緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第四章・『塞ぎし国の来訪者』 格闘家じゃないよ? (配点:拳巫女)~

 憂鬱な気分で目が覚めた。

 カーテンの隙間から差し込む太陽の光に目を細めると体を伸ばす。

━━いよいよ今日か……。

 そうトゥーサン・ネシンバラは思った。

今日は英国から彼女が来る日だ。

 その為この後彼女を出迎えに行き岡崎城に案内する。

 憂鬱なのは別に彼女が来るからではない。

彼女が優秀なのは知っているし自分も彼女に対して悪い感情は持っていない。

それどころか好意を抱いている。

ただ……。

 寝室を出ると空き部屋を見る。

空き部屋の前には幾つもダンボール箱が積み重ねられており、開封厳禁と書かれていた。

━━なぜ僕の家に泊まるんだ!?

 浜松には英国大使館がある。

だが彼女は『ああ、僕はトゥーサンの所に居候するよ』と言い始めたため自分の与り知らない所で彼女がウチに住む事が決まった。

 そのせいで何だか梅組から変に生暖かい視線で見守られるようになった。

「……まったく。彼らが期待する事は起きないというのに」

 というか起きてたまるか。

 朝食を終え、歯を磨き、制服を着ると時刻を確認する。

九時五分。

 彼女が到着するのは十時頃だ。

まだ時間には余裕があるが……。

「まあ、朝の散歩をするのもいいかな」

 玄関で靴を履くと振り返る。

 変な感じだ。

今日からこの家にもう一人住民が出来るなんて。

 そう思いながら玄関を開けた。

十二月の風が流れ込み寒さから思わず首を引っ込める。

 突如風が止んだ。

 玄関に影が差し込み、「何だ?」と前を見れば居た。

 金髪で白衣を着た少女。

彼女は眼鏡を光らせ微笑んだ。

「やあ、トゥーサン」

「………………………ひぃ!?」

 

***

 

