視界が歪む。
左肩の感覚は無く、全身に気だるさと冷たさを感じる。
肩から流れる血は冷たさを持ち最早痛みは感じない。
━━しくじったで御座るよ……。
木箱の裏に隠れながら点蔵はそう思った。
敵が幻覚の技を使う事もそれが敵の瞳、『狂気の瞳』を使っての物だという事も聞かされていた。
だが敵を仕留めれると思った瞬間敵と目が合ってしまった。
肩に銃撃を受け、直ぐに隠れたが傷はかなり深い。
空を見上げれば黒色であった夜空は赤く染まり、月は真紅に輝く。
さらに地面は水面の様に波打ち続け正直座っているだけでも気分が悪くなってくる。
応急処置用の回復術式札を肩に当て、止血を行う。
左手は動かないが右手はまだ使える。
短刀を右手でしっかりと握ると慎重に様子を窺った。
この歪んだ世界のせいで敵の位置が分からない。何処から、何時攻撃が来るか分からないため精神的な疲労が蓄積する。
足音が聞えた。
砂利を踏む音。
それは自分の右側から聞え、近づいてくる。
此方は音を立てないように慎重に中腰になると構えた。
また一歩近づいてくる。
音の位置から後一歩で此方の攻撃範囲に入る。
それを待とうとすると突然足音が止んだ。
━━…………止まった?
突如左側から足音が聞える。
銃を構える音が鳴り、慌てて木箱から飛び出す。
それから僅かに遅れて木箱は砕け散った。
━━いつの間に!?
歪んだ大地を歩きながら後ろを振り返れば既に敵の姿は無かった。
今度は近くの樽の裏に隠れようとすると突如腹部に衝撃を受ける。
「っ!!」
腹部を穿ったのは足であった。
突然の横蹴りを受け地面を転がるが直ぐに体勢を立て直し近くの木箱の裏に隠れる。
「…………聴覚もやられたようで御座るな」
視覚だけではなく聴覚まで狂わせるとは……。
五感が狂えば万が一にも勝ち目は無い。
「さて、どうするで御座るか……」
そう言い額の汗を拭った。
***
「ほおー、うどんげもやるもんだねー」
忍者と鈴仙の戦いを少し離れた所から因幡てゐとメアリは観戦していた。
二人は積み重ねられた木材に腰を掛け茶を飲む。
「自分で“戦うの面倒だから止めようかー”って言っておいてなんだけど、無防備すぎない? あんた?」
そう言うと隣のメアリは笑った。
忍者と鈴仙が戦い始めた後、残された自分達は取り敢えず向かい合っていた。
だが正直戦う気力は私には無く。相手も敵意が無かったため観戦することにしたのだ。
それで二人で観戦していたのだがこの金髪巨乳、完全に此方に対する警戒を解いている。
流石にそれはどうなのよ?
と聞いてみると彼女は「てゐ様を信じていますから」と言った。
信じているねー。
正直って一番胡散臭い言葉だ。
「信じるって言ってもさ、私がいきなり攻撃したらどうするのさ? あんたお終いだよ?」
「そうかもしれませんね。それでも私はてゐ様を信じようと思いますよ?」
溜息が出る。
「何でもかんでも信じてたら損するよ? 世の中皆善人じゃないんだから。寧ろ悪人の方が多い」
そう言うとメアリは「そうですね」と目を伏せた。
「ですが全てを疑い拒絶して動かなくなるより他者を世界を信じて前に出ようと思っています。それで傷つけられてもそれもまた長い人生の中の大切な経験です」
「ふーん……」
なんともまあお花畑なことで。
言っている事は分かるし彼女は“善人”であるのだろう。
だが私は“善人”が嫌いだ。
綺麗事を言い並べ自分は正しいと思っている奴は好きではない。
世の中の“善人”には三つの種類がある。
一つは『自分が偽善者である事を自覚している偽善者』だ。
これは良い。
人間生きていけば他者との付き合いもあるし善人であるという事はそれだけ人社会で有利だ。
それを知り慈善事業に励んだりするのは生きていく上で当然のことだろう。
だれだって悪人にはなりたくない。
次は『自分が偽善者である事を自覚していない偽善者』だ。
これは駄目だ。
こういった人種は普段は良い事をしているがそれはあくまで褒められたいからであり、そんな自分に酔っている。
しかしそれに気がついていないのだ。
だから追い詰められるとあっと言う間に善人の仮面が剥がれ本性が出る。
『自分は悪くない。悪いのは他の人だ』と。
これほど惨めな事は無い。
さて、最後だがこれは『本物の善人』である。
これはまあ本当にたまに出てくる馬鹿だが、私は心から羨ましい。
━━善人を羨ましがる時点で私は穢れきってるんだろうけどね……。
長く生きると様々な事を見て捻くれる。
『偽善者』の定義についてだって捻くれた私の独論だ。
これが絶対だなんては言えない。
もっと心の綺麗な奴なら別の考えを持っていることだろう。
まあ、これは置いておこう。
さて、ではこの目の前の金髪巨乳は私の考える“善人”の内どれなのかだが……。
━━試してみるか……。
「……そうだ、お団子食べない?」
そう言ってポケットから団子を取り出すとメアリは「有難う御座います」と頷いた。
そして団子を取ろうとするがそれを止める。
「ああ、ちょっと待って。かけると美味しくなる粉があるから」
胸元から小さな袋を取り出す。
その袋には毒物を記すマークが描かれておりそれを手で隠しながら袋を開く。
その際に僅かにマークを手の隙間から相手の方に見せる。
一瞬であったがメアリの目がマークを見た。
此方はそれに気がつかないように袋を開くと緑色の粉を団子にかけた。
「はい、どうぞ」
そして団子を突き出した。
━━さあ、どうする?
