緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第九章・『完全瀟洒の侍女』 時よ止まれ (配点:銀のナイフ)~

 戦場の左翼では三征西班牙の艦隊が優勢になっており、三征西班牙艦隊は砲撃の密度を上げていた。

 それに対して英国も果敢に応戦するが被害は拡大し、数隻が後退した。

 そんな戦闘の様子をディエゴ・ベラスケスが見ていた。

━━ふーむ、順調だねえ。

 英国艦隊も奮戦しているが数の差で押されている。

 英国は本国防衛の為艦隊の半数を内城に残しているためこの戦場に来ているのはフランシス・ドレイクの私掠船が殆どだ。

 対して此方は本国の守りを同盟国のT.P.A.Italiaに頼めたため全艦隊を投入できたのだ。

 戦況は此方が優勢。

だが直ぐに勝利するわけにはいかない。

 阿蘇家には英国の陸上戦士団と戦ってもらい消耗させる。

そして消耗したところを三征西班牙が併合するという手筈だ。

━━あいつは反対してたなあ。

 この作戦を立てたのは大友宗麟だ。

 総長であるフェリペ・セグンドは中々首を縦に振らなかったが宗麟の説得を受け、ついに許可した。

「まあ、利用できる事は利用しないとこっちがやばくなるからな」

 英国は本気だ。

 彼らは本気で九州の統一を目指している。

 彼らの勢いが強まる前に叩き、抑えなければいけない。

『そろそろ止めを刺そうかしら?』

 表示枠越しに女性の声が聞え頷く。

「Tes.、 左翼を崩して中央を包囲するとしよう」

 表示枠が閉じると艦内から警報が鳴る。

それとともに船体が僅かに揺れ始め、中央にある貨物用エレベーターが上昇し始める。

『三征西班牙旗機“道征き白虎”出陣』

 白い女性型武神が現れた。

 巨大な体躯を持つそれは両腕を地面に立てると腰を上げる。

 その肩に霊体の長寿族の女性が立っていた。

 彼女に手を振ると彼女は手を振り替えし、腰を落とす。

「道征き白虎!━━GO!」

 白き虎が駆け出した。

 甲板を揺らし、四足で駆けるそれの前には道が出来る。

 そして光の道を走り、空を駆ける武神は雲の中に入って行くのであった。

「さて、これで左翼は終わるがどうにも右翼がきな臭いな」

 英国は何らかの勝算を持っているはずだ。

━━隆包。油断するなよ。

 そう右翼の方を見るのであった。

 

***

 

 中央の戦況は完全に膠着していた。

 三征西班牙は数では押していたがフランシス・ドレイク率いる英国中央艦隊は陣形を自在に変え、被害を最小限に抑えている。

 その英国艦隊に砲撃をしている三征西班牙艦隊の中心に旗艦サン・マルティンは存在した。

『流石だね』

 表示枠に映っている眼鏡を掛けた中年男性にフアナは頷いた。

「散開と密集を繰り返し、的確に回避行動を行っていますね」

 艦橋から見える英国艦隊はその陣形を常に変えており此方の砲撃を上手く凌いでいる。

 更に厄介なのがこの一連の動きにフェイントが入るところだ。

 回避かと思えば突然砲撃をしてきたり、前進と見せかけ後退を行い此方を混乱させる。

『だけど妙だ』

 そう呟く男性に「何がですか?」と訊くと彼は頷いた。

『確かにこの戦法なら被害を抑えられる。だけどそれは時間を稼ぐだけで此方の戦力を削ぐ事は出来ないんだ。

敵に援軍があるなら時間稼ぎも分かるけど現状時間が経てば経つほど不利になるのは英国の方だね。

左翼が崩れれば中央は包囲される』

 ならば何か策があるのか?

 敵が策を仕掛けてくるとしたらそれは…………。

「右翼ですね。あちらには敵の新型艦が確認されています」

『Tes.、 右翼側の戦況を注意深く………』

 男がそう言い掛けた瞬間、通神士が振り返りこちらを見た。

「右翼より入電! 右翼旗艦に敵が侵入した模様! 現在副長が敵と交戦しています」

「何ですって? どうやって進入したの?」

 そう訊くと通神士は困ったような表情を浮かべる。

「えーっと……どうやら飛んできたらしく……」

 飛んだ?

 敵は有翼種族ということか?

