緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十三章・『近き遠い場所の尋ね者』 正体不明な隣人 (配点:圧力)~

 姉小路頼綱は運んでいた重い箱を地面に置くと腰を伸ばした。

 岡崎城の近くにある難民キャンプでは来月から始まる伊勢南部開拓の準備が行われており、開拓用の機材や資材が近くに着陸している輸送艦に運び込まれている。

 男達は重い資材や武具を運んでおり、女子供は伊勢に運ばれる食料のチェックを行っている。

 辛い事があったが皆それを乗り越えようとしている。

一人一人が前に踏み出し、進もうとしている光景に目頭が熱くなり思わず俯く。

すると馬蹄の音が近づき、止まった。

「おお、頼綱殿。ここにおられたか」

 声の方を向けば酒井忠次が馬に跨っており、彼は此方に一礼すると下馬した。

「酒井殿。何か御用で?」

「うむ、長銃を調達できてな、開拓隊に差し上げたい。いざという時に必要であろう」

 そう言うと後ろを指差す。

そこには何台もの人力車があり多くの長銃が束ねられていた。

「忝い。徳川家には多大なるご恩を……。いずれ、必ずこのご恩はお返しします!」

「困ったときはお互い様という奴だ」

 そう笑みを浮かべる忠次に頭を下げると、忠次は「頭を上げてくだされ」と言った。

「それにしても……頼綱殿自ら準備を?」

「ええ、故郷を失い一番辛い思いをしているのは民です。その民の為に何かをしてやりたくて……」

 最早大名でない自分にできる事はこうやって民とともに働くことだけだ。

そう思っていると忠次は頷き目を細めた。

「飛騨に……戻れると良いですな……」

「…………ええ」

 暫く互いに無言でいると突如忠次の表示枠が開いた。

『大変ですぞ!!』

「どうした康政? 血相を変えて。お気に入りの“あにめ”の録画を忘れたか?」

『いやいや、この榊原康政、今期のアニメは全て録画予定済み……ではなくて!

織田からの使者が来ましたぞ!』

 「なに?」と忠次が眉を顰めると表示枠に映った榊原康政は何度も頷く。

『どうにも嫌な予感がします! 早く戻ってきてくだされ!』

 表示枠が消えると忠次は思案顔で沈黙する。

そして此方を向いた。

「頼綱殿も岡崎城に来てくだされ。織田が何をしにきたのかは分からぬが事と次第によっては大事になるやもしれぬ」

 そう言う忠次に頷くのであった。

 

***

 

 岡崎城の大広間に徳川家康と榊原康政、酒井忠次、そして本多・正純が集まっており彼らと向かい合うように一人の少女が座っていた。

 少女は赤い服を身に纏い、被っていた白い帽子を畳みの上に置くと金の髪を靡かせる。

そして丁寧に頭を下げると家康の方を見た。

「お初にお目にかかります。P.A.Oda妖魔軍団所属エリーと申します」

「うむ。それで、織田家の方が徳川家に何の御用で?」

 家康の問いにエリーは頷くと姿勢を正す。

「本日、徳川家に来訪したのは我等が主、織田信長様から言伝を預かったからで御座います」

「…………信長殿から? して、その内容は?」

「“先々月の姉小路家が織田領空を侵犯した一件。姉小路家が怪魔を故意に我が領内に怪魔を侵入させた疑いが有り、事実確認のため姉小路頼綱及び姉小路家重臣の身柄の引渡しを要求する”との事です」

「………な!」

 なんだそれは!?

そう本多・正純は思った。

 姉小路家が怪魔と関与していることなどあるはずも無くこんな要求を呑めるわけが無い。

「……姉小路家がその様なことをしたとは思えないが?」

 家康の問いにエリーは口元に笑みを浮かべると表示枠を開く。

そこには燃え盛る村が幾つも映っていた。

「これらの村は全て姉小路家が連れてきた怪魔によって壊滅させられました。我々は被害者なのです」

「だからと言って姉小路家が怪魔を率いたなど………」

「我々は飛騨で面白い物を発見しました」

 エリーは表示枠を操作すると薄暗い洞窟のような物を表示枠に映す。

「この洞窟は飛騨国内で発見した物です。内部は人工的なものとなっており、砦も発見しました。そして様々な目撃情報からこの洞窟から怪魔が現れたと断定しました」

「…………それだけで姉小路家が関与しているとは言えまい」

「ええ、我々もそれだけでは姉小路家が関与しているとは言いませんわ。ですが告発があったのです」

 告発? 一体誰からだ?