 教導院の橋の前にトーリ達が集まっていた。

 彼らは皆、金槌や板を持ち橋の一部を解体したり修復したりしていた。

「あ、ホライゾン。釘を取ってください」

 板を橋に置き、袖を捲くった浅間・智はそう隣で工具箱を持ったホライゾンに頼んだ。

 ホライゾンが箱から釘を取り出すと浅間は受け取り、金槌で板に釘を打ち込み始める。

「おーい、ホライゾン。こっちにもくんね?」

「Jud.」とホライゾンが頷き、浅間と同じように作業をしていた女装のほうに向かうと躓く。

「あ」

躓いたホライゾンは思わず工具箱を持っていた手を話し、金属の箱が女装の股間に吸い込まれる。

「ぐ! おぉ!?」

「だ、大丈夫ですかホライゾン! そこ等辺板を外してますから注意して下さい」

 浅間にそう言われると四つん這いになっていたホライゾンは親指を上げ、立ち上がる。

そして蹲っている女装を見ると首を傾げた。

「おや? トーリ様。仕事してください」

「お、おめぇ、相変わらず容赦ないな!」

 トーリの言葉に何故かホライゾンは誇らしそうにすると階段の方を見る。

「喜美様は手伝わないのですか?」

 そう訊くと階段で化粧をしていた葵・喜美は振り返る。

「そんな重労働したら腕がパンパンになっちゃうわ。…………は! ねえ! 浅間! パンパンってエロくない!? パンパンって!」

「ああ、もう! こっちに振らないでください!」

 体をくねらせ何だかトリップしている喜美を無視していると教導院の方から資材を抱えたノリキがやって来た。

彼は蹲っているトーリを見、トリップしている喜美を見ると何も言わずに資材を床に置いた。

「これだけあれば十分だろう」

 そう言い金槌を持つ彼に感謝の言葉を言うと橋を見る。

 不変世界に来てから色々と忙しくこういった艦上整備は出来なかった。

 だが最近になって徳川や武蔵に余裕が出来、自分達で出来るところから整備をしようと決めた。

「直政の奴は機関室の整備が終わったらこっちに合流するそうだ」

「あ、こっちは大丈夫なので後悔通りの整備をしているウルキアガ君達に合流するように伝えてください」

 ノリキは「分かった」と言うと表示枠を操作し始める。

 手の開いている者は教導院前と後悔通りの整備をする予定になっている。

「向こうはもっと忙しいのでしょうね」

 筒井の方は色々大変だったようだ。

 だが得たものも大きい。

以前よりも緋想の剣の事もそうだが一番の収穫は天子が以前より友好的になった事だろう。

「トーリ君は天子に会ったんですよね? どうでしたか?」

「お?」と蹲ったまま彼は此方を見ると笑った。

「前はツンツンだったけど今はツンデレになったって感じだな!」

「フフ、ミトツダイラとも上手くやっているそうじゃない。あの子達気が合うのかもね。オパーイとか」

「ああ、オパーイとかですか」

 

***

 

「へっきし!!」

「風邪ですか?」

「いや、何か凄く失礼な噂話をされている気がするわ……」

 

***

 

「ま、あいつらなら上手くやっていけるだろ。点蔵やメアリに元忠のおっさんも居るしな。何かあれば俺たちが直ぐに飛んで行けば良い」

 彼の言うとおりだ。

そういえばアマテラス様が筒井に向かったきりだが大丈夫だろうか?

主に伊勢神宮的な意味で。

 トーリは「さて」と立ち上がると背筋を伸ばす。

そして工具箱を取ろうとした瞬間、表示枠が開いた。

『葵、今大丈夫か?』

「お? どしたよ? セージュン?」

 表示枠に映っている正純は肩に乗っているツキノワを撫でると頷いた。

『先ほど徳川に北条からの使者が来た。彼らは武蔵の総長と姫を呼んでくれと言っている』

 北条が?

 北条は遠州での戦い以降鎖国を行い他国との交流を断絶していた。

それが何故突然徳川に来たのだ?

 どうするのか? とトーリを見れば彼はノリキの方を見ていた。

「ノリキ、おめぇも来るか?」

 そう訊かれノリキは止まる。

そして暫く思案顔になっていると小さく何度も頷いた。

「……そうだな。俺も行こう」

「うし! じゃあ浅間にネーちゃん! 俺たちちょっくら岡崎城に行って来るから後は頼んだぜ!」

 トーリ達三人が階段を下りていくと橋には自分と喜美だけになった。

 喜美は化粧道具を片付け始め「さて」と立ち上がろうとしたのでその肩を掴む。

「ちょっと、浅間? 何かしら?」

「はい、金槌」

 そう言い金槌を渡すと喜美は困ったように眉を下げる。

「あの、浅間、だから私は……」

「逃がしませんよ?」

 満面の笑みでそう言うと喜美は観念するように肩を落とした。

 

***

 

━━ふむ、こんなものか?

 商店街前のゴミを一通り拾い終えるとヨシナオは腰を伸ばした。

 梅組の連中が朝から艦上整備を始めたのを見て、つい自分もゴミ拾いを始めてしまった。

━━麻呂にしてやれるのはこの位だからな。

 一応武蔵王ではあるが政治も軍事も主役は自分達教員ではなく若者たちだ。

不変世界に来てからは歴史再現ではない戦争をするようになり普段は巫山戯ているがその心労はかなりのものだろう。

「ご協力に感謝します」

 ゴミの入った袋を自動人形に渡すと通りを見る。

すると正面からゴミ袋を持った今川義元がやって来た。

彼は此方に気がつくと頭を下げ近づいてくる。

「武蔵王殿もゴミ拾いですかな?」

「Jud.、 “も”という事はそちらも?」

そう訊くと彼は頷く。

「ええ、あいつ等が朝から頑張っているのを見たら自分も何かしなければと思いましてね」

 「互いに歯痒いですな」と義元は苦笑いするとゴミ袋を自動人形に渡した。

「教員生活はどうですかな?」

「んー、そうですねぇ……悪くない、いや寧ろ充実してますよ。

今でも戦場で戦いたいと思いますけど若者に道を示すのも良い物ですなぁ。

生前はそれが出来なかったというのもありますが」

 「ヨシナオ王は?」と訊かれ考える。

自分はどうだろうか?

