緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三章・『冬空の働き手』 冬も本格的に (配点:十二月二十日)~

 一面に緑が広がっていた。

晴れ渡った空の下、太陽に照らされた草原は朝露を輝かせ幻想的な雰囲気を作り出している。

また大地には霜の層が出来ており、一歩歩くたびに小気味良い音が鳴る。

そんな草原を走っている集団が居た。

甲冑を着た三十人程の集団は皆寒空の下、汗を流し一心不乱に駆けている。

「ひ……ひ、ふぅ……! まだ追いかけてきてるか!?」

男が叫んだ。

「ああ! 来てる!」

 別の男が振り返った先には別の集団が居た。

その集団は百人ほどであり、怒声を放ちながら追いかけてくる。

「な、何か増えてませんか!? 元忠様!!」

「ええい! 黙って走らんか!!」

 先頭を走る鳥居元忠はそう怒鳴る。

 筒井家を落としてから数日経つと三好の軍勢が度々国境を越えるようになった。

その都度出陣したが敵は此方が近づくのを察知すると直ぐに撤退してしまい中々敵を捉える事が出来なかった。

そこで八意永琳の策で事前に敵の出現先を予測し待ち伏せ、そして接敵後は迅速に撤退し此方の領土に引きこむ作戦だったのだが……。

━━奴等、後詰を隠しておったな!!

「敵! 騎馬隊を確認!!」

 その言葉に慌てて振り返れば敵集団の背後から十騎ほどの騎馬武者が現れた。

「追いつかれますよー!!」

「そんな事は知っとるわ!!」

 前方を見る。

 前方には林が広がっており作戦ではあそこに敵を引きこむ事になっている。

「あと少しだ! 皆、頑張れ!!」

「「Jud!!」」

 騎馬隊が接近してくる。

 騎馬武者たちは太刀や槍を構え、此方を一気に崩すつもりだ。

━━あと少し!

 林まで約50m。

 あと少しで味方が。

そう思った瞬間、林から騎馬隊が現れた。

 徳川の旗を掲げた騎馬隊の先頭には青い髪の少女がおり、騎馬隊は一直線に此方に向かってくる。

 敵を引きこみ隠していた騎馬隊で反撃を行う。

それが八意永琳の策だが……。

「おい! 予定より早いぞ!?」

 

***

 

「タイミング間違えたー!?」

 騎馬で駆けながら比那名居天子はそう叫ぶ。

 予定では元忠の部隊が二手に別れ道を開いたところを通るはずだったのだが思わず飛び出してしまった。

「ど、どうするんですか!?」

 直ぐ後ろに居る衣玖に振り返ると緋想の剣を掲げる。

「とりあえず、突撃ーーーー!!」

 元忠なら避けるだろう。うん。

 前方を見れば予想通り元忠の部隊は慌てて二つに分かれており道が出来ていた。

 彼らとすれ違う際に「あぶねーぞ! 馬鹿野郎―!!」と怒鳴られるがまあ後で酒を奢れば機嫌を直すだろう。

━━とにかく今は……。

 前方では突如現れた此方に動揺した騎馬隊が止まり、後方の歩兵部隊も慌てふためいている。

「全軍蹴散らせーーーー!!」

 そのまま騎馬隊は敵の騎馬隊を吹き飛ばし、敵の歩兵隊を一気に突き崩した。

 

***

 

「まったく、味方に轢き殺されるところだったぞ!」

 三好の軍勢を打ち倒し筒井城に帰還する道中、隣で馬に跨っていた元忠が眉を顰めた。

「ま、まぁ……作戦自体は大成功だし……?」

 三好兵百人は半数を戦で失い、10人以上が捕虜になった。

当分は此方にちょっかいを出せないだろう。

 元忠は此方に何かを言おうとするが小さく溜息を吐き、苦笑いをした。

「ところでその剣、やはり変化は無いか?」

 指差された緋想の剣を見て首を横に振る。

「あれから何度も試したけど全く変化なしね。振っても伸びないし」

 そう言いながら緋想の剣を元忠に向けて振ると彼は馬から落ちそうになる。

そんな彼を見ながら「ね?」と言うと彼は「人に向けるな!」と言ってきた。

「それにしても本当に何だったんでしょうね? 先月のあれは?」

 そう言って来たのは後ろに居た衣玖だ。

 彼女は表示枠で部隊の装備の状態を点検しており、時折指で表示枠を操作していた。

「“曳馬”と一緒に来た直政に見てもらったけど何処も異常が無かったのよねぇ。直政は『所有者の命の危険を感知して何らかの術式が展開したんじゃないか?』って言ってたけど……」

