緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

67 / 103
~第十一章・『上空の襲撃者』 新たなる脅威 (配点:向かう先は?)~

/////////////

 

 私が生まれて最初に見たものは黄金だった。

温かく優しい黄金の光に包まれて目が覚めた。

 最初は何がなんだか分からず泣いた。

すると自分の泣き声以外に、そっくりな泣き声が聞えた。

 何だろう?

そう思い、横を見ればなんだか白いのがいた。

白いのも私を見ると泣き止み、二人で手を動かしてみた。

 同時に同じ手を、同じ動きで動かしそれがなんだか可笑しかった。

 二人で笑うとどちらとも言わずに手を伸ばし手を繋いだ。

その頃には不安なんて消えていた。

 それが私と彼女の始まりだった。

 

1

 

/////////////

 

読んでいた本を閉じると背筋を伸ばす。

 横の小窓からは青い空に敷かれる雲の絨毯を見ることができ、疲れた目を癒すにはちょうど良い。

「その本、面白い?」

 右隣に座っていたレンにそう訊かれ頷く。

「三国志って言って昔の中国……あ、中国と言うのはね」

「ユーラシア大陸に存在する大国、でしょ? この七年間暇だったから色々と自分で調べたわ。でも知っているのは国の配置くらいだけど」

 それでも十分だ。

 異世界の人間が地球の国家を覚えるのは大変だっただろう。

「それで? 三国志ってどんなお話なの?」

「ええ、三国志は古代中国の話で、元々中国を支配していた漢と言う国が政治の腐敗等で弱体化したの。

それで農民の大きな反乱があって漢王朝は完全に衰退、群雄が割拠し始めて三つの勢力が台頭したわ。

一つは劉備の蜀。もう一つは孫権の呉。そして曹操の魏。

この三大国が争う話よ」

「へえ……面白そう。それで? 結局誰が勝ったの?」

 レンの言葉に首を横に振る。

「最終的に勝ったのは晋と言う国よ。三国は争っているうちに弱体化して新勢力の晋が全て飲み込んでお終い」

「……なんというか、ままならないわねえ」

 確かに。

だが歴史とはそう言うものだろう。

 国とは人の集合体だ。

人の心が移ろい易いのなら国もまたその形を変えてゆくだろう。

この世に絶対はないのだ。

『当機は現在伊賀大和国上空を通過中。浜松まであと三時間となります』

 艦内放送を聞くと外を見る。

「予定より大きく遅れちゃったね」

「仕方ないわ。京都で妖怪が出て大騒ぎになって空港が封鎖されたんだもの。

結局どこから進入したのか分からなかったし」

 あれは何だったのだろうか?

妖怪達は自分を……いや、自分の持つ鉄の本を狙ってきた。

━━やっぱりあの本には何かある。

 早く霊夢に見せるべきだろう。

 そう思っていると通路を挟んで隣の席から大きな鼾が聞えてきた。

 なんだ?

と其方を見れば紫の道着のような服を着た中年の男性が顔にパンフレットを載せ寝ていた。

「凄い鼾ね」

 レンがそう苦笑すると此方の足元にある鞄を見る。

「あの本、あれから何も無い?」

「うん。押しても叩いても反応なし」

 そう言い鞄から古びた鉄の本を取り出と開いた。

 一枚一枚ページをめくるが何も反応しない。

それに溜息を吐くと本を閉じた。

その時だった。

 本が一瞬だけ強く光り、元に戻った。

「な、なに?」

 そう驚くとレンは眉を顰めた。

「嫌な予感がするわ」

 

***

 

 操舵室の機長席で表示枠に映った航路を確認すると飛空挺の機長は一息つく。

 この便は本来なら二週間前に出るはずだった。

だが京都で妖怪騒ぎがあり軍が都を封鎖。

そのせいで予定を大きく変更させられた。

━━やれやれ、本当に仕事をし辛くなったものだ。

 怪魔の出没や戦争により旅客用の飛空挺はその航行数を大きく減らした。

特に近畿では織田が領空の通過を禁止しているため航路が大きく制限される。

 近いうちに近畿方面への運行を全て取りやめるかも知れない。

━━仕事無くなったらどうすっかなあ……。

 航空輸送会社に勤めるか?