 聖連から領土を奪われ武蔵に派遣された。

だが葵・トーリやその仲間達が直向に理想に向けて進んでいくのを見て自分は……。

「麻呂も充実しておる。ここは麻呂にとって二つ目の故郷だ」

 その答えに義元は満足そうに頷くと自分の手のひらを叩いた。

「そうだヨシナオ王、親睦を深めるという意味でこれから食事でもどうですかな?」

 神代の英雄と親睦を深める、か……。

なんとも恐れ多いような気もするが。

「それならば麻呂の行きつけの店があるのだが……」

 そう言いながら共に歩き始める。

結局親睦会は途中で上白沢慧音とオリオトライ・真喜子、そして三要・光紀が加わり大所帯となったのであった。

 

***

 

 岡崎城の評定の間で徳川家康と武蔵の総長たち四人、そして北条からの使者が集まっていた。

「さて、北条・幻庵殿。今日はいったいどの様なご用件で?」

 そう家康が尋ねると幻庵と巫女が頭を下げる。

「我等が窺った理由。それは我等の主、北条早雲公からの言伝を預かっているからで御座います」

 「言伝」と言う言葉に家康は反応し、横目で正純を見ると小さく頷きあった。

「鎖国した貴国からの言伝とはどの様な物だ?」

 北条は鎖国して以来、他国と一切の交流を行っていない。

そんな中密使としてきたのであればかなり重要な事であろう。

「『我等北条は貴国に資格があるかどうか試したい』との事です」

「おいおい、爺さん。資格ってなんの資格だよ?」

 そう女装が訊くと幻庵は女装を、その次にホライゾンを見た後、最後にノリキを見た。

「━━━━世界の謎に触れる資格だ」

 やはり北条は何かを掴んでいたか!

そう正純は思った。

 彼が鎖国してまで隠したい物、それは恐らく……。

「崩落富士だな」

「ほう、やはり気がついていたか」

 相手は隠さない。

つまり隠す必要も無くなったか、隠してはいられなくなったかだ。

「それで? どのような謎が崩落富士にあるのですか?」

 ホライゾンが問うと巫女が首を横に振る。

「それはまだ教えられないわ。あなた達が私たちを認めさせるまでね」

「然様、今日こやつを連れてきたのは護衛の為だけではない。我等北条・印度は徳川家との相対戦を所望する」

「……断った場合は?」

 家康が訊くと幻庵は口元に笑みを浮かべた。

「徳川が辞退するのであれば我等は同じ条件で六護式仏蘭西に向かうだけだ」

「……織田には行かないのか?」

「それはありえないわね」と先代が言うと幻庵がそれを遮った。

 北条が隠している秘密は織田には知られたくない物か……。

 織田が元の世界に戻る方法を探しているのは有名だ。

ならば北条が隠している秘密はこの世界に関するものである可能性が高い。

━━話しに乗るべきだな……。

 家康も同じ事を考えていたらしく顔を見合わせると頷く。

「その相対戦、受けよう。そちらはその女性が?」

「ええ、あらためて名乗らせていただきます。博麗神社所属、博麗先代です」

 博麗神社。

関東方面最大の神社であり対怪魔のプロフェッショナルと言われている。

・副会長:『浅間、博麗神社について知っている事は?』

・あさま:『博麗神社はもともと長野家所属の神社で規模の小さい物でしたが統合争乱時に関東を制圧した妖怪軍と争い、宇都宮城の奪還等で功績を挙げました。

争乱後長野家が北条・印度連合に加わると北条家の支援の下、近隣の神社を吸収関東一の大神社になりました』

・貧従士:『博麗神社が大きくなった過程は分かりましたけど、神社って国家間の争いに関わっていいんですか?』

 確かに。

浅間神社も人道的な救護や自衛の為以外には戦闘に参加できない。

だが今来ている博麗神社の巫女は北条・印度連合の一員として徳川に来たのだ。

・あさま:『博麗神社はちょっと特殊と言うか……博麗神社には二つの顔が有ります。

一つは今代巫女の博麗霊夢が中心となって行っている怪魔、流れ妖怪退治。

もう一つは先代巫女である博霊先代が戦士団を結成し、関東の防衛を行っています』

・煙草女:『神社が戦士団を持つって、そりゃ不味いんじゃないんさね?』

・あさま:『博麗神社はあくまで防衛のためと宣言し、じっさい防衛戦のみ戦士団を投入しています。自衛権の拡大解釈ですね。

勿論その事を快く思わない組織は多くいるので博麗神社は諏訪大社などの近隣神社と対立しています』

 それでも成り立っているのは北条が背後にいるのと博麗の巫女が上手く立ち回っているからだろう。

「それで? そっちは誰が相対戦にでるのかしら?」

 博麗の巫女の力は未知数だが浅間からの情報から油断できない相手だ。

━━やはりここは二代か立花・宗茂か?

