぶ一発と、その左右への二発だ。

━━さあ! どう来ますか!?

 敵が何らかの回避を行うと思ったが敵は動かなかった。

飛来する雷撃に対し不動で余裕の笑みを浮かべる。

 そして左手を構えると雷撃を払った。

「!?」

 払われた雷撃は彼女の左側を狙った雷撃とぶつかり爆発が生じる。

 雷撃の爆風を受けながら立っている彼女を睨みつけながら額に冷たい汗を掻く。

 敵は此方の攻撃を避けるわけでも防御術式を展開するのでもなく、ただ手で払った。

理由は分からない。

だが何か理由があるはずだ。

━━今度は実体のある物で行きます!!

 雷撃を地面に撃ち込み砕くと、羽衣で岩を包み持ち上げた。

それを体を回転させながら加速させ、投げつける。

 先ほどの雷撃と違い実体の有る岩だ。

片手で払えるはずが無い。

 だが敵は再び動かなかった。

先ほどと変わらず余裕の表情で立っており飛来する岩に対して左手を掲げた。

そして払う。

 払われた岩は砕かれながら地に落ちた。

 

***

 

「これは……」

 ネイト・ミトツダイラは戦いの様子に腹の底から冷たいものを感じた。

僅か数分の間に敵と衣玖の間に凄まじい実力差があるのは実感した。

 だが違和感がある。

それは……。

「天子、八意永琳はあのようなパワータイプキャラですの?」

「そんな筈は無いわ。それにあいつの動き方、筋力を使っているようには見えない」

 そうだ。

雷撃と岩。

何れも敵はただ手を払っただけなのだ。

 通常敵の攻撃を払うのであれば踏み込む必要が有る。

だが敵は直立不動の状態で攻撃を払った。

━━何らかの術式を?

 だが敵が術を使ったと思える動作は無かった。

 衣玖は暫く唖然としていたが頭を振り、構え直した。

右腕に羽衣を巻きドリル状にすると突撃を開始した。

「今度は接近戦をする気ですわね!!」

 

***

 

━━頭にきました!!

 余裕の表情で敵に攻撃を弾かれてしまえば流石に腹が立つ。

 遠距離戦ではあの理不尽な払いで攻撃を無効化される。

ならば今度は接近戦だ。

 ドリル状にした羽衣に電撃を流し、回転をさせる。

「機動殻の装甲も砕ける一撃ですよ!!」

 そう言い、踏み込み腕を突き出した。

敵の胸を狙った一撃は突如止まる。

「またですか!?」

 ドリルの先端は敵の左手によって受け止められていたのだ。

否、敵の左手ではなく左手とドリルの間にある何かによって。

━━小型の障壁?

 敵が腕に障壁を纏っているのならドリルを受け止められたのは分かる。

だがそれだけで岩を砕けるだろうか?

「これで終わりかしら?」

 永琳にそう言われ首を横に振る。

「まだです!!」

 羽衣はドリル状から突然もとの形に戻り、敵の腰に巻きついた。

「!!」

 永琳は僅かに眉を動かしもがこうとするが、左手側の羽衣で両腕ごと上半身を縛る。

 そして彼女の体を持ち上げた。

━━腕さえ使えなければ!!

 最大出力で電撃を流し込もうとした瞬間、眼前に何かが見えた。

「え?」

 その直後、腹部に衝撃が来る。

 まるで猛牛に体当たりされたかのような衝撃で吹き飛び、数十メートルを転がる。

━━いま……のは……?

 腹部に来る激痛から呼吸が止まり、吐き気が来る。

 鈍い汗を掻き、それらを我慢するとゆっくりと立ち上がった。

だが衝撃の麻痺からか足腰は震え、上手く立てない。

 何とか背筋を伸ばし敵を見れば敵の周囲には無数の術式が浮いていた。

「お遊びはここまでよ」

 光の津波が来た。

 数え切れない量の爆砕術式や流体弾を発射する術式が放たれ周囲を砕いて行く。

「龍魚『竜宮の使い遊泳弾』!!」

 自分の周囲に巨大な雷球を発生させ敵の攻撃にぶつけて行く。

その合間を縫って駆けた。

 この弾幕攻撃を避けるにはあえて飛び込むしかない。

 流体弾が腕を掠り傷を付け、爆砕術式が肌を焼く。

 それでも足を止めず腕に羽衣を巻くと駆け抜けた。

前方には敵の姿。

 それに目掛けて羽衣を延ばそうとした時に気がつく。

敵が弓を構えていることに。

「!!」

 矢が放たれる。

 矢は此方の胸を狙い真っ直ぐに飛来する。

━━間に合ってください!!

 足を止め、体を傾け矢の軌道から胸を外す。

 矢は此方の左肩に深く突き刺さり、痛みから声にならない叫びを上げる。

それでもまだ進もうとすると敵がゆっくりと左手を上げた。

「はい、お終い」

 手が振り下ろされると同時に再び“何か”に体を殴りつけられた。

 

***

 

「衣玖!?」

 吹き飛び地面に叩きつけられた衣玖の元に駆け寄り、直ぐに応急用の回復術式を展開する。

「すみ……ません……」

「いいから黙ってて!」

 肩に突き刺さった矢に手を掛けると「ちょっと痛むわよ」と声をかけると引き抜いた。

「っ!!」

 衣玖の肩から鮮血があふれ出るが直ぐに回復術式を付加した護符を傷口に貼り付け止血する。

「大丈夫ですの!?」

 ミトツダイラとアマテラス達も駆けつけ心配そうに覗き込めば衣玖はゆっくりと頷いた。

そして乱れた息を整えながらゆっくりと口を開く。

「敵は……左手に何か障壁を……それに……何らかの……不可視の攻撃を……」

「ええ、見てましたわ。貴女のおかげで対策が出来そうですの」

 ミトツダイラにそういわれ衣玖は安堵の表情を浮かべて気絶した。

「お、おい。竜宮ネーちゃん大丈夫かよォ……」

「ええ、気絶しただけだけど結構やられたわね」

 全く、無茶をして……。

彼女の頭を優しく撫でるとミトツダイラの方を見る。

「ミトツダイラ、私ね。今物凄く腹がたってるの」

「ええ、私もですわ」

 互いに頷く。

「…………頼んだわよ」

「Jud.」

ミトツダイラが背を向け、待ち受ける敵の方に向かう。

 永琳は戦いが始まったときと変わらず悠然と立っており此方の様子を見ていた。

「次は貴女かしら?」

 ミトツダイラは首を縦に振り、その大ボリュームの髪をかき上げた。

「武蔵アリアダスト教導院第五特務、ネイト・ミトツダイラ。参りますわ!!」

 昇り始めた月を背に銀狼が駆け出した。


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