この金髪巨乳は袋のマークを見た。
団子にかかった粉が毒物を入れる袋から出た事を知っているのだ。
どんな“善人”であったとしても自分の身に危険が迫れば躊躇うし、食べない。
さあ、この女はどうする?
そう思ってみれば彼女は笑顔で団子を取り「頂きます」と口に入れた。
まったく躊躇いの無い動作。まるでマークなど見て無かったかのように。
暫く咀嚼すると飲み込み笑顔になった。
「この粉、抹茶ですね」
その様子に暫く唖然としているとメアリが首を傾げた。
「あの? どうしました?」
「いやいやいや! 何で食べるかな!? 少しは躊躇おうよ!?」
そう言うと再びメアリが首を傾げるので思わず身を乗り出す。
「袋! 見てたでしょ!? で、マーク見てたんでしょ!?」
首元から袋を取り出すとメアリに見せた。
すると彼女は頷き此方を見た。
「Jud.、 ですが私はてゐ様を信じました」
━━…………は?
身に危険がある気があるかもしれないのにこっちを信じた?
それが本当であることは分かる。
だがこっちの理解が追いつかない。
「は、はは……」
思わず笑いが出る。
そして思いっきり深呼吸をすると大笑いした。
まったく……まったく、参ったな……。
この女は三番目の“善人”だ。
数千人に一人ぐらいの善人だ。
息が苦しくなるまで笑うと笑い涙を拭き咳き込んだ。
「あ、あの? 私、変なこと言いましたか?」
「ああ、いいのいいの。あんたはそのままでいな」
そのままでいるべきだ。
あの忍者も幸せ者だ。
こんな良い娘を彼女にできてるんだから。
それにしても……。
「いやぁ、負けたわぁ」
「何にですか?」
「ああ、こっちの話しなんだけどね。自分の心の汚さと言うか捻くれ度に負けたというか」
自分も少しは素直に物事を見てみるか。無理だろうけど。
そう思っていると前方で銃声音がなり響く。
どうやら向こうは盛り上がっているようだ。
「さて、あっちは忍者が追い詰められているようだけどどうなるかな?」
「点蔵様でしたら大丈夫ですよ」
「彼への信頼?」と聞くとメアリ「Jud.」は頷く。
自分はどうだろうか? 鈴仙を信頼しているのだろうか?