 そう考えていると女装が手を上げた。

「セージュン、ちょっと待ってくんな?」

「どうした馬鹿? トイレならもう少し我慢しろ」

「ちげーよ! トイレならさっききっちり済ませたぜ!」

「ホライゾンも今朝も元気にモリモリと……」

 直ぐにホライゾンの回りを消音術式が囲んだ。

・あさま:『はい! セーフ!!』

・約全員:『手遅れだよ!!』

 口パクしながら親指を上げるとホライゾンは家康を見る。

━━ん? なんだ?

 浅間に術式を解除するように伝え術式を解除するとホライゾンは頷いた。

「脱糞といえば家康様ですが、そこら辺どう思いますか?」

 

***

 

・彦 猫:『地雷踏みやがったーーーー!?』

・無 双:『う……む、流石はホライゾン殿と言うか……』

・さかい:『胃が痛くなってきた……』

・能筆家:『殿がウンーコ漏らしてその姿を描かせたのは有名ですからなー。

今我等の結束があるのも殿が脱糞したお蔭と考えると?』

・彦 猫:『結束っていう言葉が急に臭くなったな……』

 

***

 

・脇巫女:『いまそっちどんな感じ?』

・拳巫女:『武蔵の姫がうんこ言って家康公のうんこ談義で全員絶句』

・脇巫女:『…………は?』

・拳巫女:『そのまんまなのよねぇ、これ』

・脇巫女:『わけ分からん……』

 

***

 

 苦笑いのまま固まっている家康を見て正純は大量の冷や汗を掻いた。

この状況どうする?

━━うん、どうしようもないな!

「で、どうした馬鹿?」

・約全員:『続けんのかよ!!』

・副会長:『う、うるさいなー。話を進めなきゃ駄目だろう』

「おう、相対戦誰を出すかだけどよー。ノリキ、オメェはどうしたい?」

 全裸が笑顔のままで訊くとノリキは驚いたような表情をした。

「そう……だな。俺は……」

 彼は北条の使者を見る。

いや、もしかしたらその先を見ていたのかもしれない。

「葵、副会長。俺が相対戦に出る」

「お、やる気だな!」とトーリが笑うとノリキも頷き口元に笑みを浮かべた。

━━相変わらず気の回る奴だ。

この馬鹿はいつもそうだ。

普段はふざけている癖にちゃんと人の事を見ていて何かを躊躇っているなら後ろから軽く押して動きやすくする。

「ノリキがでるけどいいか? セージュン」

「Jud. 本人が乗り気なら私からは異論は無い。ノリキだけに」

 

***

 

・ウキー:『どうしてこう、一言余計なのだ?』

・金マル:『ここまで滑るともう一種の呪いだよねー』

・貧従士:『あ、家康さん再起動しましたよ』

・不退転:『ショック療法ね』

 

***

 

「う、うむ。私からも異論は無い」

 立ち直った家康がそう頷く。

━━放心しながら話を聞いていたのね。

そう感心しながらノリキを見る。

 正直意外だった。

武蔵は確実な勝利のために副長クラスをぶつけてくると思っていたが相対戦に出るのは副長どころか役職者でもないただの一般生徒だ。

━━軽く見られたかしら?

