日本の中部地方に存在する美濃国。その美濃国から尾張国に続く街道には4つの関所が存在した。
関所は鉄の壁で覆われており上部には対空用の実弾砲と見張り台が建っている。
その関所の尾張側から二番目の見張り台に夏用の装甲服を着た男が双眼鏡で尾張国境を偵察していた。
「こちらc-2。今日も異常なしだ」
と備え付けの通神機に呼びかけると応答があった。
『こちらc-1。こっちも異常なしだ。しかしお互い夜番とは運がないな』
と苦笑した声が返って来たのでこちらも苦笑する。
c-2は見張り台に備え付けられている椅子に座り立て掛けてあった長銃を点検する。
「それにしても道三様も心配性な人だ。P.A.odaとの国境にこれだけの施設を置くとはね」
『それだけ織田が危険だという事だ。攻撃馬鹿の義龍様じゃあこんな事しない』
「聞かれたら首が飛ぶぞ」と笑う。美濃国に存在する斉藤家では統合争乱後一騒動あった。
生前、斎藤家では当主である斎藤道三が息子斎藤義龍に討たれるという所謂長良川の戦いが起きた。
その為か再び斎藤家が興った時にも道三派と義龍派、そしてどさくさに紛れて龍興が反乱し三つに分かれることになった。
「あの時お前は龍興様に付いたんだよな。今さらながらなんでだ?」
『しょうがねーだろ、気が付いたら家が三つに分かれて何処行けばいいのか分かんなくてなんとなく龍興様に着いて行ったんだよ』
「なんとなくかよ・・・」
とc-2が再び苦笑する。
結果としてこの騒動は斎藤道三がサシで話そうと言って他二人が来たところをジャーマン・スープレックス決めて義龍・龍興両名を倒した為解決した。
この話は後に衆道話“油男がイクっ!”となって話題を呼んだというが定かではない。
「しかし織田の奴等、この七年間まったく動きが無いってのは不気味だな」
『向こうも無駄な消費はしたくないって事じゃないか?』
「だといいんだがな。だけどこう何もないと本当に暇だな。こうしていれば織田の小部隊が出てこないかねえ」
『やめてくれよ。本当に来たら一番最初の門を守る俺達が戦うんだからよー』
c-2は笑いながらもう一度双眼鏡を覗く。やはり周囲には何も無くただ夜の闇が広がっていた。
「大丈夫だよ、誰も来ちゃいないって━━」
突如第一門が爆発した。c-2は第一門の爆風から身を守るため咄嗟に身を屈める。
その直後頭上を爆発による熱風が吹き、第一門の破片が第二門の壁に激突する。
あたりが静かになり頭を上げると直ぐに通神機の呼びかけた。
「c-1!! c-1!! 応答しろっ!!」
反応は無い。c-2は「クソッ!」と叫ぶと双眼鏡で第一門を見る。
第一門はその中央に巨大な穴が開いて穴の縁は赤熱し金属壁が溶けている。門の上
部は対空砲に引火したのか炎上しており、見張り台は崩れ去っていた。
━━何が起きた!?
