筒井の空を不死鳥が行く。
不死鳥は急上昇を行うとそのまま一気に急降下に移り、加速した。
不死鳥が狙うのは城壁の上に立つ蓬莱山輝夜だ。
彼女は向かってくる不死鳥に余裕の笑みを向けると手を振る。
それに激昂するかのように不死鳥が嘶くと体当たりを行った。
炎が弾け、一瞬で周囲を燃やし尽くす。
周囲にいた兵は慌てて身を隠し、誰もが輝夜が粉々になったと思った。
物陰隠れていた兵士の内誰かが言う。
「お、おい。どうなったんだ?」
他の誰かが
「俺は嫌だぞ! 美少女のスプラッター映像なんて見たくねぇ!」
互いに様子を窺えと押し合っていると一人が転んで物陰から飛び出した。
彼は慌てて目を塞ぐが好奇心からか少しだけ目を開ける。
そして呟いた。
「…………まじかよ」
「な、なんだ? どうなったんだ!?」
他の兵士達が訊くと彼は輝夜がいた方を指差す。
皆恐る恐る覗き込むと絶句する。
「…………まじかよ」
輝夜が立っていた。
彼女は身に傷一つ無く、薄い衣を全身に纏う。
そして右手で白髪の少女の首を掴んでいたのだ。
***
「だから言ったでしょ? 貴女程度の火力じゃこの衣を抜けないって」
此方の首を絞めながら輝夜はそう笑う。
此方の炎の鎧は全て火鼠の皮衣に無効化され、迎撃された。
「ぐ……こ……の……!」
力を入れ暴れようとするが首を絞められ上手く動かない。
輝夜はそんな此方の様子を楽しそうに目を細めて見、「うーん」と左手を顎に添えた。
「最初の一回目はどうやって殺そうかしら? やっぱり絞殺?」
首を絞める力が強まり息が出来ない。
ふざけるな!
そう叫ぼうとした瞬間、首の骨を折られた。
視界が暗転し、意識が途絶える。
だがそれも一瞬だ。
直ぐに体が再生され意識が戻る。
しかしこのままでは再び殺されるだけ。
━━だったら!
再生すると同時に全身を燃やし、灰にした。
輝夜の手から零れ落ちる灰は直ぐに形を戻し人の形になる。
「!!」
足を先行で回復し輝夜の腹に蹴りを入れると彼女は吹き飛ぶ。
その間に体の完全再生を行うと立ち上がった。
僅かの間に二度死んだ事になるがあのまま拘束され嬲り殺されるよりはましだ。
一気に全裸に成り恥ずかしいがそれどころではない。
輝夜の吹き飛んだ方を見ると五色の竜砲が来る。
迫る竜砲を翼を生やし上空に逃れると地上から輝夜が此方を見上げていた。
彼女の横には五色に光る宝玉が浮遊しており、それが輝きを増すと同時に再び竜砲が放たれる。
龍の頸の玉。
五つの難題の一つで龍の首元にあるという五色に光る宝玉。
封じられた龍の力を打つそれは浮遊する竜砲発射装置だ。
「よくもまあ次々と!」
両腕で巨大な火球を作り出すとそれを投げつける。
それに対し輝夜は火鼠の皮衣を再び展開した。
火球は火鼠の皮衣に受け止められるがそれでいい。
敵は火球の裏にいるため此方の姿は見えていない。
その隙を突き急降下を行った。
真っ直ぐ火球に突っ込む。
火球の中に飛び込み突き抜ける。
肌が焼かれ肉がこげる臭いが充満するがそれを気にせず行った。
そして火球の中で拳を構えると反対側、輝夜がいる側に飛び出す。
「!?」
輝夜は驚愕の表情を浮かべ回避しようとするがそれよりも早く彼女の顔面を殴りつける。
自分の手と相手の頭骨が折れる音が響き、輝夜が吹き飛ぶ。
彼女は暫くうつ伏せになっているとゆっくりと立ち上がった。
此方もそれにあわせ焼け爛れた皮膚を再生する。
「……やってくれたわね」
輝夜の顔は左半分が崩れており、彼女は左手で顔の左側を抑えると睨みつけてきた。
「あら? 少しは美人になったんじゃない?」
そう挑発し、上昇する。
輝夜は此方を見上げつつ顔を再生すると一気に上昇してきた。
***
━━痛いじゃない!!