「ではもう一度死に掛ければ分かるのでしょうか?」

「……一ヶ月で二回も死に掛けたくないわ」

 そう言うと衣玖は苦笑する。

 林を抜けると筒井城が見え始め、上空では多くの航空艦が行き来していた。

その多くは軍艦ではなく輸送艦であり、筒井城の近くにある航空艦用の陸港に向かっていた。

輸送艦には食料や医薬品が多く積み込まれておりそれらは冬越えを行うための備蓄品だ。

「もうすぐクリスマスだけど、聖夜祭の日くらいはのんびりしたいものね」

 西側では聖夜祭の期間は停戦する事があるらしいが此方ではどうだろうか?

━━普通に戦争してそうよねー。

 一応本格的な三好攻めは来年の二月からになっているが状況によっては攻撃を早めるだろう。

どうにも近畿地方全体がきな臭くなってきた。

 羽柴と足利が同盟を結び、足利家から使者が徳川に来た。

この事をP.A.Odaは快く思わないだろう。

 そう思いながら行軍していると筒井城の近くまで辿り着いた。

「あの……総領娘様……?」

 衣玖が苦笑いしながら話しかけてきたので「何?」と訊くと彼女は筒井城の西門の方を指差した。

「先ほど死に掛けるとか話してましたが……二回目来そうですよ?」

「え?」と指差す方を見ればそこに居た。

満面の笑みを浮かべているが背後から怒りの気を放ち西門前で仁王立ちしている八意永琳が。

「…………逃げたい」

 そう冷や汗を掻きながら言うと元忠が「諦めろ」と同情の目で此方を見てくるのであった。

 

***

 