「いえ、そうではなく。大砲の弾のように飛んできて艦にぶつかったそうです……」

「そんな馬鹿なこと……」

『前に太陽王がやってたね』

 沈黙する。

 そういえば武蔵との初接触時にやっていた気がする。

「敵は一人なのですか?」

「T、Tes.、 敵は一人のみですが向こうは酷く混乱しているようです!」

 まあ敵が飛んできたら混乱するだろう。

 だが敵は一人だ。

直ぐに制圧される筈だが……。

『……直ぐに右翼の戦況図を見せてくれ!』

 男に言われ兵が慌てて表示枠に右翼の戦況図を開く。

 そこには敵艦隊の様子が映されており……。

「これは…………!」

『ああ、敵の狙いはこれだ。直ぐに右翼艦隊とアルセイユに連絡を! このままじゃ突き崩される!』

 

***

 

 バットがスウィングされ空を切る音が鳴り響く。

 炎のような赤髪の少女は腰を低くし、バットの下を潜ると拳を放ってきた。

━━おっと!

 それを後ろへの跳躍で避け、敵と距離を放つ。

 敵は深追いをせずに息を整え構えた。

━━やるじゃねえか。

 体の重心を下ろし股間を守るように太腿を閉じ両手を顔の高さまで持ってくるこの構え。

━━八極拳か。

 それも達人の域のだ。

 八極拳は清の時代に生まれた拳法で数ある中国拳法の中でも屈指の破壊力を誇る。

この技は敵と肉薄した間合いで戦う事を得意とするものであり、独特な震脚による重心移動や急激な体の展開動作を利用した攻撃を行う。

 達人の域に達した八極拳使いの間合いに入る事は死を意味する。

━━本来なら距離を離して戦う相手だが……!

 此処は船の上。

 敵の間合いから十分に逃れるには広さが足りない。

 敵が息を吸う。

ゆっくりと吸い、静かに吐く。

 そして踏み込んできた。

 距離にして二メートル半を一気に詰めて来る踏み込み。

 その加速力を利用し彼女は右肘を突き出してきた。

「!!」

 咄嗟にバットでそれを受け、鈍い音が鳴り響く。

━━重い………!?

 まるで象が突撃してきたかのような衝撃。

それを霊体の足で甲板を踏み込み、弾いた。

 敵は直ぐに後ろにずれると構えなおし此方の様子を窺う。

 此方もバットを構え待ち構えた。

━━こいつぁ、骨が折れそうだ!

 単身乗り込んできただけの実力はあるという事だ。

並みの特務では返り討ちにあっていただろう。

そう言う意味では自分が此処にいたのは良かった。

「守るのは得意なんでなあ!」

 再び赤毛の少女が踏み込んできた。

 

***

 

 美鈴は敵と戦いながら心中賞賛の声を送っていた。

流石は三征西班牙副長弘中・隆包。

彼は守りが得意という事は戦いの中で痛感した。

 守りと言っても“堅”の守りでは無く、“柔”の守りだ。

“堅”の守りはその耐久を上回る破壊をぶつければ突破できるが“柔”の守りはその姿を攻撃ごとに変え応戦する。

 彼はバットを使い、此方の攻撃にあわせ「弾き」「逸らし」「打ち込み」を行い常に反撃のチャンスを窺っている。

━━世界は広いですね!