あっちは戦争になって仕事が増えたと聞く。

そんな事を考えているとアラームが鳴った。

「どうした?」

 レーダー士に訊くと彼は大型表示枠を開いた。

「レーダーに反応。大きさから飛空挺の様ですが……」

「近隣を航行予定の飛空挺は?」

「ありません。今日飛ぶのはうちだけです」

 空賊か?

 筒井では徳川との戦いがあった。

その敗残兵が飛空挺を使用し空賊となっている可能性がある。

「あの飛空挺に共有通神網で通神を送れ。三回送って反応が無かったらこの場を急速離脱し徳川に救援を求めるぞ!」

 そう指示すると皆が額に汗を浮かべ頷く。

その直後、レーダー士が振り返る。

「未確認物体加速! これは……分離している……!?」

「何だ! 何が起きている!?」

 立ち上がりレーダーを覗き込めば白い大きな点がその形を崩し、幾つもの小さな点になって此方に向かってくる。

「……これは、飛空挺じゃないぞ!?」

 そう叫ぶと同時に大型表示枠に望遠映像が映る。

そこには幾つもの白い皮膚を持った蜻蛉のような生き物が映っていた。

「…………怪魔だ!!」

 

***

 

 突如機体が揺れ、乗客たちが悲鳴を上げる。

「な、何? 乱気流!?」

 隣の小鈴がそう訊いて来る。

この揺れ方、乱気流ではなく……。

「加速してる!?」

 急ぎ小窓を見ればそこには幾つもの影が雲の中から現れていた。

不気味な白い皮膚を持つ生き物は自分の知っている限り一つしかない。

「怪魔!!」

 その言葉に乗客たちが動揺した。

皆窓に張り付き見れば無数の怪魔が此方を包囲しようとしていた。

「だ、誰か!?」

 一人が慌てて席を立ちそれを初めに皆、狭い機内で逃げ始めた。

「お、落ち着いてください!!」

 乗務員が混乱を収束させようとするが人々は混乱し、悲鳴を上げる。

「な、なんで怪魔が!?」

 小鈴も冷や汗を掻き此方を見てくる。

この一帯には怪魔は出没しないはずだ。

なのに何故?

 そこで鉄の本に目が留まる。

━━さっきの光!!

 京での一件といい、今回といいやはりこの本には何か秘密がある!

そう確信すると小鈴を落ち着かせるように両肩に手を乗せた。

「小鈴、貴女は此処で待ってなさい」

「レ、レンちゃんは!?」

「私はあいつらを追い払うわ」

 そう言うと駆け出す。

向かう先は上部デッキだ。

そこならばある程度の広さを確保できる。

 混乱する人々を掻き分け、上部デッキへの扉の前に来ると飛び出した。

 

***

 

━━これは!!

 上部デッキに飛び出し二律空間から大鎌を取り出すと周囲を見渡す。

 怪魔は飛空挺を完全に包囲しており不気味な羽音が何重にも鳴り響いている。

━━新種!

 此方を包囲している怪魔は蜻蛉のような姿をしており、一つ一つの大きさは人間と同程度だ。

━━なんで飛空挺を沈めないの?

 いや、もしかしたら沈められないのかもしれない。

やつらの目的があの本ならここで飛空挺を沈めてしまっては回収できなくなる。

「やっぱり、頭がいるのね!!」

 明らかに目的を持った襲撃。

ならばこれを指示した奴がどこかにいるはずだ。

━━来る!!

 一匹の怪魔が突撃してきた。

 蜻蛉でいうと頭部に当たる部分は槍状になっており、その先端を向け加速してくる。

それを体を逸らし避けるとすれ違いざまに鎌の刃で敵の胴を両断する。

 二つに断たれた敵はデッキ上を転がり流体光へと変化する。

 その直後、上空に居た十匹が槍の様に降ってきた。

大きく後ろへ跳躍すると怪魔達は次々とデッキに突き刺さる。

「纏めて仕留めてあげる!」

 そう言い構えた瞬間怪魔たちの胴から六本の足が生えた。

━━なに!?

 六本の足で踏み込むとデッキに突き刺さった頭を引き抜き、最後に二対の大きな鎌を生やす。

「……蜻蛉なのか蟷螂なのかハッキリさせなさいよ」

 そう呟くと二匹が来た。

左右から挟みこんでくるが右の一匹を石突で突き吹き飛ばすと左の一匹の胴を鎌の刃で突き刺す。

そしてそのまま回転すると近くの怪魔ごと敵を引き裂いた。

「この程度で私を倒せると思ってるのかしら?」

 そう口元に笑みを浮かべた直後、破砕音が響いた。

「!!」

 急ぎ左舷側に向かい見れば飛空挺の左舷、客室辺りに穴が開いていた。

「しまった!!」

 直ぐに飛空挺内に戻ろうとするが怪魔たちが此方を包囲する。

━━私を行かせない気ね!