油断した。
いくら不死とは言え痛みはある。
痛いのは嫌だ。誰だってそうだろう。
だが敵は火球の中に何も躊躇わず突っ込んできた。
おかげで顔を思いっきり砕かれ吹き飛ばされた。
久々の痛みだ。
月の都で処刑されたときの痛みに比べれば微々たる物だが顔面を殴られたというのは精神的にダメージが大きい。
妹紅はこっちを中心に旋回し警戒している。
「なによ、随分と本気じゃない!」
相手は答えない。
いつもの殺し合いであるのに何だろうかこの妙な燻りは?
幻想郷にいたときは互いによく殺しあった。
互いに不死であるため結着は着かないが相手は復讐心と寂しさを紛らわすため、自分は永遠の命を潤す娯楽として戦っていた。
互いに殺しあう仲ではあったが互いに相手のことを理解していたと思う。
ようは二人とも暇だったのだ。
永久の暇を殺し合いというイベントで潤し、楽しむ。
そこには相手と自分だけしかおらずとても充実した空間であった。
だがこの戦いは違う。
相手は私を見ていない。
相手が見ているのは私との戦いではなく、その先にある勝利。
その事を考えると苛立ち歯軋りをする。
「そんなに徳川が大事かしら!?」
玉串を振り流体の槍を放つ。
それを避けたところに宝玉からの竜砲攻撃を行う。
敵は右の翼を切り離すと竜砲をぶつけ相殺した。
そして此方を見る。
「徳川には恩があるからね! それを返すだけよ!」
━━なによそれ!
徳川の恩は自分との殺し合いより重要なのか!?
そう思うとますます苛立つ。
敵は再び天守の裏に隠れた。
妹紅はすでに死亡からの再生を2回、そして何度も緊急再生を行っている。
そのため残りの内燃排気の残量は少ないだろう。
対して自分ももともと自身の内燃排気を半分障壁の制御に回しているため余裕は無い。
━━だったら次で叩き潰すわ!
上昇する。
筒井城全域を見渡せる位に上昇すると両手を掲げた。
「順慶さん、聞えるかしら!」
表示枠を開き筒井順慶に連絡すると彼は『どうした、そんな高いところで』と訊いてきた。
「天守から逃げた方がいいわよ! 多分そこ等辺潰れるから!」
『……は? 待て、お前何を……!』
そこで通神を切る。
まあ聡明な彼なら何が起きるか直ぐに理解し逃げるだろう。
自分の残りの内燃排気うち九割近くを体外に放つと両手を掲げ、集めて行く。
黄金の流体は長大な流体の板に変形して行き、筒井城を覆う程の大きさとなる。
それに反応し妹紅は天守の裏から飛び出し突撃を仕掛けてくる。
「ふふ、貴女に突破できるかしら! この難題を! 潰れなさい! 新難題『金閣寺の一枚天井』!!」
天を覆う金の天井が落ちた。
すべてを押しつぶすようにそれは落下し、不死鳥と激突した。
***
━━状況は良くありませんわね……。
最後の相対戦を見ながらネイト・ミトツダイラはそう思った。
永琳は守りを捨て、攻撃にすべてをつぎ込んだ。
その為アマテラスと天子は押され続け、未だ致命的な攻撃こそ受けてはいないものの確実に削られていっている。
天子達も敵の攻撃を凌ぎながら何とか反撃を行っているが……。
━━与えるダメージよりも敵の回復力のほうが上ですわ!