c-2が報告の為、通神機に手を伸ばすと第一門の上空に16の影が現出した。それは黒い
装甲を纏った16隻の航空艦だった。航空艦の側面には金色の木瓜のエンブレムと『P.A.oda』
とい文字が書かれている。
「織田め、戦艦をステルス航行で近づけていたのか!!」
更に織田国境から大軍が出現した。織田軍は皆完全装備をしており、遥か後方には武神
の存在もあった。
「まさか織田は全面戦争をする気かっ!」
直後航空艦から二度目の流体砲による一斉射撃が行われ第二門が炎上した。
***
本多・正純は奥多摩の教導院に向かって走っていた。
周りには多数の表示枠を開き、肩の上に座っている正純の走狗“ツキノワ”が新しく送られてくるメールを優先度順に折り畳んでいる。
P.A.odaが斎藤領に侵攻したという報告は今朝届いた。既に織田軍は墨俣城を陥とし、稲葉山城を包囲しているとの事だ。
商工会からの通信を片付けると岡崎の徳川家康から通神が来た。
『正純殿、織田の件聞き及んでいるな』
「Jud.、 こちらでも情報収集の為教導院に向かっているところです」
『先程その織田から今川を攻めるよう勧められた』
「━━━━。」
思わず足を止める。背中に冷や汗を掻く。
「━━如何なさるおつもりで?」
『こちらでも一回評定を開きたい。そちらの話が纏まり次第岡崎城に来てほしい』
「Jud.」
正純は表示枠を閉じ一息つく。
「ネシンバラ、直ぐに皆を教導院に集めてくれ」
『Jud.、 いつもの橋でいいかい?』
「ああ、そこでいい」
さて、忙しくなるな。と正純は再び駆け出した。
***
教導院の前に梅組の生徒達が集まっていた。正純は皆の前に出ると表示枠を開く。
表示枠には炎上する墨俣城が映されている。
「皆知っていると思うが昨夜P.A.odaが斎藤家に全面侵攻を仕掛けた。そして今朝その織田から徳川に対して今川家を攻めるよう勧められた」
皆が息を呑むのが分かった。しばらく沈黙すると半竜の横に座っていた伊達・成実が言う。
「それはつまり、私達徳川も聖連を無視して戦えって事?」
「Jud.、 そういう事になるな」
すると両腕を義手にした少女が手を上げる。
「副会長、聖連に楯突けば我々が窮地に陥るだけでは?」
正純は頷くとネシンバラの方を見た。
「書記。我々が今川を攻めるメリットとデメリットを教えてくれ」
と言うとネシンバラは眼鏡を鼻の上で一回押し、表示枠を開く。
「今日のスーパーネシンバラタイムだね! じゃあ張り切って解説しよう! ではまず僕らが今持っている二つの選択肢を述べよう。まず一つは織田の言うことを無視し、聖連に反逆したP.A.odaを討つ事。もう一つは織田の勧め通り今川家に侵攻することだ。それじゃあそれぞれのメリットとデメリットがあるんだけど分かるかい? 分からないよね! じゃあこの僕が教えよう!!」
***
・● 画:『この眼鏡、いつもよりテンション高くない?』
・魚雷娘:『そうなんですか? てっきり普段もこんな風に頭イカレ━━ハイテンションなんだと思っていましたが』
・貧従師:『いやぁ、普段もそうですけど今日は特に頭がイカレ━━テンション高いですねぇ』
・金マル:『ほら、バラやんこの前康政さんストーキングして色紙貰うとしたら本人目の前にして思いっきり噛んで、その後不思議な踊りしてたら康政さんに「頑張れよ」って言われたからだと思うけど。ナイちゃん思うにこれ励ましじゃなくて哀れみなんじゃないかなーと』
・天人様:『哀れね』
・未熟者:『ハイ! そこ脱線しない!』
***
ネシンバラは表示枠を開きながら外道どもの前に出て皆を見回す。
「まずは徳川がP.A.odaと戦う道から行こう。これのメリットで一番大きいのは聖連に大きな借りを作れるって事だ。