 やはり今までの奴等とは違う。

急ぎ戻らなくては!

 そう思うとエニグマを取り出した。

「いいわ! そんなに邪魔をするなら殲滅してあげる!」

 そう叫ぶと怪魔たちが一斉に襲い掛かってきた。

 

***

 

「う……ん……?」

 何が起きたんだっけ?

 確かレンに言われたとおり自分の席で待っててそれから突然衝撃を受けた。

それで吹き飛ばされて倒れて……。

 霞んでいた視界が元に戻り始め、眼前に何かが居ることに気がついた。

「?」

 目を擦りよく見ればそれは白い皮膚を持つ巨大な蟷螂のような生き物であった。

━━怪魔!?

 慌てて起き上がろうとするが倒れたシートが足の上に乗り動けない。

周りの人に助けを求めようとしたが誰もが怯え、動けないでいた。

 怪魔の鎌が自分の頬に触れる。

「ひ!」

 声にならない叫び。

怪魔は此方を暫く観察するように見ると腕に抱いていた鉄の本に鎌で触れる。

そして突然心が不安定になる甲高い鳴き声を上げた。

━━な、何!?

 怪魔は狂ったように体を揺らすと突然静止し、鎌を振り上げた。

 殺される!!

 そう思い目を瞑った直後、鈍い音が鳴り響いた。

「全く、人が気持ちよく寝てたというのに」

「え?」と見上げればそこには幅広の木刀があった。

そして視線を剣先のほうに向ければ先ほどの怪魔が壁に叩きつけられ潰れている。

「お嬢さん、大丈夫かな?」

 その声に頷くと紫の道着の男が頷き、此方の足に乗っていたシートを退かす。

 幸い足は怪我をしてないようで直ぐに立てた。

そして男を見上げると頭を下げる。

「どうもありがとう御座いました!」

「ウム、我が居てよかったな」

 そう髭を生やした巨漢が笑うとハッとする。

「おじさん強いですよね!?」

「ウ、ウム。我こそは古今無双の大剣士、スサ……」

「友達が外で戦っているんです! 助けてください!!」

 そう頭を下げると男は暫く沈黙し、頷いた。

「我に任せるが良い!!」

 

***

 

 振り下ろされる鎌を鎌の先で叩くと逸らす。

そして敵の懐の飛び込み、蹴りを入れた。

 蹴られた怪魔は後ろに吹き飛び他の怪魔とぶつかる。

━━数が多いわね。

 一体一体はさほど脅威ではないがこう数が多いと此方の体力が消耗する。

 横に回りこんできた敵を導力魔術“アイススパイク”で攻撃し倒すと後ろへ下がる。

 既に二十を超える敵を倒した。

だが敵の数は一向に減らず此方を追い詰めてくる。

 他に戦える人がいればいいんだけどね……。

いや、泣き言は言ってられない。

 首を横に振り、構えた瞬間後部の扉が開いた。

「レンちゃん!!」

「小鈴!?」

 小鈴は此方に向かって駆け出そうとするがあっと言う間に怪魔に囲まれる。

━━まずい!!

 助けなければ!

 そう駆け出そうとした瞬間、怪魔の群れが吹き飛んだ。

「え?」

 男が居た。

 木製の大剣を片手で持っている男は小鈴の前に立ち、辺りを見渡す。

「ムム、妖怪共よりも気色悪いな。こいつ等は」

 誰だか知らないが戦えるようだ。

━━なら!

 男のほうに向けて跳躍する。

途中、上空に居た怪魔が突撃してくるが体を捻り避けると鎌で切り裂く。

 そして男の近くに着地するとスカートについた汚れを払った。

「おお、小娘。やるではないか」

「フフ、おじさんも結構戦えそうね」

 顔はなんとも頼りなさげだが先ほどの太刀筋、決して素人のものでは無かった。

「フッフッフ、何を隠そう我こそは世に聞こえしス………」

 突如雲海から大型の怪魔が飛び出した。

怪魔は巨大な鷲のような姿をしており、巨大な翼を羽ばたかせながら上昇する。

「また新種ね……」

 今日はやたらと新種に会う。

この辺に巣でもあるのだろうか?