アマテラスが“思兼”の攻撃を避け、勾玉による射撃を行った。
それは永琳の肩と脇腹を抉るが傷口は直ぐに塞がる。
天子の方も同様で気質弾を放ったり要石を浮かせ放っているがそれらのダメージも敵は直ぐに回復してしまう。
このままでは持久戦だが相手は常に回復が出来、此方は出来ない。
どちらが不利かは火を見るより明らかだ。
アマテラスが突撃を仕掛け、それに永琳が迎撃している間に天子が回りこみ後ろから攻撃する。
しかし敵はそれを事前に読んでおり強烈なカウンターを正面から喰らった。
天子は吹き飛ばされ地面を転がるが直ぐに立ち上がりその場を移動する。
その僅か数秒後に天子の居た場所は縦から“思兼”に砕かれ、土砂が舞い上がる。
それを被りながら天子は駆け、敵と距離を取った。
彼女は冷静に敵の様子を窺うがその表情には疲労の色が色濃く浮かび上がっている。
「……このままでは押し負けますわね」
だがどうすればいい?
あの敵を相手にどう突破する?
その手を考えていると隣で自分の騎士服の上で寝かせていた衣玖が目を覚ました。
「……ここ……は?」
彼女は暫く寝たまま首を動かしまわりを見ると目を見開いて慌てて起き上がった。
「総領娘様……っ!!」
苦悶の表情を浮かべる彼女に慌てて駆け寄り肩を支える。
「無理をしないほうが良いですわ」
「ミトツダイラ様……状況は?」
彼女の問いに頷き戦場の方を見る。
「私も負け、今は相対戦の三回戦と四回戦を同時に行う最終戦の最中ですわ」
彼女も戦いの方を見るとゆっくりと立ち上がろうとする。
「座っていたほうが良いのでは?」と訊くと彼女は首を横に振り「大丈夫です」と言った。
立ち上がる衣玖の手を引き、共に立ち上がると並び立つ。
「どうして二対一になってるのかは知りませんが、押されているようですね……」
「Jud.、 今のところ攻略の糸口も見つかっていませんわ」
アマテラスの攻撃と天子の持つ緋想の剣による攻撃は確かに効いている。
だがそれは最初の二戦よりはマシと言った程度で攻略の糸口にはならない。
せめて緋想の剣に“思兼”を断ち切るだけの力があればいいのだが……。
「……そういえばウシワカが言っていたそうですわね、今の天子じゃ緋想の剣を扱いこなせていないと」
衣玖が頷く。
「衣玖、緋想の剣とは何ですの?」
あの剣が凄い物だという事は分かる。
気質を見極める力を持つあの剣は自分達の世界で言えば神格武装に匹敵する物だ。
「正直なところを言うと私はあの剣の事を知りません」
「そうなんですの?」と衣玖の方を見ると彼女は頷き天子の方を見た。
「代々天界の総領事に伝わる宝剣『緋想の剣』。その力は気質を見極め振れば必ず相手の弱点を突けるとまで言われます。ですがその力ゆえ封印されていました。
そこまでは私じゃなくても知っています。
ですがあの剣が“何時”生まれて、“何処”から伝わった物なのかは歴代総領事も知らない事なのです」
「歴代総領事も知らないって……流石に初代総領事は知っていたのでは?」
そう言うと衣玖は首を横に振る。
「他の総領事様もそうお思いになり調べたそうなのですが初代様は緋想の剣に関する情報を全て抹消していました。
残っていたのは一つの言葉だけ」
「それは……?」と訊くと衣玖は此方を見た。
「“時が来るまで封印し、剣が主を求めるまで誰も触れるな”と」
剣が主を求める?
つまり緋想の剣は蜻蛉切や銀鎖のように簡易的な意思を所有しているのだろうか?
そこでふと引っかかる。
「緋想の剣は封印されていたのですわよね?」
「はい、領事館の倉に封印され倉は総領事様の以外には開けれないようにしていました」
「ではどうやって天子は緋想の剣を盗み出しましたの?」
彼女の父親である総領事以外に封印を解けないのであれば天子は倉の中に入れなかったはずだ。
「私にも分かりません。以前天子様にお聞きしたら『え、倉の入り口? 開いてたわよ? 父様が開けっ放しにしてたんじゃないの?』と仰っていました」
「それは、おかしくありません? 総領事はそのようなミスをする人ですの?」
「いえ、厳格な方ですのでそのようなミスはしません。総領事様も先代から受け継いだ時以外倉に踏み入ってないと仰っていましたし……」
それなのに天子が倉に入ろうとした時には開いていた?