まず、今回の件聖連の援軍は間に合わない。現在聖連は西日本の土佐を本拠地としていて中部地方に援軍を送ったとしても最低2日はかかる。
その間に織田は稲葉山を陥落させて近畿地方に進出するだろう。
そこで僕達の存在だ。
徳川は織田の背後を守る形で同盟している、この同盟を破棄して織田の背後を突けば織田は徳川に対して兵を裂き、その結果近畿地方の攻略を大きく遅らせる事が出来る。
これによって徳川は聖連に大きな借りを作れるってわけだ。
次はデメリットだけど、まず一つ目はあの織田と戦わなければいけないという事と仮に織田を倒せば徳川は最大の同盟国を失うって事になる。
さらに今回の件、織田を倒しても終わるとは限らないってことだね」
ホライゾンと葵・喜美の間にいた全裸が質問する。
「織田が戦争始めたんだから織田を倒しゃいーんじゃねーの?」
と言うと天子が肩を竦める。
「馬鹿ね。織田を倒したって第二、第三の織田が出るに決まっているじゃない。
今までは小規模合戦でどの大名もガス抜きしていたのに織田っていう大国が火を点けたのよ。
この炎はあっという間に日本中に広まるわ」
「Jud.、 現在の聖連はお世辞にも支配力があるとは言えない。
そんな中、各国の中でも最大級の規模を持つP.A.odaが動けば今まで野心を隠していた大名や聖連に不満が
あった大名が動くだろうね。そうなれば戦国乱世の到来さ」
そう言うとネシンバラは一旦ポーズをとり、再び話し始める。
「次は織田の勧め通り今川を討つことだけど、メリットは今川家を倒すことによって遠州の安全を確保でき、さらに来るであろう乱世を前に国力を増強できるって事だ。
デメリットはそんな事をすれば勿論聖連とは敵対する事になり、世界に喧嘩を売る事になる━━かつての僕達と同じようにね」
ネシンバラがそう言い終わると両腕義手に少女が再び手を上げる。
「織田にも付かず、聖連にも付かないという道もあるのではないですか?」
と言うと隣の背の高い金髪の男性が話す。
「誾さん、それは一番最悪の選択ですね」
「そうなのですか? 宗茂様」
「ええ、聖連にも織田にも付かないという事は両者との関係を悪くするという事であり、結果として徳川は世界的に大きく不利になります」
皆が黙り始めると正純は肩の上で休んでいるツキノワを撫でながら言った。
「書記の言うとおり我々はいま分岐点にいる。そこで私は皆の決を採りたい。
その結果を岡崎に持っていき、そこでの評定で我々の今後を決める━━━それでいいか? 葵」
正純がホライゾンの横で階段に腰をかけているトーリを見るとトーリは親指を立て、頷いた。
正純はその頷きに応じ、
「では、これより決をとる━━━━」
直後表示枠が開き“武蔵”が映る。
『“武蔵”より皆様へ。たった今、今川国境沿いの砦と交信が途絶しました。最後の交信によると「今川の大軍に攻撃を受けている」との事です━━以上』
***
しばらくの間誰もが動けなかった。すると端で煎餅を食べていたアデーレが食べかけの煎餅を落とす。
「大軍って……」
半竜の横に座っている成実が地面に落ちて割れた煎餅を見ながら。
「今川に先手を打たれたということね」
正純は深呼吸し直政を見る。
「直政、いま浜松港には何隻、航行可能な船がある?」
「今朝方織田方面に3隻飛んで、2隻は整備中。直ぐに飛べるのは5隻さね」
今度は二代を見る。
「二代、いま浜松にはどの位の戦力がある?」
「港外の警備隊を含めて2400人程で御座ろうな」
すると今度は隣のネシンバラを見る。
「ネシンバラ、直ぐに岡崎と連絡を取って援軍を要請してくれ」
「Jud.」と言うとネシンバラは岡崎と連絡を取り始める。
「浅間、無駄だとは思うが浅間神社経由で今川に抗議文を送ってくれ」
「は、はい」と浅間は言い、表示枠を開く。一通り指示を終えると梅組の皆がこちらを見ているのに気が付く。