そう思い眉を顰めるとエリーは頷く。

「飛騨に残った姉小路家重臣江馬輝盛からの告発です。

彼の話では姉小路頼綱は織田と武田と言う大国に挟まれた姉小路家を守るため遺跡に眠っていた怪魔を軍事利用しようとした。

そう打ち明けましたわ。飛騨の遺跡から姉小路の旗が見つかった上、重臣の証言。

これは見過ごすわけにはいきませんよね?」

━━妙だ。

 彼女の、織田の要求は無茶苦茶な上正当性が低い。

江馬輝盛の証言だって本当に彼が言ったとは限らない。

織田の言い分は言いがかりに近く、徳川が要求を承諾するはずが無い。

 その事は織田も分かっている筈だ。

━━だったら狙いは何だ……?

 ここは少し相手を突いてみるかと思い手を上げるとエリーが此方を見た。

「何方かしら?」

「武蔵アリアダスト教導院副会長、本多・正純だ」

「ああ、貴女が噂の開戦外交官……」

「いや……ちょっと待て! なんだその不名誉な響きは!?」

「此方でもその名は知られていますわ。

どんなに友好的な関係であっても必ず相手を戦争に引きこむ戦争外交の天才」

・ウキー:『うむ、ちゃんと正しく認識されているようだな』

・副会長:『いやいやいや! 間違ってるからな!? 私は常に戦争しないように考えているぞ!?』

・約全員:『え!?』

・副会長:『なんだその反応は!? いいか! 見てろよ! 今からちゃんと戦争回避するからな!!』

 表示枠に打ち込みを終え、一息入れるとエリーを見る。

「申し訳ないが現状では織田の要求を受け入れられない。

何故ならばそちらの正当性がハッキリしないからだ」

「あら? 織田が難癖をつけている………そう言いたいのかしら?」

「それは違う。そちらが姉小路を追撃していた怪魔に襲われた事は事実であり、その事には痛切に感じられる。

だが姉小路家及び姉小路の民も被害者であることを理解して欲しい」

 そう頭を下げるとエリーの表情が冷たくなって行く。

「だから姉小路頼綱を引き渡さないと? 此方には証言もあるのに?」

「もし、そちらの証言が本当の事であれば我々は姉小路頼綱殿をそちらに引き渡そう」

・俺  :『おい、セージュン』

・副会長:『分かってる。私に任せておけ馬鹿』

「だが引き渡すのはあくまで其方の証言が正しかった場合のみだ。

故に、私は織田・徳川・姉小路間による話し合いの場を設けたい!」

 そう言い、家康の方に視線を送れば彼は頷いた。

「それがよかろう。各国二人ずつ代表を出し話し合おう」

「………どこでするので? 我々は徳川領内で会談をするつもりは有りませんよ?

あなた方が姉小路と通じていないという確証が有りませんし、徳川家の人間を織田領内に入れるわけにもいきません」

「その事なら私に提案がある」

 表示枠を操作し、拡大すると西行事幽々子が映る。

「遊撃士協会に会談の場の提供をお願いしたい」

「……遊撃士は国家間の争いには介入できない筈よ」

 エリーの言葉に頷く。

「確かに遊撃士協会は国家間の政治的な、物理的な争いに介入は出来ないが平和維持への行為なら協力は出来たはずだ。違うか?」

『ええ、三国が誤解を解く会議の場を求めるなら遊撃士協会は協力するわ』

 幽々子に礼の言葉を送るとエリーを見る。

正座した少女は額に皺を寄せ暫く此方を睨んでいたが、「ふう」と溜息を吐く。

そして口元に冷たい笑みを浮かべ、直ぐに平静に戻った。

━━何だ………?