まさか剣が己の意思で封印を解いた?
ならば剣が己の主を求め天子がそれに選ばれたと言うのだろうか?
話を聞けば聞くほど謎は深まる。
「今度緋想の剣についてもっと調べたほうが良いかもしれませんわね」
衣玖が此方の言葉に頷く。
すると遠くから見覚えのある顔がやって来た。
点蔵とメアリだ。
彼らの前には半獣人の少女が二人おり、メアリは此方に気が付くと手を振る。
「第一特務にメアリ! 無事でしたのね!」
「なんとか。自分達は相対戦に勝ったで御座るがこっちは苦戦しているようで御座るな」
「当然よ。師匠が負けるはずが無いわ」
そう薄紫色の髪を持つ少女が言った。
「あら、私達も天子達が負けるとは思っていませんわよ?」
そう言い皆で相対戦の方を見るのであった。
***
追尾してくる矢を緋想の剣で払うと眼前に“思兼”が迫ってきていた。
だがこれ以上下がると今度は敵の弾幕攻撃の射程に入っていしまう。
故に前に出る。
前に駆け出しスライディングで“思兼”の下を潜り抜けると直ぐに立ち上がり後ろから追ってくる小さな手の群れを緋想の剣で振り払う。
左方を見ればアマテラスが迫ってきた“思兼”を背中に召喚した剣で叩き伏せ、“思兼”が地面に激突する。
アマテラスの斬撃によって“思兼”は二つに立たれるが切り口から手が伸びると互いに引き寄せ合い、元の形に戻った。
━━アマテラスの攻撃でも駄目なんて!
現状アマテラスの攻撃が此方にとっての最大火力だ。
だがそれが通用しないとなるといよいよ以て勝機が薄くなってきた。
━━あの術式をどうにかするんじゃなくて、術式を操っている本人を何とかするしかないか!
だがそれをするにも敵の攻撃が激しく近づけない。
アマテラスが敵の攻撃を避けながら此方の横に立った。
「どうするよォ! 天人ネーちゃん! このままじァ、ヤベェぞ!!」
何とか一瞬でも隙を作れないだろうか?
一撃。一撃でも緋想の剣の攻撃を叩き込めれば敵に隙を作れる筈だ。
だがそれをするには何とかして敵の攻撃を掻い潜り接近する必要が有る。
夜風が熱くなった体を冷やし気持ちがいい。
「風……?」
そういえばアマテラスは風を操る事が出来る。
それを何かに利用できないだろうか……?
そこで一つ思いついた。
とても無茶で自分的に物凄く痛い作戦だが……。
「……やるしかないか」
覚悟を決めアマテラス達の方を見る。
「ちょっといいかしら?」
彼らに顔を近づけ小声で作戦を伝える。
「オイオイ、正気かァ!?」
「正気も正気。このままじゃ押し負けるわ。だったらこの策に賭けてみましょう?」
そう言うとイッスンは大きく溜息を吐き、アマテラスは頷いた。
敵を見る。
敵は構え、いつでも此方の動きに対して迎撃できるようにしている。
━━よし!
自分の頬を叩き構える。
そして駆けた。
一直線に、ただひたすらに敵を目指す。
「自暴自棄になったのかしら!」
“思兼”が来た。
此方はそれに対して正面から行くと衝突する。
「……ぐぅぅぅぅぅ!!」
いくら頑丈な体を持っているとはいえ、この衝撃は堪える。
吹き飛びながら意識が飛びかけるが何とか耐える。
そして空中で叫んだ。
「アマテラス! 今よ!!」
アマテラスが遠吠えをすると同時に今度は背中から衝撃が来た。
それに僅かに遅れてアマテラスに向かって“思兼”が放たれる。
「…………!!」
あまりの衝撃に一瞬視界が暗転する。
そして視界が戻る頃には敵の方に向かって吹っ飛んでいた。
「アマテラスの風を使って体を飛ばしてきたの!?」
永琳がそう叫び、こちらは緋想の剣を突き出す。
貰った!!