 幻想郷でも自分に挑んでくる人間は多く居たが多くが数分で倒れた。

そもそも妖怪である自分と人間の間には絶対的なスペック差がある。

そのスペック差を埋めるためにスペルカードルールが生まれたのだが拳法家としてはやはり真っ向からの勝負をしたかった。

 不変世界に来てからも戦う機会が少なく燻っていたがついに心躍る勝負ができた。

「どうした。笑ってるぜ?」

 敵に言われ表情を改める。

「貴方ほどの敵と戦え、喜びを感じています」

「へ。嬉しい事言ってくれるな。だが! この試合、俺が貰うぜ!」

「私も譲る気はありません!」

 踏み込む。

 拳を腰元で構え狙うのは敵の左胸だ。

 敵との間合いを詰めると同時に拳を放つが敵は既に防御態勢に入っている。

拳が敵のバットに当たった瞬間、踏み込んだ。

 震脚。

 八極拳において基本的な技だが、基本だからこそ技を派生できる。

 衝撃を受けた敵は大きく後ろに滑る。

それを追撃しようとした瞬間、今度は敵が踏み込んできた。

「!!」

 バットの両端を両手で持ち此方の顎を狙う突き出し。

それを急ぎ顔を引き、避けると後ろへ跳躍した。

「やられっぱなしってのは面白くねーからな!」

 そう不敵に笑う敵を見てますます闘志が高まる。

 全力で行こう。

 そう決め、踏み込もうとした瞬間、表示枠が開いた。

そこには咲夜が映っており。

『美鈴、良くやったわ』

「え?」と首を傾げた瞬間、艦の左方から赤の戦艦がステルス障壁を解除し、出現した。

 スカーレットデビル号は艦首に障壁を集結させ流体の刃を作り出してゆく。

鋭く尖った船首を輝かすその姿はまるで……。

「槍!? 衝角突撃(ラムアタック)か!?」

 誰かが叫んだ直後、スカーレットデビル号が近くの護衛艦の側面に突き刺さり、砕いた。

 

***

 

 甲板の側面に捕まり九死に一生を得た後、妹のフローレス・バルデスに引き上げてもらった。

 危なかった。

 服が装甲の角に引っかからなければ地上まで真っ逆さまに落ちていただろう。

「妹よ、感謝する」

 そう言い甲板中央を見るとそこでは赤毛の中華少女と隆包主将が相対しており、とてもじゃないが近づける雰囲気ではない。

 だが何時までもこうしている訳にもいかないので近づこうとした瞬間、警報と破砕音が鳴り響いた。

「なんだ!?」

 装甲が砕かれ、軋む音の方を見れば護衛艦がその船体を二つに別け墜落していた。

そして炎と煙の中から赤い船が現れる。

━━敵の新型艦!?

 此方が混乱している間に突撃してきたか!?

だがなんという速力!

この短時間で近づいてきたのか!?

『緊急回避を行います! 総員、掴って下さい!!』

 次の瞬間、艦が緊急回避を行い旋回した。

その衝撃を逃れるため皆近くの手すりや角につかまるが場所が悪かった。

 今立っているのは何も無い甲板の上。

 その状況で突然の重力加速を受けたため…………。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「兄貴ぃ!?」

 後ろに引っくり返り、転がり、そしてまた甲板から落ちた。

 

***

 

━━してやられたな!?

 バットを甲板に突き立て、膝を付き衝撃に耐える。

 艦は九十度の緊急回頭を行っており、敵の右舷装甲と此方の左舷装甲が激突する。

 破砕音と火花。

 装甲が互いに削られ、船が軋んで行く。

 そんな中、敵艦から一人の少女が此方に乗り込んで来た。

 美しい銀の髪を靡かせたメイド服の少女は華麗に着地をするとスカートを整える。

そして艦が通過するのを確認すると此方を見た。

「英国紅魔館所属、十六夜咲夜と申します。三征西班牙副長弘中・隆包様で御座いますね」

 丁寧に頭を下げる彼女に釣られ、周りの生徒たちも頭を下げた。

「おう。やってくれたな」

 横目で赤の艦の方を見れば船は近くの護衛艦を砕き、鎖型の流体を伸ばしながら周囲の航空艦に襲い掛かっている。

「ステルス障壁を持っているのは其方だけではないという事です」

 彼女はそう微笑むと銀のナイフを取り出す。

「霊体払いの加護を受けた銀製ナイフ。貴方には脅威の筈です」

 そして彼女は横目で美鈴を見る。

「美鈴。挟み込みなさい」

「え……でも……」

「三征西班牙の副長。ここで仕留めれれば今後が楽になる。従いなさい」

 そう言われ美鈴は表情を翳らせながら頷いた。

━━こりゃあ、きつそうだ。

 状況は二対一。

ペデロはなぜかまたぶら下がっているし、フローレスも兄を引き上げるので手一杯だ。

 このメイドの実力は分からないが恐らく特務級。

油断は出来ない。

━━やるしかねぇか!!

 覚悟を決め、バットを構えた瞬間、艦内から男子生徒たちが現れた。

「隆包主将! ご助力します!!」

 そう叫ぶと男子生徒たちが咲夜に突撃する。

「うひょおおおおお! ミニスカメイドさん!!」

「う、美しい!!」

「踏んでください!!」

 各々叫びながら飛び掛ると咲夜は口元に笑みを浮かべた。

━━………なんだ?

 得体の知れない悪寒を感じ、眉を顰める。

「待て! お前ら下がれ!!」

 叫んだ瞬間、男子生徒たちが一斉に倒れた。

 皆肩や足にナイフが刺さっており苦悶の声を上げる。

━━何が起きた!?