そんなの決まっている。
「ウチのうどんちゃんも結構やるよ」
二人で顔を見合わせ笑う。
すると前方で再び銃声音が鳴り響くのであった。
***
「はあ? 相対戦をやってる? 天守前で?」
正門で敵を迎え撃っていた島清興はそう眉を顰めた。
正門では前進してきた徳川軍との銃撃戦が行われていたが敵の攻撃は障壁によって此方には当たらず、此方の弾丸は向こうの術式盾に防がれていた。
そのため戦況は膠着し銃撃戦も疎らになってきた。
どうしようかと考えているところに伝令兵が来たのだ。
「…………どうする?」
隣の松倉重信に言われ清興は溜息をつく。
「正式な相対戦なら俺らはどうしようも無いからねぇ……」
表示枠をいじり天守前の映像を映せば永琳と銀髪の騎士が相対していた。
「これ、敵さんも見てんのかい?」
伝令兵は「恐らく」と首を縦に振る。
相対戦の内容はまさに筒井の勝敗を賭けた物だ。
この相対戦ですべてが決まると言うなら……。
「敵さんと停戦します?」
そう言うとその場にいた皆が驚愕の表情で此方を見た。
「正気か……?」
「正気も正気。このままじゃ埒明かないし敵さんも無駄に兵を死なせたく無いでしょ?」
実際先ほどから敵の動きは鈍い。
守備に専念し、此方の様子を窺うことに専念している。
向こうも相対戦の結果待ちと言う事だろう。
重信は暫く思案していると小さく溜息を吐き伝令兵の方を見る。
「徳川軍に通神を繋げろ。停戦要請を行う」
「は、は!」
伝令兵が駆け出すとその場にいた兵たちが顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべた。
それを見て笑うと天守の方を見る。
━━さて、どうなりますかねぇ?
あの八意永琳が負けるとは思えないが、敵も何か策を用意しているだろう。
ともかく今は相対戦を観戦しようじゃないか。
そう思い表示枠に映る相対戦の様子を皆で見るのであった。
***
━━さて、どうしましょうか?
衣玖が八意永琳に使わせた技は4つ。
一つは正体不明の防御術式。
二つ目は同じく正体不明の攻撃術式。
三つ目に攻撃術式を多数展開した弾幕攻撃。
そして最後に弓による攻撃だ。
四つ中判明しているのが二つは何れも遠距離攻撃だ。
残り二つの性質が分からないのは厄介だが……。
━━少なくとも弾幕攻撃されるよりはマシですわ!
此方には弾幕を防ぐ術が無いため敵の懐に飛び込むしかない。
例の正体不明の攻撃術式が気がかりだが……。
敵の方を見れば敵は既に攻撃術式を展開しており迎撃の構えを見せている。
━━凄まじい量の術式ですわね。
これだけの攻撃術式を同時展開しているのだ。
いったいどれだけの内燃排気を持っているのか……。
永琳が一歩下がる。
それに合わせて突撃した。
閃光と共に攻撃術式が津波のように放たれるが身を低くしかわして行く。
駆けると言うよりは跳躍に近いそれは体を地面に対してほぼ水平にしたものであり、地面に足を着けるごとに踏み込み、バネの様に跳ぶ。
数発が髪を掠るが気にせず行く。
光の津波を抜けるとそこには弓を構えた敵の姿がある。
「同じ手は喰らいませんのよ!!」
銀鎖を右手に巻きつけ跳んでくる矢を弾いた。
「銀鎖!」
右側二本目の銀鎖を横に薙ぎ相手の胴を狙う。
それに対し永琳は左手を前に出し、弾いた。
━━やはり左手で防御を行っていますわね!
ならば!
腕に巻き付いていた銀鎖を解き、再び左側から狙う。
敵はそれを再び迎撃しようとしたがそこへ右側から二本の銀鎖で横薙ぎの攻撃を行った。
敵は左手で防御を行う。
ならば左手を使わせ、その隙に右側から攻撃する。
だが、右側の銀鎖は突如二本とも弾かれた。
例の攻撃術式だ。
それを防御に使ったのだろう。
だが。
「それも読んでましたのよ!」
突進する。
敵は左右に注意を取られた。
その隙に一気に距離を詰め格闘戦に持ち込む。
右手を突き出し狙うのは敵の頭部。
いかに不死系種族であっても頭部を失えば視覚を失い、建て直しに時間が掛かる。
しかし拳は敵には届かなかった。
否、逸らされたのだ。
「!!」
敵は咄嗟に身を逸らすと右手で此方の右腕を払い軌道を逸らす。
そして体勢の崩れた此方の腹を目掛け蹴りを入れたのだ。
体が後ろに吹き飛ばされ、転がる。
腹部に来た衝撃で一瞬呼吸が止まるが直ぐに体勢を立て直し構える。
「私が格闘戦苦手だと思ったのかしら? 姫様の護衛をしているのよ? 武芸は嗜んでいるわ」
そう言うと永琳は踏み込み、距離を詰めてきた。
