緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

61 / 103
~第五章・『紅白の拳闘士』 拳は硬く、お胸は……? (配点:巨乳)~

 岡崎城の相対戦は激しさを増していた。

ノリキが敵に攻撃を加え続け、先代がそれを避ける。

 その状態が五分も続いた。

 一見ノリキが優勢のように見えるが彼は一撃も敵に喰らわせる事が出来ず、逆にカウンターを受け続けていた。

 ノリキが踏み込む。

彼は右足で大きく踏み込むと肘を引き拳を構える。

そして敵を穿つ……と思われた瞬間横に跳躍した。

 フェイント。

敵の不意を突いた攻撃。

敵の側面に回りこむように移動するとノリキは拳を放った。

だがその瞬間ノリキの体が吹き飛んだ。

「これは……どういう事ですか?」

 浅間神社の境内から相対戦の様子を見ていた立花・誾は同じく横で観戦していた立花・宗茂に訊いた。

「先ほどから敵は何故構えない……いえ、何故彼の動きに的確に反応できるのですか?

見たところ彼女は腕の力を抜き、撓らせる事で高速で攻撃と移動を行っています」

 力を抜くといっても脱力しているわけでは無い。

無駄な力を抜き骨と筋肉、人体を最大限に利用した攻撃と移動。

 単純だがだからこそ使いこなすには相当の鍛錬が必要だ。

腕を撓らせる速さが人体の許容値を越えれば筋肉を痛め、最悪骨折するし逆に遅すぎれば容易く敵に捉えられてしまう。

「彼女は攻撃をまるで彼がそこに来るのが分かっているかのように攻撃しているのは何故ですか?」

 先代が狙っているのはノリキではない。

常に“ノリキの行動の先”である。

彼が拳を放てばそれを予測していたかのように迎撃し、下がればそうすることを知っていたかのように踏み込んでくる。

「彼女が何故動きを予測できるのか? それは彼女の攻撃と同じく非常に単純な事ですよ」

 「は?」と首を傾げると宗茂は笑みを浮かべた。

「経験です。彼女が今まで培ってきた経験を最大限利用し、その上で敵の動きを一瞬たりとも見逃さないようにする。

そうする事で予測攻撃の正確性を高め、当てています」

「そんな事が可能なのですか?」

「Jud.、 武芸を極めた者。その中でも極少数の達人だからこそ出来る行為です」

 そう言う彼の瞳は輝いていた。

武芸の道を行くものが目指すべき境地。

そこにあの巫女は辿り着いているのだ。

宗茂の性格からして手合わせをしたくてしょうがないのだろう。

「恐らくこの相対戦を見ている本多・二代や本多忠勝も私と同じ事を思っているのでしょうね」

 

***

 

━━楽しんでいるねえ。

 相対戦を見ながら北条・幻庵はそう思った。

 先代は初め、この戦いを速攻で終わらせるつもりだった様だがノリキが食い下がって来ると彼との戦いを楽しむようになっていた。

 同じ武芸者として彼女の気持ちは分かる。

未来ある若者との戦いは心が躍る。

━━だけど手を抜くんじゃないよ?

 そう先代を見ると彼女と目が合った。

彼女は“分かっているわよ”と頷くとノリキを見る。

 今は敵を圧倒しているがここ数回になって敵が先代の攻撃を防御するようになってきた。

 戦いの中で成長しているのだ。

━━若いねえ。

 自分や先代のように“既に完成された者”には無い力。

青臭いがそれ故の学習力と挑戦。

それを侮ってはいけない。

何時だって時代を動かすには若く新しい力なのだ。

 ノリキが拳を構え、突撃した。

左右に小刻みに動き敵に此方の攻撃を予測させないための行動。

 それを先代は一瞬たりとも目を離さず予測を行う。

突如ノリキが止まる。

━━来るかね? だが……。

 その程度の動きでは彼女の予測を覆す事は出来ない。

拳が放たれた。

放つ先は敵の腹部……ではなく。

「斜め上か!?」

 体を無理やり捻らせ拳の軌道を敵の右斜め上にした。

そして両者の間で激突音が響いた。

拳と拳がぶつかり、弾かれる鈍い音。

「ついに捉えたか!」

 敵に攻撃を弾かれ先代は僅かに気を散らす。

その瞬間を狙ってノリキは膝蹴りを放つが先代は瞬時に後方に跳躍した。

 両者は距離を離し戦いは振り出しに戻ったが状況は大きく変わった。

ノリキが先代に対抗できると証明したのだ。

 周囲の観客達が一斉に盛り上がり、彼に声援を送る。

対して先代は先ほどと表情を変えていないが。

「嬉しそうだねえ」

 視線の先。

彼女の口元には笑みが浮かんでいた。

 