正純はまず馬鹿を見、次にその横のホライゾン、喜美を見ると頷いた。
「みんな、今日は忙しくなると思うがよろしく頼む」
「「Judgment!!」」
***
三河東部の上空に多数の艦船が航行していた。
艦隊は前列には8隻のドラゴン級戦闘艦が一列に並んでおりその後方では両側を2隻のクラーケン級に挟まれた今川軍旗艦ヨルムンガンド級戦艦“駿河”が航行していた。その後方には14隻の輸送艦とその護衛のために6隻のワイバーン級護衛艦が追従している。
その艦隊に前方から一つの影が近づいて来た。その影は炎の二対の翼を持ち、まるで童話に出てくる不死鳥の様であった。
不死鳥はドラゴン級の間を通り、“駿河”の上に出るとその場で旋回を始め、“駿河”の前部甲板に降り始めた。
不死鳥が甲板に下りるとその炎の翼をしまい、その中から一人の少女が出てきた。
藤原妹紅だ。
妹紅が甲板で一息をつくと艦橋側から今川義元がやって来る。
「哨戒台潰しご苦労さま」
と言うと妹紅は右肩を回し
「つまらない仕事だわ。殆ど抵抗が無かったし」
と言うので義元は苦笑する。
「まあ、向こうからすれば不意打ちだ。碌な警戒をしていなかっただろうさ。なに、本番はこれからなんだ今の内に慣らしておけ」
「はいはい」と妹紅はつまらなそうに言うと前方の艦隊を見る。
「しかし、これだけの船を持っていたとはね。これも北条からの買ったやつかしら?」
義元は妹紅の横に立つ。
「興国寺経由で部分ごとにバラして買ってたのさ。船その物を買えば他国から警戒されるからな。もっとも武田は気付いていたようだが」
「まあどうでもいいわ」
と妹紅は言い艦橋側に歩き始める。妹紅は振り帰り
「私は部屋で休むけど義元さんは?」
「もう少しここにいるさ。ここからならば浜松が良く見えるからな」
「そう」と言うと再び歩き始め下層に下りるための階段近づくともう一度振り返る。
「義元さん!」
浜松の方を見ていた義元は振り返る。
「やるからには必ず勝ってあげるわ!」
手を振る義元を背に妹紅は下層に消えた。
***
正純がアリアダスト教導院で各所と情報交換をしていると奥多摩の方から忠勝がやって来た。
忠勝は正純に一礼すると。
「正純殿、本多忠勝平八郎他500名。先遣隊として参上仕った」
正純は表示枠を畳むと一礼する。
「援軍感謝します忠勝公」
「早速だが状況は?」
「30分ほど前、クロスユナイト達を偵察の為に向かわせた所です」
すると点蔵からの通信が入る。
『こちら偵察隊に御座る。今川軍を浜松港東部14kmの位置で確認したで御座る』
忠勝が身を乗り出し表示枠の点蔵に話しかける。
「敵の兵数は分かるか?」
『忠勝殿で御座るか。ここから見たところだと今川軍はおよそ1万5千以上、上空には輸送艦を含め31隻おるで御座るよ』
多いなと正純は顔を顰める。
『もっと接近すればより詳細な情報が分かると思うで御座るが、如何するで御座るか?』
「いや、これ以上の接近は危険だ。クロスユナイト、よくやってくれた。帰還してくれ」
『Jud.』と言うと表示枠が消える。
「忠勝公、岡崎からの援軍はどの位で到着しますか?」
「約2時間程であろう。その前に今川は動くであろうな」
忠勝にそう言われ正純は考える。現在の戦力差では港に篭城してもあっという間に制圧されるだろう。
かといって打って出たとしても同じ事だ。
━━どうする?
正純がそう思っていると表示枠にネシンバラが映った。
彼の背後には比那名居天子と永江衣玖が立っている。
『本多君、僕にいい考えがあるんだけど聞きたくないかい! 聞きたいよね!』
正純は表示枠を消す。すると再び表示枠が出る。
『いや! 何で消すんだい!』
「いや、何か面倒だったから」
まったくとネシンバラがいうと作戦の書かれた情報を通神で送ってくる。
「これは……」
『一発逆転の作戦━━やってみないかい?』