━━考えるのは後!

 巨大な怪魔は上空を旋回すると此方に向かってくる。

そしてデッキの上方を通過した瞬間、二対の巨大な足で掴んでいた何かを落とした。

 何かはデッキの上にいる小型怪魔たちを踏み潰し、船体が大きく揺れる。

「うおお!?」

 男が尻餅を着き、自分も鎌を杖にし耐える。

 揺れが収まり、落ちて来た何かを確認するとそこには白い塊がいた。

「………え!?」

 それは巨人であった。

 白い肌を持つそれは人の形をしており右腕は巨大な大剣のようになっている。

そしてなによりも驚いたのは……。

「頭が……ある……!!」

 人型怪魔には頭部が有った。

 醜く潰れた顔に一つの瞳があり、口は大きく裂け凶暴な歯を見せている。

「か、怪魔って頭がないんじゃ……」

 小鈴の言うとおりだ。

今まで怪魔に頭部は無いとされていた。

だがこの怪魔には目があり口がある。

あきらかに普通ではない。

 巨人が体を震えさせ唸った。

「ォォォォォオオオオオオ!! コロォォォォォォォス!!」

「しゃ、喋りおったか!」

 今確かに“殺す”と言った。

こいつは知能を持っているのか?

「あなた……、いえ、あなた達は何なの?」

 巨人が止まる。

 巨人は此方をじっと見つめると何かを言いたそうに口を動かす。

━━何を言いたいの?

 そう声を掛けようとした瞬間敵が迫ってきた。

 

***

 

「く!?」

 振り下ろされる右腕を咄嗟に避けると先ほどまで自分が立っていたところが砕け散る。

「オオオオオオ!!」

 そのまま的は体を捻らせ右腕を横に薙いで来る。

 それをしゃがみ避けると跳躍し、敵の頭を踏む。

そして背後に着地すると鎌で敵の背中を切りつけた。

 肉が裂かれ流体の血が吹き出す。

だが傷口はあっと言う間に塞がってしまう。

「小鈴! 下がってて!! おじさん! 逃げない!」

 忍び足で逃げようとしていた男に言うと彼は固まり、咳をした。

「逃げていたのではないぞ! 有利な場所に移動しようと………」

 敵が来た。

敵は右腕を先ほどと同じように横に薙ぎ突撃してくる。

それを跳躍で避けるが男は間に合わない。

「おじさん!!」

 男は慌てて木刀で受け止めようとするが無理だ!

敵は己の全体重を攻撃に乗せており木刀では耐えられない……筈だった。

「う? うおおおおお!?」

 男は受け止めた。

体を横にスライドさせられながら踏み込み、木刀で敵の攻撃を受け止める。

そして手すりの近くで止まった。

「う、うっそー!?」

 小鈴の声に男は頷くと笑う。

「我が愛剣・撲燃刃(ぼくねんじん)を舐める出ないわ!!」

 ひ、酷いネーミングセンス!?

 だが彼の剣が敵の攻撃に耐え、そして彼自身も受け止めたのは事実だ。

━━なんだか分からないけどやるわね。あのおじさん。

 敵が止まっている今がチャンス!

 鎌を構え突撃する。

狙うのは敵の足だ。

足を絶てば敵の動きを封じる事が出来る。

 敵は左腕で此方を迎撃するが遅い!

腕を潜り避け、鎌を薙ぐ。

刃は敵の膝を断ち、敵は姿勢を崩した。

「やった!」

「いえ! やってないわ!!」

 足は断った。

だが直ぐに再生したのだ。

 切り口同士から流体の光りが伸び断たれた足が元に戻って行く。

「なんて再生能力!!」

 巨人が男を吹き飛ばし、右腕を振り上げる。

それを横に避けるが衝撃波で吹き飛ばされた。

「コ、ロォォォォォォォォォス!!」

「さっきから……それしか言えないのかしら!」

 直ぐに体勢を立て直し構える。

それと同時に男も巨人の背後に回りこんだ。

 敵は本能のままに戦い動きは読み易いが火力が足りない。

この敵を倒すにはもっと大きな火力が必要だ。

━━こんな時……<<パテル・マテル>>がいれば……!!