***

 

━━いいわね。

 少年が来る。

彼は此方の動きを見続け、此方も彼の動きを見る。

 瞬時に脳内で敵の攻撃パターンを予測し、迎撃を行う。

だがカウンターは決まらない。

 再び空中で弾かれたのだ。

 敵は此方の予測を予測し弾いてくる。

━━いいわね!

 短時間でここまで上り詰めるとは。

 まだ彼の予測的中率は十回に一回程度だがこのまま戦いを続ければこの少年は食い下がり、学び、確率を上げてくるだろう。

 此方の迎撃を迎撃するのを学べば今度は切り返し、踏み込んでくる。

そうなればじゃんけんのような物で互いの勘を頼りにした攻撃になる。

━━一回だけでいいってのは譲歩しすぎたかしら?

 向こうは気力が続く限り戦えるが此方は一回でも有効打を喰らえば負けだ。

今さら術式を使っても展開中に攻撃されるだろう。

ならば……!

 後方への跳躍。

敵と大きく距離を離すと此方の様子を慎重に窺う少年を見る。

━━使ってみるか……。

 まだ試作中の技という事もあり使いたくは無かったがそうも言ってられないようだ。

それに出し惜しみをするのは彼に対しても失礼だ。

「少年」

「少年じゃない……ノリキだ」

「じゃあ、ノリキ少年。今から難易度上げるけどちゃんとついて来なさい?」

 そう言い、一歩踏み込んだ。

 

***

 

━━なに?

 ノリキは眼前で起きた事への理解が遅れた。

先ほどまで敵は眼前に居たのだ。

だが相手が一歩前に出た瞬間、その姿が消えた。

 ステルス術式か? いや違う。

敵が術式を展開した形跡は無い。

そもそも気配が無いというのはどういうことだ?

 警戒し周囲を見るが敵の姿は無い。

 完全に消失したのだ。

━━どういう技だ?

 構え、警戒を強める。

視覚だけではなく聴覚も使い敵を探すが探知できない。

背に嫌な汗を掻く。

 慎重に後方へ下がろうとした瞬間、観戦していた正純が身を乗り出し叫んだ。

「おいノリキ! 何をしている! 逃げろ!」

「それはどういう……」

 言葉は続かない。

 顔面を打ち抜くような衝撃が突如生じた。

体は宙に浮き、地面に叩きつけられる。

 頭部と背中に衝撃を受け、意識が飛びかけるがどうにか持ち堪える。

━━何が起きた!?

 正純の声で危険を感じて咄嗟に後ろに下がったのは正解だった。

後方に下がることで衝撃を軽減し頭蓋を砕かれる事を免れた。

立ち上がり額に流れる血を拳で拭くと敵に向けて駆け出す。

 敵の手の内が全く分からないため受身に回るわけにはいけない。

拳を構え姿勢を低くし、敵を狙う。

そして後一歩で射程内という所で消えた。

「……またか!」

 右足で踏み込み急ブレーキを掛けると後方へ跳躍する。

「ノリキ殿! 左だ!」

 忠勝の声の通り左を見る。

敵の姿は無い。

 だが咄嗟に左腕を横に薙いだ。

拳は空振り、その直後脇腹に強烈な衝撃を受けた。

「!!」

 俺にだけ見えていない!?

どういう原理なのかは分からないが敵は自分にだけ姿を見えないようにしている。

地面を転がり全身に傷を作りながらも立ち上がる。

 そして次の瞬間見たのは放たれる拳であった。

 

***

 

「妙な事になっているわね……」

 そう姫海堂はたては観客に紛れながら呟いた。

 北条の使者が岡崎城に来たと知り浜松からここまで全速力で飛んできた。

 交渉の様子は窺えなかったが武蔵の生徒と先代博麗の巫女が相対戦をすると聞いたため観戦しながら記録をとる事にしたのだがどうにも変な事態になっていた。

「なんで避けないの?」

 先ほどからノリキは立ち上がるたびに周囲を警戒し、それに対して巫女が普通に近づいてノリキを殴るを繰り返している。

「いや、あれは見えていない?」

 恐らくそうだろう。

巫女は何らかの方法でノリキの視界から消え攻撃を加えている。

 だがどうやって?