右手で此方の首を狙い、それを左手で防ぐと今度は左手で胸を狙ってきた。
それを右手で払うと膝蹴りを敵目掛け放つ。
永琳は咄嗟に後ろに飛ぼうとするがそれを四本の銀鎖が後ろか掴んだ。
「銀鎖! 巻きついて潰しなさい!!」
銀鎖が敵に巻きつき圧迫して行く。
少々倒し方としては惨いが、この敵相手に手段は選べない。
「……っ。流石に……潰されるのは嫌ね……!!」
その瞬間、銀鎖が弾けた。
「銀鎖!?」
四本の銀の鎖は砕けながら地面に落ち、月明かりを反射する。
そしてその中心に八意永琳は立っていた。
彼女は不可視の何かを身に纏っており、空間が波打つその姿はまるで……。
「城を覆っていた障壁を操っていたのですわね!!」
月明かりを背に永琳が笑う。
「創作術式『思兼』。障壁を自由自在に操る攻防一体の術式。それがこれよ」
永琳が手を振りかざした瞬間、不可視の腕が襲い掛かってきた。
***
「……思兼。やっぱり彼女は……」
教導院前の橋で浅間・智はそう呟いた。
教導院前の橋には梅組の皆や遊撃士達、そして英国からの客人が集まり大型表示枠に映る相対戦の様子を見ていた。
「ああ、八意と言う名でまさかと思ったけど」
そう言ったのはネシンバラだ。
「あん? どういうことだ?」
皆の中央で階段に腰掛けていたトーリがネシンバラを見る。
「八意思兼神。高皇産霊尊の子とされ常世の神とも言われている神で思考と思想、知恵を神格化した神だ。
岩戸隠れの際に八百万の神に天照大神を岩戸の外に出すために知恵を授けたりと日本神話の中でも大物だね」
「それって、かなりやばいんじゃ……」
アデーレがそう言うとネシンバラは頷く。
確かに八意思兼神本人であれば彼女に対抗できるのは全盛期のアマテラス位だろう。
「神だとしてもこの世界では全力を出せないのでは?」
ホライゾンがそう言うと頷きを返す。
「はい、この世界では能力に制限が付きますからまだ勝ち目が有ります。あの術式をどうにかできればですけど……。
彼女が操っているのは筒井城を覆っている障壁と同等の物です。
つまり城砦防御用の障壁。その中でも上位のものです」
「それって航空艦の流体砲撃を防ぐ奴よね? 個人の火力では突破できそうに無いんだけど?」
ナルゼの言う通りだ。
今の天子達であの術を貫けるのは恐らくアマテラスの神気のみ。
かなり分が悪い。
「なあなあ、ノリキ。オメエの術式なら抜けそうか?」
「……分からん。だが術式であるのなら可能性はある」
あの場にノリキがいれば戦況は変えられたかもしれない。
彼の相手の術式を解除する“弥生月”ならば……。
━━あと可能性があるなら……。
「緋想の剣ですね」
そう言ったのは後ろの方で立っていた魂魄妖夢だ。
皆がいっせいに振り返ると彼女は思わず一歩下がる。
「どういうこと?」とエステルが問うと彼女は頷き。
「緋想の剣には気質を集め断つ力が有ります。それで城の障壁に傷を付けれた訳ですし可能性は有ります。ただ傷を付けれても断てなければ意味は有りません」
傷を付けれるぐらいではあの術式に対抗できない。
城の術式と同じならば直ぐに修復してしまうだろう。
「ともあれ銀鎖を失いピンチなミトツダイラ様なわけですが? どうなると思いますか喜美様?」
「フフ、ホライゾン。貴女もあの子がどんな子か知っているでしょう?」
「Jud.、 手負いの獣ほど恐ろしいものはありませんからね」
ホライゾンが頷くと皆も頷く。
戦闘が開始して十分が経った。
表示枠には防戦一方のミトツダイラが映っているが防戦だけで終わる彼女じゃないはずだ。
「お、ネイトやるみたいだぜ?」
その言葉に皆が表示枠を見た。
***
━━攻撃が激しすぎますのよ!
不可視の攻撃を避けながら様子を窺っていたが全く隙が無い。
だが敵の術式を捉えられるようにはなった。
“思兼”は障壁を自在に操る術式で透明であるが完全に見えないわけではない。
自分の頭上が突如歪んだ。
右に跳ねるように避けると自分の立っていた所が砕ける。
障壁が存在する場所は僅かに空間が歪んでいるため注意すればなんとか視認が可能だ。
今までの攻撃を受けて分かった事は敵は体を中心に百メートル範囲内を攻撃可能で障壁は人間の横幅とほぼ同じぐらいの幅を持つ手のようなものだ。
更に腕は一本のみ。
敵は左半身を常に障壁で覆っているが右半身は攻撃の際には術式が無くなる。
遠距離戦は例の弾幕攻撃、中距離戦は腕の射程。
銀鎖を失った自分にできる事はただ一つ!