 だがもう<<パテル・マテル>>はいないのだ。

「エステルなら諦めないわ」

 そう呟き、構えた瞬間空中に大型の表示枠が開いた。

『此方は徳川所属特務護衛艦曳馬。これより当艦は援護砲撃を行います。皆様衝撃に備えますようお願いします』

 侍女服の自動人形が頭を下げた瞬間、流体砲撃が来た。

それは飛空挺の上空にいた怪魔たちを焼き払い、吹き飛ばして行く。

 流体砲撃が放たれた方向を見れば葵色の船が接近してきていた。

 

***

 

「飛空挺に当ててないわよね!?」

『私の狙いは完璧です。浅間様に対抗できるよう開発されましたから』

・銀 狼:『智が基準なんですのね……』

・労働者:『うちで一番射殺能力が高いのは浅間だからな』

・あさま:『射撃! 射撃能力です!! というか私に対抗って?』

・曳 馬:『Jud.、 榊原様が“射撃に特化させるなら世界最高峰のズドン巫女に対抗できるようにしましょうぞ! ついでにオパーイも対抗しておっきく”と技術部門の方々と語り合い私の狙撃性能が高められました』

・彦 猫:『おめぇ……』

・能筆家:『ち、違いますぞ!? と言うか浅間殿? 何故、弓を?』

・あさま:『ちょっと痛いだけですよー。ほんのちょっとですよーぅ』

━━『能筆家』様が退出いたしました。━━

・俺  :『で? 結局どうなん? “曳馬”さんの射撃能力』

・曳 馬:『浅間様のスペックを真似て作られましたが総合的な戦闘能力では私は浅間様に大きく劣ります』

・貧従士:『そうなんですか?』

・曳 馬:『Jud.、 スペックを真似ても私にはまだ戦闘経験が足りません。それに私自身に戦艦を沈める火力は有りません』

・煙草女:『あらためて浅間のスペックはヤバイさね……』

・あさま:『そんなことありませんよーぅ! ちょっと狙って弓を引いたら沈んでるだけですよーぅ!』

・約全員:『もっとヤバイよ!?』

・天人様:『てか、今それどころじゃないでしょうが!!』

 表示枠をチョップで割ると曳馬の甲板から飛空挺を見る。

 先ほどの砲撃で怪魔の数を有る程度減らした物の未だに敵の数は多い。

さらに……。

「新種の怪魔……」

 今飛空挺を覆っているのは見た事の無い新種だ。

さらに甲板上にいる巨人。

 あれは一体何なのだ?

「急がないと危ないですね」

 隣の衣玖の言葉に頷く。

 何故か怪魔は飛空挺を沈めていないがそれもいつまで続くか分からない。

「“曳馬”!! 近づける!?」

『敵の数が多く接近は困難と判断します。遠距離からの砲撃を行いその後接近をします』

「それじゃ遅いわ!」

「でも、どうするんですの?」

 後ろで騎士服を着たミトツダイラに問われ沈黙する。

「……何とかして飛空挺までいけないかしら」

 そう呟くと衣玖が此方を見、それからミトツダイラを見た。

そして暫く思案すると頷く。

「一つ提案が有ります」

 彼女の提案を聞き、ミトツダイラが目を丸くし、自分は「まじ?」と聞くのであった。

 

***

 

「本当にいいんですのね?」

 ミトツダイラに訊かれ頷く。

 自分の腰には銀鎖が巻かれており、それに触れると頷く。

「早く、覚悟がブレる前に!」

 衣玖が提案したのはミトツダイラが自分を飛空挺まで投げ飛ばし、向こうに着地するという案だ。

正直無茶苦茶だが無茶苦茶には慣れた。

「武蔵にいればこのぐらい日常茶飯事よね!」

「いえ、あの、天子? 武蔵に対してふかーい誤解があるような……」

「風向き、今が良いです!!」

 艦首に立って風向きを確認していた衣玖の言葉に頷くとミトツダイラを見る。

彼女もやれやれと頷くと銀鎖を両手で掴んだ。

「それでは……行きますのよ……!!」

 その言葉と共に視界が回転した。

物凄い重力加速が体に掛かり歯を食いしばる。

 ミトツダイラの回転が最高潮になった瞬間、彼女は手を離した。

「いってらっしゃいな!!」

直後、回転していた視界は加速する。

 冬の風を全身で受けながら飛空挺に向かう。

その途中で思う事は一つだけであった。

「やっぱやるんじゃなかったぁぁぁぁぁぁ!?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。