 巫女は戦いが始まってから一度も術式を使っていない。

となると彼女は術式以外の何かで姿を消している事になる。

そのような事は可能なのだろうか?

━━出来るんだろうなぁ……。

 自分はあの巫女のことをよく知らない。

 知ってるのは先代の巫女が居て、彼女はスペルカードルール制定前だった事も有り純粋に己の力で妖怪退治をしていたという事ぐらいだ。

 文や他の古参妖怪達は彼女と面識があるらしいが先代巫女の事を尋ねると皆、言葉を濁す。

何故妖怪達は言葉を濁すのか?

何故彼女は失踪したのか?

 色々と興味は尽きないが……。

 ノリキが再び吹き飛んだ。

これで何度目かは分からない。

 ここからでも彼に限界が来ていることは分かり、次に攻撃を受ければ終わりだろう。

 先代が歩く。

 ノリキが下がる。

 全方位を警戒するノリキに向けて先代はゆっくりと近づいていった。

彼の目の前に来た瞬間高速のアッパーカットを放つ。

 拳は顎を穿ちノリキの体が宙に浮く。

そして彼は頭から地面に落ちた。

「……勝負ありね」

 動かなくなった彼を見ながらはたてはそう呟いた。

 

***

 

 テント下の席は沈黙に包まれていた。

 ノリキは動かず地面に倒れたままで先代はそれを見下ろすようにしている。

 誰が見てもノリキの負けだ。

徳川は相対戦に負けたのだ。

 その様子を見ながら正純は肩に乗るツキノワを撫で、どこか遠くを見ていた。

「はは、可愛いなー。お前はー」

「ま、正純殿! 気をしっかり持て!」

 私は正常だ。うん。多分。

 しかしどうしたものか?

相対戦に負け、徳川は北条に力を証明できなかった。

なんとかもう一戦できるように頼むか?

 厳しいがやるしかないか。

と思うと幻庵が立ち上がった。

「ん、何処行くんだよ爺さん?」

 女装に呼び止められて幻庵は溜息を吐く。

「何処って帰るのだよ。明日には六護式仏蘭西に向かわないといけないからねえ」

「ちょっと待ってくれ……!」

と踵を返した幻庵を追いかけようとした瞬間、女装が彼の着物の裾を掴み転ばした。

「な、何をする!?」

「何って、まだ相対戦は終わってねぇんだからよ。最後まで見ようぜ」

「……もう決着は着いただろうに」

 そう幻庵が言うと女装が「ちっちっち」と口元に笑みを浮かべた。

「あいつを舐めてもらっちゃ困るぜ。あいつは俺なんかよりずーっと根性があるからな!」

 「なに?」と幻庵が立ち上がると観客の方から歓声が上がった。

 皆、慌ててそちらの方を見ると立っていた。

 満身創痍になりながら、それでも立っているノリキが居た。

「これは驚いた……」

 驚く幻庵に女装は笑顔を向けノリキの方を見る。

「だろ? あいつは根性あるって」

 

***

 

 自分でも良く立ち上がれたと思う。

普段の稽古の成果か、もっと別の何かか。

 最後の一撃を喰らったときここで終わってはいけないと思った。

まだ自分はスタートラインにすら立っていないと。

 意識が朦朧としている。

 全身が重く、腕が思ったように上がらない。

 だがそれでも構える。

 今自分と相対している者は北条の代表だ。

彼女は試すと言った。

 ならば自分はこの強敵を乗り越えなければいけない。

彼女の先に居る者といつか決着をつける為にも。

「満身創痍で……それでも来るのね?」

「わかっているなら…………言わなくていい…………!!」

 来る!