━━やはり格闘戦ですのよ!
不可視の腕が収縮し、此方を狙う。
それに対して正面からの突撃を行った。
腕はまだ動かない。
敵から約五十メートル程。
━━来た!!
地面を踏み込み急ブレーキを掛けると後ろへ跳躍する。
眼前が砕けるのと同時に着地し、今度は前方へ跳躍した。
敵の腕が戻るまでが勝負。
拳を腰元で構えると突撃しながら狙いを定める。
狙うのは敵の右腕だ。
敵は手で術式の制御を行っている。
ならば右腕を破壊すれば攻撃の手を止められるかもしれない。
一か八かだが残り三分も無い。
━━やるしかありませんのよ!
だが突如違和感を感じた。
頭上、障壁の腕がある場所が激しく歪んだのだ。
━━なんですの!?
疑問を感じると同時に危険を感じ横に跳躍する。
その瞬間、腕の下一直線に地面が砕けた。
「これは!! 腕から小さな腕を生やしましたのね!?」
障壁の腕の下部から剣山の針のように小さな腕が伸び地面を砕いたのだ。
永琳が右腕を横に払うと巨大な障壁の腕が横に薙がれ迫ってくる。
それを跳躍し飛び越えようとすると空中で小さな腕のほうに足をつかまれた。
「しまっ……!!」
叫ぶ前に別の腕が首を絞め声が出ない。
━━絞め殺される!!
既に全身を拘束され動く事ができない。
意識が薄れていくのを感じながら死を覚悟すると突如アラームが鳴り響く。
「時間切れよ! 離しなさい!!」
天子がそう叫びながら駆けて来る。
永琳はそれを見るとため息を付き此方の拘束を解除した。
地面に落ち、膝を付くと咳き込む。
「ミトツダイラ! 無事!?」
「ええ、危ないところでしたが……」
天子が手を差し伸ばし、それを掴むと立たせてもらう。
「時間切れの場合、どうなるのかしら?」
永琳がそう問うと表示枠が開き正純が映る。
『この相対戦は引き分けとなる。次は五分間の休憩時間だ』
***
休憩時間に入ると直ぐに円陣を組み作戦会議となった。
「お役に立てなく申し訳ありませんわ」
ミトツダイラの謝罪の言葉に皆首を横に振る。
「そんなことは無いわ。おかげで敵の術式の正体が分かった」
とは言え打開策が見つからない。
「アマテラス、あんた達で何とかなりそう?」
そう訊くとアマテラスは首を傾げる。
「オイラたちに任せな! とは言えねェ。せめてアマ公が本来の力を取り戻せてればなァ……」
イッスンがそう言うとミトツダイラが首を傾げた。
「前から思っていましたけどどうして力を失いましたの?」
「オイラもイマイチ覚えてねェんだが、なんか黒い霧みたいのに覆われて気が付いたらって感じだなァ」
黒い霧。
自分も覚えがある。
自分が此方に飛ばされる前に展開から幻想郷を見たとき幻想郷はその黒い霧に覆われていたのだ。
その時に何かを見た気がするのだが……。
「私達と同じですわね。私達もノヴゴロドから有明に戻る途中黒い霧に覆われましたの」
恐らくエステル達もそうだろう。
「そんなことよりもあいつをどうするかね」
そう言うと皆「うーん」と悩む。
せめて何か現状打破のきっかけがあればいいのだが……。
そう思っていると表示枠が開いた。
そこには短くこう書かれていた。
・焼き鳥:『着いた』
皆それを見ると顔を見合わせ、頷く。
***
二勝。
残りは半分だ。
天人の持つ緋想の剣とアマテラスが厄介だが余力はまだ十分にある。
━━この分なら勝てそうね。
慢心はしない。
残りの相対戦も全力であたり、叩き潰す。
そう思っていると天人が此方に歩いて来た。
「あら? まだ時間は残っているようだけど?」
そう言うと彼女は腰に手を当て「知ってるわ」と言った。
「貴女に言いたいことがあってね」
「なにかしら?」
「貴女は私たちが敵中で孤立無援だと思っているでしょう?」
それはそうだろう。
彼女達は空から降ってきたのだから。
この場にいない残りも鈴仙たちが戦っていると報告を受けている。
「“徳は孤ならず、必ず隣あり”」
「……まさか!?」
天人が右手で銃のまねをし天守を狙うと笑った。
「ばーん」
その瞬間、天守が爆発した。