 今一瞬だけ浮かべた笑み。

それが物凄く嫌な予感を抱かせる。

「やっぱり私には外交は向いてませんね……まあ、だから外交官に選ばれたのでしょうけど」

「どういうことだ?」

 エリーは此方の問いには答えず正座を崩し、寛ぎ始める。

酒井忠次が「無礼だぞ!」と言うが彼女は涼しい顔で受け流し、此方を一度見、家康の方を見た。

「どうやら私の言い方が悪かったみたいね。そのせいで変な誤解が生じたようだわ」

「……誤解だと?」

「ええ、あなた方は私がさっき言った事を織田からの要求と捉えたみたいだけど違うわ。

これは命令よ? 属国である徳川に対してのね」

「な、なんだと!」

 驚愕する此方にエリーは笑みを送る。

「最近力をつけて調子に乗っているようだけどあなた達なんて私たちが本気を出せば蟻の様に踏み潰せるのよ? 調子に乗らないで下さる?

徳川が姉小路頼綱の身柄を引き渡さないのならばそれは織田家に対する敵対行為と見なします。

あなた達に織田と戦争する勇気があるのかしら?」

 そうか! そう言うことか!

ようやく彼女の狙いが読めた。

彼女は最初から交渉するつもりは無かったのだ。

織田の本当の目的、それは………。

「さあ、さっさと姉小路頼綱を引き渡しなさいよ。棚ぼたで天下を取った狸さん?」

「貴様! よくも大殿を侮辱しおったな!!」

 忠次が膝立ちし、腰の刀に手を掛ける

━━マズイ!!

 忠次を止めようとした瞬間、家康が頭を下げた。

「と、殿!?」

「…………どういうつもりかしら? 頭を下げれば解決できるとでも?」

 そう冷たく言い放つエリーに対して家康は顔を上げると目を合わせた。

「事は大事ゆえ狸には考える時間が必要なのです。どうか、どうか一日待ってはいただけないでしょうか?」

 何度も頭を下げる家康に皆驚き、沈黙するとエリーが溜息を吐いた。

「いいでしょう。明日の朝、返答を聞きに来ます。それまでに決断しますようお願いいたしますわ」

 そう言い、立ち上がる彼女に家康は笑みを送る。

「あり難い。お部屋は此方で用意しましょう。それまで客室でお待ちを」

 エリーは無表情で踵を返すと大広間を出ようとするが止まった。

そして振り返ると家康を見る。

「姉小路頼綱を逃がそうなんて考えないように。賢い決断を期待してますわ」

 そう言い退出した。

「ふう……」

 家康は大きく溜息を吐くと忠次の方を向く。

「頭は冷えたか?」

「申し訳御座いませぬ……。危うく敵の思う壺に……」

「わしを思ってくれてのこと、構わぬよ。それよりも」

 家康は立ち上がると表示枠を開く。

「忠勝、聞いていたな。岡崎城に詰めよ」

『御意』

「康政、頼綱殿を此処に呼んでくれ」

「分かりましたぞ」

「忠次、あの少女に監視をつけよ」

「は!」

 「そして」と言うと此方を見る。

「正純殿、葵殿たちを呼んでくれ。会議を行いたい」

「Jud.、 直ぐに呼びます」

 

***

 

「申し訳御座らぬ!!」

 大広間に入ってきた姉小路頼綱は直ぐに頭を下げ、家康に土下座した。

「ら、頼綱殿! 頭を上げてくだされ」

「しかし、私のせいで織田に付け込まれ……! 覚悟は出来ております! どうかこの身を織田に引き渡してくだされ!」

 そう頭を下げ続ける頼綱に家康が「これは困った」というなような表情を浮かべると彼の隣に座る女装が

「おいおい、頭上げてくれよ。頼綱さん、何にも悪いことしてねーんだろ?