敵は“思兼”を二本とも放ち、身を守る術は無い。
そう確信した瞬間、上方から圧力が来た。
「!?」
それはまるで豪雨であった。
此方を覆うように無数の腕が降り注ぎ、そして叩きつけられた。
━━なんで“思兼”が!?
体は大地に叩きつけられ強烈な衝撃を受ける。
鈍い嫌な音が響く。
何かが折れる音、そして左手が動かなくなった。
頭から血を流し、全身から来る激痛に耐えながら空を見上げれば水面が広がっていた。
「そん……な……」
二つに放たれた“思兼”は上下に分かれると互いの上側が上方で絡まりあい、広がっていた。
「“思兼”は可変式の障壁。ならば幾つでも分けれるし纏められる。そしてそれを引き伸ばせば広域を攻撃可能になる」
永琳の合図と共に残りの下部も空の水面に入り、水面はアマテラスのいる位置も覆える位に広がった。
「これで終わりよ」
再び腕の雨が降り注いだ。
今度は戦場を覆うほど。
叩き潰された。
激痛と共に意識が遠退く。
最後に見たのはイッスンを庇うアマテラスの姿であった。
***
━━終わったわね……。
上空で広がった“思兼”を元の形に戻しながらそう八意永琳は確信した。
今の一撃を耐えられる存在はいない。
天人や天照大神であってもだ。
敵の方を見れば倒れた天人の下には血溜りが出来ており、アマテラスもその白い体毛を赤く染めながら倒れている。
「……」
アマテラスが動いた。
━━まだ動けるとは流石は慈母ね。
慈母を殺すのは大罪だが……。
━━姫様を守るためならばどの様な罪も背負うわ。たとえそれが神殺しであったとしてもね。
“思兼”を構え、止めを刺そうとする。
その瞬間、空が黄金に輝いた。
この光は知っている。
「姫様!!」
空を見上げれば筒井城を覆うように流体の天井が出来ていた。
輝夜が藤原妹紅との相対戦で“新難題「金閣寺の一枚天井」”を使ったのだ。
この術式は内燃排気をかなり消耗する。
いまの輝夜にとっては博打の大技だ。
━━戦いに夢中になっていますね。
此方が言った事は全て忘れているだろう。
輝夜が負けるとは思えないが保険を掛けておく必要はある。
天人は戦闘不能に、アマテラスもまだ意識はあるがこれ以上の戦闘は不可能だろう。
ならば。
「相対戦の決着を宣言するわ!」
表示枠が開き武蔵の副会長が映る。
「そちらの相対者は全員戦闘不能よ! 最初の約束通り徳川軍は兵を引きなさい!」
武蔵の副会長が何かを言おうとすると彼女の隣に武蔵の男子生徒が立った。
彼は確か武蔵の総長、葵・トーリだ。
彼は正純に『ちょっといいか?』と言うと彼女は頷き退く。
『んー、で? 何だっけか?』
「徳川軍は兵を引きなさい」
そう言うと彼は『うーん』と悩み、笑った。
『それ、無理だわ』
「徳川は約束を保護にする気?」
『いやいや、ちげーよ? 相対戦のルールはどっちかが倒れるまで、戦闘不能になるまでだろ?』
そうだ。
そして敵は戦闘不能になった。
『おいおい、オメェ。うちの連中舐めてもらっちゃ困るぜ! 天子もアマ公も俺なんかよりずーっとガッツがあるからな!!』
━━まさか!