 筒井城の天守にある広間に天子と衣玖、そして元忠は正座させられていた。

それに向かい合うように八意永琳が正座している。

「……なぜ我等まで?」

 正座しながら元忠が訊くと永琳が「連帯責任です」と答えた。

「さて、私の言いつけを守らず突撃した理由は?」

「あーっと、気分? …………ふぎゃ!」

 輪ゴムを打ち込まれた。

「今回は成功したからいいものの、一歩間違えれば壊滅よ? 方面軍総指揮官の任を降りたとはいえ貴女は現場指揮官なのだからもっと慎重に動きなさい」

「……う。その、御免なさい」

 永琳に頭を下げる天子を見ながら衣玖は内心嬉しさを感じていた。

 筒井城を攻略してから天子は良い方向に成長しているように思える。

以前よりも部下や友人の話を聞くようになったし今回のように自分に非があれば認めるようになった。

まだ誰かに助けを求めたり物事を頼むのは苦手のようだがそれも何時かは克服できるかもしれない。

━━これも皆さんのお蔭かもしれませんね。

 武蔵の人たちは色々な意味で容赦無い。

この世界、この国では天界の総領事の娘という肩書きはなんの役にも立たないのだ。

だがそんな状況こそ天子が求めていた物なのかもしれない。

 ふと永琳と目が合うと彼女は口元に笑みを浮かべていた。

「あの……何か?」

「いえ、ただ嬉しそうだと思っただけよ」

 そう言われ少しだけ頬が熱くなる。

「でも私も分かるわ。この世界に来てから姫様はとても楽しそうだもの」

「いつも楽しそうに見えるけど?」

 と天子が訊くと永琳は頷く。

「色々と柵が無いからね。この世界なら他人の寿命を気にする必要も無いし月を気にする必要も無い。

まあ、この世界が幻想郷より良いとは言えないけどね」

「怪魔ですね?」

「ええ、少なくとも幻想郷には争いは無いしあんな怪物は居なかった。幻想郷は言うなれば温室よ。

安全だけど行動は限られる。

対して不変世界は妖怪達にとって求めていた自由はあるけど常に危険と隣り合わせだわ」

「温室ねー? 私は刺激のあるこっちの世界が好きだけど?」

 天子の言葉に永琳は頷かなかった。

「刺激が強すぎるのも毒よ。戻った後に効果が出るね」

 彼女の言いたいことは分かる。

多少の制約はあるが、妖怪が妖怪としての力を発揮できるこの世界から元の世界に戻った時、果たして我々は我慢できるだろうか?

 幻想郷の外へ進出したがる妖怪が続出するかもしれない。

 元の世界での妖怪は神々の時代の妖怪に比べ大きく力を失った。

人間が妖怪に怯える時代は終わり、妖怪が人間に依存する時代が来たのだ。

その事を快く思わない妖怪は幻想郷にも居る。

「そこら辺は八雲紫が何とかするんじゃないの? あいつ幻想郷大好きだし」

「そうね。だからこそこっちの世界で何かを企んで無きゃ良いけど……」

 そう話し終えると表示枠が開いた。

『今大丈夫か?』

「ええ、秀忠公。どうかしたのかしら?」

 表示枠に映った徳川秀忠は頷き腕を組んだ。

『先日伊勢・筒井間の街道整備の話をしただろう? その件で助っ人が“曳馬”に乗船して来る』

 それで昨日から“曳馬”が居なかったのか。

「助っ人とは?」

 そう元忠が訊くと秀忠が口元に笑みを浮かべる。

『お前も良く知っている奴。つい最近まで倉に篭っていた奴だ』

 それを訊くと永琳以外が「ああ……」と頷いた。

「あの、何方が来るので?」

『うむ。今日来るのは大久保長安。頼れる男だ』

 

***

 

 緊張を感じた。

冬の空の下、冷たい風によって鳥肌が立つが汗を掻いていた。

 汗と言っても運動から来る汗ではなく極度の緊張から来る冷や汗だ。

━━負けられないわね。

 そう蓬莱山輝夜は思う。

 自分と向かい合うように立っていた藤原妹紅も同じ事を考えているらしくやはり緊張した表情を浮かべていた。

 互いに構え相手の動きを見る。

━━来る!!

 妹紅が動いた。

 右足で踏み込み右腕を振り上げる。

それにあわせ此方も左足で踏み込み右腕を振り上げた。

「じゃん……!」

「けん……!」

「「ぽん!!」」

 二人は同時に手を開いた。

 

***

 

「……あれ、何やってますの?」

 そう城の広場にいたネイト・ミトツダイラが訊いてきた。

「じゃんけんで負けたほうがメイド服着るみたいよ?」

 答えたのは積み重ねられた物資の前で表示枠を操作していた鈴仙・優曇華院・イナバだ。

 城の広場では伊勢から送られてきた物資が集められておりその物資のチェックを行っているところであった。

「……よし、全部あるわね」

 送られてきた資料と物資の数を確認し終えると輝夜と妹紅の方を見る。

どうやらあいこが続いているらしく二人の周りには兵士達があつまりどっちにメイド服を来て欲しいか揉めていた。

━━なにやってんだか……。

 徳川の連中が来てから急に騒がしくなった。

 最初は徳川軍と一緒にやっていけるのか心配だったが一週間もたてば皆意気投合し、前よりも結束力が強まった気がする。

━━トップの人柄からかしらね?