「先代よ。あまり油断するんじゃないよ。油断すれば足元を掬われる」

「彼の事を知っているの?」

 そう訊くが幻庵は「……色々あるのだ」と答えをはぐらかした。

 ああ、そうか。彼が氏直の……。

政治的なことには興味は無いがあの氏直が執着している男だ。

実に興味深い。

「それじゃあ、早速始めましょうか?」

 そう言い立ち上がれば皆一斉に動き始めた。

 

***

 

岡崎城の広場に人だかりが出来ていた。

兵も将も皆自分の仕事を止め、広場の中央に居る二人に注目している。

「では相対戦のルールを再確認する!」

 天守側に急遽作られたテントの下で正純や家康、トーリにホライゾンそして北条・幻庵が座っている。

「ルールは簡単だ。北条側は徳川側の相対者を戦闘不能にすれば勝利、徳川側は北条側の相対者の上半身に有効打を入れれば勝ちだ!」

「ホライゾンが思いますにこれ、徳川側が凄く有利ですよね?」

 それに答えたのは先代だ。

「私たちの目的は徳川の実力を知る事。本格的な戦いではないからね」

「なるほどな。よし、ノリキ! 胸だ! 胸を狙え!」

「確かあやつの胸部装甲は大きいからねぇ……」

 先代が石を拾うと幻庵に叩きつける。

「まあ、胸を触ってもいいけどね」

 「おお!?」と男衆が一斉に盛り上がるが先代はそれを無視し、何かを掴むジェスチャーをした。

「その代わりへし折るけど」

 空中で見えない何かをへし折った。

それと同時に男衆が「……おおぅ」と一斉に股間を押さえ始める。

「本当に一撃でいいんだな?」

 ノリキに訊かれ頷く。

「ええ、一撃で良いわ。でも━━━━貴方は一撃も私に入れられなく終わる」

 空気が変わった。

 静かに、だが此方を上から押さえつけるような威圧感。

それを感じノリキが構えた。

「見事な気迫だ」

 そう言ったのは家康の背後で控えていた本多忠勝だ。

彼は口元に笑みを浮かべると先代を見る。

「是非とも手合わせしたかった」

 誰もが固唾を呑み見守る。

『障壁を展開します』

 二人を障壁が囲むと表示枠に映る浅間と目が合う。

『この障壁は相対戦が終了するまで展開され続けます。ある程度の攻撃には耐えられますが念のため障壁から離れてください』

 皆が一歩下がるのを確認すると家康公に頷いた。

「ではこれより相対戦を始める! 両者、構え! 始め!!」

 

***

 

 ノリキは相対戦が始まると同時に後ろに跳躍した。

相手は格闘戦主体の巫女だ。

術式と近接攻撃を織り交ぜた戦法を取るだろう。

━━どう来る?

 攻撃か術か?

だが敵は動かなかった。

いや、それだけでは無い。構えてすらいない。

「……どういうつもりだ?」

「言ったはずよ? 私はあなた達の力を試すと」

 だから自分からは行かないという事か。

だが構えもしないというのはどういうことだ?

此方を甘く見ているのかそれとも他の何かか?

━━攻めて出方を見るか。

 このままにらみ合いを続けるわけにもいかない。

 創作術式『睦月』を展開すると駆け出す。

敵に向けての突撃。

愚直な行動に思えるかもしれないが敵の出方を計るにはちょうどいい。

 右腕を引き、拳を握る。

狙うのはトーリの言ったとおりに相手の胸部だ。

 頭部では外す可能性があり、腕は有効打になり辛い。

拳を放つ。

敵は未だに構えていない。

放たれた拳は一直線に敵の胸部を狙うが……。

 突如腕に軽い衝撃が生じた。

本当に些細な、軽く叩かれた程度の衝撃。

だがそれによって拳の軌道はズレ、空を切った。

━━何!?

 何が起きたのかは分かった。

敵は此方の腕を叩き、軌道をズラしたのだ。

問題は其処ではない。

問題なのは……。

━━見えなかった!!

 腕を叩かれる寸前まで敵は構えていなかった。

何時構えた? 何時動いた?

 身の危険を感じ、直ぐに下がろうとするが敵が前に出る。

「ちゃんと耐えなさい?」

「!!」

 突如横腹に衝撃が生じた。

渾身の横蹴りを喰らい、体が横にくの字になると吹き飛ぶ。

━━またか!!

 また見えなかった。

此方の視覚上では敵は地面に足を着けたままだ。

だが蹴りを喰らった。

 地面を転がり、咳き込むと立ち上がる。

「まだまだやれるわよね?」

 不敵に笑う敵に構えると再び『睦月』を展開した。

「……わかっているなら言わなくていい!」

 そして再び駆け出すのであった。

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