 敵が消えた。

 次は無い。

 狙うのはカウンターで有効打を叩き込む事だ。

これに全てを賭ける。

━━くそ……。

 視界が霞み、呼吸が乱れる。

今にも倒れそうな体を“あと一撃”という気持ちだけで耐えさせる。

 敵は何処だ? 何処から来る。

 靄が掛かったような視界で周囲を見れば何かが視界に映った。

呼吸が乱れる。

 その度に影は形をしっかりした物に変える。

そして此方の直ぐ近くまで来たところでそれが巫女服を着た女性だと気がついた。

 此方の右方。

彼女は立ち止まり、ストレートを放ってきた。

 その瞬間、膝から力が抜けた。

 

***

 

 目の前の少年を見る。

全身に傷を負いながらも立ち上がり闘志を潰えさせない少年を。

━━いいわね。

 最早何度目か分からない賞賛の言葉を相手に送り歩き出す。

ここまで食い下がって来たのだ。

彼の勝利を認めてもいいのではないだろうか?

いや、ここで“自分の負けだ”と言えばそれは彼の誇りを傷つける事になる。

 ならば自分がすべき事は……。

━━止めを刺す!!

 一歩一歩しっかりと進む。

自分と相対した敵を脳裏に焼き付けるように敵から視線を外さない。

 右に回りこみ構える。

敵は周囲を警戒し首を動かしているが無駄だ。

彼に此方を捉える事は出来ない。

 一瞬だけ目が合った様な気がした。

だが彼は直ぐに視線を動かし誰も居ない方を見ている。

━━偶然?

 いや、偶然で済ませるべきではない。

常に最悪の状況を想定し行動に移す。

敵が此方を捉えたかも知れないと思ったのなら……。

━━直ぐに終わらせるわ!

 拳を構える。

狙うのは顔の中心。

そこを穿ちこの相対戦を終わらせる。

 拳を放った。

敵は避けない。

いや気がついていないのだ。

 だが拳を放った瞬間、敵と目が合った。

先ほどとは違い、しっかりと此方を捉える視線。

「見えている!?」

 敵が消えた。

 違う、消えたのではない。

脱力した彼は膝を着き、そのせいで拳が空振る。

━━しまった!!

 敵の闘志は消えていない。

彼は拳を構えながら立ち上がってくる。

そして此方の内角を抉るように拳が放たれる。

 此方は攻撃が空振ったせいで避ける事は出来ない。

 やられた!!

そう思うと自然と口元に笑みが浮かんでいた。

「━━━━御見事」

 ノリキの拳が此方の胸を穿った。

 

***

 

 誰もが固まっていた。

ノリキの拳は先代の胸を穿ち、両者は固まっている。

 皆“どっちだ!?”と身を乗り出し沈黙する。

 ノリキの体が揺らいだ。

彼の体は仰向けに倒れ始め、観客達が悲鳴にも似た声を上げる。

「!!」

 だが彼は倒れない。

拳を地面に叩きつけ、ギリギリの所で堪えた。

そしてその間に先代が片膝を着く。

 彼女は自分の胸の谷間を摩るとテント席の正純を見る。

「私の負けよ」

 歓声が沸いた。

誰もが笑い、抱き合い二人の戦いを讃えた。

「勝った気が……しないな……」

 そう言うノリキの表情は明るい。

 先代はそれに微笑むと立ち上がり彼に手を差し伸ばす。

「戦いにおいて最も重要なのは決して折れない闘志である。貴方の闘志が私を打ち破ったのよ」

 その言葉に彼は頷き、此方の手を取る。

彼の体を立ち上がらせ、横に立たせた。

「今度は彼女を打ち破ってね」

 そう悪戯っぽく笑うと彼は苦笑し、頷くのであった。

 

***

 

 正純は脱力すると椅子に深く腰掛けた。

━━肝を冷やしたが勝てたか……。

 結局敵がどんな技を使ったのかは分からなかったがこれで北条との会議を進められる。

時刻を見れば既に午後の四時を過ぎており、空は暗くなりはじめている。

 会議は明日かなー。

と思うとふと思いついた。

「北条・幻庵、この後いいか?」

「なんだい? 会議の続きかい?」

「Jud.、 だがそちらも疲れているだろうし何よりも今日の主役二人を祝いたい。

そこで食事会をしながらで会議をしないか?」

 「ほう?」と幻庵は思案すると先代の方を見、頷いた。

「食事をしながらの会議ってのもいいかもねえ」

「では早速準備をせんとな」と家康が立ち上がり拡声術式を展開する。

「これにて相対戦を終了する! 皆、二人の勇士に拍手を!!」

 その言葉に続き、拍手が鳴り響いた。

二人を賞賛する拍手は暫く鳴り止む事は無かった。

 