 戦後一度だけ武蔵の総長が来た。

 最初から全裸で馬鹿をし「なんだあれは?」と思ったが彼が帰る頃には筒井兵も徳川兵も笑っていた。

 皆が笑って暮らせる世界を創ると言っていたがどうやら本気のようだ。

彼が本気で行動してるからこそ仲間が着いて行くのだろう。

「この物資、どうしますの?」

 ミトツダイラに訊かれ姫たちの方を見るのをやめると城の北西側を指差す。

「医療品は第一倉庫に、食料は第二倉庫にお願いするわ」

「Jud.」とミトツダイラは頷くと物資の入ったコンテナを楽々と持ち上げた。

それを呆然と見ているとミトツダイラが微笑む。

「私、人狼ですので」

 そのままコンテナを片手で運んで行く彼女を見送ると忍者と金髪巨乳が来た。

「何か手伝える事は?」

「ああ、食料品を第二倉庫に運んでちょうだい」

 「Jud.」と忍者と金髪巨乳がコンテナから食料品の入った箱を取り出すと持ち上げる。

「……どうしたで御座るか? ぼーっとこっちを見て?」

「いやぁ……これが普通なのよねと再確認してただけ」

 そう言うと忍者と金髪巨乳は顔を見合わせ首を傾げた。

 武蔵は個性豊かだと思う。

筒井に来ているのは一部で残りは“武蔵”に残っているそうだがいったいどんな連中が居るのだろうか?

━━落ち着いたら姫様を“武蔵”に誘うのも良いかもね。

 そう思い主を見れば自分の主は膝を着き頭を抱えており、その横で妹紅が拳を上げて喜んでいた。

「あ、負けたんだ」

 姫様のメイド服姿なんて中々見れない。

後で師匠に教えておこう。

そう思い、食料品の入った箱を運び始めるのであった。

 

***

 

 伊勢から筒井へ向けて“曳馬”が航行していた。

 その甲板の先頭に一人の男が手すりに上半身を乗せ、立っていた。

男は髪をオールバックにし西洋風の衣服を着用し、時折風で靡く髪を撫でていた。

「フ……。筒井の風が私を歓迎しているか」

 そう口元に笑みを浮かべ両手を広げると自身を抱きしめた。

「……何をしていらっしゃるので?」

 凛とした女性の声に振り返ればそこには“曳馬”が居た。

「何をしているように見えるかね?」

「……猿楽師が猿になっているように見えましたが?」

 「フ、君は相変わらず厳しいね」と言うと男は“曳馬”の腰に手を回した。

「だがそれがいい!」

 ウィンクを送ってくる男に“曳馬”は半目になり張り倒した。

「御巫山戯なさらないで下さい? 大久保長安様?」

 張り倒された長安は起き上がると髪を整える。

「その冷たさも君の魅力の一つだ」

 “曳馬”が半目のまま手を振り上げると長安は慌てて距離を話し咳を入れた。

「な、何をしてたかだったかな? それは勿論筒井の方を見ていたのだよ。久々の大仕事だ。気持ちが昂るというものだ」

「そう言えば長安様は二年ほど倉に篭っていらっしゃいましたね? 何故ですか?」

 そう質問すると彼は先ほどまでの砕けた表情から真面目な物になる。

「私は焦ったのだよ。異世界から様々な技術が流れ、組み込まれた。その変化に私は着いて行けず気がつけば武蔵の若者達が徳川の内政の中核に居た。

恥ずかしながら私は彼らに嫉妬していたのだな」

「それは……仕方の無い事では? 他国でも多くの武将が激変した技術について行けず、異世界の物に役所を取られていきました」

 戦が得意の武将はともかく能吏として大名に仕えていた武将達は新しい技術、新しい政治・外交を一から学ばなければならなかった。

「我々にもプライドと言うものがあるのだよ」

「成程。それで倉に篭り二年間学んでいたので?」

 「そうだ」と長安が頷くと“曳馬”は内心感心した。

家康公から彼を紹介されたときには交友優先度が最下位になった彼だが二段階ぐらい上げるべきだろう。

「ご立派だと判断します」

「フフ、どうやら君の私の魅力に気がついたようだね。どうだい、これから艦内で食事でも……ぶへ!!」

 反射的に叩いていた。

やはり優先度を上げるのは中止だ。

最下位でいい。

 甲板で芋虫のようになっている長安に背を向けると扉に向かう。

その途中ふと気になったので訊いてみた。

「ところで何故そのような格好を?」

「これかい? これはだな、外の世界を知るならまず身形から入ろうと思ってね。異世界は素晴らしいぞ!