敵の方を見る。
立っていた。
空色の髪を靡かせ比那名居天子は立っていた。
彼女は体の各所から血を流し、左手は折れたのか垂れ下がっている。
だがそれでも立っていた。
「……あの状態で立つなんて」
アマテラスもゆっくりと体を起き上がらせ立ち上がった。
「へへ、そうだよなァアマ公!こんな所で負けられねェよなァ!」
白き狼が立ち上がり遠吠えをした。
『な? うちの連中スゲーだろ?』
確かにたいした気力だ。
だが敵は虫の息。
「だったら止めを刺してあげるわ!」
そう叫び“思兼”を放った。
***
━━あ。
正面から迫る“思兼”に反応が出来なかった。
胸を殴られ後ろに吹き飛ぶ。
どう見ても満身創痍。
だが気がつけば立ち上がっていた。
━━私、何してんだろう?
何で立ち上がっているのだろうか?
分からない。
気がつけば立ち上がっている。
再び“思兼”が来た。
やはり避けれず吹き飛ばされる。
痛い。
今のは肋骨が折れた。
だがそれでも立ち上がる。
理由は分からない。
アマテラスも同じく何度も立ち上がりそして吹き飛ばされていた。
正面の敵は苛立ちながら何かを叫んでいる。
おそらく“なんで立ち上がるの?”と聞いているのだろう。
━━そんな事知るか。
なんか立ち上がってしまうのだ。
理由なんか無い。
あえて理由を挙げるとするなら。
遠く、衣玖たちの方を見る。
彼女達はこちらを見ていた。
だがその表情は心配の色では無い。
力強く、信じるように此方を見ている。
衣玖と目が合った。
彼女は此方に微笑みかけ、そして力強く頷いた。
“貴女なら勝てます”と。
━━みんなして無責任ねぇ。
この状況でどうやって勝つと言うのだ?
しかしこう信頼されると……。
━━勝ちたい!!
鉛のように重くなった体で何とか一歩前に出る。
そして右手で緋想の剣の柄を強く握った。
━━緋想の剣、あんたが私を倉に招きいれたのは知っている。
あの日、いつものように退屈していたあの日、声が聞えたのだ。
誰かが自分を呼ぶ声、それに釣られ領事館の倉に向かった。
そこが封印されているのは知っていた。
以前もそこに忍び入ろうとしたが封印が解けず結局諦めたのだ。
だがその日は違った。
倉の封印は解かれ、入り口が開いていた。
これはチャンスだと倉に入ればそこには緋想の剣が立てかけられていた。
それは緋色の光を放ち、語りかけてきた。
“使え”と。
━━随分とはしゃいだものわ。
緋想の剣は選ばれた者にしか扱いこなす事が出来ない。
その剣が自分を使えと言ってきたのだ。
剣を盗み出した後は好き放題やった。
今思えば天狗になっていたのだろう。
結局の所緋想の剣は一度もその真価を発揮しなかった。
━━当然よね。私みたいな餓鬼が使ったら……。
恐らく自分は剣に失望されたのだろう。
だから力を貸してくれなかった。
その原因は最近分かってきた。
私は誰にも頼らなかった
常に自分の力で何とかできると思い、他人に頼らなかったしこの剣の事も道具程度にしか思っていなかった。
だから今さらこんな事を言えば“何を今さら”と怒るかもしれない。
だがそれでも……。
「力を貸して……緋想の剣。私の為じゃないわ。ここに居る、いや、ここから遠くに居る私を信じてくれている奴等の為に……」
貴方だってこんな所で負けたくないでしょう?
「何をごちゃごちゃと!」
“思兼”が放たれる。
次にアレを喰らえば終わりだろう。
右手を上げ、緋想の剣を天に掲げる。
「お願い! 緋想の剣! 全てを守るために“私は貴方を信憑する”!!」
“思兼”が此方に衝突する。
そして……弾かれた。
「!?」
体の回りを緋色の霧が覆っていた。
緋想の剣の刀身がかつてない程に輝く。
「…………緋想の剣?」
そして砕けた。
刃が砕け、流体の光が天を貫く。
声が聞えた気がする。
昔、どこかで聞いた声。倉で聞いた声。
それは体の中から聞えたような気がした。
・━━全ては /世界は/ 剣に収束する。
そして光の爆発が起きた。