***

 

 筒井城で岡崎城にて行われた相対戦の結果を聞いた永江衣玖は天子を探して歩き回っていた。

途中因幡てゐに出会い、天子が天守裏に向かった事を聞きそこに向かった。

 天子は人の居ない小さな広場で素振りを行っていた。

 寒空の中、汗で青い髪を輝かせ一心不乱に素振りを続ける彼女に声を掛けようかと悩み立ち止まるが目が合った。

 天子は僅かに驚いた後、少し赤面する。

「お邪魔でしたか?」

「いや、もうそろそろ終わりにしようと思っていたから」

 そう言うと彼女は近くの岩の上に座る。

「いつも素振りを?」

 そう訊くと彼女はどこか気恥ずかしげに笑う。

「子供の頃は毎日やってたけど最近やらなくなって」

「どうして再開したのですか?」

 近くの柵に掛けられていたタオルを取り渡すと天子は汗を拭き始めた。

「前までは勝っても負けても自分が楽しめれば良いって思ってたけど、ほら、あいつ等が私を頼るわけじゃん?

だったら期待に応えられるように…………って、何笑ってんのよ!」

 赤面する彼女に笑いながら「すみません」と言うと彼女はそっぽを向いた。

 まだまだ素直じゃないが彼女なりに皆の力になろうと思い始めたのだろう。

 未だに顔を背けている彼女は横目で此方を見るとわざと不機嫌そうな声をあげた。

「それで、何か用?」

「はい。岡崎での相対戦、勝ったそうですよ」

 そう言うと彼女は大して興味無さ気に「ふーん」と返事をした。

「おや? 興味無いですか?」

「いや、興味はあったわよ。でも勝つと思っていたから」

 「何故?」と訊くと彼女は「直感」と笑った。

「で、向こうはこれからどうするの?」

「はい。なんでも食事会をしながら会議をするらしいですよ」

 「食事会」の部分に天子は反応し、しばらく思案すると立ち上がった。

「じゃあ、こっちも皆で宴会にしましょうか?」

 

***

 

 筒井城で食事会と称した宴会をしようと天守に向かうと天守前に人だかりが出来ていた。

二人は何事かと顔を見合わせ近づけば人だかりの中心には“曳馬”と見知らぬ男が居た。

「あら、“曳馬”じゃない。戻ってきたの?」

 そう言い近づけば彼女は頭を下げる。

「Jud.、 十分前に此方に到着しました。これより当艦は征西軍の旗下に入ります」

 彼女に加わって貰えるのは心強い。

そう思っていると見知らぬ男が前に出てきた。

「やあやあ、久しぶりだね天子君」

「…………だれ?」

「フフ、私のことを忘れたのかい?」と訊いてきたので首を縦に振る。

というか忘れたもなにもこんな男知らん。

「まあ君と顔を合わせたのは一度だけだからね……仕方ない」

「いや、本当に誰よあんた?」

そう訊くと彼はオールバックの髪を撫でた。

「大久保長安。それが私の名前だ」

…………は?

「今なんて?」

「だから、大久保長安だ」

 いやいやいや!

 自分の知る大久保長安はもっとこう真面目な自分物で、こんなお笑い芸人みたいな奴じゃなかったはずだ。

 隣の“曳馬”を見れば彼女は頷いた。

「残念ながら大久保長安様です。残念ながら」

「えー…………」

 軽い頭痛を感じていると天守から徳川秀忠と筒井順慶が出てきた。

「ふむ、どうした?」

 集まっていた兵たちが離れ、秀忠と順慶が傍に来る。

「徳川秀忠様。特務護衛艦曳馬及び全乗組員は本日より征西軍の指揮下に入ります」

「うむ、ご苦労。……ところで」

と秀忠は周囲を見渡す。

「長安は何処だ?」

 “曳馬”が「それは……」と言いかけると長安が彼女の前に立ち、“曳馬”は半目になった。

「お久しぶりです、秀忠様?」

「う……む? 何方かな?」

 秀忠の問いに長安は爽やかなのになんだか殴りたくなる笑みを浮かべると腰に手を当てた。

「若殿もなかなか冗談が上手でおられる! 私ですよ。長安。大久保長安!」

 笑う長安に対し秀忠は困惑したように周りを見、皆が頷くのを見ると眉を顰めるのであった。

「えー…………」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。