特に“えろげー”とかいうのが素晴らしい! 春画に物語を持たせ、楽しませる!

私のお勧めはズバリ『メイドさんとバイン』だ! どうだい“曳馬”君! 君もやってみるかね!」

 満面の笑みを浮かべる彼に“曳馬”は二律空間から銃を取り出すと点検を始めた。

「おや? なぜ銃を?」

「徳川は人材豊富なので一人ぐらい減っても平気だと判断しました。ご安心を、一発で仕留めますので」

 そう言うと彼は慌てて両腕を振り「ま、待て落ち着け」と言ってきた。

そして乱れた髪を掬い上げると「だが、美しいメイドさんに撃たれるなら本望かも」といったのでゴム弾を顔面に叩き込んだ。

 仰向けに倒れ痙攣している長安に冷たい視線を向けると“曳馬”は銃を収納する。

「本当に人間とは個性豊かですね」

 そう言い彼女は艦内に戻っていった。

 

***

 

 徳川軍の中心にある三河国岡崎。

戦地から離れたそこは七年間でもっとも賑わっていた。

 徳川には連戦連勝しその話を聞いて仕官をしようと考える浪人や庇護下に入ろうとする他国からの民が集まっていた。

 また空では飛空挺や輸送艦が飛び交いその警護の為警護艦隊が交代で常に滞空している。

 そんな空を岡崎城の正門前で番兵が眺めていた。

「おう、どうした?」

 と声を掛けられ振り返れば正門から中年の男が出てきた。

「いえ、空が賑やかだなーって思いまして……交代っすか?」

 そう訊くと中年の男は頷く。

「交代の時間だ」

 此方の横に立つと彼は空を見上げる。

「確かに一年前と違って随分と賑やかになったものだ。この一年で徳川は一気に勢力を伸ばし、今や最も勢いのある国家だ。

皆俺たちに期待してるって事さ」

「お蔭で俺たちの仕事増えましたけどね」

 人が増えれば問題も増える。

治安の悪化もそうだが一番気をつけなければいけないのは他国からの間者だ。

此方にも忍者は居るが広大になった徳川領全てを監視する事は不可能だ。

「それでも西の連中に比べれば俺たちは楽なもんさ。今度は三好攻めだろう?

ついこの間筒井を落としたばっかりだってのに」

 筒井といえば先月の事件は何だったのだろうか?

突然空に向けて緋色の柱が伸びてその様子は岡崎からも見えた。

 西に居る仲間からの話ではあれのお蔭で筒井家に勝てたらしいが……。

「北条や武田と隣接してるからもっと忙しいと思ってたけど北条は鎖国、武田は飛騨で手一杯っすからね」

 武田とぶつからなくて済むのは有り難い。

あんな連中と戦っていたら命が幾つあっても足りない。

「それじゃあ、食事に行ってきます」

 そう言い城の中に入ろうとすると誰かが此方に向かってくるのに気がついた。

街道を歩いてこちらに向かってくるのは二人の男女で。

一人は巫女服を着、黒く長い髪を腰まで伸ばした女性でもう一人は杖を着いた老人だ。

「ありゃあ、誰だ?」

 今日岡崎城に来るのは英国からの大使だけのはずだ。

「おい」

 中年の男が横目で此方を見、それに頷きを返すと刀に手を掛けた。

「止まれ! 用件は何だ!?」

 そう訊くと老人が立ち止まる。

「徳川家康公に面会願いたい」

「家康様は本日英国の大使とお会いになられる。日を改めて参れ!」

 老人は引かない。

緊張を感じながら刀を引き抜こうとすると突然手が止まった。

「!?」

 刀に掛けた手が掴まれていた。

「止めておきなさい」

━━いつの間に!?

 眼前には巫女服の女性が立っており、手を動かす事が出来ない。

「先代殿、我等は争うために来たのではないぞ?」

 老人に言われると女性は「分かってるわよ?」と言い、下がる。

「……何者だ?」

 中年の男が尋ねると老人は口元に笑みを浮かべた。

「北条・印度連合所属、北条・玄庵。徳川家康公に重要な話がある。お会いできるかな?」


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