だったら織田のところにいく必要はねえよ」

と言った。

「しかし……それでは徳川が織田と……」

「構う事はねえ! 織田が戦争したいって言っているなら受けて立とうぜ! な、ホライゾン!」

「そうですねえ……ホライゾンとしましては“戦争回避できるならそれはそれでいいんじゃね?”と言う感じもしますが……」

 項垂れる頼綱を見てホライゾンが頷く。

「ホライゾンは謂れの無い喪失を拒絶します」

 ホライゾンの言葉にその場に居た頼綱以外の皆が頷いた。

「それに今の状況、どう転んでも徳川には不利益だ」

 家康の言葉に「どういうことですか?」と頼綱が首を傾げると榊原康政が頷く。

「よいですかな? 今、我等は岐路に立たされています。

一つは貴殿を織田に引渡し織田に従う事。

これは織田との関係を続ける事は出来ますが、同時に我等の道は閉ざされるに等しい。

我等は葵殿と大殿が掲げる“誰でも笑って暮らせる世を創る”という理想を念頭に戦ってきました。

そんな中、頼綱殿を見捨てるような事をすれば徳川家の信頼は失墜。

徳川に協力していた豪族、大名は距離を離し家中の分裂を引き起こす可能性がありますな。

そして何よりも徳川家が織田に従属し、属国になる事を認めた事になりますぞ。

もう一つは織田の要求を拒否し織田と対決すること。

いやあ、此方は危なかったですなあ。先ほど忠次君が刀を引き抜いて居たら即開戦でしたぞ?」

 「す、すまぬ」と頭を下げる忠次に康政は「まあまあ」と宥めると表情を改める。

「それで織田との対決ですが……正直言って勝ち目はありませんな。

現在織田の保有兵力は三十万以上。それに百を超える航空艦に武神戦力。

対して此方は領地から総動員しても総兵力は四万。艦数は三十弱で武神、機鳳戦力を持たない。

戦になれば織田は数にものを言わせて押しつぶしてくるでしょうなあ。

どっちの道を進んでも徳川に待つのは滅び。

織田は最初から此方を潰す気で使者を送ってきたのですな」

 康政が話し終えると場を沈黙が支配する。

「………織田に従えば徳川家の存続は可能ですね」

 ホライゾンの言葉に康政は頷く。

 どうしましょうかねえ?

そうホライゾンは思う。

 自動人形の思考としては徳川家を存続させられるなら頼綱を引き渡すべきだと判断している。

だが自分の中の不確定な要素……取り戻した感情がそれを拒否している。

 自分達は喪失を救うために戦ってきたのだ。

ここで彼を引き渡してしまえば今まで築いてきた武蔵の信念を否定する事になってしまう。

━━トーリ様はどう思ってるんでしょうか?

 隣の女装を見ると彼と目が合う。

すると女装は両腕で自分の胸パッドを挟み、セクシーポーズを取った。

 とりあえず殴る。

 顔面を殴り、引っくり返った彼を見下ろした。

「真面目に考えてくださいトーリ様。殴りますよ?」

「も、もう殴ってねえ!?」

 もう一度拳を構えると彼は慌てて正座した。

そして家康の方を向く。

「なあ、家康さんよお。本当はもう決めてんだろ?」

「…………」

 全員がトーリと家康に注目する。

「決めてて、でも他の連中を巻き込みたくないから言えないんだろ?

だったら言っちまおうぜ。言って、それから他の連中が賛同してくれるのを待てば良い。

きっとみんな同じ事を考えてるはずだからよ」

 そう言い笑うと家康は「ふ」と口元に笑みを浮かべる。

「相変わらず人の心を読むのが得意な方だ。そうだな……言ってみるか……」

 家康は目を閉じ、決意したように頷くと立ち上がる。

「皆、聞いてくれ。わしは織田の要求を拒否したいと思っておる!

此度の件、姉小路家に落ち度は無く織田が害意を持って行動しているのは明白だ。

それなのに黙って従えというのか!? わしには出来ん!

いくら相手が織田家、あの信長殿だとしても従う事はできん!!

わしは嘗て織田家の命によって息子である信康を自害に追い込んでしまった……もう二度と、あのような事はさせぬ!!