 一瞬で男子生徒たちが全滅し、咲夜はその場から動かず涼しげな表情を浮かべている。

「私が何故、お嬢様の傍に居るのかお教えしてあげましょう」

 メイドが構える。

━━来るか!!

 此方も構える。

 そして咲夜が駆け出した瞬間、甲板に影が差した。

「何!?」

 上を見上げれば美しく白い装甲を持つ飛空挺が滞空しており、その甲板から此方と敵の間に誰かが降りてきた。

 女性であった。

 鮮やかな青の軍服を身に纏い薄緑色の髪を持つ女性は腰に提げていた剣を抜くと掲げた。

「三征西班牙客将ユリア・シュバルツ! 恩義を返すため助太刀する!!」

 

***

 

━━間に合ったか……。

 中央後方で待機していたが突然右翼の援護に回るように指示を受け、急行した。

 遠く。

 右翼艦隊後方を見れば敵の新型艦がやりたい放題をしておりこのままでは甚大な被害を受ける。

 表示枠を片手で操作し、上空に居るアルセイユに敵艦の追撃を指示すると眼前の敵を見た。

 敵は二人。

 一人は東方の拳法使い。それも達人級。

 もう一人はメイドだが………。

 周囲に取れている生徒たちを見る。

ナイフはどれも肩や足、それも動脈を避けて刺してある。

 狙ってやったのなら相当な腕だ。

 そしてなによりも……。

━━どうやったかか……。

 アルセイユから見たとき敵が何をしたのか分からなかった。

 背後の隆包に目配せすると彼は頷く。

「気をつけろ。敵さんの手の内が全く見えねぇ」

 彼の頷きに頷きを返すと剣を構えた。

「隆包殿。この敵は私が引き受けます」

「おう。頼んだぜ。俺はあの嬢ちゃんとの続きだ」

 そう言うと隆包は中華服の少女と相対する。

「……予定外ですが……貴女にも退場していただきます!」

 銀の一閃が来た。

 高速で放たれたナイフを剣で弾くと敵は既に二発目を投げている。

━━鋭い!

 彼女その物がナイフのような殺気。

 それを全身で感じながら二発目のナイフを体を逸らし避ける。

それと同時に踏み込み距離を詰めた。

 剣を振り上げ狙うは敵の左肩。

それに対し敵は右手のナイフを此方の刃にあてナイフの表面を走らせるように逸らした。

更に右足を主軸に体を横に回転させ背後に回りこんで来た。

 彼女の左手には別のナイフが逆手で握られており、此方の背中を突き刺そうとする。

「!!」

 此方も敵を追うように回転しナイフを避けると回し蹴りを放つ。

 足の裏が敵の右手のナイフを弾き飛ばし両者は距離を離す。

 静かに息を整えると剣を構えた。

「その動き……暗殺者か?」

「どちらかといえばハンターですね。“元”ですが。そちらは騎士道という物ですか?」

 その問いに小さく頷く。

すると彼女は微笑んだ。

「いいですわね。主を守る騎士。その気高さに憧れますわ……でも」

 表情が変わった。

鋭く目だけで此方を殺すような視線。

━━来るか!?

 その予感とともにエニグマを起動させる。

「気高さ故に足元の影に喰われない様、御注意を……」

 突如、胸に衝撃を感じた。

━━な、に……?

 視線を下ろし、自分の胸元を見ればそこには一本の銀のナイフが突き刺さっていた。

 

***

 

 咲夜は凄まじい疲労感と汗を隠しながら平静を装った。

 使うつもりが無かった完全時間停止。

 自分の技は時間操作でありその性能から多量の内燃排気を消費する。

 そこで編み出したのが“時間停止”ではなく“時間遅延”だ。

 周囲の時間を七秒間の間だけ遅延させ攻撃を行う。

さらに三十秒のクールタイムを設ける事によって内燃排気の消費と体力の消耗を極力抑える。

こうする事によって長期戦にも対応できるようにしたのだが今回は時間が無く一気に勝負をつけることに専念した。

━━やはり完全停止は体に負担が掛かるわね……。

 蓬莱人のように莫大な内燃排気を所有しているならばいざ知れず人間である自分の内燃排気は限られている。

 その為完全に時間を停止させるのは体に凄まじい負担が掛かるのだ。

━━幻想郷ではこんな事に悩まされなかったのに……。

 もし制約をつけた奴が居るならば殴ってやりたい。

そう思いながら敵の様子を見る。

 敵は両膝を付き崩れており、胸に刺さったナイフが痛々しい。

 一応急所は外した。

あくまで狙いは副長弘中・隆包であり彼女ではない。

無駄に命を奪う事は無いだろう。

 美鈴の援護に向かおう。

そう思うと同時に敵が動いた。

「……まさか」

 彼女は剣を杖にし、起き上がると不敵に笑う。

そして胸のナイフを引き抜き投げ捨てた。

「………どうやったのかしら?」

 ナイフは確実に刺した。

だが敵は動いているし胸には出血の跡が無い。

 疑問から眉を顰めていると敵は腰のポケットから懐中時計のような物を取り出した。

銀色のそれはたしか……。

「………エニグマ」

「そうだ。導力魔法“アダマスガード”。莫大な内燃排気を消費するが一度だけありとあらゆる物理的な攻撃を遮る。事前に仕込んであって助かった」

 やられた……。

 導力魔法については良く知らず、このような術があるとは思わなかった。

 此方はもう時間停止は使えない。

だが見たところ敵もあの術をもう使う事は出来ないだろう。

 完全時間停止を使った際のクールタイムは三分。

あと二分。

それまで耐えれば此方の勝ちだ。

 足に着けてあるナイフポーチから二本のナイフを取り出すと構える。

 そして身を低くし突撃した。

 

***

 

 身を低くし突撃してくる咲夜に対して正面から踏み込み剣を突き出すと敵は上体を捻った。

そしてそのまま右手のナイフを突き出してくるがその腕を掴むと後ろへ投げ飛ばす。

 敵は空中で受身を取ると左手のナイフを投げつけ着地する。

 それを横への跳躍で避けると向かい合う。

 先ほどの敵の技。

色々と憶測できる。

 一つは空間移動。

だがこれは敵の攻撃が見えないというはずは無い。

 必ず敵が攻撃をする際に見えるはずなのだ。

 次は透過術式。

これも違う。敵の攻撃が早すぎる。

いや早いなんてものでは無い。

時間なんて関係ないかのように高速を超えた何かで攻撃が可能なのだ。

━━………まさか?

 もし敵が時間操作を行っているのならば?

 それならば一連の攻撃に説明がつく。

 攻撃が見えなかったのは此方の時間が止められていたから。

男子生徒の軍団を同時に倒せたのも時間停止をし攻撃を行ったから。

 だとすると問題が出てくる。

それは時間停止をされたら手も足も出ないという事だ。

━━だが、それだけの技を連続で使えるか?

 時間停止などという大技を使えば内燃排気の消費が激しいはずだ。

 敵の表情を見れば上手く隠してはいるが消耗の色が見える。

先ほど、此方の胸を穿った際に向こうも大きく消耗したのだろう。

 時間停止は次は使えない。

だが時間停止以外ならば?

例えば時間を遅らせたりするような……。

━━用心は必要か。

 此方も内燃排気は残り少ない。

使える導力魔法は限られてくる。

その中で使用するのは……。

「クロノドライブ!!」

 時間加速術式を使用した。

それと同時に敵が動いた。

 突如全身に重圧を感じる。

まるで海の中に居るかのような重さで体が思うように動かず動作が遅れる。

━━やはり時間遅延か!!

 敵はナイフを突き出し突撃してくる。

 対して此方は全ての動作が遅延する。

 ただナイフを弾こうとすれば間に合わない。

故に膝蹴りを繰り出すよう体に命令した。

 剣を持つ腕を敵に向けながら体を敵に対して横にして行く。

 敵は剣先を避けるため身を低くする。

そこへ事前に突き出した膝が来る。

「なに!?」

 咲夜は咄嗟の膝蹴りを避けると舌打ちをし、距離を離した。

それと同時に体に掛かっていた遅延が消える。

「━━七秒か」

 そう静かに言うと彼女は始めて平静を崩した。

 眉を顰め、睨みつけてくる。

敵の技は見破った。

だが未だに不利なのは此方だ。

「残りの内燃排気を全てクロノドライブに回す!」

 今度は加速した此方が敵に突撃を仕掛ける。

敵の遅延攻撃を受ける前に押し込む。

 対して敵も迎撃の構えをし、次の発動まで耐えるつもりだ。

 剣の刃とナイフの刃がぶつかり、火花を散らした。

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