だが、だが相手は織田だ。戦になれば勝てる可能性は低い。

故に皆には選んでもらいたい。わしと共に織田と戦うか徳川から離れるか。

急な事だとは思うが明日までに選んでくれ! 頼む!!」

 家康が頭を下げる。

彼の周りにはいつの間にかたくさんの表示枠が浮かんでおり、そこに映った誰もが家康を見ていた。

『殿、お見事に御座ります』

 表示枠に映る忠勝がそう言う。

『いかなる不条理にも屈せず立ち上がる事こそ三河武士の誉れ! この本多平八郎忠勝、共に戦いましょうぞ!!』

『平八郎だけじゃないぜ! 赤備え全員、大殿について行きますぜ!!』

『私も、父上と共に参ります!』

 表示枠の一同が皆賛同の声を上げて行く。

『家康公、私も手伝うわ。私、上から目線で偉そうな奴って大嫌いなのよね。え、なに、衣玖? 私も結構上から目線? もう、衣玖ったらそれは良いの。私は偉いから。え、なに、その呆れた目……』

 天子が映っていた表示枠が閉じられ家康が少し口元に笑みを浮かべる。

「いやはや皆、向こう見ずですなあ。無論、某もですが」

 康政が頭を下げる。

「我が命は大殿と共に有り。大殿が進むのならば我も行きましょう」

 忠次が自分の胸を叩いた。

「家康公。武蔵アリアダスト教導院も徳川家を全力で援護します」

 正純がそう頭を下げると頼綱が涙を流し家康に頭を下げた。

「我等姉小路家、一度ならず二度も助けていただき、感謝の念に堪えません!

戦では必ず、必ず奮戦してみせます!!」

 皆の言葉に家康は何度も頷いた。

その横にトーリが立ち親指を立てる。

「な? 言葉にしてみるもんだろ?」

「うむ……! わしは皆のような家臣と友を持て幸せ者だ!」

 自分も二人の横に立つ。

そしてこの場に居る皆を見渡すと大きく頷いた。

「それでは皆様、明日の朝、織田に宣言しましょう。

我等徳川は理不尽な死を共用する織田に従わないと。

私たちの理想を守るために行きましょう」

「「応!!」」

「「Jud!!」」

 

***

 

 暗く冷たい空間が広がっていた。

巨大で四角状の部屋の中心上部には橋が鉄の橋がかけられており、足元を照らす証明と部屋の天井に所々つけられた照明を頼りに一人の男が歩いていた。

 彼は誰かを探すように歩き続けると橋の突き当たりで探していた人物を発見した。

 その人物は黒い着物の上に赤いマントを羽織っており橋の突き当たり、部屋の奥にある何かを見上げている。

「ここにいらっしゃいましたか信長様」

男は此方を一瞥すると再び何かを見上げる。

「蘭か。何用だ?」

 前の男━━織田信長に問われ森成利は片膝を着く。

「徳川に向かったエリー殿からの報告が来ています」

 信長は無言で続けるように指示する。

「……徳川は姉小路頼綱の引渡しの引き伸ばしを行ったようです。明日の朝、返答するとのことですが……」

「断るだろうな」

「…………徳川家が我等に勝てないことは家康公も承知だと思いますが?」

 そう問うと信長は口元に笑みを浮かべた。

「面の皮が厚く、冷静のようでいて芯は熱い。それが徳川家康と言う男だ。

奴ならば必ず刃向かってくるであろう」

「刃向かってきた場合は?」

「是非もなし! この織田信長の道を遮るというなら根絶やすのみよ!」

 そう言うと信長は振り返り、こちらの横を通り過ぎる。

「蘭よ。コレの出陣準備をせよ」

「コレの……ですか?」

 正面の何かを見る。

「久しぶりに竹千代の顔を見たくなったわ。明日、これで出陣する」

 部屋に明かりが灯った。

 前方の物体が照らされその全貌を明かす。

 それは漆黒だった。

鋼の四肢を持つ竜が佇んでいた。

 P.A.Odaのエンブレムを刻まれたその漆黒の竜は此方を見下ろすように眠っている。

「機竜“圧切長谷部”。試運転としてはちょうどよいだろう」

 そう言うと信長が笑った。

 彼の声は部屋を木霊し、僅かに巨大な機竜が動いたかのように見えた。

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